特許第6268058号(P6268058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268058
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】硬化性の相変化インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/34 20140101AFI20180115BHJP
【FI】
   C09D11/34
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-158243(P2014-158243)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-36418(P2015-36418A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2017年6月23日
(31)【優先権主張番号】13/968,014
(32)【優先日】2013年8月15日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナヴィーン・チョプラ
(72)【発明者】
【氏名】アデラ・ゴレデマ
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン・エム・ベイムシー
(72)【発明者】
【氏名】ビビー・エイブラハム
(72)【発明者】
【氏名】ケンタロウ モリミツ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・クレティエン
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−233154(JP,A)
【文献】 特開2000−044857(JP,A)
【文献】 特開2012−184406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UV硬化性成分と、
結晶性成分と、
多環式モノアミド及び多環式ジアミドからなる群から選択されるアモルファス成分と、
を含む相変化インク組成物。
【請求項2】
前記結晶性成分および前記アモルファス成分は、それぞれ、60:40から95:5の重量比で混合される、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記UV硬化性成分および前記結晶性成分は、40:60から5:95の重量比で混合される、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記結晶性成分は、示差走査熱量測定に従う結晶化(Tcrys)ピークおよび溶融(Tmelt)ピークを示し、ピーク間の差(Tmelt−Tcrys)は、55℃未満である、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記UV硬化性成分は、(2−ヒドロキシルエチル)イソシアヌレートトリアクリレートである、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
UV硬化性成分と、
N−フェニルエチルベンズアミドである結晶性成分と、
4−tert−ブチルシクロへキシル、シクロヘキシルタルトレートであるアモルファス成分と、
を含む相変化インク組成物。
【請求項7】
前記結晶性成分および前記アモルファス成分は、それぞれ、60:40から95:5の重量比で混合される、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、相変化インク組成物に関するものであり、室温にて固体であり、かつ昇温状態にて溶融して、溶融インクが基質に適用されることで特徴付けられる。この相変化インク組成物は、インクジェット印刷に用いられ得る。本実施形態は、アモルファス成分、結晶性材料、および任意で着色剤を含む新規な相変化インク組成物、ならびに当該相変化インク組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷プロセスは、室温にて固体であり、昇温状態にて液体であるインクを用いてよい。
【0003】
相変化インク組成物は、室温(例えば、20〜27℃)にて固体であり、そして溶融インクが基質に適用される昇温状態にて溶融していることを特徴とする。現行のインクオプションは多孔性紙基質にとって良好であるが、このオプションはコート紙基質にとって常に満足のいくものとは限らない。
【0004】
一般に、相変化インク(「熱溶融インク」と呼ばれることがある)は、周辺温度にて固相であるが、インクジェット印刷装置が稼動する昇温状態にて液相で存在する。噴射温度にて、液体インクの小滴が印刷装置から吐出される。インク小滴は、記録媒体の表面に(直接的に、または加熱した中間転写ベルトまたはドラムを介して)接触すると、急速に凝固し、所定のパターンの凝固インク滴が形成される。カラー印刷用の相変化インクは一般に、相変化インクキャリア組成物を、相溶性のある相変化インク着色剤と組み合わせて含む。特定の実施形態において、一連の有色の相変化インクが、インクキャリア組成物を、相溶性のある減法原色の着色剤と組み合わせることによって、形成されてよい。これら相変化インクは、4成分の染料または顔料(すなわち、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラック)を含んでよいが、インクはこれら4色に限定されない。これら相変化インクは、単一の染料もしくは顔料、または染料もしくは顔料の混合物を用いて形成されてよい。
【0005】
相変化インクがインクジェットプリンターに所望される。なぜなら、輸送中、長期間の貯蔵中等、室温にて固相のままであるためである。また、液体のインクジェットインクによるインク蒸発の結果としてのノズル目詰まりに関連する問題がほとんどなくなり、インクジェット印刷の信頼性が向上する。さらに、インク小滴が最終の記録媒体(例えば、紙、透明材料等)上へ直接的に適用される相変化インクジェットプリンターにおいて、小滴は、記録媒体と接触すると直ちに凝固するので、インクの印刷媒体に沿う移動が防止され、ドット品質が向上する。
【0006】
前述の従来の相変化インク技術は、多孔性紙上で、鮮明な画像をもたらし、かつ噴射使用の節約を実現することについて良好なものであるが、このような技術は、コート基質では満足のいくものでなかった。このため、既知の組成物およびプロセスはそのような用途に適している一方で、コート紙基質上への画像形成または印刷のためのさらなる手段が依然として必要とされている。
【0007】
従って、全ての基質上で優れた画質を顧客に提供するための、相変化インク組成物用およびさらなる印刷技術用の代替組成物を見出す必要がある。また、インクロバスト性、折り畳みオフセット、および耐摩擦性を著しく向上させた相変化インクを提供することも、所望される。アミド樹脂設計を用いる硬化性相変化インクは、ワックス状材料を用いる相変化インクまたは他の相変化インクと比較すると、インクロバスト性、折り畳みオフセット、および耐摩擦性を著しく向上させた。印刷物のロバスト性を試験するために、インクはコート紙(DCEG:Xerox Colour Elite Gloss、120gsm)上に、K−プルーフされた。K−プルーフサンプルは、引っ掻き、折り畳み、および折り畳みオフセット試験について、繰り返された。続いて、各印刷物を、1インチ/秒にて50℃のドラムおよび紙温度のTyphoonフィクスチャを通してフィードして(インク表面をトランスフィックスドラムに向けた)、K−プルーフが展着(spread)した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に従って、結晶性成分と、UV硬化性成分と、アモルファス成分と、着色剤とを含むインク組成物が提供される。
【0009】
別の実施形態において、約140℃の温度にて粘度が12cps未満であり、かつ室温にて粘度が1×10cpsを超える結晶性成分と、UV硬化性成分と、アモルファス成分と、着色剤とを含むインク組成物が提供される。
【0010】
さらなる実施形態において、結晶性成分と、UV硬化性成分と、約140℃の温度にて粘度が100cps未満であり、かつ室温にて粘度が1×10cpsを超えるアモルファス成分と、着色剤とを含むインク組成物が提供される。
【0011】
本開示の種々の実施形態が、以下、本明細書中において、以下の図を参照して、記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本明細書における実施形態の製剤15Aのインク粘度測定値を示す。
図2図2は、本明細書における実施形態の製剤15Bのインク粘度測定値を示す。
図3図3は、本明細書における実施形態の製剤15Cのインク粘度測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における実施形態において、結晶性成分およびアモルファス成分の、相変化インク製剤中の混合が、非コート紙およびコート紙上にロバストな画像を示す、ロバストなインク、特に相変化インクを実現する。しかしながら、このアプローチの利用は、結晶性材料またはアモルファス材料の既知の特性のために、驚くべきことである。結晶性材料について、小分子が通常、凝固する場合に結晶化する傾向があり、低分子量の有機固体が通常、結晶となる。結晶性材料は通常、より硬く、かつより耐性があるが、そのような材料は、かなり脆性でもあるので、主に結晶性インク組成物を用いて製造した印刷物は、ダメージにかなり影響される。アモルファス材料(高分子量材料(ポリマー等)等)は、高温にて粘性があり、かつ粘着性がある液体となるが高温にて十分に低い粘度を示さない。この結果として、ポリマーは、所望の噴射温度にて、印刷ヘッドノズルから噴射され得ない。しかしながら、本実施形態において、結晶性成分およびアモルファス成分の混合によって、ロバストな相変化インクが得られ得る。
【0014】
本実施形態は、インクジェット相変化インク組成物であって、(1)結晶性成分、および(2)アモルファス成分の混合物を、概して、結晶性成分およびアモルファス成分についてそれぞれ、約60:40から約95:5、約65:35から約95:5、約70:30から約90:10、または約80:20の重量比で含むインクジェット相変化インク組成物を提供する。また、インクは、UV硬化性成分(それ自体、結晶性成分であってもアモルファス成分であってもよい)を含んでもよい。概して、UV硬化性成分は、結晶性成分に対して、UV硬化性成分および結晶性成分についてそれぞれ、約40:60から約5:95、約35:65から約5:95、約30:70から約10:90、または約20:80の重量比で、存在する。
【0015】
各成分は、固有の特性を相変化インクに付与し、当該成分の混合は、非コート基質およびコート基質上にて優れたロバスト性を示すインクを実現する。インク製剤中の結晶性成分は、冷却して直ぐの迅速な結晶化によって、相変化をドライブすることができる。結晶性成分はまた、最終インクフィルム構造を構成し得、そしてアモルファス成分の粘着性を下げることによって、硬いインクを生じ得る。結晶性成分は、結晶化を示すことができるが、粘度は、約140℃にて比較的低く(10センチポイズ(cps)以下、約0.5から約10cps、または約1から約10cps)、そして室温にて高い(>10cps)。結晶性成分がインクの相変化を決定し得るので、必要に応じて、さらなる即時型印刷処理(すなわち、展着、両面印刷等)を可能とし、かつ非コート基質上で過度の透き通しを防止するような、迅速な結晶化が必要とされてよい。示差走査熱量測定(DSC)(10℃/分にて、−50℃から200℃、そして−50℃)によって、所望の結晶性成分は、急激な結晶化ピークおよび溶融ピークを示し、そしてそれらの間のデルタTは、55℃未満である。ある実施形態において、融点は150℃(噴射温度の上限であり得る)未満であってよく、または他の実施形態において、約145から約140℃未満であってよい。融点はまた、さらなる実施形態において、65℃を超えるものであり、最大65℃、または約66℃もしくは約67℃を超える温度に達して直ぐのブロッキングおよび印刷転写を防止することもできる。
【0016】
結晶性成分
芳香族環コアを有する任意の結晶性化合物が、本明細書における実施形態に従う相変化インクの結晶性成分として、用いられてよい。例えば、ベンゼン基またはナフタレン基から選択される芳香族環コアを有するモノアミド化合物が、用いられてよい。実施形態において、結晶性モノアミド化合物は、安息香酸および第一級または第二級アミンの反応生成物である。
【0017】
結晶性モノアミド成分のアミド基は、カルボニル基、またはアミドの窒素原子の何れかに結合する、少なくとも1つのC1からC40置換基を含んでよい。置換基は、置換されても置換されてなくてもよく、線状でも分岐しても環式であってもよく、飽和でも不飽和でもよく、脂肪族基でも芳香族基でもよく、これにより、所望のインク特性(噴射温度にて適切な粘度の液相ステートであり、かつ約室温(例えば、約25℃)にて固相ステートであること等)を実現する結晶性化合物がもたらされることとなる。
【0018】
1つの例示的な結晶性モノアミド化合物として、式1の化合物があってよく:
【化1】
【0019】
式中、R、R、R、R、R、RおよびRは、水素原子、およびC1からC40脂肪族置換基またはC1からC40芳香族置換基からなる群から独立して選択され、RおよびRの少なくとも1つは、水素原子でない。実施形態において、R、R、R、R、R、RおよびRは、水素原子、または置換された、もしくは置換されてない、線状の、分岐した、もしくは環式のC1からC40アルキル、アルケニル、アリール、アルカリル、アリールアルキル基、または1つもしくは複数のヘテロ原子を含有する任意のC1からC40アルキル、アルケニル、アリール、アルカリル、もしくはアリールアルキル基からなる群から独立して選択される。例えば、R、R、R、R、RおよびRは水素原子であってよく、Rはアルキルフェニル基またはC8からC30ヒドロカルビル基から選択されてよい。これら化合物の一部の具体例として、以下のものがある:
【化2】
【0020】
22個の炭素原子よりも長い炭素鎖を有する置換基が、ワックス系結晶性成分を形成し得る。場合によっては、非ワックス系結晶性成分を用いることが所望されてよく、この場合には、モノアミド結晶性成分上の置換基は、鎖長が22個の炭素原子以下であってもよい。例えば、上で説明したRおよびR置換基は、線状の、分岐した、または環式の、置換された、または置換されてない、脂肪族または芳香族のC2からC18基(C2からC18アルキル、アルケニル、アリール、アルカリル、アリールアルキル基等)であって、任意で、1つまたは複数のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素またはハロゲン(塩素または臭素等))を含有するC2からC18基から、選択されてよい。これら化合物の具体例として、以下のものがある:
【化3】
【0021】
本明細書におけるインク製剤中の結晶性成分は、インクの冷却に従う迅速な結晶化によって、相変化をドライブすることができる。結晶性成分はまた、最終インクフィルム構造を構成し得、そしてアモルファス成分の粘着性を下げることによって、硬いインクを生じ得る。結晶性成分は、比較的低い粘度を示し得る(約140℃の温度にて12cps未満の粘度(例えば、約140℃にて、≦10センチポイズ(cps)、約0.5から約10cps、または約1から約10cps等)等)。
【0022】
本明細書における結晶性成分は、比較的高い粘度を示すことができる(例えば、室温にて105.5cpsよりも大きい(約室温にて約10cpsまたは約106.5cpsよりも大きい等)等)。粘度は、TA Instruments(Rheometrics RFS−3)の歪み制御レオメータを用いて測定された。用いられた方法は、1Hzのスイープ速度での、約140℃から約90℃の温度スイープであり、5度毎に測定された。試験される樹脂に応じて、温度スイープ終了温度は、粘度によって決定された。遷移点を通過し、粘度が急激に増加すると、温度スイープ試験実験を終了した。
【0023】
通常、結晶性成分がインクの相変化を決定し得るので、迅速な結晶化により、即時型印刷処理(例えば、展着または両面印刷)が実現され得、そして非コート基質上の過度の透き通しが減軽または防止され得る。
【0024】
所望の結晶性成分は、比較的急激な結晶化ピークおよび溶融ピークを示すことができ、例えば、示差走査熱量測定(DSC)(例えば、−50℃から200℃、そして−50℃まで10℃/分)によって決定される。実施形態において、結晶化ピークと溶融ピークとの間の温度変化は比較的小さく、例えば、約55℃未満または約60℃未満等である。実施形態において、融点は、噴射温度の上限未満であってよい。例えば、融点は、約150℃未満、約100℃から約145℃、または約140℃であってよい。適切な融点は、ブロッキングおよび印刷転写を減軽または防止することができ、印刷装置内で発生するスタンディング温度に応じて変化してよい。例えば、融点が65℃を超える(66℃または67℃を超える等)と、最大65℃の温度に達して直ぐのブロッキングおよび印刷転写を減軽または防止することができる。
【0025】
アモルファス成分
アモルファス成分は、多環式アミド(多環式モノアミド、多環式ジアミドまたはこれらの混合物等)から選択されてよい。アモルファス成分として相変化インク組成物に適した任意の多環式アミドが、用いられてよい。適切な多環式アミド化合物の例として、アビエチル部分を有するものが挙げられる(式2の化合物等):
【化4】
【0026】
式中、R’は、水素原子または−NHC=ORからなる群から選択され、RおよびRは、C1からC40の置換された、もしくは置換されてない脂肪族置換基、またはC1からC40の置換された、もしくは置換されてない芳香族置換基(C1からC22またはC2からC18の脂肪族基または芳香族基等)からなる群から独立して選択される。実施形態において、R’は水素であり、RはC1からC12アルキルである。これら化合物の具体例として、以下のものが挙げられる:
【化5】
【0027】
実施形態において、式2の化合物の1つまたは複数の環は、不飽和であってよく、例えば、式3において示されるもの等であり、式中、R’およびRは、式2について上記されたのと同じように規定される:
【化6】
【0028】
他の実施形態において、式4の酒石酸のジエステルが、アモルファス成分として用いられてよい:
【化7】
【0029】
式中、Rは、以下の式5の4−tert−ブチルシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノール部分の50:50の混合物である:
【化8】
【0030】
実施形態において、4−tert−ブチルシクロヘキサノールおよびアルコール部分としてのシクロヘキサノールの50:50の混合物が用いられて、式4の4−tert−ブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルタルトレートが製造されてよい。
【0031】
アモルファス成分は、粘着性を付与することができ、そしてロバスト性を、印刷されたインクに付与することができる。本実施形態において、所望のアモルファス材料は、粘度が、約140℃にて比較的低いが(<10cps、約1から約100cps、または約5から約95cps)、室温にて非常に高い(>10cps)。140℃で粘度が低いと、幅広い製剤ラチチュードが実現される一方、室温で粘度が高いと、ロバスト性が付与される。アモルファス材料は、Tg(ガラス遷移温度)を有するが、DSC(−50℃から200℃、そして−50℃まで10℃/分)によって結晶化ピークおよび溶融ピークを示さない。T値は通常、約10から約50℃、約10から約40℃、または約10から約35℃であり、所望の強靭性および可撓性をインクに付与する。選択されるアモルファス材料は、分子量が低くてよく、1000g/mol未満、約100から約1000g/mol、約200から約1000g/mol、または約300から約1000g/mol等である。より高い分子量のアモルファス材料(ポリマー等)は、高温にて粘性があり、かつ粘着性がある液体になるが、粘度があまりに高過ぎて、所望の温度にて圧電プリントヘッドにより噴射可能となり得ない。
【0032】
UV硬化性成分
本実施形態は、UV硬化を受けてポリマーを形成することができるインクの反応性成分として、UV硬化性成分を含んでよい。UV硬化性成分の添加により、インクのロバスト性が向上し得る。ポリマーの粘度が高いことで、噴射可能な組成物の製剤化が妨げられる虞があるので、重合して基質上にポリマーを形成することができる低粘度反応性成分(モノマー)と使用することが有利であり得る。
【0033】
一部の実施形態において、室温にて固体であるUV硬化性モノマー((メタ)アクリレート等)が用いられてよいが、一部の実施形態において、最終インク組成物が室温にて固体であれば、液体モノマーが用いられてもよい。UV硬化性モノマーの例として、室温にて固体であるもの(例えば、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート等)、多官能価アクリレート(例えば、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート等)、およびオリゴマー(例えば、多分岐ポリエステルアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、低粘度ポリエステルアクリレートオリゴマーおよび三官能価ウレタンアクリレートオリゴマー等)が挙げられ得る。
【0034】
一実施形態において、式6のトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートが用いられてよい。
【化9】
【0035】
添加剤
実施形態のインクはさらに、従来の添加剤を含んで、このような従来の添加剤と関連した既知の機能の利点を生かしてよい。このような添加剤として、例えば、少なくとも1つの抗酸化剤、消泡剤、スリップおよび均展剤、清澄剤、粘度修飾剤、接着剤、可塑剤等が挙げられ得る。
【0036】
抗酸化剤
インクは任意で、画像を酸化から保護する抗酸化剤であって、インクリザーバ中の加熱溶融物として存在しながら、インク成分を酸化から保護し得る抗酸化剤を含有してよい。適切な抗酸化剤の例として、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナムアミド);2,2−ビス(4−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイルオキシ))エトキシフェニル)−プロパン;トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート(Aldrich);2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオロホスホニト;テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホニト;ペンタエリトリトールテトラステアレート;トリブチルアンモニウムハイポホスファイト;2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノール;2,4−ジ−tert−ブチル−6−(4−メトキシベンジル)フェノール;4−ブロモ−2,6−ジメチルフェノール;4−ブロモ−3,5−ジメチルフェノール;4−ブロモ−2−ニトロフェノール;4−(ジエチルアミノメチル)−2,5−ジメチルフェノール;3−ジメチルアミノフェノール;2−アミノ−4−tert−アミルフェノール;2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−p−クレゾール;2,2’−メチレンジフェノール;5−(ジエチルアミノ)−2−ニトロソフェノール;2,6−ジクロロ−4−フルオロフェノール;2,6−ジブロモフルオロフェノール;アルファ−トリフルオロ−o−クレゾール;2−ブロモ−4−フルオロフェノール;4−フルオロフェノール;4−クロロフェニル−2−クロロ−1,1,2−トリフルオロエチルスルホン;3,4−ジフルオロフェニル酢酸;3−フルオロフェニル酢酸;3,5−ジフルオロフェニル酢酸;2−フルオロフェニル酢酸;2,5−ビス(トリフルオロメチル)安息香酸;エチル−2−(4−(4−(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェノキシ)プロピオネート;テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニルジホスホニト;4−tert−アミルフェノール;3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェネチルアルコール;等、およびこれらの混合物が挙げられる。抗酸化剤は、存在する場合、インク中に、任意の所望量または有効量で存在してよく、インクの約0.25から約10重量%、インクの約1から約5重量%、またはインクの約1.5から約2.5重量%等である。
【0037】
着色剤
実施形態において、本明細書中に記載される相変化インク組成物は、着色剤を含んでもよい。従って、本実施形態のインクは、着色剤が存在しても不在でもよい。相変化インクは任意で、着色剤(染料または顔料等)を含有してよい。着色剤は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(CMYK)セットに、またはカスタム色染料もしくは顔料もしくは顔料の混合物から得られるスポット色に、由来してよい。染料系着色剤は、インクベース組成物(結晶性成分およびアモルファス成分ならびに任意の他の添加剤を含む)と混和性である。任意の染料または顔料が選択されてよいが、インクキャリア中に分散または溶解され得ること、そして他のインク成分と相溶性であることを条件とする。相変化キャリア組成物は、従来の相変化インク着色剤材料(カラーインデックス(C.I.)Solvent Dyes、Disperse Dyes、修飾AcidおよびDirect Dyes、BASIC Dyes、Sulphur Dyes、Vat Dyes等)と組み合わされて、用いられてよい。
【0038】
顔料もまた、本明細書の相変化インクに適した着色剤である。
【0039】
インクベース中の顔料分散系は、共力剤および分散剤によって安定化してよい。一般に、適切な顔料は、有機材料でも無機材料でもあり得る。磁気材料系顔料も適している。磁気顔料として、磁気ナノ粒子(例えば、強磁気ナノ粒子等)が挙げられる。
【0040】
実施形態において、溶媒染料が用いられてよい。本明細書における使用に適した溶媒染料の例として、本明細書中に開示されるインクキャリアとの相溶性のために、酒精溶染料が挙げられ得る。
【0041】
着色剤は、相変化インク中に、所望の色または色相が得られるような任意の所望量または有効量で存在してよく、例えば、少なくともインクの約0.1重量パーセントからインクの約50重量パーセント、少なくともインクの約0.2重量パーセントからインクの約20重量パーセント、少なくともインクの約0.5重量パーセントからインクの約10重量パーセント等である。
【0042】
インク組成物は、任意の所望の方法または適切な方法によって、調製されてよい。例えば、インクキャリアの各成分は、一緒に混合されてから、混合物が少なくともその融点(例えば、約60℃から約150℃、約80℃から約145℃、または約85℃から約140℃)に加熱されてよい。着色剤は、インク成分が加熱される前でも、インク成分が加熱された後でも、加えられ得る。顔料が選択された着色剤である場合、溶融混合物は、アトライタまたは媒質ミル装置内でグラインディングを受けて、インクキャリア中への顔料の分散がもたらされてよい。続いて、加熱された混合物は、約5秒から約30分間以上撹拌されて、実質的に均質な均一溶融物が得られてから、インクが周囲温度(一般に、約20℃から約25℃)に冷却されてよい。インクは、周囲温度にて固体である。インクは、直接印刷インクジェットプロセス用装置、および間接(オフセット)印刷インクジェット用途用装置において、用いられ得る。
【0043】
本明細書中に開示される別の実施形態は、本明細書中に開示されるインクを、インクジェット印刷装置に組み込むこと、インクを溶融すること、および溶融インクの小滴を記録基質上へ画像状パターンで吐出することを含むプロセスに関する。本明細書中に開示されるさらに別の実施形態は、本明細書中に開示されるインクを、インクジェット印刷装置に組み込むこと、インクを溶融すること、溶融インクの小滴を中間転写部材上へ画像状パターンで吐出すること、および画像状パターンのインクを中間転写部材から最終記録基質に移すことを含むプロセスに関する。
【0044】
特定の実施形態において、中間転写部材は、最終記録シートの温度を超えた温度、および印刷装置内の溶融インクの温度未満の温度に加熱されてよい。別の特定の実施形態において、中間転写部材および最終記録シートは双方とも加熱されてよい;この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートは双方とも、印刷装置内の溶融インクの温度未満の温度に加熱されてよい;この実施形態において、中間転写部材および最終記録シートの相対温度は、(1)最終記録基質の温度を超えた温度、および印刷装置内の溶融インクの温度未満の温度に;(2)中間転写部材の温度を超えた温度、および印刷装置内の溶融インクの温度未満に;または(3)およそ同じ温度に、加熱されてよい。特定の実施形態において、印刷装置は、インクの小滴が圧電振動素子のオシレーションによって画像状パターンで吐出される、圧電印刷プロセスを用いてよい。本明細書中に開示されるインクは、他の熱溶融印刷プロセス(熱溶融アコースティックインクジェット印刷、熱溶融熱式インクジェット印刷、熱溶融連続ストリームまたは偏向インクジェット印刷等)等において用いられてもよい。本明細書中に開示される相変化インクは、熱溶融インクジェット印刷プロセス以外の印刷プロセスにおいて用いられてもよい。
【0045】
任意の適切な基質または記録シートが、本開示の印刷プロセスにおいて用いられてよい。例となる基質として、普通紙、罫線入りノート紙、ボンド紙、シリカコート紙等、光沢コート紙、特殊紙等、透過性材料、織物、テキスタイル製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機記録媒体(金属等)および木材等が挙げられる。
【0046】
本明細書中に記載されるインクは、以下の実施例においてさらに説明される。
【実施例1】
【0047】
結晶性材料としてN−フェニルエチルベンズアミド(N−PEB)、およびアモルファス材料として4−tert−ブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルタルトレート(TBCT)を用いて、3つの結晶性−アモルファスインク組成物を調製した。予備スコーピング実験を、室温にて固体であるUV硬化性モノマーで行い、オフセットせずにインクを扱うことが可能であった。SR−368を、UV硬化性成分として加えた。
【表1】
【0048】
図1は、インクAのインク粘度測定値を説明すものであり、粘度が17.6cps、かつ遷移温度が110℃を示すことから、インクAのインクは、噴射に適していることが示唆される。
【0049】
図2は、インクBのインク粘度測定値を説明すものであり、粘度が18.5cps、かつ遷移温度が110℃を示すことから、インクBのインクは、噴射に適していることが示唆される。
【0050】
図3は、インクCのインク粘度測定値を説明すものであり、粘度が18.3cps、かつ遷移温度が110℃を示すことから、インクCのインクは、噴射に適していることが示唆される。
【0051】
表1の製剤は、5、10および20%のSR368アクリレートモノマーで調製した小規模試験インク製剤であり、SR368モノマーの最適ローディングを、K−プルーフロバスト性試験に基づいて決定した。表2の結果は、製剤15Cが、折り畳みオフセット結果(1.5を記録した)および折り畳み皺結果(1を記録した)の向上を示したことを説明している。表2の結果は、インクAおよびインクBの結果における僅かな向上を説明しており(折り畳みオフセットで2.5を記録し、折り畳み皺で1.5を記録した)、インクC(20%のSR368モノマー)が3つの中で最も良いインクであり得たことを実証した。これを、インクC’としてスケールアップした(Ink Cと同じ製剤)。
【0052】
硬化手順
Dバルブに取り付けたFusions UV 600Wランプを100%の出力で用いて32fpm(フィート毎分)にて硬化するFusions UVコンベヤベルト系に印刷物を通過させることによって、インクK−プルーフおよび印刷物を硬化した。
【0053】
インクK−プルーフィングおよびロバスト性試験
印刷物のロバスト性を試験するために、インクA、インクBおよびインクCを、Xerox(登録商標)Digital Color Elite Gloss、120gsm(DCEG)コート紙上へ、K−プルーファグラビア印刷プレート(低圧にセットした圧力ロールが装備されている)を用いて印刷した。グラビアプレート温度は142℃にセットしたが、実際のプレート温度は約134℃であった。K−プルーファ装置(RK Print Coat Instrument Ltd.製、Litlington、Royston、Heris、SG8 0OZ、英国)は、小規模で種々のインクをスクリーニングし、かつ種々の基質上で画質を評価するのに有用な印刷ツールである。インクは、基質から容易に取り外され得ないロバストな画像を与えた。先端部が垂直線から約15°の角度で曲がった金属チップを、528gの重量を加えて、およそ13mm/sの速度にて画像を横切らせて引っ張ったところ、インクは画像から目にみえては取り外されなかった。チップは、曲率半径がおよそ12mmのレーズ丸先切削ビットと類似する。
【0054】
インク印刷およびロバスト性試験
紙に直接印刷するよう変更されたPhaser 8860を用いて、インクを印刷した。印刷解像度は、滴質量を24.9ナノグラムに量った563×400dpi(ドット/インチ)であった。印刷物が、40℃被覆基板(DCEG:Xerox Colour Elite Gloss、120gsm)上に生じた。続いて、印刷物を、32、78、162および220fpmにて硬化し、ロバスト性について試験した。インクは、基質から容易に取り外され得ないロバストな画像を与えた。先端部が垂直線から約15°の角度で曲がった金属チップを、528gの重量を加えて、およそ13mm/sの速度にて画像を横切らせて引っ張ったところ、インクは画像から目にみえては取り外されなかった。チップは、曲率半径がおよそ12mmのレーズ丸先切削ビットと類似する。
図1
図2
図3