【0015】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態に係る塗工膜製造方法について説明する。
図1は、本実施形態の塗工膜製造方法に用いる塗工膜製造装置の構成図である。
まず、塗工膜製造装置について説明する。
塗工膜製造装置1は、可撓性支持体2の搬送方向上流側に設けられた駆動ロールである主速ロール3と、下流側に設けられた駆動ロールである従属ロール4と、主速ロール3と従属ロール4との間に設けられ可撓性支持体2に塗工液を吐出する塗工ヘッド5とを備えている。また、塗工膜製造装置1は、主速ロール3と従属ロール4との間に設けられ可撓性支持体2に掛かる張力を測定する張力計6と、可撓性支持体2を支持するフリーロール7と、塗工膜製造装置1の各部位の動作を制御する制御部8とを備える。
主速ロール3と従属ロール4は、制御部8によって周速を制御され、可撓性支持体2を摩擦力によって矢印A方向に搬送する。
張力計6は、可撓性支持体2に掛かる張力を測定し、制御部8に伝達する。
フリーロール7は、自らは駆動せず、可撓性支持体2の動きに伴って回転する。
制御部8は、次に説明する張力制御と比率制御とによって主速ロール3と従属ロール4の周速を制御する。
制御部8は、張力制御時には、主速ロール3の周速を予め定められた一定値に制御し、可撓性支持体2の張力が予め定められた一定値になるように従属ロール4の周速を制御する。
また、制御部8は、比率制御時には、主速ロール3の周速を予め定められた一定値に制御し、従属ロール4の周速と主速ロール3の周速との比((従属ロール4の周速)/(主速ロール3の周速))が予め定められた一定値になるように従属ロール4の周速を制御する。この周速の比は、0.9995〜1.0005の範囲、好ましくは0.9999〜1.0001の範囲で行う。
塗工ヘッド5は、具備する吐出口51から塗工液を吐出する。塗工ヘッド5は、吐出口51を可撓性支持体2に向けて設置され、可撓性支持体2に向けて移動することができる。
可撓性支持体2は、曲げ剛性が0.05〜1550N・mm
2であり、好ましくは4〜1550N・mm
2であり、更に好ましくは4〜400N・mm
2であり、最も好ましくは4〜40N・mm
2である。材質は、例えば、プラスチックフィルム、金属薄膜、不織布、紙等である。
尚、上記において制御部8は、張力制御、及び比率制御において、主速ロール3の周速を予め定められた一定値に制御し、従属ロール4の周速を調整して張力制御、及び比率制御を行うが、反対に、従属ロール4の周速を予め定められた一定値に制御し、主速ロール3の周速を調整して張力制御、及び比率制御を行うようにしてもよい。
【0016】
次に、上記塗工膜製造装置を用いた塗工膜製造方法について説明する。
図2は、塗工開始時における塗工膜製造装置の状態を経時的に示す図であり、
図2(a)は、張力制御開始時の状態であり、
図2(b)は、吐出口を可撓性支持体に押し当てた状態であり、
図2(c)は、塗工ヘッドを可撓性支持体に押し込んだ状態であり、
図2(d)は、張力制御から比率制御に切り換える状態である。
塗工膜製造方法は、張力制御ステップと、張力制御ステップに続く比率制御ステップとを含む。
まず、制御部8は、張力制御で可撓性支持体2を搬送する。制御部8は、主速ロール3を予め定められた一定の周速で回転させ、張力計6で測定した可撓性支持体2の張力が予め定められた一定値になるように従属ロール4の周速を制御する(
図2(a))。
続いて、制御部8は、吐出口51から塗工液を吐出させ、塗工ヘッド5を可撓性支持体2に向けて移動させ、吐出口51を可撓性支持体2に押し当てる(
図2(b))。吐出口51を可撓性支持体2に押し当てた後、制御部8は更に予め定められた距離だけ塗工ヘッド5を可撓性支持体2に押し込む。可撓性支持体2の押し込みによって可撓性支持体2の張力が大きくなると、制御部8は、張力を小さくするために従属ロール4の周速を遅くし、張力を予め定められた一定値にする。こうして塗工が開始される(
図2(c))。
塗工が開始された後、可撓性支持体2の張力変動が安定した後に、制御部8は、張力制御から比率制御に切り換える(
図2(d))。
上記の動作において、張力制御が開始されてから比率制御に切り替わるまでの期間が張力制御ステップを構成し、比率制御に切り替わってからの期間が比率制御ステップを構成する。
可撓性支持体の張力変動が安定した後であることは、例えば、次のようにして決める。
張力制御において、可撓性支持体2の張力に基づいて従属ロール4の周速を調整することが所定時間無い場合に可撓性支持体2の張力変動が安定した後であると制御部8が判断する。
また、塗工ヘッド5の可撓性支持体2への押し込みが完了してから所定時間経過したときに、可撓性支持体2の張力変動が安定した後であると制御部8が判断するようにしてもよい。この所定時間は、事前に、張力制御中に塗工ヘッド5を可撓性支持体2に押し込んだときの張力の変動を調べて定めればよい。
上記のように、可撓性支持体の張力変動が安定した後であることを制御部8が判断したが、制御部8に代えて人が判断するようにしてもよい。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0019】
<実施例>
実施例として本実施形態の塗工膜製造方法を下記の条件で行った。
塗布方式はテンションウェブダイ方式とし、可撓性支持体は三菱樹脂(株)製PET樹脂MRF38(幅900mm)とし、塗工液はポリマー溶液とし、塗布幅は800mmとし、膜厚の目標値は135μmWetとした。膜厚は、キーエンス製変位計SI−F80で測定した。
また、設定張力は80Nとし、張力計はNSD製テンションメータTMA−20N661を用いた。可撓性支持体の設定搬送速度は25m/minとし、塗工ヘッドの押し込み量は可撓性支持体に塗工ヘッドが接触する位置から11mmとした。
また、比率制御時の従属ロールの周速と主速ロールとの周速の比((従属ロールの周速)/(主速ロールの周速))は1とし、可撓性支持体の曲げ剛性は、0.06、3.5、4.9、16.5、1512.2N・mm
2の5条件とした。
主速ロールと従属ロールの制御は、上述したように最初は張力制御を行い、塗工ヘッド5を可撓性支持体2に押し込み、可撓性支持体2の張力変動が安定した後に張力制御から比率制御に切り換えた。このようにして張力制御から比率制御に切り替える制御方法を便宜上、切替制御と呼ぶ。
【0020】
<比較例>
比較例1は、駆動ロールの制御を比率制御のみで行い、比率制御中に塗工ヘッド5を可撓性支持体2に押し込んで塗工した。このとき、可撓性支持体の曲げ剛性は、0.06、3.5、4.9、16.5、1512.2、1801.4N・mm
2の6条件とした。
また、比較例2は、可撓性支持体の曲げ剛性以外は上記実施例と同じ条件として駆動ロールの制御を切替制御とし、可撓性支持体の曲げ剛性を1801.4N・mm
2の1条件とした。
【0021】
<評価方法>
実施例と比較例の結果の評価は、次のように行った。
張力計で測定される測定張力と設定張力とから張力変動率を次式で求めた。
張力変動率(%)=│(測定張力−設定張力)│/設定張力×100
この張力変動率は5%以内が望ましい。
そして、塗工ヘッドが可撓性支持体に押し当てられた時点から張力変動率が5%以内、及び2.5%以内に収まるまでの時間(それぞれの時間を、「5%張力安定時間」、「2.5%張力安定時間」という)を測定した。実施例及び比較例1、2共に、設定張力が80Nなので、張力変動率が5%以内とは、測定張力が76〜84N内に収まることであり、張力変動率が2.5%以内とは、測定張力が78〜82N内に収まることである。
また、塗工中の最大張力を測定した。
また、塗工膜の最大膜厚と最小膜厚とから膜厚変動率を次式で求めた。
膜厚変動率(%)=(最大膜厚−最小膜厚)/最大膜厚×100
この膜厚変動率は1.5%以内が望ましい。そして、吐出口を可撓性支持体に押し当ててから、膜厚変動率が1.5%以内になるまでの時間を測定した(以下、この時間を膜厚安定時間という)。膜厚の目標値は135μmWetであるから、膜厚変動率が1.5%以内とは、膜厚が133.9875〜136.0125μmWet以内に収まることである。
【0022】
<評価結果>
実施例と比較例1,2の評価結果は次のようになった。
図3は、可撓性支持体の曲げ剛性が16.5N・mm
2の場合の実施例と比較例1との張力変動の推移を示す図である。比較例1は、矢印Bの時点で塗工ヘッドが可撓性支持体に押し当てられており、張力が急激に大きくなっている。そして、張力が最大張力86.3Nに達したあと、徐々に小さくなっているが、「5%張力安定時間」が8.5秒、2.5%張力安定時間が16秒となっており、安定するのに時間が掛かっている。
一方、実施例では、矢印Bの時点で塗工ヘッドが可撓性支持体に押し当てられた後、張力が大きくなっているが、最大張力が81.8Nと小さい。「5%張力安定時間」が0秒、「2.5%張力安定時間」が0秒となっており、安定するのに時間が掛からない。そして、矢印Cの時点で比率制御に切り替わり、その後も張力は安定している。
【0023】
図4は、上述した実施例と比較例1、2の「5%張力安定時間」、「2.5%張力安定時間」、最大張力及び膜厚安定時間の評価結果を示す表である。
張力安定時間は次のようであった。
実施例では、「5%張力安定時間」が0秒、「2.5%張力安定時間」が4.5秒以下と短く、最大張力も83.9N以下と小さい。
制御方法が比率制御である比較例1では、曲げ剛性が0.06、3.5N・mm
2と小さいときは、実施例と同様に「5%張力安定時間」が0秒、「2.5%張力安定時間」が0秒と短く、最大張力も81.4N以下と小さいが、曲げ剛性が4.9N・mm
2以上になると、「5%張力安定時間」、「2.5%張力安定時間」が長くなり、最大張力も大きい。
制御方法が実施例と同じ切替制御であって曲げ剛性が1801.4N・mm
2と実施例よりも大きい比較例2では、「5%張力安定時間」、「2.5%張力安定時間」が実施例よりも長く、最大張力も大きい。
膜厚安定時間は次のようであった。
実施例では、膜厚安定時間が短く、比率制御に切り換えた時点(
図3の矢印Cの時点)では、膜厚変動率が1.5%以内であった。
比較例1では、曲げ剛性が、0.06、3.5N・mm
2と小さい時は、膜厚安定時間は実施例と殆ど変らない。しかし、曲げ剛性が4.9N・mm
2以上になると、膜厚安定時間は実施例と比べて長くなる。
曲げ剛性が1801.4
N・mm
2では、制御方法が比率制御である比較例1でも制御方法が実施例と同じ切替制御である比較例2でも、塗工ヘッドが可撓性支持体に接触し、液ダレが発生した。一旦、液ダレが発生すると、そこをきっかけとして張力安定後もスジ等の外観不良が発生す可能性がある。
上述した張力安定時間と膜厚安定時間からわかるように、実施例の塗工膜製造方法は、比較例1、2と比べて良好な結果を示す。