特許第6268152号(P6268152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268152ラジカルの製造方法および酸化反応生成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268152
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ラジカルの製造方法および酸化反応生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/02 20060101AFI20180115BHJP
   C07C 29/03 20060101ALI20180115BHJP
   C07C 33/26 20060101ALI20180115BHJP
   C07F 15/06 20060101ALI20180115BHJP
   C07C 51/29 20060101ALI20180115BHJP
   C07C 63/06 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C01B11/02 Z
   C07C29/03
   C07C33/26
   C07F15/06
   C07C51/29
   C07C63/06
   B01J31/02 102Z
   B01J27/24 Z
【請求項の数】23
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2015-248068(P2015-248068)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-109913(P2017-109913A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2016年9月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505122944
【氏名又は名称】株式会社 エースネット
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】高森 清人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛克
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−522312(JP,A)
【文献】 特表2010−508900(JP,A)
【文献】 特表2002−512980(JP,A)
【文献】 特表2014−503457(JP,A)
【文献】 独国特許発明第00858998(DE,C2)
【文献】 特開平03−294245(JP,A)
【文献】 特開昭60−181047(JP,A)
【文献】 特開平03−179364(JP,A)
【文献】 特表2005−514658(JP,A)
【文献】 特表2009−517720(JP,A)
【文献】 津高 剛ほか,電子ドナー・アクセプター連結有機分子を光触媒とする金属錯体の酸素による酸化反応,日本化学会 第94春季年会講演予稿集 IV,2014年 3月12日,vol.94, No.4,p.1105
【文献】 土井 薫 ほか,ナノサイズ球状メソポーラスシリカアルミナに挿入したドナー・アクセプター連結カチオン分子の長寿命光電子移動状態の生成と光触媒作用,日本化学会第90春季年会 講演予稿集IV,2010年 3月12日,Voi.90, No.4,p.1135
【文献】 大久保 敬 ほか,有機スズ化合物のルイス酸性度の定量的評価と電子移動触媒作用,日本化学会第79春季年会 講演予稿集II,2011年,Vol.79, No.2,p.756
【文献】 オキソアンモニウム塩の設計の基づく有用酸化反応システムの開発研究,YAKUGAKU ZASSHI,2012年,vol.132, No.10,p.1131-1143
【文献】 J. Phys. Chem. A,2013年,vol.117,p.3751-3760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00 − 11/24
C07C 29/03
C07C 33/26
C07C 51/29
C07C 63/06
C07F 15/06
B01J 27/24
B01J 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、酸性でない液中で反応させる反応工程を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項2】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンである請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸と、と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記Oと前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸が、アンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)を含み、
前記アンモニウム塩が、下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)であり、
前記ラジカル発生源が、下記式(A−1)〜(A−8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(A−9)で表される9−置換アクリジニウムイオン、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
は、アニオン(ペルオキソ二硫酸イオンを除く)である。
【化A1-A8】
【化A9】
【化I】
前記式(A−1)〜(A−8)および(A−9)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar1〜Ar3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar1〜Ar3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【請求項5】
前記ラジカル発生源が、下記式(A−10)で表される9−メシチル−10−メチルアクリジニウムイオンおよびその塩の少なくとも一方である請求項4記載の製造方法。
【化A10】
【請求項6】
前記ルイス酸が、アンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)を含み、
前記アンモニウムが、下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のラジカルの製造方法。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
は、アニオン(ペルオキソ二硫酸イオンを除く)である。
【請求項7】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムが、下記化学式(XII)で表されるアンモニウムである請求項4から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【化XII】
前記化学式(XII)中、
111は、炭素数が5〜40のアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、
21およびXは、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項8】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウムが、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウムである請求項7記載の製造方法。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
111およびXは、前記化学式(XII)と同じである。
【請求項9】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムにおいて、
11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよい、
請求項から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルキル基が、炭素数1〜40のアルキル基である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記アルキル基が、炭素数1〜6のアルキル基である請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
前記アンモニウムが、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、レシチン、およびコリン類からなる群から選択される少なくとも一つである請求項6記載の製造方法。
【請求項13】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウムが、塩化ベンゼトニウムである請求項7記載の製造方法。
【請求項14】
前記混合工程において、さらに溶媒を混合する請求項1から13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記混合工程により得られた混合物に光照射する光照射工程を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸が、無機物質を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項17】
前記無機物質が、金属イオンを含む請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記無機物質が、アルカリ土類金属イオン、希土類イオン、Mg2+、Sc3+、Li、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項16記載の製造方法。
【請求項19】
前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸が、AlCl、AlMeCl、AlMeCl、BF、BPh、BMe、TiCl、SiF、およびSiCl、からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から3および16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項16から19のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンである請求項16から20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
請求項1から21のいずれか一項に記載の製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項23】
前記ラジカルが前記酸化剤を兼ねる請求項22記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカルの製造方法および酸化反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルは、反応性に富むことから、広く利用されている重要な化学種である。例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は、非毒性かつ安価な酸化試薬であり、ラジカル二酸化塩素(ClO2)の前駆体として使用されてきた(非特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Dodgen and H. Taube, J. Am. Chem. Soc., 1949, 71, 2501-2504.
【非特許文献2】J. K. Leigh, J. Rajput, and D. E. Richardson, Inorg. Chem., 2014, 53,6715-6727.
【非特許文献3】C. L. Latshaw, Tappi, 1994, 163−166.
【非特許文献4】(a) J. J. Leddy, in Riegel’s Handbook of Industrial Chemistry, 8th edn. Ed., J. A. Kent, Van Nostrand Reinhold Co. Inc, New York, 1983, pp. 212-235; (b) I. Fabian, Coord. Chem. Rev., 2001, 216-217, 449-472.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、ラジカルを発生させるためには、大きいエネルギーが必要である。このため、高温にするための加熱等が必要であり、コストや反応制御上の問題がある。そこで、本発明は、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことが可能なラジカルの製造方法、および、前記ラジカルの製造方法を用いた酸化反応生成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のラジカルの製造方法は、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の酸化反応生成物の製造方法は、
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
前記本発明のラジカルの製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のラジカルの製造方法によれば、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことができる。本発明のラジカルの製造方法の用途としては、例えば、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に用いることができるが、特にこれに限定されず、広範な用途に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、298Kの水溶液中でSc(OTf)3(10mM)と混合した後、0、4および16時間で採取されたNaClO2(5.0mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。
図2図2(a)は、298Kの水溶液(0.20M酢酸緩衝液pH2.9)中のSc(OTf)3(10mM)とNaClO2(5.0mM)の反応によるSc3+(ClO2)の形成の、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。(b)は、二次プロットである。
図3図3(a)は、298KのMeCN/H2O(1:1v/v)溶液中におけるスチレン(30〜90mM)存在下でのSc3+(ClO2)の消費における、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。(b)は、擬一次速度定数対スチレン濃度のプロットである。
図4図4は、MeCN溶液の298Kで測定したEPRスペクトルである。(a)は、NaClO2(0.10mM)含有MeCN溶液の353Kにおける1時間還流後のスペクトルである。(b)は、NaClO2(0.10mM)およびCF3COOH(10mM)含有MeCN溶液のスペクトルである。(c)は、NaClO2(0.10mM)およびSc(OTf)3(10mM)含有MeCN溶液のスペクトルである。
図5図5は、CAM‐B3LYP/6‐311+G(d,p)レベルの理論計算による、DFT最適化構造の結合長(Å)である。(a)はClO2、(b)はH+ClO2、(c)はSc3+ClO2である。
図6図6は、室温(25℃)で水性のMeCN溶液(MeCN/H2O 1:1v/v)中NaClO2(20mM)によるスチレン(2.0mM)の反応を1HNMRで追跡した結果を示すスペクトル図である。
図7図7は、スチレン(66mM)およびNaClO2(200mM)を含むCD3CN/D2O(4:1 v/v)の混合後60℃(333K)で0時間および25時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印は、スチレンオキシド由来のピークである。
図8図8は、スチレン(2.0mM)、NaClO2(20mM)およびSc(OTf)3(30mM)を含むCD3CN/D2O(1:1 v/v)の混合後、25℃で0.6時間後および17時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
図9図9は、スチレン(2.0mM)、NaClO2(20mM)およびCF3COOD(30mM)を含むCD3CN/D2O(1:1 v/v)の混合後、0.5時間後および17時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
図10図10は、(a)H+ClO2および(b)Sc3+ClO2の、CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルの理論計算による、スピン分布を示す図である。
図11図11(a)は、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリン錯体Co(II)TPPの酸素飽和溶液([CoTPP]=9.0×10-6M、[O2]=13mM)に塩化ベンゼトニウム(Bzn+)を添加した溶液の紫外線+可視吸収スペクトルの経時変化を表すグラフである。図11(b)は、図11(a)における433nmの吸収帯の増大の経時変化を表すグラフである。
図12図12は、密度汎関数計算(B3LYP/6-31G(d)レベル)より最適化したBzn+の構造を示す図である。
図13図13は、298Kの水溶液中でSc(OTf)3(40mM)と混合した後、採取されたNaClO2(20mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。
図14図14(a)〜(c)のグラフは、脱酸素アセトニトリル/水(1:1v/v)混合溶液中に10-メチル-9,10-ジヒドロアクリジン(AcrH2)(1.4mM)と亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)(2.8mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
図15図15(a)および(b)のグラフは、図14と同じ混合溶液を調整し、さらにBzn+(0.56mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
図16図16(a)および(b)のグラフは、図15と同じ混合溶液を調整し、さらにSc(OTf)3(3.0mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
図17図17は、AcrH2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応において、推定される反応機構を例示する模式図である。
図18図18(a)は、NaClO2およびスカンジウムトリフレートを用いたトリフェニルフォスフィンの酸化反応を追跡した紫外可視吸収スペクトルである。図18(b)は、図18(a)の反応におけるPh3Pの初期濃度と生成したPh3P=Oの濃度との関係を示すグラフである。
図19図19は、スチレン(2.0mM)、NaClO2(6.0mM)およびSc(OTf)3(5.6mM)を含むCD3CN/D2O(1:1 v/v)の混合後、Ar雰囲気中、25℃で0時間後および45時間後の1HNMRスペクトルを示す。
図20図20は、アセトニトリル中、9−メシチル−10−メチルアクリジニウム(Acr+-Mes)の過塩素酸塩(Acr+-Mes ClO4-)および酸素の存在下で原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の酸化反応を行って酸化反応生成物(安息香酸)を得た実施例の収率等を示す。
図21図21は、塩化ベンゼトニウム[Bzt+Cl-]および各種金属錯体のルイス酸性度を示すグラフである。
図22図22(a)の紫外可視吸収スペクトルは、経時変化によりトリフェニルフォスフィンがトリフェニルフォスフィンオキシドに変換される様子を示す。図22(b)のグラフは、Sc(OTf)3(Sc3+)の存在下および非存在下でのトリフェニルフォスフィン(Ph3P)濃度の経時変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0010】
[1.ラジカルの製造方法]
本発明のラジカルの製造方法は、前述のとおり、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。また、前記混合物は、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、以外の任意の物質を、さらに含んでも良いし、含まなくても良い。例えば、前記混合工程において、さらに溶媒を混合することが、反応性等の観点から好ましい。なお、本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記ラジカル発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。また、本発明において、「溶媒」は、ルイス酸、ブレーンステッド酸、ラジカル発生源等を溶解しても良いが、溶解しなくても良い。例えば、前記混合工程後において、前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源とは、それぞれ、前記溶媒中に溶解した状態でも良いが、前記溶媒中に分散したり沈殿したりした状態でも良い。
【0011】
本発明のラジカルの製造方法は、例えば、前記混合工程後に、得られた混合物中での反応によりラジカルを製造するラジカル製造工程を含む。前記混合物は、前述のとおり、例えば、溶液状態でも良いし、懸濁液状態、コロイド状態等でも良い。反応性の観点からは、前記混合物が、例えば、溶液状態またはコロイド状態であることが好ましい。前記ラジカル製造工程においては、例えば、前記混合物を、単に室温で静置しても良いし、必要に応じ、前記混合物に対し、加熱、光照射等をしても良い。前記ラジカル製造工程における反応温度および反応時間は、特に限定されず、例えば、反応物(原料)および目的生成物の種類等に応じて適宜設定することができる光照射する場合、照射光の波長は、特に限定されず、例えば、反応物(原料)の吸収帯等に応じて適宜設定することができる。なお、反応時間および反応温度については、例えば、前記混合物中における、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、の濃度によって調整することもできる。例えば、前記濃度を高くすることにより反応時間を短縮することができるが、本発明は、この説明により限定されない。
【0012】
前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方の濃度は、特に限定されず、例えば、反応物(原料)および目的生成物の種類等に応じて適宜設定することができる。また、前記溶媒は、特に限定されないが、例えば、水でも有機溶媒でも良く、溶質の種類等に応じて適宜選択することができる。有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒、酢酸溶媒、硫酸溶媒等が挙げられ、これら溶媒は単独で使用しても二種類以上併用しても良い。前記酢酸溶媒および硫酸溶媒は、例えば、酢酸または硫酸を水に溶かしたものでも良く、これらは、例えば、溶媒であると同時にルイス酸またはブレーンステッド酸として機能する。
【0013】
本発明のラジカルの製造方法においては、前述のとおり、加熱により反応させても良いが、加熱をせずに光照射するのみで、または、加熱も光照射もせず単に室温で静置するのみで反応させてラジカルを製造することもできる。なお、「室温」の定義は、特に限定されないが、例えば、5〜35℃である。加熱が不要であることにより、例えば、電気炉等による加熱のコストがかからず、ラジカルの製造コストを大幅に削減できる。また、加熱が不要であることにより、例えば、ラジカル連鎖による予期せぬ暴走反応、および、過酸化物の蓄積等が抑えられるので、反応の安全性が格段に向上し、さらにコストを下げることが出来る。ただし、これらの説明は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0014】
本発明のラジカルの製造方法は、例えば、さらに、前記混合工程により得られた混合物に光照射する光照射工程を含んでいても良い。そして、前述のとおり、前記光照射により起こる反応でラジカルを製造しても良い。照射光の波長については、例えば、前述のとおりである。光源は特に限定されないが、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光を利用すれば、簡便に励起可能である。また、例えば、前記自然光に代えて、またはこれに加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ等の光源を適宜用いても良いし、用いなくても良い。さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いても良いし、用いなくても良い。
【0015】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ルイス酸のルイス酸性度は、例えば、0.4eV以上であるが、これには限定されない。前記ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、例えば、20eV以下である。なお、前記ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の方法により測定することができる。
【0016】
(ルイス酸性度の測定方法)
下記化学反応式(1a)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン、飽和Oおよびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。kcatの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0017】
【数1a】
【0018】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表中において、「kcat,M-2s-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数である。「LUMO, eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。また、「benzetonium chloride」は塩化ベンゼトニウムを表し、「benzalkonium chloride」は塩化ベンザルコニウムを表し、「tetramethylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム塩を表し、「tetrabutylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム塩を表し、「ammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩を表す。
【0019】
【表tpp】
【0020】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ルイス酸が、有機化合物を含んでいても良い。また、前記ルイス酸は、例えば、アンモニウムであっても良い。前記アンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでも良いし、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでも良い。
【0021】
前記有機化合物は、例えば、陽イオン界面活性剤でも良く、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤であっても良い。第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。ただし、本発明のラジカルの製造方法において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0022】
本発明のラジカルの製造方法において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(XI)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0023】
【化XI】
【0024】
前記化学式(XI)中、
11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基(例えば、炭素数1〜40の直鎖または分枝アルキル基)であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
は、アニオンである。
【0025】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0026】
【化XII】
【0027】
前記化学式(XII)中、
111は、炭素数が5〜40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、
21およびXは、前記化学式(XI)と同じである。
【0028】
前記化学式(XII)中、
21は、例えば、メチル基またはベンジル基でも良く、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくても良く、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(−OH)、メルカプト基(−SH)、またはアルキルチオ基(−SR、Rはアルキル基)であっても良い。
【0029】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
111およびXは、前記化学式(XII)と同じである。
【0030】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。また、前記化学式(XII)で表されるアンモニウムが、塩化ベンゼトニウムであることが特に好ましい。
【0031】
なお、塩化ベンゼトニウム(BznCl)は、例えば、下記化学式であらわすことができる。また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(XIII)中、R111が炭素数8〜18のアルキル基であり、Xが塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【化Bzn】
【0032】
なお、前記化学式(XI)、(XII)および(XIII)中、Xは、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、Xは、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでも良い。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(XI)、(XII)および(XIII)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。Xとしては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N)を複数含んでいても良い。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していても良い。
【0034】
また、本発明のラジカルの製造方法において、前記ルイス酸が、無機物質を含んでいても良い。前記無機物質は、金属イオンおよび非金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記金属イオンは、典型金属イオンおよび遷移金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記無機物質は、例えば、アルカリ土類金属イオン(例えばCa2+等)、希土類イオン、Mg2+、Sc3+、Li、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムのイオンが挙げられ、より具体的には、例えば、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびRa2+が挙げられる。また、「希土類」は、スカンジウム21Sc、イットリウム39Yの2元素と、ランタン57Laからルテチウム71Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。希土類イオンとしては、例えば、前記17元素のそれぞれに対する3価の陽イオンが挙げられる。
【0035】
また、前記ルイス酸(カウンターイオンも含む)は、例えば、AlCl、AlMeCl、AlMeCl、BF、BPh、BMe、TiCl、SiF、およびSiClからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。ただし、「Ph」はフェニル基を表し、「Me」はメチル基を表す。
【0036】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKは、例えば5以上である。前記pKの上限値は、特に限定されないが、例えば、50以下である。
【0037】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、および過ハロゲン酸イオン、およびからなる群から選択される少なくとも一つを含んでいても良い。前記ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいても良い。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ素、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。前記ラジカル発生源は、例えば、用途に応じて、ラジカル種の反応性の強さ等を考慮し、適宜選択しても良い。例えば、反応性が強い次亜塩素酸と、次亜塩素酸よりも反応性がやや穏やかで反応の制御がしやすい亜塩素酸とを、目的に応じて使い分けても良い。
【0038】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ラジカル発生源は、例えば、電子供与体・受容体連結分子を含んでいても良い。前記電子供与体・受容体連結分子は特に限定されないが、例えば、電子供与体部位が、1または複数の電子供与基であり、電子受容体部位が、1または複数の芳香族カチオンであってもよい。この場合、前記芳香族カチオンは、単環でも縮合環でも良く、芳香環は、ヘテロ原子を含んでいても含んでいなくても良く、前記電子供与基以外の置換基を有していても有していなくても良い。また、前記芳香族カチオンを形成する芳香環は、その環構成原子数は特に制限されないが、例えば5〜26員環である。
【0039】
前記芳香族カチオンを形成する芳香環は、ピロリニウム環、ピリジニウム環、キノリニウム環、イソキノリニウム環、アクリジニウム環、3,4−ベンゾキノリニウム環、5,6−ベンゾキノリニウム環、6,7−ベンゾキノリニウム環、7,8−ベンゾキノリニウム環、3,4−ベンゾイソキノリニウム環、5,6−ベンゾイソキノリニウム環、6,7−ベンゾイソキノリニウム環、7,8−ベンゾイソキノリニウム環、および、それらの環を構成する炭素原子の少なくとも一つがヘテロ原子で置換された環、からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。例えば、アクリジニウム環、ベンゾキノリニウム環、ベンゾイソキノリニウム環等の大環状の(π電子数が多い)芳香族カチオンであれば、例えば、吸収帯が長波長側にシフトし、可視光領域に吸収を有することにより、可視光励起も可能となる。
【0040】
前記電子供与基は、水素原子、アルキル基、および芳香環からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。この場合、前記芳香環は、環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良く、前記電子供与基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。また、この場合の前記電子供与基において、前記アルキル基が、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。さらに、前記電子供与基において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、およびピレン環からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。前記電子供与基において、前記芳香環上の置換基は、アルキル基、アルコキシ基、第1級〜第3級アミン、カルボン酸、およびカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。Arにおいて、前記芳香環上の置換基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、第1級〜第3級アミン、カルボン酸、およびカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましい。なお、前記芳香環上の置換基において「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記カルボキシアルキル基中のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましく、前記アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基が好ましい。
【0041】
前記電子供与基は、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、メシチル基(2,4,6−トリメチルフェニル基)、および3,4,5−トリメチルフェニル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが一層好ましい。これらの中でも、電子移動状態(電荷分離状態)の寿命等の観点から、メシチル基が特に好ましい。なお、メシチル基により特に優れた効果が得られる理由は明らかではないが、例えば、オルト位にメチル基が2つ存在し、メシチル基のベンゼン環と前記芳香族カチオンの芳香環とが直交しやすいこと、メシチル基内部の超共役が少ないこと等が考えられる。ただし、これは推定可能な機構の一例であり、本発明を何ら限定しない。
【0042】
前記電子供与体・受容体連結分子は、電子移動状態(電荷分離状態)の寿命、酸化力、還元力等の観点から、下記式(A−1)〜(A−8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0043】
【化A1-A8】
【0044】
【化I】
【0045】
前記式(A−1)〜(A−8)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar1〜Ar3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar1〜Ar3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【0046】
前記式(A−1)〜(A−8)中、Rは、水素原子、アルキル基、ベンジル基、カルボキシアルキル基(末端にカルボキシル基が付加したアルキル基)、アミノアルキル基(末端にアミノ基が付加したアルキル基)、またはポリエーテル鎖であることが好ましい。Rは、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ベンジル基、末端にカルボキシル基が付加した炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、末端にアミノ基が付加した炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはポリエチレングリコール(PEG)鎖であることがより好ましい。PEG鎖は、前記ポリエーテル鎖の一例であるが、前記ポリエーテル鎖の種類は、これに限定されず、どのようなポリエーテル鎖でも良い。Rにおいて、前記ポリエーテル鎖の重合度は特に限定されないが、例えば1〜100、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10である。前記ポリエーテル鎖がPEG鎖の場合、重合度は特に限定されないが、例えば1〜100、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10である。
【0047】
前記電子供与体・受容体連結分子は、下記式(A−9)で表される9−置換アクリジニウムイオン、その互変異性体および立体異性体、からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0048】
【化A9】
【0049】
前記式(A−9)中、RおよびArは、前記式(A−1)と同じである。
【0050】
また、前記電子供与体・受容体連結分子が、下記式(A−10)で表される9−メシチル−10−メチルアクリジニウムイオンであることが特に好ましい。この9−メシチル−10−メチルアクリジニウムイオンは、光励起により、高酸化力および高還元力を有する長寿命の電子移動状態(電荷分離状態)を生成することが可能である。前記光励起の励起光としては、例えば、可視光を用いることができる。
【0051】
【化A10】
【0052】
また、前記式(A−9)で表される9−置換アクリジニウムイオンとしては、前記(A−10)以外に、例えば、下記(A−101)〜(A−116)が挙げられる。
【0053】
【表1】
【0054】
また、前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体においては、R1は、例えば、水素原子、アルキル基、ベンジル基、カルボキシアルキル基(末端にカルボキシル基が付加したアルキル基)、アミノアルキル基(末端にアミノ基が付加したアルキル基)、またはポリエーテル鎖であることが好ましい。また、R1は、例えば、水素原子、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ベンジル基、末端にカルボキシル基が付加した炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、末端にアミノ基が付加した炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはポリエチレングリコール(PEG)鎖であることがより好ましい。PEG鎖は、前記ポリエーテル鎖の一例であるが、前記ポリエーテル鎖の種類は、これに限定されず、どのようなポリエーテル鎖でも良い。R1において、前記ポリエーテル鎖の重合度は特に限定されないが、例えば1〜100、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10である。前記ポリエーテル鎖がPEG鎖の場合、重合度は特に限定されないが、例えば1〜100、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10である。また、Ar1〜Ar3は、例えば、それぞれ、水素原子、アルキル基、または芳香環であることが好ましく、前記アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。Ar1〜Ar3において、前記芳香環は環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。
【0055】
前記式(I)中、Ar1〜Ar3において、前記芳香環は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環またはピレン環であることがより好ましい。また、Ar1〜Ar3において、前記芳香環上の置換基が、アルキル基、アルコキシ基、第1級〜第3級アミン、カルボン酸、またはカルボン酸エステルであることがより好ましく、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、第1級〜第3級アミン、カルボン酸、またはカルボン酸エステルであることがさらに好ましい。前記第2級アミンとしては、特に限定されないが、例えばアルキルアミノ基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基がより好ましい。前記第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えばジアルキルアミノ基が好ましく、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基を有するジアルキルアミノ基がより好ましい。
【0056】
なお、Ar1〜Ar3における前記芳香環上の置換基において「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記カルボキシアルキル基中のアルキル基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましく、前記アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基が好ましい。
【0057】
前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体のうち、電荷分離状態の長寿命、高酸化力、高還元力等の観点から特に好ましいのは、例えば、下記式1〜5のいずれかで表されるキノリニウムイオン誘導体である。
【0058】
【化01-05】
【0059】
また、前記化合物1〜5の他には、例えば、下記表2および3に示す化合物6〜36等が特に好ましい。下記表2および表3に、化合物6〜36の構造を、前記式(I)におけるR1およびAr1〜Ar3の組み合わせで示す。また、これら化合物6〜36は、後述の実施例を参照することにより、当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく、化合物1〜5に準じて容易に製造し、かつ使用することが出来る。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
前記電子供与体・受容体連結分子は、市販品を用いても良いし、適宜製造(合成)しても良い。製造する場合、製造方法は特に制限されず、例えば、公知の製造方法により、または公知の製造方法を参考にして、適宜製造することができる。具体的には、例えば、特許第5213142号公報に記載の製造方法等を用いても良い。
【0063】
また、本発明において、化合物(例えば、前記電子供与体・受容体連結分子等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、化合物(例えば、前記電子供与体・受容体連結分子等)が塩を形成し得る場合は、特に断らない限り、前記塩も本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも良いが、塩基付加塩でも良い。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0064】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でも良く、その炭素数は、特に限定されないが、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6、または1〜2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)であっても良い。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、例えば、5〜32、5〜24、6〜18、6〜12、または6〜10であっても良い。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でも良く、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1−ナフチル基でも2−ナフチル基でも良い。
【0065】
[2.酸化反応生成物の製造方法]
本発明の酸化反応生成物の製造方法は、前述のとおり、
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
前記本発明のラジカルの製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする。
【0066】
本発明の酸化反応生成物の製造方法を行う方法は、特に限定されないが、例えば、前記混合工程において、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、ラジカル発生源と、に加え、さらに前記被酸化物と前記酸化剤とを混合しても良い。このとき、前述のとおり、さらに溶媒を混合することが好ましい。そして、前記ラジカル製造工程において、発生したラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させても良い。すなわち、前記酸化反応工程は、前記ラジカル製造工程と平衡して、同一の反応系中で同時に行っても良い。この場合、前記被酸化物および前記酸化剤の濃度は、特に限定されず、適宜設定可能である。なお、前記酸化反応を速く進行させるためには、例えば、前記被酸化物の濃度をなるべく高く、かつ、前記酸化剤の濃度は、高すぎず低すぎないように設定すれば良いが、これには限定されない。
【0067】
本発明の酸化反応生成物の製造方法において、前記ラジカルが前記酸化剤を兼ねていても良い。例えば、前記ラジカル発生剤が、オキソ酸であり、前記オキソ酸から発生したラジカルが酸化剤であっても良い。一例として、前記ラジカル発生剤が、亜塩素酸イオンClO2-であり、亜塩素酸イオンClO2-から発生したラジカルClO2を酸化剤として、前記被酸化物を酸化して前記酸化反応生成物を製造しても良い。
【0068】
また、例えば、前記ラジカルと前記酸化剤とが別であっても良い。例えば、前記ラジカル発生剤が、前記電子供与体・受容体連結分子であり、前記酸化剤が、酸素分子Oであり、前記電子供与体・受容体連結分子のラジカルおよび酸素分子の作用により、前記被酸化物を酸化して前記酸化反応生成物を製造しても良い。
【0069】
前記被酸化物は、特に限定されず、例えば、有機化合物でも無機物質でも良い。例えば、前記被酸化物がトリフェニルフォスフィンPh3Pであり、前記酸化反応生成物がトリフェニルフォスフィンオキシドPh3P=Oであっても良い。また、例えば、前記被酸化物がオレフィンであり、前記酸化反応生成物が、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方を含んでいても良い。
【0070】
前記被酸化物は、例えば、芳香族化合物(以下「原料芳香族化合物」という場合がある。)であっても良い。本発明において、前記原料芳香族化合物は特に制限されない。前記原料芳香族化合物の芳香環に電子供与基が結合していると、例えば、前記原料芳香族化合物の酸化反応(酸化的置換反応を含む)が進行しやすいため好ましい。前記電子供与基は、1つでも複数でも良く、電子供与性の強いものが好ましい。より具体的には、前記原料芳香族化合物は、芳香環に、−OR100、−NR200、およびAr100からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が共有結合していることがより好ましい。前記R100は、水素原子または任意の置換基であり、R100が複数の場合は、各R100は同一でも異なっていてもよい。前記R200は、水素原子または任意の置換基であり、各R200は同一でも異なっていてもよい。前記Ar100は、アリール基であり、Ar100が複数の場合は、各Ar100は同一でも異なっていてもよい。
【0071】
前記Ar100は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピレン環等の任意の芳香環から誘導される基であって良い。前記芳香環は環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。前記Ar100は、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0072】
また、前記R100は、水素原子、アルキル基、アリール基、およびアシル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。前記アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分子アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アシル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分子アシル基が好ましい。前記アリール基は、例えば、前記Ar100と同様であり、例えばフェニル基である。
【0073】
また、前記R200は、水素原子、アルキル基、アリール基、およびアシル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。前記アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分子アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アシル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分子アシル基が好ましい。前記アリール基は、例えば、前記Ar100と同様であり、例えばフェニル基である。前記−NR200としては、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等、電子供与製置換基で置換されたアミノ基が、特に電子供与性が高いため好ましい。
【0074】
また、前記原料芳香族化合物は、例えば、芳香環にアルキル基等の置換基が共有結合しており、前記置換基を、前記酸化反応生成物生成工程により酸化しても良い。例えば、前記酸化剤が酸素原子を含み、前記原料芳香族化合物が、芳香環に共有結合したメチレン基(−CH−)を含み、前記酸化反応生成物生成工程において、前記メチレン基(−CH−)を酸化してカルボニル基(−CO−)に変換しても良い。この場合において、前記メチレン基およびカルボニル基に結合している原子または原子団は、特に制限されないが、水素原子、アルキル基、アリール基等が挙げられる。前記アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましい。前記アルキル基、アリール基は、さらに1または複数の置換基で置換されていても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。例えば、前記メチレン基に水素が結合していれば、メチル基(−CH)となり、酸化後はホルミル基(−CHO)となる。前記メチレン基にメチル基が結合していれば、エチル基(−CHCH)となり、酸化後はアセチル基(−COCH)となる。前記メチレン基にフェニル基が結合していれば、ベンジル基(−CHPh)となり、酸化後はベンゾイル基(−COPh)となる。また、例えば、芳香環に共有結合した前記置換基(酸化される前)がホルミル基(−CHO)であり、酸化後にカルボキシ基(−COOH)となっても良い。
【0075】
また、例えば、前記被酸化物がオレフィンであっても良く、前記オレフィンは、例えば、芳香族オレフィンでも良いし、脂肪族オレフィンでも良い。前記オレフィンは、例えば、下記化学式(A1)で表されるオレフィンでも良い。また、前記オレフィンの酸化反応生成物は、特に限定されないが、例えば、下記スキームAのように、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方を含んでいても良い。下記化学式(A1)、(A2)および(A3)中、Rは、それぞれ、水素原子または任意の置換基であり、各Rは、互いに同一でも異なっていても良い。前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(−OH)、メルカプト基(−SH)、またはアルキルチオ基(−SR、Rはアルキル基)であり、さらなる置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。前記アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。また、被酸化物である前記オレフィンは、オレフィン結合(炭素−炭素二重結合)を1つのみ含むオレフィンでも良いが、オレフィン結合を複数(2つ以上)含むオレフィンであっても良い。
【0076】
【化A1】
【0077】
【化SA】
【0078】
前記オレフィンは、例えば、芳香族オレフィンであっても良い。すなわち、例えば前記化学式(A1)によいて、Rの少なくとも一つが、芳香環(アリール基またはヘテロアリール基)であっても良い。本発明において、前記芳香族オレフィンは特に制限されないが、前記芳香族オレフィンの芳香環に電子供与基が結合していると、例えば、前記芳香族オレフィンの酸化反応(酸化的置換反応を含む)が進行しやすいため好ましい。前記電子供与基は、1つでも複数でも良く、電子供与性の強いものが好ましい。より具体的には、前記芳香族オレフィンは、芳香環に、前記−OR100、−NR200、およびAr100からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が共有結合していることがより好ましい。
【0079】
本発明の酸化反応生成物の製造方法において、前記オレフィンが、エチレン、プロピレン、スチレン、およびブタジエンからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。また、前記酸化反応生成物は、例えば、前述のように、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方であっても良い。下記スキームA1〜A3に、その例を示す。ただし、下記スキームA1〜A3は例示であって、本発明において、エチレン、プロピレンおよびスチレンの酸化反応は、これに限定されない。
【0080】
【化SA1-3】
【0081】
オレフィン(例えば、前記スキームAのオレフィン(A1))の酸化において、例えば、前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、前記ラジカル発生源と、前記酸化剤と、のうち少なくとも一つの濃度を調整することで、生成する酸化反応生成物を作り分けることが可能である。これらの濃度が、例えば、前記被酸化物に対し低濃度であると、エポキシドが得られやすく、高濃度であるとジオールが得られやすい傾向があるが、これには限定されない。また、例えば、前記濃度に代えて、前記ラジカル発生源から発生するラジカル種の反応性の強さによっても、生成する酸化反応生成物を作り分けることが可能である。例えば、反応性が弱いラジカル種ではエポキシドが得られやすく、反応性が強いラジカル種ではジオールが得られやすい傾向があるが、これには限定されない。なお、前記酸化反応生成物の用途は特に限定されないが、例えば、前記被酸化物(原料芳香族化合物)がスチレンの場合、スチレンオキシドは接着剤、ジオールは香料などとして利用できる。このように、前記エポキシドと前記ジオールとは、それぞれ異なった用途への需要があるため、反応条件のコントロールにより作り分けができれば、本発明を、さらに広い用途に適用可能である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0083】
[実施例1]
本実施例では、スカンジウムトリフラートと亜塩素酸ナトリウムにより、スチレンの効率的なジヒドロキシル化ができることを確認した。具体的には、常温常圧下で、スカンジウムトリフラートと亜塩素酸イオン(ClO2-)によるスチレンのジヒドロキシル化により、1-フェニルエタン-1,2-ジオールを効率的に製造することができた。スカンジウムトリフレートは、強ルイス酸として作用し、亜塩素酸イオン(ClO2-)から二酸化塩素ラジカル(ClO2)を生成させるとともに、二酸化塩素ラジカル(ClO2)の反応性を向上させることが確認された。
【0084】
オレフィンの1,2-ジオールへの酸化は、ファインケミカル又はスペシャリティケミカルにおいて、樹脂、医薬品、医薬品、染料、殺虫剤や香料組成物等の種々の化学物質の前駆体を製造するための重要な工業プロセスである。オレフィンを酸化して対応するエポキシドおよびアルコールに変換するためのいくつかの方法が、これまでに、無機金属オキソ錯体及び重原子の金属酸化物を使用して報告されている。高原子価のOsVIIIO4は、オレフィンを1,2-ジオールに変換するための酸化の、効果的かつ選択的な試薬である(参考文献等1〜8)。しかし、オスミウム化合物の毒性及び昇華性とその廃棄物は深刻な問題の原因となる。亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は、非毒性かつ安価な酸化試薬であり、二酸化塩素ラジカル(ClO2)の前駆体として使用されてきた(参考文献等9〜12[非特許文献1〜4と同一])。ClO2は、反応性で、かつ安定なラジカルであることが知られている。しかし、ClO2は、室温で黄色の爆発性ガスである。ClO2は、実験的に、NaClO2のCl2による酸化、および、塩素酸カリウム(KClO3)とシュウ酸との反応により調製することができる(参考文献等13)。これらの方法は、また、Cl2の毒性およびClO3-の爆発性等の深刻な問題を引き起こす。ClO2の前駆体としてNaClO2を用いたオレフィンのエポキシ化が試みられている。しかしながら、ClO2の酸化能力は、酸の非存在下でオレフィンをジオールに酸化するのに十分強力ではないので、1,2-ジオール生成物が得られなかった(参考文献等14〜17)。ClO2のCl=O二重結合の活性化は、オレフィンを1ステップで選択的にジヒドロキシル化するためのキーである。
【0085】
本実施例では、スカンジウムトリフレート[Sc(OTf)3]をルイス酸として(参考文献等18)ClO2を活性化することによる、常温常圧下でのスチレンのジヒドロキシル化物の効率的な合成法について報告する。ジヒドロキシル化機構は、EPRおよびUV-Vis吸収分光法によるラジカル中間体の検出に基づいて明らかにした。
【0086】
室温(25℃)で水性のMeCN溶液(MeCN/H2O 1:1v/v)中NaClO2(20mM)によるスチレン(2.0mM)の反応では、スチレンのジヒドロキシル化は起こらなかった(図6参照)。なお、図6は、MeCN/H2Oとして1HNMRスペクトル測定用溶媒CD3CN/D2O(1:1 v/v)を用いて上記の反応を行い、1HNMRで反応を追跡した結果であり、反応開始後0.3時間後および17時間後の1HNMRスペクトルを示す。温度が333Kに増加した場合には、ジヒドロキシル化生成物の形成が起こらず、エポキシ化が起こった(図7)(参考文献等14、19)。なお、図7は、スチレン(66mM)およびNaClO2(200mM)を含むCD3CN/D2O(4:1 v/v)の混合後60℃(333K)で0時間および25時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印は、スチレンオキシド由来のピークである。対照的に、ブレンステッド酸としてのCF3COOH(30mM)を添加剤として添加した場合は、17時間混合後にエポキシドが全く形成されず、それに代えて1-フェニルエタン-1,2ジオール(1)及び2-クロロ-1-フェニルエタノール(2)が、それぞれ15%および69%の収率で生産された[反応式(1)]。それらは、1HNMRスペクトルで測定した(図8)(参考文献等20)。なお、図8は、スチレン(2.0mM)、NaClO2(20mM)およびSc(OTf)3(30mM)を含むCD3CN/D2O(1:1 v/v)の混合後、25℃で0.6時間後および17時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。CF3COOHに代えて強力なルイス酸であるSc(OTf)3(30mM)を用いた場合、ジオール(1)の収率が51%と顕著に増加した[反応式(1)の表参照](図9)(参考文献等21)。なお、図9は、スチレン(2.0mM)、NaClO2(20mM)およびCF3COOD(30mM)を含むCD3CN/D2O(1:1 v/v)の混合後、0.5時間後および17時間後の1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
【数1】
【0087】
UV-Vis吸収分光法を、反応機構と反応性中間体の検出を明確にするために採用した。図1に示すとおり、NaClO2は、水溶液中において260nmに吸収帯を示した。その吸収帯は、Sc(OTf)3(10mM)を加えると消失し、それに伴い、新たな吸収帯が358nmにおいて増大し、この吸収帯はClO2に基づくと同定(アサイン)された(参考文献等22、23)。CF3COOH存在下においても、同様の吸収スペクトルの変化が観測された(参考文献等24)。358nmでの吸収帯の出現の経時変化を図1に示す。図1は、298Kの水溶液中でSc(OTf)3(10mM)と混合した後、0、4および16時間で採取されたNaClO2(5.0mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。また、図2(a)は、図1と同じ反応(298Kの水溶液(0.20M酢酸緩衝液pH2.9)中のSc(OTf)3(10mM)とNaClO2(5.0mM)の反応によるSc3+(ClO2)の形成)の、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。同図において、横軸は、時間(秒)、縦軸は358nmでの吸光度である。図2(b)は、図2(a)の測定結果の二次プロットである。時間プロファイル(図2(a))は、二次プロット(図2(b))によく合致する。そのように、Sc(OTf)3を用いたClO2の生成は、二分子のClO2-が律速段階に関係する(下記参照)。二分子の速度定数は、直線の傾きから0.16M-1s-1であると決定された。
【0088】
基質の非存在下、298KでのMeCN中では、Sc(OTf)3を用いてNaClO2から生成されたClO2に基づく358nmの吸光度のいかなる減衰も観察されなかった。図3(a)は、298KのMeCN/H2O(1:1v/v)溶液中におけるスチレン(30〜90mM)存在下でのSc3+(ClO2)の消費における、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。同図において、横軸は、時間(秒)、縦軸はClO2濃度である。(b)は、擬一次速度定数対スチレン濃度のプロットである。過剰量のスチレンの存在下では、減衰率は擬一次に従った(図3(a))。ジヒドロキシル増加について観察された擬一次速度定数(kobs)は、スチレン濃度増加とともに直線的に増加した(図3(b))。ClO2およびスチレンの消費の二分子速度定数は、1.9×10-2M-1s-1と決定した(参考文献等25)。ラジカル構造を明確にするためにEPR(electronic paramagnetic resonance電子常磁性共鳴)測定を実施した。純粋なClO2を、NaClO2を含むMeCN溶液を353Kで1時間還流することによって作製した。298Kに冷却後にEPRスペクトルを測定したところ、特徴的な等方性の信号を、g=2.0151(±0.0002)において、Cl原子核の不対電子に由来する4本の超微細線とともに確認した(35Clおよび37ClにおいてI=3/2、それぞれ0.821および0.683の同様の磁気モーメントを有する(図4(a))(参考文献等26)。G値は、CF3COOH(g=2.0106)およびSc(OTf)3(g=2.0103)の添加によって顕著に変化した(図4(b)および4(c))。ClO2の超微細結合定数は、(a(Cl)=16.26G)CF3COOH(15.78G)およびSc(OTf)3(15.56G)の存在下、低下した(参考文献等27)。これは、プロトン及びSc3+が、強くスチレンのジヒドロキシル化するための反応中間体として、H+ClO2およびSc3+ClO2を形成するために、ClO2と結合することを示す(参考文献等28)。
【0089】
図5に示すとおり、ClO2、H+ClO2およびSc3+ClO2の密度汎関数理論(DFT)計算を行い、ジヒドロキシル化のための反応機構を予測した。構造最適化は、理論計算のDFT CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルで行った。図5は、CAM‐B3LYP/6‐311+G(d,p)レベルの理論計算による、DFT最適化構造の結合長(Å)である。(a)はClO2、(b)はH+ClO2、(c)はSc3+ClO2である。ClO2のCl-O二重結合の結合長は1.502Åと計算された(図5(a))。H+ClO2では、Cl-O二重結合の結合長は1.643Åと計算された(図5(b))。図5(c)は、ClO2と比較すると、Sc3+ClO2もまた結合強度が顕著に弱まっている(Cl-O:1.818Å)ことを示す。Cl-O結合の切断は、基質の存在下で強力な酸化剤としてのClOを生成するために有利な可能性がある。なお、図10は、(a)H+ClO2および(b)Sc3+ClO2の、CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルの理論計算による、スピン分布を示す図である。
【0090】
上記の結果に基づいて、ClO2によるスチレンのジヒドロキシル化機構を、反応式(2)〜(5)およびスキーム1に示した。NaClO2の不均化反応は、H+またはSc3+の存在下で起こり、ClO-とClO3-を形成する[反応式(2)](参考文献等29)。ClO-はClO2-およびプロトンと容易に反応し、Cl2O2を生成する[反応式(3)]。つぎに、Cl2O2はClO2-により還元され、反応種であるClO2を生成する[反応式(4)]。全体的な化学量論は、反応式(5)で与えられる。ClO2は、H+およびSc3+等の酸と結合することで活性化される。H+の場合は、DFT計算(上記参照)に基づけば、Cl-O結合の切断は発生しない。H+によるスチレンの酸化は、スチレン二重結合に対するClO2の付加により進行する。これとは対照的に、Sc3+によるスチレンのジヒドロキシル化は、スキーム1に示すように、Sc3+ClO2錯体のホモリティックSc3+Cl-O結合切断によって生成したClOおよびSc3+Oの、スチレン二重結合に対する付加により起こる。次に、スカンジウム錯体は、最終生成物のジオールとSc3+ClOを得るために加水分解される(スキーム1)。Sc3+ClOは、大過剰のClO2-による酸化でSc3+ClO2を形成させて再利用することができる。ClO-もまた、反応式(2)に示すように、ClO2-により再生することができる。Sc3+ClO2のCl-O結合の切断によって形成されるClOの、スチレンのβ炭素に対する付加は、二つの異性体を与えた。β炭素-ClOの結合形成が生成した場合、スキーム1に示すように、最終マイナー生成物として塩素化合物が得られた。
【0091】
【数2-5】
【0092】
【化S1】
【0093】
以上、示したとおり、本実施例によれば、ClO2は、Sc3+の存在下でのルイス酸として、スチレンのための効果的なジヒドロキシル化試薬であることが確認された。本発明によれば、重金属などの有害廃棄物のないオレフィンのユニークなジヒドロキシル化経路を提供することができる。
【0094】
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10 J. K. Leigh, J. Rajput, and D. E. Richardson, Inorg. Chem., 2014, 53,6715-6727.
11 C. L. Latshaw, Tappi, 1994, 163−166.
12 (a) J. J. Leddy, in Riegel’s Handbook of Industrial Chemistry, 8th edn. Ed., J. A. Kent, Van Nostrand Reinhold Co. Inc, New York, 1983, pp. 212-235; (b) I. Fabian, Coord. Chem. Rev., 2001, 216-217, 449-472.
13 M. J. Masschelen, J. Am. Works Assoc., 1984, 76, 70-76.
14 X.-L. Geng, Z. Wang, X.-Q. Li, and C. Zhang J. Org. Chem., 2005, 70, 9610-9613
15 A. Jangam and D. E. Richardson, Tetrahedron Lett., 2010, 51, 6481-6484.
16 J. J. Kolar and B. O. Lindgren, Acta Chem. Scand. B, 1982, 36, 599-605.
17 B. O. Lindgren, T. Nilsson, Acta Chem. Scand. B, 1974, 28, 847-852.
18 (a) S. Fukuzumi and K. Ohkubo, J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 10270-10271; (b) S. Fukuzumi and K. Ohkubo, Chem.-Eur. J., 2000, 6, 4532-4535.
19 スチレン(66mM)のNaClO2(200mM)によるエポキシ化をMeCN/H2O(4:1 v/v)混合溶液中333Kで調べた(参考文献等14)。スチレンオキシドの収率は44%であり、スチレンの転化率は61%であった。
20 E. V. Bakhmutova-Albert, D. W. Margerum, J. G. Auer and B. M. Applegate, Inorg. Chem., 2008, 47, 2205-2211.
21 1H NMRで確認したところ、CF3COOHまたはSc(OTf)3による反応中、中間体としてのスチレンエポキシドは観測されなかった。
22 C. Rav-Acha, E. Choushen (Goldstein) and S. Sarel, Helv. Chim. Acta, 1986, 69, 1728-1733.
23 ClO2水溶液中、無水酢酸とNaClO2から生成された(参考文献等22)。ClO2は、プロトン化形態(H+ClO2)である可能性がある。
24 W. Masschelein, Ind. Eng. Chem. Prod. Res. Devel., 1967, 6, 137-142.
25 この数値は、ClO2によるスチレンのエポキシドへの変換(1.17×10-2M-1s-1)(参考文献等10)よりも若干大きい。
26 (a) T. Ozawa and T. Kwan, Chem. Pharm. Bull., 1983, 31, 2864-2867; (b) T. Ozawa, T. Trends Org. Chem., 1991, 2, 51-58.
27 Sc3+ClO2とH+ClO2のスピン分布の計算値を図5に示した。それによれば、ScおよびH核はスピン密度を示さない。このことは、EPRスペクトルが、Sc(I=7/2)またはH(I=1/2)に由来する超微細分裂を示さないことを意味する。
28 Sc3+と金属オキソ錯体のオキソ基との結合については、下記を参照のこと:
(a) J. Chen, X. Wu, K. M. Davis, Y.-M. Lee, M. S. Seo, K.-B. Cho, H. Yoon, Y. J. Park, S. Fukuzumi, Y. N. Pushkar and W. Nam, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 6388-6391; (b) H. Yoon, Y.-M. Lee, X. Wu, K.-B. Cho, Y. N. Pushkar, W. Nam and S. Fukuzumi, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 9186-9194; (c) S. Fukuzumi, K. Ohkubo, Y.-M. Lee and W. Nam, Chem.-Eur. J., 2015, 21, 17548-17559.
29 Sc3+による中性ラジカルの不均化については、I. Nakanishi, T. Kawashima, K. Ohkubo, T. Waki, Y. Uto, T. Kamada, T. Ozawa, K. Matsumoto and S. Fukuzumi, S. Chem. Commun., 2014, 50, 814-816.を参照のこと。
【0095】
[実施例2]
本実施例では、塩化ベンゼトニウムによる酸素還元反応の活性化を行った。ルイス酸は様々な有機合成反応で広く研究開発が行われている。その多くは、金属イオンまたは金属錯体をルイス酸点として用いて、その周辺の配位子設計を伴う研究に注力されてきた。本実施例では、強力なルイス酸性を有するアンモニウム誘導体として塩化ベンゼトニウムを用い、それが、亜塩素酸ナトリウムを用いた芳香族系有機化合物の酸素化反応に広く有用であることを確認した。
【0096】
アセトニトリル中、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリン錯体Co(II)TPP(TPP=5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリン)(Eox=0.35V vs SCE)と分子状酸素(Ered=-0.86V vs SCE)との間では電子移動は全く進行しない。しかし、この酸素飽和溶液([CoTPP]=9.0×10-6M、[O2]=13mM)に塩化ベンゼトニウム(Bzn+)を添加すると([Bzt+Cl-]=30mM)、411nmのCo(II)TPP由来の吸収帯の減衰に伴い、等吸収点を有しながら433nmのCo(III)TPP+に特徴的な吸収帯の増大が観測された(図11(a))。なお、図11(a)は、前記溶液の紫外線+可視吸収スペクトルの経時変化を表すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度である。これは、Co(II)TPPから分子状酸素への電子移動反応が進行しCo(III)TPP+が生成したものと考えられる。411nmの吸収帯の減衰の経時変化と、433nmの吸収帯の増大の経時変化の時定数はほぼ一致しており、擬一次カーブフィットより、速度定数を9.3×10-5s-1と決定した(図2(b))。図11(b)のグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は吸光度である。この速度定数は酸素濃度およびBzn+濃度に一次の依存性を示し、そのプロットの傾きより、触媒移動速度定数(kcat)を0.24M-2s-1と決定できた。これまでの研究により(Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532)、Co(II)TPPから分子状酸素への電子移動反応は、金属イオンなどのルイス酸存在下、効率よく進行することが知られており、本研究で用いたBzn+の場合も同様にルイス酸触媒的に反応が進行したものであると考えられる。本実施例で得られたBzn+の触媒速度定数(0.24M-2s-1)は、リチウム過塩素酸塩(0.36)よりもわずかに低く、ストロンチウム過塩素酸塩(0.10M-2s-1)およびバリウム過塩素酸塩(0.051M-2s-1)よりも大きい値を示した。以上の結果よりBzn+は比較的強いルイス酸性度を有していると考えられる。この触媒速度定数と文献記載の方法により、ルイス酸性度の指標であるΔE値は0.53eVと決定した。実際に、アンモニウム塩がルイス酸として機能するという報告例はこれまでに報告されており、例えばアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩(NH4PF6)の値(0.32eV)(参考文献等33)よりも大きな値を示したことより、本アンモニウム塩がアンモニウムの中では強いルイス酸性度を示すことが確認された。なお、図21のグラフに、塩化ベンゼトニウム[Bzt+Cl-]および各種金属錯体のルイス酸性度を示す。同図において、横軸は、前記ΔE値(eV)であり、縦軸は、速度定数の対数(log(kcat,M-2s-1))である。
【0097】
密度汎関数計算(B3LYP/6-31G(d)レベル)よりBzn+の構造を最適化した。その構造を図12に示す。同図に示すとおり、Mulliken電荷およびLUMO軌道はアンモニウム窒素近傍に局在化していることから、Bzn+はルイス酸性度を示すことが予想される。
【0098】
[実施例3]
本実施例では、ルイス酸によるNaClO2の不均化反応の加速効果について確認した。
【0099】
実施例1でも確認したとおり、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は中性水溶液/アセトニトリル混合溶液中では、非常に安定であるために全く分解は観測されない。この20mM溶液に、Sc(OTf)3(40mM)を添加するとNaClO2の吸収帯の減衰に伴い、即座に358nmにClO2ラジカル(ClO2)に特徴的な吸収帯の増大が観測された(図13)。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。この吸収帯の増大は、実施例1(図1)で確認したとおり、Sc(OTf)3の濃度を小さくすると経時変化として観測することができた。スカンジウムイオンよりもルイス酸性度の低いマグネシウムイオンおよびリチウムイオンなどでも同様の検討を行い、それぞれ反応速度定数を決定した。ルイス酸はこれまでに種々の不均化反応を触媒することが知られており、本反応においても同様の機構により、実施例1の反応式(2)に従って、ClO2-がClO-とClO3-に不均化されたものと考えられる。その後、生成したClO-は大過剰に存在するClO2-と酸存在下反応し、Cl2O2を与えると考えられる(実施例1の反応式(3))。その後、Cl2O2はさらにClO2-と反応し活性ラジカル種であるClO2ラジカルを与えると考えられる(実施例1の反応式(4))。
【0100】
[実施例4]
本実施例では、塩化ベンゼトニウムを用いたClO2ラジカル発生および酸化反応の促進について確認した。
【0101】
まず、ClO2ラジカルは強い酸素化反応活性を示すと考えられるので、脱酸素アセトニトリル/水(1:1v/v)混合溶液中に10-メチル-9,10-ジヒドロアクリジン(AcrH2)(1.4mM)と亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)(2.8mM)を添加した。この場合、AcrH2の酸素化反応はほとんど進行しなかった(図14)。図14(a)〜(c)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。図14(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。図14(b)は、波長358nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。図14(c)は、波長387nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。
【0102】
つぎに、図14と同じ混合溶液を調整し、さらにBzn+(0.56mM)を添加すると、AcrH2から10-メチルアクリドンへの酸素化反応が進行した(図15)。図15(a)および(b)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。図15(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。図15(b)は、波長387nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。図15(a)および(b)に示すとおり、10-メチルアクリドン(λmax=382nm)に由来する吸収が増大する経時変化が見られたことから、AcrH2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応が進行したことが確認された。
【0103】
また、図15と同じ混合溶液に、さらに、スカンジウムトリフルオロメタンスルホナート(Sc(OTf)3,3.0mM)を添加しても、AcrH2から10-メチルアクリドンへの酸素化反応が進行した(図16)。図16(a)および(b)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。図16(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。図16(b)は、波長430nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。図16(a)および(b)に示すとおり、10-メチルアクリドンに由来する吸収が増大する経時変化が見られたことから、AcrH2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応が進行したことが確認された。この酸素化反応は図17に示す連鎖反応機構によって進行すると考えられる。すなわち、ここで、ClO2は10-メチルアクリドンから水素を引き抜くと同時に酸素を添加することによってアクリドンを与えると考えられる。一方酸素を添加した後の生成物であるClOはClO2-と電子移動反応を起こし、ClO-とClO2を与え再生すると考えられる。
【0104】
[実施例5]
本実施例では、ルイス酸を用いたNaClO2による基質の酸素化反応を、トリフェニルフォスフィンからトリフェニルフォスフィンオキシドへの酸素化反応に用い、有用であることを確認した。より具体的には、NaClO2によるトリフェニルフォスフィンからトリフェニルフォスフィンオキシドへの酸素化反応を、ルイス酸であるスカンジウムトリフレートSc(OTf)3の存在下および非存在下で行い、ルイス酸が反応を促進することを確認した。
【0105】
まず、下記条件により、Sc(OTf)3の存在下または非存在下、常温常圧(光照射なし)で反応を行い、紫外可視吸収スペクトルにより反応を追跡した。図22(a)の紫外可視吸収スペクトルは、経時変化によりトリフェニルフォスフィンがトリフェニルフォスフィンオキシドに変換される様子を示す。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。また、図22(b)のグラフは、Sc(OTf)3(Sc3+)の存在下および非存在下でのトリフェニルフォスフィン(Ph3P)濃度の経時変化を表す。横軸は時間(秒)であり、縦軸はトリフェニルフォスフィン(Ph3P)濃度(mM)である。図示のとおり、この曲線から算出された反応速度定数kは、Sc3+の非存在下では9.8×10-4S-1であったのに対し、Sc3+の存在下では1.7×10-3S-1と増大していたことから、Sc3+(ルイス酸)が反応を促進したことが確認された。

[Ph3P]=0.4mM
[NaClO2]=0.4mM
Sc(OTf)3=0または10mM
0.12M 酢酸緩衝液 pH5.3
MeCN/H2O(4:6)
【0106】
また、脱酸素アセトニトリルMeCN/H2O(0.9ml/0.1ml)中、トリフェニルフォスフィンとNaClO2(4.0mM)を混合しても反応は全く進行しなかった。ここにスカンジウムトリフレートSc(OTf)3(30mM)を添加すると効率よく酸素化生成物を与えた。前記反応は、トリフェニルフォスフィンの初期濃度を1.0mM、2.0mM、4.0mMおよび8.0mMに変化させて、それぞれ25℃で15分間行った。反応の追跡は紫外可視吸収スペクトルのスペクトル変化により行った(図18(a))。図18(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。これは、スカンジウムイオンSc3+によって活性ラジカル種であるClO2ラジカルが発生し、Ph3PがPh3P=Oへ酸素化されたものであると考えられる。量論は下記反応式(6)の通りであり、ほぼ定量的に反応は進行することが確認された(図18(b))。図18(b)において、横軸はPh3Pの初期濃度であり、縦軸は生成したPh3P=Oの濃度である。

2Ph3P+NaClO2 --> 2Ph3P=O+NaCl (6)
【0107】
[実施例6]
本実施例では、アセトニトリル中、9−メシチル−10−メチルアクリジニウム(Acr+-Mes)の過塩素酸塩(Acr+-Mes ClO4-)および酸素の存在下で原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の酸化反応を行って酸化反応生成物(安息香酸)を得た(図20)。反応は、Bzt+Cl-の存在下および非存在下で行った。
【0108】
反応溶媒としては、酸素ガスで飽和させたCD3CNを0.6mL用い、図20に示すとおり、Acr+-Mes ClO4-を1mM、ベンズアルデヒド(PhCHO)を5mM、Bzt+Cl-を0または1mM加え、キセノンランプで波長390nmの光を照射したか、または照射しなかった。反応は、1HNMRで追跡した。その結果を、図20中の表に示す。表中、「×」は、試薬を加えなかった、または光(light)を照射しなかったことを表す。「○」は、光(light)を照射したことを表す。「conversion」は、原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の変換率であり、「yield」は、安息香酸の収率である。「time」は、反応時間である。図20に示すとおり、Bzt+Cl-を加えなかった場合、安息香酸の収率は痕跡量(trace)であった。Bzt+Cl-を加えた場合、安息香酸の収率は60%、ベンズアルデヒドの変換率は63%であった。この結果から、Acr+-Mesは、ルイス酸(Bzt+Cl-)の非存在下では反応性が低いが、ルイス酸(Bzt+Cl-)存在下ではAcr+-Mesからのラジカル発生が促進され、強力な反応剤になったことを示していると考えられる。
【0109】
[実施例7]
本実施例では、前記「ルイス酸性度の測定方法」で説明した測定方法により、各種アンモニウムをラジカル発生触媒、酸素分子をラジカル発生源(酸化剤を兼ねる)として用い、コバルトテトラフェニルポルフィリンの酸化反応生成物を製造した。すなわち、下記化学反応式(1a)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン、飽和Oおよびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をし、酸化反応生成物であるCoTPPが得られたことを確認した。
【0110】
【数1a】
【0111】
前記酸化反応は、下記表中に示した各アンモニウムをラジカル発生触媒として用いて行った。下記表中において、「kcat,M-2s-1」で表される数値が、各アンモニウムのルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数である。「LUMO, eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。また、「benzetonium chloride」は塩化ベンゼトニウムを表し、「benzalkonium chloride」は塩化ベンザルコニウムを表し、「tetramethylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム塩を表し、「tetrabutylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム塩を表し、「ammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩を表す。
【0112】
【表tpp】
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上、説明したとおり、本発明のラジカルの製造方法によれば、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことができる。本発明のラジカルの製造方法の用途としては、例えば、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に用いることができる。本発明の酸化反応生成物の製造方法は、有機化合物および無機物質を含む種々の被酸化物の酸化反応に適用可能であり、その応用範囲は広い。さらに、本発明のラジカルの製造方法の用途は、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に限定されず、広範な用途に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22