(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、モータは掃除機または電動ドリル等の雑音を伴う機器に使用されていたため、モータに雑防(雑音防止)特性は求められていなかった。しかしながら、近年では、例えば自動車に搭載されるCD(コンパクトディスク)またはDVD(デジタルバーサタイルディスク)の再生装置等に用いられるモータには雑防特性が求められる。特許文献1のブラシでは、モータの雑音を抑制することができない。
【0005】
本発明の目的は、モータの雑音を抑制可能な金属炭素質ブラシおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明に係る金属炭素質ブラシは、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料と、炭素質材料に混合される金属と、炭素質材料に含浸されるオイルとを含み、炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下であ
り、オイルは、90重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油と1重量%以上10重量%以下のシリコーン油との混合油であるものである。
【0007】
この金属炭素質ブラシにおいては、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料に金属が混合される。炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下である。この構成によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
さらに、オイルは、90重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油と1重量%以上10重量%以下のシリコーン油との混合油である。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。また、炭素質材料に含浸されたオイルが長期間保持される。それにより、モータの雑音を長期に渡ってより抑制することが可能となる。
(2)第2の発明に係る金属炭素質ブラシは、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料と、炭素質材料に混合される金属と、炭素質材料に含浸されるオイルとを含み、炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下であり、オイルは、90重量%以上99.5重量%以下の石油系炭化水素油と0.5重量%以上10重量%以下のジメチルシリコーン油との混合油であるものである。
この金属炭素質ブラシにおいては、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料に金属が混合される。炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下である。この構成によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
さらに、オイルは、90重量%以上99.5重量%以下の石油系炭化水素油と0.5重量%以上10重量%以下のジメチルシリコーン油との混合油である。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。それにより、モータの雑音をより抑制することが可能となる。
【0008】
(
3)オイルの含浸率は、混合された炭素質材料および金属に対して0.5重量%以上であってもよい。
【0009】
この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性をより向上させることができる。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗をより低減させることができる。これにより、モータの雑音をより抑制することが可能となる。
【0017】
(
4)金属は電解銅粉を含んでもよい。この場合、コストの増大を抑制しつつ金属炭素質ブラシの導電性を確保することができる。
【0018】
(
5)第
3の発明に係る金属炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉およびバインダーを混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属を混合する工程と、混合された炭素質材料および金属を成形する工程と、成形後の炭素質材料および金属を熱処理する工程と、熱処理後の炭素質材料にオイルを含浸させる工程とを含
み、オイルは、90重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油と1重量%以上10重量%以下のシリコーン油との混合油であるものである。
【0019】
この金属炭素質ブラシの製造方法によれば、炭素粉およびバインダーが混合されることにより炭素質材料が作製される。作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属が混合される。混合された炭素質材料および金属が成形される。成形後の炭素質材料および金属が熱処理される。熱処理後の炭素質材料にオイルが含浸される。
【0020】
この方法によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
さらに、オイルは、90重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油と1重量%以上10重量%以下のシリコーン油との混合油である。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。また、炭素質材料に含浸されたオイルが長期間保持される。それにより、モータの雑音を長期に渡ってより抑制することが可能となる。
(6)第4の発明に係る金属炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉およびバインダーを混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属を混合する工程と、混合された炭素質材料および金属を成形する工程と、成形後の炭素質材料および金属を熱処理する工程と、熱処理後の炭素質材料にオイルを含浸させる工程とを含み、オイルは、90重量%以上99.5重量%以下の石油系炭化水素油と0.5重量%以上10重量%以下のジメチルシリコーン油との混合油であるものである。
この金属炭素質ブラシの製造方法によれば、炭素粉およびバインダーが混合されることにより炭素質材料が作製される。作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属が混合される。混合された炭素質材料および金属が成形される。成形後の炭素質材料および金属が熱処理される。熱処理後の炭素質材料にオイルが含浸される。
この方法によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
さらに、オイルは、90重量%以上99.5重量%以下の石油系炭化水素油と0.5重量%以上10重量%以下のジメチルシリコーン油との混合油である。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。それにより、モータの雑音をより抑制することが可能となる。
【0021】
(
7)炭素質材料および金属を成形する工程は、炭素質材料および金属の比重が2.26g/cm
3以下になるように炭素質材料および金属を加圧
することを含んでもよい。
【0022】
この場合、炭素質材料の気孔(ポア)が小さくなることが抑制される。これにより、炭素質材料へのオイルの含浸率が低下することを防止することができる。
【0023】
(
8)
第5の発明に係る金属炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉およびバインダーを混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属を混合する工程と、混合された炭素質材料および金属を成形する工程と、成形後の炭素質材料および金属を熱処理する工程と、熱処理後の炭素質材料にオイルを含浸させる工程とを含み、オイルを含浸させる工程は、炭素質材料および金属を80℃以上120℃以下のオイルに浸漬させることを含
むものである。
この金属炭素質ブラシの製造方法によれば、炭素粉およびバインダーが混合されることにより炭素質材料が作製される。作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属が混合される。混合された炭素質材料および金属が成形される。成形後の炭素質材料および金属が熱処理される。熱処理後の炭素質材料にオイルが含浸される。
この方法によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
さらに、炭素質材料および金属が80℃以上120℃以下のオイルに浸漬される。この場合、炭素質材料へのオイルの含浸率を向上させることができる。
【0024】
(
9)オイルを含浸させる工程は、炭素質材料および金属を90℃以上110℃以下のオイルに浸漬させることを含んでもよい。この場合、炭素質材料へのオイルの含浸率をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、モータの雑音を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態に係る金属炭素質ブラシについて図面を参照しながら説明する。
【0028】
(1)ブラシの構成
図1は、本実施の形態に係る金属炭素質ブラシ(以下、ブラシと略記する)を用いた直流モータの模式的斜視図である。
図1の直流モータ10は、ブラシ1および回転体2を含む。回転体2は整流子であり、回転軸Gの周りで回転可能に設けられる。ブラシ1にはリード線4が接続される。ブラシ1の一端は回転体2の外周面に接触する。
【0029】
図示しない電源からリード線4を介してブラシ1に電流が供給される。その電流がブラシ1から回転体2に供給されることにより、回転体2が回転軸Gの周りで回転する。ブラシ回転体2が回転することにより、ブラシ1が回転体2に対して摺動する。
【0030】
本実施の形態においては、炭素質材料と金属粉とを混合して加圧成形することによりブラシ基材が作製される。その後、ブラシ基材にオイルが含浸されることによりブラシ1が製造される。
【0031】
なお、本実施の形態では、直流モータ10にブラシ1が用いられるが、これに限らず、交流モータにブラシ1が用いられてもよい。
【0032】
(2)ブラシの製造方法
ブラシ1の製造方法について説明する。まず、造粒により炭素質材料を作製する。具体的には、炭素粉およびバインダーを混練することにより炭素質材料を作製する。炭素粉としては、黒鉛粉を用いることが好ましい。黒鉛粉としては、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉または膨張黒鉛粉等を用いることができ、これらのうち複数を混合して用いてもよい。本例では、炭素粉は天然黒鉛粉である。
【0033】
バインダーとしては、合成樹脂を用いることができ、熱硬化性合成樹脂または熱可塑性合成樹脂のいずれを用いてもよく、またはこれらを混合して用いてもよい。バインダーの好ましい例として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フラン樹脂、ポリアミド樹脂、またはポリイミド樹脂等が挙げられる。本例では、バインダーは、フェノール樹脂とメタノールの溶解液とが混練された組成物である。
【0034】
次に、炭素質材料と金属粉とを混合する。混合物の総量に対する金属粉の割合は、10重量%以上60重量%以下である。金属粉としては、例えば、銅粉が用いられる。また、銅粉として、電解銅粉が用いられることが好ましい。この場合、コストの増大を抑制しつつブラシ1の導電性を確保することができる。電解銅粉の見かけ密度は0.70以上1.20以下であることが好ましく、電解銅粉の粒径は10μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0035】
銅粉として、電解銅粉の代わりに、アトマイズ法またはスタンプ法により作製された銅粉を用いてもよい。また、銅粉の代わりに、銀粉を用いてもよい。銀粉としては、電解銀粉、アトマイズ法もしくはスタンプ法により作製された銀粉等を用いてもよい。あるいは、銅粉の代わりに、銀メッキ銅粉等の他の金属粉を用いてもよい。
【0036】
炭素質材料と金属粉との混合物にタングステン、タングステンカーバイト、モリブデンおよびこれらの硫化物のうち1種類または複数種類を添加剤として加えてもよい。炭素粉およびバインダーの総量に対する添加剤の割合は、例えば、0.1重量%以上10重量%以下であり、1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0037】
続いて、炭素質材料と金属粉との混合物を加圧成形する。成形後の混合物を窒素またはアンモニア還元雰囲気下、あるいは真空下において、400℃以上900℃以下で熱処理することによりブラシ基材を作製する。その後、作製されたブラシ基材にオイルを含浸させる。オイルの含浸は、ブラシ基材をオイルに例えば40分間浸漬させることにより行われる。オイルの温度は、例えば80℃以上120℃以下であり、90℃以上110℃以下であることが好ましく、100℃であることがより好ましい。この場合、炭素質材料へのオイルの含浸率を向上させることができる。これにより、ブラシ1が完成する。
【0038】
オイルは、合成炭化水素油、エステル油、鉱物油または石油系炭化水素油を含む。本実施の形態においては、オイルは、95重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油(潤滑油釜油)と1重量%以上5重量%以下のシリコーン油との混合油である。
【0039】
シリコーン油は、ジメチルシリコーン油(ジメチルポリシロキサン油)、メチルフェニルシリコーン油およびメチルハイドロジェンシリコーンシリコーン油を含む。オイルの含浸率は、ブラシ基材に対して0.5重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0040】
(3)効果
本実施の形態に係るブラシ1においては、炭素粉およびバインダーからなる炭素質材料に金属粉が混合される。炭素質材料に混合される金属粉の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下である。この構成によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、ブラシ1の無線妨害特性が向上する。また、ブラシ1と回転体2との磨耗が低減することにより、ブラシ1の摺動音が抑制される。その結果、直流モータ10の雑音を抑制することが可能となる。
【0041】
ここで、オイルの含浸率がブラシ基材に対して0.5重量%以上である場合、ブラシ1の無線妨害特性をより向上させることができる。また、ブラシ1と回転体2との磨耗をより低減させることができる。
【0042】
(4)オイルの種類と雑音の大きさとの関係
以下の実施例1〜12および比較例1において用いるブラシ基材を以下の手順により作製した。まず、天然黒鉛にバインダーとしてフェノール樹脂を加えるとともに添加剤として二硫化モリブデンを加え、これを常温で混練することにより炭素質材料を作製し、作製された炭素質材料を熱風乾燥器により乾燥した。
【0043】
天然黒鉛の平均粒径は50μmであり、天然黒鉛の灰分の割合は0.5%以下である。天然黒鉛およびフェノール樹脂の総量に対する天然黒鉛の割合は85重量%であり、フェノール樹脂の割合は15重量%である。天然黒鉛およびフェノール樹脂の総量に対する二硫化モリブデンの割合は3重量%である。
【0044】
次に、250メッシュ以下の粒径を有する炭素質材料が30%以上60%以下になるように、炭素質材料を粒状に粉砕した。続いて、粒状の炭素質材料に20重量%の電解銅粉を混合した。電解銅粉の平均粒径は20μmである。
【0045】
その後、炭素質材料と電解銅粉との混合物を加圧成形した。加圧成形時の圧力は2t/cm
2である。次に、混合物を不活性ガス雰囲気下において600℃〜800℃で熱処理(炭化)することによりブラシ基材を作製した。
【0046】
実施例1においては、99.5重量%の石油系炭化水素油(DIN規格51561による動粘度が40℃において68mm
2/sのオイル)と0.5重量%のジメチルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例1のオイルを第1のオイルと呼ぶ。ブラシ基材を温度100℃の第1のオイルに40分間浸漬させることにより、ブラシ基材に第1のオイルを含浸させた。このようにして、実施例1に係るブラシを製造した。
【0047】
実施例2においては、99重量%の石油系炭化水素油と1重量%のメチルフェニルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例2のオイルを第2のオイルと呼ぶ。実施例2に係るブラシの製造方法は、第1のオイルに代えて第2のオイルを用いた点を除いて、実施例1に係るブラシの製造方法と同様である。
【0048】
実施例3においては、90重量%の石油系炭化水素油と10重量%のメチルフェニルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例3のオイルを第3のオイルと呼ぶ。実施例3に係るブラシの製造方法は、第1のオイルに代えて第3のオイルを用いた点を除いて、実施例1に係るブラシの製造方法と同様である。
【0049】
実施例4においては、97重量%の石油系炭化水素油と3重量%のジメチルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例4のオイルを第4のオイルと呼ぶ。実施例4に係るブラシの製造方法は、第1のオイルに代えて第4のオイルを用いた点を除いて、実施例1に係るブラシの製造方法と同様である。
【0050】
実施例5においては、94重量%の石油系炭化水素油と6重量%のジメチルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例5のオイルを第5のオイルと呼ぶ。実施例5に係るブラシの製造方法は、第1のオイルに代えて第5のオイルを用いた点を除いて、実施例1に係るブラシの製造方法と同様である。
【0051】
実施例6においては、90重量%の石油系炭化水素油と10重量%のジメチルシリコーン油とを混合することによりオイルを作製した。以下、実施例6のオイルを第6のオイルと呼ぶ。実施例6に係るブラシの製造方法は、第1のオイルに代えて第6のオイルを用いた点を除いて、実施例1に係るブラシの製造方法と同様である。
【0052】
比較例1においては、ブラシ基材にオイルを含浸させることなくブラシを製造した。
【0053】
第1〜第6のオイルの組成を表1に示す。実施例1〜6および比較例1に係るブラシをそれぞれ含む複数のモータを準備した。これらのモータについて、CISPR14−1規格に基づくEMI(Electro Magnetic Interference)試験をDC(直流)36Vの条件で行うことにより、オイルの種類とブラシから発生する雑音の大きさとの関係を測定した。
【0054】
【表1】
図2は、オイルの種類と発生する雑音の大きさとの関係の測定結果を示すグラフである。
図2の縦軸は雑音の大きさを示し、
図2の横軸は雑音の周波数を示す。
【0055】
図2に示すように、実施例1〜6に係るブラシから発生する雑音は、周波数30MHz〜90MHzのうちの広い帯域に渡って、比較例1に係るブラシから発生する雑音よりも低減した。特に、実施例2に係るブラシから発生する雑音は、実施例1および3〜6に係るブラシから発生する雑音よりも低減し、比較例1に係るブラシから発生する雑音よりも最大で約5dB低減した。
【0056】
実施例1〜6と比較例1との比較結果から、ブラシ基材にオイルを含浸させることにより、広い周波数帯域に渡ってブラシから発生する雑音を低減することができることが確認された。特に、ブラシ基材に第2のオイルを含浸させることにより、ブラシから発生する雑音を大きく低減することができることが確認された。
【0057】
(5)オイルの含浸条件と含浸率との関係
実施例7においては、2.21g/cm
3以上2.26g/cm
3以下の比重を有する複数のブラシ基材を作製した。ブラシ基材の比重は、加圧成形時の圧力を変化させることにより調整した。ブラシ基材を温度80℃の第2のオイルに20分間浸漬させることにより、ブラシ基材に第2のオイルを含浸させた。このようにして、実施例7に係るブラシを製造した。
【0058】
実施例8に係るブラシの製造方法は、ブラシ基材を温度80℃の第2のオイルに40分間浸漬させた点を除いて、実施例7に係るブラシの製造方法と同様である。
【0059】
実施例9に係るブラシの製造方法は、ブラシ基材を温度100℃の第2のオイルに20分間浸漬させた点を除いて、実施例7に係るブラシの製造方法と同様である。
【0060】
実施例10に係るブラシの製造方法は、ブラシ基材を温度100℃の第2のオイルに40分間浸漬させた点を除いて、実施例7に係るブラシの製造方法と同様である。
【0061】
実施例11に係るブラシの製造方法は、ブラシ基材を温度120℃の第2のオイルに20分間浸漬させた点を除いて、実施例7に係るブラシの製造方法と同様である。
【0062】
実施例12に係るブラシの製造方法は、ブラシ基材を温度120℃の第2のオイルに40分間浸漬させた点を除いて、実施例7に係るブラシの製造方法と同様である。
【0063】
実施例7〜12に係るブラシについて、オイルの含浸条件と含浸率との関係を測定した。実施例7〜12におけるオイルの含浸条件を表2に示す。
【0064】
【表2】
図3は、オイルの含浸条件と含浸率との関係の測定結果を示すグラフである。
図3の縦軸はオイルの含浸率を示し、
図3の横軸はオイルを含浸させる前のブラシ基材の比重を示す。
【0065】
図3に示すように、ブラシ基材の比重を小さくするほど実施例7〜12に係るブラシのオイルの含浸率が向上することが確認された。これは、ブラシ基材の比重が小さいほどブラシ基材の気孔(ポア)が小さくなることが抑制され、ブラシ基材にオイルが含浸されやすくなるためであると考えられる。
【0066】
また、実施例7および8の比較、実施例9および10の比較、ならびに実施例11および12の比較から、ブラシ基材をオイルに浸漬させる時間を長くするほどブラシのオイルの含浸率が向上することが確認された。
【0067】
さらに、実施例9に係るブラシのオイルの含浸率は実施例7および11に係るブラシのオイルの含浸率よりも大きく、実施例10に係るブラシのオイルの含浸率は実施例8および12に係るブラシのオイルの含浸率よりも大きくなった。そのため、ブラシ基材を80℃または120℃のオイルに浸漬させるよりも、100℃のオイルに浸漬させた方がブラシのオイルの含浸率が向上することが確認された。
【0068】
これらの結果から、小さい比重を有するブラシ基材を適切な温度を有するオイルに長時間浸漬させることにより、ブラシのオイルの含浸率を向上させることができることが確認された。
【0069】
(6)経過時間とオイルの含浸率との関係
実施例13,14,15においては、互いに異なる質量を有するブラシ基材(東洋炭素株式会社製MF−701)を準備した。実施例13〜15の質量は、それぞれ約1.945g、約1.937gおよび約1.925gである。これらのブラシ基材に第2のオイルを含浸させることにより、実施例13〜15に係るブラシを製造した。
【0070】
比較例2,3,4においては、それぞれ実施例13,14,15のブラシ基材と同一のブラシ基材を準備した。これらのブラシ基材を用いて比較例2〜4に係るブラシを製造した。
【0071】
実施例13〜15および比較例2〜4に係るブラシを温度120℃の雰囲気下に放置し、ブラシの質量の時間変化を測定することにより、経過時間と実施例13〜15に係るブラシのオイルの含浸率との関係を測定した。
図4は、経過時間とブラシの質量との関係の測定結果を示すグラフである。
図4の縦軸はブラシの質量を示し、
図4の横軸は経過時間を示す。
【0072】
図4に示すように、実施例13〜15に係るブラシの質量は、測定開始から400時間(h)が経過してもほとんど変化しなかった。また、比較例2〜4に係るブラシの質量は、測定開始から400時間が経過しても変化しなかった。これらの結果から、実施例13〜15に係るブラシのオイルの含浸率は、測定開始から400時間が経過してもほとんど変化しないことが確認された。
【0073】
このように、第2のオイルは、ブラシ基材において長期間保持される。したがって、第2のオイルを含浸させたブラシを用いることにより、直流モータの雑音を長期に渡ってより抑制することが可能となる。
【0074】
表3は、実施例13〜15に係るブラシを温度120℃の雰囲気下に400時間放置した場合のオイルの含浸率の最大低下率を示す。
【0075】
【表3】
表3に示すように、実施例13に係るブラシのオイルの初期含浸率は1.469%であり、最小含浸率は1.219%であった。したがって、実施例13に係るブラシのオイルの含浸率の最大低下率は、0.250%であった。
【0076】
実施例14に係るブラシのオイルの初期含浸率は1.224%であり、最小含浸率は1.022%であった。したがって、実施例14に係るブラシのオイルの含浸率の最大低下率は、0.202%であった。
【0077】
実施例15に係るブラシのオイルの初期含浸率は1.836%であり、最小含浸率は1.635%であった。したがって、実施例15に係るブラシのオイルの含浸率の最大低下率は、0.201%であった。
【0078】
ブラシの使用時においては、ブラシと回転体との摩擦によりブラシの温度が120℃程度まで上昇する。この場合、オイルの粘度が低下する。このような場合でも、オイルの含浸率の最大低下率が1%以下に低減されることにより、ブラシ基材からのオイルの離脱が防止される。これにより、長期に渡ってブラシの潤滑性を維持することができる。また、ブラシ基材からオイルが離脱することによるブラシの周辺の汚染を防止することができる。
(7)参考形態
(1)第1の参考形態に係る金属炭素質ブラシは、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料と、炭素質材料に混合される金属と、炭素質材料に含浸されるオイルとを含み、炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下であるものである。
この金属炭素質ブラシにおいては、複数の炭素質粒子からなる炭素質材料に金属が混合される。炭素質材料に混合される金属の割合は、炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下である。この構成によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
(2)オイルの含浸率は、混合された炭素質材料および金属に対して0.5重量%以上であってもよい。
この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性をより向上させることができる。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗をより低減させることができる。これにより、モータの雑音をより抑制することが可能となる。
(3)オイルの含浸率の低下率は、温度120℃の雰囲気下において、400時間で1%以下であってもよい。
金属炭素質ブラシと整流子との摩擦により金属炭素質ブラシの温度が上昇すると、オイルの粘度が低下する。このような場合でも、オイルの含浸率の低下率が低減されることにより、炭素質材料からのオイルの離脱が防止される。これにより、長期に渡って金属炭素質ブラシの潤滑性を維持することができる。また、炭素質材料からオイルが離脱することによる金属炭素質ブラシの周辺の汚染を防止することができる。
(4)オイルは、合成炭化水素油、エステル油、鉱物油もしくは石油系炭化水素油またはこれらの混合油を含んでもよい。この場合、炭素質材料にオイルを容易に含浸させることができる。
(5)オイルは、90重量%以上99重量%以下の石油系炭化水素油と1重量%以上10重量%以下のシリコーン油との混合油であってもよい。
この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。また、炭素質材料に含浸されたオイルが長期間保持される。それにより、モータの雑音を長期に渡ってより抑制することが可能となる。
(6)オイルは、90重量%以上99.5重量%以下の石油系炭化水素油と0.5重量%以上10重量%以下のジメチルシリコーン油との混合油であってもよい。
この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性がより向上する。それにより、モータの雑音をより抑制することが可能となる。
(7)金属は電解銅粉を含んでもよい。この場合、コストの増大を抑制しつつ金属炭素質ブラシの導電性を確保することができる。
(8)第2の参考形態に係る金属炭素質ブラシの製造方法は、炭素粉およびバインダーを混合することにより炭素質材料を作製する工程と、作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属を混合する工程と、混合された炭素質材料および金属を成形する工程と、成形後の炭素質材料および金属を熱処理する工程と、熱処理後の炭素質材料にオイルを含浸させる工程とを含むものである。
この金属炭素質ブラシの製造方法によれば、炭素粉およびバインダーが混合されることにより炭素質材料が作製される。作製された炭素質材料に対して10重量%以上60重量%以下の金属が混合される。混合された炭素質材料および金属が成形される。成形後の炭素質材料および金属が熱処理される。熱処理後の炭素質材料にオイルが含浸される。
この方法によれば、炭素質材料にオイルが十分に含浸される。この場合、金属炭素質ブラシの無線妨害特性が向上する。また、金属炭素質ブラシと整流子との磨耗が低減することにより、金属炭素質ブラシの摺動音が抑制される。その結果、モータの雑音を抑制することが可能となる。
(9)炭素質材料および金属を成形する工程は、炭素質材料および金属の比重が2.26g/cm3以下になるように炭素質材料および金属を加圧することを含んでもよい。
この場合、炭素質材料の気孔(ポア)が小さくなることが抑制される。これにより、炭素質材料へのオイルの含浸率が低下することを防止することができる。
(10)オイルを含浸させる工程は、炭素質材料および金属を80℃以上120℃以下のオイルに浸漬させることを含んでもよい。この場合、炭素質材料へのオイルの含浸率を向上させることができる。
(11)オイルを含浸させる工程は、炭素質材料および金属を90℃以上110℃以下のオイルに浸漬させることを含んでもよい。この場合、炭素質材料へのオイルの含浸率をより向上させることができる。