特許第6268104号(P6268104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キージーン ナムローゼ フェンノートシャップの特許一覧

特許6268104植物の耐乾燥性の改善:ペクチンエステラーゼ
<>
  • 特許6268104-植物の耐乾燥性の改善:ペクチンエステラーゼ 図000004
  • 特許6268104-植物の耐乾燥性の改善:ペクチンエステラーゼ 図000005
  • 特許6268104-植物の耐乾燥性の改善:ペクチンエステラーゼ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268104
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】植物の耐乾燥性の改善:ペクチンエステラーゼ
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20180115BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20180115BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20180115BHJP
   A01H 6/20 20180101ALI20180115BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20180115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180115BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180115BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180115BHJP
【FI】
   A01H1/00 A
   A01H5/00 AZNA
   A01H6/46
   A01H6/20
   A01H6/82
   C12N5/10
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 Z
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-557589(P2014-557589)
(86)(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公表番号】特表2015-508651(P2015-508651A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】NL2013050102
(87)【国際公開番号】WO2013122473
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2016年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/599,959
(32)【優先日】2012年2月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】ディスラテス メイズ アンネ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン フルテン マリエケ ヘレナ アドリアナ
(72)【発明者】
【氏名】ディクシット シタル アニルクマル
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴォス マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ムンボルド ジェシー デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ディレオ マシュー ヴィタビル
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0094717(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/001434(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/038389(WO,A1)
【文献】 The Plant Journal,1993, Vol.3, No.1, pp.121-129
【文献】 Planta,2008, Vol.228, pp.61-78
【文献】 Planta,2006, Vol.224, pp.782-791
【文献】 Science,2003, Vol.301, pp.653-657
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
PubMed
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物、植物プロトプラストまたは植物細胞において、配列番号2、4、6、8および10のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害する工程を含む、対照植物と比較して改善した耐乾燥性を有する植物の作製方法であって、
前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である、方法。
【請求項2】
前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、配列番号2、4、6、8および10のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
植物、植物プロトプラストまたは植物細胞において、配列番号1、3、5、7および9のいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされる機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害し、任意選択で植物を再生産する工程を含む、対照植物と比較して改善した耐乾燥性を有する植物の作製方法であって、
前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である、方法。
【請求項4】
前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、配列番号1、3、5、7および9のいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列によりコードされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
発現を障害する前記工程が、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列に変異導入することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヌクレオチド配列に変異導入することが、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換を伴う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
発現を障害する前記工程が、遺伝子サイレンシングを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
2つ以上の機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害することを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
改善した耐乾燥性を有する植物から、さらなる植物を再生産するまたは植物性産物を作製する工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
植物種における耐乾燥性のスクリーニングにおけるヌクレオチド配列の使用であって、前記ヌクレオチド配列は、シロイヌナズナ種の配列番号1、3、5、7および9のいずれかと少なくとも90%の同一性を有し、
−植物種の植物細胞または植物の異型遺伝子性集団(heterogenic population)を提供する工程、
−シロイヌナズナ種の配列番号1、3、5、7および9のいずれかと少なくとも90%の同一性を有する、前記植物種ペクチンエステラーゼをコードする配列を提供する工程、
−前記植物種の植物細胞または植物の前記ペクチンエステラーゼ遺伝子の少なくとも一部の配列を判定する工程、
−判定された前記植物種の植物細胞または植物に由来する前記ペクチンエステラーゼ配列を、提供されたペクチンエステラーゼをコードする配列と比較する工程、および
−前記提供されたペクチンエステラーゼをコードする配列と比較して突然変異を有する前記ペクチンエステラーゼ配列を有する前記植物種の植物細胞または植物を同定する工程、
を含む使用。
【請求項11】
前記ヌクレオチド配列は、シロイヌナズナ種の配列番号1、3、5、7および9のいずれかと少なくとも95%の同一性を有する、請求項10に記載のヌクレオチド配列の使用。
【請求項12】
機能性ペクチンエステラーゼタンパク質であって、配列番号2、4、6、8および10のいずれかと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、乾燥ストレス条件下で成長する際に前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質であり、前記乾燥ストレス条件により、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されていない対照植物、植物細胞または植物性産物が、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物よりも早く乾燥ストレスの徴候、たとえばしおれの徴候を示す、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物の使用。
【請求項13】
機能性ペクチンエステラーゼタンパク質であって、配列番号2、4、6、8および10のいずれかと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、乾燥ストレス条件下で成長する際に前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されたシロイヌナズナ、セイヨウアブラナ、トマトまたはイネの植物、植物細胞、または植物性産物。
【請求項14】
破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を含む、請求項13に記載のシロイヌナズナ、セイヨウアブラナ、トマトまたはイネの植物、植物細胞、または植物性産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の耐乾燥性を増加させる方法に関する。この方法は、前記植物における1つまたは複数の遺伝子の発現の障害を包含する。前記遺伝子(複数可)の発現を障害するよう操作されていない植物と比較して、この植物は改善した耐乾燥性を示す。本発明の方法により得られる植物および植物性産物もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
非生物的ストレス、たとえば乾燥、塩分、極端な温度、化学毒性および酸化ストレスは、農業にとって脅威であり、世界中で作物損失の主因となっている(非特許文献1)。
【0003】
当技術分野において、非生物的ストレスの生化学的、分子的および遺伝的背景を扱ったいくつかの報告がある(非特許文献1または非特許文献2)。非生物的ストレスに対処するための植物の改変は多くの場合、細胞成分の機能および構造を保護し維持する遺伝子の操作に基づく。しかしながら、非生物的ストレス条件に対する反応が遺伝的に複雑なために、かかる改変植物を制御し設計するのはさらに困難であると思われる。Wang(非特許文献1)は、とりわけ、設計の方略の1つが、シグナリングおよび制御経路に関連するか、または機能的および構造的保護剤、たとえばオスモライトおよび抗酸化剤の合成をもたらす経路に存在する酵素をコードするか、またはストレス耐性付与タンパク質をコードする、1つまたは複数の遺伝子の使用に依拠することを述べている。
【0004】
非生物的ストレス耐性植物の提供における改善は報告されているが、その根底にある遺伝的に複雑なメカニズムの性質により、この分野におけるさらなる改善が絶えず必要とされている。たとえば、遺伝的に形質転換された耐乾燥性植物は一般に、発達および生理の不均衡により、より遅い成長および生物量の減少を示すことがあり(非特許文献3)、それゆえ形質転換されていない植物と比較して顕著な適応コストがかかることが報告されている(非特許文献4;非特許文献5)。
【0005】
ストレス条件下で成長する植物を得るための、いくつかの生物工学的アプローチが提案されている。塩ストレスに対する耐性が増加した植物が、たとえば特許文献1に開示されている。この文献は、9−cis−エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼの核酸およびポリペプチドを利用することによる、塩ストレスに耐性のあるトランスジェニック植物を開示する。
【0006】
耐乾燥性の増加した植物が、たとえば、特許文献2、特許文献3、および特許文献4に開示されている。特許文献2は、DR02核酸の発現の変化により耐乾燥性表現型を示す植物を記載している。特許文献3は、DR03核酸の発現の変化により耐乾燥性表現型を示す植物を記載しており、特許文献4は、孔辺細胞に発現するABCトランスポーターの活性の減少により、乾燥ストレスに対する耐性が増加した植物を記載している。別の一例は、Kasugaら(1999)による研究であり、トランスジェニック植物におけるDREB1AをコードするcDNAの過剰発現が、通常の成長条件下で多くのストレス耐性遺伝子発現を活性化させ、乾燥、塩負荷、および凍結に対する耐性の向上をもたらしたことを記載している。しかしながら、DREB1Aの発現はまた、通常の成長条件下で深刻な成長遅延をもたらした(非特許文献6)。非生物的ストレス、特に乾燥のような非生物的ストレスに対する耐性を増加させるための新規の、代替的および/または付加的な方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO03/020015
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0144850号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0266453号明細書
【特許文献4】WO2002/083911
【特許文献5】WO2007/073170
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wang et al. (2003) Planta 218(1) 1-14
【非特許文献2】Kilian et al (2007) Plant J 50(2) 347-363
【非特許文献3】Serrano et al (1999) J Exp Bot 50:1023-1036
【非特許文献4】Kasuga et al. (1999) Nature Biot. Vol. 17
【非特許文献5】Danby and Gehring (2005) Trends in Biot. Vol.23 No.11
【非特許文献6】Kasuga (1999) Nat Biotechnol 17(3) 287-291
【非特許文献7】Sambrook et al.、Molecular Cloning. A Laboratory Manual, 2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, N. Y.、1989
【非特許文献8】Ausubel et al.、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、1987 and periodic updates
【非特許文献9】the series Methods in Enzymology、Academic Press、San Diego
【非特許文献10】COMPUTATIONAL MOLECULAR BIOLOGY、Lesk, A. M., ed.、Oxford University Press、New York、1988
【非特許文献11】BIOCOMPUTING: INFORMATICS AND GENOME PROJECTS、Smith, D. W., ed.、Academic Press、New York、1993
【非特許文献12】COMPUTER ANALYSIS OF SEQUENCE DATA、PART I、Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds.、Humana Press、New Jersey、1994
【非特許文献13】SEQUENCE ANALYSIS IN MOLECULAR BIOLOGY、von Heinje, G.、Academic Press、1987
【非特許文献14】SEQUENCE ANALYSIS PRIMER;Gribskov, M. and Devereux, J., eds.、M Stockton Press、New York、1991
【非特許文献15】Carillo, H., and Lipton, D.、SIAM J. Applied Math (1988) 48:1073
【非特許文献16】GUIDE TO HUGE COMPUTERS、Martin J. Bishop, ed.、Academic Press、San Diego、1994
【非特許文献17】Devereux, J., et al.、Nucleic Acids Research (1984) 12(1):387
【非特許文献18】Atschul, S. F. et al.、J. Molec. Biol. (1990) 215:403
【非特許文献19】Albert L. Lehninger、Principles of Biochemistry、at 793-800 (Worth Pub. 1982)
【非特許文献20】Breeding rice for drought prone environments、Fischer et al.、2003
【非特許文献21】Breeding for drought and nitrogen stress tolerance in maize: from theory to practice, Banzinger et al, 2000
【非特許文献22】Snow and Tingey、1985、Plant Physiol、77、602-7
【非特許文献23】Harb et al.、Analysis of drought stress in Arabidopsis、AOP 2010、Plant Physiology Review
【非特許文献24】Tucker GA, et al. (1982). J Sci Food Agric 33 396-400
【非特許文献25】Krysan et al. 1999 The Plant Cell、Vol 11. 2283-2290
【非特許文献26】Kunze et al (1997) Advances in Botanical Research 27 341-370
【非特許文献27】Chandlee (1990) Physiologia Planta 79(1) 105-115
【非特許文献28】Kusaba et. al (2004) Current Opinion in Biotechnology 15:139-143
【非特許文献29】Preuss and Pikaard (2003) in RNA Interference (RNAi)~Nuts & Bolts of siRNA Technology (pp.23-36)、(c)2003 by DNA Press, LLC Edited by: David Engelke, Ph.D.
【非特許文献30】Bent et al.、2006. Methods Mol. Biol. Vol. 343:87-103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、植物の耐乾燥性を増加させる新規方法を提供することである。かかる植物により、たとえば、水の供給が低い条件/乾燥条件下で生育した場合に、本発明の方法に供されない植物と比較して、より多くの生物量および/またはより多くの収穫量ならびにそれらに由来する植物性産物を作製することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、本発明は、植物、植物プロトプラストまたは植物細胞において、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも55%の同一性を有するアミノ酸配列を含む機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害し、任意選択で植物を再生産する工程を含む、対照植物と比較して改善した耐乾燥性を有する植物の作製方法を提供する。
【0011】
機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)T−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質であってもよい。
【0012】
別の一態様において、本発明は、植物、植物プロトプラストまたは植物細胞において、配列番号1の核酸配列と少なくとも60%の同一性を有する核酸配列を含む核酸配列によりコードされる機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害し、任意選択で植物を再生産する工程を含む、対照植物と比較して改善した耐乾燥性を有する植物の作製方法を提供する。
【0013】
機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質であってもよい。
【0014】
発現を障害する前記工程は、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする核酸配列に変異導入することを含んでいてもよい。前記核酸配列に変異導入する前記工程は、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換を伴っていてもよい。
【0015】
発現を障害する前記工程は、遺伝子サイレンシングを含んでいてもよい。
【0016】
この方法は、2つ以上の機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害することを含んでいてもよい。この方法は、改善した耐乾燥性を有する植物から、植物を再生産することまたは植物性産物を作製する工程をさらに含んでいてもよい。
【0017】
別の一態様において、本発明は、植物における耐乾燥性のスクリーニングにおける、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも55%の同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号1の核酸配列と少なくとも60%の同一性を有する核酸配列の使用に関する。
【0018】
加えて、シロイヌナズナ植物における耐乾燥性のスクリーニングにおける、配列番号2のペクチンエステラーゼアミノ酸配列または配列番号1のペクチンエステラーゼ核酸配列の使用が、本明細書において教示される。
【0019】
本発明はまた、耐乾燥性シロイヌナズナ植物の育種のためのマーカーとしての、配列番号1を有するペクチンエステラーゼ核酸配列の少なくとも一部、または、配列番号2のペクチンエステラーゼアミノ酸配列の少なくとも一部の使用に関する。
【0020】
本発明はさらに、植物の耐乾燥性を調節する、好ましくは増加させるための、本明細書において定義される機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の使用に関係する。
【0021】
加えて本発明は、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物の使用に関する。この機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、乾燥ストレス条件下で成長する際に前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である。前記乾燥ストレス条件において、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されていない対照植物、植物細胞または植物性産物は、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物よりも早く乾燥ストレスの徴候、たとえばしおれの徴候を示す。
【0022】
最後に、本発明は、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されたトマト(Solanum lycopersicum)、リクチメン(Gossypium hirsutum)、ダイズ(Glycine max)、コムギ属種(Triticum spp.)、オオムギ(Hordeum vulgare)、エンバク(Avena sativa)、モロコシ(Sorghum bicolor)、ライムギ(Secale cereale)、またはセイヨウアブラナ(Brassica napus)植物、植物細胞、または植物性産物を提供する。この機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である。一実施形態において、前記植物、植物細胞、または植物性産物は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1および2に記載された典型的実験の結果を示す写真の図である。
図2】対照(野生型)植物の乾燥感受性表現型と比較した、ペクチンエステラーゼノックアウト(シロイヌナズナ属(Arabidopsis)At5g19730挿入変異体)の耐乾燥性表現型を示す写真の図である。
図3】シロイヌナズナ属At5g19730挿入変異体(ペクチンエステラーゼノックアウト)の乾燥生存率を示すグラフの図である。シロイヌナズナ属At5g19730挿入変異体は、野生型植物またはブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)、トマト、もしくはイネ(Oryza sativa)由来ホモログで補完したAt5g19730挿入変異体よりも有意に高い乾燥生存率を示した(p<0.05)。この図は、この遺伝子における挿入変異が耐乾燥性表現型を提供することだけでなく、進化的に区別される単子葉植物および双子葉植物種に由来するこの遺伝子のホモログが、通常の乾燥感受性表現型を回復するよう作用することを示す。灰色のバーは、黒色のバーよりも有意に低い数値を有する(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
以下の記載および実施例において、いくつかの用語が使用される。かかる用語に与えられるべき範囲を含め、本明細書および特許請求の範囲の明確かつ一貫した理解を提供するため、以下の定義を提供する。特に断りのない限り、使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する分野における当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。すべての刊行物、特許出願、特許および他の参照文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
本発明の方法において使用される従来技術の実施方法は、当業者にとって明らかであろう。分子生物学、生化学、計算化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、シークエンシングおよび関連分野における従来技術のプラクティスは、当業者に良く知られており、たとえば以下の参照文献において論じられている。すなわち、非特許文献7;非特許文献8;および非特許文献9。
【0026】
この書面およびその請求項において、動詞「を含む(to comprise)」およびその活用形はその非限定的な意味において使用され、この語に続く項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目も排除されないということを意味する。この語は、動詞「から本質的になる」および「からなる」を包含する。
【0027】
本明細書において使用される単数形「a」、「an」および「the」は、特に文脈上明示されない限り、複数の指示対象を含む。たとえば、DNA分子(“a” DNA molecule)の単離方法は、上で使用されるとおり、複数の分子(たとえば何十個、何百個、何千個、何万個、何十万個、何百万個、またはそれ以上の数の分子)を単離することを含む。
【0028】
アラインすることおよびアラインメント:用語「アラインすること」および「アラインメント」は、同一または類似ヌクレオチドの短いまたは長い一連の配列の存在に基づく、2つ以上のヌクレオチド配列の比較を意味する。ヌクレオチド配列の複数のアラインメント方法が当技術分野において知られており、下でさらに説明する。
【0029】
「遺伝子の発現」とは、適切な調節領域、特にプロモーターに作動可能に連結されたDNA領域が、生物学的に活性である、すなわち、生物活性タンパク質もしくはペプチド(または活性なペプチド断片)へと翻訳可能であるか、またはそれ自体が(たとえば、転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAiにおいて)活性であるRNAに転写されるプロセスを指す。ある実施形態における活性タンパク質は、構成的に活性なタンパク質を指す。コード配列は、好ましくはセンス方向に配列されており、所望の生物活性タンパク質もしくはペプチド、または活性ペプチド断片をコードする。「異所性発現」とは、その遺伝子が通常発現しない組織における発現を指す。
【0030】
「機能性」とは、ペクチンエステラーゼタンパク質(またはバリアント、たとえばオルソログもしくは変異体、および断片)との関連において、たとえば、植物における遺伝子の発現レベルを(たとえば過剰発現またはサイレンシングにより)改変することによる、(定量的および/または定性的な)耐乾燥性を改変する遺伝子および/またはコードされたタンパク質の能力を指す。たとえば、植物種Xから得られるペクチンエステラーゼタンパク質の機能性は、様々な方法により試験できる。好ましくは、タンパク質が機能性である場合には、たとえば遺伝子サイレンシングベクターを使用した、植物種Xにおいてペクチンエステラーゼタンパク質をコードする遺伝子のサイレンシングまたはノックアウトが、改善した耐乾燥性をもたらすと考えられ、これは本明細書において詳細に説明するとおり試験できる。また、破壊されたペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株を、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする核酸配列で補完すると、通常の耐乾燥性が回復した植物がもたらされ、すなわち、補完植物は対照植物と同様の耐乾燥性を有するであろう。当業者は、本明細書で例示するように常法を使用して、ペクチンエステラーゼタンパク質の機能性を試験できるであろう。
【0031】
用語「遺伝子」は、細胞内でRNA分子(たとえばmRNA)へと転写される、好適な調節領域(たとえばプロモーター)に作動可能に連結された領域(転写領域)を含むDNA配列を意味する。したがって、遺伝子は、いくつかの作動可能に連結された配列、たとえばプロモーター、たとえば翻訳開始と関連する配列を含む5’リーダー配列、(タンパク質)コード領域(cDNAまたはゲノムDNA)、およびたとえば転写終結配列部位を含む3’非翻訳配列(3’ non−translated sequence)(3’非翻訳配列(3’ untranslated sequence)または3’UTRとしても知られる)を含んでいてもよい。
【0032】
用語「cDNA」は、相補的DNAを意味する。相補的DNAは、RNAを相補的DNA配列へと逆転写することにより作製される。したがって、cDNA配列は、遺伝子から発現するRNA配列に対応する。mRNA配列はゲノムから発現する際、細胞質内でタンパク質へと翻訳される前にスプライシングを受け得る、すなわち、mRNAからイントロンがスプライシングされてエクソンが結合されるので、cDNAの発現が、cDNAをコードするmRNAの発現を意味することが理解される。したがって、cDNAは、それが対応するゲノムDNA配列と同一でなくてもよい。なぜなら、cDNAは、結合したエクソンからなる、あるタンパク質の完全オープンリーディングフレームのみをコードしてもよいが、一方で、ゲノムDNAは、5’および3’UTR配列が隣接し、イントロン配列が散在するエクソンをコードするからである。
【0033】
「同一性」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性の尺度である。一般に配列は、最高次マッチ(highest order match)が得られるようにアラインされる。「同一性」それ自体は、技術分野において認められた意味を有し、公知技術を使用して計算され得る。たとえば、以下を参照のこと。すなわち、(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;および非特許文献14)。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の間の同一性を測定するいくつかの方法が存在するのみならず、用語「同一性」は当業者に良く知られている(非特許文献15)。2つの配列の間の同一性または類似性を判定するために一般に用いられる方法は、非特許文献16、および非特許文献15に開示のものを含むが、これに限られるものではない。同一性および類似性を判定する方法は、コンピュータープログラムにコードされている。2つの配列の間の同一性および類似性を判定する好ましいコンピュータープログラム方法は、GCSプログラムパッケージ(非特許文献17)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献18)を含むが、これに限られるものではない。
【0034】
例示として、ある配列のポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列に対し少なくとも、たとえば、95%の「同一性」を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによって意図されているのは、ポリヌクレオチド配列が参照ポリペプチド配列の各100ヌクレオチド当たり5つまでの点変異を含んでいてもよいことを除き、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が参照配列と同一であるということである。したがって、参照ヌクレオチド配列に対するヌクレオチド配列の同一性のパーセンテージは、参照ヌクレオチド配列の全長にわたり計算される。言い換えれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るためには、参照配列内の5%までのヌクレオチドが欠失するか、および/もしくは別のヌクレオチドと置換されていてもよく、ならびに/または参照配列の全ヌクレオチドの5%までの一定数のヌクレオチドが参照配列内に挿入されていてもよい。参照配列のこれらの変異は、参照ヌクレオチド配列の5’もしくは3’末端部位、またはこれらの末端部位の間の任意の位置で生じていてもよく、参照配列のヌクレオチドの中で個別に、または参照配列内の1つもしくは複数の連続する群内に、散在して生じていてもよい。
【0035】
同様に、配列番号2の参照アミノ酸配列と少なくとも、たとえば、95%の「同一性」を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドによって意図されているのは、ポリペプチド配列が配列番号2の参照アミノ酸の各100アミノ酸当たり5つまでのアミノ酸の変化を含んでいてもよいことを除き、ポリペプチドのアミノ酸配列が参照配列と同一であるということである。したがって、参照アミノ酸配列に対するアミノ酸配列の同一性のパーセンテージは、参照アミノ酸配列の全長にわたり計算される。言い換えれば、参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、参照配列内の5%までのアミノ酸残基が欠失するか、もしくは別のアミノ酸と置換されていてもよく、または参照配列の全アミノ酸残基の5%までの一定数のアミノ酸が参照配列内に挿入されていてもよい。参照配列のこれらの変化は、参照アミノ酸配列のアミノ−もしくはカルボキシ−末端部位、またはそれらの末端部位の間の任意の位置で生じていてもよく、参照配列の残基の中で個別に、または参照配列内の1つもしくは複数の連続する群内に、散在して生じていてもよい。
【0036】
本発明による核酸は、ピリミジンおよびプリン塩基、好ましくはそれぞれシトシン、チミン、およびウラシル、ならびにアデニンおよびグアニンの任意のポリマーまたはオリゴマーを含んでいてもよい(非特許文献19を参照のこと。その全体があらゆる目的のため、本明細書に参照により組み込まれる)。本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはペプチド核酸成分、およびそれらの任意の化学的バリアント、たとえばこれら塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化、またはグリコシル化形態等を考慮に入れている。ポリマーまたはオリゴマーは、組成において異種または同種であってもよく、天然原料から単離されてもよく、または人工もしくは合成で作製されてもよい。加えて、核酸はDNAもしくはRNA、またはこれらの混合物であってもよく、ホモ二重鎖、ヘテロ二重鎖、およびハイブリッド状態を含む、一本鎖または二本鎖形態で持続的または過渡的に存在してもよい。
【0037】
本明細書において使用される用語「作動可能に連結された」は、機能的関係性におけるポリヌクレオチド要素の連結を指す。核酸は、それが他の核酸配列との機能的関係性の中へと置かれる際に「作動可能に連結され」ている。たとえば、プロモーター、またはより正確には転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響する場合、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されているということは、連結されているDNA配列が典型的には連続的であり、2つ以上のタンパク質コード領域を結合させる必要がある場合には、連続的でリーディングフレーム内にあるという意味である。
【0038】
「植物」とは、植物全体または植物の一部、たとえば植物より得られる細胞、組織または器官(たとえば花粉、種子、配偶子、根、葉、花、花芽、葯、果実等)と共に、これらの任意の派生物および自殖または交雑によりかかる植物に由来する後代を指す。「植物細胞(複数可)」は、プロトプラスト、配偶子、懸濁培養物、小胞子、花粉粒等を、単離された状態または組織、器官もしくは生物体内で含む。
【0039】
本明細書において使用される用語「プロモーター」は、1つまたは複数の遺伝子の転写を制御するよう機能し、転写の方向に対して遺伝子の転写開始部位の上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、ならびに、転写因子結合部位、リプレッサーおよびアクチベータータンパク質結合部位、ならびにプロモーターからの転写の量を調節するよう直接または間接に作用することが当業者に知られている任意の他のヌクレオチドの配列を含むが、これに限られない任意の他のDNA配列の存在により、構造的に同定される核酸配列を指す。任意選択で、用語「プロモーター」は本明細書においてまた、5’UTR領域(5’非翻訳領域)を含む(たとえば、プロモーターは本明細書において、遺伝子の翻訳開始コドンの上流(5’)の1つまたは複数の部分を含んでいてもよい。なぜなら、この領域は、転写および/または翻訳の調節において役割を果たしていてもよいからである。)。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの生理的および発生的条件下のほとんどの組織において活性なプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、生理的(たとえば何らかの化合物の外用により)または発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定のタイプの組織または細胞でのみ活性である。「植物または植物細胞において活性なプロモーター」とは、植物または植物細胞内で転写を駆動するプロモーターの全般的能力を指す。これは、プロモーターの空間的−時間的活性について何の示唆もしない。
【0040】
用語「タンパク質」または「ポリペプチド」は、互換的に使用され、アミノ酸鎖からなる分子を指し、特定の作用機序、サイズ、3次元構造または起源を指すことはない。したがって、タンパク質の「断片」または「部分」もまた、「タンパク質」として言及される。「単離タンパク質」は、もはやその天然環境にない、たとえばインビトロまたは組換え細菌もしくは植物宿主細胞内のタンパク質を指すために使用される。
【0041】
「トランスジェニック植物」または「形質転換植物」は、本明細書において、たとえば内在性遺伝子またはその一部における非サイレント変異の導入により形質転換された植物または植物細胞を指す。かかる植物は、たとえば遺伝子における1つもしくは複数の変異、挿入および/もしくは欠失、ならびに/またはゲノムにおける遺伝子サイレンシング構築物の挿入を導入するよう遺伝的に改変されている。トランスジェニック植物細胞は、単離状態のまたは組織培養物内の植物細胞、あるいは、植物内または分化した器官もしくは組織内に含有される植物細胞を指してもよく、両方の可能性が具体的に本明細書に含まれる。したがって、本説明または特許請求の範囲における植物細胞への言及は、培養物中の単離細胞またはプロトプラストのみを指すことを意図せず、それがどこに位置していようとも、またはどのようなタイプの植物組織もしくは器官にそれが存在していようとも、任意の植物細胞を指す。
【0042】
標的化ヌクレオチド交換(targeted nucleotide exchange:TNE)とは、染色体またはエピソーム遺伝子のある部位に対し部分的に相補的である合成オリゴヌクレオチドが、特定部位の単一のヌクレオチドと置き換わるプロセスである。TNEは、多様なオリゴヌクレオチドおよび標的を使用して記述されてきた。報告されたオリゴヌクレオチドのいくつかはRNA/DNAキメラであり、ヌクレアーゼ耐性を付与する末端の改変を含有する。
【0043】
本明細書において使用される用語「乾燥ストレス」または「乾燥」は、植物への水の供給が限定された、最適ではない(sub−optimal)環境条件を指す。水の供給の限定は、たとえば、降雨がないもしくは比較的少ないときおよび/または植物への給水の頻度が必要とされているよりも低いときに生じ得る。植物への水の供給の限定はまた、たとえば水が土壌に存在するが、植物により効率的に取り出され得ないときに生じる。たとえば、土壌が強力に水を捕捉するときまたは水の塩含有量が高いとき、植物が土壌から水を取り出すことはより困難であり得る。したがって、多くの要因が植物への水の供給の限定、すなわち乾燥をもたらす原因であり得る。植物を「乾燥」または「乾燥ストレス」に晒すことにより、植物の成長および/または発育が最適でなくなり得る。乾燥に晒される植物は、しおれの徴候を有し得る。たとえば、植物は少なくとも15日の期間、たとえば降雨がないことおよび/または植物への水やりがないことで水が提供されない、特定の制御条件下に晒されてもよい。
【0044】
用語「改善した耐乾燥性」は、改善した耐乾燥性が提供された際、乾燥または乾燥ストレスに晒された際に、影響を示さないか、または、改善した耐乾燥性を提供されていない対照植物において観察されるのと比べて、軽減された影響を示す植物を指す。通常の植物は、一定レベルの耐乾燥性を有する。植物が改善した耐乾燥性を有するかどうかは、一定期間後に対照植物において乾燥の徴候が観察できるように選択された制御条件下で、すなわち、植物が乾燥または乾燥ストレスに晒された際に、対照植物を改善した耐乾燥性を提供された植物と比較することにより容易に判定できる。改善した耐乾燥性を有する植物は、乾燥に晒されてきた徴候、たとえばしおれが、対照植物と比較して少ないおよび/または減少するであろう。当業者は、好適な条件、たとえば実施例における制御条件を選択する方法を理解し得る。植物が「改善した耐乾燥性」を有する場合、乾燥または乾燥ストレスに晒された際に、さもなければ通常の植物の成長および/または発育が減少したところ、正常成長および/または正常発育を維持することが可能である。したがって、「改善した耐乾燥性」は、植物を比較することにより決定される相対的な用語であり、乾燥ストレス下で(正常)成長を維持する能力が最もある植物が、「改善した耐乾燥性」を有する植物である。当業者は、植物の耐乾燥性を判定する適切な条件を選択する方法および乾燥の徴候を測定する方法を良く認識しており、たとえばIRRIにより提供されるマニュアルである非特許文献20、およびCIMMYTにより提供されるマニュアルである非特許文献21に記載されている。植物における改善した耐乾燥性を判定する方法の例は、非特許文献22および非特許文献23において提供され、また下の実施例セクションに記載されるとおりである。
【0045】
発明の詳細な説明
本発明は、たとえば遺伝的改変または標的化ヌクレオチド交換を使用して、植物において機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を改変すること、たとえば障害することによる、植物の耐乾燥性の調節方法、たとえばその改善方法に関する。調節、たとえば改善は、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が改変されていない、たとえばそれが障害されていない対照植物との間での相対的な関係である。換言すれば、本発明による改変植物は、非改変植物と比較して、水の供給が減少した条件、(一時的な)絶水または乾燥条件下で、より良く成長および生存できる。本発明によれば、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を改変すること、たとえば障害することは、たとえばペクチンエステラーゼ遺伝子発現の遺伝的改変または標的化ヌクレオチド交換を伴ってもよいことが理解される。
【0046】
一実施形態において、本発明は、たとえば遺伝的改変または標的化ヌクレオチド交換を使用して、植物において機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害することによる、植物の耐乾燥性の改善方法を提供する。
【0047】
遺伝的改変は、核酸配列における変異、挿入、欠失の導入、および/または、核酸配列を標的とする遺伝子サイレンシング構築物の植物もしくは植物細胞のゲノム内への挿入を含む。核酸配列、たとえばmRNAをコードする遺伝子を遺伝的に改変することは、mRNA配列に対応するエクソン配列を改変することに関するだけでなく、ゲノムDNAのイントロン配列および/またはその核酸配列、たとえば遺伝子、の(他の)遺伝子調節配列に変異導入することを伴っていてもよい。
【0048】
一実施形態において、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株、たとえばAt5g19730ノックアウト株、たとえば、本明細書に記載のSALK_136556C(http://www.arabidopsis.org/servlets/SeedSearcher?action=detail&stock_number=SALK_136556C)において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株、たとえば、At5g19730ノックアウト株、たとえば、SALK_136556Cであって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質であってもよい。
【0049】
本明細書において使用される用語「破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子」は、たとえば、前記ペクチンエステラーゼ遺伝子へのT−DNA挿入により破壊された、たとえばそれにより割り込まれた、植物のゲノムに天然で存在するペクチンエステラーゼ遺伝子を指す。前記内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子の破壊により、前記内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子の発現の欠失をもたらすことができる。
【0050】
本明細書において使用される用語「対照植物」は、同種、好ましくは同品種、好ましくは同じ遺伝的背景の植物を指す。しかしながら、前記対照植物へと導入される改変は、好ましくは前記対照植物に存在しないかまたは導入されない。
【0051】
本発明はまた、植物において機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を改変することによる、植物の耐乾燥性の調節に関する。調節は、かかる改変が導入されていないまたは存在しない対照植物(好ましくは、同じ遺伝的背景の植物)と間での相対的な関係である。
【0052】
本明細書において使用される「機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害すること」は、ペクチンエステラーゼ遺伝子の遺伝子発現が障害されていること、および/または、ペクチンエステラーゼ遺伝子の発現は正常であるが、結果として得られるmRNAの翻訳が(たとえば、RNA干渉により)阻害されるもしくは阻止されること、および/または、ペクチンエステラーゼタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質のペクチンエステラーゼ比活性と比較して、好ましくは生理的条件下、特に同一の生理的条件下で、そのペクチンエステラーゼ比活性を減少させるように、変化していることを意味してもよい。あるいは、ペクチンエステラーゼタンパク質は、たとえば、抗体、またはペクチンエステラーゼ阻害因子を使用してタンパク質を除去することにより、機能性が低下してもよいか、または非機能性となってもよい。たとえば、前記ペクチンエステラーゼタンパク質に特異的に結合する抗体が同時に発現し、そのことにより、ペクチンエステラーゼタンパク質の比活性を減少させてもよい。本明細書において使用される「機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害すること」なる文言は、ペクチンエステラーゼ阻害因子、たとえば、ペクチンエステラーゼタンパク質の活性を停止、阻止または低減するタンパク質の発現増加による機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の除去をさらに包含する。かかるペクチンエステラーゼ阻害因子の非限定的な一例は、遺伝子At1g48020である。あるいは、化学的ペクチンエステラーゼ阻害因子、たとえばイオン、もしくは金属を用いてもよく、またはペクチンエステラーゼのコファクターを除去し、ペクチンエステラーゼ活性のためのその利用可能性を減少させてもよい。したがって、この文言は、ペクチンエステラーゼタンパク質が正常レベルで発現するが、アミノ酸配列の変異により、または(任意選択で機能性である)ペクチンエステラーゼタンパク質の除去により、前記ペクチンエステラーゼタンパク質が活性を有さないか、または配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むペクチンエステラーゼタンパク質と比較してその活性が低下している状況を含む。
【0053】
ペクチンエステラーゼは、ペクチンを脱エステル化してペクチン酸塩およびメタノールを生成する反応を触媒する。ペクチンは、植物細胞壁の主成分の1つである。ペクチンエステラーゼタンパク質の比活性は、かかるペクチンエステラーゼのペクチンの脱エステル化に関する比活性が、配列番号2に記載のペクチンエステラーゼの比活性よりも統計的に有意に低い場合に、「減少した」ものとみなされてもよい。ペクチンエステラーゼタンパク質の比活性は、たとえば、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%またはそれ以上減少していてもよい。植物の内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子の発現の減少は、たとえば、標的化ヌクレオチド交換を使用して、たとえば、プロモーター配列を変化させることにより達成されてもよい。
【0054】
当業者は、ペクチンエステラーゼの比活性を判定することができる。たとえば、PE酵素活性は、Tucker et al.に記載のとおり、滴定により判定することができる(非特許文献24)。
【0055】
機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を(たとえば、発現およびまたは活性を低減、抑制または欠失させることにより)障害することが、たとえばRNA干渉による低発現の結果として、もしくは、ペクチンエステラーゼタンパク質の活性/機能性の減少の結果として、または上の1つもしくは複数の結果として、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の非存在またはレベルの減少をもたらし、この、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の前記非存在またはレベルの減少が、前記植物の水への要求を減少させ、または乾燥に対する改善した耐性をもたらすと、本発明者らは考えている。
【0056】
シロイヌナズナのペクチンエステラーゼタンパク質は、383個のアミノ酸からなる(そのアミノ酸配列は配列番号2に記載されている。)。シロイヌナズナのペクチンエステラーゼ遺伝子に由来するcDNAは、1149個のヌクレオチドを含み、その核酸配列は配列番号1に記載されている。
【0057】
本明細書において使用される用語「ペクチンエステラーゼタンパク質」は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、ならびにその断片およびバリアントを指す。ペクチンエステラーゼタンパク質のバリアントは、たとえば、配列番号2のアミノ酸配列に対し、好ましくは全長にわたり、少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上、たとえば100%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質を含む。アミノ酸配列の同一性は、ニードルマン−ブンシュアルゴリズム(Needleman and Wunsch algorithm)および上に定義されたGAPデフォルトパラメータを使用した、ペアワイズアラインメントにより判定されてもよい。
【0058】
別の一態様において、植物の耐乾燥性の増加方法が提供され、この方法は、前記植物におけるペクチンエステラーゼタンパク質をコードする遺伝子の発現を障害する工程を含む。
【0059】
本発明による「障害された遺伝子の発現」とは、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の非存在または存在の減少を意味する。当業者は、たとえば、転写レベルまたは翻訳レベルにおいて、遺伝子の発現を障害するために当技術分野において利用可能な多くのメカニズムを良く認識している。
【0060】
転写レベルでの障害は、プロモーター、エンハンサー、開始、終結またはイントロンスプライシング配列を含む、転写調節配列における1つまたは複数の変異の導入の結果であり得る。これらの配列は一般に、本発明のペクチンエステラーゼ遺伝子の5’、3’、またはコード配列内に位置する。独立して、または同時に、発現の障害はまた、遺伝子のコード領域のヌクレオチドの欠失、置換、再配列または挿入により提供され得る。
【0061】
たとえば、コード領域において、ヌクレオチドは、置換されるか、挿入されるかまたは欠失することにより、1つ、2つまたはそれ以上の未成熟終止コドンの導入をもたらされてもよい。また、挿入、欠失、再配列または置換は、コードされるアミノ酸配列において改変をもたらし得、そのことにより機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害し得る。さらに、遺伝子の大部分が除去されてもよく、たとえば、遺伝子の(コード領域の)少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%までを植物に存在するDNAから除去し、そのことにより機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害してもよい。
【0062】
あるいは、1、2、3のより多くのヌクレオチドが、ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする1つまたは複数の遺伝子を導入して、たとえばフレームシフトをもたらすか、または、追加のアミノ酸をコードする配列の導入、もしくはアミノ酸をコードしない配列の導入、もしくは大きなインサートの導入をもたらし、そのことにより、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の提供/発現を障害してもよい。
【0063】
換言すれば、上述のペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列内のヌクレオチド(複数可)の欠失、置換または挿入は、たとえば、フレームシフト、終止コドンの導入、またはナンセンスコドンの導入をもたらしてもよい。特に、終止コドンの導入およびフレームシフト変異の導入は、ノックアウト植物、すなわち、特定のタンパク質の発現および/または活性が低減した、抑制されたまたは欠失した植物を作製する効率的な方法として一般に受け入れられている。
【0064】
フレームシフト変異(フレーミングエラーまたはリーディングフレームシフトとも呼ばれる)は、ヌクレオチド配列における3で割り切れない数のヌクレオチドのインデル(挿入または欠失)により引き起こされる遺伝的変異である。コドンによる遺伝子発現はトリプレットによるため、挿入または欠失は、リーディングフレーム(コドンの組分け)を変化させ、オリジナルとは完全に異なる翻訳をもたらし得る。配列内で欠失または挿入が生じるのが上流であるほど、作製されるタンパク質はより大きく変更される。フレームシフト変異は一般に、変異後のコドンの読みを、異なるアミノ酸をコードするようにするが、遺伝暗号の冗長性によりもたらされる例外があり得る。さらに、オリジナル配列内の終止コドン(「UAA」、「UGA」または「UAG」)は、読まれず、代わりとなる終止コドンがより上流または下流の終結部位にもたらされ得る。作出されるタンパク質は、異常に短いまたは異常に長いものであり得る。
【0065】
本明細書において定義されるペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列における終止コドンの導入は、翻訳の未成熟終止をもたらし得るのであり、これは一般に、短縮され、不完全で、非機能性のペクチンエステラーゼタンパク質をもたらす。好ましくは、終止コドンは、転写方向の上流で導入される。ヌクレオチド配列内で終止コドンが導入されるのが上流であるほど、作製されるタンパク質はより短くなり、より大きく変更される。ペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列におけるナンセンスコドンの導入は、たとえば1つのコドンがペクチンエステラーゼタンパク質において天然に生じるアミノ酸をコードせず、たとえば、そのコドンがペクチンエステラーゼタンパク質が機能性であるのに必須のアミノ酸を通常コードするコドンである、mRNA転写物をもたらし得る。したがって、かかるペクチンエステラーゼタンパク質は機能性でないことがあり得る。
【0066】
換言すれば、この障害は、本明細書において開示される遺伝子または核酸配列における1つまたは複数のヌクレオチドに変異導入することを含んでいてもよく、これは、タンパク質発現産物の存在の減少もしくはさらには完全な非存在(すなわち、本発明による遺伝子が上述のとおり改変されなかった際に得られるはずのタンパク質の非存在)、または非機能性タンパク質の存在をもたらす。
【0067】
したがって、本明細書において開示される方法の一実施形態において、この障害は、前記ペクチンエステラーゼ遺伝子における1つまたは複数の変異の結果であり、これは、対照植物と比較して、タンパク質発現産物の減少またはタンパク質発現産物の非存在をもたらす。
【0068】
本明細書において使用される減少したタンパク質発現産物の阻害/存在という用語は、発現が障害されていない対照植物と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または99%までのタンパク質発現の減少に関する。用語「タンパク質発現の非存在」は、あらゆる発現産物の事実上の非存在、たとえば、対照と比較して5%、4%、3%、2%未満または1%未満ですらあることを指す。
【0069】
当業者により理解されるように、変異はまた、変異原性化合物、たとえばエチルメタンスルホネート(ethyl methanesulfonate:EMS)またはヌクレオチド配列に変異を(ランダムに)導入可能な他の化合物の適用により、本明細書において定義されるペクチンエステラーゼをコードするヌクレオチド配列内に導入されてもよい。前記変異原性化合物または前記他の化合物は、ペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列に変異を有する植物を作出する手段として使用してもよい。
【0070】
あるいは、本発明によるペクチンエステラーゼタンパク質をコードするヌクレオチド配列における変異の導入は、かかるタンパク質をコードするヌクレオチド配列におけるトランスファー−DNA(T−DNA)、たとえば、何らかの細菌種、たとえばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)の腫瘍誘発(tumor−inducing:Ti)プラスミドのT−DNAの導入によりもたらされてもよい。T−DNA因子が前記ヌクレオチド配列に導入され、非機能性タンパク質またはタンパク質の発現の非存在をもたらされ、結果として、本発明の方法により得られる植物の水への要求を減少させてもよい(たとえば非特許文献25を参照のこと)。同様の利点が、転移因子挿入の使用から得られる(たとえば非特許文献26または非特許文献27を参照のこと)。
【0071】
一実施形態において、本発明によるタンパク質をコードするヌクレオチド配列に変異を導入することは、たとえば特許文献5に記載のとおり、TNEにより実施されてもよい。TNEを適用することにより、ペクチンエステラーゼをコードするヌクレオチド配列において特定のヌクレオチドを変更でき、そのことにより、たとえば、終止コドンが導入され得るのであり、これはたとえば、ヌクレオチド配列を、ペクチンエステラーゼ活性が減少または消失した短縮タンパク質をコードするものとし得る。
【0072】
別の一実施形態において、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現の障害が、非機能性タンパク質または機能性の減少したタンパク質発現により引き起こされる方法が上述のとおり提供される。上で説明したとおり、当業者は本発明による遺伝子の機能性を容易に判定することができる。たとえば、当業者は、何の改変もない対照遺伝子を、本発明によるタンパク質の発現が障害された植物に導入することにより、相補性研究を実施し、耐乾燥性を研究してもよい。
【0073】
あるいは、当業者は、下の実施例に記載する実験と類似する実験を実施し、本発明による遺伝子において1つまたは複数の変異が導入された植物における耐乾燥性を、好適な対照/野生型植物と比較して判定してもよい。
【0074】
障害はまた、たとえば未成熟終止コドンを導入することにより、または、たとえばタンパク質フォールディングに影響する翻訳後修飾により、翻訳レベルで提供できる。
【0075】
そのメカニズムとは独立に、本発明による障害は、正常レベルの機能不全ペクチンエステラーゼタンパク質の存在を含めた、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の非存在または存在の減少により示される。
【0076】
上で説明したとおり、本明細書において使用される発現の阻害または存在の減少という用語は、発現が障害されていない対照植物と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または99%までのタンパク質発現の減少に関する。用語「タンパク質発現の非存在」は、ある発現産物の事実上の非存在、たとえば、対照と比較して5%、4%、3%、2%未満または1%未満ですらあることを指す。
【0077】
別の一実施形態によれば、前記障害は、遺伝子サイレンシング、たとえばRNA干渉またはRNAサイレンシングにより引き起こされる。
【0078】
当業者が容易に利用可能な分子生物学的方法により、遺伝子の障害をまた、遺伝子サイレンシングにより、たとえばRNA干渉技術、dsRNAもしくは他の発現サイレンシング技術(たとえば、非特許文献28、または非特許文献29を参照のこと)、または、すでに上で論じたとおり、ノックアウトを使用して達成できる。
【0079】
好ましい別の一実施形態において、すでに上で論じたとおり、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換により障害が引き起こされる、本発明による方法が提供される。たとえば、1個、2個、3個・・・10個、40個、50個、100個、200個、300個、1000個、またはさらに多くのヌクレオチドが、本発明による遺伝子において、挿入され、欠失し、または置換されていてもよい。また考えられるのが、遺伝子のコード領域におけるまたは非コード領域における、挿入、欠失、および/または置換の組合せである。
【0080】
本明細書において開示される方法の別の一実施形態において、この方法は、前記植物において、ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする、1個より多い、たとえば2個、3個、4個、5個、またはすべての遺伝子の発現を障害する工程を含む。
【0081】
この実施形態において、特定の一植物に存在する上述の1個より多い遺伝子の発現が障害される。たとえば、一植物に存在する、ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする、1個、2個、3個、4個またはすべての遺伝子の発現が障害される。上述のより多くの遺伝子の発現を(一植物に存在する際に)同時に障害することにより、さらに改善した耐乾燥性が得られる。
【0082】
別の一実施形態において、本発明による方法により提供される植物を、さらなる植物およびまたはそれに由来する植物性産物の作製のために使用できる。用語「植物性産物」は、成長した植物から得られる物質を指し、果実、葉、植物器官、植物脂肪、植物油、植物デンプン、植物タンパク質画分を含み、これらは粉砕されているか、製粉されているか、またはそのままの形であるか、他の物質と混合されているか、乾燥されているか、凍結されているか、その他の処理をされている。一般に、かかる植物性産物は、たとえば、上で詳細に説明したとおりに機能性タンパク質の発現が障害されるように改変された、本明細書に開示の遺伝子の存在により認識され得る。
【0083】
好ましくは、本発明によるペクチンエステラーゼタンパク質の発現および/または活性は、セイヨウアブラナ(Brassica napus)(菜種)を含むアブラナ科(Brassicaceae family)、またはトマトを含むナス科(Solanaceae−family)、またはメロンおよびキュウリを含むウリ科(Curcurbitaceae family)、またはイネを含むイネ属(Oryza)を含むイネ科(Poaceae family)、またはトウモロコシ(maize)(コーン(corn))を含むトウモロコシ(Zea mays)、または豆果、エンドウマメ、もしくはビーン(bean)を含むマメ科(Fabaceae)に属する植物において障害される(たとえば、低減され、抑制され、または欠失する)。好ましくは、本発明による方法は、トマト、イネ、トウモロコシ、メロン、またはキュウリに適用され、そのことにより、対応する対照植物と比較して、水への要求が減少し、または乾燥に対する耐性が改善した植物を提供する。
【0084】
また提供されるのは、本発明による方法により得られる植物細胞、植物またはそれらに由来する植物性産物であり、前記植物細胞、植物または植物性産物は、本発明による方法に供されない対照植物と比較して、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現の減少を示す。
【0085】
また提供されるのが、植物細胞、植物またはそれらに由来する植物性産物において、ペクチンエステラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの、好ましくはすべての遺伝子の発現が障害される、植物細胞、植物またはそれらに由来する植物性産物であり、前記少なくとも1つの遺伝子から転写されたmRNA配列に対応するcDNA配列が、配列番号1に示される配列を含み、cDNA配列が配列番号1のヌクレオチド配列と40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%を超える同一性を有し、および/または前記少なくとも1つの遺伝子によりコードされるアミノ酸配列が、配列番号2に示される配列もしくはそのバリアントを含む。好ましくは、植物は下の実施例に記載のシロイヌナズナ変異体、またはブラキポディウム属(Brachypodium)T−DNA挿入変異体ではない。
【0086】
別の一態様において、本発明は、植物に増加した耐乾燥性を提供するための遺伝子の使用を対象とし、前記遺伝子から転写されたmRNA配列に対応するcDNA配列が、配列番号1に示される配列を含み、cDNA配列がそれと40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%を超える同一性を有し、および/または前記遺伝子によりコードされるアミノ酸配列が、配列番号2に示される配列を含み、アミノ酸配列がそれと40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%を超える同一性を有する。
【0087】
この実施形態において、述べられた遺伝子を、本明細書における開示に従い、植物における耐乾燥性を改善するための標的として使用でき、または、この遺伝子を、乾燥感受性および耐性に関与する新規タンパク質を同定するのに使用できる。
【0088】
別の一実施形態において、シロイヌナズナ植物の耐乾燥性のスクリーニングにおける、シロイヌナズナ種の配列番号1または2を有するペクチンエステラーゼ配列の使用を提供する。加えて、ペクチンエステラーゼ配列が他の植物種の配列番号1または2の類似配列であり、スクリーニングが他の植物種の植物におけるものである、使用を提供する。さらに、以下の工程を含む、改善した耐乾燥性を有する植物または植物細胞のスクリーニング方法を提供する。すなわち、
−シロイヌナズナ種の植物細胞または植物の異型遺伝子性集団(heterogenic population)を提供する工程、
−配列番号1または2を有するペクチンエステラーゼ配列を提供する工程、
−植物細胞または植物のペクチンエステラーゼ遺伝子の少なくとも一部の配列を判定する工程、
−植物細胞または植物に由来する判定されたペクチンエステラーゼ配列を、提供されたペクチンエステラーゼ配列と比較する工程、
−ペクチンエステラーゼ配列が変異を含む植物細胞または植物を同定する工程。
【0089】
あるいは、この方法において、提供される植物細胞または植物は他の種のものであり、提供されるペクチンエステラーゼ遺伝子配列は、その種における類似配列である。
【0090】
したがって、シロイヌナズナ種のペクチンエステラーゼ配列である配列番号1もしくは配列番号2、または他種由来のその類似配列を使用することにより、改善した耐乾燥性を提供し得る変異ペクチンエステラーゼ配列をその植物種において同定できる。シロイヌナズナ種のペクチンエステラーゼ配列である配列番号1または配列番号2の他種における類似配列は、それと少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列として定義される。類似ペクチンエステラーゼタンパク質は、実質的に配列番号2と同じ機能を有し得る。類似配列が配列表の配列番号3〜10に示され、これらはそれぞれブラッシカ・ラパ、トマトおよびイネに由来する。配列番号2と比較したこれらの配列同一性を、下の表2に記載する。
【0091】
この方法において、その種の植物細胞または植物の異型遺伝子性集団が提供される。異型遺伝子性集団は、たとえば、植物細胞にランダム変異を導入する変異原に晒し、そのことにより植物細胞の異型遺伝子性集団を提供することにより提供してもよい。したがって、異型遺伝子性集団は、単一の植物品種に由来してもよく、この品種は、後代で多様な変異を得ることにより異型遺伝子性集団を提供するため、ランダム変異誘発に晒される。当技術分野において多くの変異原、たとえばイオン放射、UV放射、および変異原性化学物質、たとえばアジド、エチジウムブロマイドまたはエチルメタンスルホネート(EMS)が知られている。したがって、当業者は、植物または植物細胞の異型遺伝子性集団を提供する方法を知っている。また、当業者は、多様な植物、すなわち1種に由来する単一の品種ではない多様な植物を、異型遺伝子性集団として提供してもよい。多様な植物は、遺伝的多様性を示し、遺伝的に同一ではないが、これら植物は同種に由来するので、実質的には同一である。いずれにしろ、植物細胞または植物の異型遺伝子性集団は、少なくとも95%、96%、97%、98%、98%、99%、99.5%または少なくとも99.9%の配列同一性を有していてもよい。
【0092】
異型遺伝子性集団からの植物または植物細胞の配列で、ペクチンエステラーゼ遺伝子配列の配列の少なくとも一部を判定し、続いてこれら配列を提供されたペクチンエステラーゼ遺伝子配列(参照)と比較することにより、ペクチンエステラーゼ遺伝子配列において変異を含む植物細胞または植物を同定できる。かかる比較を、配列のアラインメントにより行うことができ、変異は、その植物種の類似(参照)ペクチンエステラーゼ配列における少なくとも1つの核酸またはアミノ酸位置に関する差異であることが理解される。こうして、ペクチンエステラーゼ遺伝子に、改善した耐乾燥性を提供し得る変異(たとえば挿入、欠失、置換)を有する植物または植物細胞を同定する。
【0093】
好ましくは、すでに上で概説したように、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現の障害をもたらすと考えられる変異を有する植物が選択される。機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現を障害すると考えられる変異は、オープンリーディングフレームを破壊する(フレームシフトまたは終止コドンを導入する)、または、タンパク質の適切な機能に必須のアミノ酸をコードするコドンのヌクレオチドを変更することによりコードされたタンパク質の機能を破壊するもしくはさもなければ変更すると考えられ、そのことにより、非変更タンパク質と比較して、乾燥に対する改変された(たとえば増加した)耐性をもたらす変異であってもよい。この方法はまた、たとえば、上で概説したとおり、ペクチンエステラーゼ遺伝子配列を標的とする遺伝的改変に供された植物のスクリーニングおよび選択において使用してもよい。また、ペクチンエステラーゼ配列を、植物の(異型遺伝子性)集団が乾燥に晒されるスクリーニングアッセイにおいて使用してもよい。
【0094】
別の一実施形態において、耐乾燥性シロイヌナズナ植物の育種のためのマーカーとしての、シロイヌナズナ種の配列番号1または配列番号2を有するペクチンエステラーゼ配列の少なくとも一部の使用を提供する。また、ペクチンエステラーゼ配列は、他種の類似配列であってもよく、マーカーは、その植物種の耐乾燥性植物を育種するためのものである。
【0095】
本発明はさらに、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物の使用に関する。この機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、乾燥ストレス条件下で成長する際に前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である。前記乾燥ストレス条件により、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されていない対照植物、植物細胞または植物性産物が、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物よりも早く乾燥ストレスの徴候、たとえばしおれの徴候を示す。
【0096】
一態様において、本発明は、本明細書において教示される方法により得られるまたは得られた植物、植物細胞または植物性産物に関する。加えて、本発明は、かかる植物に由来する種子を提供する。
【0097】
本発明はまた、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害された植物、植物細胞、または植物性産物に関し、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質は、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、タンパク質である。前記植物、植物細胞または植物性産物は、たとえば、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を含んでいてもよい。
【0098】
植物、植物細胞または植物性産物は、任意の植物もしくは植物細胞であってもよく、または任意の植物に由来してもよく、たとえば単子葉植物または双子葉植物だが、最も好ましくは、植物はナス科に属する。たとえば、植物は、ナス属(トマトを含む)、タバコ属(Nicotiana)、トウガラシ属(Capsicum)、ペチュニア属(Petunia)および他の属に属していてもよい。以下の宿主種が、好適に使用されてもよい。すなわち、タバコ(タバコ属種、たとえばベンサミアナタバコ(N. benthamiana)、ニコチアナ・プルムバギニフォリア(N. plumbaginifolia)、タバコ(N. plumbaginifolia)等)、野菜種、たとえばトマト(Solanum lycopersicum)、たとえばチェリートマト、var. cerasiforme、カラントトマト、var. pimpinellifolium)またはツリートマト(S. betaceum, syn. Cyphomandra betaceae)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ナス(Solanum melongena)、ペピーノ(Solanum muricatum)、ココナ(Solanum sessiliflorum)およびナランジラ(Solanum quitoense)、トウガラシ(トウガラシ(Capsicum annuum)、キダチトウガラシ(Capsicum frutescens)、アヒ・アマリージョ(Capsicum baccatum))、観賞植物種(たとえばペチュニア(Petunia hybrida)、ペチュニア・アクシラリス(Petunia axillaries)、P.インテグリフォリア(P. integrifolia))。
【0099】
あるいは、植物は、任意の他の科、たとえばウリ科(Cucurbitaceae)またはイネ科(Gramineae)に属していてもよい。好適な宿主植物は、たとえば、トウモロコシ/コーン(トウモロコシ属(Zea)種)、コムギ(コムギ属種)、オオムギ(barley)(たとえばオオムギ(Hordeum vulgare))、カラスムギ(たとえばエンバク)、モロコシ(Sorghum bicolor)、ライムギ(Secale cereale)、ダイズ(soybean)(ダイズ属(Glycine)種、たとえばダイズ(G. max))、ワタ(ワタ属(Gossypium)種、たとえばリクチメン、カイトウメン(G. barbadense))、アブラナ属(Brassica)種(たとえばセイヨウアブラナ、カラシナ(B. juncea)、メキャベツ(B. oleracea)、ブラッシカ・ラパ等)、ヒマワリ(Helianthus annus)、サフラワー、ヤム、キャッサバ、アルファルファ(Medicago sativa)、イネ(rice)(イネ属種、たとえばインディカイネ(O. sativa indica)栽培品種群またはジャポニカイネ(O. sativa japonica)栽培品種群)、飼料草、トウジンビエ(pearl millet)(チカラシバ属(Pennisetum)種、たとえばトウジンビエ(P. glaucum))、樹木種(マツ属(Pinus)、ポプラ、モミ、オオバコ等)、茶、コーヒー属(coffea)、アブラヤシ、ココナツ、野菜種、たとえばエンドウマメ、ズッキーニ、ビーン(たとえばインゲンマメ属(Phaseolus)種)、キュウリ、チョウセンアザミ、アスパラガス、ブロッコリー、ニンニク、ニラネギ、レタス、タマネギ、ラディッシュ、カブラ、メキャベツ、ニンジン、カリフラワー、チコリ、セロリ、ホウレンソウ、エンダイブ、ウイキョウ、ビート、多肉果結実植物(ブドウ、モモ、プラム、イチゴ、マンゴー、リンゴ、プラム、サクランボ、アンズ、バナナ、ブラックベリー、ブルーベリー、柑橘類、キーウィ、イチジク、レモン、ライム、ネクタリン、ラズベリー、スイカ、オレンジ、グレープフルーツ等)、観賞植物種(たとえばバラ属(Rose)種、ペチュニア属種、キク属(Chrysanthemum)種、ユリ属(Lily)種、ガーベラ属(Gerbera)種)、香草(ミント、パセリ、バジル、タイム等)、木質樹木(たとえばポプラ属(Populus)、ヤナギ属(Salix)、コナラ属(Quercus)、ユーカリ属(Eucalyptus)の種)、繊維種、たとえばアマ(Linum usitatissimum)およびアサ(Cannabis sativa)、またはモデル生物、たとえばシロイヌナズナを含む。
【0100】
好ましい宿主は「作物植物」、すなわちヒトにより栽培および交配される植物種である。作物植物は、食料目的のために(たとえば農作物)、または観賞目的のために(たとえば切り花用の花や、芝生用の芝等の生産)栽培されてもよい。本明細書において定義される作物植物はまた、非食料産物、たとえば、燃料油、可塑性ポリマー、医薬製品、コルク等が収穫される植物を含む。
【0101】
好ましくは、本発明の植物、植物細胞または植物性産物は、シロイヌナズナまたはブラキポディウム植物、植物細胞または植物性産物ではない。
【0102】
本発明の植物、植物細胞または植物性産物は、たとえば、トマトまたはブラッシカ・ラパ植物、植物細胞または植物性産物であってもよい。
【0103】
たとえば、本発明は、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有するシロイヌナズナT−DNA挿入株において発現させたときに、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を有する前記シロイヌナズナT−DNA挿入株であって、前記機能性ペクチンエステラーゼタンパク質が発現していない株の耐乾燥性と比較して、耐乾燥性が障害された植物をもたらすタンパク質である、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の発現が障害されたトマト、リクチメン、ダイズ、コムギ属種、オオムギ、エンバク、モロコシ、ライムギ、またはセイヨウアブラナ植物、植物細胞、または植物性産物に関する。前記トマト、リクチメン、ダイズ、コムギ属種、オオムギ、エンバク、モロコシ、ライムギ、またはセイヨウアブラナ植物、植物細胞、または植物性産物は、破壊された内在性ペクチンエステラーゼ遺伝子を含んでいてもよい。
【0104】
本明細書に記載されるすべての参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
実施例
【実施例1】
【0105】
乾燥試験
アグロバクテリウム・ツメファシエンスベクターpROK2で形質転換され、機能性ペクチンエステラーゼタンパク質の非存在をもたらされたシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana:At)種子(NASC ID:N664100、AGIコード At5g19730およびSALK_136556C;以下変異体種子または変異体植物と呼ぶ)を、ノッティンガムシロイヌナズナ保存センター(Nottingham Arabidopsis Stock Centre:NASC;生物科学部、ノッティンガム大学、サットンボニントンキャンパス、ラフバラ、LE12 5RD 英国)から得た。対照として、At Col−0(コロンビア、N60000);以下対照種子または植物と呼ぶ)を使用した。
【0106】
成長培地:
1部の砂およびバーミキュライトならびに2部のコンポストを含む土壌混合物を使用した(砂:バーミキュライト:コンポスト=1:1:2)。この混合物は、水の浸透を増加させ、したがって、それぞれのポットによる均一な水取込みおよびより良い水はけを容易にする。播種前に、種子を4℃で3日間、暗く湿った条件下でストラティフィケーションのため維持した。
【0107】
変異体および対照種子の両方を、約4cmの直径の8×5=40ポットを含有する長方形のトレーに、1ポット当たり5つの植物の密度で播種した。10発芽後日数(days after germination:DAG)で栄養液(EC=1.5)をすべての植物にトレーのポットの底から供給し、15DAGで植物をポットから乾燥トレーに移すことより(15、16、17または18日間)乾燥に晒した。続いて、植物に水分補給し、1週間後に回復を観察した。
【0108】
それぞれの遺伝子型について3つの複製ポットを、前乾燥スクリーニングの対象とした。完全な試験に必要な総時間は、約36〜39日間だった。
【0109】
乾燥アッセイ検査:
植物が2枚の本葉の段階に達したら、それらを間引いて1ポット当たり正確に5つの植物を維持した。10DAGで、植物は栄養を受け(EC=1.5)、15DAGでそれぞれのポットを乾燥トレーに移動した。この日以降、植物は一切水を受けなかった。毎日植物、特に対照(または野生型)(Col−0)を、しおれの徴候について観察した。15乾燥日数(day of drought:DOD)で、Col−0は完全にしおれ、水分補給をしても回復しなかった。本発明者らは、この日をその永久しおれ点(permanent wilting point:PWP)と判定した。この日以降、変異体からの1つの複製に水分補給をし、回復の徴候について観察し、写真を撮影した。変異体は、対照と比較して、乾燥下で少なくとも2日間長い生存を示し、さらなる厳密なスクリーニングにかけた。
【実施例2】
【0110】
乾燥試験
成長培地:
実施例1と同じ変異体および対照植物を、スクリーニング前の試験において、上述のものと同様のトレーセットアップで生育した。15DAGから対照がそのPWPに達するまで水を与えないことにより、植物にストレスをかけた。この期間中、隔日でポットをトレー内でシャッフルし、位置効果を減少させ、蒸発を均一にした。15DODで対照植物はPWPに達し、水分補給をしても回復しなかった。変異体からの1つの複製ポットに、15DOD以降毎日水分補給し、乾燥ストレス回復をチェックした。写真を撮影し、回復をスコア化した。変異体は、対照がPWPに達した後、少なくとも3日長く乾燥ストレスからの回復を示した。
【0111】
図1は、変異体および対照を比較する写真を示し、対照と比較して、乾燥ストレスに対する耐性に関する変異体の優れた効果を示す。
【実施例3】
【0112】
乾燥試験
材料および方法
植物材料。AT5G19730(ペクチンエステラーゼ)遺伝子(SALK_136556C)が破壊されたTDNA挿入株を、ノッティンガムシロイヌナズナ保存センター(NASC)から得た。フローラルディップ形質転換を使用したシロイヌナズナ植物の安定な形質転換(stable transformation)により、相補株を作製した(非特許文献30)。シロイヌナズナ(AT5G19730)ペクチンエステラーゼ遺伝子のホモログを、ブラッシカ・ラパ(キャベツ)、トマト(Solanum lycopersicum)(トマト(tomato))およびイネ(Oryza sativa)(イネ(rice))を含むいくつかの作物種ならびにモデル種シロイヌナズナから同定した。
【0113】
【表1】
表2.シロイヌナズナペクチンエステラーゼcDNA配列(配列番号1)とブラッシカ・ラパ(Br81413;配列番号3)、トマト(Slg24530;配列番号5)およびイネ(Os01g53990_1およびOs01g53990_2;それぞれ配列番号7および9)におけるホモログのcDNA配列との間の核酸配列の同一性のパーセンテージ(第1列);ならびに、シロイヌナズナペクチンエステラーゼタンパク質配列(配列番号2)とブラッシカ・ラパ(Br81413;配列番号4)、トマト(Slg24530;配列番号6)およびイネ(Os01g53990_1およびOs01g53990_2;それぞれ配列番号8および10)におけるホモログのタンパク質配列との間のアミノ酸配列の同一性のパーセンテージ(第2列)。
【0114】
【表2】
乾燥アッセイ。野生型、TDNAノックアウトおよび相補株を、2:1:1混合のMetro−Mix852無土壌培地、細砂およびバーミキュライトを含有する50セル実生トレー中に反復ブロックデザイン(replicated blocked design)で播種した。植えたトレーを4℃で3日間、休眠状態を破るために置き、次に発芽および定着のため生育箱(16h 22/22℃、50%rH)に移した。相補株が十分に広がった子葉を有し、形質転換株のみが選択されたことを確かめたら、それらにグルホシネート調合物(20mg グルホシネート、20μL Silwet界面活性剤、200mL 水)を噴霧した。この処置後、それぞれのセルの実生が一本ずつとなるよう間引いた。植物が4〜6枚の本葉の段階に達したら、より高度の蒸気圧欠乏条件に順化させ、均等な乾燥ストレス(28/26℃、25%rH)を促進し、乾燥処置前に除去するため、著しく小さい植物を同定した。植生トレーを水に浸し、次に排水し、すべてのセルをポットの容量とした。いずれかのトレーで野生型植物の半分が永久しおれ点にあるように見えたら(1.5〜2週の乾燥処置)、トレー全体に水を与えた。数日間にわたり植物が回復することを可能にし、生存を記録したが、事前に同定した異常に小さい植物は、さらなる分析から除外した。
【0115】
統計分析。この乾燥処置中に異なった生存確率の統計的有意性を、統計ソフトウェアプログラムであるR(http://www.r−project.org/)における等しいまたは所定の比の検定を適用することにより評価した。関数prop.testを、変異体と野生型との間(片側)、あるいは、相補的導入遺伝子を含有する挿入変異体株と含有しない挿入変異体株との間(両側)の生存植物の比が等しいという帰無仮説をテストするために使用した。
【0116】
結果
図2は、乾燥感受性表現型(野生型)に対する耐乾燥性表現型(At5g19730 KO)を示す。図3は、シロイヌナズナ属At5g19730挿入変異体(ペクチンエステラーゼノックアウト)の乾燥生存率を示す。シロイヌナズナ属At5g19730挿入変異体は、野生型植物またはブラッシカ・ラパ(「Br81413導入遺伝子」)、トマト(「Slg24530導入遺伝子」)、もしくはイネ(「Os01g53990_1導入遺伝子」および「Os01g53990_2導入遺伝子」)由来ホモログで補完したAt5g19730挿入変異体よりも有意に高い乾燥生存率を示した(p<0.05)。この図は、この遺伝子における挿入変異が耐乾燥性表現型を提供することだけでなく、進化的に区別される単子葉植物(イネ)および双子葉植物種(シロイヌナズナ、ブラッシカ・ラパ、トマト)に由来するこの遺伝子のホモログが、通常の乾燥感受性表現型を回復するよう作用することを示す。灰色のバーは、黒色のバーよりも有意に低い数値を有する(p<0.05)。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]