【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本願発明者等は、一対の板材片同士の間の溶接線の軸方向に対する角度(劣角。以下『軸方向に対する角度』について同様。)が小さいほど筒状構造物の曲げ方向の強度が向上する(溶接線に対して直交する方向に作用する曲げ応力の成分が低減される)点に着目して、一対の板材片同士の溶接線を軸方向と直交する方向に対して傾斜させる発明に想到した。
【0016】
しかし、溶接線の全体について軸方向に対する角度を小さくすると、溶接線の長さ、つまり、板材片の長さが長くなって板材片自体の取り扱いが困難になるという問題がある。
【0017】
そこで、本発明は、軸線を取り囲むように配置された複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接することにより、軸方向に延びるとともに前記軸方向と直交する方向において閉断面を有する筒状構造物を製造するための前記板材であって、前記軸方向に互いに溶接された一対の板材片を有し、前記板材片同士の間の溶接線は、前記軸方向に対する角度が処理用角度となるように配置された処理対象溶接線と、前記処理対象溶接線から前記板材の縁部まで延びるとともに前記軸方向に対する角度が前記処理
用角度よりも小さな第一角度となるように配置された第一溶接線とを含み、前記板材片の少なくとも一方には、当該板材片の疲労強度を向上するための疲労強度向上処理が前記処理対象溶接線に沿って施され
、一方の板材片は、他方の板材片との間で前記処理対象溶接線に沿って溶接された板材片本体と、他方の板材片に対して前記第一溶接線に沿って溶接されているとともに前記板材片本体に対して中継溶接線に沿って前記軸方向に溶接された中継部材とを有し、前記中継溶接線は、前記板材の縁部に設けられているとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな中継用角度となるように配置されている、板材を提供する。
【0018】
また、本発明は、軸線を取り囲むように配置された複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接することにより、軸方向に延びるとともに前記軸方向と直交する方向において閉断面を有する筒状構造物を製造するための方法であって、前記複数の板材を準備する準備工程と、前記複数の板材の少なくとも1つに対し、当該少なくとも1つの板材の疲労強度を向上するための疲労強度向上処理を施す処理施行工程と、前記処理施行工程後に前記複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接する溶接工程とを含み、前記準備工程では、前記軸方向に対する角度が処理用角度となるように配置された処理対象溶接線と、前記処理対象溶接線から前記板材の縁部まで延びるとともに前記軸方向に対する角度が前記処理
用角度よりも小さな第一角度となるように配置された第一溶接線とを含む溶接線に沿って、前記少なくとも1つの板材を形成するための一対の板材片を前記軸方向に互いに溶接し、前記処理施行工程では、前記一対の板材片の少なくとも一方に対し前記処理対象溶接線に沿って前記疲労強度向上処理を施
し、
前記準備工程では、一方の板材片として、他方の板材片との間で前記処理対象溶接線を画定可能な板材片本体と、前記他方の板材片との間で前記第一溶接線を画定可能で、かつ、前記板材片本体との間で中継溶接線を画定可能な中継部材とを有する板材片を準備し、前記処理対象溶接線に沿って前記他方の板材片と前記板材片本体とを溶接するとともに前記第一溶接線及び前記中継溶接線に沿って前記他方の板材片及び前記板材片本体に対して前記中継部材を溶接し、前記中継溶接線は、前記板材の縁部に設けられているとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな中継用角度となるように配置されている、筒状構造物の製造方法を提供する。
【0019】
本発明によれば、軸方向に対する角度の大きな処理対象溶接線に沿って疲労強度向上処理を施すとともに、隣接する板材への溶接時に熱影響を受け易い板材の縁部に第一溶接線を設け、この第一溶接線の軸方向に対する第一角度を処理対象溶接線の処理用角度よりも小さくしている。
【0020】
これにより、曲げ方向に対する強度面で不利となる処理対象溶接線に沿った溶接部ついては疲労強度向上処理によって補強することができるとともに、熱影響を受け易い部分に設けられた第一溶接線に沿った溶接部については当該第一溶接線と直交する方向に作用する曲げ応力の成分を低減して強度を確保することができる。
【0021】
しかも、一対の板材片同士の間の溶接線の一部として第一溶接線を形成しているため、第一溶接線を設けることにより板材片(溶接線)が必要以上に長くなるのを抑制することができる。
【0022】
したがって、本発明によれば、板材片の取り扱いが困難になるのを抑制しながら隣接する板材への溶接時における強度低下を抑制することができる。
【0023】
なお、本発明において『軸方向に対する角度が処理用角度よりも小さな第一角度』は、第一溶接線及び処理対象溶接線の少なくとも一方が湾曲又は屈曲している場合、第一溶接線における軸方向に対する最大角度が処理対象溶接線における軸方向に対する最小角度よりも小さいことを意味する。
【0024】
また、本発明の疲労強度向上処理は、例えば、ひずみを与えることにより板材片に圧縮残留応力を与える処理(例えば、ピーニング、ショットブラスト、キャビテーション)、加工硬化による板材片の硬さを上昇させる処理(例えば、ピーニング、ショットブラスト、キャビテーション、冷間圧延加工)、及び板材片において塑性流動により結晶粒を微細化する処理(例えば、超音波ショットピーニング)等を含む。
【0025】
前記一対の板材片は、それぞれ2枚の板として準備されていてもよいが、この場合には、第一溶接線及び処理対象溶接線が画定されるように、大きな2枚の板材片同士を位置決めする必要があり、作業が煩雑となる。
【0026】
そこで、前記板材において、一方の板材片は、他方の板材片との間で前記処理対象溶接線に沿って溶接された板材片本体と、他方の板材片に対して前記第一溶接線に沿って溶接されているとともに前記板材片本体に対して中継溶接線に沿って前記軸方向に溶接された中継部材とを有し、前記中継溶接線は、前記板材の縁部に設けられているとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな中継用角度となるように配置されている
。
【0027】
また、前記筒状構造物の製造方法において、前記準備工程では、一方の板材片として、他方の板材片との間で前記処理対象溶接線を画定可能な板材片本体と、前記他方の板材片との間で前記第一溶接線を画定可能で、かつ、前記板材片本体との間で中継溶接線を画定可能な中継部材とを有する板材片を準備し、前記処理対象溶接線に沿って前記他方の板材片と前記板材片本体とを溶接するとともに前記第一溶接線及び前記中継溶接線に沿って前記他方の板材片及び前記板材片本体に対して前記中継部材を溶接し、前記中継溶接線は、前記板材の縁部に設けられているとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな中継用角度となるように配置されている
。
【0028】
こ
のように、本発明によれば、一方の板材片が、他方の板材片との間で処理対象溶接線を画定するための板材片本体と、他方の板材片との間で第一溶接線を画定するための中継部材とに分割されている。
【0029】
そのため、例えば、処理対象溶接線を介して互いに対向するように板材片本体と他方の板材片とを位置決めし、この状態で、比較的小さな中継部材を板材片本体及び他方の板材片に位置決めすることにより、板材片同士を位置決めすることできる。
【0030】
したがって、比較的大きな板材片本体及び他方の板材片を取り扱う作業を簡素化することができる。
【0031】
そして、板材片本体と他方の板材片とを溶接するとともに比較的小さな中継部材を板材片本体及び他方の板材片に溶接することにより板材を準備することができる。
【0032】
さらに、中継溶接線の軸方向に対する角度が処理用角度よりも小さいため、中継溶接線に沿った溶接部について当該中継溶接線と直交する方向に作用する曲げ応力の成分を低減して強度を確保することができる。
【0033】
したがって、上述のように板材の準備作業の効率化を図りながら板材の強度を確保することができる。
【0034】
なお、前記態様において『軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな中継用角度』は、中継溶接線及び処理対象溶接線の少なくとも一方が湾曲又は屈曲している場合、中継溶接線における軸方向に対する最大角度が処理対象溶接線における軸方向に対する最小角度よりも小さいことを意味する。
【0035】
ここで、第一溶接線及び中継溶接線が第一溶接線と処理対象溶接線との連結点において互いに連結されている場合、処理対象溶接線を基準として軸方向の一方の側にまとめて第一溶接線及び中継溶接線を配置することも可能であるが、この場合、処理対象溶接線を基準として軸方向片側に応力が集中する。
【0036】
そこで、前記第一溶接線及び前記中継溶接線は、前記第一溶接線と前記処理対象溶接線との連結点において互いに連結されているとともに、それぞれ前記処理対象溶接線から前記軸方向の逆向きに延びることが好ましい。
【0037】
また、前記筒状構造物の製造方法において、前記準備工程では、前記第一溶接線と前記処理対象溶接線との連結点において互いに連結され、かつ、それぞれ前記処理対象溶接線から前記軸方向の逆向きに延びる前記第一溶接線及び前記中継溶接線を画定可能な一対の板材片を準備することが好ましい。
【0038】
これらの態様によれば、処理対象溶接線を基準として軸方向の両側に第一溶接線及び中継溶接線が設けられているため、処理対象溶接線を基準として軸方向の片側に応力が集中するのを抑制することができる。
【0039】
したがって、より有効に板材の強度を向上することができる。
【0040】
前記板材において、前記疲労強度向上処理は、ピーニングであり、前記処理対象溶接線は、前記板材において当該板材と隣接する他の板材との溶接時の温度が400℃以下となる領域に設けられていることが好ましい。
【0041】
また、前記筒状構造物の製造方法において、前記準備工程では、前記板材において当該板材と隣接する他の板材との溶接時の温度が400℃以下となる領域に前記処理対象溶接線を画定可能な一対の板材片を準備し、前記処理施行工程では、ピーニングを施すことが好ましい。
【0042】
図5に示すように、ピーニング処理の効果は、隣接する他の板材との溶接時に板材においてピーニング処理が施された部分の温度が400℃を超えると、急激に低下することが確認されている。
【0043】
そこで、前記各態様のように、板材において400℃以下となる領域にピーニング処理が施されていることにより、その後に隣接する他の板材を溶接しても、ピーニング処理の効果を確実に維持することができる。
また、本発明は、軸線を取り囲むように配置された複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接することにより、軸方向に延びるとともに前記軸方向と直交する方向において閉断面を有する筒状構造物を製造するための前記板材であって、前記軸方向に互いに溶接された一対の板材片を有し、前記板材片同士の間の溶接線は、前記軸方向に対する角度が処理用角度となるように配置された処理対象溶接線と、前記処理対象溶接線から前記板材の縁部まで延びるとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな第一角度となるように配置された第一溶接線とを含み、前記板材片の少なくとも一方には、当該板材片の疲労強度を向上するための疲労強度向上処理が前記処理対象溶接線に沿って施され、前記疲労強度向上処理は、ピーニングであり、前記処理対象溶接線は、前記板材において当該板材と隣接する他の板材との溶接時の温度が400℃以下となる領域に設けられている、板材を提供する。
さらに、本発明は、軸線を取り囲むように配置された複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接することにより、軸方向に延びるとともに前記軸方向と直交する方向において閉断面を有する筒状構造物を製造するための方法であって、前記複数の板材を準備する準備工程と、前記複数の板材の少なくとも1つに対し、当該少なくとも1つの板材の疲労強度を向上するための疲労強度向上処理を施す処理施行工程と、前記処理施行工程後に前記複数の板材の互いに隣接する縁部同士を溶接する溶接工程とを含み、前記準備工程では、前記軸方向に対する角度が処理用角度となるように配置された処理対象溶接線と、前記処理対象溶接線から前記板材の縁部まで延びるとともに前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな第一角度となるように配置された第一溶接線とを含む溶接線に沿って、前記少なくとも1つの板材を形成するための一対の板材片を前記軸方向に互いに溶接し、前記処理施行工程では、前記一対の板材片の少なくとも一方に対し前記処理対象溶接線に沿って前記疲労強度向上処理を施し、前記準備工程では、前記板材において当該板材と隣接する他の板材との溶接時の温度が400℃以下となる領域に前記処理対象溶接線を画定可能な一対の板材片を準備し、前記処理施行工程では、ピーニングを施す、筒状構造物の製造方法を提供する。
【0044】
前記板材において、前記第一溶接線の前記軸方向に対する角度は、45°以下であることが好ましい。
【0045】
また、前記筒状構造物の製造方法において、前記準備工程では、前記軸方向に対する角度が45°以下である前記第一溶接線を画定可能な一対の板材片を準備することが好ましい。
【0046】
なお、これらの態様において『軸方向に対する角度が45°以下』は、第一溶接線が湾曲又は屈曲している場合には、第一溶接線における軸方向に対する最大角度が45°以下であることを意味する。
【0047】
これらの態様によれば、第一溶接線が軸方向と直交する方向に配置されている場合と比較して、第一溶接線と直交する方向に作用する曲げ応力の成分を約7割(1/√2)以下に減少させることができる(相対的に疲労強度を少なくとも約1.4倍にすることができる)。
【0048】
したがって、例えば、疲労強度向上処理によらなくても第一溶接線に沿った溶接部の疲労強度を十分に確保することができる。
【0049】
前記板材において、前記板材片同士の間の溶接線は、前記処理対象溶接線から前記板材の前記第一溶接線と反対側の縁部まで延びるとともに、前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな第二角度となるように配置された第二溶接線を含んでいることが好ましい。
【0050】
また、前記筒状構造物の製造方法において、前記準備工程では、前記処理対象溶接線から前記板材の前記第一溶接線と反対側の縁部まで延びるとともに、前記軸方向に対する角度が前記処理用角度よりも小さな第二角度となるように配置された第二溶接線を画定可能な前記一対の板材片を準備するとともに、前記第二溶接線に沿って一対の板材片同士を溶接することが好ましい。
【0051】
これらの態様によれば、第一溶接線に沿った溶接部だけでなく第二溶接線に沿った溶接部についても第二溶接線と直交する方向に作用する曲げ応力の成分を低減して板材の強度を確保することができる。
【0052】
したがって、縦板の両縁部の溶接時における板材全体の強度低下を確実に抑えることができる。
【0053】
なお、『軸方向に対する角度が処理用角度よりも小さな第二角度』は、第二溶接線及び処理対象溶接線の少なくとも一方が湾曲又は屈曲している場合、第二溶接線における軸方向に対する最大角度が処理対象溶接線における軸方向に対する最小角度よりも小さいことを意味する。
【0054】
また、本発明は、軸方向に延びるとともに前記軸方向と直交する方向において閉断面を有する筒状構造物であって、前記軸線を取り囲むように配置された複数の板材を備え、前記複数の板材の互いに隣接する縁部同士が溶接され、前記複数の板材の少なくとも1つは、前記板材である、筒状構造物を提供する。