【実施例】
【0015】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
本明細書中、軸筒軸方向とは、軸筒の中心線の延びる方向を意味する。また、「前」とは、軸筒軸方向の一方側であって筆記部の先端方向を意味する。また、「後」とは、軸筒軸方向の前記一方側に対する逆方向側を意味する。また、「軸筒径方向」とは、軸筒軸方向に対し直交する方向を意味する。また、「軸筒径外方向」とは、軸筒径方向に沿って軸筒中心から離れる方向を意味する。「軸筒径内方向」とは、軸筒径方向に沿って軸筒中心へ近づく方向を意味する。
【0016】
このサイドノック式筆記具は、
図1に示すように、軸筒10と、該軸筒10の前端に接続された先口20と、軸筒10内で進退するように設けられたリフィール30と、該リフィール30に固定された係合部材40と、軸筒10の前側でリフィール30を進退操作可能な操作部材50と、リフィール30及び係合部材40を後方へ付勢する付勢部材60と、軸筒10の後端側に開閉可能に設けられたクリップ70と、該クリップ70を閉鎖方向へ弾発する弾発部材80とを備える。
【0017】
軸筒10は、長尺筒状(図示例によえば長尺円筒状)に形成され、その前端側の開口部に先口20を接続するとともに、後端側を閉鎖している。なお、軸筒10の他例としては、前軸と後軸等の複数の筒体を接続してなる態様や、後端部に別体の尾栓を接続した態様、先口20を一体に有する態様等とすることも可能である。
図示例の軸筒10の周壁の前側と後側には、
図5に示すように、操作部材50を径方向へ貫通させるための操作部材用貫通孔11と、クリップ70を径方向へ貫通させるクリップ用貫通孔12とが設けられる。
【0018】
操作部材用貫通孔11は、軸筒10の周壁前側の把持部位を径方向へ貫通する矩形状の孔である(
図5参照)。軸筒10外周面において、操作部材用貫通孔11の前半部側の周囲には、軸筒10の周壁を部分的に凹曲状に凹ませた凹曲面部11aが設けられる。この凹曲面部11aは、後述する操作部材50を押す指を軸筒径内方向へ沈み込ませて、操作部材50に対する操作性を向上する。
【0019】
クリップ用貫通孔12は、軸筒10の周壁後端寄りを径方向へ貫通する略矩形状の孔であり、
図1に示すように、クリップ70のクリップ支持部72、開閉操作部71b及び弾発部材80を軸筒10内へ挿入する。
【0020】
また、軸筒10外周面の後部側には、クリップ本体71の内面に対向する部分の全てを、他の部分よりも軸筒径内方向へ没入させたクリップ没入部13が設けられる(
図1及び
図5参照)。
このクリップ没入部13は、軸筒10の円筒状の外周面輪郭(あるいは、軸筒10外周面の前側の部分)よりも径内方向へ凹んでおり、前後方向へわたって略平坦に形成される。
そして、このクリップ没入部13の軸筒径方向の深さは、図示例によれば、クリップ本体71が、その厚みの半分以上を軸筒内側へ沈み込ませて表面を軸筒10外周面輪郭から若干突出させるように、適宜に設定される(
図1参照)。
このクリップ没入部13は、クリップ本体71を軸筒径内方向へ没入させて、該クリップ本体71が軸筒10の外周輪郭から突出する寸法を小さくしている。
【0021】
また、軸筒10外周面におけるクリップ没入部13の前側には、傾斜面14が設けられる(
図1及び
図5参照)。この傾斜面14は、前方側からクリップ没入部13面へ徐々に傾斜する面であり、クリップ没入部13とクリップ本体71との間に、紙や衣服のポケット等の被挟持物を挟む際に、該被挟持物をスムーズに導く。
【0022】
また、軸筒10内周面における操作部材用貫通孔11後端縁の近傍には、後述する係合部材40を係脱させるための被係合部15が設けられる(
図5参照)。
この被係合部15は、軸筒10内周面を前方へ向かって段付き状に凹ませており、前進した際の係合部材40の係脱突起44a(
図7参照)を係止する。
【0023】
また、軸筒10内周面において、操作部材用貫通孔11と径方向に対向する部分には、ガイド凸部16a及びガイド凹部16bが設けられる(
図5及び
図2〜
図4参照)。
【0024】
ガイド凸部16aは、クリップ幅方向(
図2の左右方向)に間隔を置いて二つ設けられる(
図2及び
図3参照)。各ガイド凸部16aは、前後方向へ連続する略レール状の突起であり、少なくとも操作部材50と接触する前後方向の範囲に設けられる。
二つのガイド凸部16a,16aのクリップ幅方向の両側には、操作部材50の延設支持部52が嵌り合う(
図2(III)参照)。
【0025】
ガイド凹部16bは、前後方向へわたって連続する凹部であり、少なくとも係合部材40と摺接する前後方向の範囲に設けられる。図示例のガイド凹部16bは、操作部材用貫通孔11の前後方向範囲においては、
図2〜
図3に示すように二つのガイド凸部16a,16aの間に位置する。
このガイド凹部16bには、後述する係合部材40が嵌り合い前後方向へ案内される。
【0026】
なお、
図1及び
図5中の符号10a1は、係合部材40の係脱突起44aを初期位置にて係合させる被係合部(図示例によれば貫通孔)である。他例としては、この被係合部10a1を省いて、初期位置にある係脱突起44aを軸筒10の平坦な内周面で受けるようにしてもよい。
また、
図1及び
図5中の符号10a2は、操作部材50における延設支持部52前端側の係合突起52aに係合する被係合孔であり、係合突起52aを前後方向の遊びを有する状態で嵌め合せる。
【0027】
また、先口20は、先窄み円錐筒状に形成され、軸筒10の前端側に螺合接続され、リフィール30の前端側を進退可能に挿通する。この先口20内の段部には、付勢部材60(圧縮コイルバネ)の前端部が受けられる。
【0028】
また、リフィール30は、インクを充填した円筒状のインクタンク31と、該インクタンク31の前端に圧入接続された筆記部32(具体的にはボールペンチップ)とからなるボールペン用リフィールである(
図1参照)。
このリフィール30は、軸筒10内で、係合部材40と一体的に進退するように、該係合部材40内に挿入され着脱可能に接続されている。
【0029】
係合部材40は、筆記部32と一体的に進退可能な部位であり、
図7に示すように、リフィール30の前後方向の途中箇所を保持する保持部41と、該保持部41から後方へ延設された接続部42と、該接続部42の後端に接続されてリフィール30の後端部に着脱可能に圧入固定される圧入部43と、該圧入部43から操作部材50側へ突出した係脱片44と、軸筒10内周面のガイド凹部16bに嵌り合う被ガイド部45とを有し、可撓性を有する合成樹脂材料から一体に成型されている。なお、インクの消耗に伴ってリフィール30を交換する際には、この係合部材40からリフィール30が外される。
【0030】
保持部41は、リフィール30を挿通するとともに、操作部材50が軸筒径内方向へ撓んだ際に該操作部材50の被押圧片部51に摺接される部材である。この保持部41は、図示例によれば、略円筒状に形成され、その後端側の外周部に、操作部材50の内面に摺接されて前方へ押し動かされる被摺接面41aを有する。被摺接面41aは、後方斜め操作部材50側を向く凸曲面状に形成され、操作部材50の複数の摺接突起51c,51c(
図6参照)を受けている。
【0031】
接続部42は、軸筒10内周面における反リフィール30側の部分に沿って後方へ延設された長尺状に形成され、その後端に圧入部43を接続している(
図7参照)。
【0032】
圧入部43は、リフィール30の後端を圧入可能な形状であればよく、図示例によれば、略角筒状に形成され、その内面に形成された突起を、リフィール30外周面に圧接させることで、リフィール30を不動に保持している。この圧入部43の操作部材50寄りの前端には、係脱片44が接続される。
【0033】
係脱片44は、圧入部43から前方へ突出し延設されるとともに接続部42よりも短い長尺片状の部位であり、その長手方向の途中位置に、操作部材50側へ突出する係脱突起44aを有し、該係脱突起44aよりも前側の部分を、操作部材50の被押圧片部51を軸筒内側から受ける受片44bとしている(
図8(b)参照)。係脱突起44aは、軸筒10内の被係合部15内面にならう形状を呈する。
【0034】
被ガイド部45は、接続部42及び圧入部43における反操作部材50側に、軸筒前後方向へわたって設けられた長尺矩形状の突起であり、軸筒10内周面のガイド凹部16bに、前後方向へ摺動可能に嵌り合っている(
図2〜
図4参照)。この被ガイド部45は、係合部材40及び該係合部材40と一体的なリフィール30の進退を案内する。
【0035】
また、操作部材50は、
図6に示すように、前端側を自由端とする片持ち状に前方へ延設された被押圧片部51と、被押圧片部51に対し軸筒径方向の反対側(
図1及び
図6によれば下方側)に間隔を置きながら前方へ延設された延設支持部52と、これら被押圧片部51と延設支持部52とをこれらの後端側で接続する接続部53とを一体に有する側面視略横向きU字状に形成される。
この操作部材50は、被押圧片部51と延設支持部52との間が、前方へ向かって広がるように一体成型され(
図6(b)参照)、前記間を狭めるように弾性変形させて軸筒10内に収納されている(
図1参照)。
【0036】
被押圧片部51は、前後方向へわたる略矩形平板状の表部51aと、該表部の幅方向(
図6(a)によれば上下方向)の両端から軸筒内側へ突出する側部51b,51bとを有する横断面凹状に形成され、両側部51b,51bの間には、係合部材40に摺接させるための摺接突起51c,51cが設けられる。各摺接突起51cは、前方斜め径外方向へ傾く傾斜面を有する突起である。
【0037】
表部51aの前部側には、筆記部32を突出するための突出操作用被押圧部51a1が設けられる。この突出操作用被押圧部51a1は、指等により押圧された際の滑り止めとなるように、断面凹凸状に形成される。
突出操作用被押圧部51a1の幅方向の中央側には、前後方向へ延びるスリット51a2が設けられる(
図6参照)。このスリット51a2は、両側部51b,51bの幅狭方向への弾性変形を容易にすることで、操作部材50が軸筒径外方向側から軸筒10内へ挿入される際の組付け性を向上している。
【0038】
また、表部51aの後端寄りには、突出状態の筆記部32を没入するための没入操作用被押圧部51a3が設けられる。
没入操作用被押圧部51a3は、操作部材50の後端部寄りに、前後方向へ延びる切欠部50a,50a(
図6参照)を軸筒周方向に沿う幅方向へ間隔を置いて二つ設けることで、これら二つの切欠部50a,50aの間に、板状に設けられる。この没入操作用被押圧部51a3は、径外方向側から押圧力を受けた際に軸筒内側へ撓む。
【0039】
側部51bは、表部51aの幅方向両端側からそれぞれ軸筒内側へ突出するとともに軸筒前後方向へ延びる略板状に形成される。
各側部51bにおける外側面には、係止突起51b1が設けられる。
係止突起51b1は、
図2(II)に示すように、軸筒内へ向かって楔状に傾斜する外側面を有し、操作部材50が軸筒径方向に沿って軸筒内へ挿入される際に、操作部材用貫通孔11の内縁を乗越えてその内側に係止される。
【0040】
また、延設支持部52は、被押圧片部51に対し、軸筒径方向に間隔を置くとともに、操作部材50の幅方向へ間隔を置いて二つ設けられる(
図6及び
図2(III)参照)。
各延設支持部52は、後述する接続部53から前方へ突出し延設され、図示例によれば、被押圧片部51の約半分の長さを有し、その前端側に、軸筒10の被係合孔10a2に嵌り合う係合突起52aを有する。
【0041】
また、接続部53は、被押圧片部51の後端側と各延設支持部52の後端側とを接続する部分である。
【0042】
そして、操作部材50は、被押圧片部51を軸筒10の操作部材用貫通孔11(
図5参照)に挿通して外部へ露出させた状態で、接続部53及び延設支持部52が軸筒10内周面に保持される。
詳細に説明すれば、操作部材50は、被押圧片部51の前部側の係止突起51b1を軸筒内周面に当接させ(
図2(II)参照)、接続部53の操作部材用貫通孔11側の端部53aを軸筒10内周面に当接させ(
図3(V)参照)、延設支持部52の前部側の係合突起52aよりも若干後の部分を、軸筒径方向における反対側で軸筒内周面(詳細には、被係合孔10a2の後端内縁)に当接させて保持される。
【0043】
また、付勢部材60は、圧縮コイルバネであり、その前端部を先口20内に当接するとともに、後端部を、係合部材40の保持部41内に挿入し、該保持部41内の段部に当接させて、係合部材40及びリフィール30を後方へ付勢している。
この付勢部材60の他例としては、係合部材40及びリフィール30を後方へ引っ張るバネや、板バネ等の他の付勢部材とすることも可能である。
【0044】
クリップ70は、
図1に示すように、軸筒外周面に沿って前後方向へわたるクリップ本体71と、該クリップ本体71の後端寄りから軸筒内側へ突出するクリップ支持部72とを一体的に具備し、クリップ支持部72を、軸筒10周壁のクリップ用貫通孔12に挿通させて、該周壁の内面よりも内側で回転可能に支持しており、クリップ本体71後部側の開閉操作部71bが押圧操作されることで、クリップ本体71前端側の当接部71a(玉部と称される場合もある)と、軸筒10外周のクリップ没入部13との間を開放する。
【0045】
また、弾発部材80は、図示例によれば、圧縮コイルバネであり、その一端部をクリップ本体71の開閉操作部71bの裏面に当接させるとともに、その他端部を軸筒10内における周壁内面に当接させて、開閉操作部71bと軸筒10との間を拡げる方向へ弾発する。
【0046】
次に、上記構成のサイドノック式筆記具について、製造手順の一例を説明する。
軸筒10に対しクリップ70を装着する際には、クリップ70の開閉操作部71b裏面側に、予め弾発部材80が装着される。そして、クリップ70は、
図1に示すように、軸筒10のクリップ用貫通孔12に対し、径外方向側から挿入され、軸筒10内で支持される。
【0047】
また、軸筒10内にリフィール30及び係合部材40等を装着する際には、リフィール30に対し係合部材40及び付勢部材60が予め嵌め合せられ、これらが、軸筒10の前端開口部から内部へ挿入され、軸筒10前端に先口20が螺合接続される。
軸筒10内にて、係合部材40は、軸筒前後方向へわたる被ガイド部45(
図7(b)参照)を、軸筒10内周面のガイド凹部16bに嵌め合せる(
図2〜
図4参照)。
【0048】
なお、前記手順において、付勢部材60は、リフィール30及び係合部材40を軸筒10内へ挿入した後で、係合部材40に装着するようにしてもよい。
また、軸筒10内にリフィール30及び係合部材40等を装着する作業は、上述したクリップ70の装着作業の前とすることも可能である。
【0049】
そして、軸筒10に操作部材50が装着される。操作部材50は、
図1に示すように、軸筒径外方向側から、延設支持部52が操作部材用貫通孔11内へ挿入される。この際、両側部51b,51bが径内方向へ撓むようにして、両係止突起51b1,51b1が操作部材用貫通孔11内縁を乗越える。そして、操作部材50の両係止突起51b1,51b1は、
図2(II)に示すように、軸筒10内側から操作部材用貫通孔11の内縁に係止され、上述したように延設支持部52及び接続部53が軸筒10内に保持される。
【0050】
次に、完成後のサイドノック式筆記具について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
図8(a)(b)に示すように、操作部材50の被押圧片部51(詳細には突出操作用被押圧部51a1)が、軸筒内側へ押圧されると、その押圧力により被押圧片部51が軸筒内側へ揺動する。この際、被押圧片部51と延設支持部52の間が弾性的に狭まる(
図8(b)参照)。
すると、係合部材40の被摺接面41aが、軸筒内側へ揺動する被押圧片部51の摺接突起51cの傾斜面に摺接されることで、係合部材40及びリフィール30が前進し、リフィール30前端の筆記部32が、先口20前端から突出する。
そして、この突出状態は、係合部材40の係脱片44(詳細には係脱突起44a)が、軸筒10内周面の被係合部15に係止されることで維持される。
なお、この突出状態において、被押圧片部51に対する押圧力が除去された場合には、被押圧片部51は、
図8(b)に二点鎖線で示すように、弾性的な復元力によって元の位置に戻るが、係脱片44により係止状態は維持される。
【0051】
また、筆記部32の突出状態において、操作部材50の没入操作用被押圧部51a3が軸筒内側へ押圧されると、没入操作用被押圧部51a3が、軸筒内側へ撓んで、係脱片44を押動し、該係脱片44の係脱突起44aを、軸筒10側の被係合部15から外す。すると、リフィール30及び係合部材40が、付勢部材60の弾発力により後方へスライドする。この際、被押圧片部51は弾性的な復元力により元の位置に戻っているため、被摺接面41aと被押圧片部51との摩擦がなく、係合部材40の後退がスムーズである。
【0052】
よって、上記構成のサイドノック式筆記具によれば、軸部材やねじりコイルバネ等を用いない簡素な構造でもって、被押圧片部51を揺動可能に支持するとともに、押圧操作後に元の状態に復元することができる。しかも、操作部材50を装着する際の製造性も良好である。
【0053】
なお、上記実施例によれば、係合部材40側の係脱突起44aを軸筒10側の凹状の被係合部15に係脱させる構造(
図8参照)としたが、これらの凹凸関係を逆にすることも可能である。
【0054】
また、上記実施例では、特に好ましい態様として、被押圧片部51と延設支持部52の間が前方へ向かって広がるように操作部材50を成型したが、他例としては、これらの間を略平行にして操作部材50を成型した態様とすることも可能である。
【0055】
また、上記実施例によれば、操作部材50を軸筒内側へ揺動させる操作によってボールペンチップである筆記部32が先口20前端から突出するようにしたが、他例としては、操作部材50を軸筒内側へ揺動させる操作によってシャープペンシル用リフィールの前端部である筆記部が先口20前端から突出するようにした態様等とすることも可能である。