(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
モバイル情報機器に装備される表示装置には、バッテリー寿命を延ばすために低消費電力性能が要求される。中でも電子ブックリーダーのようにモノクロ静止画表示が許容される機器では、電子ペーパー、及び高分子分散型液晶表示装置等の完全反射型表示装置が使われる。表示装置の消費電力の中で、常時点灯バックライトの消費電力が最も大きな割合を占めているからである。
【0003】
完全反射型表示装置のうち、散乱状態を白表示、透過状態を黒表示とするPNLC(ポリマーネットワーク型液晶)、又はPDLC(ポリマー分散型液晶)等は、入射光を有効利用するための反射板を設けている。補助光源なしで充分な明るさの白表示を実現するためには、反射板での反射光と散乱状態の液晶との相乗効果が必要なためである。反射板は装置内(液晶セルの内部)、及び装置外(液晶セルの外部)のいずれにも設置できるが、装置外に設置すると二重像が発生してしまうため、装置内設置が一般的である。
【0004】
液晶セル内反射板(以後、単に反射板と表記)は、反射型又は半透過型液晶表示装置用に開発されている。通常、反射板は、金属膜(アルミニウム(Al)系、又は銀(Ag)系など、反射率が高い材料が好ましい)で形成される。反射板は、使用者(観察者)から見て、液晶層を越えた奥側の基板のセル内面に設置される。カラーフィルターやスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor)構造との位置関係が種々考えられるが、以下の説明では簡単のため、基板(例えばガラス基板)10上に反射板11を形成したと仮定して扱い、図示等もこの部分のみとする。
【0005】
反射板には、材料による反射性能に加えて以下に示す(1)〜(3)の特性が求められる。
(1)平坦部分が少ないこと
反射板11の表面形状が平坦であると、液晶層が透過状態のとき正面から表示装置を見ている使用者(観察者)12自身が映りこんでしまい(正反射)、表示品位が低下する(
図1)。これを避けるためには、
図2及び
図3のように、反射板11表面に凹凸をつけて平坦部分を減らして反射光を散乱させる。
図2は、異方性が無い凹凸をつけた反射板11の概略図である。
図3は、異方性が有る凹凸をつけた反射板11の概略図である。反射板11に平坦部分が少ないほど正反射成分(映りこみ)が少なくなる。
【0006】
(2)太陽光を含む照明光を有効に利用できる散乱プロファイルを有すること
反射型表示装置を使用するとき、観察者12は、表示装置のほぼ正面に位置する。
図4に示すように、照明光(入射光)は、観察者12の身体で遮蔽されない方向から表示装置に到達する。このため、入射光方向は主に観察者12正面から12時方向を中心とする左右各90度強の範囲と考えておくのがよく、これらの方向からの入射光を観察者12の方向に集めるような異方性を持った散乱プロファイルが求められる。
【0007】
図5及び
図6は、観察者12前方からの入射光の様子を説明する図である。
図5のように、反射板11の散乱プロファイルに異方性が無い場合は、正反射方向を中心とした反射散乱光分布となるため、観察者12方向には充分に散乱光が届かない。これに対し、
図6のように、反射板11に異方性を持たせた散乱プロファイルであれば、散乱光を観察者方向に導くことが可能である。
図5及び
図6は観察者12前方からの入射光のみを示したが、実際には
図4に示した通り、入射方向には大きな広がりがあるため、図示した方向いずれからの入射光に対しても観察者方向に有効に散乱するような散乱プロファイルが望ましい。
【0008】
(3)散乱パターン起因のざらつき及びモアレが少ないこと
上記のように、反射板の平坦部を減少させたり、異方性を持った散乱プロファイルを形成したりするには、反射板の表面形状に何らかの散乱パターン加工を施す必要がある。このパターンの大きさが、表示装置の画素と比べて充分小さくないと表示にざらつき感が生じ、またパターンの周期性によってモアレが発生する。これらはいずれも表示品質を低下させる要因なので、散乱パターンの微細化(ざらつき軽減)、及び周期性の多様化(モアレ軽減)は重要な項目となる。
【0009】
上記の要求を満たすべく、異方性反射板を形成する数々の手法が提案されている。例えば特許文献1では、反射板の下層に島状の樹脂膜を置いている。樹脂膜を島状に加工した後に基板を立てて加熱し、溶解した樹脂の島が重力方向に垂れる効果で形状異方性を得ている。これを下地として反射膜を形成することで異方性反射板を形成する。また、特許文献2では、樹脂パターンを2段重ねで形成し、その形状をずらすことで異方性のある傾斜パターンを形成している。さらに、特許文献3では、樹脂膜にスリット露光やハーフトーン露光を施すことで異方性傾斜面を形成する手法を提示している。
【0010】
これらの手法によって異方性反射板を形成することができるが、上に挙げた3つの特性要求が完全に満足された訳ではなく、改善の余地がある。その理由の一つは、異方性傾斜パターンを微細化しにくいことである。例えばスリット露光によって樹脂膜に傾斜面を形成する場合、スリット部の両側にスリット部と同等以上の幅の遮光部(ライン)と露光部(スペース)とを配置する必要がある。夫々を最小幅で形成したとしても、ひとつの傾斜面の幅は最低でも最小寸法の3倍になる(“最小寸法”とは、主に露光装置の解像度で規定される加工寸法の下限値)。仮に最小寸法を3μmとすると、片側傾斜面だけで9μm以上の幅が必要になり、特許文献3のような島状の散乱パターンを形成するとき、パターンピッチが15μmを下回ることは困難となる。
【0011】
反射板のパターンサイズが大きいと、パターンに含まれる平坦部も大きくなるため正反射が増大し、また、個々のパターンが視認されやすくなるためざらつき感が増加する。さらに、パターンサイズが大きいと、ざらつき感に影響しやすくなるため、パターン形状及び配置によるモアレ軽減の設計自由度も低下する。このように、反射板のパターンサイズは表示装置の性能に大きく影響を与えるため、これを小さくすることが必要である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。ただし、図面は模式的または概念的なものであり、各図面の寸法および比率等は必ずしも現実のものと同一とは限らないことに留意すべきである。また、図面の相互間で同じ部分を表す場合においても、互いの寸法の関係や比率が異なって表される場合もある。特に、以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置および方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0019】
本実施形態の反射板は、反射型表示装置、及び半透過型表示装置に使用することができる。また、本実施形態の反射板は、液晶表示装置、高分子分散型液層表示装置、及び有機EL(Electroluminescence)表示装置などに使用することができる。
【0020】
[第1実施形態]
[1.反射板の製造方法]
第1実施形態では、下地部材を構成する積層膜の加工を、2回のエッチング(2回のフォトリソグラフィ工程を含む)に分けて実施する。下地部材の加工パターンは、ラインアンドスペース(ライン&スペース)パターンである。また、下地部材の平坦部を極力少なくするために、複数本のラインを最小間隔またはそれに近い間隔で並べて配置する。
【0021】
すなわち、下地部材(下層膜及び上層膜の積層膜)上に、1回目のエッチング用のレジストパターン(ライン&スペースパターン)を形成する。1回目のエッチングでは、エッチングレートが大きい上層膜を除去する。すると、レジストパターンのスペース部分はエッチングレートの小さい下層膜のみ、フォトレジストが形成された部分は積層膜、という状態になる。
【0022】
次に、下地部材上に2回目のエッチング用のレジストパターン(ライン&スペースパターン)を形成する。この2回目のレジストパターンは、1回目のレジストパターンとほぼ同様のパターンで、かつ1回目のレジストパターンから所定距離だけずらした状態で形成し、さらに、フォトレジストの片側が積層膜上に、もう片側が1回目にエッチングされた後の下層膜上に重なるようにする。この状態で2回目のエッチングを行う。2回目のエッチングは下層膜をエッチングする条件で実施する。すると、積層膜側のパターンエッジはなだらかなテーパー角となり、下層膜側のパターンエッジは比較的切立ったテーパー角となる。このような製造方法により、テーパー角に異方性を有する下地パターンが形成されるので、この上に反射膜を形成すれば異方性反射板が形成できる。
【0023】
以下に、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る反射板(異方性反射板)の製造方法について説明する。本実施形態では、加工しうる最小ピッチのライン&スペースが基本パターンとなるので、図はラインに垂直な方向の断面図として表現する。
【0024】
まず、
図7に示すように、例えばガラス基板からなる基板10上に、斜面付下地部材を形成するための膜を形成する。本実施形態では、斜面付下地部材用の膜は、上層膜/下層膜の2層構造としている。すなわち、基板10上に、下層膜20、上層膜21を順に積層する。上層膜21のエッチングレートは、下層膜20のエッチングレートより大きくなるように設定される。下層膜20及び上層膜21のエッチングレートに差をつける方法は、例えば、下層膜20及び上層膜21の材料を変える方法と、下層膜20及び上層膜21をエッチングする時のエッチング条件を変える方法とがある。
【0025】
下層膜20及び上層膜21は、例えば、絶縁性の材料から構成される。例えば、下層膜20及び上層膜21の材料は、上層膜21のエッチングレートが下層膜20のエッチングレートより大きくなるように選択される。下層膜20及び上層膜21は、例えば、シリコン窒化物(SiN、又はSi
3N
3)、又はシリコン酸化物(SiO
2)等の無機材料から構成される。下層膜20及び上層膜21がシリコン窒化物から構成される場合は、シリコン窒化物中に窒素を多く含ませるほどサイドからのエッチング速度を速くすることができる。そして、シリコン窒化物中の窒素は、例えば、成膜時に副原料ガスとしてのアンモニアの流量を多くすることにより増加させることができる。また、下層膜20及び上層膜21を同じ材料で構成する場合は、化合物の組成比を変えることで、エッチングレートに差をつけることができる。また、下層膜20及び上層膜21の材料、成膜方法、及びエッチング方法はそれぞれ、特開2010−199556号公報に開示された第2の絶縁膜25及び第3の絶縁膜26と同じ手法を用いることができる。
【0026】
続いて、フォトリソグラフィ工程を用いて、上層膜21上に、フォトレジストパターン22を形成する。フォトレジストパターン22は、ライン&スペースパターンを有し、複数のライン状のフォトレジストから構成される。ライン&スペースパターン22のピッチは、露光装置の解像限界で形成される。ライン&スペースパターン22のライン及びスペースは同じ幅である。ピッチとは、1つのライン幅と1つのスペース幅とを合わせた長さである。
【0027】
続いて、
図8に示すように、フォトレジストパターン22をマスクとして、上層膜21をエッチングする。このときのエッチング条件は、上層膜21はエッチングできるが下層膜20は極力エッチングされないように設定される。これにより、フォトレジストパターン22に覆われていない領域において、上層膜21は完全に除去され、下層膜20は若干削れただけの状態でエッチングを終了することができる。この後に加工される下層膜20の形状を所望の形状にするためには、上層膜21の厚さは極力薄いこと(0.2μm以下)が望ましい。上層膜21のエッチング終了後、
図9に示すように、フォトレジストパターン22を剥離して、1回目のフォトリソグラフィ工程が終了する。
【0028】
続いて、2回目のフォトリソグラフィ加工を施す。
図10に示すように、下層膜20及び上層膜21上に、フォトレジストパターン23を形成する。フォトレジストパターン23は、ライン&スペースパターンを有し、複数のライン状のフォトレジストから構成される。ライン&スペースパターン23のピッチは、露光装置の解像限界で形成される。すなわち、ライン&スペースパターン23のピッチは、ライン&スペースパターン22のピッチと同じである。
【0029】
このとき、フォトレジストパターン23のライン部分の片側は、上層膜21が残った部分に、もう片側は上層膜21が除去された(下層膜20だけの)部分に配置されるようにする。このフォトレジストパターン23の加工は、フォトレジストパターン23をフォトレジストパターン22と原則的に同一ピッチのライン&スペースで構成されたパターンとし、フォトレジストパターン22が形成された位置から所定の距離だけずらした位置に形成することで実現できる。
【0030】
続いて、
図11に示すように、フォトレジストパターン23をマスクとして、積層膜(上層膜21/下層膜20)を連続エッチングする。このときのエッチング条件は、下層膜20をエッチングするための条件とする。この条件でのエッチレートは、“下層膜20<上層膜21”となるので、積層膜をエッチングした側は上層膜21によるサイドエッチ進行が大きいためなだらかなテーパー形状となり、下層膜20のみをエッチングした側はサイドエッチ進行が少ないため急峻なテーパー形状となる。このようにして、フォトレジストパターン23のライン部分の左右でテーパー角が異なるエッチング形状を得ることができる。
図12は、
図11の製造工程における実物サンプルの断面SEM写真である。
図12のサンプルにおいて、断面の左右でテーパー形状が異なる下層膜20を実現できている。続いて、フォトレジストパターン23を剥離して、2回目のフォトリソグラフィ工程が終了する。
【0031】
続いて、
図13に示すように、基板10及び下地部材(下層膜21及び上層膜21)上に、反射膜24を成膜する。反射膜24は、反射率が高い金属材料が用いられ、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)、及びこれらのいずれかを含む(Al系又はAg系の)合金などが用いられる。反射膜24の厚さは、0.03μm以上であることが望ましい。このようにして、異方性傾斜反射板11が完成する。以上が異方性反射板11の縦構造形成プロセスの一例である。
【0032】
[2.下地部材の平面パターン]
上記のようにして形成された反射板11における断面構造と平面パターンとの組み合わせで、反射板11の散乱プロファイル(反射散乱プロファイル)が定まる。白黒表示の場合は縦横比1:1の正方画素であるが、カラー表示(RGB)対応を考えて、ここでは縦横比3:1の縦長画素を例に平面パターンの構成を示す。正方画素の場合は、縦長画素の平面パターンを拡張する、又は繰り返し並べる、等で対応可能である。
【0033】
平面パターンの基本は横ストライプパターンである。
図14は、第1実施形態に係る反射板11の横ストライプパターンを説明する模式図である。
図14は、1画素分のパターンを示している。画素は、縦横比3:1の画素である。ストライプパターンの設計は、通常、ライン&スペースで表現する。実際の画素設計においては、画素の境界部分には配線や薄膜トランジスタの配置領域等が存在するため、異方性傾斜反射板11の平面パターンもこれに対応する必要があるが、発明の本質ではないのでここでは言及しない。
【0034】
図14において、横方向がX方向、縦方向がY方向に対応する。Xピッチ:Yピッチ=3:1である。複数のラインは、X方向に延在する。
図14のライン&スペースパターンは、
図13の下地部材(下層膜20及び上層膜21)の平面パターンに対応する。また、
図7のフォトレジスト22の平面パターン、及び
図10のフォトレジスト23の平面パターンも、
図14のライン&スペースパターンと同じである。
【0035】
本実施形態では、ライン幅、及びスペース(間隔)ともに、プロセス能力で定まる下限の寸法にするのが基本となる。ライン&スペースの下限は、露光装置の解像限界(例えばライン幅+スペース=ピッチで4〜6μm程度)であるが、これにテーパー加工の傾斜領域、及び加工寸法ばらつきなど(これらは上層膜21と下層膜20との厚さによって変動する)を考慮して、積層膜厚の2倍を加えた程度までは広げる可能性がある。すなわち、下地部材(下層膜20及び上層膜21)によって形成されるラインアンドスペースパターンのピッチは、露光装置の解像限界であるピッチと、下地部材の厚さの2倍とを合わせた長さ以下である。
図13から分かるように、傾斜反射面がラインの側面(の片側)なので、その面積は、一定面積の中に配置されるライン本数に比例する。ライン&スペースを最小ピッチにすることがライン本数を最大にすることになり、傾斜反射面の面積を最大にする結果になる。
【0036】
図14の上方が
図13の左方となる(緩斜面がラインの上方になる)ように加工すれば、観察者12からみて
図6のような散乱プロファイルを得ることができる。もちろん、散乱プロファイルの要求によっては、
図14の上方が
図13の右方となる(緩斜面がラインの下方になる)ようにすることも可能である。
【0037】
[3.下地部材の条件]
次に、下地部材の条件について説明する。
図15は、入射光と散乱光との関係を説明する模式図である。観察者12前方からの入射光が反射板11によって散乱(反射)した際、散乱光のピーク(散乱ピーク)が観察者12に観察されるのが理想であり、このときに観察者12に観察される散乱光が最も明るくなる。入射光と散乱ピークとのなす角度をθとする。
【0038】
図16は、理想的な下層膜(下地部材)20の断面形状を説明する模式図である。下地部材20は、その断面形状が三角形であり、仰角α、β(α<β)を有する。下地部材20の仰角α側が緩斜面、下地部材20の仰角β側が急斜面である。緩斜面の水平方向の長さB、急斜面の水平方向の長さDである。このとき、入射光と散乱光とのなす角度は2αとなる。散乱ピークを観察者12に向ける場合、“α=θ/2”、“β=90°−θ”となる。例えば、θ=40°とすると、α=20°、β=50°となる。
図16に示すように、1つの下地部材20が前述した仰角α、βの条件を満たし、かつ複数の下地部材20がスペースを空けずに連続して配置されるものとすると、垂線から角度θを持って反射板11に入射する入射光を、より損失が少ない状態で散乱光として観察者12に届けることができる。
【0039】
しかしながら、プロセス上の制約により、隣接する下地部材20間のスペースをなくすこと、及び下地部材20の断面形状を三角形に加工することは難しい。結果として、
図13に示すように、断面形状が概略台形の複数の下地部材(下層膜20及び上層膜21)が所定のスペースを空けて配置される。
【0040】
図17は、反射板11の断面図である。
図18は、
図17に示した下地部材20を抽出した断面図である。下地部材20は、その断面形状が概略台形であり、仰角α、β(α<β)を有する。下地部材20の仰角α側が緩斜面、下地部材20の仰角β側が急斜面である。緩斜面の水平方向の長さB、急斜面の水平方向の長さDである。隣接する下地部材20は、スペースAを空けて配置される。下地部材20の上底C、下地部材20の厚さEである。
【0041】
図16の理想的な条件を
図17に適用することを考える。
図15及び
図16と同様に、緩斜面Bにおいて、入射光と散乱光とのなす角度をθとする。ここで着目する入射光は、
図6に示すように、観察者12によって遮られない方向からの入射光であり、また、散乱ピークに最も寄与する方向からの入射光である。この角度θは、反射板11が使用される表示装置の使用条件、及び要求される仕様などにより適宜設定される。この場合、下地部材20は、“α=θ/2”、“β=90°−θ”に設定される。これにより、ライン&スペースで形成された下地部材を有する反射板11において、観察者に向かう散乱ピークを最も大きくできる。
【0042】
次に、プロセスの制約を考慮した条件について説明する。
【0043】
<スペースAの条件>
正反射成分を減らすためには、スペースAはより小さいことが望ましいが、プロセスの制約上、A=0にはできない。スペースAは、0<A≦4μmであることが望ましい。
【0044】
<緩斜面の条件>
直線近似で、10°≦α≦40°であることが望ましい。緩斜面の水平方向の長さBは、“B≒(cos(α)/sin(α))・E”で表される。“≒”は、近似を意味する。
【0045】
<下地部材20の上底Cの条件>
正反射成分を減らすためには、上底Cはより小さいことが望ましい。上層膜21有り、及び上層膜21無しの部分を合わせた上底Cは、0<C≦4μmであることが望ましい。
【0046】
<急斜面の条件>
直線近似で、40°<β≦80°であることが望ましい。急斜面の水平方向の長さDは、“D≒(cos(β)/sin(β))・E”で表される。
【0047】
<下地部材20の水平方向の長さ>
E≦1μmとすると、下地部材20の水平方向の長さ(A+B+C+D)は、15μm以下であることが望ましい。
【0048】
なお、上記の仰角α、βは、
図18に示すように、夫々緩斜面、急斜面を3等分し、その中央部分を直線近似して求めた、基板からの角度とする。
【0049】
図19は、上層膜21を含む反射板11の断面図である。
図20は、
図19に示した下地部材(下層膜20及び上層膜21)を抽出した断面図である。
【0050】
断面形状が概略台形からなる下地部材の上底Cは、上層膜21/下層膜20の積層膜になっている部分Fと、下層膜20のみ(上層膜除去済み)の部分Gとから構成され、すなわち、“C=F+G”である。正反射成分を減らすためには、上底C(=F+G)は、“0<C≦4μm”であることが望ましい。また、部分Fは、“0≦F≦3μm”であることが望ましい。
【0051】
部分Fと部分Gとの段差Hは、0<Fの時のみ存在し、段差H=「上層膜21の厚さ」+「上層膜21エッチング時の下層膜20減少分」である。段差Hが存在するとき、反射板11の断面形状はこれを反映して
図19のようになる。一方、上層膜21が全てエッチングされる場合は、F=0となり、反射板11の断面形状は
図17のようになる。
【0052】
また、所望の角度の緩斜面(入射光を反射する面)を実現するためには、上層膜21は、より薄い方が望ましく、上層膜21の厚さは、0.2μm以下であることが望ましい。
【0053】
[4.効果]
以上詳述したように本実施形態では、1回目のフォトリソグラフィ工程及び1回目のエッチング工程と、2回目のフォトリソグラフィ工程とにより異方性エッチングの準備を整え、2回目のエッチング工程により両側で異なるテーパーを有する下地部材からなるライン&スペースパターンを形成する。2回目のレジストパターン形成は、1回目のフォトリソグラフィ工程に対して露光装置の合わせ精度で合わせこむことができる。通常、合わせ精度は、その露光装置によるピッチ(ライン&スペース)の解像限界の1/2以下であるため、ライン&スペース加工限界(これが微細化のボトルネックとなる)の微細パターンの中に異方性反射パターンを作りこむことが可能となる。具体的には、ライン&スペースパターンのピッチは、4μm〜6μm程度まで微細化できる。
【0054】
また、このライン&スペースは、直線や曲線等自由に設計できるため、希望の散乱プロファイルを作り込むことが可能である。これにより、より多くの散乱光を観察者に集めることが可能となる。結果として、本実施形態の反射板11を反射型表示装置又は半透過型表示装置に用いることで、反射光を利用したより明るい表示が可能な表示装置を実現できる。
【0055】
また、ライン&スペースパターンが微細であることは、単位面積内により多くのライン&スペースを配置できることを意味する。傾斜反射面はライン&スペースのパターンエッジ(の片側)であるので、単位面積内のライン本数が多いことは傾斜反射面積の比率が大きい(平坦部の占有比率が抑制される)ということであるため、映りこみが軽減できるという効果がある。
【0056】
[第2実施形態]
第1実施形態では、ライン&スペースパターンとして、単純な横ストライプパターンを示したが、このパターンでは、
図4に示すような広範囲からの入射光に対して傾斜反射の効果を充分に発揮することが困難である可能性がある。そこで、第2実施形態では、ライン&スペースパターンとして、屈曲パターンを用いる。
【0057】
図21は、本発明の第2実施形態に係る反射板11の平面パターンを説明する模式図である。
図21は、1画素分のパターンを示している。画素は、縦横比3:1の画素である。なお、
図21のライン&スペースパターンは、
図13の下地部材(下層膜20及び上層膜21)の平面パターンに対応する。また、
図7のフォトレジスト22の平面パターン、及び
図10のフォトレジスト23の平面パターンも、
図21のライン&スペースパターンと同じである。以下の実施形態の平面パターンについても
図21と同様の関係を有する。
【0058】
図21のように、ライン&スペースを一定に保ったままでラインを屈曲させることができる。すなわち、2本の直線状ラインが所定の開き角で交わるようにして、屈曲パターンが形成される。
図4に示すような、第一象限及び第二象限からの入射光を散乱させようとする場合は、パターンは上に凸であることが望ましく、屈曲パターンの場合はいわゆる逆V字のような形状になる。
図14の横ストライプ(ラインの開き角180度に対応する)の場合、12時方向からの入射に良好な対応ができるといえる。これに対して、
図21(a)(ラインの開き角120度)の場合は2時方向と10時方向からの入射に、
図21(b)(ラインの開き角90度)の場合は1時半と10時半からの入射に良好に対応するといえる。開き角の設定に応じてどの方向からの入射に重点的に対応するかを調整できる利点がある。
【0059】
また、要求される散乱プロファイルによっては、下に凸のV字型のラインを有する屈曲パターンを選択してもよい。
【0060】
[第3実施形態]
図22は、本発明の第3実施形態に係る反射板11の平面パターンを説明する模式図である。第3実施形態では、直線的なパターンを廃して同心円弧パターンを用いる。同じ形状の円弧を複数並べるのではなく、複数の同心円弧を並べれば、ライン&スペースを一定に保ったままで画素内全面にライン&スペースパターンを配置できる。
【0061】
図22は、同心円弧パターンの一例で、中心点を画素の領域外下部においた場合である。中心点を画素の下部(画素領域下端から画素領域外の下部までの範囲が望ましい)に置けば、円弧が上に凸の形状になる。同心円弧パターンの場合、広い範囲からの入射光に対して同じような反射散乱特性を示す。
【0062】
中心点の位置によって円弧の曲率を変えることができる。中心点が画素領域下端にあるとき、最も内側の円弧は最小半径での半円状になるが、中心点が画素領域外で画素領域下端から離れるほど、円弧の曲率は大きくなって直線に近づく(横ストライプパターンの特性に近づく)。
【0063】
また、要求される散乱プロファイルによっては、下に凸の円弧を有する同心円弧パターンを選択してもよい。
【0064】
[第4実施形態]
縦横比3:1の画素の場合、同心円弧パターンの中心点を画素領域下端に置いても画素上部での円弧の曲率は大きくなり、横ストライプの特性に近づいてしまう。円弧の対象性を生かすためには曲率を小さくするほうが望ましいが、画素領域を分割し、分割した各々の領域を独立パターンとして扱うことでこれを実現することができる。
【0065】
図23は、本発明の第4実施形態に係る反射板11の平面パターンを説明する模式図である。第4実施形態では、1つ画素を2分割した場合の構成例である。2つの分割された領域にはそれぞれ、同心円弧パターンが配置される。このようにして曲率の小さい円弧をライン&スペースパターンとして利用することができる。
図22は1つの画素を2分割した例であるが、1つの画素を3分割以上とすることもできる。この場合も、分割された領域ごとに同心円弧パターンが配置される。
【0066】
[第5実施形態]
フォトリソグラフィで形成するライン&スペースパターンでは、パターンの周期性のためにモアレが発生してしまうことが多い。モアレを軽減するためには、パターンに多様性を持たせ、干渉が起きにくい状況にする必要がある。同心円弧パターンの場合、パターン形状は中心点の位置を変えるだけで多様に変化するので、これを利用してパターンに多様性を持たせ、モアレを軽減することができる。
【0067】
図24は、本発明の第5実施形態に係る反射板11の平面パターンを説明する模式図である。
図24は、2つの画素のパターンを示している。X方向(図の左右)に隣接する2つの画素のうち左画素のパターンは
図23と同じであるが、右画素のパターンは、左画素のパターンからY方向に所定距離だけパターン(中心点)をずらし、これに合わせて画素の分割位置もずらす。
図24の例では、右画素のパターンは、左画素のパターンからY方向に1/4画素分だけパターン(中心点)をずらしている。
【0068】
このようにすることで、単純に
図23のパターンを繰り返す場合よりもモアレが軽減される。中心点のずらし方としてはY方向(上下)だけでなくX方向(左右)にずらすことも可能で(図は省略)、これらの組み合わせで更にモアレを軽減することができる。
【0069】
[第6実施形態]
図25は、本発明の第6実施形態に係る反射板11の平面パターンを説明する模式図である。
【0070】
図25に示したように、縦横比3:1の縦長画素用のパターンを横方向(X方向)に拡張することで、白黒表示で用いられる縦横比1:1の正方画素に対応させることができる。
図25は、
図23(第4実施形態)のパターンを拡張した場合の一例である。すなわち、
図25では、
図23のパターンを+X方向、−X方向に夫々拡張することで、縦横比1:1の正方画素用のライン&スペースパターンを構成している。
【0071】
このようにすることで、縦横比1:1の正方画素においても、所望の散乱プロファイルを得ることができる。また、周期性の低いパターンを選択することでモアレ軽減にも効果を発揮できる。
【0072】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、構成要素を変形して具体化することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、1つの実施形態に開示される複数の構成要素の適宜な組み合わせ、若しくは異なる実施形態に開示される構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を構成することができる。例えば、実施形態に開示される全構成要素から幾つかの構成要素が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、これらの構成要素が削除された実施形態が発明として抽出されうる。