(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような背景で本発明は開発されたものであり、以下の目的を達成するものである。
本発明の目的は、金属とPP系GFRTPが強力な接合強度を有する、金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体とその製造方法を提供するものである。
本発明の他の目的は、生産性が高く、しかも金属とPP系GFRTPが強力な接合強度を有する、金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明1の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、
金属形状物上に、熱硬化型樹脂層、変性ポリオレフィン樹脂層、ポリプロピレン系樹脂組成物、及びガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)で積層された、
金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体であって、
前記変性ポリオレフィン樹脂層をなす樹脂は、
共重合型ポリオレフィン(A)を基材に、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、及び(メタ)アクリル酸から選択される一種以上の成分(B)
及び(メタ)アクリル酸エステル(C)をグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂であって、
重量平均分子量10万〜20万で、かつ示差走査型熱量計(DSC)による融点70〜110℃のもの、
又は、前記成分(A)を基材に、前記成分(B)、(C)をグラフト重合させた重量平均分子量10万〜20万である2種以上の変性ポリオレフィン樹脂を、融点の加重平均が70〜110℃となるように混合した物であり、
前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)は、ガラス繊維とマトリックス樹脂がポリプロピレン樹脂であることを特徴とする。
【0010】
本発明2の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、本発明1において、前記熱硬化型樹脂層は、主材がウレタン樹脂又はエポキシ樹脂からなるコート材であり、前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)の表層には、前記変性ポリオレフィン樹脂層が形成されているものであることを特徴とする。
【0011】
本発明3の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、本発明1又は2において、前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)は、スタンパブルシートであり、前記ポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形により成形されたものであることを特徴とする。
【0012】
本発明4の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、本発明1又は2において、前記共重合型ポリオレフィン(A)が、エチレン共重合型ポリプロピレン、1−ブテン共重合型ポリプロピレン、及びエチレン−1−ブテン共重合型ポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
本発明5の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、本発明1又は2において、前記の(メタ)アクリル酸エステル(C)が、少なくとも一般式(1)で示される化合物であり、
CH
2=CR1COOR2・・・(1)
ただし、式(1)中、R1=H又はCH
3、R2=C
nH
2n+1、n=8〜18の整数)、
であること特徴とする。
【0014】
本発明6の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体は、本発明1又は2において、前記
成分(B)のグラフト質量及び
前記(メタ)アクリル酸エステル(C)のグラフト質量のうち少なくとも一方が0.1〜10質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明7の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の
積層複合体の製造方法は、
表面を化学的、又は物理的に粗面化した金属形状物を用意する工程と、
前記金属形状物に、主材がウレタン樹脂又はエポキシ樹脂からなる第1コート材を塗布し、加熱して樹脂層を半硬化する工程と、
前記半硬化した前記第1コート材上に、
共重合型ポリオレフィン(A)を基材に、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、及び(メタ)アクリル酸から選択される一種以上の成分(B)
及び(メタ)アクリル酸エステル(C)をグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂であって、
前記変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が10万〜20万であり、かつ示差走査型熱量計(DSC)による融点70〜110℃であるもの、
又は、前記成分(A)を基材に、前記成分(B)、(C)をグラフト重合させた重量平均分子量10万〜20万である2種以上の変性ポリオレフィン樹脂を、融点の加重平均が70〜110℃となるように混合した物である
変性ポリオレフィン樹脂である第2コート材を塗布した後、
前記金属形状物を加熱し放冷して下地の前記第1コート材を追硬化させると共に、前記第2コート材層を溶融固着させる工程と、
前記第1コート材及び前記第2コート材で塗布し定着済の前記金属形状物、ガラス繊維とマトリックス樹脂がポリプロピレン樹脂である前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)を射出成形金型にインサートする工程と、
前記第2コート材と前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)の間にポリプロピレン系樹脂組成物を射出して、前記金属形状物と前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)を一体化して積層複合体を得る工程とからなることを特徴とする。
【0016】
本発明8の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体の製造方法は、本発明7において、前記熱硬化型樹脂層は、主材がウレタン樹脂又はエポキシ樹脂からなるコート材であり、前記ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)は、スタンパブルシートであり、表面に前記変性ポリオレフィン樹脂層が形成されているものであることを特徴とする。
【0017】
本発明9の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体の製造方法は、本発明7又は8において、前記共重合型ポリオレフィン(A)が、エチレン共重合型ポリプロピレン、1−ブテン共重合型ポリプロピレン、及びエチレン−1−ブテン共重合型ポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
本発明10の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体の製造方法は、本発明7又は8において、
前記の(メタ)アクリル酸エステル(C)が、一般式(1)で示される化合物であり、
CH
2=CR1COOR2・・・(1)
ただし、式(1)中、R1=H又はCH
3、R2=C
nH
2n+1、n=8〜18の整数)、
であることを特徴とする。
【0019】
本発明11の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体の製造方法は、本発明7又は8において、前記
成分(B)のグラフト質量及び
前記(メタ)アクリル酸エステル(C)のグラフト質量のうち少なくとも一方が0.1〜10質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の金属とポリプロピレン系樹脂組成物の積層複合体とその製造方法は、金属とPP系GFRTP成形物間の接合力に優れた複合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[金属とPP系GFRTP成形物の複合体の製造工程の概要]
図1は、本発明の金属とGFRTP成形物の複合体の製造工程の概要の一例を示すプロック図である。
図1に示すように、素材である金属材を所望の形状に機械加工した金属形状物と、GFRTP製のスタンパブルシートを別々に準備する。本発明でいうスタンパブルシートは、主にPPである熱可塑性樹脂とガラス繊維を、抄紙技術によりシート状としたプラスチック材料である。GFRTP製のスタンパブルシートは、それぞれ別々の工程で加工され、最終工程である射出成形機による射出接合工程で一体化される。それ故、射出接合工程で一体化するために射出成形金型にインサートする前に、後述する塗膜付き金属材と、スタンピング成形品を別々に用意する必要がある。この複合体の製造の最終工程である射出接合工程で射出される樹脂は、通常はPP系の組成物であり汎用の市販品で良い。それ故、射出接合技術に関しては、本発明者等が開発し提案したPP用射出接合技術(特許文献1)がそのまま適用できる。
【0023】
前述した特許文献1に記載された方法の概要は次の通りである。素材である金属材を機械加工して成形された金属形状物の表面を、サンドブラスト、化学研磨等の公知の加工方法により、粗面化する。これを洗浄した後に、ウレタン硬化型インキ、又はエポキシ樹脂からなる熱硬化型樹脂層コート材を塗布し、次に、特定の変性ポリオレフィン樹脂のコート材を塗布して、2層塗面を有する塗料付き金属材とする。2層塗面を備えた金属形状物を射出成形金型にインサートして、これにポリプロピレン系樹脂組成物(以下、PPともいう。)を射出して、目的とする射出接合物を得る。
【0024】
本発明の金属とPPの複合体の製造には、上述した方法で、先ず2層塗面を有する金属形状物を作成し準備する。本発明は、この金属形状物とは別にスタンパブルシートを用意する。本発明でいうスタンパブルシートは、熱可塑性樹脂であるPPとガラス繊維を、抄紙技術等によりシート状とした公知のプラスチック材料である。このスタンパブルシートは、樹脂を溶解させることなく、低圧のコールドプレス、ホットプレス等で成形が可能であるという優れた加工性を持ち、自動車の内装部材等に利用されているものである。この既に実用化、商業化されているスタンパブルシートのスタンピング成形を使用し、所定形状のスタンピング成形物を得る。
【0025】
ただし、本発明で使用できるスタンピング成形物は、このPP系スタンパブルシートに限定されない。PP系GFRTPであれば、他のものでも良い。即ち、抄紙法で製造されたスタンパブルシートでなくても、均一に攪拌した粉状のPP樹脂とガラス繊維を金型等で成形されたもの、スタンパブルシートを複数枚積層し、これを部分的に機械結合したもの、加熱溶着したもの、超音波接合したもの等でも使用可能である。従って、本発明でいうPP系GFRTPは、PP系スタンパブルシート、これの積層体、成形物等を意味する。そして、このPP系GFRTPを成形したPP系GFRTP成形物を準備して、射出成形金型を用意し、これに前述の2層塗面を施した金属形状物と、PP系GFRTP成形物の双方をインサートし、これにPPを射出し、金属とポリプロピレン系樹脂組成物の複合体である最終品を得るものである。
【0026】
以下、本発明の詳細を工程毎に説明する。
[I.塗料付き金属形状物の製造]
[1.金属形状物とその表面処理]
本発明の複合体に使用する金属形状物の素材である金属材の材質は、本発明では実質的に制限されない。即ち、この金属材は、マグネシウム合金、アルミ合金、チタン合金、銅合金、ステンレス鋼、一般鋼材、アルミ鍍金鋼板等のあらゆる材質を使用できる。金属材を機械加工等で必要な形状物に加工した後に、下地加工として、例えば、本発明の発明者が提唱するNAT処理(例えば、WO2008/114669(A1)等に記載された接着のための表面処理形状)をして、コート材等との接合力を最高度に上げるのが良い。しかしながら、本発明の金属形状物の表面処理は、この表面処理方法に限定されるわけではない。
【0027】
本発明の目標とする最終的な剪断破断応力は、約15MPa程度であるので、塗装等のための一般的な化学エッチング処理、又はブラスト処理やサンドぺーパー研磨の機械加工等の物理的な粗面化処理、を加えるものでも良い。市販の金属板材、押し出し材等を中間材料にして金属形状物を用いる場合、脱脂工程にかけてその表面の機械油、指油等を除き、それを水洗乾燥するだけで適切な粗面状態になっているものも多い。従って、予備試験を行って改めて粗面化処理を加えなくてよいと判断した場合、金属形状物は脱脂工程だけ行って次工程に送る処理方法でも良い。
【0028】
[2.熱硬化型樹脂層(第1コート材)]
(ウレタン樹脂硬化層)
本発明の熱硬化型樹脂層の一つは、金属形状物の表面に、ウレタン硬化型樹脂コート材、例えば、2液性ウレタン硬化型インキ(溶剤型スクリーンインキ)を塗布した後、加熱し、半硬化させた樹脂層である。金属形状物の表面に直接接合させるものは、本発明では第1コート材である熱硬化型樹脂であり、その機能は金属表面との接着であり、かつその上部に積層される素材を繋ぎ止めるためのものである。即ち、その上部の素材とは、第2コート材である特定の融点を有する変性ポリオレフィン樹脂である。変性ポリオレフィン樹脂は、このの上層に、成形のために射出されるポリプロピレン系樹脂組成物の流れに流されぬように、繋ぎ止めるためのものである。それ故に、第1コート材として使用する熱硬化型樹脂は、低温で硬化可能な2液性の熱硬化型樹脂が好適であり、本例では2液性のウレタン硬化型樹脂を用いた。より具体的には、市販の2液性ウレタン硬化型コート材、即ち、ウレタン硬化型のインキ、ウレタン塗料等が使用できる。
【0029】
前述の粗面化した金属形状物に、前述した熱硬化型樹脂を含む一般的なインキ、塗料等から選んだものを塗布し、そのコート材メーカーが推薦しているそのコート材の硬化温度より15〜20℃低い温度で加熱し、そのコート材中に含まれている溶剤を蒸発させて、コート材中の樹脂を半硬化させる。本発明者等は、一例として市販の2液性のウレタン硬化型インキを使用し、硬化のための推奨硬化温度より15〜20℃低い80℃で、十数分加熱し硬化させた。これがコート材を半硬化させるための一例である。
(エポキシ樹脂硬化層)
本発明の第1コート材である熱硬化型樹脂層は、上記のウレタン樹脂硬化層に換えて、有極性のエポキシ樹脂系の塗料、インキ等のコート材であっても良い。エポキシ樹脂系のコート材は、1又は2液性エポキシ樹脂の何れでも良い。金属表面に常法により塗布した後、硬化のためのメーカー推奨硬化温度より15〜20℃低い80℃で十数分加熱し硬化させる。
【0030】
[3.変性ポリオレフィン樹脂(第2コート材)]
本発明の変性ポリオレフィン樹脂層は、前記第1コート材の上層に積層される第2コート材である。この変性ポリオレフィン樹脂層は、半硬化した前記熱硬化型樹脂層の上層に、変性ポリオレフィン樹脂コート材を塗布した後、これを加熱し、冷却固化させた樹脂層である。詳しくは、第2コート材は、半硬化させた前述の第1コート材である熱硬化型樹脂層の上に、変性ポリオレフィン樹脂を含有する接着剤組成物の溶液を塗布して形成されるものである。この変性ポリオレフィン樹脂は、この融点より高い温度まで昇温して加熱することにより、半硬化していた前述したウレタン硬化型樹脂層、又はエポキシ樹脂硬化層を更に硬化させ、同時に、この変性ポリオレフィン樹脂層を一旦溶融させその後の放冷で固化して固着させて形成する層である。
【0031】
この変性ポリオレフィン樹脂層を構成する主成分の樹脂は、後述する特定の変性ポリオレフィン樹脂である。この変性ポリオレフィン樹脂に何を使用するかで接着力(固着力)は全く異なるからである。即ち、本発明で使用するこの変性ポリオレフィン樹脂は、共重合型ポリオレフィンを基材として、極性モノマーをグラフト重合して得た1種、又は2種以上の非塩素化変性ポリオレフィン樹脂(以下、「変性ポリオレフィン樹脂」と言う。)を主成分とする樹脂混合物であって、その示差走査型熱量計(DSC)による融点は、変性ポリオレフィン樹脂1種の場合70〜110℃、変性ポリオレフィン樹脂が1種以上であり、且つ変性ポリオレフィン以外の樹脂も含む混合物の場合は、その加重平均が70〜110℃であることが必要である。
【0032】
この変性ポリオレフィン樹脂は、融点や加重平均融点が上記範囲外になると十分な接着力が得られない。このように、本発明の変性ポリオレフィン樹脂層に使用する樹脂組成物は、変性ポリオレフィン樹脂以外に、所望の効果を阻害しない範囲で、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の公知の接着性を有する樹脂を配合することもできるが、その融点範囲に留意することが必要である。
【0033】
(変性ポリオレフィン樹脂の詳細)
変性ポリオレフィン樹脂は、共重合型ポリオレフィン(A)を基材として、極性モノマーをグラフト重合して得た変性ポリオレフィン樹脂であり、この変性ポリオレフィン樹脂について更に述べる。即ち、基材となるポリオレフィンは、ホモ型のポリオレフィンではなく、共重合型のポリオレフィンであるものが好ましい。基材となる共重合型ポリオレフィン(A)は、特に限定されないが、エチレン共重合型ポリプロピレン、1−ブテン共重合型ポリプロピレン、1−ペンテン共重合型ポリプロピレン、1−ヘキセン共重合型ポリプロピレン、等々のαオレフィン共重合型ポリプロピレン、更には、2種以上のαオレフィンコモノマーを含む共重合型ポリプロピレンを使用することが好ましい。そして、基材となるこの共重合型ポリオレフィンの重量平均分子量は、グラフト重合後に得られる変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が5万〜50万の範囲となれば自由に選択して使用できるが、その重量平均分子量が10万〜20万であるのが好ましい。重量平均分子量が5万より小さいと、接着性、溶液性状等の所望性能を維持したまま、グラフト重合後に重量平均分子量を上記範囲に収めることが難しく、50万より大きいと反応系の粘度が上がり、撹拌不良等のトラブルが生じる。
【0034】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が10万より小さいと、分子長さが短いものであり、下地の熱硬化性樹脂とこの表面上に接合されるポリプロピレン系樹脂組成物を繋ぎ止める力が不十分になる故とみられる。一方、変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が20万より大きいと、溶剤に溶け難くなり、塗料性や被覆形成性も低下するので好ましくない。更に、グラフト重合前の基材であるポリプロピレン樹脂(A)に、α,β−不飽和カルボン酸、又はこのα,β−不飽和カルボン酸の誘導体(B)、及び(メタ)アクリル酸エステル(C)を、グラフト重合することで本発明に使用できる変性ポリオレフィン樹脂になる。以下、前記成分(B)、前記成分(C)について、それぞれ詳細に述べる。
【0035】
前記成分(B)は、α,β−不飽和カルボン酸、又はこのα,β−不飽和カルボン酸の誘導体である。α,β−不飽和カルボン酸及びこの誘導体としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸などが例示され使用できるが、特に無水マレイン酸の使用が好ましい。成分(B)は、α,β−不飽和カルボン酸及びその誘導体から選ばれる1種以上の化合物であればよく、α,β−不飽和カルボン酸1種以上とその誘導体1種以上の組み合わせ、α,β−不飽和カルボン酸2種以上の組み合わせ、α,β−不飽和カルボン酸の誘導体2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
変性ポリオレフィン樹脂中の前記成分(B)のグラフト質量は、変性ポリオレフィン樹脂を100質量%とした場合に、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは、0.5〜4質量%である。グラフト質量が、0.1質量%以上であることにより、得られる変性ポリオレフィン樹脂の極性樹脂に対する接着性を保つことができる。グラフト質量が10質量%以下であることにより、グラフト未反応物の発生や分子量の低下を防止することができ、樹脂被着体に対する十分な接着性を得ることができる。前記成分(B)のグラフト質量%は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ滴定法、或いはフーリエ変換赤外分光法によって求めることができる。
【0037】
前記成分(C)は、(メタ)アクリル酸エステルである。(メタ)アクリル酸エステルはアクリル酸又はメタクリル酸のエステルであり、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
前記成分(C)は、下記の一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルであるものがより好ましい。
CH
2=CR1COOR2 ・・・(1)
これにより、変性ポリオレフィン樹脂を合成する際の共重合型ポリオレフィン樹脂(A)からの分子量の低下を抑制するとともに、分子量分布を狭くすることができ、変性ポリオレフィン樹脂の溶剤溶解性、溶液の低温安定性、接着剤組成物中の他樹脂との相溶性、接着性を向上させることができる。上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステルは、単独でも複数種でも任意の割合で混合して使用することができる。
【0039】
前述の一般式(1)中のR1は、H又はCH
3を表すが、本発明の(メタ)アクリル酸エステルでは、CH
3のものが好ましい。R2は、C
nH
2n+1を表す。ただし、nは、8〜18の整数を表し、nが8〜15であるものが好ましく、nが8〜14であるものがより好ましく、nが8〜13であるものが更に好ましい。前述した式(1)で示される化合物としては、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートが好ましく、ラウリルメタクリレート、オクチルメタクリレートがより好ましい。
【0040】
変性ポリオレフィン樹脂中の前記成分(C)のグラフト質量は、変性ポリオレフィン樹脂を100質量%とした場合に、0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは、0.5〜4質量%である。グラフト質量が0.1質量%以上であることにより、変性ポリオレフィン樹脂の分子量の分布を十分狭い範囲に保ち、グラフト変性時の分子量の低下も抑制することができる。すなわち、高分子量が適性でないときの接着力の悪影響を防止して、溶剤溶解性、溶液の低温安定性及び他樹脂との相溶性を良好に保持することができる。また、低分子量部分の悪影響を防止して、接着力を向上させることができる。グラフト質量が10質量%以下であることにより、グラフト未反応物の発生を防止し、樹脂被着体に対する接着性を良好に保持することができる。前記成分(C)のグラフト質量%は、公知の方法で測定することができる。例えば、フーリエ変換赤外分光法、或いは1H−NMR(プロトン核磁気共鳴)によって求めることができる。
【0041】
変性ポリオレフィン樹脂中の前記成分(B)のグラフト質量、及び前記成分(C)のグラフト質量のうちのいずれかが、0.1〜10質量%であるものが好ましく、両方が0.1〜10質量%であるものがより好ましい。本発明では、用途や目的に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で、前記成分(B)、前記(C)以外のグラフト成分を併用することができる。使用可能なグラフト成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、前記成分(C)以外の(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等)が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂中の前記成分(B)、前記成分(C)以外のグラフト成分は、単独であってもよいし、或いは複数種の組み合わせで併用してもよく、合計のグラフト質量が前記成分(B)、前記成分(C)の合計のグラフト質量を超えないことが好ましい。
【0042】
これらのグラフト重合に必要なラジカル発生剤、成分(D)は、公知のラジカル発生剤の中より適宜選択することができ、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物系化合物としては例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,4−ビス[(t−ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート等が挙げられ、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド及びジラウリルパーオキサイドが好ましい。前記成分(D)は、単独のラジカル発生剤でもよいし、複数種のラジカル発生剤の組み合わせであってもよい。
【0043】
グラフト重合反応における前記成分(D)の添加量は、前記成分(B)の添加量及び前記成分(C)の添加量の合計(質量)に対し、1〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは、10〜50質量%である。1質量%以上であることにより、十分なグラフト効率を保持することができる。100質量%以下であることにより、変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量の低下を防止することができる。
【0044】
グラフト重合は、基材の共重合型ポリオレフィンを熱溶融させた状態で行っても良いし、有機溶剤や水に溶解・分散させた状態で行ってもよい。使用できる有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤や、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式系溶剤が挙げられる。また、エステル系溶剤やケトン系溶剤等の極性溶剤を、溶液性状を損なわない範囲で併用することもできる。水に分散させる方法としては公知の方法が使用できるが、乳化剤等の他成分を極力含まないことが望ましい。
【0045】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、100,000〜200,000であり、好ましくは110,000〜190,000であり、より好ましくは120,000〜180,000である。重量平均分子量が10万以上であることにより、極性樹脂、及び非極性樹脂への強力な接着性を得ることができる。20万以下であることにより、接着剤を使用する際に十分な溶剤溶解性を得ることができる。実施例を含む本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定し、算出された値である。
【0046】
変性ポリオレフィン樹脂の示差走査型熱量計(以下、DSCという。)による融点(以下、Tm)は、70℃〜150℃であるものが使用できる。仮に、単独で使用して、変性ポリオレフィン樹脂層とするのであれば融点70〜110℃の物が好ましい。基本的には、融点が70℃以上であると高い接着強度を得ることができ、一方で融点が150℃以下であると溶液安定性が良好であるから、低融点の物、高融点のもの、これら2種以上を混合することでその加重融点を70〜110℃にすれば、前述した単独使用品に同等な結果を与え得る。同様に、変性ポリオレフィン樹脂を1種以上と、その他の樹脂(変性ポリオレフィン樹脂でない熱可塑性樹脂)を混合することで、その加重平均が70〜110℃になる場合、前記の単独使用品に近い結果を与える場合がある。
【0047】
本発明におけるDSCによるTmの測定は、例えば以下の条件で行うことができる。JIS K7121−1987に準拠し、DSC(示差走査熱量測定装置:株式会社日立ハイテクサイエンス(本社:日本国東京都)製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持後、10℃/分の速度で降温して−50℃で安定保持した後、更に10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度をTmとして評価する。尚、後述の実施例におけるTmは前述の条件で測定されたものである。
【0048】
(変性ポリオレフィン塗膜を含む2層塗装の仕組み)
前述した金属形状物に第1コート及び第2コートの2層塗装をしたものに、PPを射出して所望の成型品を得る理由を説明する。2層塗面を備えた金属形状物を射出成形金型にインサートした後、射出され溶融したPPが、この金属形状物の表面に近づいた時、溶融PPは、その表層の変性ポリオレフィン層の一部を溶融して内部に取り込みながら移動する。このとき、全ての変性ポリオレフィンが溶融PPの流れに取り込まれてしまえば接合力は弱くなる。それ故、変性ポリオレフィン層の根本部分は、溶融したPPの流れの動圧で剥がされずに、下地塗膜と繋がったままで残留することが必要である。即ち、金属材の上層の変性ポリオレフィン自体が、下地層(ここではウレタン硬化塗膜層、又はエポキシ樹脂塗膜層)との間で何らかの化学結合を有することが必要である。それ故、本発明で使用する変性ポリオレフィンは、アクリル系モノマーや無水マレイン酸類のグラフト重合による枝分かれ鎖があるものが適している。
【0049】
更に、変性ポリオレフィン層が溶融PPに接触したとき、この変性ポリオレフィン層が溶かし出されて流失しないように、変性ポリオレフィンの融点が高すぎると良くない。例えば、変性ポリオレフィンは、140〜150℃と非常に高い融点を有するものがあり、これらは溶融PPに接しても融け難い。又、変性ポリオレフィンは、低すぎることなく70℃以下とかなり低い融点を有するものがあり、これらは溶融PPに接して直ちに融け流され溶融PP側に吸収されてしまう。本発明で用いる変性ポリオレフィンは、融点が70〜110℃のものが結果的に良かった。
【0050】
又、変性ポリオレフィンとして塩素化ポリオレフィン類を使用した場合には一般に融点が低いというだけでなく、金属との高い接合力を示すものが全くなかった。おそらく変性手法そのものがそぐわなかったのだろう。逆に、共重合型PPを基材に、無水マレイン酸、及び、メタクリル酸エステルをグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂類には明確に射出接合力を示すものがあった。更に詳しく言えば、重量平均分子量が10万以下のものは、融点が70〜110℃のものであっても、最終品での接合力は低かった。重量平均分子量10万以下と小さいものは分子長が短く、それ故に溶融粘度が低く、溶融PPの流れに流され易いのではないかと推定される。
【0051】
何れにせよ上記説明は実験結果からの推論であり、確定的なものではない。しかしながら、本発明で使用する好ましい変性ポリオレフィン樹脂は、前述したようなものとなった。本発明者等の知見では、市販品でこの条件を満たして使えるものが1種あり、更にこれに2種以上を混合してその融点の荷重平均が70〜110℃となるようにできるものであれば、5種程度は混合して使用できる。このような変性ポリオレフィン樹脂を使った場合、一般的なGF入りのPPを射出接合させて金属部とPP間の接合力(せん断破断力)は安定して12MPa以上を示した。
【0052】
そして下地である熱硬化型樹脂層を半硬化させた後は、あまり時間を置くことなく変性ポリオレフィン製コート液を、この半硬化させた熱硬化型樹脂層の上に塗布し、55℃×10分ほどかけて溶剤を揮発させた後に、そのまま昇温して、110〜120℃×15分ほど加熱し放冷する。即ち、下地のウレタン系インキ層を完全硬化させ、変性ポリオレフィン層は溶融させて固着させる。なお、本発明者等が使用した2液性ウレタン系塗料は、「SG740クリア(株式会社セイコーアドバンス(本社;日本国東京都)製)」、「VIC(株式会社セイコーアドバンス製)」等が例示できる。
【0053】
[II.スタンパブルシートの成形(ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP))]
本発明のガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)は、PPをマトリックス樹脂とするガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(以下、PP系GFRTPともいう。)である。本発明で用いるPP系GFRTPは、これに限定されないがスタンパブルシートを用いる。スタンパブルシートは、紙漉きの原理を使い発明されたもので、水中に粉体PPと数cm〜10cm長さのガラス繊維を分散させ、これに多少の補助剤も加えて、紙を作るときの紙漉きのように網状物で引き上げ乾燥し、PPの融点以上に加熱して紙状物にし、更に数枚重ねてシート状にしたこの公知のものである。スタンパブルシートは、総質量に占めるガラス繊維の質量の割合は通常50%程度とされている。ガラス繊維の長さは、射出成形用PPペレットに混合される通常の繊維長0.5〜1mmより遥かに長いので、射出成形品と比較できぬ丈夫な成形品がスタンパブルシートのスタンピング成形で得られる。本発明で使用するスタンパブルシートは、日本国内で広く市販されている公知のものである。
【0054】
本発明者等が行った方法は以下である。即ち、スタンパブルシートをSUS容器に必要量取り、窒素シールして190℃に温度設定されている加熱炉に入れた。10分後、加熱炉から取り出して、このスタンパブルシートをプレス金型の下型内に投入し、直ちに下型内のスタンパブルシートに上型を乗せて加圧した。このプレス圧は、単位面積当たり、5MPaとした。又、本発明者等が使ったプレス機は小型プレス機であり、このプレス型はキャビティーが100mm×100mm×(3〜5)mm程度の板状品作成用と小さかったので、温度設定せず常温の金型に、スタンパブルシートの加熱物を投入したものである。
【0055】
要するに、日本国内で広く市販されているスタンピング成形用のプレス機、スタンパブルシートの加熱設備、そのプレス型への供給機、プレス型からの取り出し機等を用いて、スタンパブルシートを成形した。成形に用いた金型の上型、下型間の隙間のシール部の間隔は、0.1mmの隙間を設計値とし、成形金型の製作は射出成形金型と同様の加工方法で製作した。結局、これらのスタンピング機器、成形金型法で、スタンピンシートを所望の形状に成形したが、シール部に多少のバリが生じたものの素材が、金型の隙間から漏れるという程の異常は生じなかった。
【0056】
(スタンピング成形品の形状)
図2は、スタンピング成形品の一例を示す図であり、
図2(a)はスタンピング成形品の立体外観図で、
図2(b)は
図2(a)の断面図である。本例のスタンピング成形品1は、複数枚のシートを積層して成形されたものである。スタンピング成形品1の外周側面には、複数の周面突起2が形成されている。更に、スタンピング成形品1の一側面には、複数の側面突起3が形成されている。また、スタンピング成形品1の中心部には、二つの貫通孔4が形成されている。
【0057】
図3は、本発明の複合体を成形するときの射出成形用金型の内部を示す断面図である。即ち、この断面図は、複合体を成形するときの射出成形用金型内に、インサートされた金属形状物とスタンピング成形品の概念を示す金型の断面図であり、金型が閉じられているときの状態を示すものである。本発明に用いる射出成形用金型10は、固定側型板11、可動側型板12、スプルーブッシュ等からなる一般的な構造の射出成形用金型である。可動側型板12に区画されたキャビティ13内に、前述した2層コートされた前述の金属形状物9とスタンピング成形品1を積層してインサートする。射出成形用金型10を閉じたとき、金属形状物9とスタンピング成形品1の間は、スタンピング成形品1の側面突起3、及び周面突起2が形成されているために、隙間14が区画され形成される。
【0058】
一方、射出成形機のノズルからのPPの溶融樹脂は、射出成形用金型10内に射出される。この溶融樹脂は、スプル15からゲート16を通り、スタンピング成形品1の貫通孔4に入り、更に前記隙間14に侵入する。この結果、PPの溶融樹脂は、金属形状物9とスタンピング成形品1の隙間14を満たして、スタンピング成形品1の側面と、金属形状物9の一側面を充填することになる。この結果、射出されたPPは、スタンピング成形品1と金属形状物9の双方に接合されて、両者を一体化することになる。言わば、両者の接着剤、充填剤の役目を果たす。本例のスタンピング成形品1の形状は、スタンピング成形品1の特定箇所に、貫通孔4、及び周面突起2、側面突起3を形成して、キャビティ13内で溶融樹脂が円滑に流れるようにしたので、スタンピング成形品1を包み隠すように流れて固化でき、又、金属形状物9への接触は溶融PPが高温のまま接触させることができる。
【0059】
従って、前述した原理による2層コートされた金属形状物9とPPとの強固な接合ができ、かつスタンピング成形品1の外周も所望の形状に成形することができた。
図4は、異なる形状のスタンピング成形品を用いたとき、本発明の複合体を成形する場合の射出成形用金型の内部を示す断面図である。スタンピング成形品5は、全外周面に突起を形成し、キャビティ13との間にも隙間14を形成したものである。従って、このスタンピング成形品5を用いて成形されたこの複合体(図示せず)は、スタンピング成形品5の全面はPPで覆われたものとなる。
【0060】
(スタンピング成形品へのコート材塗布)
スタンピング成形品へのコート材の塗布は、必ずしも必須の工程ではない。しかしながら、射出成形金型にインサートされたスタンピング成形品と射出されたPPとの間で高い接合強度が必要なときに施すものである。前述したように、最終工程では、射出成形金型に、スタンピング成形品をインサートしてPPを射出し、スタンピング成形品と射出PP樹脂とを熱融着させる。だが、射出されたPP樹脂と、既に固化しているPP樹脂成形品(スタンピング成形品)が容易に熱融着結合するわけではない。この推定理由の詳細は前述した通りであり、特に、射出成形金型温度を通常のPP射出成型時より数十℃上げて行うと、インサートしておいたPP成形品と射出PP樹脂とはそれなりに熱融着する。
【0061】
本発明者等の実験では、熱融着力を信頼性を高く、しかも確実にするには金型温度を90〜100℃(通常のPP成形では50〜60℃)にし、射出温度も多少上げる必要があった。しかしながら、特に金型温度を上げることで、実際の生産において、射出成形用金型から成形された製品を取り出すとき、成形品が高温のために自動取り出し機の使用が困難になる等、大量生産が困難である。結局、射出成形金型内にインサートする前に、スタンピング成形品に変性ポリオレフィン樹脂製コート液を塗布し、これを乾燥し、かつ焼き付けをする前処理手法を取るのがより好ましいと本発明者等は判断した。この前処理をすることで、射出成形金型の金型温度を通常の温度で成形できる。
【0062】
(変性ポリオレフィン樹脂コート材)
スタンピング成形品に塗布するコート材は、前述した変性ポリオレフィン樹脂である。即ち、共重合型ポリプロピレンを基材に、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体、及び、(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂であり、重量平均分子量10万〜20万で、且つ、示差走査型熱量計(DSC)による融点70〜110℃の物、又は融点の荷重平均が70〜110℃となる2種以上の混合物、が使用に適する変性ポリオレフィン樹脂であり、これのトルエン、又はトルエンを含む有機溶剤の溶解液がコート材となる。スタンピング成形品の全面又は必要面に前記コート液を塗布し、風乾した後に110〜120℃に温風乾燥機を温度設定し昇温する。その温度で15分程度置いたら乾燥機から出して保管するのが好ましい。
【0063】
この変性ポリオレフィン樹脂が、PP樹脂同士の射出接合にも適する理由は理解されるであろう。即ち、この変性ポリオレフィン樹脂は、PP樹脂を基材としてグラフト重合したものであり、PP成形物との親和性は高い。それ故、前述した特許文献1の場合と異なり、下塗り塗料を使用した2層塗布型にする必要はない。また、元々がPPを射出接合用の樹脂としたときに、インサート物の塗膜用として見出したものであるから、必然的に前述した金属形状物に塗布すべき変性ポリオレフィン樹脂が使用できるのである。
【0064】
[III.射出接合工程]
前述したスタンピング工程でスタンピング成形品を得、不必要なバリ部等は切り取り、穴を開けるなど必要な形状修正等の措置を終え、且つ、前工程で述べた変性ポリオレフィン樹脂の塗布操作を終えたものを、この射出接合工程に送る。又、前記した2層コート処理済みの金属形状物もこの射出接合工程に送る。
図3に示したように、可動側型板12に区画されたキャビティ13内に、2層コートされた前述の金属形状物9とスタンピング成形品1を積層してインサートする。この溶融樹脂は、スプル15からゲート16を通り、スタンピング成形品1の貫通孔4に入り、更に隙間(約0.5〜11.0mm程度)14に侵入する。この結果、PPの溶融樹脂は、金属形状物9とスタンピング成形品1の隙間14を満たして、更にスタンピング成形品1の側面を充填する。
【0065】
この結果、射出したPPは、スタンピング成形品1と金属形状物9の双方に射出接合して、両者を一体化することになる。但し、このような射出成形金型10内の配置構成であると、最終製品(離型した一体化品)の裏面側(金属面でないゲート16側の面)には溶融PP樹脂が流れ難く、裏面側はスタンピング成形品1のままでカバーされることなく露出している。
図4に示すスタンピング成形品5は、裏面部にも隙間14を形成し、この隙間14に射出されたPP樹脂が流れるようにしたものであり、スタンピング成形品5の表裏両面に突起を形成した例である。なお、これらの射出成形条件は、金型温度が80℃とやや高め、溶融樹脂の射出温度も190℃程度とやや高めに調整するのが好ましい。理論的には双方を更に高くした方が安定した接着性を有する複合体を得ることができる。ただし、金型温度を100℃以上にするとランナー部が離型し難くなり連続的に射出成形が困難になるし、射出温度を更に上げると所謂ハナタレが起こり易くなる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例を実験例によって説明する。共通する実験に用いた使用機材は下記のものを用いた。
(a)複合体の接合強度(引っ張り破断強度)の測定
荷重測定器「MODEL-1323VR(アイコーエンジニアリング株式会社(本社:日本国大阪府)製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分で、引っ張り剪断破断力を測定した。
(b)プレス操作に使用したプレス機
小型プレス機「ミニテストプレス(型式:MP-WCH、株式会社東洋精機製作所(本社:日本国東京都)製))」を使用した。
【0067】
[実験例1(アルミニウム合金とポリプロピレン系樹脂組成物の複合体)]
(変性ポリオレフィン樹脂の製造)
1−ブテン共重合型ポリプロピレン(プロピレン80モル%、1−ブテン20モル%、重量平均分子量250000、Tm=88℃)100質量部、無水マレイン酸3.5質量部、オクチルメタクリレート3.0質量部、2−エチルヘキシルメタクリレート0.5質量部、ジラウリルパーオキサイド2質量部を、170℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応させた。この二軸押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去し、重量平均分子量が180000、Tm=88℃、無水マレイン酸のグラフト質量が3.1質量%、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートの合計グラフト質量が3.0質量%の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0068】
なお、無水マレイン酸のグラフト質量は、アルカリ滴定法により測定し、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートの合計グラフト質量は、1H−NMRにより測定した。一方、この変性ポリオレフィン樹脂をメチルシクロヘキサン/MEKの8:2混合溶剤に溶解してコート液とした。以下の実験例1ではこのコート液を使用した。
【0069】
(金属片と塗装処理)
市販されている厚さ0.5mmのA5052アルミニウム合金板から、100mm×100mmの正方形片にアルミ薄板片を多数切り出した。この端部2か所に1mmφ程度の穴を開け塩ビカバー鋼線(園芸用針金)に通して吊るした。そして、これを化学エッチングしてミクロンオーダーとみられる粗面とした。即ち、浸漬槽に、アルミニウムクリーナー(脱脂剤)「NE−6(メルテックス株式会社(本社:日本国東京都)製)」7.5%を含む水溶液を60℃とし、上記アルミ薄板片を5分間浸漬して公共の水道水(日本国群馬県太田市)で水洗した。次いで、別の浸漬槽に、40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに上記アルミ薄板片を1分間浸漬して水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃とした1.5%苛性ソーダ水溶液を用意し、これに上記アルミ薄板片を4分間浸漬し、水洗した。次に、別の浸漬槽に、このアルミ薄板片を40℃の3%濃度の硝酸水溶液に、3分間浸漬し水洗した。そして乾燥機で乾燥した。
【0070】
市販されているウレタン系の2 液イソシアネート硬化型インキ「SG740(株式会社セイコーアドバンス(本社:日本国東京都))」を入手し、所定の混合比で主液と硬化液を混ぜ、所定の溶剤をメーカー指示量だけ加えて下地用コート液とした。このコート液を前述した処理方法で処理したアルミ合金片の片面前面に筆で塗布した。そして80℃にした温風乾燥機に15分間置いて、これから取り出して、下塗りインキ層を半硬化させた。この半硬化塗膜上に、製造した上記変性ポリオレフィン製コート液を厚めに塗布した。その後、これを温風乾燥機に入れて、55℃×10分間加熱して溶剤を揮発させ、次に115℃に温風乾燥機を温度設定し昇温し、この温度に15分程度置いて乾燥機から出し放冷し保管した。
【0071】
(スタンピング成形と塗装処理)
下型に100mm×100mm×20mm深さの正方形の凹部が形成され、この凹部に上型を乗せて、100mm×100mm×(3〜10)mm程度の正方形板状品がプレス成形できる前述したプレス金型を用意した。一方、市販されているA4サイズで、厚さ約1mmのPP製のスタンパブルシート(JFEケミカル株式会社(本社:日本国東京都))を入手した。これを約30mm×約30mmの小片多数に鋏で切断した。この小片を100mm×100mm×厚さ4mmのGFRTPが成形できる量だけ集めてSUS製の容器に入れた。一方、窒素ボンベからレギュレータを介して、窒素ガスを継続的に熱風乾燥機に送り込むようにして、熱風乾燥機内が窒素ガスで満たされ常に流れ込むようにし、200℃に昇温した。熱風乾燥機の扉を開けて、素早く上記スタンパブルシート小片を多数を入れたSUS製の容器を置き、扉を閉めて15分間加熱した。即ち、スタンパブルシートを窒素ガスの雰囲気で加熱した。
【0072】
前述したプレス機に、プレス金型の下型のみをセットし、熱風乾燥機から出したSUS容器からスタンパブルシート小片の集合体を、急いで前記下型のキャビティー部に投入した。そして、この上に時間をおかずに上型を乗せ、キャビティー板状面積(100cm
2)基準で、5MPaの圧力をかけた(スタンピング成形をした)。30秒後プレス機を開き、プレス金型をプレス機から取り出して金型を開いて、スタンピング成形品を取り出した。外観上、プレス金型から樹脂漏れはなく、得たスタンピング成形品は100mm×100mm×3.8mm厚の大きさであった。
【0073】
翌日、得た板状のスタンピング成形品を機械加工した。即ち、
図2に示したように4辺部の大部分をダイヤモンド刃付の高速回転鋸でカットし、97mm×97mm×3.8mm厚の板状物で、本例では切残し部(凸部)を12か所作った形とした。更に、貫通孔である穴を8か所(図示せず)開け、その2か所は穴4,4のままとし、残りの6か所にはPPの棒状射出成形品から切り出した3mmφ×5mm長さのPP棒を差し込んだ。そしてガスバーナーで加熱した長釘の先を差し込み部に軽く当てることで、PP棒周辺を溶融させてその位置を固定させた。穴は2個のピンポイントゲートに対応させたものであり、その他の側面や上下面に形成した多数の凸部は、射出成形金型10内のキャビティで空間位置を保つためのものである。
【0074】
前述の加工をした上で、実験1で得られた変性ポリオレフィン樹脂コート液を、霧吹きを使って
図2に示したスタンピング成形品の全表面に噴霧塗布をした。この塗布後に風乾し、更に115℃にした温風乾燥機に15分置き、乾燥機から出して放冷し、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムに包んで保管した。
【0075】
(インサート射出成形)
100mm×100mm×5.5mm厚の正方形片が、
図3に示す射出成形できる2個のピンポイントゲート付きの射出成形金型10を製作した。縦型の射出成形機に射出成形用金型10を備え付け、この射出成形用金型10を開いて、その固定側金型のキャビティー13に前述の作成した塗膜付き金属形状物9を塗膜が上になる向きでインサートした。更に、その上に前述の塗膜付きスタンピング成形品を入れた。この挿入後、射出成形金型10を閉め、GF30%入りのPPを射出した。
【0076】
この射出成形により、表面が平らなアルミ合金薄板付きのPP製GFRTP板状物を得た(図示せず)。この板状物の中央を親指1本で支え金属棒で周囲を叩いたところ硬い樫の板を叩いた音がした。更に、断面の状態、及び接合強度の確認のために、ダイヤモンド刃付の高速回転鋸で周辺部をカットし、90mm×90mm×5.5mm厚の板状品にした(図示せず)。このGFRTP板状物の切断面に、外観上は異常な状態はなく、かつこのアルミ合金薄板がGFRTP板状物から剥離することはなかった。
【0077】
(接合力(剪断力)の測定)
実験例1で得たアルミニウム合金とポリプロピレン系樹脂組成物の複合体との接合強度を計測した。この計測方法は、以下の通りである。
図5は、測定のための測定片の中間品20を示す外観図である。この中間品20は、上記実験例1によって作成された金属薄板付きGFRTP板状物(図示せず)を、90mm×15mmの長方形片に裁断し、更に金属薄板部分9’にSPCC板片21をエポキシ接着剤で接着したものである。SPCC板片21は、引っ張り剪断応力を負荷したとき、接合部23(
図6参照)が変形しないように接着したものであり、測定治具とも言える。即ち、
図6に示す金属薄板部9’とGFRTP部1’の間の接合面23の剪断応力を正確に測定するものである。
【0078】
実験例1で得た90mm×90mmの板状物である複合体(GFRTP板状物)を、ダイヤモンド刃付の高速回転鋸で切断し、90mm×15mmの板状の複合体とする。一方、1.6mm厚のSPCCを切断し、90mm×15mm×1.6mmのSPCC片21を作成する。これを上記複合体接着剤で接着して、
図5に示した中間品20とする。
【0079】
なお、SPCC片21を以下の方法でNAT(Nano adhesion tech.の略)処理した。この処理法は特許文献2に記載された方法によるものであり、エポキシ接着剤との接着力を最高度に高めるものである。即ち、浸漬槽に、前述したアルミニウムクリーナー(脱脂剤)「NE−6」を7.5%を含む水溶液を60℃とし、SPCC片21を5分間浸漬して公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の浸漬槽に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに上記SPCC片21を1分間浸漬して水洗した。次に、別の浸漬槽に、60℃とした5%濃度の硫酸水溶液を用意し、これに上記SPCC片21を4分間浸漬し、水洗した。次に別の浸漬槽に、1%濃度のアンモニア水に1分間浸漬し水洗した。次に別の浸漬槽に、45℃とした2%濃度の過マンガン酸カリと1%濃度の酢酸と0.5%濃度の水和酢酸ソーダを含む水溶液に5分間浸漬し水洗した。そして乾燥機で乾燥した。
【0080】
前記処理をしたSPCC片21の片面全面に、2液性エポキシ接着剤「1500(セメダイン株式会社(本社:日本国東京都)製」の主液と硬化剤を混ぜて作った接着剤を塗った。これを前述したアルミニウム合金(金属形状物9’)とポリプロピレン系樹脂組成物の複合体である金属形状物9’の側面に接着した。即ち、90mm×15mm×5.5mm厚のアルミ合金薄板付きGFRTP片のアルミ合金薄板(金属形状物9’)側に、SPCC21を貼り付けてクリップで固着した。そして翌日まで硬化させて
図5の中間品20を製作した。この中間品20では、金属形状物9’とGFRTP部1’間の剪断破断応力は、測定できない。
【0081】
図6は、
図5の中間品20に2か所の切れ目を入れたものであり、剪断破断応力を測定するための測定片の側面図である。中間品20を切断して、
図6に示した形状の90mm×15mm×7.1mmの角棒状になる。この中間品20にフライス盤を使って、
図6形状になるように切れ目22を2か所入れて測定片25を作成した。この測定片25を、測定治具を用いて、両端から破断するまで引っ張ると、接合面23が破断する、即ち、アルミニウム合金である金属形状物9’とGFRTP部1’間の接合力(剪断破断応力)が計測できる。この3個の測定片25の接合面23の接合力を測定したところ、平均で13.4MPaであった。
【0082】
[実験例2]
(銅の薄板の複合体)
厚さ0.5mmのC1100銅薄板から100mm×100mmの正方形片に多数切り出した。この端部2か所に1mmφ程度の穴を開け塩ビカバー鋼線(園芸用針金)で吊り下げるられるようにした。そしてこれを化学エッチングしてミクロンオーダーとみられる粗面とした。即ち、浸漬槽に、実験例1と同様のアルミニウムクリーナー(脱脂剤)「NE−6」7.5%を含む水溶液を60℃とし、薄板片を5分間浸漬して公共水道水(群馬県太田市)で水洗した。次に、別の浸漬槽に、40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに銅薄板片を1分間浸漬して水洗した。次に別の浸漬槽に、40℃とした10%硝酸水溶液を用意し、これに薄板片を0.5分間浸漬し、次に別の浸漬槽に、40℃とした3%硝酸水溶液を用意し、これに薄板片を10分間浸漬し、水洗した。次に、別の浸漬槽に、25℃の4%濃度の過酸化水素と10%濃度の硫酸と0.3%濃度のリン酸3ナトリウムを含む水溶液に4分間浸漬し水洗した。そして乾燥機で乾燥した。
【0083】
その後は、実験例1と全く同様にして2液性ウレタン硬化型インキ「SG740」と実験例1で得た変性ポリオレフィン製コート液を塗布し、加熱し固着させた。その後は、実験例1と同様にしてスタンピング成形品を得、そして実験例1と全く同様にして銅薄板付きのGFRTP板状物を得た。更に実験例1と同様に、SPCC片を接着し、引っ張り破断試験が出来る測定片(
図6参照)にした。そして銅薄板とGFRTP部との接合力を測ったところ3個の平均で13.2MPaあった。