(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268118
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ハイブリッド自動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/10 20160101AFI20180115BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20180115BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20180115BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20180115BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20180115BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20180115BHJP
B60L 3/00 20060101ALI20180115BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
B60W20/10
B60K6/445ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
F02D29/02 L
B60L11/14
B60L3/00 S
F02D45/00 364M
F02D45/00 330
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-75290(P2015-75290)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-193686(P2016-193686A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】石田 竜太
【審査官】
塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/025147(WO,A1)
【文献】
特開2014−101103(JP,A)
【文献】
特開2007−269256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 −6/547
B60W 10/00 −10/30
B60W 20/00 −20/50
B60L 3/00
B60L 11/14
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの動作条件であるエンジン回転数と、エンジントルクを設定し、
車両要求出力を、設定された動作条件でのエンジン出力と、モータ出力に分配し、
エンジン出力に基づいて燃料消費によるエネルギー消費量を算出し、
電池の充電状態と、電池温度と、モータ出力を入力パラメータとして、当該モータ出力を得るための電池電流を算出し、得られた電池電流から電池の充電状態変化量を算出し、得られた電池の充電状態変化量と予め求められている充電状態変化量と燃料消費の相関関係とからエネルギー消費量を算出し、
燃料の消費によるエネルギー消費量と電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算して得た評価指標を得るとともに、
エンジンの動作条件を変更して、複数の合算した評価指標を得、
エンジンとモータとから車両要求出力を出力する場合に、評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、
求められた動作条件をエンジンとモータの動作の目標値に設定する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンで消費する燃料消費量と、電池からの電力消費量の燃料換算値との合算値を評価指標とする、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項3】
燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの燃料消費によるエネルギー消費量と、電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算したものを評価指標とし、
エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、最適燃費条件でない動作点を含む複数の動作点を設定し、設定された複数の動作点での評価指標を算出し、
算出された評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、
求められた動作条件を各駆動発生装置の動作の目標値に設定する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項4】
燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの燃料消費によるエネルギー消費量と、電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算したものを評価指標とし、
エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、車両の動作状態に基づいてエンジン回転数を決定し、決定されたエンジン回転数においてエンジン出力トルクを変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定し、設定された複数の動作点での評価指標を算出し、
算出された評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、
求められた動作条件を各駆動発生装置の動作の目標値に設定する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項5】
燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの燃料消費によるエネルギー消費量と、電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算したものを評価指標とし、
エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、車両要求出力を最大エンジン出力に設定し、車両要求出力より小さなエンジン出力を複数設定し、設定された各エンジン出力についてその値を一定に保ちつつ、エンジントルクおよび対応するエンジン回転数を変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定し、設定された複数の動作点での評価指標を算出し、算出された評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、
求められた動作条件を各駆動発生装置の動作の目標値に設定する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項6】
燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの燃料消費によるエネルギー消費量と、電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算したものを評価指標とし、
エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、車両要求出力以下であってエンジン最大トルク以下の範囲で、エンジン回転数を複数設定し、設定された各エンジン回転数について、その値を一定に保ちつつエンジントルクを変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定し、設定された各動作点での評価指標を求め、評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、
求められた動作条件を各駆動発生装置の動作の目標値に設定する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のハイブリッド自動車の制御装置であって、
前記評価指標は、燃費であって、電池の消費電力を予め定められた充電に必要な燃料と消費電力との関係を用いて燃費に換算する、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のハイブリッド自動車の制御装置であって、
前記予め定められた充電に必要な燃料と消費電力との関係は、ハイブリッド自動車における所定距離の走行において求められたものである、
ハイブリッド自動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド自動車の制御装置、特に燃費の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車において、エンジンやモータの制御には各種の提案がある。特許文献1では、ハイブリッド車両において、エンジンと、モータの運転を制御して、燃費を改善することが示されている。すなわち、車両の走行に必要な走行要求出力をエンジンの出力のみで賄う場合の基本燃料消費量(Fassi[i])と、電池からの電力で出力を賄った(アシストした)場合の燃料消費量(Fbase)の差(Fassi[i]−Fbase:減少する燃料消費量)を、アシスト電力量(EPwassi[i])で除算して得た経済指標(Dassi[i])に応じて評価するものである。すなわち、経済指標Dassi[i]=(Fassi[i]−Fbase)/EPwassi[i]が最大となるアシスト量を求めている。
【0003】
なお、特許文献2には、車両の走行要求出力などから、目標エンジン回転数、エンジン出力トルク、およびモータ出力の目標値を設定することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−155820号公報
【特許文献2】特開2006−321458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における経済指標は、出力トルクを電池からの電力でアシストした場合における、エンジンにおいて低減される燃料消費量と、電池からの消費電力の比である。従って、エンジン出力のみで走行することを考慮することができない。このため、エンジンのみで走行する方が消費燃料が少なくなる場合においても、電力も使った駆動条件が選定されることになる。
【0006】
また、ハイブリッド自動車の場合、消費した電力は減速時の回生か、エンジンによる発電によって補われる。特許文献1では、このような発電によって補われる電力を考慮していないため、燃料消費量を十分に低減することができない場合も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッド自動車の制御装置は、
燃料と電池との出力分担割合および
エンジンとモータの
それぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、
エンジンの動作条件であるエンジン回転数と、エンジントルクを設定し、車両要求出力を、設定された動作条件でのエンジン出力と、モータ出力に分配し、エンジン出力に基づいて燃料消費によるエネルギー消費量を算出し、電池の充電状態と、電池温度と、モータ出力を入力パラメータとして、当該モータ出力を得るための電池電流を算出し、得られた電池電流から電池の充電状態変化量を算出し、得られた電池の充電状態変化量と予め求められている充電状態変化量と燃料消費の相関関係とからエネルギー消費量を算出し、燃料の消費によるエネルギー消費量と電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標
に変換し、これらを合算して得た評価指標を得
るとともに、
エンジンの動作条件を変更して、複数の合算した評価指標を得、エンジンとモータとから車両要求出力を出力する場合
に、評価指標を最適化する
エンジンとモータの動作条件を求め、求められた動作条件を
エンジンとモータの動作の目標値に設定する。
【0008】
また、前記複数のエネルギー源は、燃料と電池であり、前記複数の駆動力発生装置は、エンジンとモータであり、エンジンで消費する燃料消費量と、電池からの電力消費量の燃料換算値との合算値を評価指標とすることが好適である。
【0009】
また、
本発明に係るハイブリッド自動車の制御装置は、燃料と電池との出力分担割合およびエンジンとモータのそれぞれの動作条件を設定するハイブリッド自動車の制御装置であって、エンジンの燃料消費によるエネルギー消費量と、電池からの電力消費によるエネルギー消費量を、共通の指標に変換し、これらを合算したものを評価指標とし、エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、最適燃費条件でない動作点を含む複数の動作点を設定し、設定された複数の動作点での評価指標を算出し、算出された評価指標を最適化するエンジンとモータの動作条件を求め、求められた動作条件を各駆動発生装置の動作の目標値に設定する。
【0010】
また、
エンジンとモータから車両要求出力を出力する場合に、車両の動作状態に基づいてエンジン回転数を決定し、決定されたエンジン回転数においてエンジン出力トルクを変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定すること、
車両要求出力を最大エンジン出力に設定し、車両要求出力より小さなエンジン出力を複数設定し、設定された各エンジン出力についてその値を一定に保ちつつ、エンジントルクおよび対応するエンジン回転数を変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定すること、車両要求出力以下であってエンジン最大トルク以下の範囲で、エンジン回転数を複数設定し、設定された各エンジン回転数について、その値を一定に保ちつつエンジントルクを変更することでエンジンの動作条件を最適燃費運転条件から変更して、最適燃費条件および最適燃費条件ではない動作点の両方を含む複数の動作点を設定することが好適である。
【0011】
また、前記評価指標は、燃費であって、電池の消費電力を予め定められた充電に必要な燃料と消費電力との関係を用いて燃費に換算することが好適である。
【0012】
また、前記予め定められた充電に必要な燃料と消費電力との関係は、ハイブリッド自動車における所定距離の走行において求められたものであることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
異なるエネルギー源を共通の指標に変換して評価するため、複数のエネルギー源からの出力の分担、エンジンの動作点も適切なものとして、トータルとして燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】2モータタイプのハイブリッド自動車(HV車)の構成を示す図である。
【
図2】エンジンの動作点決定のための構成を示す図である。
【
図3】加速度、エンジン回転数、およびエンジン駆動力の時間変化を説明する図である。
【
図4】エンジンの動作点の探索のための構成を示す図である。
【
図6】エンジンの動作点と、燃料消費の関係を示す図である。
【
図7】kと、エンジン出力Pe、電池出力Pbatの関係を示す図である。
【
図8】ΔSOCと燃料消費量の関係を示す図である。
【
図10】他の実施形態における探索範囲を示す図である。
【
図11】さらに他の実施形態における探索範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、2モータタイプのハイブリッド自動車(HV車)の構成を示す。HV車には、エンジン100、発電機MG1およびモータMG2、電池(バッテリ)500が搭載される。発電機MG1およびモータMG2は、それぞれ駆動力出力および発電が可能のモータジェネレータであり、これをともにモータとも呼ぶ。エンジン100、発電機MG1、モータMG2およびタイヤ(駆動輪)400は、動力分配機構700を介して連結される。駆動力発生装置はエンジン100、モータMG2を含み、発電機MG1も駆動力発生装置になり得る。また、エネルギー源は、電池500と、内燃機関であるエンジン100に供給される燃料を含む。
【0017】
動力分配機構700は、公知の遊星歯車機構により構成される。サンギヤには発電機MG1が連結され、リングギヤにモータMG2が連結され、サンギヤとリングギヤに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持するキャリヤにエンジン100が連結される。また、リングギヤには出力軸を介してデファレンシャルが連結され、デファレンシャルから左右のタイヤ400に動力が伝達される。
【0018】
発電機MG1およびモータMG2は、それぞれインバータINV1,INV2に接続され、インバータINV1,INV2は電池500に電気的に接続されて電力送受が行われる。電池500とインバータINV1,INV2との間にコンバータが設けられていてもよい。発電機MG1は、エンジン100の動力により発電するとともに、発電した電力をモータMG2およびインバータINV1を介して電池500に供給する。モータMG2は、電池500からの電力と発電機MG1からの電力を用いて走行用駆動力を発生してタイヤ400を駆動する。発電機MG1は、エンジン100のモータリング(クランキング)のためにモータとして機能させることも可能である。また、モータMG2は、ハイブリッド自動車が惰性走行あるいは減速している場合に、エンジン100に対する燃料の供給および点火を停止させ、モータMG2を出力軸から伝達されるトルクで駆動させて発電機として機能させることもできる。エンジン100と発電機MG1は動力分配機構700を介して接続されているから、発電機MG1を発電機として機能させる場合、発電機MG1の回転数に応じてエンジン100の回転数を変化させることができる。エンジン100が動力を出力して走行している場合、リングギヤには走行抵抗等の負のトルクが作用し、キャリヤにはエンジン100が出力した正のトルクが作用する。このときサンギヤに負のトルクを作用させると、リングギヤにはエンジントルクを増幅した正のトルクが作用する。サンギヤに作用させる負のトルクは、サンギヤに連結されている発電機MG1を発電機として機能させることにより生じる。発電機MG1の回転数を低下させればエンジン100の回転数が低下し、発電機MG1の回転数を増大させればエンジン100の回転数も増大する。発電機MG1およびモータMG2は、ECU、特に車両制御ECU600によりインバータINV1,INV2を介して駆動制御される。ECUは、車両制御ECU600に加え、MG制御ECU602と、エンジンECU604と、電池監視ECU606を備える。勿論、これらのECUは必ずしも別個のものである必要はなく、少なくともいずれか複数もしくは全てが単一のECUで構成されていてもよい。
【0019】
演算手段としての車両制御ECU600は、CPUおよびメモリを備えるマイクロコンピュータで構成され、各種検出信号を入力して発電機MG1およびモータMG2を制御する。
【0020】
すなわち、車両制御ECU600は、アクセル開度センサからのアクセル信号(アクセル開度)、エンジン回転数センサからのエンジン回転数、モータMG2からのモータ回転数、電池監視ECU606からの電池500の充電率SOCを入力し、発電機/モータ指令トルクを演算してMG制御ECU602に出力する。MG制御ECU602は、供給された指令トルクで発電機MG1、モータMG2を駆動すべくそれぞれのインバータINV1,INV2に駆動信号(スイッチング信号)を出力する。インバータINV1,INV2の状態や発電機MG1、モータMG2の状態はMG制御ECU602で監視される。また、車両制御ECU600は、アクセル信号、モータ回転数、SOC、エンジン回転数に基づいてエンジン100の目標回転数を演算し、エンジンECU604に出力する。エンジンECU604は、供給された目標回転数でエンジン100を駆動すべく制御する。
【0021】
ここで、車両制御ECU600は、アクセル信号および車速に基づいて車両(HV車)の走行に必要な走行要求出力を導出する。また、HV車においては、システム損失や、電池の充電要求のなどの要求出力もあり、これらを合算して車両要求出力が得られる。そして、この車両要求出力について、エンジンの出力および電池500の出力のいずれで賄うかの分担割合、エンジンの動作条件を決定する。そして、この動作条件および分担割合の決定において、電池出力を燃料に換算し、最適化計算を行う。なお、電池出力の燃費換算においては、電池500の充電率(SOC)も考慮する。このSOCは、電流センサ等により検出された電池500の充放電電流の積算値などに基づいて電池監視ECU606で算出されるとよい。
【0022】
「エンジン動作条件および分担割合の制御」
車両制御ECU600は、エンジン100の動作条件、およびモータMG2、発電機MG1の運転を目標値を算出し、エンジンECU604、MG制御ECU602に供給する。
【0023】
図2には、車両制御ECU600の概略構成例が示してある。アクセル開度を示すアクセル信号、車速は、車両要求出力導出処理S11に供給され、ここで車両において必要なエネルギー量である、車両要求出力が算出される。算出された車両要求出力は、車速、アクセル信号とともに、目標エンジン回転数導出処理S12に供給される。この目標エンジン回転数導出処理S12は、目標エンジン回転数Ne_refを決定する。
【0024】
目標エンジン回転数導出処理S12において算出された目標エンジン回転数Ne_refは、エンジン動作点探索処理S13に供給される。このエンジン動作点探索処理S13には、車両要求出力、電池温度、SOCも供給されており、これらに基づいてエンジン動作点の最適点を探索する。そして、得られた目標エンジン出力Pe、目標回転数Ne_refが出力される。なお、エンジン出力Pe、エンジンの動作点(エンジントルクTe、エンジン回転数N)が決定されれば、モータMG2、発電機MG1の動作点、電池出力Pbatも決定される。
【0025】
「S12目標エンジン回転数の決定」
本実施形態では、特許文献2に記載されているエンジン制御を基本として、エンジン100の目標回転数Ne_refを決定する。
【0026】
すなわち、加速時において、アクセル開度等から定められる車両要求出力をエンジン100主体で出力するようにエンジン100の出力を定めると、加速開始直後ではエンジン100の出力を高めるためにエンジン回転数が急上昇し、加速フィーリングが損なわれてしまう。そこで、目標エンジン回転数導出処理S12では、加速開始からエンジン回転数が所定にしきい値Nepに至るまでは、目標回転数をその時のアクセル信号などから算出される最終的な目標エンジン回転数Netagに設定するが、エンジン回転数がしきい値Nepに達した場合には、エンジン回転数の上昇の傾きを車速、アクセル開度、エンジン回転数、SOCに応じた傾きに設定する。このため、エンジン回転数がNepからNetagに至るまでの傾きを比較的小さなものに設定して、運転者のフィーリングに合致したものにできる。
【0027】
なお、車両要求出力は、アクセルやブレーキの操作によって設定される走行要求出力に、車両のシステム損失、電池の充電要求値などを合算して導出される。
【0028】
図3は、本実施形態における加速度、エンジン回転数、エンジン駆動力の時間変化を示す。
図3(a)は、加速度の時間変化を示す。あるタイミング(図における「加速開始」)から運転者がアクセルペダルを踏み込んで加速度が徐々に増大し、その後、加速度が徐々に減少するプロファイルである。
【0029】
図3(b)は、エンジン回転数の時間変化を示す。
図3(b)には、本実施形態におけるエンジン回転数とともに、基準エンジン回転数Netag_bs並びに特許文献2に記載された算出方法によるエンジン回転数も比較のために併せて示す。
【0030】
加速していない場合、本実施形態でも目標エンジン回転数はNetag_bsであり、これを目標としてエンジン回転数も制御される。また、加速後であっても、エンジン回転数がしきい値Nepに達するまでは目標エンジン回転数はNetag_bsのままである。従って、運転者の要求駆動力に応じてエンジン回転数が比較的急峻に増大していく。
【0031】
一方、エンジン回転数がしきい値Nepに達すると、Netag_bsに代えて、Netag=aaa*V+bbb(aaaは傾き、bbbは切片)により算出される目標エンジン回転数となるようにエンジン回転数が制御される。車速Vに比例し、かつ、その比例係数aaaは車速V、アクセル開度Accおよび電池500の充電率SOCに応じて設定されるため、走行状態に応じ、かつ車速Vに応じたエンジン回転数となる。このため、良好な加速フィーリングが得られる。
【0032】
図3(c)は、エンジン駆動力の時間変化を示す。
図3(b)と同様に、制御ロジックが切り替わるポイントAにおいて駆動力抜けは生じておらず、かつ、従来技術のように変速時の駆動力抜け(図中Bで示すポイント)も生じていない。
【0033】
なお、このエンジン回転数の制御については、特願2014−076984に詳しく記載している。
【0034】
「S13目標エンジン動作点の探索」
図4には、S13目標エンジン動作点の探索の構成について示してある。目標エンジン回転数Ne_refは、エンジントルク設定処理S21に供給される。エンジントルク設定処理S21は、
図5に示すように、エンジン回転数を目標エンジン回転数Ne_refに固定した状態で、所定の範囲でエンジントルクTeを変更する。この例では、k=1〜n(例えばn=10)のn個のエンジントルクTe(k)を設定する。なお、エンジントルクTe(k)は、最大トルク以下であって、燃費最適点まで、またはこれを下回る所定の範囲とする。これは、電池出力Pbatを考慮して燃料消費量が最小となる動作条件を探索する範囲であり、基本的に燃費最適点の周辺である。
【0035】
S21で得られたエンジントルクTe(k)は、燃料消費マップS22に供給される。この燃料消費マップは、例えば
図6に示すようのものであり、エンジン100の特性に応じて予め定められたものであり、エンジン回転数と、エンジントルクに応じて燃料消費量が決定できる。図では、同一燃料消費点を等高線で表してあり、真ん中の島が燃料消費が最小のエリアである。S21では、このようなマップを利用して、入力される目標エンジン回転数Ne_ref、エンジントルクTe(k)のそれぞれに対応した燃料消費量FCeng(k)が出力される。この燃料消費量は例えば1秒間での消費量とする。
【0036】
なお、エンジン100での燃料消費量FCengは、エンジントルク、エンジン回転数の他、EGR率、エンジン水温なども考慮することが好適であり、テーブルではなく、エンジントルク、エンジン回転数、EGR率、エンジン水温などの関数として求めてもよい。
【0037】
S21からのエンジントルクTe(k)は、車両要求出力の分配処理(S23)にも供給される。S23においては、Te(k)に対し、目標回転数Ne_refを乗算し、エンジン出力Pe(k)を算出する(Pe(k)=Te(k)*Ne_ref)。このS23には、車両の出力要求Phvも供給されており、出力要求からエンジン出力を減算して電池出力Pbat(k)を算出し(Pbat(k)=Phv−Pe(k))、これを出力する。
図7には、車両要求出力Phvの分配の状態を示してある。このように、車両要求出力Phv、各kに対するPe(k)が決定されており、減算により各kに対するPbat(k)が決定される。
【0038】
電池のSOCおよび電池温度は、OCVマップS24および抵抗マップS25に供給される。なお、電池温度は、電池に取り付けられている温度計によって計測される。S24では、SOCおよび温度の入力に対し開放電圧OCVを出力するマップが記憶されており、入力されてくるその時のSOCおよび温度に応じて、対応する開放電圧OCVが出力される。また、S25には、SOCおよび温度の入力に対し、電池500の内部抵抗を出力するマップが記憶されており、入力されてくるその時のSOCおよび温度に応じて、対応する電池500の内部抵抗(R)が出力される。
【0039】
S23からのPbat(k)、S24からのOCV、S25からのRは、電池電流の導出処理S26に供給される。S26では、電池500からの出力がPbat(k)であるとして、電池電流Ib(k)を算出する(Pbat(k)=OCV*Ib(k)−R*Ib(k)
2)。すなわち、電池電流によって消費される電力は、OCV*Ib(k)であるが、電池内部で消費される電力がR*Ib(k)
2であり、これを減算したものが電池出力Pbat(k)であるとして、この関係から電池電流Ib(k)を算出する。
【0040】
S26からの電池電流Ib(k)は、ΔSOCの算出処理(S27)に供給される。電池電流Ib(k)が所定時間(例えばΔt=1秒)流れた場合に電荷量と、電池容量とからSOCの変化量ΔSOCを算出する(ΔSOC=Ib(k)・Δt/電池容量)。
【0041】
S27において算出されたΔSOCは、燃料換算処理(S28)に供給される。S28は、
図8に示すようなΔSOCと、燃料消費量の関係を示すマップを有している。そこで、入力されてくるΔSOCを対応する燃料消費量FCbat(k)に換算して出力する。
図8のようなマップは、HV車によって、所定の距離を走行し、その際の運転条件を変更して、所定範囲のΔSOCに対する燃料消費量を調べて作成したものである。すなわち、電力を燃料消費量に換算するには、充電時に消費する燃料消費に基づいて行なうため、その時点で消費する燃料だけでなく、広範囲の走行への影響も加味した設定を行うことが好ましい。そこで、電力の燃料換算には、実際の車両におけるΔSOCと燃料の関係を用いる。特に、この関係はモード走行や実走行など長時間の走行データから導出し学習することが好適である。これによって、燃料換算値の精度を向上することができる。
【0042】
S22からのエンジン燃料消費量FCeng(k)とS28からの電池の換算燃料消費量FCbat(k)は、加算処理S29に供給され、ここで両者が加算され、合算燃料消費量FC(k)が算出される(FC(k)=FCeng(k)+FCbat(k))。
【0043】
S29からのFC(k)は、出力最適化処理(S30)に供給され、k=1〜nの中で最小のFC(k)を与えるkが選択される。
【0044】
図9には、各kに対する、エンジン燃料消費量FCeng、換算燃料消費量の関係が示されている。このように、kに応じて合算燃料消費量FC(k)が異なる。この例では、k=9が選択される。また、この例は、k=1を
図3における最適燃費線上の点として、エンジントルクを最大トルク線上の点k=10とした場合の燃料消費量を示している。
【0045】
このようにして、S30において、FC(k)を最小とする、kが決定され、これに対応するエンジントルクTe(k),電池出力Pbat(k)、エンジン回転数Ne_refが目標値として出力される。
【0046】
そこで、
図1における車両制御ECU600がこれら目標値に従って、エンジン100、発電機MG1、モータMG2を制御する。これによって、エンジン回転数を加速に応じた回転数としながら、燃費を改善することが可能になる。
【0047】
「他の実施形態」
上記実施形態においては、エンジン回転数を決定し、その後でエンジントルクについて所定の範囲で探索した。しかし、一般的な走行状態であれば、エンジン回転数も変更した方が燃費改善につながる。
【0048】
そこで、本実施形態では、車両制御ECU600は、アクセルやブレーキの操作量から算出した走行要求出力に、システムの各構成要素の損失と、電池の充電要求値などを合算して車両要求出力を算出し、算出した車両要求出力をエンジン出力Peと電池出力Pbatで分担する分担率を種々設定する。そして、エンジン出力を一定にしつつ、その中でエンジン回転数を変更して、エンジンの動作条件を変更し、燃費が最適な点を探索する。
【0049】
図10には、探索の状態を示してある。このように、本実施形態では、エンジン回転数を固定していない。車両要求出力Phvを最大エンジン出力に設定し、車両要求出力Phvより少ないエンジン出力Pe(i)を複数設定する。この例では、i=1〜qのq個のエンジン出力Pe(i)を設定する。そして、エンジン出力Pe(i)一定に保ちつつ、エンジントルクTe(k)および対応するエンジン回転数N(k)をk=1〜nの範囲で変更する。なお、n,qは、任意の個数でよい。エンジントルクTe(k)は最大トルクを超えることはなく、kは燃費最適点の近傍で設定するとよい。
【0050】
そして、Pe(i)の1つについて、Te(k)、上述と同様にしてFC(k)にして求めることを、Pe(i)すべてについて行う。すなわち、Pe(i)とTe(k)およびN(k)のすべての組み合わせについてのFC(i,k)を求め、その中で最小となるi,kを求める。
【0051】
これによって、最適なPe(i)、Te(k)、N(k)が決定できる。
【0052】
本実施形態においては、エンジン出力において、エンジン回転数を変化させるために必要なエネルギ(例えばエンジンの慣性で消費する分)で消費する燃料も考慮に含めることもできる。
【0053】
燃料消費量が最小となるエンジン動作点を導出するには、エンジン車両要求出力と燃費最適線の交点で求めることも可能である。
【0054】
「さらに他の実施形態」
さらに、上記他の実施形態では、燃費最適の近傍と最大トルクまたは要求出力の小さい方の間で、エンジントルクおよびエンジン回転数を変化させて、エンジン出力を一定のライン上で探索を行った。しかし、エンジン回転数を一定に保ちながら、エンジントルクを変更して探索を行ってもよい。すなわち、
図11に示すように、燃費最適の近傍と最大トルクまたは要求出力の小さい方の間で、エンジン回転数を一定に維持した状態でエンジントルクを変更して探索を行う。そして、エンジン回転数を変更して同様の探索を行うことを繰り返す。そして、このようにして、燃料消費量の合算値が最小となる点を探索することで、最適動作点を導出することができる。
【0055】
「変形例」
HV車の中には、外部電力(商用の100V、200V交流電源)から電池500に充電できるプラグインハイブリッド(PHV)車がある。この場合には、電池500の充電に使用される電力はエンジンの出力に基づく発電によるものではない場合がある。
【0056】
この場合には、共通の評価指標として電気代(外部からの給電)と燃料代とを合算した走行コストを用いるとよい。そして、得られた走行コストを最小とする燃料と電池の分担率と、エンジン動作点とを導出し、導出されたエンジン動作点をエンジン駆動の目標値とすればよい。また、導出された分担率に基づき電池出力Pbatの目標値が決定されるため、この目標値に基づき、モータMG2などの駆動を制御する。
【0057】
このようにして、PHVの場合にも、電力と、燃料を共通の評価指標を用いて、評価して、分担率、エンジン動作点を決定することができる。
【符号の説明】
【0058】
100 エンジン、400 タイヤ、500 電池、700 動力分配機構、MG1 発電機、MG2 モータ、600 車両制御ECU、602 MG制御ECU、604 エンジンECU、606 電池監視ECU、INV1,INV2 インバータ。