(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268140
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】電動モータ駆動回路
(51)【国際特許分類】
H02P 29/02 20160101AFI20180115BHJP
H02H 11/00 20060101ALI20180115BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
H02P29/02
H02H11/00 130
H02J1/00 309W
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-211363(P2015-211363)
(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公開番号】特開2017-85761(P2017-85761A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】山根 大輝
(72)【発明者】
【氏名】多田 剛
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 真充
【審査官】
▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−165745(JP,A)
【文献】
特開2012−065405(JP,A)
【文献】
特開2011−103707(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0207453(US,A1)
【文献】
特開2002−095159(JP,A)
【文献】
特開平07−184318(JP,A)
【文献】
特開2003−037933(JP,A)
【文献】
特開2014−162423(JP,A)
【文献】
特開2015−061338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/02
H02H 11/00
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還流ダイオードを有する複数のスイッチング素子を備え、電動モータを駆動するブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路をバッテリの負極に接続する負極接続端子と、
前記ブリッジ回路と前記負極接続端子との間に設けられた逆接保護用スイッチング素子と、
前記ブリッジ回路側にアノードが接続され、前記負極接続端子側にカソードが接続され、前記逆接保護用スイッチング素子と並列接続された逆接保護用ダイオードと、
前記逆接保護用ダイオードの両端の電位差を検出する電位差検出部と、
前記複数のスイッチング素子および前記逆接保護用スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、
前記制御部が、前記ブリッジ回路のすべての前記スイッチング素子をオフ制御し、かつ、前記逆接保護用スイッチング素子をオン制御している時に、前記電位差検出部が何らかの電位差を検出した場合、前記逆接保護用スイッチング素子が故障であると判定する故障判定部と、
を備える電動モータ駆動回路。
【請求項2】
還流ダイオードを有する複数のスイッチング素子を備え、電動モータを駆動するブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路をバッテリの負極に接続する負極接続端子と、
前記ブリッジ回路と前記負極接続端子との間に設けられた逆接保護用スイッチング素子と、
前記ブリッジ回路側にアノードが接続され、前記負極接続端子側にカソードが接続され、前記逆接保護用スイッチング素子と並列接続された逆接保護用ダイオードと、
前記逆接保護用ダイオードの両端の電位差を検出する電位差検出部と、
前記複数のスイッチング素子および前記逆接保護用スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、
前記制御部が、前記ブリッジ回路の前記複数のスイッチング素子をオンオフ制御して前記電動モータを駆動している時であって、前記逆接保護用スイッチング素子をオン制御している時に、前記電位差検出部が前記逆接保護用ダイオードの電圧降下より大きい電位差を検出した場合、前記逆接保護用スイッチング素子が故障であると判定する故障判定部と、
を備える電動モータ駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ駆動回路に関し、特に、直流電源の電極を逆に接続されても負荷を保護するための負荷保護回路を備える電動モータ駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載されるバッテリなどの直流電源の電極を逆に接続されても、負荷(たとえば、車載用電子機器等)を保護するための保護回路は知られている。
【0003】
例えば、特許文献1は、バッテリの電極が逆接続された状態から電子機器を保護し、安価かつ小型に実現することを課題とした保護回路を開示する。この保護回路では、バッテリの負極が接続されるべき電子機器のグランド端子とこの電子機器のグランドラインとの間に、基板がグランドラインに接続されたn型MOS電界効果トランジスタが接続されている。また、この電子機器の電源端子とグランドラインとの間には抵抗が直列接続され、分圧された電圧がn型MOS電界効果トランジスタのゲートに印加される。これにより、バッテリが正しく接続された場合のみグランドラインとグランド端子とが電気的に接続され、逆に接続された場合は電気的に接続されないので、負荷回路は保護される。
【0004】
また、特許文献2は、バッテリを逆接続することによって生じるIC内の接合部が順方向バイアスされること、及び基層に少数キャリアが流れラッチアップ現象や熱の発生などを防止することを課題として逆接続されたバッテリに対する保護回路を開示する。この保護回路は、バッテリと、負荷と、逆接続されたバッテリに対して負荷を保護するためのデバイスとからなる。このデバイスは、バッテリがバッテリと負荷とに直列に接続されたMOSFETと順接続されたとき、MOSFETを導通状態にバイアスする第1手段と、バッテリが逆接続されたときに、MOSFETのゲートをソースと短絡することでMOSFETを非導通状態にバイアスする第2手段とを有する。これにより、負荷回路は保護される。
【0005】
また、特許文献3は、直流電源を逆極性で接続した場合に回路を保護するとともに、ノイズに強い構成を実現することを課題として電子機器の保護回路を開示する。この保護回路では、電源の逆接保護用にPチャンネルFETを設け、そのドレインを正極側の電源供給端子に接続するとともに、そのソースを電子機器の電源入力端子に接続し、FETのゲートを接地ラインに接続する。この保護回路では、電源の逆接続時においてPチャンネルFETをオフ状態とし、電子機器の回路と電源との間でグランドを共通化することで、逆接続した場合に電子機器の回路を保護する。
また、電動パワーステアリングなどを駆動する電動モータに対する電動モータ駆動回路においても、電動モータに電源を供給するバッテリを逆接続した場合に回路を保護するFETが設けられることも知られている。
【0006】
たとえば、特許文献4は、小型化の実現と信頼性の確保とを図ることを課題として電動パワーステアリング装置を開示する。この電動パワーステアリング装置は、直流電源からモータ駆動部への通電経路に、この通電経路を導通/遮断する電源リレーを設ける。この電源リレーは、2つのMOSFETを直列接続するバックトゥバックに配置し、双方向の電流を遮断可能とする。MOSFETの近傍にサーミスタを配置し、MOSFETの近傍の温度を検出する。直流電源の電極を逆接続するとMOSFETの温度が上昇するので、その温度が予め設定した基準温度以上であるとき、直流電源が逆接続されたと判断する。
【0007】
また、バッテリの電極が逆極性で接続された時、電子機器を保護する保護回路の故障を検出するために、以下の技術が提案されている。
【0008】
たとえば、特許文献5は、逆接保護手段が故障しているか否かを診断することを課題としてモータ制御装置を開示する。このモータ制御装置は、バッテリとモータとの間を接続又は遮断するスイッチング素子及びバッテリが逆接続されたときに電流の逆流を防止する逆流防止素子を有する逆接保護手段と、逆接保護手段の故障を診断する故障診断手段を有している。故障診断手段は、逆接保護手段を接続する前の遮断電位差と、逆接保護手段を接続したときの接続電位差との差分を算出し、予め設定された閾値と比較して、差分が閾値以上のときは、逆接保護手段は故障していないと判断し、差分が閾値よりも小さいときは、逆接保護手段は故障していると判断する。
【0009】
また、特許文献6は、逆接保護回路の故障診断精度を向上させることを課題として電動アクチュエータの駆動制御装置を開示する。この駆動制御装置は、電圧V1を供給する電源ラインとグラウンドとを接続する電路に、リレー回路、逆接保護回路、ブレーキアクチュエータを駆動する駆動回路を配設する。これらの回路は、寄生ダイオードをそれぞれ有するFETからなり、逆接保護回路の寄生ダイオードを他の回路のものと逆向きにする。また、逆接保護回路と駆動回路との間に位置する電路に、電圧V1よりも低い電圧V2を供給する。そして、駆動制御装置は、リレー回路、逆接保護回路及び駆動回路を適宜制御し、逆接保護回路のソース側の電圧に基づいて、逆接保護回路の故障を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−095159号公報
【特許文献2】特開平07−184318号公報
【特許文献3】特開2003−037933号公報
【特許文献4】特開2014−162423号公報
【特許文献5】特開2012−065405号公報
【特許文献6】特開2015−061338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献5に開示された逆接保護の故障検出は、電流がダイオードを流れた時に生ずる電圧降下(電位差)の有無に基づいて検出するものであり、電圧降下で生ずる電位差は小さいため電位差を検出するために高精度の電圧計が必要となる。そもそも、この故障検出では、電流が流れないと故障を検出することができない。また、特許文献6に開示された故障検出は、電圧V2を発生させる電源回路が必要となり、コスト増となる。
【0012】
パワーステアリング制御装置において走行中にタイヤ等に加わった外力により、またパワースライドドア制御装置やパワーテールゲート制御装置において開閉中にドア等に加わった外力により、電動モータが回転することがある。このような電動モータを駆動する駆動回路においては、電動モータが外力により回転すると逆起電力が発生する。このような電動モータを駆動する制御装置においてもバッテリを逆接続した場合に回路を保護するFETが設けられる(特許文献4)。
【0013】
発明者らは、パワーステアリングなどを駆動するための駆動回路であって逆接続保護用のFETを備える駆動回路において、かかる逆接続保護用FETがオフ故障(スイッチがオンしないという故障であり、常に断線状態となる故障)した場合について鋭意研究を行った結果、以下のことを発見した。すなわち、発明者らは、逆接続保護用FETがオフ故障し、かつ駆動対象物に外力が加わり電動モータの駆動回路に逆起電力が発生した場合、逆接続保護用FETの両端に高電圧が検出されることを見出した。
【0014】
そこで、本発明では、外力が加わり易い駆動対象物を駆動する電動モータの駆動回路において、故障検出のための付加的な電源や高精度な電圧計を必要とせずに、電動モータの駆動時/非駆動時にかかわらず逆接保護回路の故障検出を行う電動モータ駆動回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、還流ダイオードを有する複数のスイッチング素子を備え、電動モータを駆動するブリッジ回路と、そのブリッジ回路をバッテリの負極に接続する負極接続端子と、ブリッジ回路とその負極接続端子との間に設けられた逆接保護用スイッチング素子と、ブリッジ回路側にアノードが接続され、負極接続端子側にカソードが接続され、逆接保護用スイッチング素子と並列接続された逆接保護用ダイオードと、その逆接保護用ダイオードの両端の電位差を検出する電位差検出部と、複数のスイッチング素子および逆接保護用スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、その制御部が、ブリッジ回路のすべてのスイッチング素子をオフ制御し、かつ、逆接保護用スイッチング素子をオン制御している時に、電位差検出部が何らかの電位差を検出した場合、逆接保護用スイッチング素子が故障であると判定する故障判定部と、を備える電動モータ駆動回路が提供される。
これによれば、ブリッジ回路が駆動されておらず電流が流れていない時であっても、電動モータの逆起電力に基づいて逆接保護用スイッチング素子の故障検出を行う電動モータ駆動回路を提供できる。
【0016】
上記課題を解決するために、還流ダイオードを有する複数のスイッチング素子を備え、電動モータを駆動するブリッジ回路と、そのブリッジ回路をバッテリの負極に接続する負極接続端子と、ブリッジ回路と負極接続端子との間に設けられた逆接保護用スイッチング素子と、ブリッジ回路側にアノードが接続され、負極接続端子側にカソードが接続され、逆接保護用スイッチング素子と並列接続された逆接保護用ダイオードと、逆接保護用ダイオードの両端の電位差を検出する電位差検出部と、複数のスイッチング素子および逆接保護用スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、その制御部が、ブリッジ回路の複数のスイッチング素子をオンオフ制御して電動モータを駆動している時であって、逆接保護用スイッチング素子をオン制御している時に、電位差検出部が逆接保護用ダイオードの電圧降下より大きい電位差を検出した場合、逆接保護用スイッチング素子が故障であると判定する故障判定部と、を備える電動モータ駆動回路が提供される。
これによれば、ブリッジ回路が駆動されており、逆接保護用ダイオードの電圧降下より大きい電位差を検出した場合にオフ故障と判断することで、高精度な電圧計を必要とせず、電動モータの逆起電力に基づいて逆接保護用スイッチング素子の故障検出を行う電動モータ駆動回路を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、外力が加わり易い駆動対象物を駆動する電動モータの駆動回路において、故障検出のための付加的な電源や高精度な電圧計を必要とせずに、電動モータの駆動時/非駆動時にかかわらず逆接保護回路の故障検出を行う電動モータ駆動回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路を示す回路図。
【
図2】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路において、直流電源が正接続されてブリッジ回路を駆動している場合であって、逆接保護用スイッチング素子に故障が無い場合の説明回路図。
【
図3】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動している場合であって、逆接保護用スイッチング素子に故障が無い場合に逆起電力が生じた場合の説明回路図。
【
図4】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動していない場合であって、逆接保護用スイッチング素子に故障が無い場合に逆起電力が生じた場合の説明回路図。
【
図5】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動している場合であって、逆接保護用スイッチング素子にオフ故障が起きている場合に逆起電力が生じた場合の説明回路図。
【
図6】本発明に係る第一実施例の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動していない場合であって、逆接保護用スイッチング素子にオフ故障が起きている場合に逆起電力が生じた場合の説明回路図。
【
図7】従来技術の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動していない場合であって、逆接保護用スイッチング素子にオフ故障が起きている場合の説明回路図。
【
図8】従来技術の電動モータ駆動回路において、ブリッジ回路を駆動している場合であって、逆接保護用スイッチング素子にオフ故障が起きている場合の説明回路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施例について説明する。
<第一実施例>
図1を参照し、本実施例における電動モータ駆動回路100を説明する。電動モータ駆動回路100は、電動モータMを駆動するブリッジ回路10と、電動モータMの3相をそれぞれオンオフするモータスイッチング素子MFと、ブリッジ回路10をバッテリBATの負極/正極に接続する負極接続端子60/正極接続端子70と、と備える。電動モータMは、車両のステアリングに操舵補助力を付与するパワーステアリング装置、車両の側部や後部のドアを自動的に開閉するパワースライドドアやパワーテールゲートの動力源となる3相(U相、V相、W相)のブラシレスモータである。電動モータMは、ステアリングやドアを正逆両方向に駆動するため、その回転方向を正転と逆転とに切り替えられ、またPWM制御により回転速度を制御される。なお、本明細書における電動モータMは3相であるが、2相の電動モータであってもよい。
【0020】
モータスイッチング素子MFは、電界効果トランジスタ(FET)であり、電動モータMの各相をそれぞれオンオフする場合に使用される。負極接続端子60/正極接続端子70は、電動モータ駆動回路100と直流電源のバッテリBATとを電気的に接続/遮断するための端子である。バッテリBATを着脱する際には、電動モータ駆動回路100は、この端子により電気的に接続/遮断される。
【0021】
ブリッジ回路10は、還流ダイオード12を有する6つのスイッチSW1〜SW6から構成される。ブリッジ回路10は、正極接続端子70を経由してバッテリBATの正極側に接続され、負極接続端子60を経由してバッテリBATの負極側に接続(接地)される。ブリッジ回路10の各相回路は、正極接続端子70側に設けられる高電位側スイッチSW1〜SW3と、負極接続端子60側に設けられる低電位側スイッチSW4〜SW6と、を直列に有する。本実施例では、スイッチSW1〜SW6のスイッチング素子11は、FETが用いられる。各還流ダイオード12は、ソース側にアノードを、ドレイン側にカソードを接続され、ソースからドレインに順方向となるように接続されている。
【0022】
高電位側スイッチSW1〜SW3は、ドレインが正極接続端子70に接続されている。また、高電位側スイッチSW1〜SW3のソースは、低電位側スイッチSW4〜SW6のドレインに接続されている。低電位側スイッチSW4〜SW6のソースは、負極接続端子60側に接続されている。スイッチSW1〜SW6のスイッチング素子11は、後述する制御部50からのPWM信号がゲートに入力され、ソース−ドレイン間がオン/オフされる。
【0023】
電動モータ駆動回路100は、さらに、逆接保護用スイッチング素子20と、逆接保護用スイッチング素子20と並列接続された逆接保護用ダイオード30と、逆接保護用ダイオード30の両端の電位差を検出する電位差検出部40と、スイッチング素子11などのオンオフを制御する制御部50と、逆接保護用スイッチング素子20の故障を判定する故障判定部80と、を備える。本実施例では、逆接保護用スイッチング素子20は、FETが用いられる。逆接保護用スイッチング素子20は、ブリッジ回路10と負極接続端子60との間に設けられ、ソースはブリッジ回路10側に、ドレインは負極接続端子60側に接続されている。逆接保護用ダイオード30は、ブリッジ回路10側にアノードが、負極接続端子60側にカソードが接続され、逆接保護用スイッチング素子20と並列に接続されている。
【0024】
バッテリBATが正接続されている場合、逆接保護用スイッチング素子20のソースはバッテリBATの正極側に、ドレインは負極側に接続され、ゲートへは常に逆接保護用スイッチング素子20がオンできる電圧が掛けられるように構成されている。一方、バッテリBATが逆接続された場合、逆接保護用スイッチング素子20のソースはバッテリBATの負極側に、ドレインは正極側に接続されるが、ゲートとソースを短絡させるなど、ゲートへは常に逆接保護用スイッチング素子20がオフとなるように構成されている。また、逆接保護用スイッチング素子20と並列接続された逆接保護用ダイオード30は、アノードがブリッジ回路10側に、カソードが負極接続端子60側に接続されているので、バッテリBATが逆接続された場合は逆バイアスとなるので電流が流れない。このような構成により、バッテリBATが逆接続されても、電動モータ駆動回路100に含まれる負荷が保護される。
【0025】
電位差検出部40は、逆接保護用ダイオード30のアノード側の電圧をV2、カソード側の電圧をV1として検出し、その両端の電位差を検出する。電圧V1は、バッテリBATが正接続された場合は、グランドレベルの電圧となる。本実施例では、電位差検出部40は、ADコンバータを内蔵したPICマイコン(Peripheral Interface Controller)であるが、同等の機能を有して電位差を検出できるものであればよい。
【0026】
制御部50は、ブリッジ回路10の6つのスイッチング素子11(複数のスイッチング素子11)および逆接保護用スイッチング素子20のオンオフを制御する。制御部50は、ブリッジ回路10の6つのスイッチング素子11を所定の組み合わせで通電状態または遮断状態に切り替える(オンオフする)ことにより、電動モータMの回転方向(正転と逆転)と回転速度を制御する。たとえば、
図2に示すように、SW1をオン、SW2をオフ、SW3をオフ、SW4をオフ、SW5をオン、SW6をオンとすると、電動モータMは正転する。逆に、SW1をオフ、SW2をオン、SW3をオン、SW4をオン、SW5をオフ、SW6をオフとすると、電動モータMは逆転する。
【0027】
制御部50は、バッテリBATが正接続されている場合逆接保護用スイッチング素子20のゲートが常にオンとなり、バッテリBATが逆接続された場合ゲートがオフとなるように制御する。また、制御部50は、6つのスイッチング素子11をPWM制御(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)して、パワーステアリングの操舵補助力やパワースライドドアやパワーテールゲートなどの駆動速度を目標と一致させるように制御を行う。制御部50は、CPU(中央演算処理装置)、ドライバICやメモリ等を備えたマイクロコンピュータが用いられる。
【0028】
故障判定部80は、ブリッジ回路10の6つのスイッチング素子11のスイッチング状態、逆接保護用スイッチング素子20のスイッチング状態、および電位差検出部40が検出する電位差に基づいて、逆接保護用スイッチング素子20の故障の有無を判定する。まず、
図7および
図8を参照して、従来技術の電動モータ駆動回路において、逆接保護用スイッチング素子にオフ故障が起きている場合を説明する。なお、オフ故障とは、スイッチがオンしないという故障であり、常に断線状態となる故障を意味する。
【0029】
図7は、ブリッジ回路を駆動していない場合を示す。ブリッジ回路を駆動していない場合は、ブリッジ回路のすべてのスイッチング素子は、オフ状態である。そうすると、ブリッジ回路を含めて本図が示す回路には電流が流れない。この場合において、逆接保護回路の逆接保護用ダイオードの両端の電位差を検出しようとしても、検出することはできない(V1、V2:検出不可)。
【0030】
図8は、ブリッジ回路を駆動している場合を示す。ブリッジ回路を駆動している場合は、本図が示す回路に電流が流れている。本図では、SW1をオン、SW2をオフ、SW3をオフ、SW4をオフ、SW5をオン、SW6をオンとなっている状態であり、一点鎖線で示すように電流が流れる。そうすると、その電流は、逆接保護回路にも流れようとする。逆接保護回路の逆接保護用スイッチング素子にはオフ故障が起きているので、その電流は、逆接保護用スイッチング素子には流れない。
【0031】
しかし、逆接保護回路の逆接保護用ダイオードには順方向にバイアスされるので、その電流は、逆接保護用ダイオードには流れる。その結果、逆接保護用ダイオードの両端の電圧V1およびV2は検出することができ、その電位差Vdは、Vd=V1−V2として検出することができる。しかし、この電位差Vdは、逆接保護用ダイオードの電圧降下分(Vf)の電圧であり、わずかな電圧降下なので、これを検出するためには高精度の電圧計が必要となる。
【0032】
図2〜
図6を参照して、故障判定部80が、逆接保護用スイッチング素子20のオフ故障の有無を判定する方法について説明する。
図2は、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きていない場合に、制御部50が、SW1をオン、SW2をオフ、SW3をオフ、SW4をオフ、SW5をオン、SW6をオン、逆接保護用スイッチング素子20をオンした状態を示す。なお、モータスイッチング素子MFは、本実施例では、すべてオン状態である。
【0033】
電動モータ駆動回路100においては、一点鎖線で示したように電流が流れる。すなわち、バッテリBATは正接続されているので、その電流は、正極接続端子70からブリッジ回路10、モータスイッチング素子MF、電動モータM、モータスイッチング素子MF、ブリッジ回路10、逆接保護用スイッチング素子20を経由して、負極接続端子60に至る。ブリッジ回路10の内部ではSW1、SW5、SW6がオンになっているので、電流は、SW1のスイッチング素子11、電動モータMのU相、電動モータMのV相およびW相、SW5およびSW6のスイッチング素子11を通る。この場合、電動モータMは正転している。電流は、逆接保護用スイッチング素子20を通るので、電位差検出部40が検出する逆接保護用ダイオード30の電位差Vdはほぼゼロに等しい(Vd=V1−V2≒0)。故障判定部80は、電位差検出部40が検出した逆接保護用ダイオード30の電位差Vdがほぼゼロに等しい場合(Vd=V1−V2≒0)、逆接保護用スイッチング素子20が導通しているものと判断してオフ故障していると判定しない。
【0034】
図3は、
図2と同様の状態を示す。すなわち、
図3は、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きていない場合に、制御部50が、SW1をオン、SW2をオフ、SW3をオフ、SW4をオフ、SW5をオン、SW6をオン、逆接保護用スイッチング素子20をオンした状態を示す。
図3は、この状態において、さらに、電動モータMに逆回転させる外力(点線の矢印)が加わった場合を示す。外力とは、たとえば、電動モータMがパワーテールゲートに用いられた場合、テールゲートの閉動作中にそれを阻止する力が加わったような場合である。また、外力とは、たとえば、電動モータMがパワーステアリングに用いられた場合、ステアリングを操舵中にタイヤが縁石に乗り上げたような場合である。
【0035】
この場合、電動モータMの各相には、Ve1+Ve2+Ve3=0の関係を有する起電力Ve1、Ve2、Ve3がそれぞれ発生する。そうすると、電動モータ駆動回路100においては、一点鎖線で示したように電流が流れる。すなわち、逆方向に起電力が生じたので、その起電力による電流は、負極接続端子60から逆接保護用スイッチング素子20、ブリッジ回路10、モータスイッチング素子MF、電動モータM、モータスイッチング素子MF、ブリッジ回路10を経由して、正極接続端子70に至る。
【0036】
この場合、電流は、逆接保護用ダイオード30には逆バイアスとなり逆接保護用スイッチング素子20を通るので、電位差検出部40が検出する逆接保護用ダイオード30の電位差Vdはほぼゼロに等しい(Vd=V1−V2≒0)。故障判定部80は、起電力が生じた場合も、電位差検出部40が検出した逆接保護用ダイオード30の電位差Vdがほぼゼロに等しい場合(Vd=V1−V2≒0)、逆接保護用スイッチング素子20が導通しているものと判断してオフ故障していると判定しない。
【0037】
図4は、ブリッジ回路10を駆動していない場合であって、
図3で示した電動モータMに逆回転させる外力(点線の矢印)が加わった場合を示す。起電力が生ずると、
図3で示した電流が流れようとする。ブリッジ回路10を駆動していない場合は、ブリッジ回路10のすべてのスイッチSW1〜SW6のスイッチング素子11はオフ状態だから、その電流は、スイッチング素子11を流れない。しかし、スイッチSW1〜SW6の還流ダイオード12には順バイアスとなるので、還流ダイオード12を通って電流が流れる。本図では、SW1、SW5、SW6の還流ダイオード12を通って電流が流れることを示しているが、これに限定されず、他の還流ダイオード12も通る。
【0038】
この場合、電流は、逆接保護用ダイオード30には逆バイアスとなり逆接保護用スイッチング素子20を通るので、電位差検出部40が検出する逆接保護用ダイオード30の電位差Vdはほぼゼロに等しい(Vd=V1−V2≒0)。故障判定部80は、起電力が生じた場合も、電位差検出部40が検出した逆接保護用ダイオード30の電位差Vdがほぼゼロに等しい場合(Vd=V1−V2≒0)、逆接保護用スイッチング素子20が導通しているものと判断してオフ故障していると判定しない。
【0039】
図5は、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きている場合に、制御部50がブリッジ回路10を駆動しており、逆接保護用スイッチング素子20をオン制御した状態であり、電動モータMに逆回転させる外力が加わった場合を示す。なお、オン制御(オフ制御も同様)とは、オンの状態になるように制御信号出力をすることを言う。このオン制御の結果、実際には、逆接保護用スイッチング素子20の状況(正常・故障)に応じてオン状態になったり、オフ状態を維持したりする。この場合、
図3で説明したように、電動モータMの各相には起電力Ve1、Ve2、Ve3がそれぞれ発生し、電動モータ駆動回路100においては、一点鎖線で示したように電流が流れようとする。しかし、一般的には、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きており、また逆接保護用ダイオード30には逆バイアスとなるので電流は流れないとされる。
【0040】
しかしながら、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障した状態で、逆起電力が発生した場合、逆接保護用ダイオード30の両端には、大きな電位差Vdが検出されることが見出された。すなわち、電位差検出部40は、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障していない状態では逆接保護用ダイオード30の電位差Vdはほぼゼロ(Vd=V1−V2≒0)を検出していたところ、オフ故障した場合大きな電位差Vd、すなわち逆接保護用ダイオード30の電圧降下分Vfより大きな電位差(Vd=V1−V2>>Vf)を検出する。発明者らが測定した電位差Vdは、バッテリBATの電圧(たとえば、12V)より少し小さい程度であり、逆接保護用ダイオード30の電圧降下分Vfよりかなり大きい電位差である。
【0041】
したがって、故障判定部80は、制御部50が、ブリッジ回路10の6つのスイッチング素子11をオンオフして電動モータMを駆動している時であって、逆接保護用スイッチング素子20をオンにしている時に、電位差検出部40が逆接保護用ダイオード30の電圧降下分Vfより大きい電位差を検出した場合、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障であると判定する。これによれば、ブリッジ回路が駆動されており、逆接保護用ダイオードの電圧降下より大きい電位差を検出した場合にオフ故障と判断することで、高精度な電圧計を必要とせず、電動モータの逆起電力に基づいて逆接保護用スイッチング素子の故障検出を行うことができる。
【0042】
図6は、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きている場合に、制御部50がブリッジ回路10を駆動しておらず、逆接保護用スイッチング素子20をオン制御した状態であり、電動モータMに逆回転させる外力が加わった場合を示す。この場合、
図4で説明したように、電動モータMの各相には起電力Ve1、Ve2、Ve3がそれぞれ発生し、電動モータ駆動回路100においては、一点鎖線で示したように還流ダイオード12を通って電流が流れようとする。しかし、一般的には、逆接保護用スイッチング素子20にオフ故障が起きており、また逆接保護用ダイオード30には逆バイアスとなるので電流は流れないとされる。
【0043】
しかしながら、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障した状態で、逆起電力が発生した場合、逆接保護用ダイオード30の両端には、大きな電位差Vdが検出されることが見出された。すなわち、電位差検出部40は、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障していない状態では逆接保護用ダイオード30の電位差Vdはほぼゼロ(Vd=V1−V2≒0)を検出していたところ、オフ故障した場合であっても電位差Vd(Vd=|V1−V2|>0)を検出する。
【0044】
したがって、故障判定部80は、制御部50が、ブリッジ回路10のすべてのスイッチング素子11をオフにし、かつ、逆接保護用スイッチング素子20をオンにしている時に、電位差検出部40が何らかの電位差Vdを検出した場合、逆接保護用スイッチング素子20がオフ故障であると判定する。これによれば、ブリッジ回路が駆動されておらず電流が流れていない時であっても、電動モータMの逆起電力に基づいて逆接保護用スイッチング素子の故障検出を行うことができる。
【0045】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、適用例、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
M 電動モータ
MF モータスイッチング素子
BAT 電源
100 電動モータ駆動回路
10 ブリッジ回路
11 スイッチング素子
12 還流ダイオード
20 逆接保護用スイッチング素子
30 逆接保護用ダイオード
40 電位差検出部
50 制御部
60 負極接続端子
70 正極接続端子
80 故障判定部
SW1〜SW6 スイッチ