特許第6267890号(P6267890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267890Ni基鋳造超合金および該Ni基鋳造超合金からなる鋳造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267890
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】Ni基鋳造超合金および該Ni基鋳造超合金からなる鋳造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20180115BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20180115BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20180115BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20180115BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20180115BHJP
   F01D 9/02 20060101ALI20180115BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20180115BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   C22C19/05 C
   C22C30/00
   F01D25/00 L
   F01D5/28
   F02C7/00 C
   F01D9/02 101
   !C22F1/10 H
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 607
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-163923(P2013-163923)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30915(P2015-30915A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉成 明
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−059473(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0260572(US,A1)
【文献】 特開2009−114501(JP,A)
【文献】 特開2004−027361(JP,A)
【文献】 特開2014−214381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/05
C22F 1/10
F01D 1/00−15/12
F01D 23/00−25/36
F02C 1/00− 9/58
F23R 3/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基鋳造超合金であって、
0.05質量%以上0.09質量%以下のCと、
0.01質量%以上0.04質量%以下のBと、
0.1質量%以上0.4質量%以下のHfと、
0.05質量%以下のZrと、
3.5質量%以上5質量%以下のAlと、
3質量%以上6質量%以下のTaと、
3質量%以上5質量%以下のTiと、
0.1質量%以上1質量%以下のNbと、
8質量%以上12.5質量%以下のCrと、
5質量%以上10質量%以下のCoと、
4質量%以上8質量%以下のWと、
1質量%以上2.5質量%以下のMoと、
SiおよびFeの少なくとも一方を含有し、前記Siが含有される場合の成分量は0.02質量%以上2質量%以下であり、前記Feが含有される場合の成分量は0.1質量%以上5質量%以下であり、
残部がNiと不可避不純物とからなり、
前記Ni基鋳造超合金は、その母相が柱状結晶、単結晶、または一部分に柱状結晶が生成した単結晶から構成されていることを特徴とするNi基鋳造超合金。
【請求項2】
請求項1に記載のNi基鋳造超合金において、
前記Siが必ず含有され、前記Alと前記Tiと前記Siとの合計成分量が7質量%以上8.5質量%以下であることを特徴とするNi基鋳造超合金。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNi基鋳造超合金において、
前記Feが必ず含有され、前記Coと前記Feとの合計成分量が5質量%以上10質量%以下であることを特徴とするNi基鋳造超合金。
【請求項4】
Ni基鋳造超合金からなる鋳造物であって、
前記Ni基鋳造超合金は、請求1乃至請求項3のいずれかに記載のNi基鋳造超合金であることを特徴とするNi基鋳造超合金からなる鋳造物。
【請求項5】
請求項4に記載のNi基鋳造超合金からなる鋳造物において、
前記鋳造物は、タービンのタービン翼であることを特徴とするNi基鋳造超合金からなる鋳造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni(ニッケル)基鋳造超合金に関し、特に優れた高温強度と優れた高温耐酸化性とを有し、ガスタービンのタービン翼のように高温環境で用いられる大型高温部材に好適なNi基鋳造超合金および該Ni基鋳造超合金からなる鋳造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電プラントやガスタービン発電プラント等のタービン発電機の発電効率を向上させるためには、ボイラの主蒸気温度やガスタービンの燃焼ガス温度を上昇させることが有効である。例えば、ガスタービン発電においては、近年、熱効率の向上を目的に燃焼ガス温度を更に上昇させようとする傾向にあり、ガスタービンの各高温部材には従来以上に高温強度に優れた材料が必要とされている。
【0003】
ガスタービンの高温部材中で最も苛酷な環境に曝されるタービン翼(動翼、静翼)に使用される材料は、高温強度を向上させるため、Ni基超合金の普通鋳造材(通常の鋳造組織を有する材料)から柱状結晶材(全体として柱状結晶組織を有する材料)へと変遷してきている。さらに、航空機エンジン用ガスタービンや一部の発電用ガスタービンにおいては、柱状結晶材よりも更に高温強度の優れた単結晶材(全体としてほぼ単結晶からなる材料)が使用されている。タービン翼の材料としての高温強度に優れているのは単結晶材であり、そのための超合金としてCMSX-4(登録商標、例えば特許文献1(特開昭60-211031)参照)、PWA-1484(例えば、特許文献2(特開昭61-284545)参照)およびRene’ N5(例えば、特許文献3(特開平5-59474)参照)等のNi基超合金が開発され、航空機エンジン用のガスタービン翼に適用されている。
【0004】
また、Ni基超合金の機械的強度を向上させる他の代表的な手法として、母相であるγ相(Niをベースとする相)中に微細なγ’相(典型的にはNi3Al相、Al(アルミニウム)サイトをTi(チタン),Nb(ニオブ),Ta(タンタル)等が置換することがある)を分散析出させた析出強化と、γ相に固溶して強化する元素(例えば、Cr(クロム),Co(コバルト),Mo(モリブデン),W(タングステン))の添加と、母相結晶粒の粗大化抑制元素(例えば、C(炭素))の添加と、結晶粒界強化元素(例えば、B(ホウ素),Zr(ジルコニウム),Hf(ハフニウム))の添加とがある。γ’相による分散析出強化とγ相の固溶強化とは、単結晶材においても有効な機構である。一方、母相結晶粒の粗大化抑制元素の添加と結晶粒界強化元素の添加とは、その機構の意義から、単結晶材に対して積極的に行われるものではない。すなわち、単結晶材用のNi基超合金は、母相結晶粒の粗大化抑制元素や結晶粒界強化元素を積極的には含んでいない。
【0005】
単結晶材の鋳造は大変デリケートなものであり、予期せぬ温度揺らぎや不純物の存在によって、単結晶の成長中に、意図した結晶方位と異なる角度の結晶方位を有する結晶(異結晶と称する)が生成することがある。この場合、従来の単結晶材用のNi基超合金は、結晶粒界強化元素を意図的に含んでいないことから、異結晶の生成(すなわち結晶粒界の発生)によって単結晶材の機械的強度が著しく低下するという問題があった。例えば、本来の結晶方位と異結晶の結晶方位との角度差が5°以上になると、単結晶材の機械的強度が急激に低下する。最悪の場合、鋳造時の段階で異結晶の粒界に沿った凝固割れが生じてしまうことがある。
【0006】
そのような問題を緩和するため、結晶粒界強化元素を意図的に添加した単結晶材用のNi基鋳造超合金が開発された(例えば、特許文献4(特開平5-59473)参照)。しかしながら、その場合でも許容される角度差は15°程度であり、上記問題を根本的に改善するものではなかった。
【0007】
単結晶材の利点を享受するためには、ガスタービン翼全体をほぼ完全な単結晶状態にする必要がある(少なくとも、異結晶による角度差を許容範囲内に抑えた状態にする必要がある)。ここで、航空機エンジン用のガスタービン翼は、一般的に全長が100 mm程度であるため、鋳造時に異結晶が生成する確率が比較的小さく、十分高い歩留りで単結晶材の工業的生産が可能である。これに対し、発電用ガスタービンのタービン翼は、全長が約150〜450 mmもあり、タービン翼全体をほぼ完全な単結晶とすることが非常に難しく、工業的に許容できる歩留り(すなわちコスト)で単結晶材を生産することができなかった。
【0008】
そのため、発電用ガスタービンのタービン翼のような大型高温部材は、通常、一方向凝固法による柱状結晶材によって製造されており、柱状結晶材用のNi基超合金としてCM186LC(例えば、特許文献5(特開平3-097822)参照)やRene’ 142(例えば、特許文献6(特開平2-153037)参照)等が開発された。これらの超合金は、柱状結晶の結晶粒間の接合を強化するための結晶粒界強化元素を含有し、先の単結晶材に匹敵する高温強度を有するとされている。しかしながら、燃焼ガス温度の上昇に伴う酸化や熱応力の増加に対して、結晶粒界に沿った縦割れが発生し易くなる等の問題が発生し、これらの超合金でも十分に対応できなくなった。
【0009】
このような問題に対して、柱状結晶材における結晶粒界の接合強度(結晶粒界強度)の向上および全体としての高温強度の向上を目指して、種々の研究開発がなされた。例えば、特許文献7(特開平9-272933)には、重量で、C:0.03〜0.20%,B:0.004〜0.05%,Hf:1.5%以下,Zr:0.02%以下,Cr:1.5〜16%,Mo:6%以下,W:2〜12%,Re(レニウム):0.1〜9%,Ta:2〜12%,Nb:4.0%以下,Al:4.0〜6.5%,Ti:0.4%未満,Co:9%以下及び60%以上のNiを含むことを特徴とする方向性凝固用高強度Ni基超合金が開示されている。特許文献7によると、鋳造時の凝固割れを防止し、さらに使用中の信頼性を確保するのに十分な結晶粒界強度を有し、かつ優れた高温強度を併せ持つ方向性凝固用高強度Ni基超合金を提供できるとされている。
【0010】
また、特許文献8(特開2004-197216)には、重量%で、約3%〜約12%のCr、約15%までのCo、約3%までのMo、約3%〜約10%のW、約6%までのRe、約5%〜約7%のAl、約2%までのTi、約1%までのFe(鉄)、約2%までのNb、約3%〜約12%のTa、約0.07%までのC、約0.030%〜約0.80%のHf、約0.10%までのZr、約0.02%までのB、約0.0005%〜約0.050%の希土類元素、および残部Niと付随的不純物から実質的に構成されるNi基超合金が開示されている。特許文献8によると、優れた耐酸化性を有するNi基超合金を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−211031号公報
【特許文献2】特開昭61−284545号公報
【特許文献3】特開平5−59474号公報
【特許文献4】特開平5−59473号公報
【特許文献5】特開平3−097822号公報
【特許文献6】特開平2−153037号公報
【特許文献7】特開平9−272933号公報
【特許文献8】特開2004−197216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、ガスタービン発電においては、熱効率の向上を目的に燃焼ガス温度を更に上昇させようとする傾向にある。それを実現するためには、燃焼ガス温度の上昇に耐えられる大型高温部材(例えば、タービン翼)が少なくとも必要であり、従来のNi基超合金(例えば、特許文献7,8に記載のNi基超合金)に対して更なる改良が必要になっている。具体的には、高温強度と結晶粒界強度と耐酸化性とが従来以上に高い次元でバランスしたNi基鋳造超合金が必要とされている。
【0013】
また、特許文献7,8に記載のNi基超合金は、材料コストの高いReや希土類元素を含んでいるが、コスト低減は、工業製品としての至上命題の一つである。
【0014】
したがって、本発明の目的は、高温強度と結晶粒界強度と耐酸化性とが従来以上に高い次元でバランスしており、かつ低コスト化が可能なNi基鋳造超合金を提供することにある。また、当該Ni基鋳造超合金からなる鋳造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(I)本発明の一つの態様は、上記目的を達成するため、Ni基鋳造超合金であって、
0.05質量%以上0.09質量%以下のC(炭素)と、
0.01質量%以上0.04質量%以下のB(ホウ素)と、
0.1質量%以上0.4質量%以下のHf(ハフニウム)と、
0.05質量%以下のZr(ジルコニウム)と、
3.5質量%以上5質量%以下のAl(アルミニウム)と、
3質量%以上6質量%以下のTa(タンタル)と、
3質量%以上5質量%以下のTi(チタン)と、
0.1質量%以上1質量%以下のNb(ニオブ)と、
8質量%以上12.5質量%以下のCr(クロム)と、
5質量%以上10質量%以下のCo(コバルト)と、
4質量%以上8質量%以下のW(タングステン)と、
1質量%以上2.5質量%以下のMo(モリブデン)と、
Si(ケイ素)およびFe(鉄)の少なくとも一方を含有し、前記Siが含有される場合の成分量は0.02質量%以上2質量%以下であり、前記Feが含有される場合の成分量は0.1質量%以上5質量%以下であり、
残部がNi(ニッケル)と不可避不純物とからなることを特徴とするNi基鋳造超合金を提供する。
【0016】
(II)本発明の他の態様は、上記目的を達成するため、Ni基鋳造超合金からなる鋳造物であって、前記Ni基鋳造超合金は、本発明に係るNi基鋳造超合金であることを特徴とするNi基鋳造超合金からなる鋳造物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温強度と結晶粒界強度と耐酸化性とが従来以上に高い次元でバランスしており、かつ低コスト化が可能なNi基鋳造超合金を提供することができる。また、当該Ni基鋳造超合金を用いて鋳造物(特に、一方向凝固法による柱状結晶材や単結晶材)を製造することにより、大型部材(例えば、全長が150 mm以上の部材)の鋳造時にも凝固割れを防止することができ、かつ従来よりも厳しい高温環境での使用に耐えられる優れた高温強度と結晶粒界強度と耐酸化性とを兼ね備えた鋳造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】クリープ破断試験における破断時間とFe成分量との関係を示すグラフである。
図2】酸化試験における質量変化量とSi成分量との関係を示すグラフである。
図3】クリープ破断試験における破断時間とSi成分量との関係を示すグラフである。
図4】酸化試験における質量変化量とFe成分量との関係を示すグラフである。
図5】本発明に係るタービン動翼の一例を示す斜視模式図である。
図6】本発明に係るタービン静翼の一例を示す斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、前述した本発明に係るNi基鋳造超合金(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記Siが必ず含有され、前記Alと前記Tiと前記Siとの合計成分量が7質量%以上8.5質量%以下である。
(ii)前記Feが必ず含有され、前記Coと前記Feとの合計成分量が5質量%以上10質量%以下である。
【0020】
また、本発明は、前述した本発明に係るNi基鋳造超合金からなる鋳造物(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(iii)前記鋳造物は、一方向凝固法により鋳造された柱状結晶および/または単結晶から母相が構成されている。
(iv)前記鋳造物は、タービンのタービン翼である。
【0021】
(本発明の基本思想)
Ni基超合金において析出強化の効果を極大化するためには、基本的にγ’相の分散析出量を増やし、かつγ相の固相線温度(液相が生成する温度)を低下させる元素の添加を抑制することが望ましい。これは、γ’相を分散析出させる溶体化−時効熱処理において、γ’相の固溶温度(γ’相が固溶する温度)以上でかつγ相の固相線温度未満のできるだけ高い温度で溶体化熱処理を行うことにより、時効熱処理でのγ’相の微細分散析出が促進されるためである。
【0022】
一方、結晶粒界強度を向上させる元素(粒界強化元素)や耐酸化性を向上させる元素(酸化抑制元素)は、通常、Ni基超合金のγ相の固相線温度を低下させる作用を有する。また、母相に固溶して高温強度の向上に寄与する元素(固溶強化元素)は、しばしばγ’相の固溶温度を上昇させる作用を有する。その結果、粒界強化元素や固溶強化元素の添加は、γ’相の微細分散析出の制御を難しくする(析出強化の効果が小さくなり易い)。すなわち、高温強度と結晶粒界強度と耐酸化性とは、一般的にそれぞれが相反する関係にある。
【0023】
本発明者等は、従来では相反する関係にあると考えられていたこれらの特性(高温強度、結晶粒界強度、耐酸化性)を高い次元でバランスさせることを目指して、固溶強化元素、粒界強化元素および酸化抑制元素の添加について鋭意研究を行った。その結果、粒界強化元素としてC,B,Hfを添加し、固溶強化元素となりうるCr,W,Moの添加量を最適化し、従来は不純物と見なしていたSi,Feを酸化抑制元素として意図的に添加し、換わりに高価かつ化学的活性の高い希土類元素と高価なReとを削減することによって、従来の単結晶材に匹敵する高温強度と従来の柱状結晶材と同等の結晶粒界強度とを確保しながら、耐酸化性を大幅に向上させ、かつコストを低減できるNi基鋳造超合金が得られることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0024】
なお、本発明においては、Si成分とFe成分とのどちらか一方を添加すれば、本発明の目的が達成される。もちろん、Si成分とFe成分との両方を添加してもよい。
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0026】
(Ni基鋳造超合金の組成)
本発明に係るNi基鋳造超合金の組成について説明する。
【0027】
C成分:
C成分は、高温強度と結晶粒界強度との両立を図る上で重要な元素である。C成分の添加量が増えるに従って、鋳造物の凝固方向(結晶粒の長手方向)のクリープ破断強度は低下する傾向があるが、凝固方向に垂直方向(結晶粒の短手方向、すなわち結晶粒界に垂直方向)のクリープ破断強度は0.1質量%弱の添加量までは向上する傾向がある。高温強度と結晶粒界強度とを両立するためには、C成分量は0.05質量%以上0.09質量%以下が好ましく、0.06質量%以上0.08質量%以下がより好ましい。C成分量が0.05質量%未満になると、凝固方向のクリープ破断強度は優れているが、結晶粒界強度が低いため粒界割れを抑制する効果が得られない。一方、C成分を過剰に(0.09質量%超)添加すると、クリープ破断強度が急激に低下する。
【0028】
B成分:
B成分は、結晶粒界に偏析し凝固方向の強度(すなわち、高温強度)と凝固方向に垂直方向の強度(すなわち、結晶粒界強度)とを両立させる元素である。高温強度と結晶粒界強度とを両立するためには、B成分量は0.01質量%以上0.04質量%以下が好ましく、0.015質量%以上0.035質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.03質量%以下が更に好ましい。B成分量が0.01質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、B成分を過剰に(0.04質量%超)添加すると、γ相の固相線温度を大きく低下させるため熱処理時に部分溶融が生じ易くなり、クリープ破断強度を著しく低下させる。
【0029】
Hf成分:
Hf成分は、その一部がγ相に固溶し、残部がNi3Hfの金属間化合物(γ’相)を形成する。Hf成分の添加は、凝固方向のクリープ破断強度を低下させることなく、凝固方向に垂直方向のクリープ破断強度と引張強さとの両方を改善する効果がある。さらに、鋳造物表面に形成される酸化被膜の剥離を抑制し、耐酸化性を向上させる効果も見られる。Hf成分量は0.1質量%以上0.4質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Hf成分量が0.1質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Hf成分を過剰に(0.4質量%超)添加すると、γ相の固相線温度を著しく低下させるためγ’相の溶体化熱処理の完全な遂行が困難になり、クリープ破断強度を著しく低下させる。
【0030】
Zr成分:
Zr成分は、その一部がNi3Zrの金属間化合物(γ’相)を形成する。一方、Zr成分の過剰の添加は、γ相の固相線温度を著しく低下させるためγ’相の溶体化熱処理の完全な遂行が困難になり、クリープ破断強度を著しく低下させる。そのため、Zr成分量は0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましく、実質的に無添加(不可避混入程度)が更に好ましい。
【0031】
Al成分:
Al成分は、Ni基超合金の高温強化因子であるγ’相を形成するための必須元素である。また、Al成分は、鋳造物表面に酸化物被膜(Al2O3)を形成することで耐酸化性と耐食性との向上に寄与する。Al成分量は3.5質量%以上5質量%以下が好ましく、4質量%以上4.5質量%以下がより好ましい。Al成分量が3.5質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Al成分を過剰に(5質量%超)添加すると、鋳造直後(凝固直後)の共晶γ’相が多くなり過ぎて、溶体化熱処理の限られた時間内に全ての共晶γ’相をγ相中に固溶させるのが困難になる。共晶γ’相は、時効熱処理により析出するγ’相と異なり、クリープ現象での亀裂の起点となる可能性があることから、できるだけ残存させないことが望ましい。
【0032】
Ta成分:
Ta成分は、Al成分と共にγ’相を形成し高温強度を向上させる効果がある。Ta成分量は3質量%以上6質量%以下が好ましく、4質量%以上6質量%以下がより好ましく、4.5質量%以上5.5質量%以下が更に好ましい。Ta成分量が3質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Ta成分を過剰に(6質量%超)添加すると、γ’相の固溶温度が上昇してγ’相の溶体化熱処理の完全な遂行が困難になり、クリープ破断強度を低下させる。
【0033】
Ti成分:
Ti成分は、Al成分とTa成分と共にγ’相(Ni3(Al,Ta,Ti))を形成し高温強度を向上させる効果がある。さらに、Ti成分は、超合金の高温における耐食性(例えば、溶融塩腐食に対する耐食性)を大きく向上させる効果がある。Ti成分量は3質量%以上5質量%以下が好ましく、3質量%以上4.5質量%以下がより好ましく、3質量%以上4質量%以下が更に好ましい。Ti成分量が3質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Ti成分を過剰に(5質量%超)添加すると、超合金の耐酸化性を劣化させると共に脆化相のη相(Ni3Ti相)が析出し易くなる。
【0034】
Nb成分:
Nb成分は、Al成分とTi成分と共にγ’相(Ni3(Al,Nb,Ti))を形成し高温強度を向上させる効果がある。また、超合金の高温における耐食性を改善する効果もある。Nb成分量は0.1質量%以上1質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.8質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上0.6質量%以下が更に好ましい。Nb成分量が0.1質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、本発明のようにTi成分量が多いNi基超合金にNb成分を過剰に(1質量%超)添加すると、脆化相のη相が析出し易くなる。
【0035】
Cr成分:
Cr成分は、γ相中に固溶すると共に、鋳造物表面に酸化物被膜(Cr2O3)を形成して耐食性と耐酸化性とを向上させる効果がある。Cr成分量は8質量%以上12.5質量%以下が好ましく、10質量%以上12質量%以下がより好ましい。Cr成分量が8質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Cr成分を過剰に(12.5質量%超)添加すると、固溶強化元素(例えば、W)の固溶可能量を低下させて固溶強化の効果を減じさせる。
【0036】
Co成分:
Co成分は、Niに近い元素でありNiと置換する形でγ相中に固溶し、クリープ破断強度を向上させると共に耐食性を向上させる効果がある。Co成分量は5質量%以上10質量%以下が好ましく、5質量%以上8質量%以下がより好ましく、6質量%以上7質量%以下が更に好ましい。Cr成分量が5質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Cr成分を過剰に(10質量%超)添加すると、γ’相の析出量を減少させて高温強度を低下させる。
【0037】
W成分:
W成分は、γ相中に固溶して高温強度を向上させる(固溶強化する)効果がある。W成分量は4質量%以上8質量%以下が好ましく、5質量%以上7質量%以下がより好ましい。W成分量が4質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、W成分を過剰に(8質量%超)添加すると、Wからなる針状の析出物が析出して高温強度が低下する。
【0038】
Mo成分:
Mo成分は、Cr成分と同様に耐食性を向上させる効果がある。また、Wと同様に固溶強化する効果がある。Mo成分量は1質量%以上2.5質量%以下が好ましく、1.2質量%以上2質量%以下がより好ましい。Mo成分量が1質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Mo成分を過剰に(2.5質量%超)添加すると、高温雰囲気中での耐酸化性を低下させる。
【0039】
Si成分:
Si成分は、Ni基超合金において、一般的に耐酸化性を向上させる効果がある。一方、Si成分は、Al成分と置換する元素であり、Al成分とTi成分と共にγ’相を形成するが、γ’相の格子定数を変化させてクリープ破断強度を低下させるマイナス効果も有する。そのため、従来の単結晶材用Ni基超合金では、クリープ破断強度の重要性からSi成分を不純物として扱い、Si成分量は0.01質量%以下と規定されている。
【0040】
これに対し、本発明では、8質量%以上のCr成分を含むNi基超合金にSi成分を意図的に添加することで、クリープ破断強度を低下させることなく耐酸化性を向上させることができるという新たな効果が見出された。Si成分を添加する場合の成分量は0.02質量%以上2質量%以下が好ましく、0.04質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更に好ましい。Si成分量が0.02質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Si成分を過剰に(2質量%超)添加すると、クリープ破断強度が低下する。
【0041】
また、Si成分量が多くなると(例えば、0.5質量%を超えると)、γ’相の析出量が多くなって鋳造物の延性が低下する傾向があることから、Al成分とTi成分とSi成分との総量(Al+Ti+Si)を7質量%以上8.5質量%以下とすることが望ましい。
【0042】
Fe成分:
Fe成分は、Ni基超合金中のCo成分と容易に置換する元素であり、超合金のクリープ破断強度を低下させる元素と考えられてきた。また、Fe成分は、自身の耐酸化性が悪いことから、Ni基超合金の耐酸化性を低下させる元素と考えられてきた。そのため、従来の単結晶材用Ni基超合金では、Fe成分を不純物として扱い、Fe成分量は0.02質量%以下と規定されている。
【0043】
これに対し、本発明では、8質量%以上のCr成分を含むNi基超合金にFe成分を意図的に添加することで、クリープ破断強度を低下させることなく、高温での耐酸化性を向上させることができるという新たな効果が見出された。これは、本発明で初めて見出したものであり、従来の常識を覆す知見である。Fe成分を添加する場合の成分量は0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が更に好ましい。Fe成分量が0.1質量%未満になると、上記の効果が十分に得られない。一方、Fe成分を過剰に(5質量%超)添加すると、高温強度が低下する。
【0044】
また、上述したように、Fe成分は超合金中のCo成分と置換することから、Fe成分を添加する場合は、Co成分とFe成分との総量(Co+Fe)を5質量%以上10質量%以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(従来超合金1〜3および発明超合金1〜13の用意)
従来超合金1〜3(CS-1〜CS-3)および発明超合金1〜13(IS-1〜IS-13)を用意した。各超合金の名目組成を表1〜表2に示す。従来超合金1(CS-1)は、特許文献1(特開昭60-211031)に記載されている超合金(CMSX-4、登録商標)であり、市販の単結晶材用Ni基超合金で最も有名なものである。従来超合金2(CS-2)は、特許文献3(特開平5-59474)に記載されているNi基超合金(Rene’ N5)であり、一部の発電用ガスタービンの動翼として使用されている。従来超合金1,2は、組成としてC,B,Si,Feを実質的に含まずReを3質量%含み、高温でのクリープ破断強度が高いという特徴がある。従来超合金3(CS-3)は、「Superalloys 1996,Eighth International Symposium」で開示された単結晶材用Ni基超合金である。従来超合金3は、Re,Si,Feを実質的に含まずC,Bを含み、従来超合金1,2よりも結晶粒界強度が高い材料とされている。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(単結晶材の作製と評価)
単結晶材は、次のような手順で作製した。はじめに、真空誘導溶解炉を用いて、表1に示した名目組成を有するマスターインゴットを溶製した。次に、一方向凝固炉を用いて、当該マスターインゴットから単結晶材(直径15 mm、長さ180 mm)を鋳造した。鋳造条件は、鋳造温度を1800 K(1527℃)とし、凝固速度を20 cm/hとした。鋳造後、溶体化熱処理(1493 K(1220℃)まで4時間で昇温して2時間保持した後、室温まで空冷)を施した。溶体化熱処理に続いて時効熱処理(1373 K(1100℃)まで昇温して4時間保持し空冷した後、1173 K(900℃)まで昇温して20時間保持し空冷)を施した。その後、単結晶材に対して試験片加工を行い、試験評価用の試料(CS-1〜CS-3およびIS-1〜IS-13)を作製した。
【0050】
得られた試験評価用の試料に対して、クリープ破断試験および酸化試験を実施した。クリープ破断試験は、温度1313 K、応力137 MPaの条件の下で行った。クリープ破断時間が長いことは、クリープ破断強度が高いことを意味する。酸化試験は、「1373 K(1100℃)まで昇温して20時間保持して空冷」の繰り返しとし、保持時間の合計が300時間になるまで行った。質量変化量が小さいことは、耐酸化性が高いことを意味する。クリープ破断試験および酸化試験の結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示したように、発明超合金(IS-1〜IS-13)は、従来超合金のCS-3(結晶粒界強度の改善を図った単結晶材用Ni基超合金)に対して、クリープ破断試験における破断時間が長くなり、かつ酸化試験における質量変化量が小さくなっていることが確認された。また、従来超合金のCS-1,CS-2(高温強度に特化した単結晶材用Ni基超合金)に匹敵するクリープ破断強度や耐酸化性を示すことが確認された。
【0053】
図1は、クリープ破断試験における破断時間とFe成分量との関係を示すグラフである。図1に示したように、Fe成分とSi成分とを含まないCS-3と比較して、Fe成分を含む発明超合金は、クリープ破断時間が長くなっている(すなわち、クリープ破断強度が向上する)ことが判る。また、この効果は、Si成分を含まない発明超合金でもSi成分を含む発明超合金でも同様であることが確認された。より具体的には、Fe成分量0.4質量%でクリープ破断時間が極大値を示しているが、Fe成分量3質量%でもCS-3のクリープ破断時間を上回っている。
【0054】
図2は、酸化試験における質量変化量とSi成分量との関係を示すグラフである。図2に示したように、Fe成分とSi成分とを含まないCS-3と比較して、Si成分を含む発明超合金は、質量変化量(酸化による質量減少)が小さくなっている(すなわち、耐酸化性が向上する)ことが判る。また、この効果は、Fe成分を含まない発明超合金でもFe成分を含む発明超合金でも同様であることが確認された。より具体的には、Si成分量が増えるにつれて耐酸化性が向上している。
【0055】
図3は、クリープ破断試験における破断時間とSi成分量との関係を示すグラフである。図3に示したように、CS-3と比較して、Si成分を含む発明超合金は、クリープ破断時間が長くなっている(すなわち、クリープ破断強度が向上する)ことが判る。また、この効果は、Fe成分を含まない発明超合金でもFe成分を含む発明超合金でも同様であることが確認された。より具体的には、Si成分量が増えるにつれてクリープ破断時間が減少する傾向が見られるが、Si成分量1質量%でもCS-3のクリープ破断時間を上回っている。
【0056】
図4は、酸化試験における質量変化量とFe成分量との関係を示すグラフである。図4に示したように、CS-3と比較して、Fe成分を含む発明超合金は、質量変化量(酸化による質量減少)が小さくなっている(すなわち、耐酸化性が向上する)ことが判る。また、この効果は、Si成分を含まない発明超合金でもSi成分を含む発明超合金でも同様であることが確認された。より具体的には、Fe成分の添加により耐酸化性が大きく向上するが、Fe成分量の影響は小さい。Si成分の共添加により、耐酸化性は更に向上する。
【0057】
これらの結果から、本発明に係るNi基超合金は、Fe成分、Si成分を含有することで、結晶粒界強度の改善を図った従来の単結晶材用Ni基超合金(CS-3)よりもクリープ破断強度および耐酸化性の向上が図られていることが確認された。
【0058】
(柱状結晶材の作製と評価)
柱状結晶材は、次のような手順で作製した。はじめに、真空誘導溶解炉を用いて、従来超合金のCS-3と発明超合金のIS-1とのマスターインゴットを溶製した。次に、一方向凝固炉を用いて、当該マスターインゴットから板状の柱状結晶材(幅100 mm、長さ180 mm、厚さ15 mm)を鋳造した。柱状結晶材の長さ方向が凝固方向である。鋳造後、溶体化熱処理と時効熱処理とを実施した。鋳造条件、溶体化熱処理条件、および時効熱処理条件は、先の単結晶材の場合と同じにした。
【0059】
得られた柱状結晶材に対して、エッチング法によるマクロ組織観察(異結晶の有無の確認)を行った。その結果、得られた柱状結晶材は、隣り合う柱状結晶間の結晶方位の角度差が15°を超える領域があることを確認した。言い換えると、当該試験評価用の試料は、異結晶が存在する状態を模しているものと言える。
【0060】
得られた板状試料に対して、引張試験を実施した。試験温度は室温と773 K(500℃)とし、引張方向は凝固方向と凝固方向の直角方向との2方向とした。引張試験結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示したように、従来超合金のCS-3からなる柱状結晶材は、凝固方向において高い引張強度を示すが、延性が小さいことが判る。また、CS-3からなる柱状結晶材は、凝固方向の直角方向において0.2%耐力を示す前に破断し、結晶粒界強度が不十分であることが判った。言い換えると、CS-3からなる鋳造物は、異結晶を許容できないことが確認された。これに対し、発明超合金のIS-1からなる柱状結晶材は、いずれの試験条件においてもCS-3からなる柱状結晶材より良好な延性を示し、かつ十分な0.2%耐力と引張強度とを示した。
【0063】
すなわち、本発明のNi基鋳造合金は、柱状結晶材とした場合でも高い結晶粒界強度を有することが確認された。このことは、本発明のNi基鋳造合金が従来よりも高温で使用される大型高温部材(例えば、発電用ガスタービンのタービン翼)に対して適用可能であることを強く示唆するものである。また、従来はほぼ完全な単結晶状態が必要とされた高温部材においても、異結晶の許容範囲を拡大するものであり、当該高温部材における歩留まり向上と低コスト化の達成に大変有効である。
【0064】
(大型タービン翼の作製と評価)
次に、本発明に係る鋳造物として、発電用ガスタービンのタービン翼(動翼、静翼)を作製した。図5は、本発明に係るタービン動翼の一例を示す斜視模式図である。図6は、本発明に係るタービン静翼の一例を示す斜視模式図である。例えば、出力30 MW級の発電用ガスタービンの場合、これらのタービン翼(動翼、静翼)の翼部の長さは170 mm程度である。
【0065】
Ni基鋳造超合金としては、従来超合金のCS-3と発明超合金のIS-1とのマスターインゴットを用いた。動翼は一方向凝固のセレクタ法で鋳造し、静翼は一方向凝固の種結晶法で鋳造した。鋳造条件は、鋳造温度を1800 K(1527℃)とし、凝固速度を15 cm/hとした。各超合金でそれぞれ4試料ずつ作製した。鋳造後、溶体化熱処理と時効熱処理とを実施した。溶体化熱処理条件および時効熱処理条件は、先の単結晶材の場合と同じにした。
【0066】
得られた動翼および静翼に対して、エッチング法によるマクロ組織観察(異結晶の有無の確認)を行った。ここでは、隣り合う結晶粒間の結晶方位の角度差が15°を超えるものを異結晶と定義した。動翼のマクロ組織観察結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示したように、従来超合金のCS-3からなる動翼および発明超合金のIS-1からなる動翼の全ての試料において、翼部は単結晶状態(すなわち、異結晶無しの状態)であったが、一部の試料ではシャンク部やシールフィン部で異結晶が観察された。また、全ての試料において、ダブティル部で異結晶が観察された。さらに、CS-3からなる動翼の一部の試料では、シールフィン部で結晶粒界割れが観察された。
【0069】
ここで、燃焼ガス温度の上昇を前提としても、動翼のシャンク部やダブティル部は、その温度が773 K(500℃)程度となるように設計されており、当該シャンク部やダブティル部は、クリープ領域に入らない。従って、製造した動翼(一方向凝固材)が773 Kで十分な機械的特性(例えば、0.2%耐力、引張強度、破断伸び(延性))を有しているか否かが、使用可否の重要な判断基準となる。
【0070】
表4に示したように、従来超合金のCS-3からなる柱状結晶材は、773 Kの試験条件において十分な機械的特性を有していない。そのため、シャンク部、シールフィン部、およびダブティル部で異結晶が観察されたCS-3からなる動翼は、実機での使用が不可能と判定される。
【0071】
これに対し、発明超合金のIS-1からなる柱状結晶材は、773 Kの試験条件において良好な延性を示し、かつ十分な0.2%耐力と引張強度とを有していることから、IS-1からなる動翼は、実機での使用が可能であると判定される。言い換えると、動翼材料として本発明のNi基鋳造超合金を用いると、動翼のシャンク部やダブティル部を完全に単結晶化する必要が無いことから、高い歩留りで(すなわち、低コストで)動翼を製造することができる。
【0072】
一方、静翼では、いずれの超合金においても翼部は単結晶状態となったが、両側のエンドウオール部(内輪側、外輪側)で異結晶が観察された。ただし、静翼のエンドウオール部は、動翼のダブティル部と同様にクリープ温度領域に入らない部分である。その結果、発明超合金のIS-1からなる静翼は、実機での使用が可能と判定されるが、従来超合金のCS-3からなる静翼は、実機での使用が不可能と判定される。
【0073】
なお、タービン動翼においては、遠心力が作用する方向が凝固方向となるように鋳造することが望ましい。また、タービン静翼においては、熱応力が最大となる方向が凝固方向なるように鋳造することが望ましい。
【0074】
以上説明したように、本発明に係るNi基鋳造超合金は、方向性凝固法(例えば、一方向凝固法)を利用した鋳造物を製造するのに適している。従来は不良品とされていた異結晶が発生したタービン翼であっても、本発明に係るNi基鋳造超合金を用いれば、十分使用可能なタービン翼を得ることができる。これは、大型高温部材の鋳造歩留まりを大幅に改善する(製造コストを低減する)ことにつながる。また、本発明に係る鋳造物は、異結晶が存在しても良好な機械的特性が保証できるため、高温部材の信頼性を大幅に向上することが可能となる。さらに、本発明に係る鋳造物をガスタービンの高温部材に適用することにより、燃焼ガス温度を上昇させることが可能となり発電用ガスタービンの発電効率を向上させることができる。
【0075】
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6