(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る血液バッグシステムについて好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る血液バッグシステム10の全体概略図である。この血液バッグシステム10は、複数の成分を含有する血液を比重の異なる複数の成分(例えば、軽比重成分及び重比重成分の2つの成分)に遠心分離し、各成分を異なるバッグに分けて収容、保存するためのものである。本実施形態に係る血液バッグシステム10は、全血から白血球及び血小板を除去した残余の血液成分を血漿及び濃厚赤血球の2つの成分に遠心分離し、血漿及び濃厚赤血球を異なるバッグに分けて収容、保存するように構成されている。
【0017】
血液バッグシステム10は、ドナーから血液(全血)を採取する血液採取部12と、全血から所定の血液成分を除去する前処理部14と、所定成分が除去された残余の血液成分を遠心分離して複数の血液成分に分けるとともに各成分を異なるバッグに収容(貯留)する分離処理部16とを有する。
【0018】
まず、血液採取部12について説明する。血液採取部12は、採血バッグ18と、採血チューブ20、22と、採血針24と、分岐コネクタ26と、初流血バッグ28とを有する。
【0019】
採血バッグ18は、ドナーから採取した血液(全血)を収容(貯留)するためのバッグである。採血バッグ18内には、予め抗凝固剤が入れられていることが好ましい。この抗凝固剤は、通常液体であり、例えば、ACD−A液、CPD液、CPDA−1液、ヘパリンナトリウム液等が挙げられる。これらの抗凝固剤の量は、予定採血量に応じた適正な量とされる。
【0020】
採血バッグ18は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンのような軟質樹脂製の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁のシール部において融着(熱融着、高周波融着)又は接着し、袋状に構成されたものである。なお、初流血バッグ28も同様に袋状に構成されたものである。
【0021】
また、採血バッグ18には、基端側の採血チューブ20の一端が接続される。採血チューブ20の途中部位には、採血チューブ20の流路を閉塞及び開放するクランプ30が設けられる。採血チューブ20の他端には、封止部材32の一端が接続される。封止部材32は、初期状態では流路が閉塞しているが、破断操作を行うことで流路が開通するように構成されたものである。
【0022】
封止部材32の他端には、分岐コネクタ26の第1ポート26aが接続される。分岐コネクタ26の第2ポート26bには、先端側の採血チューブ22の一端が接続され、採血チューブ22の他端には、採血針24が接続される。採血針24には、使用前まではキャップ24aが装着され、使用後はニードルガード24bが装着される。ニードルガード24bは、採血チューブ22に長手方向に沿って移動可能に配設されている。
【0023】
分岐コネクタ26の第3ポート26cには、分岐チューブ34の一端が接続される。分岐チューブ34の途中部位には、分岐チューブ34の流路を閉塞及び開放するクランプ36が設けられる。分岐チューブ34の他端には、初流血バッグ28が接続される。初流血バッグ28にはサンプリングポート38が接続される。なお、分岐コネクタ26の向きや配置は、
図1の構成に限られず、適宜変更可能である。
【0024】
前処理部14は、所定細胞を除去するフィルタ40と、一端が採血バッグ18に接続され他端がフィルタ40の入口に接続された入口側チューブ42と、一端がフィルタ40の出口に接続され他端が分離処理部16に接続された出口側チューブ44とを有する。
【0025】
本実施形態では、フィルタ40は、白血球除去フィルタとして構成されている。このような白血球除去フィルタとしては、軟質樹脂シートから形成された袋状のハウジング内に、一方の面から他方の面に連通する多数の微細な孔を有した通液性のある多孔質体を収容した構造のものを用いることができる。本実施形態では、フィルタ40は、血小板も補足できるように構成されている。
【0026】
入口側チューブ42は、ドナーから採取した血液を採血バッグ18からフィルタ40に移送するためのチューブであり、採血バッグ18の上部に接続されている。本実施形態では、入口側チューブ42の、採血バッグ18側の端部に封止部材46が設けられている。この封止部材46は、上述した封止部材32と同様の構成及び機能を有している。
【0027】
出口側チューブ44は、フィルタ40で所定細胞(本実施形態では、白血球及び血小板)が除去された残余の血液成分を分離処理部16(具体的には、後述する親バッグ50)に移送するためのチューブである。この出口側チューブ44の途中部位には、出口側チューブ44の流路を閉塞及び開放するクランプ48が設けられている。このクランプ48は、上述したクランプ30と同様のものを用いることができる。
【0028】
次に、分離処理部16について説明する。分離処理部16は、フィルタ40で所定細胞が除去された残余の血液成分を収容(貯留)する親バッグ50(第1バッグ)と、親バッグ50内の血液成分を遠心分離して得られた上清成分を収容及び保存する子バッグ52(第3バッグ)と、赤血球保存液M(添加液)を収容する薬液バッグ54(第2バッグ)と、親バッグ50、子バッグ52及び薬液バッグ54に接続された移送ライン55とを有する。
【0029】
親バッグ50、子バッグ52及び薬液バッグ54は、採血バッグ18と同様に、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンのような軟質樹脂製の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁のシール部において融着(熱融着、高周波融着)又は接着し、袋状に構成されたものである。
【0030】
親バッグ50は、フィルタ40で所定細胞が除去された残余の血液成分を収容(貯留)するためのバッグと、当該血液成分を遠心分離して得られた沈降成分(濃厚赤血球)を保存するためのバッグとを兼ねている。
【0031】
移送ライン55は、親バッグ50と子バッグ52とを接続し、且つ親バッグ50と薬液バッグ54とを接続する手段である。図示例の移送ライン55は、親バッグ50に接続された第1チューブ56と、子バッグ52に接続された第2チューブ58と、薬液バッグ54に接続された第3チューブ60と、第1〜第3チューブ56、58、60に接続された分岐コネクタ62(分岐部)とを有する。
【0032】
第1チューブ56の一端部(親バッグ50側の端部)には、破断可能な封止部材66が設けられており、破断操作が行われるまで、親バッグ50内の血液成分が他のバッグに移行することを防止する。この封止部材66は、上述した封止部材32と同様の構成及び機能を有している。
【0033】
第1チューブ56の他端部は、分岐コネクタ62の第1ポート62aと接続している。分岐コネクタ62の第2ポート62bには、第2チューブ58の一端が接続されている。分岐コネクタ62の第3ポート62cには、第3チューブ60の一端が接続されている。
【0034】
薬液バッグ54に収容される赤血球保存液Mとしては、MAP液、SAGM液、OPTISOL等が使用される。第3チューブ60の薬液バッグ54側の端部には、破断可能な封止部材68が設けられており、薬液バッグ54内の赤血球保存液Mが他のバッグに移行することを防止している。この封止部材68は、上述した封止部材32と同様の構成及び機能を有している。
【0035】
血液バッグシステム10における各チューブは、透明で柔軟な樹脂製のチューブである。クランプ30、36、48は従来から用いられている標準品でよい。またクランプ30、36、48は、使用箇所や使用用途によって色分けしておくとよい。血液バッグシステム10の滅菌時及び使用前の保管時には、クランプ30、36、48は開放状態となっており、各バッグの内部は連通して均一な滅菌状態となっている。
【0036】
血液バッグシステム10において、親バッグ50と薬液バッグ54との間の流路上には、多数の微細な孔を有する通液性を有する多孔質体63が設けられる。このような多孔質体63の例としては、天然、合成、半合成、再生の有機又は無機繊維からなる多孔質体(不織布等)、スポンジフォーム等の有機、無機多孔質体、孔成分の溶出、焼結、延伸、穿孔等により孔形成された多孔質体、有機又は無機の微粒子や細片を充填した多孔質体等が挙げられる。
【0037】
親バッグ50と薬液バッグ54の高低差を利用して薬液バッグ54から濃厚赤血球が収容された親バッグ50へ多孔質体63を介して赤血球保存液Mを移送する際、赤血球保存液Mで濡れた多孔質体63は、薬液バッグ54側からのエアが多孔質体63よりも親バッグ50側に移動することを阻止する機能を有する。
【0038】
このような機能を達成するため、多孔質体63に形成される孔の孔径は、親バッグ50と薬液バッグ54の高低差を利用して薬液バッグ54から濃厚赤血球が収容された親バッグ50へ多孔質体63を介して赤血球保存液Mを移送する際に、赤血球保存液Mは自重で多孔質体63を通過することができ、且つエアは赤血球保存液Mで濡れた多孔質体63を通過できないような孔径に設定される。多孔質体63は親水性を有し、濡れた後の多孔質体63の多孔内の赤血球保存液Mが、多孔質体63から親バッグ50の下端までの落差によって、多孔内から流出しないように設定される。
【0039】
具体的には、添加工程時に多孔質体63にかかる落差圧力を求め、孔径とバブルポイント圧との関係式(下記(1)式)から、多孔質体63に形成すべき孔の最大孔径を求めることができる。
d=4γcosθ/ΔP…(1)
ここで、dは孔径[m]、γは表面張力[N/m]、θは接触角[rad]、ΔPはバブルポイント圧(Pa)である。
【0040】
また、本システムで設定される落差(多孔質体63の中心から親バッグ50の下端までの高低差)は、例えば、15cmから180cm程度に設定され、好ましくは、50cmから90cm程度に設定される。
【0041】
多孔質体63は、親バッグ50と薬液バッグ54との間の流路上であれば、どの位置に設けられてもよい。しかしながら、後述するように、赤血球保存液Mを濃厚赤血球に添加する添加工程の終了時には多孔質体63と親バッグ50との間の流路内に赤血球保存液Mが残る。従って、多孔質体63は、できるだけ親バッグ50に近い位置に設けられることが好ましい。
【0042】
一方、親バッグ50と分岐コネクタ62との間の流路上に多孔質体63が設けられる場合、親バッグ50から子バッグ52へと第1チューブ56を介して血漿を移送する際に多孔質体63が流路抵抗となる。このため、多孔質体63は、第3チューブ60上、すなわち分岐コネクタ62と薬液バッグ54との間の流路上に設けられるとよい。この場合、多孔質体63は、できるだけ分岐コネクタ62に近い位置に設けられることが好ましい。分岐コネクタ62の第3ポート62cから多孔質体63までの距離は、例えば、0〜300mm程度に設定され、好ましくは0〜50mm程度に設定される。
【0043】
本実施形態において、多孔質体63は、第3チューブ60上に設けられたケース64内に収容されている。当該ケース64は、軟質材料、硬質材料のどちらで構成されてもよい。なお、ケース64を設けずに、第3チューブ60内に多孔質体63が直接挿入されることにより、分岐コネクタ62と薬液バッグ54との間の流路上に多孔質体63が配置されてもよい。
【0044】
本実施形態に係る血液バッグシステム10は、例えば、
図2に示す遠心分離移送装置70に装着して使用され得る。この遠心分離移送装置70は、親バッグ50内に収容した血液成分を遠心分離して、血漿及び濃厚赤血球の2層に分け、血漿を子バッグ52に移送し、濃厚赤血球を親バッグ50に残すために用いられる。
【0045】
遠心分離移送装置70は箱形状であって、装置本体71と、開閉可能な上面の蓋72と、内部の遠心ドラム74と、該遠心ドラム74内で等角度(60°)間隔に6つ設けられたユニット挿入孔76と、各ユニット挿入孔76に対して挿入及び離脱が可能な6つのインサートユニット78と、中心部に設けられ、各インサートユニット78に対して回転径方向に進退可能な6つの押子80(
図3等参照)とを有する。遠心分離移送装置70は、正面に設けられた操作部82の操作に基づいて動作し、図示しないマイクロコンピュータで制御される。
【0046】
基本的に遠心分離移送装置70には6つのインサートユニット78を装着するが、バランスが取れていれば5つ以下(好ましくは、等間隔角度に3つ又は2つ)でもよい。
【0047】
全血をフィルタ40で濾過して残余の血液成分を親バッグ50に移送して収容した後、血液バッグシステム10を遠心分離移送装置70に装着する前に、出口側チューブ44は、チューブシーラー等によって溶着し、漏れの無いように封止した上で切断される。このため、インサートユニット78に装着されるのは、血液バッグシステム10のうち、分離処理部16と、出口側チューブ44の一部のみである。
【0048】
本実施形態に係る血液バッグシステム10は、基本的には上記のように構成されるものであり、次に、その作用及び効果について説明する。
【0049】
図1に示す血液バッグシステム10を使用してドナーから血液を採取し、採取した血液から白血球及び血小板を除去し、残余の成分を血漿及び濃厚赤血球の2層に分離し、さらに、分離した成分ごとにバッグに分けて貯留する処理は、例えば、以下の手順によって行うことができる。
【0050】
まず、採血針24をドナーの皮膚に穿刺して、ドナーから血液を採取する採血工程を行う。採血工程では、採血バッグ18への血液の採取に先行して、ドナーからの血液の初流(採血初流)を所定量だけ初流血バッグ28に収容する。この場合、封止部材32を閉塞状態(初期状態)としたまま、クランプ36を開放状態とする。こうすることで、採血チューブ20側、すなわち採血バッグ18側への採血初流の流入が阻止される一方、採血チューブ22、分岐コネクタ26及び分岐チューブ34を経由して採血初流を初流血バッグ28に導入することができる。
【0051】
次に、サンプリングポート38に図示しない採血管を装着することにより、当該採血管に採血初流を採取する。採取した採血初流は、検査用血液として使用される。なお、用途によっては、分岐コネクタ26からサンプリングポート38までの部分は省略されてもよい。
【0052】
採血初流を採取し終えたら、クランプ36により分岐チューブ34を閉塞し、封止部材32に対して破断操作を行って、採血チューブ20の流路を開通させる。このとき、クランプ30を開放状態としておくと、ドナーからの血液は、採血チューブ22と採血チューブ20とを順に経由して採血バッグ18に流入する。
【0053】
所定量の血液を採血バッグ18に採取及び貯留したら、採血バッグ18内の血液が流出しないように、クランプ30により採血チューブ20を閉塞する。そして、チューブシーラー等によって採血チューブ20を溶着及び封止した後に採血チューブ20を封止した部分で切断する。
【0054】
次に、採血バッグ18を上方位置とし、親バッグ50を下方位置とし、その中間位置にフィルタ40を配置してから、入口側チューブ42の一端部に設けられた封止部材46に対して破断操作を行って、入口側チューブ42の流路を開通させる。これにより、採血バッグ18内の全血は、入口側チューブ42を介してフィルタ40に流入し、フィルタ40を通る過程で白血球及び血小板を除去され、出口側チューブ44を介して親バッグ50に流入し採取される。このとき、親バッグ50には、白血球及び血小板を除去された後の血液だけでなく、フィルタ40内に存在していたエアも流入する。
【0055】
その後、チューブシーラー等によって、出口側チューブ44をクランプ48より下流側の位置で溶着及び封止したうえで、出口側チューブ44を封止した部分で切断する。
【0056】
次に、親バッグ50に採取した血液成分を、血漿及び濃厚赤血球に分離し、それぞれ所定のバッグに貯留するために、血液バッグシステム10の分離処理部16を遠心分離移送装置70に装着する。この装着に際して、封止部材66に対して上述した破断操作を行って、封止部材66の流路を開通させる。封止部材66の破断操作は、親バッグ50を遠心分離移送装置70に装着する前でもよいし、装着した後でもよい。
【0057】
そして、血液バッグシステム10(具体的には、分離処理部16)をインサートユニット78に装着し、インサートユニット78をユニット挿入孔76に挿入し、
図3の模式図の状態とする。
図3において、双方向矢印で示すA方向は、遠心分離移送装置70の遠心ドラム74の半径方向であり、特に、A1方向は半径内方向であり、A2方向は半径外方向である。
【0058】
親バッグ50は、インサートユニット78に装着された状態で、縦向きに(上下方向に延在するように)保持され、バッグ本体部の厚さ方向がA方向となる向きで遠心分離移送装置70に収容される。従って、遠心分離移送装置70の遠心ドラム74の回転時、親バッグ50には、A2方向に遠心力がかかる。
【0059】
図3に示すように、遠心分離移送装置70は、第1チューブ56内を通過する液の種別を検知するセンサ90を備える。センサ90は、例えば、投光部及び受光部からなり、間を通過する液の光透過度合いに基づいてその液の種別を判定することができる。遠心分離移送装置70は、さらに、開閉動作可能であり開閉によって第2チューブ58の流路の開放及び閉塞を切り換えるクランプ92と、開閉動作可能であり開閉によって第3チューブ60の流路の開放及び閉塞を切り換えるクランプ94とを備える。
【0060】
なお、クランプ92、94は予め第2チューブ58及び第3チューブ60にそれぞれ装着され、遠心分離移送装置70には、クランプ92、94を開閉動作させる動作機構が設けられていてもよい。
【0061】
次に、遠心分離移送装置70の蓋72を閉じた後、操作部82を操作することによって遠心工程及び分離移送工程を自動的に行う。
図3に示すように、両クランプ92、94は遠心工程開始前に予め閉じられ、これにより第2及び第3チューブ58、60の各流路は閉塞される。親バッグ50内の上部には、エアが存在している。このエアは、フィルタ40内に存在していたエアがフィルタ40による血液の濾過時に親バッグ50内に流入したエアである。
【0062】
遠心分離移送装置70の自動動作では、まず遠心ドラム74を回転させることにより、親バッグ50に貯留された血液成分を血漿と濃厚赤血球とに分ける遠心工程を行う。
図4に示すように、遠心工程では、親バッグ50に貯留された血液成分が遠心力を受けることにより、重比重成分の濃厚赤血球が半径外方向(A2方向)に移り、軽比重成分の血漿が半径内方向(A1方向)に移り、2つの層に分離する。
【0063】
遠心分離移送装置70は、遠心工程の後にエア移送工程を実施する。エア移送工程では、遠心ドラム74の回転を維持したまま、クランプ94を開くことにより第3チューブ60の流路を開放状態にする。次に、
図5に示すように、押子80を半径外方向(A2方向)に変位させて親バッグ50を押圧する。親バッグ50は押子80と壁に挟まれて容積が減少するため、親バッグ50内からエアが吐出され、第1チューブ56、分岐コネクタ62、第3チューブ60を介して、エアが薬液バッグ54に流入する。
【0064】
遠心分離移送装置70は、エア移送工程の後に血漿の分離移送工程を実施する。具体的には、エアが親バッグ50から流出し終えたら、第1チューブ56は内径側に指向していることから、最も内径側に位置する血漿が親バッグ50から流出し始める。このとき、第1チューブ56に血漿が流れたことをセンサ90により検出したら、遠心ドラム74の回転を維持したまま、クランプ94を閉じることにより第3チューブ60を閉塞状態にするとともに、クランプ92を開くことにより第2チューブ58を開放状態にする。そうすると、親バッグ50から流出した血漿は、第1チューブ56、分岐コネクタ62及び第2チューブ58を介して子バッグ52に流入する。
【0065】
血漿が親バッグ50から流出し終えたら、
図6のように、濃厚赤血球が親バッグ50から流出し始める。このとき、第1チューブ56に赤血球が流れたことをセンサ90により検出したら、押子80を停止するとともに、クランプ92を閉じることにより第2チューブ58の流路を閉塞する。これにより、子バッグ52に赤血球が流入することが阻止される。
【0066】
以上の分離移送工程が終了したら、分離処理部16をインサートユニット78から取り出して、チューブシーラー等により第2チューブ58を溶着及び封止した後に切断することによって、血漿が収容された子バッグ52を切り離す。
【0067】
なお、チューブシーラー等による第2チューブ58の溶着、封止、そして切断は、クランプ92にチューブシール機能、切断機能を付加する等、遠心分離移送装置70内において、機械的な作動により行ってもよい。
【0068】
次に、赤血球保存液Mを濃厚赤血球に添加する添加工程を手作業で実施する。具体的には、
図7の模式図に示すように、赤血球保存液Mが収容された薬液バッグ54を逆さにして(口部を下方に向けて)上方位置に配置し、濃厚赤血球が収容された親バッグ50を下方位置に配置する。そうすると、薬液バッグ54内の赤血球保存液Mは、薬液バッグ54と親バッグ50の落差によって自重で下方へと移動を始める。この場合、薬液バッグ54内の上部、すなわち赤血球保存液Mの上方にエアが存在する。
【0069】
上述したように、多孔質体63は、赤血球保存液Mが自重で通過できる程度の通液性を有する。従って、自重で下降する赤血球保存液Mは、第3チューブ60、多孔質体63、分岐コネクタ62及び第1チューブ56を介して、親バッグ50に流入する。
【0070】
薬液バッグ54からの赤血球保存液Mの流出が終わると、次に、薬液バッグ54内に存在していたエアが第3チューブ60へと流出し始める。そして、
図8の模式図のように、エアは多孔質体63の上面まで到達するが、多孔質体63は赤血球保存液Mで濡れているため、エアは多孔質体63を通過することができない。すなわち、赤血球保存液Mで濡れた多孔質体63は、エアの通過を阻止する手段として機能する。この結果、エアは多孔質体63の上面までしか到達しないため、薬液バッグ54からのエアが親バッグ50に混入することはない。
【0071】
なお、添加工程の開始前の時点で、第3チューブ60及び多孔質体63内にはエアが存在しており、当該エアは添加工程の初期に多孔質体63を通過して親バッグ50内に流入する。しかし、第3チューブ60内及び多孔質体63内のエア量は薬液バッグ54内のエア量と比べてかなり少量であるため、添加工程時に親バッグ50内に流入するエア量も少量である。従って、添加工程の終了時において、エア抜き作業が必要な程度の量のエアは親バッグ50内に存在しない。
【0072】
エアが多孔質体63の上面に達したことを確認したら、第1チューブ56を溶着及び封止した後に切断することによって親バッグ50を切り離す。
【0073】
以上の処理を行うことにより、全血から白血球及び血小板を除去し、残余の血液成分を血漿及び濃厚赤血球の2つの成分に分離し、血漿及び濃厚赤血球を異なるバッグ(親バッグ50と子バッグ52)に分けて収容、保存することができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る血液バッグシステム10によれば、親バッグ50と薬液バッグ54の高低差を利用して、親バッグ50に収容された濃厚赤血球に赤血球保存液Mを添加する際、赤血球保存液Mで濡れた多孔質体63がエアの通過を阻止するため、薬液バッグ54からのエアが親バッグ50に混入することを防止することができる。従って、濃厚赤血球への赤血球保存液Mの添加後において、親バッグ50内にはエア抜き作業が必要な程度の量のエアは存在しない。よって、赤血球保存液Mの添加後のエア抜き作業をなくすことができる。
【0075】
本実施形態の場合、薬液バッグ54と分岐コネクタ62との間の流路上に多孔質体63が設けられるため、血漿を親バッグ50から子バッグ52へと移送する際に、多孔質体63が血漿の流れを阻害しない。よって、血漿の移送を支障なく実施することができる。
【0076】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。