特許第6267865号(P6267865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267865レタスアブラムシナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプIに耐性のレタス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267865
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】レタスアブラムシナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプIに耐性のレタス
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20180115BHJP
【FI】
   A01H5/00 Z
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-538363(P2012-538363)
(86)(22)【出願日】2010年11月16日
(65)【公表番号】特表2013-510565(P2013-510565A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】EP2010067588
(87)【国際公開番号】WO2011058192
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年11月7日
【審判番号】不服2016-5638(P2016-5638/J1)
【審判請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】09176046.2
(32)【優先日】2009年11月16日
(33)【優先権主張国】EP
【微生物の受託番号】NCIMB  41776
(73)【特許権者】
【識別番号】500502222
【氏名又は名称】ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】アルノー・ポール・ピエール・タブイ
(72)【発明者】
【氏名】コルスティアーン・コルネリス・テーケンス
(72)【発明者】
【氏名】ゼヘル・オットー・ファン・ヘルウェイネン
【合議体】
【審判長】 大宅 郁治
【審判官】 長井 啓子
【審判官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 RESISTANCE TO THE LETTUCE LEAF APHID NASONOVIA RIBISNIGRI,IP.COM JOURNAL,米国,IP.COM INC.,2008年,P1−3
【文献】 Euphytica,1982年,vol.31,p.291−300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 5/00
CAPlus/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性をコードする遺伝情報を有するレタス(ラクツカ・サティバ)植物であって、該遺伝情報が、その種子がNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託されたラクツカ・セリオラ10G.913571の種子から生長した植物において見出されるとおりであり、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その種子はNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)において見出されるようなナソノビア・リビスニグリNr:1に対する耐性を耐性のない植物中に遺伝子移入することによって得られるレタス植物。
【請求項2】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に耐性であって、かつ、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その種子はNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)の種子から生長した植物とレタス植物を交雑させ、F1自家受粉の後に得られた該交雑のF2子孫において、耐性を示す植物を選択することによって得られる、請求項1記載のレタス植物。
【請求項3】
請求項1または2記載のレタス植物の種子であって、該種子から生長させることができる植物がナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に耐性である種子。
【請求項4】
子孫がナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に耐性である、請求項1〜のいずれか1項記載のレタス植物またはレタス種子の子孫。
【請求項5】
請求項1、2または4のいずれか1項記載の植物を生産するのに適当な繁殖材料。
【請求項6】
種子によって形成される、請求項記載の繁殖材料。
【請求項7】
小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞からなる群から選択される有性生殖に適当な植物の部位によって形成される、請求項記載の繁殖材料。
【請求項8】
挿し芽、根、茎、細胞プロトプラスト、および再生可能細胞の組織培養からなる群から選択される栄養生殖に適当な植物の部位によって形成される、請求項記載の繁殖材料。
【請求項9】
葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂細胞、根、根端、葯、花、種子および茎からなる群から選択される組織培養を調製するのに適当な植物の部位によって形成される、請求項記載の繁殖材料。
【請求項10】
繁殖材料から生産される植物がナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に耐性である、請求項5〜9のいずれか1項記載の繁殖材料。
【請求項11】
請求項1、2または4のいずれか1項記載のレタス植物の球。
【請求項12】
請求項11記載のレタスの球またはその部位を含む食品。
【請求項13】
部位が葉またはその一部である、請求項12記載の食品。
【請求項14】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性をナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に感受性の植物に付与するための育種における、ラクツカ・セリオラ10G.913571その種子はNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)の使用。
【請求項15】
種子がNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託されたラクツカ・セリオラ10G.913571。
【請求項16】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を子孫レタス植物に付与するための育種方法であって、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その種子はNCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)と、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に感受性のレタス植物を交雑し、それにより、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を子孫レタス植物に付与し、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を有する子孫レタス植物が得られることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナソノビア・リビスニグリ(Nasonovia ribisnigri)バイオタイプ1(本明細書において、Nr:1ともいう)に耐性のあるレタス植物およびレタス球(head)ならびに該植物の子孫および該植物を生産するための繁殖材料に関する。本発明は、さらに、育種において使用するための耐性の供給源に関する。
【背景技術】
【0002】
レタスアブラムシ(Nasonovia ribisnigri (Mosley))は、世界中でレタスに発生する主要な害虫である。この問題は、北西ヨーロッパにおいて70年代にレタス生産にとって深刻になり始め、ヨーロッパ中に急速に広がった。次いで、80年代に、該アブラムシはカナダで検出された。その後、この問題は、アメリカ合衆国(カリフォルニアおよびアリゾナ)において報告された。最近になって、レタスアブラムシは、ニュージーランドおよびオーストラリアにおいて見出された。
【0003】
レタスアブラムシは、あらゆる植物段階のレタス植物にコロニーを作ることができ、好ましくは、より若い葉から食べる。植物上の大量のアブラムシは、植物生長を減少させ、球の形状を変形させることができ、その結果、レタスの球が売り物にならなくなる。レタス球における大量のアブラムシの存在は、小売業者が生産者からレタスを買うのを断る理由になる。幼植物段階において、殺虫剤を用いてレタスアブラムシを防除することは可能である。アブラムシ集団を防除するのに有効ないくつかの製品が報告された。しかしながら、いくつかのアブラムシ集団において、化学物質に対する耐性が報告された。さらに、成熟時には、化学物質はレタスの球の中に侵入することができないので、殺虫剤を用いてアブラムシを防除することはできない。
【0004】
レタスをコントロールするために最も価値のある戦略の一つは、遺伝子的耐性である。広範囲な遺伝子バンクスクリーニングが実施され、いくつかのラクツカ・ビロサ(Lactuca virosa)アクセッションがナソノビア・リビスニグリに対して完全に耐性であることが見出された(Eenink and Dieleman,Euphytica 32(3),691−695(1982))。しかしながら、ラクツカ・ビロサは、ハーラン(Harlan)の定義によると、ラクツカ属の遺伝資源の第3遺伝子プールにある。したがって、これらの種間交雑は不稔性であり、耐性をラクツカ・サティバ(L.sativa)に移入するには、橋渡し種(例えば、ラクツカ・セリオラ(L.serriola))の使用が必要であった。遺伝子分析は、ナソノビア・リビスニグリに対する耐性がラクツカ・サティバ背景における単一の優性遺伝子(Nr遺伝子)によって制御されることを示した。
【0005】
しかしながら、育種家は、レタスアブラムシに耐性のある品種の放出が簡単ではないことを経験した。Nr−耐性遺伝子は、強い負の副作用を与える劣性遺伝子に密接に関連することが見出された。かかる植物は、生長の減少、薄い緑色および種子セットにおける稔性の欠如を示した。大きなサイズの子孫および分子マーカーを使用することにより、レタス育種家は、負の副作用表現型を伴わずに耐性組み換え植物を見出すことが可能となった(EP−0 921 720参照)。これらの耐性植物は、負の副作用表現型と関連しない耐性遺伝子の供給源として役立った。
【0006】
該知見の後、ナソノビアに耐性の品種の放出が益々重要になった。該耐性は、加工および生鮮市場のための野外レタス生産にとって主要な必要条件となった。
【0007】
2007年に、ナソノビア・リビスニグリに耐性の品種に感染可能なレタスアブラムシの集団がヨーロッパの4つの地域で(フランスおよびドイツだけでなく、ベルギーおよびオーストリアでも)見出された。4つの単離株(フランスから2つ、ドイツから2つ)をさらにオランダ園芸検疫所(Netherlands Inspection Service for Horticulture)(Naktuinbouwとしても知られる)で分析された。それらは、新規なナソノビア・リビスニグリ バイオタイプの存在を結論づけた。該バイオタイプは、公式にNr:1と名付けられ、Nr耐性遺伝子を克服することができる。しかしながら、該アブラムシのNr:0バイオタイプは、まだ、Nr遺伝子によって有効に防除することができる。
【0008】
レタスにおけるNr:1ナソノビア・リビスニグリ生物の存在は、Nr:0に関して上記したのと同様な不利益を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、Nr:1に対して活性のあるナソノビア・リビスニグリ耐性の新規な供給源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、Nr:1耐性の供給源は、ラクツカ・セリオラ(Lactuca serriola)植物(その典型的な種子は、NCIMBに寄託され、アクセッション番号NCIMB 41776を与えられた)の形態において提供される。該植物は、さらに、本明細書中において、リファレンス番号10G.913571で同定される。該番号を有する植物は、種子ロット10G.913571(その一部が上記アクセッション番号のもとに寄託された)から生長する。
【0011】
かくして、本発明は、ラクツカ・セリオラ(Lactuca serriola)10G.913571(その典型的な種子は、2010年11月16日にNCIMB Ltd,Ferguson Building, Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen AB21 9YA,UKに、アクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された)の種子から生長した植物において見出されるようなナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を有する栽培レタス(ラクツカ・サティバ(Lactuca sativa))植物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のレタス植物は、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その典型的な種子は、NCIMBアクセッション番号41776のもとにNCIMBに寄託された)において見出されるようなナソノビア・リビスニグリNr:1に対する耐性を耐性のない植物中に遺伝子移入することによって得られうる。本明細書中で使用される場合、「遺伝子移入」とは、交雑および選択によって、Nr:1耐性を有しない植物中にNr:1耐性を導入することを意味する。遺伝子移入は、1回の交雑だけに限定されず、該植物が耐性になるために、好ましくは安定に耐性になるために必要な最小限の世代数を包含する。
【0013】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に耐性である本発明のレタス植物は、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その典型的な種子は、NCIMBアクセッション番号41776のもとにNCIMBに寄託された)の種子から生長した植物とレタス植物とを交雑し、該交雑の子孫において耐性を示す植物を選択することによって得られうる。一の具体例において、選択は、寄託された種子から生長した植物と感受性植物との間の交雑のF1を自家受粉した後に得られるF2子孫において行われる。該耐性は優性であるので、Nr:1に対する耐性植物はまた、F1子孫においても見出すことができる。
【0014】
本発明は、さらに、特許請求されるレタス植物の種子および該レタス植物または該レタス種子の子孫に関する。
【0015】
そのさらなる態様によると、本発明は、特許請求される植物を生産するために適当な繁殖材料に関する。一の具体例において、かかる繁殖材料は、種子によって形成される。
【0016】
一の具体例において、繁殖材料は、有性生殖に適当な植物の部位、特に、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢および卵細胞によって形成される。
【0017】
一の具体例において、繁殖材料は、栄養生殖に適当な植物の部位、特に、挿し芽、根、茎、細胞およびプロトプラスト、再生可能細胞の組織培養によって形成される。
【0018】
一の具体例において、繁殖材料は、組織培養を調製するのに適当な植物の部位、特に、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂細胞、根、根端、葯、花、種子および茎によって形成される。
【0019】
適当には、繁殖材料から生産される植物は、本発明にしたがって、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性、特に、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その典型的な種子は、NCIMBアクセッション番号41776のもとにNCIMBに寄託された)において見出されるような耐性を示す。
【0020】
本発明は、さらに、特許請求されるレタス植物の球に関する。本発明は、さらに、該レタスの球またはその一部を含む食品に関する。特に、該食品は、レタス植物の葉またはその一部を含む。該食品は、例えば、本発明のレタス植物の葉を含むサラダまたはサラダ混合物である。
【0021】
そのさらなる態様によると、本発明は、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性をナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に感受性の植物に付与するための育種における、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その典型的な種子は、NCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)の使用に関する。
【0022】
本発明は、また、ラクツカ・セリオラ10G.913571(その典型的な種子は、NCIMBアクセッション番号41776のもとに寄託された)に関する。
【0023】
一の具体例において、本発明は、第1のレタス親植物を、その典型的な種子がアクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された植物において見出されるようなNr:1耐性を有する第2のレタス親植物と交雑してF1を得、Nr:1耐性を有するF2由来の植物を本発明の植物として選択することによって得られうるラクツカ・サティバ種のレタス植物に関する。一の具体例において、F1の植物を次いで自家受粉してF2を得、Nr:1耐性を有するF2由来の植物を本発明の植物として選択する。Nr:1耐性は、有性遺伝に一致するパターンで移入される。
【0024】
一の具体例において、第2のレタス親植物は、寄託された種子から生長した植物である。一の具体例において、第2のレタス親植物は、寄託した種子から生長した植物の子孫植物である。一の具体例において、第2のレタス親植物は、Nr:1耐性をコードする遺伝情報を有する植物である。一の具体例において、該遺伝情報は、その典型的な種子がアクセッション番号NCIMB41776のもとにNCIMBに寄託された植物、特に、寄託アクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された種子から生長した植物において見出されるようなNr:1耐性をコードする遺伝情報と実質的に同一である。
【0025】
一の具体例において、かくして、本発明は、本発明のNr:1耐性を示すレタス植物であって、
a)その典型的な種子がアクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された植物を生育し、
b)工程a)由来の植物を、Nr:1耐性を有しないレタス植物と交雑して、F1集団を得、
c)F1由来の植物を自家受粉して、F2集団を得、
d)F2集団においてNr:1耐性を示す植物をNr:1耐性レタス植物として同定することによって得られうる植物に関する。
【0026】
上記の方法において、工程c)およびd)は、Fn集団を自家受粉してFn+1集団を得、該Fn+1集団においてNr:1耐性を示す植物をNr:1耐性レタス植物として同定することによって、1回以上繰り返すことができる。
【0027】
Nr:1耐性は、植物がNr:1バイオタイプのアブラムシによって攻撃されないので、表現型の上で見ることができる。しかしながら、Nr:1耐性は、植物の遺伝子型によって引き起こされる。遺伝子型は、Nr:1耐性に関する限りにおいて、寄託された種子において見出される遺伝子型と同じか、または類似である。Nr:1耐性を引き起こすレタス植物の遺伝子型の部分は、本明細書中で、「Nr:1耐性をコードする遺伝情報」と称する。該遺伝情報の存在は、耐性試験において表現型上可視的であり、かくして、該遺伝情報を有する植物は、原因遺伝子の該表現型発現に基づいて選択することができる。本明細書中で使用される場合、「遺伝情報」は、該耐性の原因となる遺伝子を意味することが意図される。
【0028】
耐性植物のゲノム中における本発明のNr:1耐性の原因となる遺伝情報の存在は、下記の試験を用いて決定することができる。試験されるべき植物は、Nr:1耐性の原因となる遺伝情報に関してホモ接合体であるか、またはホモ接合体にされるべきである。当業者は、試験されるべきNr:1耐性についてホモ接合体である植物を得る方法を知っている。
【0029】
次いで、該植物を、本発明のNr:1耐性の原因となる遺伝情報をホモ接合状態で有するテスター植物と交雑する。試験されるべき植物が、本発明の耐性の原因となる同じ遺伝情報の結果として耐性を有するならば、第1交雑および後代の全ての子孫植物は耐性となる。試験されるべき植物の耐性が、ゲノムの異なる部分、例えば、別の遺伝子または遺伝子座の結果であるならば、F2から以後に分離が起こる。テスター植物は、本発明の遺伝情報をホモ接合状態で有するいずれの植物、例えば、その典型的な種子がアクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された植物または該寄託された種子から直接生長させた植物または該耐性を維持しているその子孫であることができる。
【0030】
本発明のナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性は、種子ロット10G.913571(その典型的なサンプルは、アクセッション番号NCIMB41776のもとにNCIMBに寄託された)の種子から生長した植物に含まれる遺伝子座に対応する遺伝子座にあり、好ましくは、種子ロット10G.913571から生長した植物に存在する耐性と一緒に分離する。
【0031】
ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を付与する遺伝子座は、ラクツカ・セリオラ10G.913571植物(その典型的な種子はアクセッション番号NCIMB 41776を有する)から、または該耐性を含む10G.913571植物の子孫もしくは祖先植物から得られうる。別の好ましい具体例において、該耐性の遺伝子座は、ラクツカ・セリオラ10G.913571から、または該耐性を含むラクツカ・セリオラ10G.913571の子孫若しくは祖先から由来するか、または得られる。
【0032】
本発明は、さらに、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を含むレタス植物であって、ここに、該植物が該耐性に関してホモ接合体であって、該耐性に関してホモ接合体の該植物をナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する単一遺伝子で優性の耐性についてホモ接合体であるテスター植物と交雑した場合、該交雑から生じる第1世代子孫の植物は、該耐性に関して1:0の分離を示す、植物に関する。
【0033】
該第1世代子孫の該植物を自家受粉した場合、得られる第2世代の植物は、該耐性に関して3:1の分離を示す。
【0034】
一の具体例において、テスター植物は、ラクツカ・セリオラ10G.913571植物(その典型的な種子は、アクセッション番号NCIMB41776を有し、本発明のナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する単一遺伝子で優性の耐性を含む)、または該耐性遺伝子座を有するその植物の子孫もしくは祖先から由来する植物である。一の具体例において、テスター植物は、細胞融合によって、ラクツカ・セリオラ10G.913571またはその子孫植物から由来する。
【0035】
本発明は、さらに、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対する耐性を含むレタス植物であって、ここに、該植物が該耐性に関してヘテロ接合体であって、該耐性に関してヘテロ接合体の該植物をNr:1に対する単一遺伝子で優性の耐性についてヘテロ接合体であるテスター植物と交雑した場合、該交雑から生じる第1世代子孫の植物は、Nr:1に対する耐性に関して3:1の分離を示す、植物に関する。
【0036】
一の具体例において、該第1世代子孫の該耐性植物をさらに、該耐性に関してヘテロ接合体の該植物と交雑した場合、得られる第2世代子孫の植物は、Nr:1に対する耐性に関して5:1の分離を示す。さらなる好ましい具体例において、テスター植物は、ラクツカ・セリオラ10G.913571植物(その典型的な種子は、アクセッション番号NCIMB41776を有する)または該ラクツカ・セリオラ10G.913571植物に含まれるNr:1に対する単一遺伝子で優性の耐性を含むその子孫もしくは祖先植物である。
【0037】
一の具体例において、個々の植物の子孫についてスコアを付ける場合、得られる第2世代子孫は、第1世代子孫における個々の植物の遺伝的状態(各々、ヘテロ接合体、ホモ接合体耐性またはホモ接合体感受性)に依存して、該耐性に関して3:1、1:0または1:1の分離比を示す。
【0038】
本発明のNr:1に対する耐性は、単一遺伝子的、好ましくは単一遺伝子で優性である。一の具体例において、ラクツカ・サティバ植物は、該耐性に関してホモ接合体である。別の具体例において、ラクツカ・サティバ植物は、該耐性に関してヘテロ接合体である。
【0039】
Nr:1耐性は、レタス植物の他のNr:1耐性から独立している。かくして、本発明の耐性は、全ての他の特徴において寄託植物と完全に異なるレタス植物において、例えば、異なるレタス品種において生じることができる。
【0040】
本発明のNr:1耐性を提供する親は、必ずしも、寄託された種子から直接生長した植物であるとは限らないことが明らかである。該親は、該種子からの子孫植物であることもでき、または他の手段によって本発明のNr:1耐性を有するか、または獲得したことが同定された種子からの子孫植物であることもできる。
【0041】
一の具体例において、本発明は、本発明の耐性を有し、かつ、適当な供給源、特に、ラクツカ・セリオラ10G.913571からの、通常の育種または遺伝子修飾による、特に、シスジェネネシス(cisgenesis)またはトランスジェネシス(transgenesis)による該耐性の原因となる遺伝情報の導入によって、該耐性を獲得したレタス植物に関する。シスジェネシスは、Nr:1耐性をコードする、その作物植物または生殖的に適合性のドナー植物由来の天然遺伝子での植物の遺伝子修飾である。トランスジェネシスは、交雑不可能な種由来の遺伝子または合成遺伝子での植物の遺伝子修飾である。
【0042】
一の具体例において、遺伝情報が獲得される供給源は、NCIMB 41776の寄託種子から生長した植物またはその有性生殖もしくは栄養生殖子孫によって形成される。
【0043】
本発明の別の態様によると、本発明のNr:1耐性レタス植物(その典型的種子がアクセッション番号41776を有する)の形態学的および生理学的特徴の全てを有するラクツカ・サティバ植物であって、本発明の植物の種子から生長されるか、またはその一部もしくは組織培養から再生される植物が提供される。本発明の植物は、Nr:1耐性に相当する形態学的および生理学的特徴を有するが、必ずしも、寄託された種子の植物の他の全ての特徴を有するとは限らない。Nr:1耐性は、複数のレタスの型および品種にわたって幅広く転移可能である。
【0044】
本発明は、また、本発明のレタス植物の子孫に関する。かかる子孫は、本発明の植物またはその子孫植物の有性生殖または栄養生殖によって生産されることができる。再生された子孫植物は、その典型的な種子が寄託された(NCIMB41776)該植物と同じまたは類似の方法で該耐性を示す。このことは、かかる子孫が本発明のレタス植物について主張されるのと同じ特徴を有することを意味する。その他、該植物は、1以上の他の特徴において修飾されていてもよい。かかる付加的な修飾は、例えば、変異誘発によって、または移入遺伝子もしくはシス遺伝子での形質転換によってもたらされる。別法では、Nr:1耐性以外の特徴における修飾は、Nr:1耐性を異なる背景において導入することによって導入されることができる。前者の場合、耐性植物をオリジナル植物としてとらえ、修飾する。後者の場合、該耐性を別の植物、特に感受性植物に移入する。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「子孫(progeny)」なる語は、Nr:1耐性である本発明の植物との交雑由来の子孫(offspring)または第1世代および全てのさらなる子孫(descendant)を意味することが意図される。本発明の子孫は、Nr:1耐性を有する本発明の植物とのいずれかの交雑の子孫である。好ましくは、子孫植物もまた、耐性である。
【0046】
「子孫」は、また、栄養繁殖または増殖(multiplication)によって本発明の他の植物から得られた本発明のNr:1耐性を有する植物を包含する。
【0047】
本発明は、さらに、本明細書に記載のようなNr:1耐性植物の細胞に関する。該細胞は、本明細書中に記載されるようなNr:1耐性を誘導する遺伝情報、すなわち、遺伝子または遺伝子座を含む。適当には、該遺伝情報は、本発明のレタス植物(その典型的種子はアクセッション番号NCIMB41776を有する)のNr:1耐性に関係する形態学的および生理学的特徴の全てを有する植物のNr:1耐性をコードする遺伝情報と実質的に同一、好ましくは完全に同一である。好ましくは、本発明の細胞は、植物または植物部位の一部であるが、該細胞は単離形態であってもよい。
【0048】
一の具体例において、本発明の植物は、寄託アクセッション番号NCIMB41776を有する種子から生長した植物である。
【0049】
一の具体例において、本発明の植物は、Nr:1耐性を有する寄託アクセッション番号NCIMB41776を有する種子から生長した植物の子孫植物である。
【0050】
一の具体例において、本発明の植物は、Nr:1耐性の原因となる遺伝情報をそのゲノム中に有する植物である。
【0051】
さらに、本発明は、ハイブリッド種子、および第1の親植物を第2の親植物と交雑し、得られたハイブリッド種子を収穫することを含むハイブリッド種子の生産方法に関する。該ハイブリッド種子が本発明のNr:1耐性を発現するためには、親植物の少なくとも1つは、Nr:1耐性に関してホモ接合体でなければならないが、他の特徴については、必ずしも同型であるとは限らない。
【0052】
本発明は、また、本発明の植物の遺伝資源(germplasm)に関する。遺伝資源は、生物の全ての遺伝形質によって構成され、本発明によれば、少なくとも、本発明のNr:1耐性を含む。
【0053】
本明細書中において、「Nr:1耐性」なる語は、ヘテロ接合体またはホモ接合体状態において、ナソノビア・リビスニグリ・バイオタイプ1(Nr:1)に対してもはや感受性ではない植物を誘導する遺伝情報(特に、遺伝子、遺伝子座、対立遺伝子)であって、該耐性が、その典型的種子がアクセッション番号NCIMB41776のもとに寄託された植物、特に、該寄託種子から生長した植物において見出されるようなものである、遺伝情報を有することを意味することが意図される。
【0054】
本発明は、さらに、下記の実施例において説明される。
【実施例】
【0055】
幼植物試験のプロトコール
植物がNr:1に対して耐性であるかどうかを試験するために、下記の試験を実施する。
種子を培養土ブロックに播く。一列につき20個体の植物を評価した。播種後2週間の幼植物の頂部にNr:1バイオタイプのアブラムシを撒くことによって、該植物に接種する。接種の1週間後、試験結果をスコア付けする。第2および最終のスコア付けは、接種の2週間後に行う。
【0056】
ナソノビア・リビスニグリ単離株
該実施例に使用されたNr:1単離株は、Nr:0耐性品種Estelle(Nunhems):サンプル279において、ケーニンゲン(Koeningen)(ドイツ)から2007年にサンプリングされた。該アブラムシ単離株は、Kitare品種(Nr:0耐性品種,Rijk Zwaan)において維持される。
【0057】
Nr:1耐性の栽培レタスへの導入
Nr:1耐性ラクツカ・セリオラ10G.913571植物(本明細書中、「ドナー」ともいう)を用いて、Nr:1耐性を栽培レタス(L.sativa)中に遺伝子移入した。
【0058】
これらのドナーを栽培レタス品種に交雑した。種々のレタス型に属する栽培品種が用いられる。多くのF1種子が得られた。次いで、得られたF1を、最初のF1において使用された種々の品種(「反復親(recurrent parents)」ともいう)と交雑した。1サイクルの同系交配によって、BC1F1集団をBC1F2に繁殖させる。次いで、異なるBC1F2集団を上記のNr:1疾患耐性試験に供する。該試験の最後に、Nr:1耐性幼植物を選択する。
【0059】
これらの選択された植物を再度、栽培レタス品種(反復親)に交雑する。得られたF1をF2世代に繁殖させ、該F2集団を再度、Nr:1疾患試験に供する。耐性F2植物を選択し、再度、反復親に交雑する。該反復育種法(戻し交雑ともいう)を行うことによって、育種材料の作物栽培学的特性が改善され、最終的に、栽培レタスにおけるNr:1耐性が得られる。