(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐雷適合性を証明する試験を行う際には、単一のあるいは複数の締結箇所を含む供試体に対して、雷を模擬した大電流を印加し、スパーク等の発火が観察されないことを確認する。
耐雷適合性は、ウェットエリアに含まれるすべての締結箇所について要求される。
ここで、各締結箇所に用いられるファスナには、径、絶縁キャップの有無、材料等が相違する複数の種類が存在する。
また、ファスナにより締結されるスキン等の構造部材にも、板厚、材料、合わせ面のシールの有無等が相違する複数の種類が存在する。
したがって、種々のファスナおよび種々の構造部材の組み合わせにより特定される締結部の種類は、例えば1000パターン以上もの多数に上る。
【0006】
これら1000パターン以上の締結部のすべてについて耐雷適合性を証明する試験を実施するのは、試験に伴う作業負荷があまりに高く、また多大なコスト、時間を要するので、現実的でない。
上記の課題に基づいて、本発明は、多数のパターンが存在する航空機の締結部の耐雷適合性を効率よく証明することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の航空機の耐雷適合性の試験対象の決定方法は、航空機の部材が締結部材を用いて締結された箇所の構造である締結部の耐雷適合性を証明する試験の対象を決定する方法であって、演算を行う演算処理部および演算に用いる情報を記憶する記憶部を有するコンピュータを使用し、コンピュータプログラムに基づいて演算
処理部を動作させることにより、締結部が備える複数のプロパティの組み合わせにより特定される構造パターンの母集団を生成する母集団生成ステップと、締結部の先端に位置する先端部位、および締結部の基端に位置する基端部位を含む締結部の各部位のうち、航空機の燃料または燃料蒸気が存在するウェットエリアに配置される部位を母集団の各構造パターンから抽出する部位抽出ステップと、各構造パターンに対し、所定のプロパティが共通するグループを部位毎に設定するグループ設定ステップと、同じグループに属する構造パターンから、当該グループを代表する代表パターンを選定する代表パターン選定ステップと、を実行し、各ステップを経て絞り込まれた構造パターンを試験対象として決定することを特徴とする。
【0008】
締結部の「プロパティ」は、例えば、締結部材の径、材料、絶縁キャップの有無、キャップタイプ、ボンディングの有無、締結部材により締結される部材の板厚、部材間のシールの有無等、締結部が備える各種の属性、特性、諸元を意味する。
締結部の各部位には、締結部の先端および基端の間に位置する中間部位を含めることができる。
また、締結部の各部位には、締結部の厚み方向における1以上の界面を含めることができる。
本発明における母集団生成ステップおよび部位抽出ステップにより、各構造パターンが先端部位および基端部位を含む締結部材の部位毎に分けられる。
ここで、各構造パターンは、全体で見ると、締結部材により締結される被締結部材の数、ウェットエリアに配置される部位等が相違するが、部位毎に見ると、全体で見たときの相違が必ずしも表れず、プロパティが共通するものが見つかる。
そこで、本発明では、プロパティに基づくグループを各構造パターンに対して部位毎に設定し(グループ設定ステップ)、同じグループに属する構造パターンから、詳しくは後述するように、他の構造パターンの試験を兼ねることが可能なパターンを代表パターンとして選定することができる。
以上によれば、多数の構造パターンを含む母集団から、耐雷適合性の証明試験の試験対象とする構造パターンを効率よく絞り込むことができる。
そして、試験対象として決定された一部の構造パターンに対してのみ試験を実施し、その試験により耐雷適合性が証明されることにより、すべての構造パターンの耐雷適合性を効率よく証明することができる。
【0009】
本発明の航空機の耐雷適合性の試験対象の決定方法において、代表パターンにより代表されたグループに属する構造パターンに設定された電流のうち最大の電流を記憶部に記憶させ、当該代表パターンには、試験の際に印加する電流として最大の電流を適用することが好ましい。
耐雷適合性の証明試験を行う際に、グループ内の電流の最大値を適用すれば、そのグループに関する試験を一度で終えることができる。
ここで、構造パターンに設定される電流が、部位毎に設定されていれば、部位毎にグループ内で最大の電流を記憶部に記憶させ、試験の際には、部位毎の最大の電流を印加することが好ましい。
【0010】
本発明の航空機の耐雷適合性の試験対象の決定方法は、コンピュータプログラムに基づいて前記演算
処理部を動作させることにより、上記グループとは異なる所定のプロパティの組み合わせにより定められる複数の再グループを設定するグループ再設定ステップと、同じ再グループに属する構造パターンから、当該再グループを代表するパターンを選定する代表パターン再選定ステップと、を実行することが好ましい。
プロパティの組み合わせを変えて再度グループ分けし、同じ再グループに属する構造パターンから選定したパターンにより当該再グループを代表させることで、構造パターンをより少数に絞り込むことができる。
グループの再設定および代表パターンの再選定に続いて、再々度、グループ設定および代表パターン選定を行うこともできる。
【0011】
本発明の航空機の耐雷適合性証明方法は、上述した航空機の耐雷適合性の試験対象の決定方法を含み、各ステップを経て決定された試験対象に対して耐雷適合性試験を実施することにより、母集団に含まれるすべての構造パターンの耐雷適合性を証明することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多数のパターンが存在する航空機の締結部の耐雷適合性を効率よく証明することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、航空機の主翼10は、前縁および後縁にそれぞれ位置するスパー11,12と、スパー11,12に対してボックス状に組み付けられるスキン13,14と、スキン13,14のそれぞれの裏側に、主翼10の長さ方向に設けられる複数のストリンガ15と、主翼10の内部で前後方向に延在し、表裏のスキン13,14を連結する複数のリブ16とを備える。
主翼10を構成する上記の構造部材11〜16には、アルミニウム等の金属、ガラス繊維を含む繊維強化樹脂(GFRP;Glass Fiber Reinforced Plastics)、炭素繊維を含む繊維強化樹脂(CFRP;Carbon Fiber Reinforced Plastics)等から適宜選択された材料が用いられる。
【0015】
主翼10は燃料タンクを兼ねており、スパー11,12とスキン13,14により囲まれた主翼10の内部に燃料が貯留される。主翼10の内部は、燃料または燃料蒸気に接触する可能性があるウェットエリア10Wである。これに対して、主翼10の外部は、燃料または燃料蒸気に接触する可能性がないドライエリア10Dである。
主翼10を構成する上記の構造部材11〜16、およびこれらの構造部材11〜16に付加される部材は、ファスナ等の締結部材で相互に締結される。締結部材を用いて締結される箇所の数は、数万箇所に及ぶ。
【0016】
以下、
図2を参照し、締結箇所における構造(締結部10F)の一例を示す。
例えば、スキン13とストリンガ15は、
図2(a)に示すように、スキン13およびストリンガ15のフランジをスキン13の表側から貫通するファスナ31を用いて締結される。ファスナ31は、ストリンガ15の長手方向に間隔をおいて多数設けられる。
スキン13は、複数の板材を平面方向に連結して構成される。連結部分では、板材の端部同士が重ねられる。したがって、
図2(b)に示すように、板材13A、板材13B、およびストリンガ15の三者が、それらを貫通するファスナ31により締結される。
さらに、
図2(c)に示すように、重ね合わせられた4つの部材17〜20がファスナ31により締結される場合もある。
図2(a)〜(c)に示す例では、ファスナ31の先端32側と、先端32側で合わせ面を形成する板材だけがウェットエリア10Wに配置される。先端32側で合わせ面を形成する部材は、
図2(b)における部材13B,15、
図2(c)における部材19,20である。
一方、
図2(d)に示す例では、頭部33側も含めてファスナ31の全体と、ファスナ31が貫通する部材21,22のいずれもウェットエリア10Wに配置される。
図2(d)は、例えば、リブ16の側面に設けられる部材21と部材22とがファスナ31により締結されるケースに該当する。
本実施形態では、ウェットエリア10Wに配置されるすべての締結部10Fについて、耐雷適合性を証明する。
【0017】
航空機の部材11〜22を締結するために、ファスナ31を始めとする種々の締結部材30が用いられる。
上述のファスナ31は、ねじが形成されていないファスニングピンである。ファスナ31は、カラー34と共に部材を締結する。ファスナ31とカラー34との間には、必要に応じてワッシャ(図示しない)が設けられる。
また、ファスナ31の先端32側を覆うようにキャップ35が設けられる。キャップ35は、絶縁性の樹脂材料から形成されており、ファスナ31の先端32側に装着される。ファスナ31の周囲でアーク、スパーク、および溶融飛散物(以下、スパーク等と称する)が発生したとしても、スパーク等がウェットエリア10Wに飛び出ないように、スパーク等を封じ込めるキャップ35が設けられる。キャップ35の内側には、必要に応じてシーラント材等の絶縁物36が充填される。
また、
図3(a)に示すように、ファスナ31の頭部33に、絶縁性の樹脂材料から形成されたキャップ37が装着される場合もある。キャップ37は、ファスナ31の頭部33を絶縁することで、主翼10への被雷時にファスナ31に大電流が流れ、ファスナ31の周囲でスパーク等が発生するのを抑制する。
【0018】
締結部材30には、
図3(b)に示すように、雄ねじが形成されたファスニングボルト38も含まれる。ファスニングボルト38は、対応する雌ねじが形成されたナット39と共に部材を締結する。
また、締結部材30には、
図3(c)に示すリベット40も含まれる。
【0019】
主翼10に落雷すると、雷電流は主翼10の表面に沿って流れ、締結部材30にも流れる。特に、スキン13,14が繊維強化樹脂から構成されていると、スキン13,14と、通常は金属製である締結部材30との導電率の違いから、締結部材30に電流が集中し易い。
締結部材30を通じてウェットエリア10Wでスパーク等が発生すると、発火するおそれがある。
雷電流は、主翼10の表面を構成するスキン13,14およびスパー11,12から、締結部材30を通じてストリンガ15やリブ16等にも拡散する。したがって、
図2(d)に示すように全体が主翼10の内部に位置するファスナ31にも、主翼10の表面側に位置するファスナ31(
図2(a)〜(c))と比べれば小さいながら、雷電流が流れる可能性がある。
各締結部10Fには、想定される雷電流に対して所定の余裕を持たせた規定電流が設定される。
【0020】
締結部10Fは、ファスナ31(ファスニングピン)、ファスニングボルト38、リベット40等から選択される締結部材30と、必要に応じて締結部材30に付属するカラー34、ナット39、およびキャップ35,37等の付属部材41と、締結部材30を用いて締結されるスキン13、ストリンガ15等の被締結部材50とを備える。
締結部10Fは、締結部材30、付属部材41、および被締結部材50に関し、種々のプロパティを備える。
後述するように、本実施形態では、締結部10Fが備えるプロパティを参照しながら、耐雷適合性試験に供する試験対象を絞り込む。
【0021】
「プロパティ」は、後述するように、例えば、締結部材30の種別(ボルト、ピン、リベット等)、締結部材30の径、材料、キャップの有無、キャップタイプ、ボンディングの有無、被締結部材50の板厚、被締結部材の合わせ面のシールの有無、付属部材41の材料等を意味しており、締結部10Fに求められる剛性や締結強度、導電性・絶縁性、製造性やコスト等の種々の観点から定められる。
【0022】
締結部10Fは、締結部材30に関し、例えば次のようなプロパティを備える。
種別(ファスニングピン、ファスニングボルト、リベット)
材料(アルミニウム、チタン等)
材の種類(アルミニウムの中でも、例えばAMS−7050、AMS−7475等)
径
表面粗さ
フェイボンディング(電気導通)の有無、ファスナボンディングの有無
カラー・ナットのタイプ
キャップの有無、キャップのタイプ
ここで、ボンディングの有無、およびキャップの有無、キャップのタイプは、防爆に直結する防爆対策プロパティである。
締結部10Fは、上述の規定電流をプロパティとして備えていてもよい。
上記において、AMSは、Aerospace Material Specificationを意味する。
また、フェイボンディングは、面材の表面同士で電気導通することを意味し、ファスナボンディングは、ファスナの軸外周と孔の内周とで電気導通することを意味する。
なお、上記のプロパティは一例であり、その他に、孔とファスナとの嵌め合いのきつさもプロパティとして定めることができる。
【0023】
また、締結部10Fは、被締結部材50に関し、例えば次のようなプロパティを備える。
材料(アルミニウム、GFRP、CFRP等)
板厚
シールの有無、シールの種類
ボンディングの有無
シムの有無
ここで、シールの有無およびボンディングの有無は、防爆に直結する防爆対策プロパティである。
【0024】
被締結部材50に関する上記プロパティは、スパー11,12、スキン13,14、ストリンガ15、リブ16、およびその他の部材17〜22等のいずれの被締結部材50にも共通で適用される。
但し、スキン、ストリンガ等の被締結部材50の種類毎に、固有のプロパティを定めることもできる。
【0025】
締結部10Fは、上述したように、締結部材30と、付属部材41と、被締結部材50とを備えるとともに、これら締結部材30、付属部材41、および被締結部材50に関して上記に例示したようなプロパティの集合を備える。
締結部10Fの各プロパティの組み合わせにより特定される締結部10Fのパターン(以下、構造パターン)は、何千種類にも及ぶ。
これらすべての構造パターンについて耐雷適合性試験を実施するのは、試験の作業負荷、コストおよび時間の点で困難である。
【0026】
ここで、構造パターンの総数は、締結部10Fのパターン分けに用いるプロパティの数に依存する。
締結部10Fのパターン分けに用いるプロパティは、下記の指針(a)〜(c)により定められる。
(a)シールの有無、キャップの有無、キャップのタイプ、ボンディングの有無といった各防爆対策プロパティは、当然、耐雷適合性に影響する筈である。したがって、耐雷適合性を具備していることを確認するために、キャップが有る構造パターン、ボンディングされた構造パターン等をそれぞれ、構造パターンの数の制約がなければ試験対象とすることが好ましい。
そのため、防爆対策プロパティを用いて締結部10Fをパターン分けすることで、試験対象候補である構造パターンの母集団に、防爆対策プロパティ毎に区別された構造パターンを含める。
そして、他のプロパティにより構造パターンを選別して試験対象を絞り込み、さらに絞り込みが必要である場合に、例えば、シールの有無プロパティに関して、耐雷適合性においてより不利な「シール無」の構造パターンを選定するといった処理を行う。
仮に、防爆対策プロパティを用いて締結部10Fをパターン分けしないと、各構造パターンにおいて防爆対策プロパティが埋没してしまい、その後、防爆対策プロパティの区別がつけられなくなる。その意味でも、防爆対策プロパティを用いて締結部10Fをパターン分けする。
【0027】
(b)締結部材30の材料がアルミニウムであるのかチタンであるのか、あるいは表面粗さといったプロパティは、耐雷適合性に影響することを理論的に示すことが難しい(耐雷適合性に影響しないことが自明でない)。とすれば、これらのプロパティに係る耐雷適合性の存否を試験によって実際的に確認するため、これらのプロパティを用いて締結部10Fをパターン分けしておく。そして、他のプロパティにより構造パターンを選別して絞り込む。
【0028】
(c)締結部材30の径、被締結部材50の板厚等、耐雷適合性に影響することが明確な(自明な)プロパティについては、より不利なプロパティを示す構造パターンの試験は、より有利なプロパティを示す構造パターンの試験を兼ねる。
したがって、“径”および“板厚”については、必ずしも、それらのプロパティを用いて締結部10Fのパターン分けをする必要はなく、(a)および(b)で例示したプロパティの組み合わせに基づいて構造パターンの母集団を形成しておき、(c)のプロパティに基づいて構造パターンを絞り込むことができる。
【0029】
さて、本実施形態では、試験対象とする構造パターンを効率よく絞り込むために、構造パターンを複数の部位に分ける。
図4および
図5に示すように、締結部10Fの先端32側に位置する先端部位Aと、頭部33側(基端側)に位置する基端部位Cと、先端32および頭部33の間で被締結部材50が重ね合わせられる部位である中間部位Bとに各構造パターンを分ける。
図4および
図5に示すテーブルは、縦方向に並ぶ行要素として、構造パターン1、構造パターン2、および構造パターン3を含むすべての構造パターン(母集団)を有し、横方向に並ぶ列要素として部位A〜Cを有する。
【0030】
すべての構造パターンに対して上記の部位分けを行い、ウェットエリア10Wに配置される部位のみを抽出すると、例えば、構造パターン1の部位としては、先端部位Aだけが抽出される。構造パターン1の中間部位Bおよび基端部位Cは、ウェットエリア10Wには配置されていないので抽出されない。
また、構造パターン2の部位としては、先端部位Aおよび中間部位Bが抽出される。構造パターン2の基端部位Cは、ウェットエリア10Wには配置されていないので抽出されない。
そして、構造パターン3の部位としては、先端部位A、中間部位B、および基端部位Cのすべてが抽出される。
図2(d)のような構造パターンについては、構造パターン2と同様に、ウェットエリア10Wに配置される先端部位Aおよび中間部位Bを抽出することができる。
【0031】
本実施形態では、締結部10Fにおける厚み方向に沿った界面を単位として構造パターンを各部位に分けている。
図4および
図5に示すように、先端部位Aは、カラー34とファスナ31との間のスパーク源(Sp1)となる界面を含む。また、中間部位Bは、被締結部材50と被締結部材50との間のスパーク源(Sp2)となる界面を含む。そして、基端部位Cは、被締結部材50とファスナ31の頭部33との間のスパーク源(Sp3)となる界面を含む。これらの界面の各々を流れる電流を把握可能である。本実施形態では、上述した規定電流が部位毎に設定される。
但し、締結部の部位に、複数の界面を含めることもできる。
あるいは、界面を単位とするのではなく、例えば、カラー34、被締結部材50、被締結部材50、およびファスナ31の頭部33の各々に細分化して部位分けすることもできる。
【0032】
各構造パターンは、締結部10Fの全体で見ると、被締結部材50の数、ウェットエリア10Wに配置される部位等が相違する(
図4および
図5の左欄参照)。
しかし、部位A〜C毎に見ると、全体で見たときの相違が必ずしも表れず、所定のプロパティが共通するものが見つかる。
例えば、構造パターン1〜3の先端部位A(アイテムA1)はいずれも、締結部材30の種別(ファスニングピン)、キャップ35の有無(有り)、キャップのタイプ(同タイプ)、シール51の有無(有り)といったプロパティが共通するグループG1を形成する。
【0033】
上記の構造パターン1〜3は、グループG1を形成するものとして母集団から抽出されたものである。グループG1は、構造パターン1〜3以外の構造パターンには設定されていないものとする。
後述するように、グループG1に属する構造パターン1〜3を先端部位Aで比較したときに、耐雷適合性において最も不利なプロパティのワーストアイテムを有するものに構造パターン3が該当する。
【0034】
以上のように、ある構造パターン(構造パターン3)が、グループ内で耐雷適合性において最も不利なものに該当すれば、その構造パターンに対して行う耐雷適合性の試験により、他の構造パターン(構造パターン1,2)に対して行う耐雷適合性試験を代替できる。つまり、構造パターン3に対して試験を実施することで、構造パターン1,2の耐雷適合性の存否を確認できるので、構造パターン3に対する試験は、構造パターン1,2の試験をも兼ねる。したがって、グループG1を構造パターン3で代表し、構造パターン1,2を試験対象から除外することができる。
グループ内の構造パターンがいずれも耐雷適合性において同等である場合は、いずれの構造パターンを試験対象としても構わないので、任意の一つの構造パターンでそのグループを代表させることができる。
【0035】
上記のように構造パターン1〜3を代表させた構造パターン3を試験対象として、耐雷適合性試験を実施することができる。
その際、先端部位A、中間部位B、および基端部位Cからスパーク等の発火が観察されないことを確認することにより、構造パターン1〜3のすべての耐雷適合性を証明することができる。
【0036】
構造パターン1〜3以外の各構造パターンについても、上述したように、部位A,B,C毎に所定のプロパティが共通するグループを見出し、同じグループ内の他の構造パターンを包含する構造パターンにグループを代表させることができる。
以上により、試験対象とする構造パターンを絞り込む。
【0037】
次に、
図6を参照し、耐雷適合性の試験対象を決定する手順の一例について説明する。
以下に示す各ステップは、演算を行う演算処理部および演算に用いる情報を記憶する記憶部を有するコンピュータを使用し、コンピュータプログラムに基づいて演算
処理部を動作させることにより行う。
まず、各防爆対策プロパティ、および耐雷適合性に影響がないことが自明でない各プロパティの総当たりの組み合わせから、ウェットエリア10Wに少なくとも一部が配置される構造パターンの母集団を形成する(構造パターン母集団生成ステップS1)。
次に、構造パターンの各々について、ウェットエリア10Wに配置される先端部位A、中間部位B、および基端部位Cを抽出する(部位抽出ステップS2)。
以上で、
図4および
図5に示すテーブルデータが作成される。
【0038】
以下では、テーブルデータに含まれる各アイテム同士を比較し、試験対象とする構造パターンを絞り込んでいく。
まず、各構造パターンに対し、所定のプロパティが共通するグループを部位毎に設定する(グループ設定ステップS3)。
ここでは、締結部材30の種別、キャップの有無およびタイプ、シールの有無の各プロパティが共通するグループを設定する。
例えば、先端部位Aにおいて、締結部材30がファスニングピンで、キャップ35が有って、キャップ35のタイプが同じであり、かつシール51が有るアイテムに、第1グループが設定される。また、先端部位Aにおいて、第1グループとはキャップのタイプのみが相違しており、締結部材30がファスニングピンで、キャップ35のタイプが別のタイプで、かつシール51が有るアイテムに、第2グループが設定される。
部位A〜C毎に、多数のグループが設定される。
その一例を挙げると、構造パターン1〜5(
図4および
図5)において、先端部位AにはグループG1およびグループG2が設定され、中間部位BにはグループG3およびグループG4が設定され、基端部位CにはグループG5が設定される。
ここで、グループは、当然ではあるが、存在しない部位(
図4および
図5で「なし」と表示)には設定されない。
なお、同じ構造パターンの同じ部位に同時に2以上のグループが設定されることも許容される。その場合も、以下で述べるのと同様にして代表パターンを選定すればよい。
【0039】
次に、同じグループに属する構造パターンから、当該グループを代表する代表パターンを選定する(代表パターン選定ステップS4)。
グループを代表させる(構造パターンをまとめる)基準は、上述したように、耐雷適合性において最も不利なものに該当するか否かであり、耐雷適合性において最も不利なものに該当する構造パターンがグループの代表候補となる。そして、各グループにおける代表候補の選定結果を合わせ、代表パターンを選定する。
【0040】
構造パターン1〜5を例にとると、代表パターンは、次のように、各グループについて順次、耐雷適合性において最も不利(ワースト)であるか否かの判定を行うことにより、選定される(
図7)。各グループについての処理を展開して
図8に示す。
まず、先端部位Aに設定されたグループG1を選択する(グループ選択ステップS41)。
【0041】
次に、グループ内のワーストアイテムを選定することで、代表候補を選定する処理に移行する。
下記のステップS42〜S45は、グループ毎に、径、板厚、およびシールに関する各プロパティを参照して行う。
ここでは構造パターン1〜3に対してグループG1が選択されているので、グループG1内で、ファスナ31の径が最小であり、耐雷適合性においてワーストなアイテムを選定する(径ワーストアイテム選定ステップS42)。
続いて、グループG1内で、被締結部材50の板厚が最小であり、耐雷適合性においてワーストなアイテムを選定する(板厚ワーストアイテム選定ステップS43)。
さらに、グループG1内で、シール条件がワーストのアイテムを選定する(シール条件ワーストアイテム選定ステップS44)。
構造パターン1〜3のうち、ファスナ31の径が最小なのは構造パターン3であるため、径がワーストであるアイテムとして構造パターン3のアイテムA1が選定される。
一方、構造パターン1〜3はいずれも、被締結部材50の板厚が同等であり、また、同様のシール51を備えるためにシール条件も同等である。そのため、これら板厚およびシール条件に関してはワーストアイテムを選定しない。これら板厚およびシール条件に関しては、他の要素(ここではファスナ31の径)のワーストアイテム選定結果に従うものとし、そのことを示すフラグ等(
図8で「any」と表示)を記憶する。
なお、径、板厚、シールのワーストアイテムを選定する上記ステップS42〜S44の順序は任意である。
以上の処理により、グループG1の代表パターン候補としては、構造パターン3が選定される(代表パターン候補選定ステップS45)。
この代表パターン候補選定ステップS45では、代表パターン候補と同じグループ内で最大となる電流を記憶部に保持することが好ましい。グループG1の例では、構造パターン1の先端部位Aに規定電流として設定されている20kAを記憶部に保持する。
【0042】
さらに、他のグループG2,G3,G4,G5を順次選択し、最後のグループの処理を終えるまで(ステップS46でYes)、上述のステップS42〜S45を繰り返す。
【0043】
そうすると、
図8に示すように、グループG1〜G5の各々の代表パターン候補選定結果として、それぞれ、構造パターン3、構造パターン5、構造パターン2、構造パターン3、構造パターン3が選定される。
これらの代表パターン候補を合わせると、構造パターン1〜5に関しては、構造パターン2、構造パターン3、および構造パターン5が代表パターンとして選定される(代表パターン選定ステップS47)。
【0044】
以上のような処理によれば、各構造パターンにおいて、ウェットエリア10Wに存在する部位に対してグループが設定され、グループ内でワーストアイテムが選定される。このような処理により、あるパターンの耐雷適合性試験を代替可能な他の構造パターンが存在する場合に、あるパターンを試験対象から除外し、他の構造パターンで代表させるので、試験対象を絞り込むことが可能となる。
図4および
図5の表、および
図8の代表パターン候補選定結果にも示されるように、締結部10F全体としては構成の差異があっても、他の構造パターンの部位と所定のプロパティが一致することに基づいて同じグループに括れる。
そうすると、構造パターン1の先端部位Aを同じグループG1の構造パターン3の先端部位Aに充当すると、構造パターン1は他の部位を備えていないので試験対象から除外できる。
また、構造パターン4については、先端部位Aを同じグループG2の構造パターン5の先端部位Aに充当するとともに、中間部位Bを同じグループG4の構造パターン3の中間部位Bに充当すると、構造パターン4はその他の部位を備えていないので試験対象から除外できる。
以上のように、ある構造パターンの各部位を他の構造パターンに振り分けることにより、試験対象を効率よく絞り込むことができる。
【0045】
各構造パターンに対して設定されたグループのすべてについて、上記同様、グループ毎にワーストアイテムを選定することによって代表候補を選定し、代表候補選定結果に基いて代表パターンを選定する。
【0046】
ここで、グループ内のアイテム同士を比較したときに、径がワーストであるアイテム、板厚がワーストであるアイテム、およびシール条件がワーストであるアイテムの三者が一致しない場合がある。その場合は、当該グループに係る構造パターンについては代表パターン選定処理を終了することができる。あるいは、三者に対して重み付けを行って、最も重要なプロパティがワーストであるアイテムを選定し、代表パターン選定処理を続行することができる。
また、グループ内の各アイテムの径、板厚、およびシール条件がいずれも同等であってワーストアイテムが存在しない場合がある。その場合には、グループ内のアイテムの一つを任意に選定することができる。
【0047】
上記の代表パターン選定ステップS4により、代表パターンが選定されたならば、構造パターンの母集団に含まれる構造パターンの数に比べて構造パターンの数が絞り込まれている。
【0048】
本実施形態では、さらに絞り込むために、防爆対策プロパティを問わずに現存の構造パターンに対して再度グループを設定し(グループ再設定ステップS5)、再グループに属する構造パターンから代表パターンを選定する(代表パターン再選定ステップS6)。
ステップS5では、例えば、上述のグループ設定ステップS3で参照したプロパティからシールのプロパティを除いて、グループを再設定する。
ここで、キャップの有無、キャップのタイプ、シールの有無、ボンディングの有無等、複数存在する防爆対策プロパティの一切を、グループ再設定に用いるプロパティから除く必要はなく、一部の防爆対策プロパティ(例えばシールのプロパティ)を除いて再設定すれば足りる。
【0049】
そして、再設定されたグループ(再グループ)内で、上記の代表パターン選定ステップS4と同様の処理を行う。それにより、例えば、
図4および
図5に示すように、構造パターン2のアイテムB2および構造パターン3のアイテムB2に対してグループG6が設定されたとする。なお、構造パターン4は試験対象から除外されているため、グループG6の対象からは外れる。
上記の場合、
図9に示すように、径のワーストアイテムとして構造パターン3が選定され、板厚のワーストアイテムは選定されず、また、シール条件のワーストアイテムとして、フィレットシール52を備えていない構造パターン3が選定される。
そうすると、構造パターン1〜5に関しては、上述の代表パターン選定ステップS4により試験対象として選定された構造パターン2,3,5のうち、構造パターン3,5のみが試験対象として残される。
【0050】
以上の各ステップS1〜S7を経ると、構造パターンは例えば数十程度に絞り込まれる。それらの構造パターンを試験対象として決定する(ステップS7)。
【0051】
さて、試験対象が決定されたら、試験対象の構造パターンを含む供試体を製作し、耐雷適合性試験を実施する。それぞれに単数または複数の構造パターンを含む複数個の供試体が製作される。
試験の際には、試験対象である各代表パターンについて部位毎に記憶部に保持しておいた電流のデータを参照し、各代表パターンに対して部位毎に最大の規定電流を適用する。例えば、構造パターン3に関しては、代表したグループの最大規定電流である20kAを試験時に印加する。
供試体を被雷させ、放電に伴うスパーク等の発火が観察されなければ、その供試体に含まれる構造パターンの耐雷適合性が証明される。試験対象とする少数の構造パターンに対する試験により耐雷適合性を証明することで、構造パターンのすべてについて耐雷適合性を証明することができる。
【0052】
耐雷適合性試験において、スパーク等の発火が観察される場合がありうる。それは、試験対象とした代表パターンに対して、その代表パターンにより代表された他の構造パターンに設定したより厳しい規定電流が印加されたり、あるいは印加電流に対して必要な防爆対策プロパティを備えない構造パターンが代表パターンとして選定されたといった場合に生じうる。
また、事前に、試験対象とした代表パターンのプロパティおよび印加電流の関係から、試験を行えばスパーク等が飛ぶ可能性が大であると判断できる場合がある。
その場合には、例えば、次のような処理を行うことができる。
まず、試験に適用するものとして選定していた最大の規定電流の次に大きい規定電流を選定し直し、再度、試験を実施する(電流再設定ステップ)。
それでも発火が観察され、耐雷適合性が証明されないならば、防爆対策プロパティを問わずにグループを設定して選定された構造パターン(ステップS5,S6)を代表から解除し、その構造パターンが代表していた構造パターンを試験対象として復活させる(代表解除・復活ステップ)。
上記の電流再設定ステップおよび代表解除・復活ステップを行うことにより、試験を成功させることができれば(発火が観察されない)、ステップS4において選定した代表を解除するまでには及ばない。
【0053】
本実施形態によれば、上述したように、プロパティの組み合わせに基づいて構造パターンの母集団を形成するとともに、各構造パターンから部位抽出を行うことでアイテム毎のプロパティの比較を可能とする。そして、部位毎に設定したグループ内において、他の構造パターンを包含する構造パターンでグループを代表させることにより、試験対象を効率よく絞り込み、航空機の耐雷適合性を証明することができる。
【0054】
上述した試験対象の決定手順では、グループ設定および代表パターンの選定を繰り返すことにより、構造パターンを段階的に絞り込むが、試験対象とする構造パターンを所望の数にまで減らせた時点で、絞り込みを終えてもよい。
また、締結部10Fのパターン分けに用いるプロパティ、グループ分けに用いるプロパティ、ワーストアイテムの選定に用いるプロパティによって、絞り込み結果が変わる。試験対象決定手順の各ステップでどのプロパティを用いるかは、事前に試験演算すること等によって定めることができる。
【0055】
上記実施形態では、構造パターンの母集団は1つであり、すべての構造パターンについて先ずはグループを設定していたが、グループを設定する前に、構造パターンの母集団を分けておくこともできる。例えば、締結部10Fが設けられる部材に応じて、スキン同士を締結する締結部10Fの構造パターン、スキンとリブを締結する締結部10Fの構造パターン、スキンとストリンガを締結する締結部10Fのパターン、スパーとスキンを締結する締結部10Fの構造パターン、といったように複数の母集団を形成しておく。そうすると、締結対象が同様である構造パターンのプロパティは共通点が多いので、他の構造パターンに代替可能であるために試験対象から除外できる可能性が高くなる。つまり、絞り込みのヒット率を高くできるので、より効率よく絞り込むことが可能となる。
【0056】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。