特許第6268078号(P6268078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6268078-N−オキシル化合物の分解方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268078
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】N−オキシル化合物の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   C02F1/72 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-237956(P2014-237956)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-97379(P2016-97379A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 千晶
(72)【発明者】
【氏名】由井 美也
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−067730(JP,A)
【文献】 特開2012−188472(JP,A)
【文献】 特開平11−147043(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0302440(US,A1)
【文献】 特開昭62−193694(JP,A)
【文献】 特開2009−254964(JP,A)
【文献】 特開2009−082907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加してN−オキシル化合物を分解することを特徴とするN−オキシル化合物の分解方法。
【請求項2】
鉄塩の添加量は、N−オキシル化合物1molに対して、0.03〜100molであることを特徴とする請求項1記載のN−オキシル化合物の分解方法。
【請求項3】
過酸化水素の添加量は、N−オキシル化合物1molに対して、0.05〜200molであることを特徴とする請求項1又は2記載のN−オキシル化合物の分解方法。
【請求項4】
鉄塩は、無機酸の鉄塩であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のN−オキシル化合物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間で、かつ、容易にN−オキシル化合物を充分に分解することができるN−オキシル化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の重金属を用いた酸化剤に代えて、水溶性の安定ニトロキシルラジカルである2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下「TEMPO」ともいう)が、アルコール類の酸化触媒として広く用いられるようになっている。
また、TEMPO触媒酸化反応では、水を媒体として、常温常圧の反応で、セルロース等の多糖類の水酸基を選択的にカルボキシル基のナトリウム塩等に変換することができることが知られている。このような反応は短時間で進行するため、多糖類の位置特異的な化学構造変換反応に用いることができるなど、TEMPO等のN−オキシル化合物は産業レベルでの利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、TEMPO自体はAmes試験において陰性であるものの、N−ヒドロキシルアミン構造を有する還元型のTEMPOについては、発がん性等が報告されている。また、TEMPO自体についても、長期間体内に存在し続けた場合の安全性は確保できていないというのが現状である。
【0004】
従って、N−オキシル化合物を用いたTEMPO触媒酸化反応において、反応後の溶液を廃液する際には、N−オキシル化合物を含んだ溶液を直接廃液せずに無害化して安全に処理する必要がある。
【0005】
特許文献1には、TEMPO触媒酸化反応後の溶液に、溶融溶剤を添加してTEMPOを抽出した後、有機溶剤を除去してTEMPOを回収して再利用する方法、吸着剤を添加してTEMPOを吸着させ回収する方法が記載されている。
また、特許文献2には、TEMPOと粒子状磁性物質を化学結合させることにより、TEMPO触媒酸化反応後に磁力によりTEMPOを回収する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、TEMPO触媒酸化反応後の溶液からTEMPOを回収する場合でも、TEMPOが溶液中から除去されず、無害化されずに廃液されるという問題があった。更に、再利用したとしてもTEMPOを廃棄することも必要となるため、なお、廃液に関する問題は残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−242590号公報
【特許文献2】特開2011−162377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、TEMPOを分解することで、N−ヒドロキシルアミン構造を有する還元型のTEMPOが形成されることもなく、廃液を安全に処理することができるTEMPOの分解方法が求められていた。
【0009】
本発明は、短時間で、かつ、容易にN−オキシル化合物を充分に分解することができるN−オキシル化合物の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加してN−オキシル化合物を分解するN−オキシル化合物の分解方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加してフェントン反応を進行させることにより、N−オキシル化合物を充分に分解されることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する。
【0013】
本発明において、N−オキシル化合物とは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及びその誘導体を表す。
上記TEMPOの誘導体としては、例えば、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、N,N−ジメチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2−アザアダマンタンN−オキシル等が挙げられる。
上記N−オキシル化合物を含有する溶液は、上記N−オキシル化合物を1種のみ含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0014】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に用いられる溶媒としては、N−オキシル化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、水、ジメチルスルホキシド、アセトン、エタノール等が挙げられる。これらのなかでも、環境負荷が少なく、廃液が容易であるという観点から、水が好適に用いられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記溶液における上記溶媒の含有量は特に限定されないが、上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が800mol、好ましい上限が8.0×10molである。前記溶媒の含有量が800mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存することがある。前記溶媒の含有量が8.0×10molを超えても、使用量に見合った効果が得られず経済的でない。前記溶媒の含有量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が1000mol、より好ましい上限が8.0×10molである。
【0016】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する前に、pH調整剤を添加してpH調整を行ってもよい。
上記溶液のpHを調整する際のpH調整剤としては、特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸等が挙げられる。
【0017】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液は、更に、染色廃液、漂白廃液等を含有してもよい。本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、染色廃液、漂白廃液等を同時に分解処理することができる。
【0018】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する。
【0019】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に過酸化水素と鉄塩とを添加するフェントン試薬法により、フェントン反応を進行させることで、N−オキシル化合物を分解する。
フェントン試薬法では、フェントン反応により、下記式(1)及び下記式(2)のように、鉄(II)イオンは過酸化水素により鉄(III)イオンに酸化され、ヒドロキシルラジカルと水酸化物イオンが生成する。次に鉄(III)イオンは鉄(II)イオンに還元され、過酸化水素によりヒドロペルオキシドラジカルとプロトンが生成される。
Fe2++H → Fe3++OH・+OH (1)
Fe3++H → Fe2++OOH・+H (2)
【0020】
本発明では、フェントン反応を進行させることによってN−オキシル化合物を分解することにより、N−オキシル化合物のピペリジン構造を完全に分解、消失させることができる。このため、フリーラジカルが再度生成され、還元型のTEMPOが生成されることがなく、N−オキシル化合物を含有する溶液を安全に廃液することができる。
【0021】
フェントン反応を進行させることによりN−オキシル化合物のピペリジン構造が完全に分解、消失する理由は定かではないが、フェントン反応によって生成されるヒドロキシラジカル又はヒドロペルオキシドラジカルの強い酸化力により、N−オキシル化合物がCO等のレベルにまで分解されるためであると考えられる。
【0022】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に添加する過酸化水素の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が0.05mol、好ましい上限が200molである。上記過酸化水素の添加量が0.05mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存する場合がある。上記過酸化水素の添加量が200molを超えると、過剰な過酸化水素が残存し、還元コストが増大する場合がある。上記過酸化水素の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が1mol、より好ましい上限が150molである。
【0023】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に過酸化水素を添加する際には、過酸化水素は1回で全量を添加されてもよく、複数回に分割して添加されてもよい。N−オキシル化合物を効率的に短時間で分解することができるため、1回で全量を添加することが好ましい。
【0024】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に添加する鉄塩としては、Fe2+又はFe3+を生成するものであれば特に限定されないが、例えば、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第一鉄、臭化第二鉄、ヨウ化第一鉄、ヨウ化第二鉄等の無機酸の鉄塩、酢酸第一鉄、酢酸第二鉄、フマル酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、シュウ酸第二鉄等の有機酸の鉄塩、及び、これらの水和物等が挙げられる。なかでも、安価で入手できることから、無機酸の鉄塩が好ましく、硫酸第一鉄が特に好ましい。
これらの鉄塩は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記鉄塩の添加量は、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に含まれる上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が0.03mol、好ましい上限が100molである。上記鉄塩の添加量が、0.03mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存することがある。上記鉄塩の添加量が、100molを超えると、余剰の鉄塩を処理する必要が生じ、コストが増大することがある。上記鉄塩の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が0.1mol、より好ましい上限が60molである。
【0026】
上記鉄塩を添加する方法は特に限定されないが、例えば、水を用いて希釈後、定量ポンプで添加する方法等が挙げられる。
【0027】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に上記鉄塩を添加する際には、上記鉄塩は1回に全量を添加されてもよく、複数回に分割して添加されてもよい。N−オキシル化合物の分解をより促進できることから、1回に全量を添加することが好ましい。
【0028】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記工程2において、上記鉄塩と過酸化水素とを同時に添加してもよく、先に上記鉄塩を添加してもよく、先に過酸化水素を添加してもよく、過酸化水素と上記鉄塩を交互に分割して添加してもよい。なかでも、N−オキシル化合物の分解をより促進できることから、鉄塩と過酸化水素とを同時に添加することが好ましい。
【0029】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、過酸化水素及び上記鉄塩に加えて、更に、ポリ塩化アルミ等の凝集剤等を添加してもよい。凝集剤を添加することにより分解を更に促進することができる。
【0030】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、過酸化水素と上記鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液は、pHが2.0〜3.0に調整されることが好ましい。上記溶液のpHが2.0〜3.0に調整されることにより、フェントン反応を効率的に進行させることができる。上記溶液のpHは、2.5〜3.0に調整されることがより好ましい。
【0031】
上記過酸化水素と鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液のpHを調整する際のpH調整剤としては、過酸化水素と鉄塩とを添加する前の溶液のpHを調整する際のpH調整剤として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0032】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、過酸化水素と鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液の温度は、好ましい下限が20℃、好ましい上限が60℃である。上記温度が20℃未満であると、フェントン反応が進行しにくくなり、分解が不充分となる場合がある。上記温度が60℃を超えても、温度上昇に見合った効果が得られず経済的でない。上記溶液の温度は、より好ましい下限が30℃、より好ましい上限が50℃である。
【0033】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液を過酸化水素と上記鉄塩とを添加してから上記温度範囲まで加熱してもよく、加熱しながら過酸化水素と上記鉄塩とを添加してもよく、加熱後に過酸化水素と上記鉄塩とを添加してもよい。短時間で効率よく分解処理ができることから、過酸化水素と上記鉄塩とを添加してから加熱することが好ましい。
【0034】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に対して、更に撹拌を行うことが好ましい。
上記撹拌方法としては、例えば、撹拌翼を有する攪拌機による方法、ポンプによる循環による方法、散気管等によるエアレーション等が挙げられる。
【0035】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、上記N−オキシル化合物を含有する溶液を撹拌する時間は、好ましい下限が10分、好ましい上限が24時間である。上記時間が10分未満であると、N−オキシル化合物の分解が充分に進行せず残存することがある。上記時間が24時間を超えても、見合った効果が得られず経済的でない。上記撹拌する時間は、より好ましい下限が30分、より好ましい上限が180分である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、短時間で、かつ、容易にN−オキシル化合物を充分に分解することができるN−オキシル化合物の分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施例2、6、7及び8の分解処理後の混合液に生成された沈殿生成物の固体NMR測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
N−オキシル化合物として、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを水に溶解し、N−オキシル化合物を含有する水溶液100mL(N−オキシル化合物0.656mmol/L)を得た。
【0040】
上記水溶液に対して、硫酸第一鉄・七水和物0.008g(0.0029mmol)を添加し、次に30%過酸化水素水0.13mL(過酸化水素1.27mmol)を全量添加し、撹拌しながら0.5Nの硫酸水溶液を用いてpHを2.7に調整した。その後、混合液の温度を常温から35℃に加熱し、90分間撹拌して反応させることにより分解処理を行った。
【0041】
<実施例2>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.654mmol/Lとし、硫酸第一鉄・七水和物0.06g(0.216mmol)添加した以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0042】
<実施例3>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.710mmol/Lとし、硫化第一鉄・七水和物0.96g(3.453mmol)、30%過酸化水素水1.07mL(過酸化水素10.48mmol)添加した以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0043】
<実施例4>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.672mmol/Lとし、硫化第一鉄・七水和物0.06g(0.216mmol)、30%過酸化水素水0.075mL(過酸化水素0.73mmol)添加した以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0044】
<実施例5>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.676mmol/Lとし、硫化第一鉄・七水和物0.06g(0.216mmol)、30%過酸化水素水0.035mL(過酸化水素0.34mmol)添加した以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0045】
<実施例6>
N−オキシル化合物として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(H−TEMPO)を用い、N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.530mmol/L、硫酸第一鉄・七水和物0.06g(0.216mmol)、30%過酸化水素水0.13mL(過酸化水素1.27mmol)を添加し、120分間撹拌して反応させることにより分解処理を行った以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0046】
<実施例7>
N−オキシル化合物として4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(A−TEMPO)を用い、N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.577mmol/Lとし、硫酸第一鉄・七水和物0.06g(0.216mmol)、30%過酸化水素水0.13mL(過酸化水素1.27mmol)を添加し、180分間撹拌して反応させることにより分解処理を行った以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0047】
<実施例8>
N−オキシル化合物としてA−TEMPOを用い、N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.614mmol/Lとし、硫酸第一鉄・七水和物0.16g(0.575mmol)、30%過酸化水素水0.13mL(過酸化水素1.27mmol)を添加し、150分間撹拌して反応させることにより分解処理を行った以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0048】
<実施例9>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.580mmol/Lとし、硫酸第一鉄・七水和物に代えて塩化第一鉄・四水和物0.05g(0.251mmol)、30%過酸化水素水0.13mL(過酸化水素1.27mmol)を添加し、150分間撹拌して反応させることにより分解処理を行った以外は、実施例1と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0049】
<比較例1>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.714mmol/Lとし、30%過酸化水素水を添加しなかった以外は、実施例2と同様にしてN−オキシル化合物の分解処理を行った。
【0050】
<比較例2>
N−オキシル化合物を含有する水溶液におけるN−オキシル化合物の濃度を0.572mmol/Lとし、硫酸第一鉄・七水和物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてTEMPOの分解処理を行った。
【0051】
(評価)
実施例1〜9及び比較例1〜2について以下の評価を行った。
【0052】
(1)処理液のラジカル評価
撹拌開始後30分毎に処理液をサンプリングし、ESR測定装置e−scan 卓上型 ESR スペクトロメーター(ブルカー・バイオスピン社製)を用いたESR測定を行い、ラジカル量を測定した。ラジカルが検出できなくなった時点で反応終了とし、確認のために一昼夜静置後、再度残存がないかESR測定を行い、ラジカル量を測定した。結果を表2に示す。
なお、実施例1〜5及び9については、撹拌時間を90分として分解処理を行った。実施例1、2、4、5及び9では、撹拌開始90分後、ラジカルの残留が確認されたものの、一昼夜静置後、ラジカルが検出されないことを確認した。
【0053】
(2)残留過酸化水素濃度の測定
実施例1〜9及び比較例1、2の分解処理後、混合液を一昼夜静置し、Quantofix(MACHEREY−NAGEL社製)過酸化水素試験紙を混合液に浸漬することにより、残留過酸化水素の濃度を測定した。
その結果、実施例1〜9及び比較例1、2の分解処理後、一昼夜静置した混合液には過酸化水素が残留しておらず、過酸化水素由来のヒドロペルオキシドラジカルが検出されないことを確認した。
【0054】
(3)分解生成物の確認
実施例3の分解処理後、一昼夜静置後の混合液について、JIS K 0101−36.2に準拠してインドフェノール青吸光光度法によりアンモニア体窒素の含有量を測定した。また、DX−500(ダイオネクス社製)を用い、イオンクロマトグラフ法により亜硝酸イオン及び硝酸イオンの含有量を測定した。結果を表3に示す。
表3の通り、分解処理終了後の混合液からは、窒素化合物の分解生成物であるアンモニア体窒素、亜硝酸イオン、硝酸イオンが検出されており、N−オキシル化合物が分解されていることを確認した。
【0055】
(4)TEMPO構造の有無の確認
分解処理終了後の混合液に生成された沈殿生成物をヘキサン10mlで溶媒抽出することにより抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析計GC−17A(島津製作所社製)を用いて、GC−MS分析を行い、ピーク強度を測定し、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの残留の有無を確認し、ピペリジン構造が存在しているか否かを確認した。評価結果を表2に示す。
実施例1〜9の分解処理終了後に得られた混合液に生成された沈殿生成物では、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン由来のピークは検出されず、ピペリジン構造が存在していないことを確認した。
【0056】
(5)残存有機物の有無の確認
分解処理終了後の混合液に生成された沈殿生成物について、NMR分析装置JNM−ECA500(日本電子社製)を用いて、固体NMR測定を行い、残存有機物の有無を確認した。評価結果を表2に示す。また、実施例2、6、7、8の測定結果を図1に示す。
図1から、実施例2、6、7、8の分解処理後の沈殿生成物には有機化合物が含有しておらず、N−オキシル化合物が充分に分解されていることを確認した。他の実施例についても同様の傾向が確認でき、N−オキシル化合物が充分に分解されていることを確認した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、短時間で、かつ、容易にN−オキシル化合物を充分に分解することができるN−オキシル化合物の分解方法を提供することができる。
図1