【実施例1】
【0021】
図1ないし
図7は、本発明の実施例1による工作機械の主軸装置を説明するための図である。本実施例においては、チャック側を機械正面とし、該機械正面から見た状態で、手前側を前、奥側を後とし、左,右側を左,右としている。
【0022】
図において、1は旋盤(工作機械)のベッド(図示せず)上に配置固定される主軸装置であり、該主軸装置1は、モータ10を収容するモータ収容部2と主軸台3とを備えている。
【0023】
前記主軸台3は、前記モータ収容部2が内部に組み込まれる主軸ケース部4と、該主軸台3を前記ベッドに取り付ける取付け部16と、該取付け部16と前記主軸ケース部4との間に位置するように一体鋳造により形成され、冷却油(冷却媒体)Cを貯留する冷却油貯留部5とにより構成されている。
【0024】
前記モータ収容部2は、略円筒形状をなす鋳造製品であり、内部に主軸6が挿入されている。この主軸6の後端部(
図1左端部)6aは軸受7を介して前記モータ収容部2の軸受部2aにより回転自在に支持されている。また前記主軸6の前端部(
図1右端部)6bは、軸受8を介して前記主軸ケース部4の軸受部4aにより回転自在に支持されている。なお、9は前記主軸6の前端部6bに装着されたチャックである。
【0025】
また前記主軸6と前記モータ収容部2との間にビルトインタイプの前記モータ10が配設されている。このモータ10は、前記主軸6の外周面に固定されたロータ10aと、前記モータ収容部2の内壁面2bに固定されたステータ10bとを有する。
【0026】
前記主軸台3は、前述のように、主軸ケース部4,冷却油貯留部5及び取付け部16を一体形成した鋳造品である。前記主軸ケース部4の内壁面4cは前記モータ収容部2の円筒形状に対応した円形に形成されている。そしてこの内壁面4cには、前記モータ収容部2の円形の外壁面2cの前,後端部が圧入される結合部4b,4bが形成されており、これにより前記モータ収容部2は前記主軸ケース部4に同軸をなすように固定支持されている。また、前記結合部4bと外壁面2cとの間には冷却油の洩れを防止するシール部材11が介在されている。
【0027】
そして前記主軸ケース部4の内壁面4cと前記モータ収容部2の外壁面2cとの間には冷却油を流動させる左,右一対の冷却流路12,12′が形成されている。該左側の冷却流路12は、前記モータ収容部2の外壁面2cに、凸条のリブ13a〜13dを周方向に延びるように形成し、該全てのリブの外表面に前記主軸ケース部4の内壁面4cを当接させることにより形成されている。詳細には、
図6に示すように、前記左側の冷却流路12は、前記リブ13a,13b部分を通る経路12aと、前記リブ13c,13d部分を通る経路12bとで構成されている。
【0028】
なお、前記右側の冷却流路12′は、前記モータ収容部2の外壁面2cに、凸条のリブ13a′〜13d′を周方向に延びるように形成し、該全てのリブの外表面に前記主軸ケース部4の内壁面4cを当接させることにより形成されており、リブ13a′,13b′部分を通る経路12a′と、前記リブ13c′,13d′部分を通る経路12b′とで構成されている。
【0029】
前記経路12a,12bは、後述する給油貫通孔14a,14bの高さ方向中途部分から軸方向前,後端部寄りを下方に向かう流れC1,C3から、前記天壁5dの近傍に反転して軸方向中央側を上方に向かう流れC2,C4となり、軸方向中央部で合流する流れC5となった後、後述する排出貫通孔(排出口)14cから排出される。なお、
図6に示す冷却流路12の裏面側に形成された冷却流路12′も同じ構成となっている。従って、前記左側の経路12a,12b及び右側の経路12a′,12b′は、装置正面から見たとき左,右対称をなし、装置側面から見たとき前,後対称をなしている。
【0030】
前記冷却油貯留部5は、前,後側壁5a,5a′及び左,右側壁5b,5b′と、底壁5cと、天壁5dとで所要の容積を有する箱形状をなすように形成されており、前記主軸ケース部4の下部に連続するように一体的に形成されている。
【0031】
ここで
図7に示すように、前記冷却油貯留部5の前側壁5a及び左側壁5bは下側ほど前方,左方に位置する傾斜面をなしている。従って、前記冷却油貯留部5は、平面から見たとき、前記主軸ケース部4を鉛直方向に投影した仮想投影面Sより軸直角方向寸法及び軸方向寸法が大きくなっている。なお、5eは前記壁部の面剛性を確保するための補強用のリブである。
【0032】
また前記取付け部16は、前記底壁5cから左側壁5b側に突出する左フランジ部16aと、右側壁5b側に突出する右フランジ部16bで構成されている。
【0033】
ここで前記冷却油貯留部5の天壁5dは、前記主軸ケース部4の底部に兼用されており、従って前記モータ収容部2を下方から覆っている。そのため前記冷却油貯留部5に貯留されている温度の低い冷却油が前記モータ収容部2の下半部をより効果的に冷却することとなる。
【0034】
そして前記主軸ケース部4は、上述のように前記モータ収容部2の円筒形状に対応する円筒形状をなしており、その左,右側面には左,右の給排部4d,4d′が、上側ほど厚肉となるように形成されており、該左,右の給排部4d,4d′の外表面a,a′は鉛直面をなしている。前記左の給排部4dには、前記冷却油貯留部5内と前記冷却流路12とを連通させる直線状の給油貫通孔14a,14bが機械加工により形成されており、右の給排部4d′にも同様の給油貫通孔14a′,14b′が機械加工により形成されている。
【0035】
図3,
図5に示すように、前記左,右の給排部4d,4d′に形成された給油貫通孔14b,14b′の中途部b,b′は、前記経路12b,12b′の前記リブ13c,13c′で囲まれた部分に連通している。具体的には、前記給油貫通孔14b,14b′は、前記経路12b,12b′の一部を貫通するように、換言すれば給油貫通孔14b,14b′の中途部b,b′が経路12b,12b′の一部とラップするように配置されている。なお、前記給油貫通孔14a,14a′と経路12a,12a′についても同様である。
【0036】
ここで、
図4に示すように、前記4つの給油貫通孔14a,14a′及び14b,14b′は、前記モータ10ひいては主軸6の回転軸Aを含み前記仮想投影面Sに垂直の第1垂直面S1に対して対称となる位置で、かつ後述する排出貫通孔14c,14c′を結ぶ直線Bを含み、前記第1垂直面S1に直交し、さらに前記仮想平面Sに対して垂直の第2垂直面S2に対して対称となる位置に形成されている。換言すれば、前記4つの給油貫通孔14a,14a′,14b,14b′は、前記機械正面から見たとき左,右対称で、かつ機械側面から見たとき前,後対称をなすように配置されている。
【0037】
また、前記各給油貫通孔14a,14b及び14a′,14b′の上端部は前記左,右の給排部4d ,4d′の上面から上方に向けて、つまり前記冷却油貯留タンク5から離間する方向に開口しており、各開口部にはこれを封止するプラグ(封止部材)15が螺着されている。このプラグ15は、前記各給油貫通孔を冷却油で満たして空気を抜いた後に螺着するか、あるいは前記冷却流路の分岐部に達する長さのものとすることが望ましい。
【0038】
また前記左の給排部4dには、冷却油の排出口となる排出貫通孔14cが、前記給油貫通孔14a,14bの中間に位置し、かつ該給油貫通孔14a,14bと平行になるように形成されている。前記排出貫通孔14cは前記経路12a,12bが合流するリブ13b,13d間部分に連通している。なお、前記右の給排部4d′にも排出貫通孔14c′が同様に形成されている。
【0039】
本実施例1に係る主軸装置1では、図示しない冷却油クーラーにより所定温度に冷却された冷却油が、前記冷却油貯留部5内に供給され、ここから左の給排部4dに形成された給油貫通孔14a,14bを通って左の冷却流路12の前,後のリブ13a,13cで囲まれた部分に供給され、経路12a,12bを通ってリブ13b,13d間部分で合流した後、排出貫通孔14cを通って排出される。前記右の冷却流路12′についても同様である。
【0040】
本実施例1では、冷却油貯留部5を、主軸ケース部4と取付け部16との間に、かつ前記主軸6に直交する幅寸法及び軸方向寸法が前記モータ収容部2より大きくなるように形成し、貫通孔14a,14bを形成したので、前記冷却流路12と冷却油貯留部5とを連通させることができると共に、冷却媒体Cの貯留容量を大きくでき、前記取付け部16の熱膨張を抑制できる。また、モータ収容部2を冷却油貯留部5側から直接冷却するので、主軸6の冷却油貯留部5側の温度上昇を抑制でき、主軸6の熱変位ひいては加工ポイントの熱変位を抑制でき、加工精度への悪影響を抑制できる。
【0041】
また、主軸台3を、主軸ケース部4と取付け部16との間に冷却油貯留部5を一体的に形成した構造のものとし、前記冷却油貯留部5と前記冷却流路12とを連通させる直線状の貫通孔14a,14bを前記主軸ケース部4の側壁の給排部4d,4d′に形成した。
【0042】
また、前記4つの給油貫通孔14a,14b及び14a′,14b′を第1垂直面S1に対して対称となる位置で、かつ第2垂直面S2に対して対称となる位置に形成し、さらに冷却流路12,12′を構成する左,右及び前,後4組の経路12a,12a′、12b,12b′を前記両垂直面S1,S2に対して対称となるように構成したので、冷却油をモータ収容部2の外壁面2c全面に渡って均等に供給でき、モータ収容部2の軸方向及び前記第1垂直面S1に対称な位置関係における温度分布、ひいては熱変位が均等となり、加工精度への影響を小さくできる。
【0043】
また、主軸台3を、モータ収容部2の外壁面2cを囲む主軸ケース部4と、該主軸ケース部4の下部に続いて、かつ前記モータ収容部2を下方から覆うように一体的に形成された冷却油貯留部5とを有するものとし、前記モータ収容部2の外壁面2cと主軸ケース部4の内壁面4cとの間に冷却流路12,12′を形成するとともに、前記冷却油貯留部5と前記冷却流路12,12′とを連通させる直線状の給油貫通孔14a,14b、14a′,14b′を前記主軸ケース部4の側面の給排部4d,4d′に形成した。従って、モータ収容部2及び主軸台3を鋳造により一体形成し、主軸台3の前記給排部4d,4d′に前記給油貫通孔14a,14b、14a′,14b′を機械加工等により形成し、主軸6及びモータ10が組み付けられたモータ収容部2を主軸台3の主軸ケース部4内に組み付けるだけで、鋳型構造を複雑化することなく主軸装置1を構成でき、生産性を向上できる。
【0044】
また前記モータ収容部2の外壁面2cにリブ13a〜13d、13a′〜13d′,13bを形成し、該リブを主軸ケース部4で覆うことにより冷却流路12,12′を形成したので、前記リブの形状を適宜設定することにより冷却流路を自由に形成でき、該冷却流路の設計上の自由度を向上できる。
【0045】
さらにまた、冷却油貯留部5の天壁5dでモータ収容部2を下方から覆うように構成したので、該冷却油貯留部5内を満たす温度の低い冷却油によって前記モータ収容部2の特に下部を効率的に冷却でき、主軸6下側の構成部品の温度上昇を抑制でき、従って主軸6の高さ位置、つまり加工ポイントの熱変位を抑制でき、加工精度への悪影響を抑制できる。
【0046】
また、前記冷却流路12を構成する経路12a,12bを、給油貫通孔14a,14bから軸方向前,後端部寄りを下方に向かう流れC1,C3から、前記天壁5dの近傍にて反転して軸方向内側を上方に向かう流れC2,C4となるように構成したので、前記モータ収容部2の下部に接する冷却油量を増大でき、この点からもモータ収容部2の下部を効率的に冷却でき、主軸6の高さ位置、つまり加工ポイントの熱変位を抑制でき、加工精度への悪影響を抑制できる。
【0047】
さらにまた、前記給油貫通孔14a,14bの上端部を前記主軸ケース部4の給排部4dの上面から上方に向けて開口させたので、給油貫通孔14a,14bを機械加工により容易確実に形成でき、鋳型構造が複雑になるのを回避できる。また、排出貫通孔14cを給油貫通孔14a,14bと平行に形成したので、この排出貫通孔14cについても機械加工により給油貫通孔と同時に形成できる。
【0048】
また給油貫通孔14a,14b内を冷却油で満たして内部の空気を抜いてから前記開口にプラグ15を螺着することにより、滞留空気による冷却油流の乱れを防止でき、この点からもモータ収容部2を均等に冷却できる。
【0049】
なお、前記プラグ15を、前記給油貫通孔の冷却流路への分岐部に達する長さに設定しても良く、これにより空気抜き作業を要することなく滞留空気による冷却油流の乱れを防止できる。
【0050】
また、排出貫通孔14cを、前記第1垂直面S1に対して対称となる部位に設けたので、この点からも冷却油の流れをモータ収容部2の左,右及び前,後において均等にできる。また、主軸ケース部4の上部に冷却油排出用配管を設ける必要がないので、該主軸ケース部4の上部を部品配置スペースとして利用できる。
【実施例2】
【0051】
図8ないし
図13は本発明の実施例2を説明するための図であり、図中、
図1ないし
図7と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0052】
本実施例2では、冷却流路12は、前記モータ収容部2の外壁面2cに、凸条のリブ13e,13f,及び13g,13hを周方向に延びるように形成し、該全てのリブの外表面に前記主軸ケース部4の内壁面4cを当接させることにより形成されている。詳細には、
図9に示すように、前記冷却流路12は、前記リブ13e,13f部分を通る経路12cと、前記リブ13g,13h部分を通る経路12dで構成されている。
【0053】
前記経路12c,12dは、給油貫通孔14a,14bから軸方向中央寄りを下方に向かう流れC6,C8から、前記天壁5dの近傍に反転して軸方向外側を上方に向かう流れC7,C9となり、軸方向中央部で合流する流れC10となった後、排出貫通孔(排出口)14cから排出される。なお、
図9に示す冷却流路12の裏面側にも同じ経路をなす冷却流路12′が形成されている。従って、前記左側の冷却流路12c,12d及び右側の冷却流路12c′,12d′は、装置正面から見たとき左,右対称をなし、装置側面から見たとき前,後対称をなしている。
【0054】
また本実施例では、
図10,
図13に示すように、前記給油貫通孔14aの中途部dは、前記経路12cの前記リブ13eと13fで囲まれた部分に接続孔4fを介して連通している。同様に前記給油貫通孔14a′の中途部d′は、前記経路12c′の前記リブ13e′と13f′で囲まれた部分に接続孔4f′を介して連通している。
【0055】
具体的には、前記給油貫通孔14a,14a′は、前記経路12c,12c′から径方向外方に少し離れた部位を貫通するように形成されている。そして前記接続孔4f,4f′は、前記主軸ケース部4の内周面4cの前記中途部d,d′に一致する部分に三日月形状のスリットを縦向きにかつ前記貫通孔14a,14a′に達する深さに形成してなるものであり、該スリットの底部が前記貫通孔14a,14a′内に開口している。なお、貫通孔14b,14b′と経路12d,12d′についても同様の接続構造で連通している。
【0056】
本実施例2では、貫通孔14a,14b、14a′,14b′を、前記主軸ケース部4の内周面4cから外方に離して形成したので、両者の間に必要な肉厚を確保でき、強度不足の問題を回避できる。
【0057】
また、前記冷却流路12を構成する経路12c,12dを、給油貫通孔14a,14bから軸方向中央寄りを下方に向かう流れC6,C8から、前記天壁5dの近傍にて反転して軸方向前,後端寄りを上方に向かう流れC7,C9となるように構成したので、前記モータ収容部2の下部に接する低い温度の冷却油量を増大でき、この点からモータ収容部2の下部をより一層効率的に冷却でき、主軸6の高さ位置、つまり加工ポイントの熱変位を抑制でき、加工精度への悪影響を抑制できる。
【0058】
なお、前記実施例1,2では、冷却油を、経路12a,12b又は12c,12dにより合流させ、しかる後に排出したが、本発明では、冷却油を、合流させることなく各経路から独立して排出しても良い。この場合、排出口を前記第1,第2垂直面の両方に対称の位置に配置することか望ましい。これにより排出口が左,右及び前,後において対称配置となり、冷却油の流れが均一となる。
【0059】
また前記実施例1,2では、主軸が水平に配置されている場合を説明したが、本発明は、主軸が鉛直方向に配置されている場合にも適用できる。