特許第6267986号(P6267986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6267986ヒトの特定分子と結合する分子標的物質のinvivo評価法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267986
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ヒトの特定分子と結合する分子標的物質のinvivo評価法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20180115BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180115BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20180115BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180115BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20180115BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G01N33/50 ZZNA
   C12Q1/68 A
   A01K67/027
   C12N15/00 A
   C07K16/18
   G01N33/15 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-25653(P2014-25653)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-152395(P2015-152395A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】593146877
【氏名又は名称】株式会社特殊免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】塩田 明
(72)【発明者】
【氏名】上田 正次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 行夫
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−024019(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/064443(WO,A1)
【文献】 特表2013−543379(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/141798(WO,A1)
【文献】 特開2009−055911(JP,A)
【文献】 特表2005−503809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12N 15/00−15/877
A01K 67/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物のBACクローンにおいて、ヒト特定分子をコードする遺伝子が該ヒトの特定分子をコードする遺伝子の非ヒト動物のホモログ遺伝子と置換して含まれる組換えBACクローンを発現ベクターとして、該非ヒト動物にマイクロインジェクション法で導入することにより作製された、該ヒト特定分子を発現するトランスジェニック非ヒト動物に被験物質を投与すること、並びに、該トランスジェニック非ヒト動物の生体内における被験物質の特性を評価することを含む、該被験物質の特性を評価するための方法。
【請求項2】
被験物質が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験物質の特性が、ヒトの特定分子に対する機能阻害能力、ヒトの特定分子を発現する細胞、組織もしくは器官に対する障害能力、生体内分布、又は、薬効である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記トランスジェニック非ヒト動物として、該トランスジェニック非ヒト動物又はその子孫動物と同種の他の疾患モデル動物とを交配して得られた、ヒトの特定分子を発現する、疾患モデル非ヒト動物を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
非ヒト動物がマウス、ラット、又はウサギである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの受容体、調節因子、抗原等のヒトの特定分子と結合する分子標的物質(例えば、ヒトキメラ抗体やヒト化抗体等)の特性や安全性、及び治療効果を実験動物(マウスやラットやウサギ等)を用いてin vivoで評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学技術や抗体工学技術の近年の輝かしい進歩は、抗体医薬品に代表されるヒト分子に対する標的薬の作製を可能にした。しかし、ヒト分子に対する標的薬の薬理作用や安全性を非臨床の動物試験で評価しようとした場合、標的分子であるヒト抗原を持たない非ヒト動物(例えばマウス、ラット、ウサギなど)にヒト分子を標的とする抗体等の分子標的薬を投与しても投与した分子標的薬と反応するヒト抗原がなく評価はできなかった。すなわち、ヒトキメラ抗体やヒト化抗体等の分子標的薬の開発では、その安全性や治療効果をあらかじめin vivo動物実験で評価する非臨床試験の手段がなかった。
【0003】
ヒトゲノムの解読が完了した今日では、抗原となるヒトのゲノム情報やゲノム断片等のバイオリソースが容易に入手でき、分子標的薬の代表である抗体医薬品は数百のレベルで開発がなされ熾烈な競争が繰り広げられている。現行の抗体医薬品の原料であるモノクローナル抗体は、抗原(標的分子)に対する特異性が高く、生体内の安定性も高く、毒性が低く、生産方法も共通性があり比較的容易である。また、特異性および結合活性の優れた抗体を一度得たら、多様な修飾を行って活性を増強できる。しかし、臨床効果は必ずしも充分でなく、投与量も多いため高額な薬剤費を要するという課題がある。この原因に、ヒトの抗原に対する抗体の機能をin vivoで評価できる適切な動物モデルがなく、病態モデルを用いた非臨床試験による薬剤の評価ができていないことがあげられる。この問題を解決するためには、抗体に代表される分子標的薬の機能をin vivoで評価するための動物モデルの作製が欠かせず適切な動物モデルを用いた評価法が求められている。
【0004】
このため、厚生労働省医薬品食品局の通達「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について(平成24年3月23日 薬食審査発0323第1号)(非特許文献1)の第1部 3.非臨床安全性試験 3.3動物種/モデルの選択の項目には、「モノクローナル抗体の試験のための適切な動物種は、意図するエピトープを発現し、ヒト組織の場合と類似した組織交差反応性を示すような動物種である。」とあり、「適切な動物種が存在しない場合、ヒト型受容体を発現させたトランスジェニック動物あるいはその動物にとって相同タンパク質等を用いることを検討すべきである。」ことが記載され、トランスジェニック動物を利用する考えが示されている。さらに、「ヒト型受容体を発現したトランスジェニック動物モデルを使用して得られた情報は最も有効なものとなる。」とも述べている。
【0005】
一方、後者のヒト抗原に類似した相同なタンパク質(抗原ホモログ)をもつアカゲザル等の非ヒト霊長類を用いる評価方法を利用する考えも示されるが、非ヒト霊長類を使用する試験は、倫理及び/又は福祉的な観点から動物実験は非常に制限されることに加え、非常に高価で容易に採用できるものではない。そのため、これに変わるトランスジェニック動物を用いた評価方法が求められている。
【0006】
抗体医薬の開発に利用することを目的に、モノクローナル抗体が認識するヒトの抗原や受容体等をマウスで発現させたトランスジェニックマウスの作製が多数報告されている。小型のプラスミドタイプの発現ベクターを利用して遺伝子導入した場合は、導入した遺伝子の所望する発現量や導入した遺伝子本来の精密な発現制御を、作出したトランスジェニックマウスで再現することは難しい。このため、抗原や受容体等をコードするヒトヌクレオチド配列と精密な発現制御を再現するに必要な様々な制御配列を含むヒトゲノムの巨大なDNA断片を発現ベクター(BACベクター)に使用して受精卵に導入して作製したヒトCD20トランスジェニックマウス等が報告された(特許文献1、非特許文献2)。このマウスは、血液、骨髄、脾臓、リンパ節及びパイエル板の成熟、プレB及び未成熟細胞上にCD20を発現し、これらの細胞上のヒトCD20の発現レベルはヒト細胞上のCD20の発現レベルの約40%であった(特許文献1)。また、トランスジェニックマウスの脾臓やB細胞上のヒトCD20の発現レベルはヒトでの発現レベルに比べて〜7倍低いことが報告された(非特許文献2)。一方、ヒトの免疫系を再現する非ヒト動物として、ヒトCD16とそのアクセサリー分子を共発現させるようにゲノム改変したノックインマウスが報告された(特許文献2)。
【0007】
このようにして作製したヒト抗原を発現するトランスジェニックマウスを用いてヒト抗原に対する抗体がin vivoでも薬理活性を示すことが報告され(非特許文献2、非特許文献3)、これらのトランスジェニックマウスが抗体医薬品を非臨床のin vivo評価試験で利用するのに有用であることが報告された。
【0008】
一方で、ヒト抗原を認識する抗体医薬候補を、ヒト抗原の発現制御系を含むBAC発現ベクターをマウスやラットやウサギ等の非ヒト動物に導入した場合は、非ヒト動物の宿主においてヒト遺伝子発現制御系を利用して導入遺伝子を発現することから、導入したヒト遺伝子の精密な発現制御が当該宿主においては維持されないことが危惧された(非特許文献2)。そして、ノックインインマウスの作製は非常に煩雑な操作を必要とするため、その作製は容易でなく非常に制限されるものであった。このため、ヒト抗原の発現を精密に再現できる非ヒトトランスジェニック動物を簡便に作製してヒト抗原に対する抗体等の分子標的薬を評価する方法を開発することが切望された。
【0009】
このように抗体医薬を始めとする分子標的薬の開発では、薬剤の機能や有効性や安全性をin vivoで評価できる適切な動物モデルがなく、病態モデルを用いた非臨床試験の手段もないため、動物モデルを用いる薬剤の適切な評価法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2006-517096号公報
【特許文献2】特開2008-154468号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について、薬食審査発0323第1号 平成24年3月23日
【非特許文献2】Ahuja A. et al., 2007, J Immunol. 179: 3351-3361.
【非特許文献3】Stephen A. et al., 2008, Blood 112: 4170-4177.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、ヒトの特定分子に対する分子標的物質又は標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価するに有用なトランスジェニック非ヒト動物を簡便かつ迅速に作製することができ、かつ当該トランスジェニック非ヒト動物を使用してヒトの特定分子に対する分子標的物質又は標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ヒトの特定分子をコードする遺伝子をマウスやラットやウサギ等の非ヒト動物における当該遺伝子のホモログ遺伝子と置換して含む組換えBAC発現ベクター系を構築し、得られた組換えBAC発現ベクターをマイクロインジェクション法で前記非ヒト動物に導入することよって、当該ヒトの特定分子を発現するトランスジェニック非ヒト動物を簡便かつ迅速に作製することができるとともに、当該トランスジェニック非ヒト動物を使用して前記ヒトの特定分子に対する分子標的物質又は標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を含む。
[1] 非ヒト動物のBACクローンにおいて、ヒト特定分子をコードする遺伝子が該ヒトの特定分子をコードする遺伝子の非ヒト動物のホモログ遺伝子と置換して含まれる組換えBACクローンを発現ベクターとして、該非ヒト動物にマイクロインジェクション法で導入することにより作製された、該ヒト特定分子を発現するトランスジェニック非ヒト動物に被験物質を投与すること、並びに、該トランスジェニック非ヒト動物の生体内における被験物質の特性を評価することを含む、該被験物質の特性を評価するための方法。
[2] 被験物質が抗体である、[1]の方法。
[3] 被験物質の特性が、ヒトの特定分子に対する機能阻害能力、ヒトの特定分子を発現する細胞、組織もしくは器官に対する障害能力、生体内分布、又は、薬効である、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記トランスジェニック非ヒト動物として、該トランスジェニック非ヒト動物又はその子孫動物と同種の他の疾患モデル動物とを交配して得られた、ヒトの特定分子を発現する、疾患モデル非ヒト動物を用いる、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 非ヒト動物がマウス、ラット、又はウサギである、[1]〜[4]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒトの特定分子に対する分子標的物質又は標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価するのに有用なトランスジェニック非ヒト動物を簡便かつ迅速に作製することができ、かつ当該トランスジェニック非ヒト動物を使用してヒトの特定分子に対する分子標的物質又は標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.トランスジェニック非ヒト動物
本発明において「ヒトの特定分子」とは、ヒト細胞にて発現されるタンパク質、ポリペプチドまたはそれらの変異体が挙げられる。好ましくはヒトの特定分子とはヒトの疾患や疾患症状に関与する、すなわち、疾患や疾患症状の素因となり得るものが好ましい。ここで「変異体」とは、元のタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有し、かつ元のタンパク質又はポリペプチドの活性又は機能を保持するタンパク質又はポリペプチド、あるいは、元のタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列とその一部又は全体が80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上の配列同一性を有し、かつ元のタンパク質又はポリペプチドの活性又は機能を保持するタンパク質又はポリペプチドを意味する。アミノ酸配列の配列同一性は公知のアミノ酸配列の比較方法によって求めることができ、例えば、BLAST等を例えば、デフォルトの設定で用いて実施することができる。
【0017】
好ましくは本発明において「ヒトの特定分子」とはヒトCD20、EGFR、CD3、IGF-IR、HER2、CD40、CD19、CD326、CD25、CD4、CD45、CD22、CD30等である。
【0018】
本発明において、ヒトの特定分子のアミノ酸配列やそれをコードする遺伝子の塩基配列は、GenBank等の公知のデータベースに開示されており、本発明においてはこれらの配列情報を利用することができる。例えば、ヒトCD20のアミノ酸配列やそれをコードする塩基配列は、GenBankにNM_152866として登録されており、本発明においてはこれらの配列情報を利用することができる。
【0019】
本発明において「非ヒト動物」とは、ヒト以外の動物であれば特に限定されるものではないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物ならびにウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜があげられる。好ましくは、遺伝子工学的な技術基盤の整備がなされて容易に利用できるマウスやラットである。例えば、本発明において、非ヒト動物がマウスである場合はC57BL/6やBALB/cを、非ヒト動物がラットである場合はウィスターやスプラーク・ダウリーなどを使用することができる。
【0020】
本発明において「ヒトの特定分子をコードする遺伝子の非ヒト動物のホモログ遺伝子とは、ヒトの特定分子をコードする遺伝子と進化的な起源を同じくする非ヒト動物が有する遺伝子であり、当該ヒトの特定分子と構造や機能が同じ又は類似するタンパク質をコードする非ヒト動物の遺伝子を意味する。一般的に、ヒトの特定分子をコードする遺伝子とその非ヒト動物のホモログ遺伝子とは高い配列同一性を有する。
【0021】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、当該分野で通常用いられているBACトランスジェニック非ヒト動物の標準的な作出方法により製造することができる。すなわち、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、例えば下記の工程(a)〜(f)を含む方法により作製できる。
(a)ヒトの特定分子をコードする遺伝子を含むBAC、および宿主となる非ヒト動物における前記ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含むBACをそれぞれ選択する工程;
(b)工程(a)にて選択された、前記ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含むBACにおいて、当該ホモログ遺伝子領域をヒトの特定分子をコードする遺伝子を含むBACにおける当該ヒトの特定分子をコードする遺伝子領域と置換し、ヒトの特定分子をコードする遺伝子領域が組込まれた非ヒト動物由来のBAC(以下、「組換えBAC」と記載する。)を含む、組換えBAC発現ベクターを作製する工程;
(c)工程(b)にて得られた、組換えBAC発現ベクターを、精製する工程;
(d)工程(c)にて得られた組換えBAC発現ベクターを宿主となる非ヒト動物の受精卵に導入し、遺伝子導入受精卵を仮親動物に移植する工程;
(e)工程(d)にて得られた仮親動物から出生した子孫から、ヒトの特定分子をコードする遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を選別する工程;
(f)工程(e)にて選別したトランスジェニック非ヒト動物(ファウンダー)から系統を樹立する工程。
【0022】
前記工程(a)において、ヒトの特定分子をコードする遺伝子を含むBAC、および宿主となる非ヒト動物における前記ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含むBACは、例えば、カリフォルニア大学サンタクララ校が公開するヒトおよび非ヒト動物(例えばマウス)ゲノムデータベースを検索し、ヒトの特定分子をコードする遺伝子を含むBACクローン、および非ヒト動物における前記ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含むBACクローンをそれぞれ同定し、選択することができる。宿主となる非ヒト動物において当該ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含むBACクローンが複数存在している場合は、5’フランキング領域、及び/又は、3’フランキング領域を長くカバーしているBACクローンを選ぶことにより、最終的なトランスジェニック非ヒト動物において、当該ヒトの特定分子のより正確な発現を実現することができる。
【0023】
前記工程(b)の、前記ヒトの特定分子をコードする遺伝子のホモログ遺伝子のゲノム配列を含む非ヒト動物のBACにおいて、当該ホモログ遺伝子領域をヒトの特定分子をコードする遺伝子を含むBACにおける当該ヒトの特定分子をコードする遺伝子領域へと置換する工程は、非ヒト動物のBACにおいて当該ホモログ遺伝子の開始コドンから停止コドンをコードする領域を正確に除去して、そこにヒトの特定分子をコードする遺伝子の開始コドンから停止コドンをコードする領域を挿入することにより行うことができる。組換えBAC発現ベクターの作製は、例えば、欠損型ラムダプロファージを使用したRed systemによるBAC相同組み換え方法を利用することができる。組換えBAC発現ベクターを作製する上で、組換えの過程で挿入される大腸菌由来の抗生剤耐性遺伝子などを痕跡なく除去することが好ましい。
【0024】
前記工程(c)において、組換えBAC発現ベクターの精製は、例えば、核酸を精製するための一般的な手法を用いて行うことができ、例えば、適当な制限酵素により直鎖化した組換えBAC発現ベクターをパルスフィールド電気泳動によって分離させ、電気溶出で組換えBAC発現ベクターを精製することができる。
【0025】
前記工程(d)において、前記組換えBAC発現ベクターを宿主となる非ヒト動物の受精卵に導入する方法は、例えば、交配後間もない雌の卵管を洗浄して前核期受精卵を採取し、精子または卵子由来の前核、好ましくは雄性前核にマイクロインジェクション法により前記組換えBAC発現ベクターを直接注入する方法(いわゆる、マイクロインジェクション法)をあげることができる。この受精卵を偽妊娠させた仮親の輸卵管に移植し、子宮内で発生を続けさせる。
【0026】
前記工程(e)において、工程(d)で受精卵を移植した動物が産んだ子孫からのトランスジェニック非ヒト動物の選別は、例えば、ヒトの特定分子をコードする遺伝子が得られた産仔の染色体DNAに組み込まれているか否かについて、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンブロット法またはPCR法によりスクリーニングすることによって行うことができる。
【0027】
前記工程(f)において、工程(e)で選別したトランスジェニック非ヒト動物(ファウンダー)から遺伝的背景の均一な系統を樹立する方法としては、ヒトの特定分子をコードする遺伝子が組み込まれた動物と、野生型動物(マウスのC57BL/6やBALB/c、あるいは、ラットのウィスター、スプラーク・ダウリーなど)との戻し交配をする方法があげられる。
【0028】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、上記のとおり、ヒトの特定分子をコードする遺伝子が非ヒト動物のホモログ遺伝子と置換して挿入された組換えBACを使用して作製されており、故にヒトの特定分子をコードする遺伝子はトランスジェニック非ヒト動物内において、当該ホモログ遺伝子の発現制御機構にしたがって発現される。そのため、ヒトにおいて当該ヒトの特定分子の発現が通常みられる器官や組織に対応する、トランスジェニック非ヒト動物の器官や組織において、導入されたヒトの特定分子をコードする遺伝子が特異的に発現する。すなわち、本発明のトランスジェニック非ヒト動物においては、ヒトの特定分子が本来のヒト生体内に近い環境下において発現されている。それによって、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、同種野生型動物と異なり、ヒトの特定分子にのみ相互作用するあらゆる高分子、低分子化合物を投与して生物反応を評価できる動物であり、分子標的医薬の薬効評価、安全性評価を始めとする分子標的治療の伸展に大きく貢献しうるモデル動物となり得る。
【0029】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物の作製は、マイクロインジェクション法を用いて行うことができ、従来公知のトランスジェニック非ヒト動物の作製において一般的に用いられる遺伝子ターゲティング法の様な煩雑な操作を必要としない。このため、非常に簡便かつ迅速に目的のトランスジェニック非ヒト動物を得ることができる。
【0030】
また、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、同種の他の疾患モデル動物と交配して、ヒトの特定分子を発現する、疾患モデル非ヒト動物を得ることができる。「他の疾患モデル動物」としては、例えば、I型糖尿病、自己免疫疾患(関節リウマチ、ループス腎炎、全身性エリトマトーデスなど)等の公知のモデル動物(例えばNODマウス(I型糖尿病モデルマウス))が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明のトランスジェニック非ヒト動物の作製に際して、ヒトの特定分子のアミノ酸配列にアミノ酸置換をもたらす遺伝子変異を加えた遺伝子を利用することにより、変異型のヒトの特定分子を発現させることも可能である。このことから、分子標的医薬に対して高感受性または耐性に関するヒトの特定分子を発現するトランスジェニック非ヒト動物を作出することも可能である。したがって、たとえば、分子標的医薬に対して耐性に関する、ヒトの特定分子(EGFR、KRAS、HER2、BRAF、DDR2等)の変異型を発現するトランスジェニック非ヒト動物を作出すれば、当該トランスジェニック非ヒト動物を利用することにより、その耐性を有するモデル非ヒト動物に対しても感受性を示す分子標的医薬の創製に利用することができる。本発明においては、かかる変異型のヒトの特定分子を発現するトランスジェニック非ヒト動物も提供することができる。
【0032】
2.スクリーニング/評価方法
(2−1)特性評価方法
本発明は、下記工程を含む被験物質の特性評価方法を提供する。
(a)上記本発明のトランスジェニック非ヒト動物に被験物質を投与する工程、
(b)前記被験物質を投与した前記トランスジェニック非ヒト動物におけるヒトの特定分子を発現する器官又は組織を調べ、前記トランスジェニック非ヒト動物の生体内における被験物質の特性を評価する、工程。
【0033】
前記(a)において、被験物質としては、いかなる分子標的物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ヒトの特定分子に対する抗体、アプタマー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、または微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分、あるいはこれらの化合物の2種以上の混合物などがあげられる。また、被験物質には前記化合物を有効成分とする薬剤も含めることができる。好ましくは、本発明において被験物質とは抗体である。抗体はポリクローナル抗体やモノクローナル抗体であってもよく、また、ヒトキメラ抗体やヒト化抗体であってもよい。
【0034】
前記被験物質を本発明のトランスジェニック非ヒト動物に投与する方法は特に限定されるものではないが、経口的または非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内等の全身投与、あるいは標的細胞付近への局所投与等があげられる。
【0035】
前記被験物質の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。
【0036】
前記工程(b)において、被験物質の特性としては例えば、ヒトの特定分子に対する結合能力、ヒトの特定分子に対する機能阻害能力、ヒトの特定分子を発現する細胞、組織もしくは器官に対する障害能力、生体内分布などが挙げられる。
【0037】
特性の評価方法としては、タンパク質又は核酸の定量に用いられる一般的な手法を用いることができ、例えば、被験物質投与前後の本発明のトランスジェニック非ヒト動物における所定の器官、又は組織を採取して、当該器官、又は組織におけるヒトの特定分子もしくはそれをコードする遺伝子、又は当該ヒトの特定分子が関与するシグナルカスケードの下流に存在する分子もしくはそれをコードする遺伝子の発現量や被験物質の含有量をフローサイトメトリー、ウェスタンブロット、RT-PCR、real-time PCR等を用いて定量し、被験物質投与前後における当該発現量や含有量の変化を分析する方法が挙げられる。また、これらの発現量や含有量の変化を分析することに加えて、又は代えて、ELISA法でヒトの特定分子に対する抗体の力価を定量する方法や、免疫沈降にてヒトの特定分子のリン酸化の増強又は抑制や下流シグナルの増強又は抑制をタンパク質レベルで分析する方法等が挙げられる。
【0038】
(2−2)スクリーニング方法
本発明は、下記工程を含む疾患の治療候補物質のスクリーニング/評価方法を提供する。
(a)上記本発明のトランスジェニック非ヒト動物に被験物質を投与する工程、
(b)前記被験物質を投与した前記トランスジェニック非ヒト動物におけるヒトの特定分子を発現する器官又は組織を調べ、被験物質を投与しない対照における器官又は組織と比較する工程、ならびに
(c)前記比較結果に基づいて、より望ましい薬効を持つ又は持つと予想される被験物質を選択する、あるいは、被験物質の薬効/安全性を評価する、工程。
【0039】
前記(a)において、被験物質及びその投与方法は、上記特性評価方法に記載されたものと同様である。
【0040】
前記工程(b)において、被験物質を投与した動物におけるヒトの特定分子を発現する器官、又は組織を調べる方法としては、上記特性評価方法に記載された分析方法を用いることができる。被験物質を投与しない対照動物についても同様に調べることができる。
【0041】
前記工程(c)において、工程(b)で得られた比較結果に基づき、ヒトの特定分子の機能や活性を増強又は阻害する被験物質を選択する、あるいは、被験物質の薬効/安全性を評価する。選択/評価する基準は、被験物質を投与していない対照動物の結果を指標にすればよい。
【0042】
このようにして評価又は選択された被験物質は、ヒトの特定分子の機能や活性の増強又は抑制に起因する疾患を改善させる作用を有するものであり、当該疾患の治療候補薬となりうる。
【0043】
より具体的には、本発明は、下記工程を含む自己免疫疾患の治療候補物質のスクリーニング方法を提供する。
(a)ヒトの特定分子としてヒトCD20を発現する上記本発明のトランスジェニック非ヒト動物に被験物質である抗体を投与する工程、
(b)前記抗体を投与した前記トランスジェニック非ヒト動物における、ヒトCD20を発現するリンパ球を採取してフローサイトメトリーで評価する、及び/又は、血清を採取してELISA法で自己抗体の力価を定量する、及び/又は、ウェスタンブロット、免疫沈降にてヒト抗原のリン酸化抑制や下流シグナルの抑制をタンパク質レベルで確認し、抗体を投与しない対照における結果と比較する工程、ならびに
(c)前記比較結果に基づいて、リンパ球の活性化を抑制し、自己抗体の産生を抑制し得る抗体を自己免疫疾患の治療候補物質として選択することができる。
【0044】
また、より具体的には、本発明は、下記工程を含む、公知の分子標的医薬に対して耐性を有する疾患の治療候補物質のスクリーニング方法を提供する。
(a)公知の分子標的医薬(ゲフィチニブ、エルロチニブ、セルメチニブ、アファチニブ、ネラチニブ、ベムラフェニブ、ダサチニブ、イマチニブ等)に対する耐性に関与する、ヒトの特定分子(EGFR、KRAS、HER2、BRAF、DDR2等)の変異型を発現するトランスジェニック非ヒト動物に被験物質及び当該分子標的医薬を投与する工程、
(b)前記被験物質を投与した動物における変異型のヒトの特定分子を発現する器官又は組織を採取して、そこに発現する変異型のヒトの特定分子又はそれをコードする遺伝子、あるいは当該ヒトの特定分子が関与するシグナルカスケードの下流に存在する分子又はそれをコードする遺伝子の発現量を遺伝子レベル及び/又はタンパク質レベルで定量するか、当該ヒトの特定分子に対する抗体の力価を定量し、被験物質を投与しない対照における定量結果と比較する工程、ならびに
(c)前記比較結果に基づいて、分子標的医薬に対する感受性を増強し得る被験物質を前記疾患の治療候補物質として選択する工程。このようにして選択された被験物質は、前記変異型のヒトの特定分子の機能や活性の増強又は抑制に起因する疾患を改善させる作用を有するものであり、公知の分子標的医薬に対して耐性を有する疾患の治療候補物質となりうる。
【0045】
以下の実施例をもって本発明を詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら制限されるものでない。
【実施例】
【0046】
[実施例1]ヒトCD20、およびマウスCD20遺伝子のゲノム配列を含むBACの選択
CD20遺伝子のcDNA配列をもとにしてヒトゲノム配列を検索し、CD20遺伝子が存在する染色体とその領域を確認した。さらに、cDNA配列とゲノム配列を並べて、CD20遺伝子のエキソン-イントロン構造を明らかにした。同様に、マウスCD20遺伝子のcDNA配列をもとにしてマウスゲノム配列を検索し、CD20遺伝子が存在する染色体とその領域、およびCD20遺伝子のエキソン-イントロン構造を明らかにした。ヒトCD20、およびマウスCD20遺伝子座をコードするBACクローンを探索するために、それぞれのcDNA配列をクエリーにしたBACコンティグクローンに対してBLAST解析を行った。また、末端配列のDNA配列のみが明らかになっているBESクローンの検索も行なった。
【0047】
マウスCD20遺伝子のcDNA配列(GenBank NM_007641)をもとにしてマウスゲノムDNA配列を検索したところ、マウスCD20遺伝子は19番染色体の198.19cM領域に存在することがわかった。マウスCD20遺伝子のcDNA配列とマウスゲノム配列を並べたところ、マウスCD20遺伝子のコード領域も15kbにわたるゲノム配列に7個のエキソンでコードしていることが明らかになった。次に、マウスCD20遺伝子座をコードするBACクローンを探索したところ、RP23-117H19に、マウスCD20遺伝子座のゲノムDNA配列が含まれていることがわかった。このBACクローンにはマウスCD20遺伝子座とともに、5’上流の111kbのゲノム配列、および3’下流の83kbのゲノム配列を含む、19番染色体の209.9kbがカバーされている。以上の遺伝子情報から、この209.9kbのBACクローン、RP23-117H19にはCD20遺伝子をドライブする全ての発現制御配列が含まれていると考えることができる、このクローンを利用してヒトCD20遺伝子の発現ベクターを構築することが合理的であると判断した。一方、ヒトCD20遺伝子のcDNA配列(GenBank NM_152866)をもとにしてヒトゲノムDNA配列を検索したところ、ヒトCD20遺伝子は11番染色体の11q12領域に存在することがわかった。ヒトCD20遺伝子のcDNA配列とヒトゲノム配列を並べたところ、ヒトCD20遺伝子のコード領域は14kbにわたるゲノム配列に8個のエキソンでコードしていることが明らかになった。次に、ヒトCD20遺伝子座をコードするBACクローンを探索したところ174.6kbのサイズのRP11-792H2に、ヒトCD20遺伝子座の全てのゲノムDNA配列を含んでいることがわかった。
【0048】
[実施例2]ヒトCD20をコードするゲノム配列とマウスCD20遺伝子のゲノム配列を含む組換えBAC発現ベクターの設計
実施例1に示した解析結果から、ヒトCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのヒトCD20遺伝子ゲノムDNA配列を、マウスBACクローンのCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのマウスCD20遺伝子ゲノムDNA配列と正確に置換して、マウスCD20遺伝子座の5’上流のゲノム配列、および3’下流のゲノム配列を含むヒトCD20遺伝子の組換えBAC発現ベクターを構築する方法の設計を行った。下の表に示したように、ヒトCD20遺伝子のヒトCD20遺伝子のイントロン4の配列、ヒトCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのヒトCD20遺伝子ゲノムDNA配列の両端の配列、およびマウスBACクローンのCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのマウスCD20遺伝子ゲノムDNA配列3'側末端、5'側末端を大腸菌内での能動型相同組み換え反応のためのキー配列とした。
CD20-H1:
[5']atgacaacacccagaaattcagtaaatgggactttcccggcagagccaat[3’] (配列番号1)
CD20-H2:
[5']ctccccaagatcaggaatcctcaccaatagaaaatgacagctctccttaa[3’] (配列番号2)
CD20-H3:
[5']cctagacatttagactagatagcaagatgttttggaaagcaagaggcagc[3’] (配列番号3)
CD20-H4 :
[5']aggaacatccacttccatctaccccttcttgcttacaattctgtttggtt[3’] (配列番号4)
CD20-H5:
[5']aagactctgatctcacctcactgtcttattttcaggcgtttgaaaactca[3’] (配列番号5)
CD20-H6:
[5']actcttttcttttctaagcattattgtttagagagcttccaagacacata[3’] (配列番号6)
【0049】
[実施例3]ヒトCD20遺伝子の組換えBAC発現ベクターの構築、精製
まず、ヒトBACクローンのCD20遺伝子のヒトCD20遺伝子のイントロン4にポジティブ/ネガティブセレクションマーカーカセットを挿入するために、CD20-H3配列、Rpsl-kan、およびCD20-H4配列をタンデムにつないだDNAフラグメントを、LA-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRにより構築した(CD20 Rpsl-kanブレークインフラグメント)。Red systemの能力を有した大腸菌株に、CD20遺伝子座を含むヒトBACクローンとCD20 Rpsl-kanブレークインフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed systemを誘導し、クロラムフェニコール耐性、かつカナマイシン耐性のコロニーをピックアップすることにより、CD20 Rpsl-kanブレークインフラグメントをCD20遺伝子座のヒトCD20遺伝子のイントロン4に挿入した組み換えBACクローンをスクリーニングした(ヒトCD20 Intermediate)。そして、このヒトCD20 Intermediateから、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトCD20遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターにサブクローニングするため、H2-H6-SacB-pBluescript-H5-H1をタンデムにつないだDNAカセットを構築した(CD20プレトランスファープラスミド)。上記と同様の方法で、Red systemの能力を有する大腸菌株に、ヒトCD20 Intermediateとともに、直鎖化したCD20プレトランスファープラスミドを導入し、このホスト大腸菌内でRed systemを誘導してアンピシリンおよびカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトCD20遺伝子のゲノムDNA配列を持つプラスミドをスクリーニングした(ヒトCD20トランスファープラスミド)。次に、制限酵素反応により、このヒトCD20トランスファープラスミドから、マウスゲノム配列に由来するH5配列とH6配列を両端に持ち、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトCD20遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターから切り出した(ヒトCD20トランスファーフラグメント)。上記と同様の方法で、Red systemの能力を有する大腸菌株に、マウスCD20BACクローンとともに、ヒトCD20トランスファーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed systemを誘導してクロラムフェニコール、およびカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのマウスCD20遺伝子ゲノムDNA配列を、ヒトCD20トランスファーフラグメントの翻訳開始コドンから停止コドンまでのヒトCD20遺伝子ゲノムDNA配列と正確に置換したマウスCD20/ヒトCD20遺伝子の組換えBACクローンをスクリーニングした(マウスCD20/ヒトCD20RecBAC Intermediate)。最後に、ヒトCD20遺伝子座のヒトCD20遺伝子のイントロン4配列をPCRで増幅し、ネガティブセレクションによりヒトCD20遺伝子のヒトCD20遺伝子のイントロン4に挿入したRpsl-kanを除去するためのDNA配列とした(ヒトCD20リペアーフラグメント)。上記と同様の方法で、Red systemの能力を有する大腸菌株にマウスCD20/ヒトCD20RecBAC Intermediateとともに、ヒトCD20リペアーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed systemを誘導してクロラムフェニコール、およびストレプトマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのマウスCD20遺伝子ゲノムDNA配列を、ヒトCD20遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのヒトCD20遺伝子ゲノムDNA配列と正確に置換したマウスCD20/ヒトCD20遺伝子の組換えBACクローンの構築を行なった(ヒトCD20RecBAC)。シークエンス解析により、Red systemで接合したH1〜H6のゲノムDNA配列を確認した。
【0050】
ヒトCD20組換えBACクローンにより形質転換したDH10Bセルを、クロラムフェニコールを含むLBアガー培地上でクローニングし、そのシングルコロニーをピックアップして液体培地で一昼夜震盪培養した。ヒトCD20組換えBAC遺伝子発現コンストラクトを、一部改変した阿部らの方法(ExpAnim. 2004 53(4):311-20.Establishment of an efficient BAC transgenesis protocol andits application to functional characterization of the mouse Brachyury locus. Abe K,Hazama M, Katoh H, Yamamura K, Suzuki M.)に従い、ヒトCD20組換えBACクローンをプラスミド抽出キット(マッキリーナーゲル社、Nucleobond BAC100キット)を用いて精製し、PI-SceIを加えて37℃、16時間反応させてダイジェスチョンを行った。直鎖化したヒトCD20 組換えBACクローンを1%SeaKem GTG アガロースゲル(タカラバイオ)にアプライし、パルスフィールド電気泳動装置(バイオラッド、CHEF DR-II)により、6 v/cm、0.1-40 sec、15hr、14℃の条件で電気泳動を行った。サンプルの一部をガイドマーカーとしてUVトランスイルミネーターにより可視化することによって、アガロースゲル中に分離した直鎖化したヒトCD20 組換えBACクローンをUV照射することなく、カミソリで切り出した。得られた長鎖DNA断片を電気溶出法によりアガロースゲルから抽出し、マイクロインジェクション用に調製したTEバッファーで、4℃、2時間透析した。精製したDNA断片をパルスフィールド電気泳動にアプライして、より長鎖DNA断片が分断することなく高度に精製されていることを確認するとともに、NanoDrop分光光度計(旭テクノグラス社)によりそのDNA濃度を決定した。このDNA断片の溶液を0.5 ng/μlになるように希釈してトランスジェニックマウス作出用の発現コンストラクトの溶液を調製した。
【0051】
[実施例4]ヒトCD20遺伝子の組換えBAC発現ベクターの受精卵への導入、および遺伝子導入受精卵の仮親動物への移植
雌性Balb/cマウス(日本チャールスリバー社)にPMSGおよびhCGを投与して過排卵を誘起し、同系統の雄性マウスと交配した後、受精卵を採取した。マイクロマニュピレーターを用いて、Balb/cマウスの前核期胚の雄性核に、精製したヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトを直接注入した。このDNA注入胚を偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に移植した。ヒトCD20 組換えBAC発現コンストラクトを注入したBalb/cマウス受精卵から自然分娩により得た産子を、離乳まで保育した。CD20ヒト抗原マウス、ファウンダー候補個体を4週令で離乳し、個体識別のための耳標をつけた後に、尾部組織を生検して解析に供するまで-80℃に保管した。PMSGおよびhCG投与により過排卵誘起して交配したBalb/c雌性マウスから、合計1433個の受精卵を採取することができた。マイクロインジェクション法により合計377個の受精卵にヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトを注入した。マイクロインジェクションを受けたマウス受精卵を顕微鏡下で観察したところ、注入操作によるダメージで死滅した受精卵はわずかで、合計352個の受精卵はマイクロインジェクションを受けた後も安定な状態を保っていた。これらのダメージなく発現コンストラクトを注入できた349個の受精卵を偽妊娠マウスに移植することができた。発現コンストラクトを注入した受精卵を移植した仮親マウスから約3週間の妊娠期間を経た後に、合計61頭のマウス産子を得ることができた。これらの産子を分娩した仮親に哺育した結果、合計59頭の個体を離乳まで育成することができた。これらの離乳した全ての個体の一部から尾部組織のサンプルを回収した。
【0052】
[実施例5]CD20ヒト抗原マウスの選別
-80℃で保存しておいた離乳まで育成したCD20ヒト抗原マウスの候補個体の尾部組織を室温で融解し、1%SDS(和光純薬)、1 mg/mlアクチナーゼE(科研製薬)および0.15 mg/mlプロテナーゼK(メルク)を含むライシスバッファーを加え、55℃で16時間震盪して組織を可溶化した。フェノール抽出、およびフェノール/クロロフォルム抽出を行って、組織から可溶化したゲノムDNAに結合するタンパク質を除去した。ゲノムDNAに混在するRNAをRNase A(シグマ)により分解した後、イソプロパノール沈澱により高分子ゲノムDNAを析出した。析出したゲノムDNAを70%エタノールで洗浄して風乾した後、50μlのTEに再溶解した。各検体から調製したゲノムDNA溶液のDNA濃度を吸光法により決定し、各検体のDNA濃度の値からDNA5μgに相当するゲノムDNA溶液の容量を算出した。マイクロインジェクションに使用した発現コンストラクトを1、3、10、および30コピーになるように希釈し、別途調製したコントロールマウスのゲノムDNA5μgを加えて、サザン解析の陽性対照DNAを調製した。一方、コントロールマウスのゲノムDNA5μgをサザン解析の陰性対照DNAとした。各検体から調製したゲノムDNA、陽性対照DNA、および陰性対照DNAに制限酵素を加えて、37℃、16時間の反応を行った。生成したゲノムDNAのヒトCD20組換えBAC断片をイソプロパノール沈澱により析出し、70%エタノールで洗浄して風乾した後、TEに再溶解した。これらのゲノムDNA断片を1.2%のアガロースゲルにアプライして電気泳動し、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片をUVトランスイルミネーターにより可視化し、スケールとともに写真撮影した。このアガロースゲルを0.25N 塩酸に浸して10分間緩やかに震盪した後、0.4N水酸化ナトリウムに浸してさらに10分間緩やかに震盪した。0.4N水酸化ナトリウムを用いたキャピラリー法により、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片を、室温で16時間、ナイロンメンブレン(Hybond-XL; GEH)にトランスファーした。ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンを2XSSCに浸して10分間緩やかに震盪した後に風乾し、ハイブリダイゼーションに用いるまで室温で保存した。DNAラベル化キット(Megaprime DNA Labelling System;GEH)を用いて、ランダムプライム法によりヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトからサブクローニングしたヒトCD20プローブ用フラグメントを[32P]ラベルした。セファデックススピンカラム(ProbeQuant G-50 Micro Columns; GEH)を用いて[32P]ラベル化したフラグメントを精製し、[32P]ラベル化ヒトCD20プローブとした。ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッファーに入れて、65℃で1時間プレインキュベートした。その後、95℃、5分間加熱し、直後に5分間氷冷し、変性した[32P]ラベル化プローブを加えて、65℃で4時間インキュベートした。インキュベーション終了後にナイロンメンブレンを取り出し、0.1% SDS、0.5XSSCで65℃で約15分間洗浄した。サーベイメーターでメンブレンに結合したプローブに由来する放射活性をモニターし、放射活性がほぼ一定になるまでこの洗浄を繰り返した。洗浄したメンブレンをサランラップで覆い、暗室内でX線フィルム(BioMax MS; コダック)を重ねてオートラジオグラフィーカセットに入れた。4℃で1週間感光した後にX線フィルムを現像した。ヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトに由来する特異的なシグナルをオートラジオグラフィーで検出し、[32P]ラベル化プローブとのハイブリダイゼーションによる特異的なシグナルをもたらす個体をCD20ヒト抗原マウス、ファウンダー個体として同定した。各検体のシグナルの強度を陽性対照DNAのシグナルの強度と比較して、ゲノムに導入した発現コンストラクトのコピー数を概算した。
【0053】
CD20ヒト抗原マウスのファウンダー候補となる産子の尾部組織から高純度のゲノムDNAを抽出し、吸光法により調製したゲノムDNA溶液のDNA濃度を決定した。各検体から調製したゲノムDNA、陽性対照DNA、および陰性対照DNAを制限酵素で消化し、1.2%のアガロースゲル電気泳動で分離した。ランダムプライム法によりプローブ用フラグメントを[32P]ラベルし、ゲノムDNA断片がトランスファーしたナイロンメンブレンとともにインキュベートしてハイブリダイズした。ナイロンメンブレンを洗浄して非特異的に結合した放射性プローブを除去し、[32P]ラベル化プローブと特異的に結合するゲノムDNA断片をオートラジオグラフィーで検出した。[32P]ラベル化プローブを用いたハイブリダイゼーションにより、全ての陽性対照であるヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトの断片から発現コンストラクトに由来する特異的なシグナルを検出することができた。また、全ての陽性対照から発現コンストラクト由来のハイブリダイゼーションシグナルを検出できたことから、[32P]ラベル化プローブを用いたサザン解析により、宿主ゲノムにインテグレートされた1コピー以上の発現コンストラクトを検出できることがわかった。CD20ヒト抗原マウスファウンダー候補となる産子から抽出したゲノムDNA断片と[32P]ラベル化プローブのハイブリダイゼーションにより、ヒトCD20 組換えBAC発現コンストラクトを導入したトランスジェニックマウスファウンダー、合計18頭を同定した。これらのトランスジェニックマウスファウンダーに導入した発現コンストラクトのコピー数は、1コピーから30コピーであった。
【0054】
[実施例6]CD20ヒト抗原マウス(ファウンダー)からの系統樹立
系統樹立に供するCD20ヒト抗原マウス(ファウンダー)を繁殖期まで育成させ、雄性個体から精巣上体を摘出して尾部より体外受精に供する精子を回収し、TYH溶液にて2時間の前培養を行った。3〜4週齢の雌性Balb/c系統マウスに妊馬血清性腺刺激ホルモン(PMSG:あすか製薬株式会社)5IUを腹腔内に注射し、その48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG:あすか製薬株式会社)5IUを腹腔内に注射して、過剰排卵を誘起した。過剰排卵を誘起した雌性Balb/c系統マウスを、hCG投与の16-18時間後に頸椎脱臼にて安楽死させ、卵管を摘出してその卵管膨大部より未受精卵を回収し、HTF溶液に加えた。前培養した精子の一部を未受精卵を含むHTF溶液に添加して4-6時間媒性し、その後mWM溶液内に移してさらに24時間体外培養を行って、F1個体の後代の受精卵を得た。体外受精により得たこれらの受精卵の中で、2細胞期に達した胚のみを回収し、偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に20個程度ずつ移植して、CD20ヒト抗原マウス(ファウンダー)からの系統樹立に供した。自然分娩により得た産子を、離乳まで保育した。CD20ヒト抗原マウス、F1個体を4週令で離乳させ、個体識別のための耳標をつけた後に、尾部組織を生検して解析に供するまで-80℃に保管した。-80℃で保存しておいたヒトCD20 RecBACトランスジェニックマウスのF1個体の尾部組織を室温で融解させ、1%SDS(和光純薬)、1 mg/mlアクチナーゼE(科研製薬)および0.15 mg/mlプロテナーゼK(メルク)を含むライシスバッファーを加え、55℃で16時間震盪して組織を可溶化した。フェノール抽出、およびフェノール/クロロフォルム抽出を行って、組織から可溶化したゲノムDNAに結合するタンパク質を除去した。ゲノムDNAに混在するRNAをRNase A(シグマ)により分解した後、イソプロパノール沈澱により高分子ゲノムDNAを析出した。析出したゲノムDNAを70%エタノールで洗浄して風乾した後、50μlのTEに再溶解した。各検体から調製したゲノムDNA溶液のDNA濃度を吸光法により決定し、各検体のDNA濃度の値からDNA5μgに相当するゲノムDNA溶液の容量を算出した。マイクロインジェクションに使用した発現コンストラクトを1、3、10、および30コピーになるように希釈し、別途調製したコントロールマウスのゲノムDNA5μgを加えて、サザン解析の陽性対照DNAを調製した。一方、コントロールマウスのゲノムDNA5μgをサザン解析の陰性対照DNAとした。各検体から調製したゲノムDNA、陽性対照DNA、および陰性対照DNAに制限酵素を加えて、37℃、16時間の反応を行った。生成したゲノムDNAのヒトCD20組換えBAC断片をイソプロパノール沈澱により析出し、70%エタノールで洗浄して風乾した後、TEに再溶解した。これらのゲノムDNA断片を1.2%のアガロースゲルにアプライして電気泳動し、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片をUVトランスイルミネーターにより可視化し、スケールとともに写真撮影した。このアガロースゲルを0.25N 塩酸に浸して10分間緩やかに震盪した後、0.4N水酸化ナトリウムに浸してさらに10分間緩やかに震盪した。0.4N水酸化ナトリウムを用いたキャピラリー法により、アガロースゲル中に分離したゲノムDNA断片を、室温で16時間、ナイロンメンブレン(Hybond-XL; GEH)にトランスファーした。ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンを 2XSSCに浸して10分間緩やかに震盪した後に風乾し、ハイブリダイゼーションに用いるまで室温で保存した。DNAラベル化キット(Megaprime DNA Labelling System;GEH)を用いて、ランダムプライム法によりヒトCD20 組換えBAC発現コンストラクトからサブクローニングしたヒトCD20プローブ用フラグメントを [32P]ラベルした。セファデックススピンカラム(ProbeQuant G-50 Micro Columns; GEH)を用いて[32P]ラベル化したフラグメントを精製し、[32P]ラベル化ヒトCD20プローブとした。ゲノムDNA断片をトランスファーしたナイロンメンブレンをハイブリダイゼーションバッファーに入れて、65℃で1時間プレインキュベートした。その後、95℃、5分間加熱し、直後に5分間氷冷し、変性した[32P]ラベル化プローブを加えて、65℃で4時間インキュベートした。インキュベーション終了後にナイロンメンブレンを取り出し、0.1% SDS、0.5XSSCで65℃で約15分間洗浄した。サーベイメーターでメンブレンに結合したプローブに由来する放射活性をモニターし、放射活性がほぼ一定になるまでこの洗浄を繰り返した。洗浄したメンブレンをサランラップで覆い、暗室内でX線フィルム(BioMax MS; コダック)を重ねてオートラジオグラフィーカセットに入れた。4℃で1週間感光した後にX線フィルムを現像した。ヒトCD20組換えBAC発現コンストラクトに由来する特異的なシグナルをオートラジオグラフィーで検出し、[32P]ラベル化プローブとのハイブリダイゼーションによる特異的なシグナルをもたらす個体をCD20ヒト抗原マウス、F1個体として同定した。各検体のシグナルの強度を陽性対照DNAのシグナルの強度と比較して、ゲノムに導入された発現コンストラクトのコピー数を概算した。
【0055】
系統化に供した6頭のTgマウス、ファウンダー個体のうち、複数のF1個体にトランスジーンを伝達した系統は合計5系統であった。このTgマウスの系統化効率から、この発現コンストラクトが胎児の発生や発育に重大な影響を及ぼすものではないことが示された。
【0056】
[実施例7]CD20ヒト抗原マウスへのヒト化抗体投与によるB細胞除去作用
系統化に成功したCD20ヒト抗原マウス、F1個体を繁殖期まで育成させ、上記と同様の方法で、CD20ヒト抗原マウス、雄性F2個体と雌性野生型Balb/c系統マウスとの体外受精によりF2世代の受精卵を得た。これらの受精卵の中で2細胞期に達した胚のみを回収し、400個程度の胚を偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に20個程度ずつ移植した。自然分娩で産まれるCD20ヒト抗原マウス、F2個体を4週令で離乳させ、PCRによりCD20ヒト抗原マウス、F2個体を選別した。CD20ヒト抗原マウス、雌性F2個体には過剰排卵を誘起させ、雄性野生型Balb/c系統マウスとの体外受精によりF3世代の受精卵を凍結保存した。この体外受精による交配、繁殖を3回行って、合計120頭程度のCD20ヒト抗原マウス、雄性F2個体を作出し、CD20ヒト抗原マウスへのヒト化抗体投与によるB細胞除去作用を比較した。CD20ヒト抗原マウス、雄性F2個体を各実験群に割り付け、それぞれBM-ca、rituximab、ofatumumab、および陰性対照IgGを投与し、抹消血Bリンパ球、リンパ組織由来Bリンパ球の除去作用を調べた。各実験群の8〜12週齢のCD20ヒト抗原マウス、雄性F2個体に、250μgの陰性コントロールIgG(タイプマッチ)、BM-ca、rituximab、およびofatumumabを、それぞれ静脈内に単回投与した。抗体を投与した日をday0として、day2、day7、day14、day21、day35、およびday56に、各群から3〜4頭ずつを選び麻酔下で血液を採取して、血清を分離して保存するとともに、抹消血リンパ球を回収した。同時に、脾臓、および腸間膜リンパ節を採取して、脾臓の一部を免疫染色用に凍結保存するとともに、リンパ組織由来リンパ球を回収した。フローサイトメトリーによりこれらのリンパ球に残存するBリンパ球の数を評価するともに、さらに脾臓の免疫組織染色を行い、B細胞の数を評価した。その結果、陰性コントロールIgG投与群では抹消血リンパ球、リンパ組織由来リンパ球におけるB細胞数に変化は見られなかったが、BM-ca、rituximab、およびofatumumab投与群ではday2で抹消血リンパ球、リンパ組織由来リンパ球におけるB細胞数が著しく減少し、時間とともに回復するもののday35まで陰性コントロールIgG投与群に比べて有意に低下していた。
【0057】
[実施例8]関節炎を誘発したCD20ヒト抗原マウスへのヒト化抗体投与による関節炎抑制作用
凍結保存されたCD20ヒト抗原マウス、F3世代の受精卵を融解させ、400個程度の胚を偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に20個程度ずつ移植した。自然分娩で産まれるCD20ヒト抗原マウス、F3個体を4週令で離乳させ、PCRによりCD20ヒト抗原マウス、F3個体を選別した。CD20ヒト抗原マウス、雌性F3個体には過剰排卵を誘起させ、雄性野生型Balb/c系統マウスとの体外受精によりF4世代の受精卵を凍結保存した。この体外受精による交配、繁殖を2回行って、合計60頭程度のCD20ヒト抗原マウス、雄性F3個体を作出し、関節炎を誘発したCD20ヒト抗原マウスへのヒト化抗体投与による関節炎抑制作用を確認した。CD20ヒト抗原マウス、雄性F3個体を下に示す実験群に割り付け、抗体カクテルによる関節炎を誘発させるとともに、それぞれBM-ca、rituximab、ofatumumab、および溶媒を投与し、関節炎発症の抑制作用を調べた。各実験群の8週齢のCD20ヒト抗原マウス、雄性F3個体に、溶媒のみ、0.25 mgのBM-ca、0.5 mgのBM-ca、1.0 mgのBM-ca、0.5 mgのrituximab、および1.0 mgのrituximabを、それぞれ腹腔内に投与した。最初の抗体を投与した日をday0として、day4、day7、day11、day14、およびday18に、それぞれ同じ用量のBM-ca、rituximabを腹腔内に投与した。Day 3に、1.5 mgの関節炎誘発用モノクローナル抗体カクテルを各実験群のCD20ヒト抗原マウスの静脈内に単回投与し、Day 6に50μgのLPSを腹腔内投与して、急性関節炎を誘発した。day0からday21にわたり、連日各実験群のCD20ヒト抗原マウスの関節炎の発症を観察し、四肢関節の関節炎スコアー、および後肢の中央部の肥厚をノギスで測定して記録した。day21の評価が終わった後に、各実験群のCD20ヒト抗原マウス全てから麻酔下で血液を採取して、血清を分離して保存するとともに、抹消血リンパ球を回収した。同時に、脾臓、および腸間膜リンパ節を採取して、脾臓の一部を免疫染色用に凍結保存するとともに、リンパ組織由来リンパ球を回収した。後肢を足関節より約5mmほど中枢側で切断し、10%中性緩衝ホルマリンで2日間固定した後、24時間脱灰してパラフィンブロックを作製し、HE染色標本を作製して病理組織的評価を行いた。その結果、溶媒投与群ではday8〜9にかけてCD20ヒト抗原マウスの四肢が肥厚を呈して明瞭な関節炎が発症し、その関節炎はDay21まで持続した。BM-ca、rituximab、およびofatumumab投与群ではCD20ヒト抗原マウスの関節炎の発症が遅延するとともに、Day21まで溶媒投与群に比べて関節炎の症状を有意に抑制した。後肢足関節の病理組織学的観察により、溶媒投与群ではCD20ヒト抗原マウスの関節への炎症細胞浸潤、滑膜増生、肥厚、軟骨破壊などの所見が著名であり、炎症による関節破壊が進展していた。BM-ca、rituximab、およびofatumumab投与群では溶媒投与群に比べてCD20ヒト抗原マウスのこれらの炎症所見が抑制され、顕著な関節破壊は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、ヒトの特定分子に対する分子標的物質や標的薬の特性や薬理作用や安全性を評価するに有用なヒト動物を迅速且つ容易に提供することができ、これによりヒトの特定分子に対する分子標的物質や標的薬の薬理作用や安全性を迅速に評価することができる。本発明は、分子標的物質や標的薬を含む新規薬剤の開発に大いに貢献することが期待される。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]