(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267905
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】扁平梁の曲げ耐力算定方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
E04B1/20 E
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-196273(P2013-196273)
(22)【出願日】2013年9月21日
(65)【公開番号】特開2015-61961(P2015-61961A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓
(72)【発明者】
【氏名】古谷 祐希
【審査官】
金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−107367(JP,A)
【文献】
特開平11−043994(JP,A)
【文献】
特開2010−255227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20,1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に対して扁平梁が接合される柱梁接合部における前記扁平梁の曲げ耐力の算定方法であって、前記扁平梁の全引張主筋量に対する前記柱幅の外側に配筋された引張主筋の材料強度または主筋量を低減して、前記柱幅の外側に位置する前記扁平梁の曲げ耐力を前記柱幅内の部位より低下させて前記扁平梁の設計を行うことを特徴とする扁平梁の曲げ耐力算定方法。
【請求項2】
柱に対して扁平梁が接合される柱梁接合部における前記扁平梁の曲げ耐力の算定方法であって、前記扁平梁の全引張主筋量に対する前記柱幅の外側に配筋された引張主筋の材料強度または主筋量を低減して、前記柱幅の外側に位置する前記扁平梁の曲げ剛性を前記柱幅内の部位より低下させて前記扁平梁の設計を行うことを特徴とする扁平梁の曲げ耐力算定方法。
【請求項3】
梁の曲げ耐力の低減を行う曲げ耐力の算定方法において、算定式に低減関数β
β={A−B・(Σato/ΣBat)}<1
ここで、1.0≦A≦1.05、0.05<B<0.25
を乗じて曲げ耐力を低減する請求項1に記載の扁平梁の曲げ耐力算定方法。
【請求項4】
前記扁平梁の前記柱幅内に配筋された主筋の直径より前記柱幅の外側に配筋された主筋の直径を小さくすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の扁平梁の曲げ耐力算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は扁平梁の曲げ耐力算定方
法に係り、柱外の扁平梁の実際の応力状態に対応した曲げ耐力を適正に算定し、それに基づき、合理的な梁の設計を行えるようにした扁平梁の曲げ耐力算定方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート建物に用いられる梁は所定の曲げ耐力を確保するために、梁せいを大きくするか、鉄筋量を多くして対応していた。この場合、通常の梁幅は柱幅よりも狭く設定されているため、梁幅内に配筋される本数が限られている。一方で梁せいを大きくする方法もあるが、梁下の室内空間を狭めることになり、梁下空間を確保するために建物高さを大きくする必要があった。そのような問題を解決するために、たとえば鉄筋コンクリート造の集合住宅において、建物高さを低減し、階高の有効利用を図るために、バルコニー等の開口部側に位置する梁に扁平梁を用いる提案がされている(特許文献1,特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−82869号公報
【特許文献2】特開2007−107367号公報 扁平梁は梁幅が柱幅より広く、せいが小さいため、柱梁接合部に作用する外力(曲げモーメント、せん断力)に対する梁の抵抗挙動および耐力等が、従来の柱梁接合部の梁とは異なることが認められており、従来の柱梁接合部における設計方法がそのまま適用できない。このように不明な点が多い扁平梁の柱梁接合部における扁平梁の挙動を解明するための研究も進められている(非特許文献1,非特許文献2)。非特許文献1の研究によれば、扁平梁の主筋のうち、柱幅より外側に位置する主筋は、柱から離れるに従って曲げ耐力に寄与する割合が低下していくとされている。非特許文献2の研究によれば、扁平梁の梁幅が柱幅の2倍程度なら梁としての曲げ耐力を発揮し、柱に近い梁のコンクリート拘束を強めると良好な性状を示すとされている。
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】別所佐登志、松崎育弘他、“幅広はり・柱接合部の水平加力実験(その1 実験結果概要、その2 実験結果の検討)”、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.445〜448、昭和63年10月
【非特許文献2】西村康志郎、瀧口克己他、“鉄筋コンクリート扁平梁構法の開発研究”、日本建築学会構造系論文集、第616号、pp.179〜186、2007年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各非特許文献にあるように、設計手法が確立していない現状において、扁平梁の曲げ耐力計算方法は、各設計者が独自の設計手法で設計を進めていた。その一例として、柱幅Cを基準として、その柱から所定の範囲(たとえば柱幅C×n倍とか)までの梁主筋が曲げ耐力に寄与すると仮定し、その範囲に含まれる梁主筋が均一に応力度を負担するとして曲げ耐力を算定していた。
【0006】
従来、梁の曲げ耐力を正確に算定することは、保有水平耐力計算およびせん断に対する保証設計を行う上で重要であり、扁平梁の設計において、上述のように経験的な設計を行うことは危険側の設計となったり、逆に必要以上の配筋を要する不経済設計となるなどの問題があった。
【0007】
また、従来の梁の設計では、梁の全ての主筋を曲げ耐力に寄与させるために、柱幅外側の梁が十分な捻れ剛性を有し、梁内に一列配筋された主筋が同時に降伏することを前提としているが、発明者らの実験では、扁平梁内の主筋は柱に近い側から順次降伏することが確認されている。このため、梁幅の大きな扁平梁全幅にわたり一列に配筋された梁主筋が同時に降伏すると仮定して設計すると、部材の耐力を過大評価することになる。よって、梁主筋を同時に降伏させるためには、扁平梁の柱からの張出し長さ(梁幅)を制限するか、あるいは梁、柱を材軸直交方向に貫通する捻れ補強筋を多数配筋して梁の捻れ剛性を高くする設計が必要があった。
【0008】
発明者らの実施した実験から、柱から離れるに従って、梁主筋が負担する応力度は低下することが確認された。すなわち、扁平梁は幅が広くなると柱に対する捻れ変形が大きくなる。この捻れ変形により柱から離れた位置の鉄筋は応力負担が小さくなることが確認されている。
【0009】
ここで、発明者が考える扁平梁の梁主筋の応力状態を生じさせる梁変形挙動について、
図4、
図5を参照して説明する。
図4に示したように、柱10の柱幅より広い梁幅の扁平梁20の柱梁接合部1では、矢印で示したような曲げモーメントMが作用した際に、柱10と連続する扁平梁20は、柱10と一体化した梁部分20A(図中、梁(柱内)と表示)と、柱の両側に張り出した梁部分20B(図中、梁(柱外)と表示)とでは、その変形挙動が異なる。すなわち、
図5に模式的に断面で示したように、梁(柱内)20Aでは、扁平梁20の根元部は、柱10と一体化した状態にあるため、梁(柱内)20Aの曲げ挙動(柱端からの所定位置のたわみ量
iδ
B)は従来の梁と同様である。このため、梁引張主筋はすべての曲げ耐力に寄与することになる(
図5(a))。これに対して、梁(柱外)20Bでは、曲げ外力が作用すると、柱10からの両側に張り出した梁部分に捻れが生じ、その後に梁として曲げモーメントを負担する。このため、柱端からの所定位置でのたわみ量は捻れによって生じるたわみ
oδ
tと梁曲げによって生じるたわみ
oδ
Bの和(
oδ
t+
oδ
B=
iδ
B)となる。このため、扁平梁20の曲げ挙動を適正に評価することが経済設計につながる。なお、
図5では、扁平梁20の曲げ形状は説明のために模式的に直線で描いている。
【0010】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、扁平梁の挙動に合った応力状態を考慮して扁平梁における曲げ耐力を評価し、合理的な手法で曲げ耐力を算定できるできるようにした扁平梁の曲げ耐力算定方
法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の曲げ耐力算定の方法は、柱に対して扁平梁が接合される柱梁接合部における前記扁平梁の曲げ耐力の算定方法であって、前記扁平梁の全引張主筋量に対する前記柱幅の外側に配筋された引張主筋
の材料強度または主筋量を低減して、前記柱幅の外側に位置する前記扁平梁の曲げ耐力を
前記柱幅内の部位より低下させて前記扁平梁の設計を行うことを特徴とする。
【0012】
また、柱に対して扁平梁が接合される柱梁接合部における前記扁平梁の曲げ耐力の算定方法であって、前記扁平梁の全引張主筋量に対する前記柱幅の外側に配筋された引張主筋
の材料強度または主筋量を低減して、前記柱幅の外側に位置する前記扁平梁の曲げ剛性を
前記柱幅内の部位より低下させて前記扁平梁の設計を行うことを特徴とする。
【0013】
梁の曲げ耐力の低減を行う曲げ耐力の算定方法において、算定式に低減関数β
β={A−B・(Σato/ΣBat)}<1
ここで、1.0≦A≦1.05、0.05<B<0.25
を乗じて曲げ耐力を低減することが好ましい。
【0016】
前記扁平梁の前記柱
幅内に配筋された主筋の直径より前記柱幅の外側に配筋された主筋の直径を小さく
することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、捻れ変形に影響を及ぼす柱幅の外側に配された梁主筋の量の比率に応じて曲げ耐力を低減するように梁耐力を評価することにより、実際の応力状態に即した曲げ耐力の算定が可能となり、従来の問題点であった、扁平梁の幅の制限、過剰な捻れ補強筋がともに不要な合理的な設計が実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の扁平梁の曲げ耐力算定方法による配筋構造を行う対象となる扁平梁の柱梁接合部を示した模式説明図。
【
図2】本発明の扁平梁の曲げ耐力算定方法による配筋構造の一実施形態を示した梁模式断面図。
【
図3】本発明の扁平梁の曲げ耐力算定方法における算定式と、実験値との関係を示した関係グラフ。
【
図4】扁平梁の柱梁接合部における変形挙動を示すためのモデル図。
【
図5】
図4に示した扁平梁の各梁(柱内)、(柱外)での曲げ挙動を模式的に示したモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の扁平梁の曲げ耐力算定方法及び扁平梁の配筋構造の基本構造について、
図1〜
図3を参照して説明する。
[柱梁接合部における扁平梁の耐力算定式の提案]
発明者は、
図1に示した扁平梁の柱梁接合部の試験体において、
図2に示した模式断面図梁主筋(柱内)、梁主筋(柱外)での配筋割合、直交主筋(捻れ補強筋)の有無を因子として複数試験体での扁平梁の曲げ耐力試験を行った。その結果をもとに式1、
図3に示した扁平梁の耐力算定式(以下、算定式)を提案するものである。
この算定式によれば、柱外側に配される梁主筋の割合によって、梁の曲げ耐力が低下する挙動を反映させることができる。以下、低減関数βによってその低下開始点、低下率を考慮した(式1)を提案する。
ここに、
My:梁の曲げ耐力、β:低減関数(≦1)、
σy:梁主筋の材料強度、d:梁の有効せい、
Σ
Ba
t:引張側の全梁主筋の断面積、
Σa
to:柱の外側に配される引張側の梁主筋の断面積
本実施形態では、実験結果より、A=1.05、B=0.25として、扁平梁の算定式を求めた。なお、(式1)は、従来、設計に適用されている梁の曲げ耐力算定式
My=Σ
Ba
t・σy・d …(式2)
に、扁平梁の形状による影響を考慮した低減係数βを乗じて作成したものである。
【0020】
図3は、上記算定式と扁平梁の曲げ耐力試験結果との関係を示した関係グラフである。同図に示したように、梁主筋の全断面積に対する外側の主筋断面積の割合(Σa
to/Σ
Ba
t)が増加するにしたがって、梁の曲げ耐力が低下する挙動を式1がカバーしていることが読み取れる。
【0021】
[柱梁接合部における扁平梁の配筋構造の提案]
図2は、扁平梁20の柱梁接合部1における配筋構造を、部位で区画して模式的に示した配筋断面図である。上述の算定式(式1)からわかるように、柱10の外側の主筋の効果を計算上低減する方法だと、配筋された鉄筋の能力が十分に発揮されないこととなる。そこで、本発明では、曲げ耐力への寄与が低減される柱外側に配される梁主筋30の材料強度(σ
yo)を、柱内に配筋される梁主筋31の材料強度(σ
yi)より低い材料とすること、または柱外側の梁主筋30の1本の鉄筋断面積(直径)(a
to(φ
to))を柱内側の梁主筋31の1本の鉄筋断面積(直径)(a
ti(φ
ti))より小さくすることで、扁平梁の柱梁接合部における配筋構造を提案する。
すなわち、
(σ
yo)<(σ
yi)または(a
to)<(a
ti)((φ
to)<(φ
ti))
とすることで、捻れ補強筋などを必要としない合理的設計が可能となる。
【0022】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1 柱梁接合部
10 柱
20 扁平梁
30,31 梁主筋