【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加してN−オキシル化合物を分解するN−オキシル化合物の分解方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加してフェントン反応を進行させることにより、N−オキシル化合物を充分に分解されることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する。
【0013】
本発明において、N−オキシル化合物とは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及びその誘導体を表す。
上記TEMPOの誘導体としては、例えば、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、N,N−ジメチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2−アザアダマンタンN−オキシル等が挙げられる。
上記N−オキシル化合物を含有する溶液は、上記N−オキシル化合物を1種のみ含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0014】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に用いられる溶媒としては、N−オキシル化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、水、ジメチルスルホキシド、アセトン、エタノール等が挙げられる。これらのなかでも、環境負荷が少なく、廃液が容易であるという観点から、水が好適に用いられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記溶液における上記溶媒の含有量は特に限定されないが、上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が800mol、好ましい上限が8.0×10
5molである。前記溶媒の含有量が800mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存することがある。前記溶媒の含有量が8.0×10
5molを超えても、使用量に見合った効果が得られず経済的でない。前記溶媒の含有量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が1000mol、より好ましい上限が8.0×10
4molである。
【0016】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する前に、pH調整剤を添加してpH調整を行ってもよい。
上記溶液のpHを調整する際のpH調整剤としては、特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸等が挙げられる。
【0017】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液は、更に、染色廃液、漂白廃液等を含有してもよい。本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、染色廃液、漂白廃液等を同時に分解処理することができる。
【0018】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に、過酸化水素と鉄塩とを添加する。
【0019】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に過酸化水素と鉄塩とを添加するフェントン試薬法により、フェントン反応を進行させることで、N−オキシル化合物を分解する。
フェントン試薬法では、フェントン反応により、下記式(1)及び下記式(2)のように、鉄(II)イオンは過酸化水素により鉄(III)イオンに酸化され、ヒドロキシルラジカルと水酸化物イオンが生成する。次に鉄(III)イオンは鉄(II)イオンに還元され、過酸化水素によりヒドロペルオキシドラジカルとプロトンが生成される。
Fe
2++H
2O
2 → Fe
3++OH・+OH
− (1)
Fe
3++H
2O
2 → Fe
2++OOH・+H
+ (2)
【0020】
本発明では、フェントン反応を進行させることによってN−オキシル化合物を分解することにより、N−オキシル化合物のピペリジン構造を完全に分解、消失させることができる。このため、フリーラジカルが再度生成され、還元型のTEMPOが生成されることがなく、N−オキシル化合物を含有する溶液を安全に廃液することができる。
【0021】
フェントン反応を進行させることによりN−オキシル化合物のピペリジン構造が完全に分解、消失する理由は定かではないが、フェントン反応によって生成されるヒドロキシラジカル又はヒドロペルオキシドラジカルの強い酸化力により、N−オキシル化合物がCO
2等のレベルにまで分解されるためであると考えられる。
【0022】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に添加する過酸化水素の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が0.05mol、好ましい上限が200molである。上記過酸化水素の添加量が0.05mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存する場合がある。上記過酸化水素の添加量が200molを超えると、過剰な過酸化水素が残存し、還元コストが増大する場合がある。上記過酸化水素の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が1mol、より好ましい上限が150molである。
【0023】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に過酸化水素を添加する際には、過酸化水素は1回で全量を添加されてもよく、複数回に分割して添加されてもよい。N−オキシル化合物を効率的に短時間で分解することができるため、1回で全量を添加することが好ましい。
【0024】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に添加する鉄塩としては、Fe
2+又はFe
3+を生成するものであれば特に限定されないが、例えば、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化第一鉄、臭化第二鉄、ヨウ化第一鉄、ヨウ化第二鉄等の無機酸の鉄塩、酢酸第一鉄、酢酸第二鉄、フマル酸第一鉄、シュウ酸第一鉄、シュウ酸第二鉄等の有機酸の鉄塩、及び、これらの水和物等が挙げられる。なかでも、安価で入手できることから、無機酸の鉄塩が好ましく、硫酸第一鉄が特に好ましい。
これらの鉄塩は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記鉄塩の添加量は、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に含まれる上記N−オキシル化合物1molに対して、好ましい下限が0.03mol、好ましい上限が100molである。上記鉄塩の添加量が、0.03mol未満であると、N−オキシル化合物が充分に分解されず残存することがある。上記鉄塩の添加量が、100molを超えると、余剰の鉄塩を処理する必要が生じ、コストが増大することがある。上記鉄塩の添加量は、上記N−オキシル化合物1molに対して、より好ましい下限が0.1mol、より好ましい上限が60molである。
【0026】
上記鉄塩を添加する方法は特に限定されないが、例えば、水を用いて希釈後、定量ポンプで添加する方法等が挙げられる。
【0027】
上記N−オキシル化合物を含有する溶液に上記鉄塩を添加する際には、上記鉄塩は1回に全量を添加されてもよく、複数回に分割して添加されてもよい。N−オキシル化合物の分解をより促進できることから、1回に全量を添加することが好ましい。
【0028】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記工程2において、上記鉄塩と過酸化水素とを同時に添加してもよく、先に上記鉄塩を添加してもよく、先に過酸化水素を添加してもよく、過酸化水素と上記鉄塩を交互に分割して添加してもよい。なかでも、N−オキシル化合物の分解をより促進できることから、鉄塩と過酸化水素とを同時に添加することが好ましい。
【0029】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、過酸化水素及び上記鉄塩に加えて、更に、ポリ塩化アルミ等の凝集剤等を添加してもよい。凝集剤を添加することにより分解を更に促進することができる。
【0030】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、過酸化水素と上記鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液は、pHが2.0〜3.0に調整されることが好ましい。上記溶液のpHが2.0〜3.0に調整されることにより、フェントン反応を効率的に進行させることができる。上記溶液のpHは、2.5〜3.0に調整されることがより好ましい。
【0031】
上記過酸化水素と鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液のpHを調整する際のpH調整剤としては、過酸化水素と鉄塩とを添加する前の溶液のpHを調整する際のpH調整剤として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0032】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、過酸化水素と鉄塩とが添加された後のN−オキシル化合物を含有する溶液の温度は、好ましい下限が20℃、好ましい上限が60℃である。上記温度が20℃未満であると、フェントン反応が進行しにくくなり、分解が不充分となる場合がある。上記温度が60℃を超えても、温度上昇に見合った効果が得られず経済的でない。上記溶液の温度は、より好ましい下限が30℃、より好ましい上限が50℃である。
【0033】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液を過酸化水素と上記鉄塩とを添加してから上記温度範囲まで加熱してもよく、加熱しながら過酸化水素と上記鉄塩とを添加してもよく、加熱後に過酸化水素と上記鉄塩とを添加してもよい。短時間で効率よく分解処理ができることから、過酸化水素と上記鉄塩とを添加してから加熱することが好ましい。
【0034】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法では、上記N−オキシル化合物を含有する溶液に対して、更に撹拌を行うことが好ましい。
上記撹拌方法としては、例えば、撹拌翼を有する攪拌機による方法、ポンプによる循環による方法、散気管等によるエアレーション等が挙げられる。
【0035】
本発明のN−オキシル化合物の分解方法において、上記N−オキシル化合物を含有する溶液を撹拌する時間は、好ましい下限が10分、好ましい上限が24時間である。上記時間が10分未満であると、N−オキシル化合物の分解が充分に進行せず残存することがある。上記時間が24時間を超えても、見合った効果が得られず経済的でない。上記撹拌する時間は、より好ましい下限が30分、より好ましい上限が180分である。