特許第6268181号(P6268181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268181
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】分岐鎖状アミノ酸のNMR定量
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20180115BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20180115BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G01N24/08 510Q
   G01N33/68
   G01N33/483 C
【請求項の数】36
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-536865(P2015-536865)
(86)(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公表番号】特表2015-537197(P2015-537197A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】US2013064142
(87)【国際公開番号】WO2014059025
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】61/711,471
(32)【優先日】2012年10月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/801,604
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/830,784
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/830,199
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2013/041274
(32)【優先日】2013年5月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2013/043343
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/831,353
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2013/044679
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506140561
【氏名又は名称】リポサイエンス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】オコネル,トーマス エム.
(72)【発明者】
【氏名】メルシエ,ケリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】シャラウロヴァ,イリナ ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】オトボス,ジェームス ディー.
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/143779(WO,A1)
【文献】 特表2010−534325(JP,A)
【文献】 特開2006−317311(JP,A)
【文献】 特開2007−132752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/08
G01N 33/483
G01N 33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場Bを有するNMR分光計内に少なくとも1つの未濾過in vitro血清又は血漿サンプルを配置することと、
複数のBCAAに関連付けられるピークを含む前記サンプルのNMRスペクトルを電子的に取得することと、
前記取得されたNMRスペクトル中のBCAAピークにスカラー結合情報を適用することにより当てはめを容易にすることと、
定義された曲線当てはめ関数を用いて前記NMRスペクトルをデコンボリューションすることと、
其々のBCAAに関連付けられる前記デコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算することと、次いで、
前記計算された強度シグナルの値と、対応するBCAAの既知濃度との其々の相関を用いて、複数のBCAAの濃度を電子的に計算することと、
を含む、BCAA濃度の決定方法。
【請求項2】
前記濃度を電子的に計算することが、少なくとも正常生物学的範囲に渡り濃度に関連付けられる其々の定義された線形式を用いて複数のBCAAの其々に対して実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各サンプル其々の各NMRスペクトルに対して、前記デコンボリューションする前に、前記NMRスペクトル中の少なくとも1つの参照ピークを電子的に評価して、磁場不均一性の評価及び/又は適切な当てはめ関数若しくはその線幅の選択を行うことを更に含み、前記少なくとも1つの参照ピークの線幅及び/又は線形状が、磁場Bの不均一性及び/又は均一性に関連付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記デコンボリューションする前に、各サンプルに対して、Bの均一性に依存する形状特性を有する其々のサンプル中に存在する少なくとも1つの内因性又は外因性の参照ピークの位置、線形状、及び/又は線幅を電子的に決定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記デコンボリューションする工程の前に、其々のサンプルに対して、少なくとも1つの参照ピークを用いて、各NMRスペクトルの線形状及び/又は線幅の特性を計算により決定して、其々の個別のNMRスペクトルに関連付けられる磁場均一性特性の差を補正することと、次いで、(a)異なる当てはめ関数及び/又は(b)異なる線幅を用いて異なるサンプルを異なる形で評価できるように、前記少なくとも1つの参照ピークに対応する線幅及び/又は線形状の当てはめ関数を有する定義されたデコンボリューションモデルを選択することとを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スカラー結合情報が、磁場強度に関係なく、ヘルツ単位で測定したときに一定の距離だけ分離される多重ピークを同定し、且つ前記デコンボリューションすることが、前記距離又はその近傍に分離距離を拘束することにより前記当てはめを拘束可能な当てはめ関数を含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記濃度を電子的に計算することが、各BCAAに対して、濃度対無単位強度シグナル相関の線形関数として定義されたスカラー濃度値を適用することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記BCAAが、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み、且つ前記デコンボリューションすることが、タンパク質成分及びリポタンパク質成分を用いて当てはめられたベースラインを用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記デコンボリューションする前に、前記サンプルの内因性又は外因性のアナライト又は成分に関連付けられる得られたNMRスペクトル中の少なくとも1つのpH化学シフト不変参照ピークを電子的に評価することと、次いで、前記NMRスペクトル中のBCAAピークの位置を決定することとを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電子的に取得することが、単一NMRスペクトル/サンプルに対して約10秒間〜5分間のNMR取得時間(AT)を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記電子的に取得することが、其々のサンプルNMRスペクトルに対して約16〜96スキャンで実施され、且つ前記BCAA濃度を電子的に計算することが、単一NMRスペクトル/サンプルを用いて実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプル中のリポタンパク質及びタンパク質のシグナルを低分子BCAAのシグナルよりも大幅に減衰するパルスシーケンスを送信することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記パルスシーケンスが、前記リポタンパク質及びタンパク質のシグナルを減衰する定義された遅延を有するカー・パーセル・メイブーム・ギル(CPMG)パルスシーケンスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CPMGパルスシーケンスが約60ms〜約400msの遅延を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記CPMGパルスシーケンスが約100msの遅延を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記CPMGパルスシーケンスが約200msの遅延を有し、前記方法が、前記CPMGパルスシーケンスに関連付けられる前記BCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる前記計算された濃度の定量誤差を電子的に補正することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記CPMGパルスシーケンスが約300msの遅延を有し、前記方法が、前記CPMGパルスシーケンスに関連付けられる前記BCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる前記計算された濃度の定量誤差を電子的に補正することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記CPMGパルスシーケンスが約400msの遅延を有し、前記方法が、前記CPMGパルスシーケンスに関連付けられる前記BCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる前記計算された濃度の定量誤差を電子的に補正することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、第1のリポタンパク質パルスシーケンスを送信して、前記サンプルが前記NMR分光計内に存在する間に前記サンプル中のリポタンパク質及びタンパク質に関連付けられる第1のNMRスペクトルを取得することと、前記BCAAのNMRスペクトルを取得すべく前記第1のパルスシーケンスの前又は後でタンパク質及びリポタンパク質のシグナルを減衰するように構成された第2のパルスシーケンスを送信して、前記BCAAに関連付けられるNMRスペクトルを取得することとを含み、パルスシーケンス及び後続のNMRスペクトルが両方共、1サンプル当たり約2分間〜約6分間のNMRシグナル取得時間内で達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記取得する工程の前に、其々のサンプルを前記NMR分光計内に流入することを更に含み、且つ前記取得することが、8時間当たり約50〜250個の未濾過サンプルの速度で其々のNMRスペクトルを逐次取得することにより実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記複数のBCAAが、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み、且つバリン及びロイシンが、取得されたNMRスペクトルにイソロイシンよりも少ないスキャンで関連付けられて定量される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
バリン及びロイシンを計算する為に用いられるNMRスペクトルが16〜96スキャンで生成され、且つイソロイシンを計算する為に用いられるNMRスペクトルが96スキャンで生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記電子的に計算することが、少なくとも正常生物学的濃度範囲の臨床関連濃度測定値を提供すべく各BCAAに対して其々の定義された線形濃度式を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比又は加重指数を電子的に計算することを更に含み、前記比又は加重指数が、次のもの、即ち、(a)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む被除数、(b)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む除数、又は(c)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む被除数及び除数の少なくとも1つを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を電子的に計算することを更に含み、前記比及び/又は加重指数が、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に、1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を電子的に計算することを更に含み、前記比及び/又は加重指数が、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に、1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つ及びアミノ酸の無単位シグナル又は濃度測定値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか一項に記載の工程を実施するように構成された少なくとも1つのプロセッサを含む、BCAAの測定値を提供するように構成された回路。
【請求項28】
in vitro患者生体サンプルを評価する為のコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品が、
媒体内に組み込まれたコンピュータ可読プログラムコードを有する非一時コンピュータ可読記憶媒体
を含み、前記コンピューター可読プログラムコードが、
定義された当てはめ関数を用いて其々の未濾過患者サンプルの分岐鎖状アミノ酸(BCAA)ピークを有するNMRスペクトルをデコンボリューションするように構成されたコンピュータ可読プログラムコードと、
其々のBCAAに関連付けられるデコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算するコンピュータ可読プログラムコードと、
無単位強度シグナルに対するBCAAの濃度を提供するように構成されたコンピュータ可読プログラムコードと、を含み、
前記BCAAが、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み、且つ前記デコンボリューションすることが、タンパク質成分及びリポタンパク質成分を用いて当てはめられたベースラインを用いて実施される、
コンピュータプログラム製品。
【請求項29】
方法請求項2〜26のいずれか一項を実施するように構成された、請求項28に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項30】
其々のin vitro生体サンプルの少なくとも1つのNMRスペクトルを取得する為のNMR分光計であって、前記NMR分光計が静磁場Bを有する、NMR分光計と、
前記NMR分光計と通信状態の少なくとも1つのプロセッサであって、前記少なくとも1つのプロセッサが、其々の生体サンプルに対して、前記取得された少なくとも1つのNMRスペクトルを用いて、
定義された当てはめ関数により前記NMRスペクトルをデコンボリューションし、
其々のBCAAに関連付けられる前記デコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算し、次いで、
前記計算された強度シグナルの値と、対応するBCAAの既知濃度との其々の相関を用いて、複数のBCAAの濃度を計算するように構成される、少なくとも1つのプロセッサと、を含み、
前記BCAAが、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み、且つ前記デコンボリューションすることが、タンパク質成分及びリポタンパク質成分を用いて当てはめられたベースラインを用いて実施される、
システム。
【請求項31】
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記デコンボリューションする工程の前に、其々のサンプルに対して、少なくとも1つの参照ピークを用いて、各NMRスペクトルの線形状及び/又は線幅の特性を計算により決定して、其々の個別のNMRスペクトルに関連付けられる磁場均一性特性の差を補正し、次いで、(a)異なる当てはめ関数及び/又は(b)異なる線幅を用いて異なるサンプルを異なる形で評価できるように、前記少なくとも1つの参照ピークに対応する線幅及び/又は線形状の当てはめ関数を有する定義されたデコンボリューションモデルを選択するように構成される、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記少なくとも1つのプロセッサが、BCAAシグナルを定量すべく其々のNMRスペクトルをデコンボリューションする前に、前記サンプルの内因性又は外因性のアナライト又は成分に関連付けられる其々の取得されたNMRスペクトル中の少なくとも1つのpH化学シフト不変参照ピークを評価し、次いで、前記NMRスペクトル中のBCAAピークの位置を決定するように構成される、請求項30に記載のシステム。
【請求項33】
前記少なくとも1つのプロセッサが、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を計算するように構成され、前記比及び/又は加重指数が、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に、1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つを含む、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記少なくとも1つのプロセッサが、各BCAAに対して、濃度対無単位強度シグナル相関の線形関数として定義されたスカラー濃度値を適用することにより、其々の濃度を計算する、請求項32に記載のシステム。
【請求項35】
前記システムが、第1のリポタンパク質パルスシーケンスを送信して、前記サンプルが前記NMR分光計内に存在する間に前記サンプル中のリポタンパク質及びタンパク質に関連付けられる第1のNMRスペクトルを取得し、そして前記BCAAのNMRスペクトルを取得すべく前記第1のパルスシーケンスの前又は後でタンパク質及びリポタンパク質のシグナルを減衰するように構成された第2のパルスシーケンスを送信して、前記BCAAに関連付けられるNMRスペクトルを取得するように構成され、パルスシーケンス及び後続のNMRスペクトルが両方共、1サンプル当たり約2分間〜約6分間のNMRシグナル取得時間内で達成される、請求項32に記載のシステム。
【請求項36】
前記少なくとも1つのプロセッサが、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成される、請求項32に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2012年10月9日出願の米国仮出願第61/711,471号明細書及び2013年6月5日出願の米国仮出願第61/831,353号明細書(それらの内容はあたかも全体が本明細書に述べられたが如く参照により本明細書に組み込まれる)に基づく特典及び優先権を主張する。本出願はまた、2013年3月13日出願の米国特許出願第13/801,604号明細書、2013年3月14日出願の米国特許出願第13/830,199号明細書、2013年3月14日出願の米国特許出願第13/830,784号明細書、2013年5月16日出願の国際出願第PCT/US2013/041274号明細書、2013年5月30日出願の国際出願第PCT/US2013/043343号明細書、及び2013年6月7日出願の国際出願第PCT/US2013/044679号明細書(それらの内容はあたかも全体が本明細書に述べられたが如く参照により本明細書に組み込まれる)に基づく優先権を主張し、且つそれらの一部継続である。
【0002】
本発明は、一般的には、NMRを用いた分岐鎖状アミノ酸の定量に関する。本発明は、ヒトの血漿又は血清のNMR分析に特に好適であり得る。
【背景技術】
【0003】
バリン、イソロイシン、及びロイシンを含む分岐鎖状アミノ酸(BCAA)は、代謝性疾患などの種々の疾患との関連を有し得る。また、それらは、治療的介入で及び食事サプリメントとして使用され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,933,844号明細書
【特許文献2】米国特許第6,617,167号明細書
【特許文献3】米国特許第7,243,030号明細書
【特許文献4】米国特許第8,013,602号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】サイコギオス(Psychogios)ら著、2011年、ヒト血清メタボローム(The Human Serum Metabolome)、プロス・ワン(PLoS ONE)、第6巻、第2号、e16957、表3、NMRにより決定された血清中代謝物の濃度(平均値±標準偏差)(Concentrations(mean +/− standard deviation) of serum metabolites as determined by NMR)
【非特許文献2】ローソン,CL(Lawson,CL)、ハンソン RJ(Hanson RJ)著、最小二乗問題の解法(Solving Least Squares Problems)、エングルウッド・クリフス、ニュージャージー州(Englewood Cliffs,NJ)、プレンティス−ホール(Prentice−Hall)、1974年
【非特許文献3】オトボス,JD(Otvos,JD)、ジェヤラジャ,EJ(Jeyarajah,EJ)及びベンネット,DW(Bennett,DW)著、クリニカル・ケミストリー(Clin Chem)、第37号、p.377、1991年
【非特許文献4】ベッコナート,O.(Beckonert,O.)、コイン,H.C.(Keun,H.C.)、エベルス,T.M.(Ebbels,T.M.)ら著、ネイチャー・プロトコル(Nat.Protoc.)、2007年、第2巻、p.2692−2703
【非特許文献5】シンプソン,A.J.(Simpson,A.J.)、ブラウン,S.A.(Brown,S.A.)著、ジャーナル・オブ・マグネティック・レゾナンス(J.Magn.Reson.)、2005年、第175巻、p.340−346
【非特許文献6】スモールコム,S.H.(Smallcombe,S.H.)、パット,S.L.(Patt,S.L.)、ケイファー,P.A.(Keifer,P.A.)著、ジャーナル・オブ・マグネティック・レゾナンス(J.Magn.Reson.)、シリーズA、1995年、第117巻、p.295−303
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、少なくとも1種の分岐状アミノ酸のNMR定量の為の方法、システム、回路、アナライザー、及びコンピュータプログラム製品を提供する。
【0007】
本発明の実施形態は、患者のin vitro未濾過生体サンプル中の分岐鎖状アミノ酸(BCAA)の定量方法に関する。本方法は、生体サンプルの標的当てはめ領域を含む複合NMRスペクトルを電子的に取得することと、少なくとも1つのBCAA当てはめ領域を有する定義されたデコンボリューションモデルを用いて複合NMRスペクトルを電子的にデコンボリューションすることと、計算当てはめ関数を用いて少なくとも1つのBCCAの尺度を電子的に生成することとを含み得る。
【0008】
本発明の実施形態は、BCAAの濃度の決定方法を提供する。本方法は、静磁場Bを有するNMR分光計内に少なくとも1つの未濾過in vitro血清又は血漿サンプルを配置することと、複数のBCAAに関連付けられるピークを含むサンプルのNMRスペクトルを電子的に取得することと、定義された曲線当てはめ関数を用いてNMRスペクトルをデコンボリューションすることと、其々のBCAAに関連付けられるデコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算することと、次いで、計算された強度シグナルの値と、対応するBCAAの既知濃度との其々の相関を用いて、複数のBCAAの濃度を電子的に計算することとを含む。
【0009】
濃度の電子的計算は、少なくとも正常生物学的範囲に渡り濃度に関連付けられる其々の定義された線形式を用いて複数のBCAAの其々に対して実施可能である。
【0010】
線形式はまた、任意選択で高値及び/又は低値の外れ値を含み得る。
【0011】
本方法は、デコンボリューション前に、各サンプル其々の各NMRスペクトルに対して、NMRスペクトル中の少なくとも1つの参照ピークを電子的に評価して、磁場不均一性の評価及び/又はそれらの適切な当てはめ関数若しくは線幅の選択を行うことを含む。少なくとも1つの参照ピークの線幅及び/又は線形状は、磁場Bの不均一性及び/又は均一性に関連付け可能である。
【0012】
本方法は、得られたNMRスペクトル中のBCAAピークにスカラー結合情報を適用することによりデコンボリューション時に当てはめを容易にすることを含み得る。
【0013】
スカラー結合情報を用いれば、磁場強度に関係なく、ヘルツ単位で測定したときに一定の距離だけ分離される多重ピークを同定することが可能であり、デコンボリューションには、その距離又はその近傍に分離距離を拘束することにより当てはめを拘束可能な当てはめ関数を含めることが可能である。
【0014】
本方法は、デコンボリューション前に、各サンプルに対して、Bの均一性に依存する形状特性を有する其々のサンプル中に存在する少なくとも1つの内因性又は外因性の参照ピークの位置、線形状、及び/又は線幅を電子的に決定することを含み得る。
【0015】
本方法は、デコンボリューション工程前に、其々のサンプルに対して、少なくとも1つの参照ピークを用いて、各NMRスペクトルの線形状及び/又は線幅の特性を計算により決定して、其々の個別のNMRスペクトルに関連付けられる磁場均一性特性の差を補正することと、次いで、(a)異なる当てはめ関数及び/又は(b)異なる線幅を用いて異なるサンプルを異なる形で評価できるように、少なくとも1つの参照ピークに対応する線幅及び/又は線形状の当てはめ関数を有する定義されたデコンボリューションモデルを選択することとを含み得る。
【0016】
幾つかの実施形態では、濃度の電子的計算は、各BCAAに対して、濃度対無単位強度シグナル相関の線形関数として定義されたスカラー濃度値を適用することを含み得る。
【0017】
幾つかの実施形態では、複数のBCAAは、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み得ると共に、デコンボリューションは、タンパク質成分及びリポタンパク質成分を用いて当てはめられたベースラインを用いて実施され得る。
【0018】
本方法は、デコンボリューション前に、サンプルの内因性又は外因性のアナライト又は成分に関連付けられる得られたNMRスペクトル中の少なくとも1つのpH化学シフト不変参照ピークを電子的に評価することと、次いで、NMRスペクトル中のBCAAピークの位置を決定することとを含み得る。
【0019】
幾つかの実施形態では、電子的取得は、単一NMRスペクトル/サンプルに対して約10秒間〜5分間のNMR取得時間を用いて実施可能である。
【0020】
幾つかの実施形態では、電子的取得は、其々のサンプルNMRスペクトルに対して約16〜96スキャンで実施可能であり、且つBCAA濃度の電子的計算は、単一NMRスペクトル/サンプルを用いて実施可能である。
【0021】
本方法は、サンプル中のリポタンパク質及びタンパク質のシグナルを低分子BCAAのシグナルよりも大幅に減衰するパルスシーケンスを送信することを含み得る。
【0022】
幾つかの実施形態では、パルスシーケンスは、リポタンパク質及びタンパク質のシグナルを減衰する定義された遅延を有するカー・パーセル・メイブーム・ギル(CPMG)パルスシーケンスを含み得る。
【0023】
CPMGパルスシーケンスは、約60ms〜約400msの遅延を有し得る。幾つかの実施形態では、CPMGパルスシーケンスは、約100msの遅延を有し得る。
【0024】
幾つかの実施形態によれば、CPMGパルスシーケンスは、約200msの遅延を有し得ると共に、本方法は、CPMGパルスシーケンスに関連付けられるBCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる計算濃度の定量誤差を電子的に補正することを含み得る。
【0025】
幾つかの実施形態では、CPMGパルスシーケンスは、約300msの遅延を有し得ると共に、本方法は、CPMGパルスシーケンスに関連付けられるBCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる計算濃度の定量誤差を電子的に補正することを含み得る。
【0026】
さらなる実施形態では、CPMGパルスシーケンスは、約400msの遅延を有し得ると共に、本方法は、CPMGパルスシーケンスに関連付けられるBCAAのシグナル強度の減衰に関連付けられる計算濃度の定量誤差を電子的に補正することを含み得る。
【0027】
特定の実施形態では、本方法は、第1のリポタンパク質パルスシーケンスを送信して、サンプルがNMR分光計内に存在する間にサンプル中のリポタンパク質及びタンパク質に関連付けられる第1のNMRスペクトルを取得することと、BCAAのNMRスペクトルを取得すべく第1のパルスシーケンスの前又は後でタンパク質及びリポタンパク質のシグナルを減衰するように構成された第2のパルスシーケンスを送信して、BCAAに関連付けられるNMRスペクトルを取得することとを含み得る。パルスシーケンス及び後続のNMRスペクトルは両方共、1サンプル当たり約2分間〜約6分間のNMRシグナル取得時間内で達成可能である。
【0028】
幾つかの実施形態では、本方法は、取得工程前に其々のサンプルをNMR分光計内に流入することを含み得る。取得は、8時間当たり約50〜250個の未濾過サンプルの速度で其々のNMRスペクトルを逐次取得することにより実施可能である。
【0029】
幾つかの実施形態では、複数のBCAAは、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み、且つバリン及びロイシンは、取得されたNMRスペクトルにイソロイシンよりも少ないスキャンで関連付けられて定量可能である。
【0030】
幾つかの実施形態では、バリン及びロイシンを計算する為に用いられるNMRスペクトルは、16〜96スキャンで生成可能である。イソロイシンを計算する為に用いられるNMRスペクトルは、96スキャンで生成可能である。
【0031】
幾つかの実施形態では、電子的計算は、少なくとも正常生物学的濃度範囲の臨床関連濃度測定値を提供すべく各BCAAに対して其々の定義された線形濃度式を用いて実施可能である。
【0032】
幾つかの実施形態では、第1のパルスシーケンスは、図6に示されるパルスシーケンスを含み得る。
【0033】
本方法は、幾つかの実施形態では、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比又は加重指数を電子的に計算することを含み得る。比又は加重指数は、次のもの、即ち、(a)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む被除数、(b)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む除数、又は(c)1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは計算濃度の少なくとも1つを含む被除数及び除数の少なくとも1つを有し得る。
【0034】
幾つかの実施形態では、本方法は、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を電子的に計算することを含み得る。比又は加重指数は、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つを含む。
【0035】
本方法は、幾つかの実施形態では、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を電子的に計算することを含み得る。但し、比及び/又は加重指数は、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に、1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つ及びアミノ酸の無単位シグナル又は濃度測定値を含む。
【0036】
本発明の特定の実施形態は、BCAAの測定値を提供するように構成された回路に関する。回路は、本発明に係るいずれかの方法の工程を実施するように構成された少なくとも1つのプロセッサを含む。
【0037】
本発明のさらなる実施形態は、in vitro患者生体サンプルを評価する為のコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータプログラム製品は、媒体内に組み込まれたコンピュータ可読プログラムコードを有する非一時コンピュータ可読記憶媒体を含む。コンピュータ可読プログラムコードは、定義された当てはめ関数を用いて其々の未濾過患者サンプルの分岐鎖状アミノ酸(BCAA)ピークを有するNMRスペクトルをデコンボリューションするように構成されたコンピュータ可読プログラムコードと、其々のBCAAに関連付けられるデコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算するコンピュータ可読プログラムコードと、無単位強度シグナルに対するBCAAの濃度を提供するように構成されたコンピュータ可読プログラムコードとを含む。
【0038】
コンピュータプログラム製品は、本発明に係る1つ以上の方法を実施するように構成可能である。
【0039】
更に他の実施形態は、システムに関する。本システムは、其々のin vitro生体サンプルの少なくとも1つのNMRスペクトルを取得する為のNMR分光計であって、NMR分光計が静磁場Bを有する、NMR分光計と、NMR分光計と通信状態の少なくとも1つのプロセッサとを含む。少なくとも1つのプロセッサは、其々の生体サンプルに対して、取得された少なくとも1つのNMRスペクトルを用いて、定義された当てはめ関数によりNMRスペクトルをデコンボリューションし、其々のBCAAに関連付けられるデコンボリューションされたスペクトルから無単位強度シグナルを計算し、次いで、計算された強度シグナルの値と、対応するBCAAの既知濃度との其々の相関を用いて、複数のBCAAの濃度を計算するように構成される。
【0040】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、デコンボリューション工程前に、其々のサンプルに対して、少なくとも1つの参照ピークを用いて、各NMRスペクトルの線形状及び/又は線幅の特性を計算により決定して、其々の個別のNMRスペクトルに関連付けられる磁場均一性特性の差を補正し、次いで、(a)異なる当てはめ関数及び/又は(b)異なる線幅を用いて異なるサンプルを異なる形で評価できるように、少なくとも1つの参照ピークに対応する線幅及び/又は線形状の当てはめ関数を有する定義されたデコンボリューションモデルを選択するように構成可能である。
【0041】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、BCAAシグナルを定量すべく其々のNMRスペクトルをデコンボリューションする前に、サンプルの内因性又は外因性のアナライト又は成分に関連付けられる其々の取得されたNMRスペクトル中の少なくとも1つのpH化学シフト不変参照ピークを評価し、次いで、NMRスペクトル中のBCAAピークの位置を決定するように構成可能である。
【0042】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する比及び/又は加重指数を電子的に計算するように構成可能である。比及び/又は加重指数は、除数若しくは被除数又は除数及び被除数の両方に1種以上のBCAAの無単位シグナル又は計算濃度の少なくとも1つを含み得る。
【0043】
少なくとも1つのプロセッサは、幾つかの実施形態では、各BCAAに対して濃度対無単位強度シグナル相関の線形関数として定義されるスカラー濃度値を適用することにより、其々の濃度を計算可能である。
【0044】
幾つかの実施形態では、BCAAは、バリン、イソロイシン、及びロイシンを含み得ると共に、デコンボリューションは、タンパク質成分及びリポタンパク質成分を用いて当てはめられたベースラインを用いて実施され得る。
【0045】
幾つかの実施形態では、システムは、第1のリポタンパク質パルスシーケンスを送信して、サンプルがNMR分光計内に存在する間にサンプル中のリポタンパク質及びタンパク質に関連付けられる第1のNMRスペクトルを取得し、そしてBCAAのNMRスペクトルを取得すべく第1のパルスシーケンスの前又は後でタンパク質及びリポタンパク質のシグナルを減衰するように構成された第2のパルスシーケンスを送信して、BCAAに関連付けられるNMRスペクトルを取得するように構成可能である。パルスシーケンス及び後続のNMRスペクトルは両方共、1サンプル当たり約2分間〜約6分間のNMRシグナル取得時間内で達成可能である。
【0046】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、本発明に係るいずれかの方法を実施するように構成可能である。
【0047】
本発明のさらなる特徴、利点、及び詳細は、図面及び以下の好ましい実施形態の詳細な説明を解読することにより、当業者であれば分かるであろう。そのような説明は、単に本発明を例示したものに過ぎない。一実施形態に対して説明された特徴は、特定的に考察されたものではない他の実施形態で組込み可能である。即ち、一実施形態に対して説明された本発明の態様は、特定的に説明されたものではない異なる実施形態に組み込まれ得ることが、留意すべき点である。即ち、すべての実施形態及び/又は任意の実施形態の特徴は、任意の方法及び/又は組合せで組合せ可能である。出願人は、最初に申請されたものではない任意の他の請求項に従属するように及び/又はその任意の特徴を組み込むように任意の最初に出願された請求項を補正できる権利を含めて、任意の最初に出願された請求項を変更する権利及び/又は任意の新しい請求項を適宜出願する権利を留保する。本発明の上記及び他の態様は、以下に示される本明細書で詳細に説明される。
【0048】
本開示に照らして当業者であれば分かるであろうが、本発明の実施形態は、方法、システム、装置、及び/又はコンピュータプログラム製品、或いはそれらの組合せを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の実施形態に係る少なくとも1種のBCAAのNMR尺度を計算する為に使用可能な例示的操作のフロー図である。
図2】本発明の実施形態に係るバリン、イソロイシン、及びロイシンの定量当てはめの実施例を示すNMRスペクトルである。
図3A】乃至
図3I】本発明の実施形態に係るBCAAに対する例示的線形濃度変換モデルのグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る標的分岐鎖状アミノ酸のメチル領域近傍のH NMRスペクトルの拡大図である。
図5】本発明の実施形態に係る3種のBCAAに対する例示的当てはめを同一のNMRスペクトル中の其々の定義されたピーク領域の拡大図として示している。
図6】本発明の実施形態に係るWET溶媒抑制を有する標準的「1パルス」プロトコルを用いた例示的パルスシーケンスである。
図7】本発明の特定の実施形態に係るタンパク質やリポタンパク質などの高分子及び大アグリゲートに関連付けられるシグナルを減衰すべくCPMG配列を含むように改変された図6の第1のパルスシーケンスを示している。
図8】本発明の実施形態に係る其々の異なる持続遅延時間を有する一連のCPMG取得H NMRスペクトルである。
図9】本発明の実施形態に係る図8の一連のスペクトルの拡大図である。
図10】本発明の実施形態に従って使用されるBCAA評価モジュール及び/又は回路を有するシステムの概略図である。
図11】本発明の実施形態に係るNMR分光装置の概略図である。
図12】本発明の実施形態に係るデータ処理システムの概略図である。
図13】本発明の実施形態に係るBCAAのNMR尺度を計算する為に使用可能な例示的操作のフロー図である。
図14A】本発明の実施形態に係るNMRバリン試験プロトコルのフロー図である。
図14B】本発明の実施形態に従って生体サンプルのNMRシグナルの取得前に使用可能な例示的前解析処理のフロー図である。
図14C】本発明の実施形態に従ってNMRを用いてバリンを評価する為に使用可能な操作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の上記及び他の目的及び態様は、以下に示される本明細書で詳細に説明される。
【0051】
次に、本発明の実施形態が示される添付の図面を参照しながら、本発明をこれ以降でより十分に説明する。然しながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化され得るので、本明細書に示される実施形態に限定されるものとみなされるべきではない。そうではなく、これらの実施形態は、本開示が十分且つ完全になるように、而も本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように、提供されている。
【0052】
同じ数は、全体を通じて同じ要素を参照する。図中、特定の線、層、成分、要素、又は特徴部の厚さは、明確さを期して誇張されていることもある。破線は、特に明記されていない限り、任意選択の特徴又は操作を示す。
【0053】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としたものであり、本発明を限定することを意図したものではない。本明細書で用いられる場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、特に文脈上明確に示されてない限り、複数形をも包含ことが意図される。「〜を含む(comprises)」及び/又は「〜を含む(comprising)」という用語は、本明細書で用いられる場合、明記された特徴、整数、工程、操作、要素、及び/又は成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、成分、及び/又はそれらのグループの存在又は追加を除外しないことが、更に理解されよう。本明細書で用いられる場合、「及び/又は(and/or)」という用語は、関連する列挙されたアイテムの1つ以上のありとあらゆる組合せを包含する。本明細書で用いられる場合、「X〜Y(between X and Y)」や「約X〜Y(between about X and Y)」などの語句は、X及びYを包含するものと解釈されるべきである。本明細書で用いられる場合、「約X〜Y(between about X and Y)」などの語句は、「約X〜約Y(between about X and Y)」を意味する。本明細書で用いられる場合、「約X〜Y(from about X to Y)」などの語句は、「約X〜約Y(from about X to about Y)」を意味する。
【0054】
特に定義されていない限り、本明細書で用いられる用語(科学技術用語を含む)はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同一の意味を有する。一般に使用される辞書で定義されるような用語は、本明細書の本文及び関連技術におけるそれらの意味に一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、特に本明細書に明示的に定義されていない限り、理想化された又は過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことが、更に理解されよう。周知の機能又は構成は、簡潔さ及び/又は明確さを期して、詳細に記載されていないこともある。用語に矛盾がある場合、本明細書が優先する。
【0055】
第1、第2などの用語は、種々の要素、成分、領域、層、及び/又はセクションを記述する為に本明細書で用いられ得るが、これらの要素、成分、領域、層、及び/又はセクションは、これらの用語により限定されるべきではないことが、理解されよう。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層、又はセクションと、他の領域、層、又はセクションとを区別する為にのみ使用される。従って、以下で考察される第1の要素、成分、領域、層、又はセクションは、本発明の教示から逸脱することなく、第2の要素、成分、領域、層、又はセクションと称することが可能である。操作(又は工程)の順序は、特に別段の指示がない限り、請求項又は図面に提示された順序に限定されるものではない。
【0056】
「プログラムで」という用語は、コンピュータプログラム及び/又はソフトウェア、プロセッサ、又は特定用途向け集積回路(ASIC)命令演算を用いて実施されることを意味する。「電子的」という用語及びその派生語は、精神的工程によるのではなく、電気回路及び/又は電気モジュールを備えたデバイスを用いて行われる自動操作又は半自動操作を意味し、典型的には、プログラムで実施される操作を意味する。「自動」及び「自動的」という用語は、操作が最小限の手作業若しくは手入力で又は手作業若しくは手入力なしで実施可能であることを意味する。「半自動」という用語は、オペレーターにいくらかの入力又は起動を許容するが、計算及びシグナル取得更にはイオン化成分の濃度の計算は、手入力を必要とすることなく電子的に、典型的にはプログラムで実施されることを意味する。
【0057】
本明細書で用いられる「約」という用語は、特定の値又は数±10%(平均値)を意味する。
【0058】
本明細書で用いられる「分岐鎖状アミノ酸」及び「BCAA」は、次のアミノ酸:バリン、ロイシン、及びイソロイシンの少なくとも1つを意味する。当業者には公知のように、分岐鎖状アミノ酸は、分岐状アルキル基側鎖を有するアミノ酸である。バリンは、化学式:HOCCH(NH)CH(CHを有する。ロイシンは、化学式:HOCCH(NH)CHCH(CHを有する。イソロイシンは、化学式:HOCCH(NH)CH(CH)CHCHを有する。
【0059】
BCAAをNMRにより測定する場合、値は、無単位尺度の強度であり得る。同一条件下で取得された異なるサンプルのシグナル強度を直接比較できるように、強度スケールは一定である。強度は、濃度に関連付け可能である。校正データを用いて定義された換算係数をBCAA無単位測定値に掛け算して、無単位値をμmol/L濃度単位などの濃度単位に換算又は変換し得る。
【0060】
当てはめプロセス前に、BCAA測定値を実験条件に基づいて調整することが必要なこともあり得る。即ち、1種以上のBCAAの実際の濃度の評価は、標準又はベースラインの実験条件からのNMRスペクトルの変動又は逸脱を引き起こす恐れのある異なる実験条件下で評価され得る其々のサンプルの強度、線幅、及び/又は線形状に基づくこともあり得る。サンプルごとに1つ以上の実際の実験条件を評価して使用するデコンボリューションモデルをカスタマイズできるように、in situで及び/又は其々のサンプルのNMRデータの取得時近傍で、1つ以上の実験条件を自動的又は電子的に決定することが可能である。
【0061】
本明細書で用いられる「実験条件」という用語は、限定されるものではないが、サンプルのpH、水抑制の程度、パルスシーケンス(例えば、CPMG遅延)に関連付けられるBCAAピーク減衰、磁場の均一性、サンプルの調製(例えば、サンプルの適正混合及び/又はフローセルを完全に満たすようなフローセル内へのサンプルの添加)、装置のシム状態、並びにそれらの任意の組合せを含み得る。
【0062】
「CAD」及び「CHD」という用語は、同義的に用いられ、其々、患者又は被験者が冠動脈疾患及び/又は冠動脈心疾患を発症する又は有するリスクに対応する。心血管疾患(CVD)という用語は、典型的にはCHD+発作である組み合わされた転帰を意味する。
【0063】
本明細書で用いられる場合、化学シフト位置(ppm)は、2.519ppmのCaEDTAシグナルを内部参照とするNMRスペクトルを意味する。従って、本明細書で考察及び/又は特許請求された記載のピーク位置は、当業者には周知のように、化学シフトをどのように生成又は参照するかに依存して変化し得る。従って、明確には、記載及び/又は特許請求されたピーク位置の幾つかは、当業者には周知のように、他の対応する化学シフトで等価な異なるピーク位置を有する。
【0064】
「生体サンプル」という用語は、ヒト又は動物のin vitroの血液、血漿、血清、CSF、唾液、洗浄液、痰、尿、又は組織サンプルを意味する。本発明の実施形態は、ヒトの血漿、血清、又は尿の生体サンプルの評価に特に好適であり得る。血漿、血清、又は尿のサンプルは、空腹時又は非空腹時のものであり得る。本発明の特定の実施形態では、生体サンプルは、未濾過のヒト血漿又はヒト血清であり得る。
【0065】
生体サンプルは、未処理であり得る。本明細書で用いられる「未処理生体サンプル」とは、質量分析の為のサンプル調製とは異なり、取得後に生体サンプル中の成分を除去する処理に付されていない生体サンプルを意味する。従って、生体サンプルをヒト又は動物から取得した後、生体サンプルの成分は、除去されない。例えば、血清生体サンプルを取得した後、血清は、血清から成分を除去する処理に付されない。幾つかの実施形態では、未処理生体サンプルは、濾過及び/又は限外濾過プロセスに付されない。未処理生体サンプルの例は、リポタンパク質成分及びタンパク質成分及び全低分子代謝物を含有する未濾過生体サンプルである。
【0066】
当業者であれば分かるであろうが、生体サンプル中のBCAAなどの成分の同定及び/又は定量を支援する為に、及び/又は実験対照を提供する為に、当業者に公知の種々の添加剤、標準物質、及び/又は希釈剤を生体サンプルに添加し得る。然しながら、生体サンプルへの添加剤、標準物質、及び/又は希釈剤の添加は、生体サンプルを取得した後に生体サンプル中の成分の除去を引き起こす処理を意味するものでもなければ、そうした処理を含むものでもない。特定の実施形態では、生体サンプルは、未濾過生体サンプルであり、且つ希釈剤で希釈される。
【0067】
希釈剤を生体サンプルに添加してサンプル混合物を形成し得る。好適な希釈剤は、限定されるものではないが、緩衝溶液及び/又は参照若しくは校正アナライト、例えば、当業者に公知のものを含む。例示的緩衝溶液は、限定されるものではないが、酸性緩衝剤、例えば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、及び/又は酢酸緩衝剤を含む。幾つかの実施形態では、希釈剤は、pH緩衝剤を含み得る。「pH緩衝剤」という用語は、生体サンプルに添加されてNMRスペクトル中に定義されたpH誘導NMRピークシフトを形成する1種又は一群の化学物質を意味する。例示的pH緩衝剤は、限定されるものではないが、クエン酸リン酸緩衝剤(例えば、クエン酸及び第二リン酸ナトリウム、例えば、CΗ・HO及びNaHPO・7HO)を含む。例えば、生体サンプルは、クエン酸、クエン酸ナトリウム、及び/又はリン酸ナトリウムを含むpH約2.6〜約5.5のクエン酸緩衝剤及び/又はクエン酸リン酸緩衝剤を含み得る。他の例示的緩衝剤は、限定されるものではないが、酢酸、酢酸ナトリウム、及び/又はリン酸ナトリウムを含むpH約3.7〜約5.5の酢酸緩衝剤及び/又は酢酸リン酸緩衝剤を含む。幾つかの実施形態では、生体サンプルは、クエン酸及び第二リン酸ナトリウムを含むクエン酸リン酸緩衝剤を含む。典型的には、pH緩衝剤は、脱イオン水と混合され、定義量でサンプルを希釈するように生体サンプルに添加される。然しながら、pH緩衝剤はまた、使用する場合、液体又は組織の生体サンプル中に直接添加され得る。幾つかの実施形態では、NMRアッセイは、4〜10のpH、例えば、限定されるものではないが、約7〜8のpH又は約7.2〜7.6のpHを有し得るサンプル混合物(例えば、生体サンプル及び希釈剤又は希釈生体サンプル)で行われる。
【0068】
生体サンプル、希釈剤、及び/又は緩衝剤は、限定されるものではないが、アルブミン、グルコース、シトレート、アセテート、又は他の酸性化合物、更には十分に確立された化学シフト又は定量の参照アナライトのいずれか、例えば、ホルメート、トリメチルシリルプロピオネート(及び同位体標識異性体)、4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸(DSS)、CaEDTA、EDTAなどの1つ以上を含めて、1種以上の内因性及び/又は外因性の参照アナライトを含有し得る。
【0069】
幾つかの実施形態では、生体サンプルは、少なくとも1種の内因性又は外因性の参照アナライトを含有する。例えば、参照アナライトは、内因性又は外因性のアナライトに関連付けられる1つ又は複数の参照ピークを生成可能である。内因性参照アナライトの例は、限定されるものではないが、一例として、生体サンプル中に存在するグルコースである。幾つかの実施形態では、参照アナライトは、pH安定な化学シフト又は定量のピークを有する。このことは、参照ピークのピーク領域及び/又は線幅が、4〜10のpH範囲に渡り実質的にpHにより変化しないこと(例えば、ピーク領域の変化が約±0.1ppm未満であること)、又はpH変化に応答して公知の又は予測可能な方式で化学シフト位置及び/又はサイズの点で変化することを意味する。
【0070】
幾つかの実施形態では、希釈剤は、参照又は校正のアナライト、例えば、限定されるものではないが、CaEDTA及び/又はシトレートを含み得るか、又はそれらであり得る。
【0071】
サンプル混合物は、10:90〜90:10の範囲内の生体サンプル対希釈剤比を含み得る。特定の実施形態では、生体サンプル対希釈剤比は、50:50である。緩衝剤及び/又は他の添加剤、例えば、参照又は校正のアナライトが、サンプル混合物に添加され得る。特定の実施形態では、緩衝剤は、混合物中の生体サンプルの量を最大化し得る(例えば、55:45以上の生体サンプル対希釈緩衝剤比を提供する)。幾つかの実施形態では、少量、例えば、≦50μL又は約10μL〜約50μLの生体サンプルが分析され得ると考えられる。
【0072】
「患者」という用語は、広義に用いられ、試験又は分析の為の生体サンプルを提供する個別のヒト又は動物を意味する。
【0073】
「臨床疾患状態」という用語は、医学的介入、療法、療法の調節若しくは特定の療法(例えば、医薬剤)の除外、及び/又はモニタリングが適切であることを示唆し得る医学的リスク状態を意味する。臨床疾患状態の可能性を同定することにより、臨床医は、それに従って、病態の発生を処置、遅延、又は阻害することが可能である。臨床疾患状態の例は、限定されるものではないが、糖尿病、CHD、CVD、発作、2型糖尿病、前糖尿病、肝疾患、癌、癌悪液質などの代謝障害を含む。
【0074】
「CPMG」という用語は、カー・パーセル・メイブーム・ギルのパルスシーケンスを意味する。これは、タンパク質やリポタンパク質の粒子などの大きな急速緩和分子のシグナルを減衰する手段を提供する一連の位相定義高周波パルスである。
【0075】
単一NMRスペクトルは、定義されたパルスシーケンスに応答して生成される。例えば、1つのNMRスペクトルは、1パルスシーケンスを用いて取得され、且つ/又は1つのNMRスペクトルは、CPMGパルスシーケンスを用いて取得される。典型的には、約16〜96スキャンなどの複数スキャン/NMRスペクトルを用いてシグナルを取得し、シグナルが改良されたシグナル対ノイズ(SNR)を有するようにシグナル平均化プロセスを用いて関連NMRスペクトルを生成する。
【0076】
本発明の実施形態は、NMRを用いて生体サンプル中の1種以上の分岐鎖状アミノ酸(BCAA)を定量する為の単純で高速で便利なアッセイを提供し得る。アッセイでは、未濾過サンプルのNMRスペクトルを用いて、任意選択で、参照ピークを生成すべく参照アナライトを用いて、3種すべてのBCAAの個別の定量を達成し得る。サンプルは、NMR分光計のB静磁場の不均一性に関連付けられる線幅及び/又は線形状を評価可能な少なくとも1つの参照ピークを提供する外因性及び/又は内因性の参照アナライトを有し得る。シム状態又はB均一性/不均一性は、参照ピークを用いて、各サンプルに対して、又は其々のサンプル若しくは一群のサンプルのNMR取得時間近傍で、自動評価可能である。
【0077】
デコンボリューションモデルは、BCAA定量の為に各サンプルNMRスペクトル其々に対して決定される参照ピークの線幅及び/又は線形状に基づいて、適切な線幅及び/又は線形状を有する計算当てはめ関数(CFF)(例えば、曲線当てはめ関数)を選択するように構成可能である。
【0078】
生体サンプル中の2又は3種のBCAAを個別に定量し得る。
【0079】
特定の実施形態では、本発明の実施形態に係るNMRアッセイは、生体サンプル中に存在する3種のBCAAの複合尺度を提供して、独立した個別のスコア又は濃度に対するバリン、イソロイシン、及びロイシンの複合無単位スコア尺度又は濃度尺度を生成し得る。
【0080】
以下の表1に示されるように、スパイク透析標準を用いて、1種以上のBCAA、例えば、少なくともバリン及びロイシンの定量濃度測定を実施して、測定値を提供することが可能である。この校正データから、健常集団の平均濃度で15%未満の測定パーセント変動係数(CV)(%CV)を有する濃度測定値を提供可能であると考えられる。
【0081】
【表1】
【0082】
BCAAは、エネルギー代謝の中心成分であり得る。幾つかの実施形態では、本発明の実施形態に係るNMRアッセイは、少なくとも1種のBCAAと少なくとも1種のBCAA又は一群のBCAAとの比を提供し得る。比は、定義されたBCAAの様々な組合せに基づいて生成可能であり、従って、組合せは、サンプル中に存在する1種以上のBCAAを含み得る。他の選択肢として又は追加として、本発明の実施形態に係るNMRアッセイは、1種以上のBCAAと他の代謝物との比を提供し得る。比は、診断値を有し得ると共に、患者の臨床疾患状態の評価での使用及び/或いは代謝状態又は他の治療若しくは診断の情報の提供を行い得る。例えば、本発明に係る実施形態に従って、少なくとも1種のBCAAと少なくとも1種の芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、及びヒスチジン)との比を取得し得ると共に、肝疾患の予測及び/若しくは診断並びに/又は肝疾患と診断された患者の治療情報の提供を行い得る。幾つかの実施形態では、本発明の実施形態に従って、フィッシャー比(即ち、生体サンプル中のフェニルアラニン及びチロシンの和に対する3種すべてのBCAAの和)を計算し得る。少なくとも1種のBCAAと他の例示的代謝物との比は、限定されるものではないが、解糖及び/又はβ酸化の経路に関与するような代謝物を含む。幾つかの実施形態では、BCAA成分の比は、電子的に計算又は取得され得る。
【0083】
生体サンプル中の特定のBCAAの同定及び定量は、本発明の実施形態に従って達成され得る。幾つかの実施形態では、少なくとも3種のBCAA(即ち、バリン、ロイシン、及びイソロイシン)が其々の生体サンプルで同定され、生体サンプル中の3種の各BCAAは、単一NMRスペクトルを用いて個別に定量可能である。
【0084】
他の選択肢として又は追加として、BCAAの複合スコア又は複合濃度を生成可能である。
【0085】
幾つかの実施形態では、BCAAの無単位のシグナル又は濃度の少なくとも1つを有する加重指数、比、又は加重指数の比を計算可能である。比及び/又は加重指数は、臨床転帰若しくは疾患リスクを予測するか又は薬剤若しくは薬剤候補物質の有効性を同定する其々の疾患の転帰の回帰分析に基づいて生成可能である。加重指数は、1種以上のBCAAの無単位シグナル若しくは測定値に他のBCAA成分よりも多く加重することが可能であるか、又は特定の他のリスク成分と一緒に掛け算して患者の健康又はリスクのインジケータースコア又は指数を生成し得る。以下の例では、「V」はバリンを意味し、「IL」はイソロイシンを意味し、「L」はロイシンを意味する。比は、限定されるものではないが、V/(L+IL)、I/IL、V/L、IL/V、V/(IL)、(VL)/ILなどを含む。加重指数は、限定されるものではないが、例えば、V*GlycA/V(IL)(L)、IL/L(10)+V、V(L)(IL)/L×10、及びV/(IL×10)を含む。
【0086】
本発明の幾つかの実施形態によれば、方法は、パルスシーケンスを用いて未濾過サンプルのNMRスペクトルを取得することを含み得る(図1、ブロック100)。パルスシーケンスにより、スペクトル中の高分子シグナル(例えば、リポタンパク質及びタンパク質のシグナル)を抑制又は減衰し得ると共に、任意選択で、パルスシーケンスを最適化し得る。本明細書で用いられる場合、「最適化」という用語は、NMRスペクトル中の高分子シグナルを減衰させて、1種以上のBCAAの定量を可能にするのに十分な程度まで、低分子BCAAとの干渉を除去又は低減するように、パルスシーケンスが構成されることを意味する。
【0087】
高分子シグナルの抑制は、低分子(即ち、約500ダルトン以下の分子量を有する化合物又は分子)シグナルを最大40%(例えば、典型的には約2%〜約30%)抑制する方式で実施され得る。少なくともより大きい減衰を得る為に、任意選択で1つ以上の定量調整因子及び/又はモデルの使用に合わせて調整できる予測可能な減衰を生成するように、抑制を生成可能である。
【0088】
特定の実施形態では、パルスシーケンスを用いたNMRスペクトルは、リポタンパク質及び/又はタンパク質のシグナルを生成可能であり、且つこれらのシグナルは、BCAAの定量を可能にするように計算により補正され得る。
【0089】
任意選択で、1つ以上の参照ピーク(例えば、2、3、4、又はそれ以上)を同定及び/又は評価して、其々のBCAAに対する1つ又は複数の標的BCAAピークを同定及び/又は定量し得る(ブロック110)。参照ピークは、pH化学シフト不変参照ピークであり得る内因性及び/又は外因性の参照アナライトに関連付けられ得る。pH化学シフト「不変」参照ピークとは、約4〜約10のpHに渡りpH非感受性であり且つ±0.1ppmの範囲内の化学シフト位置を有するピークのことである。
【0090】
1つ以上の参照ピークを電子的に評価して、それらの位置、線形状、及び/又は線幅を決定し得る。1つ以上の参照ピークを用いて、実験条件、例えば、限定されるものではないが、サンプルpH及び/又は磁場不均一性を決定し得る。各サンプルに対して1つ以上の参照ピークは決定し得ると共に、それらを用いて各サンプルNMRスペクトルを評価し得る。従って、定義された計算(例えば、曲線)当てはめ関数、CFFの線幅を選択する為に、並びに/又は1つ以上のBCAAピークの位置及び/又は其々のBCAAの測定値/濃度を決定する為に、1つ以上の参照ピークを使用し得る。
【0091】
計算(例えば、曲線)当てはめモデルを用いて、NMRスペクトルをデコンボリューションし得る(ブロック120)。モデルは、定義された数学デコンボリューション関数を含み得る。モデルは、標的BCAAピーク位置に対する決定された線形状及び/又は線幅を有する当てはめ関数を含み得る。モデルは、例えば、図5に示されるように、ベースライン寄与分を有する計算当てはめ関数を含み得る。当てはめ関数は、ローレンツ関数やガウス関数などの任意の好適な関数であり得る。
【0092】
幾つかの実施形態では、当てはめモデルは、BCAAのスカラー結合を用いることを含み得る。スカラー結合とは、化学種が磁場強度に関係なくヘルツ単位で測定したときに一定距離だけ分離された多重ピークをもたらす分光学的現象のことである。当てはめ関数の分離距離をこの距離又はそのごく近傍に拘束することにより、当てはめプロセスを拘束することが可能である。
【0093】
次いで、BCAAピーク面積に基づいてBCAA濃度を決定し得る(ブロック130)。線形数式又は関連する校正線若しくはグラフ若しくはルックアップテーブルから濃度変換データを取得し得ると共に、これを用いて其々のBCAA濃度を決定し得る。校正スペクトルは、最終アッセイで使用される条件、例えば、図3A〜Iに示される条件と同一の分光学的条件下で取得される。図3A〜Iに示されるように、ロイシン、バリン、及びイソロイシンの典型的な生物学的範囲は、其々、約98.7±11.5μM、212.3±62.3μM、及び60.7±18.6μMである。幾つかの実施形態では、校正データにより、核緩和の性質の小さい差、典型的には10%未満を補正し得る。
【0094】
其々の単一BCAAの測定値若しくは濃度を単独で或いは他のBCAAの測定値若しくは濃度又は他の代謝物の測定値又は濃度との組合せで使用して、被験者の臨床疾患状態の評価及び/或いは代謝状態又は他の治療若しくは診断の情報の提供を行い得る。幾つかの実施形態では、回帰モデルを用いて、BCAA成分の複合BCAA数又はスコア、異なるBCAA成分の加重指数及び/又はBCAA比を、特定の治療又は診断の転帰と相関付け得る。
【0095】
幾つかの実施形態では、パルスシーケンスは、未濾過生体サンプル中のリポタンパク質及びタンパク質を減衰するように構成可能である。一例は、CPMGシーケンスである。生体サンプル中の他の成分(例えば、代謝物)、例えば、限定されるものではないが、他のアミノ酸(例えば、芳香族アミノ酸)、有機酸、2−ヒドロキシブチレート、GlycA、GlycB、及び/又はリポタンパク質の同定及び/又は定量もまた、本発明の実施形態に従って達成され得る。
【0096】
幾つかの実施形態では、BCAA及び芳香族アミノ酸の同定及び/又は定量は、約7又は約7.4のpHのサンプル混合物を用いて実施され得る。
【0097】
BCAAピーク領域は、約0.85ppm〜1.10ppmの範囲内であり得る(約47℃のサンプル温度で)。約47℃のサンプル温度でのバリン、ロイシン、及びイソロイシンのピーク位置は、図2の表に列挙され得る。
【0098】
NMRスペクトルのBCAA領域をモデリングする際、BCAAに対して実験モデル及び/又は合成モデルを使用し得る。ベースラインは、この領域に寄与することが知られている其々のタンパク質成分及びリポタンパク質成分のCPMG処理実験スペクトルによりモデリングされ得る。モデルはまた、ベースライン成分を当てはめる為に、合成関数、例えば、限定されるものではないが、一次関数、二次関数、及び多項式関数を使用し得る。当てはめ法は、ローソン・ハンソン非負線形最小当てはめ法を利用して、実験スペクトルとモデルスペクトルとの最良一致を達成し得る。
【0099】
図3A〜Iは、BCAAの例示的解析モデルを示している。この例では、100ms遅延CPMGパルスシーケンスが使用された。図3A〜Cに見られるように、ロイシン及びバリンの解析モデルは、16スキャンに基づき、イソロイシンは、96スキャンに基づいていた。図3D〜Fは、96スキャンに基づくバリン、ロイシン、及びイソロイシンの生の面積NMR値を示しており、図3G〜Iは、図3D〜Fでの其々のバリン、ロイシン、及びイソロイシンの値に対する変換NMR濃度(μM)を示している。濃度は、各BCAAに対する標準を割り当てた正常生物学的範囲で計算可能である。ロイシン、バリン、及びイソロイシンの典型的な生物学的範囲は、(非特許文献1)に記載されるように、其々、98.7±11.5μM、212.3±62.3μM、及び60.7±18.6μMである。
【0100】
本発明の幾つかの実施形態によれば、未濾過生体サンプル中に存在する少なくとも3種のBCAAの個別の定量は、内部又は外部の参照アナライトを必要とすることなく達成され得る。
【0101】
未濾過生体サンプル中のBCAAの正確な定量は、分光計のシミングに関連付けられるB均一性不均一性により影響され得る。従って、幾つかの実施形態では、定量は、サンプルごとにCFF又はその線幅を有するデコンボリューションモデルを選択することにより実施され得る。例えば、各サンプルに対して、スペクトル中の定義参照ピークの線幅及び/又は線形状を評価することが可能である。参照ピークは、限定されるものではないが、EDTAピーク及び/又はシトレートピークを含み得る。
【0102】
本発明に係る実施形態に従って、少なくとも1種の分岐鎖状アミノ酸のシグネチャーを取得し得る。3種すべての分岐鎖状アミノ酸の例示的シグネチャーは、スペクトルのBCAA領域の当てはめを示す図2に示される。図2に示されるシグネチャーは、血清対クエン酸緩衝剤(即ち、希釈剤)の75:25混合物から取得された。データは、約90秒間の取得時間及び100msのCPMGパルストレインで16スキャンCPMG実験を用いて収集された。モデルは、3種の各BCAAに対する計算導出基底関数更には実験タンパク質・リポタンパク質関数を含んでいた。アミノ酸及び有機酸を始めとする代謝物のシグナルの同定及び/又は定量もまた、そのような実験から達成され得る。本発明の幾つかの実施形態によれば、本明細書に記載のBCAAの定量実験は、其々の生体サンプルの高スループット分析の為の標準的リポプロファイル(Lipoprofile)(登録商標)リポタンパク質分析に追加され得る。
【0103】
図4は、分岐鎖状アミノ酸のメチル領域近傍のH NMRスペクトルの拡大図を示している。上側スペクトルは、96スキャンで取得され、下側スペクトルは、16スキャンで取得された。幾つかの実施形態では、ロイシン及びバリンの濃度は、イソロイシンよりも少ないスキャンで計算可能である。各BCAAは、同一のNMRスペクトルを用いて計算可能である。各BCAAは、同一のスキャン数又は異なるスキャン数を用いて評価可能である。
【0104】
本発明の実施形態に係る生体サンプル中のBCAAの定量尺度を用いて、患者が1つ以上の定義された臨床疾患状態を有する又は発症する可能性を決定し得る。BCAAは、糖尿病(例えば、2型糖尿病)、CHD、肝疾患する又は癌などの代謝性疾患に関連付けられ得る。従って、本発明に係るアッセイを用いて、患者の臨床疾患状態を決定し得る。幾つかの実施形態では、本発明の実施形態に係るアッセイは、患者が疾患、例えば、限定されるものではないが、代謝性疾患を発症するリスク(例えば、患者の新規発症糖尿病のリスク)を決定し得る。
【0105】
幾つかの実施形態によれば、本発明の実施形態に係るアッセイは、疾患予測及び/又は介入転帰に使用され得る。特定の実施形態では、アッセイは、患者において改良されたインスリン感受性の予測因子として及び/又は患者において血糖コントロールの改善が存在するかを決定する為に、使用され得る。他の実施形態では、アッセイは、癌患者などの患者において肝再生の向上又は患者において筋消耗の減衰が存在するかを決定する為に、使用され得る。幾つかの実施形態では、アッセイは、消耗症候群及び/又は重症炎症性疾患(例えば、敗血症、外傷、熱傷など)と診断された患者においてBCAA補給の潜在的な利点及び/又は必要性を決定する為に、使用され得る。さらなる実施形態では、アッセイは、栄養補給でのBCAAの使用並びに/又は健康、ウェルネス、及び/若しくは運動能力の改善を指導並びに/又はモニターする為に、使用され得る。
【0106】
定義された数学デコンボリューションモデルは、BCAを定量する為に使用可能である。「複合」又は測定シグナルエンベロープCmは、BCAAやリポタンパク質サブクラス成分などの他の寄与成分のシグナル寄与分を定量する為にデコンボリューション可能である。デコンボリューションは、測定シグナル形状に寄与する成分のシグナル強度を計算し、成分の和を計算する。計算シグナルCと測定シグナルCmとの一致が良ければ、NMRシグナルを構成する成分がデコンボリューションによりうまくモデリングされたことが示唆される。
【0107】
曲線当てはめ関数又は技術は、本発明の実施形態に従って使用可能である。曲線当てはめでは、生体サンプルごとに異なり得る様々な基底関数セットを使用し得ると共に、それらのセットは、標的BCAAピークに近接して存在する近接BCAAピークを含まないか又は1つ以上含むことが可能である。
【0108】
線形状デコンボリューションは、非負最小二乗当てはめプログラム(非特許文献2)を用いて達成可能である。これは、特に低いシグナル対ノイズのスペクトルによる誤差を引き起こす負の濃度の使用を回避する。数学的には、線形状解析は、(非特許文献3)の論文にリポタンパク質に対して詳細に記載されている。また、合成ベースライン補正機能は、残留タンパク質成分からのベースラインオフセットを補正するめに使用され得る。これは、二次関数又は他の多項式関数の形態をとり得る。重み係数を決定し、実験スペクトルと計算スペクトルとの平均二乗偏差を最小限に抑えることにより、当てはめを最適化することが可能である。例えば、リポタンパク質のサブクラスを測定する為に複合NMRスペクトルをデコンボリューションすることの説明に関しては、(特許文献1)及び(特許文献2)(それらの内容はあたかも全体が本明細書に述べられたが如く参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。オーバーラップシグナル寄与分で化学成分をデコンボリューションするプロトコルの説明に関しては、(特許文献3)(その内容はあたかも全体が本明細書に述べられたが如く参照により本明細書に組み込まれる))も参照されたい。
【0109】
図5は、3種のBCAAに対する例示的計算当てはめを示している。左側のパネルは、右側のNMRスペクトルの分岐状アミノ酸のメチルシグナル近傍のH NMRスペクトル領域の拡大図の其々のBCAA領域を示している。各アミノ酸に対して、定量の為の1つ又は複数の標的ピークを四角で囲んだ。左側のパネルは、「実際」のスペクトル(黒色)、関連する当てはめ成分(下側)を有する「当てはめ」スペクトル(薄灰色)を示している。当てはめ成分(例えば、ガウス関数又はローレンツ関数又はその両方)は、標的アナライトの寄与分更にはタンパク質、リポタンパク質などの供給源及び公知の分光計誘導オフセットの寄与分をモデリングする実験及び/又は計算導出のピーク及び/又は関数を含有し得る。幾つかの実施形態では、当てはめ成分は、標的アナライトの寄与分更にはタンパク質やリポタンパク質などの供給源の寄与分をモデリングする実験及び計算導出のピーク及び関数を含有し得る。因子及びモデルはまた、DCオフセットなどの当業者に公知の分光計誘導オフセットを提供し得る。
【0110】
パルスシーケンスパラメーターは、溶媒抑制スキーム、パルス角、及び取得時間を始めとする任意の適切なパラメーターを含み得る。然しながら、一般的に述べると、幾つかの特定の実施形態では、任意の1つの生体サンプルに対するNMRシグナル取得時間/スキャンは、約2〜7秒間(平均で)、典型的には約5〜6秒間(平均で)、例えば約5.6秒間(平均で)であり得る。幾つかの実施形態では、全取得時間は、約90秒間(平均で)又は最大約5若しくは10分間(平均で)である。NMR分析器は、サンプル1つ当たり4400Hzの掃引幅に渡り収集される少なくとも約16Kデータ点で、生体サンプル1つ当たり少なくとも10スキャン、典型的には10〜256スキャン、例えば、16スキャン、場合により≧96スキャン、例えば、96スキャン又は128スキャンを行って、BCAAを測定する為に使用されるNMRデータを取得するように構成され得る。BCAAスキャンは、リポタンパク質スキャンシーケンスの前又は後で実施可能であり、典型的には、リポタンパク質の定量を可能にするように異なるパルスシーケンスを利用する。
【0111】
幾つかの実施形態では、パルスシーケンスの1つの要素は、溶媒抑制スキームであり得る。WET溶媒抑制スキームは、例えば約80msに渡り、一連の形状パルス及びパルス磁場勾配を使用する。1D NOESY−presatスキームは、2D核オーバーハウザー効果分光法(NOESY)実験の第1の増分を使用する(非特許文献4)。このスキームでは、D1及び「混合」時間の間、水共鳴の連続低パワー周波数選択パルスが適用される。PURGE溶媒抑制スキーム(非特許文献5)では、水シグナルを減衰させる為に、水共鳴の連続低パワー周波数選択パルス、緩和勾配、及びエコーが使用される。
【0112】
3つすべてのシーケンス(及び恐らく当業者に公知の他のシーケンス)の性能は、スペクトルで一貫性のある溶媒抑制を達成するのに十分である。別の言い方をすれば、BCAA NMRシグナルは、CPMGを用いて取得され得ると共に、WET、PRESAT、及び/又はPURGEプロトコルは、パルスシーケンスの一部として組み込まれ得る。WETシーケンスの利点の1つは、スピン拡散によりタンパク質ベースラインを撹乱する可能性のある低パワー飽和時間をなんら含まないことである。また、緩和によりシグナル減衰をもたらす可能性のある有意な遅延をなんら有していない。
【0113】
周知のように、標準的プレサチュレーション(「Presat」)パルスシーケンスをパルスシーケンスで使用して、BCAAシグナルを分析する為のNMRスペクトルを取得することが可能である。このパルスシーケンスは、水共鳴を標的として数秒間持続する選択的低パワーパルスを含む。これは、NMR規範で十分に確立されており、水シグナルを減衰させるロバストで信頼性のある方法である。
【0114】
幾つかの実施形態では、WET水抑制スキームを使用することが可能である。WETシーケンスは、水共鳴を標的とする一連の短い選択的パルスを含む。全スキームは、Presatの場合と同様に、パルスシーケンスの前に置かれるが、例えば、約80msを要するに過ぎない。WETシーケンスの他の利点は、このシーケンスがタンパク質シグナルに最小限の撹乱を加えるに過ぎないという事実である。典型的なPresatシーケンスの長さに起因して、溶媒飽和の一部は、タンパク質に移行する可能性があるので、ベースラインへのタンパク質の一貫性のない寄与分をもたらす可能性がある。他の溶媒プレサチュレーションスキーム、例えば、PURGEシーケンスを使用することが可能である。
【0115】
本明細書の図面の幾つかのフロー図及びブロック図は、本発明に係る解析モデル及び評価システム及び/又はプログラムの実現が可能なアーキテクチャー、機能、及び操作を例示している。これに関連して、フロー図又はブロック図の各ブロックは、特定の論理機能を実現する為の1つ以上の実行可能命令を含むモジュール、セグメント、オペレーション、又はコード部分を表している。幾つかの他の選択肢の実現形態では、ブロックに記載の機能は、図に記載の順序から外れて行われ得ることもまた留意すべきである。例えば、連続して示される2つのブロックは、事実上、実質的に同時に実施され得るか、又はブロックは、関与する機能に依存して、ときには逆の順序で実施され得る。
【0116】
図6は、WET溶媒抑制を有する標準的「1パルス」シーケンスを例示している。これは、高濃度のタンパク質及び高分子のアグリゲート(例えば、リポタンパク質粒子)のシグナルがスペクトルを支配するスペクトルをもたらす。より低濃度の低分子代謝物は、これらのスペクトル中ではかなり不明瞭でなる。図6に示されるように、WET溶媒抑制スキーム(非特許文献6)は、一連の溶媒指向選択的パルス及びパルス磁場勾配並びに続いてリードパルス及び一定の時間に渡りシグナルがデジタル化される取得時間を含む。
【0117】
図7に示される第2のシーケンスには、CPMGパルストレイン又はシーケンスが組み込まれている。このパルストレインは、大きい急速緩和分子のシグナルが減衰する間、一連のリフォーカシングπパルス(180度)を含む。このパルストレインの持続時間は、BCAAなどの低分子のシグナル強度のほとんどを維持しつつ、高分子、例えば、タンパク質及びリポタンパク質の粒子のバックグラウンドシグナルを最小限に抑えるように、最適化可能である。この値は、100msに設定されるが、他の遅延を使用することが可能である。例えば、CPMGパルスシーケンス遅延は、60ms、100ms、200ms、300ms、又は400msに設定され得る。従って、図7に示されるCPMGパルストレインは、高分子のシグナルを減衰させて、多数のより多くの低分子代謝物の検出を容易にするように設計される。このパルスシーケンスは、高分子のシグナルが低分子よりもかなり速く緩和するという事実に依拠する。スピンエコートレインは、リードパルス後に発生可能であり、高分子のシグナルが緩和して平衡に戻る間、低分子磁化を維持するように設計される。このスピンエコートレインの持続時間は、高分子シグナルの減衰の程度に関係する。この遅延は、典型的には、約60ms〜約400msに設定される(図8)。約60ms〜約150msの範囲に渡り性能の知覚可能な変化はほとんど起こらないと予想される。幾つかの場合、タンパク質及びリポタンパク質の減衰増加の利点によりシグナル対ノイズの低減が相殺されるのであれば、この遅延は、400ms程度に長く設定することが可能である。幾つかの実施形態では、パルスシーケンスにより引き起こされるBCAA NMRシグナルの減衰は、調整因子を用いて補正され得る。
【0118】
分子の増加(例えば、最大)シグナルを取得する為に、90度パルスを使用することが可能であり、これらのパルス間の時間は、シグナルの縦緩和時間(T1)の10倍超にすべきである。400MHzでのBCAAのT1は、約1.5〜約3秒間の範囲内であり得る。これは、パルス長とパルス間遅延との間の妥協点が得られるように、シグナル強度を最大化する時間効率の良い手段でなくてもよい。シグナル強度とT1とパルス長との関係は、エルンスト角の式により与えられる。この式を使用する際の第1の工程は、全パルスシーケンスの長さを定義することである。この長さは、所要の溶媒抑制時間と、CPMG遅延と、FIDの所要のデジタル化を提供するのに必要とされるデータ取得時間の長さと、により定義される。エルンスト角の式は、以下の通りである。
Cos(θ)=exp−(全遅延)/T1 式(1)
【0119】
式(1)では、全遅延は、d1遅延(溶媒抑制を含む)+CPMG時間+取得時間に等しい。T1は、対象のアナライトシグナルの縦緩和時間を表す。「全遅延」を含有する括弧の前は負符号であることが、留意すべき点である。θについて解くと最適フリップ角が得られるであろう。
【0120】
実験条件の標準セット、例えば、1秒間の溶媒抑制、100msのCPMG、及び約3秒間の取得時間を用いると、エルンスト角は、90度から60〜80度まで低減されたチップ角(マイクロ秒単位で記載したときのパルス長としても知られる)を指定し得る。この式は、この領域内では比較的非感受性であるので、校正の小さい誤差又は特定のサンプル組成に起因するT1の小さい差異が有意な非効率をもたらす可能性は低い。
【0121】
取得時間(AT)は、FIDがデジタル化される時間である。ATの持続時間は、定量されるシグナルの緩和時間及び所要のデジタル化の両方により決定される。検査されるシグナルの緩和時間がATよりも長ければ、FIDは、トランケートされて不十分な形状を有するシグナルをもたらすであろう。上述したように、BCAAのT1緩和時間は、血清中では約3秒間未満であり得るので、1スキャンの取得時間は、少なくともその長さにすべきである。分光計のデジタル化速度、即ち、1秒間の取得時間当たり取り込まれる点の数は、スペクトルの掃引幅により決定される。幾つかの実施形態では、所望のデジタル分解能では、4400Hzの掃引幅に渡り収集される少なくとも16Kデータ点が使用される。
【0122】
検出感度を増加させる最も直接的な方法は、スキャン数を増加させることである。幾つかの実施形態では、BCAAアッセイは、このアッセイをリポサイエンス社(LipoScience,Inc.)(ノースカロライナ州ローリー(Ralegh,NC))製の現在のリポプロファイル(LipoProfile)(登録商標)アッセイと容易にインタリーブ又は併用できるように、約47℃のサンプルで実施可能である。然しながら、スキャン数が増加するにつれて、47℃でのプローブ中のサンプルの滞留時間が増加して、サンプルが変性状態になる恐れがある。課題は、BCAAピークに対して所要のシグナル対ノイズ比を達成して、所望の生物学的範囲(少なくとも有害臨床相関を有する範囲)に渡り正確且つ精密な定量を可能にすることである。
【0123】
幾つかの実施形態では、NMRアッセイは、生体サンプル中に存在する各BCAAの個別定量及び/又は少なくとも3種のBCAAの全定量(即ち、BCAAの定量和)を含み得ると共に、臨床的検討の為に、定量された各測定値を患者レポートで提供し得る。単一in vitro生体サンプルでのBCAAの個別定量又は全定量により、重要な臨床情報の提供、及び/又は臨床疾患状態を有するか若しくは臨床疾患状態のリスクが増加している患者のリスクの予測若しくは評価のさらなる改良、を行い得ると考えられる。
【0124】
図8は、本発明の実施形態に係る一連のCPMG取得H NMRスペクトルを示している。スペクトルは、タンパク質などの高分子及びリポタンパク質などの高分子アグリゲートのスペクトル寄与分を抑制するCPMGシーケンスを用いて取得され得る。図7に示されるように、CMPGパルスシーケンスは、様々な遅延のパルストレインを含み得ると共に、その間、大分子のシグナルが減衰除去されることにより、より多くの低分子代謝物の検出が可能になる。CPMG遅延時間が長くなるほど、これらのシグナルの減衰が大きくなり得る。この遅延はまた、低分子シグナルを減衰し得るが、それほど有意にはならない。図9は、異なる全遅延時間を用いて取得した一連のCPMGスペクトルの拡大図を示している。拡大図は、以上の図4に示されたようにBCAAのメチル領域に重点が置かれている。BCAAピークの全強度がそれほど影響を受けない間に、リポタンパク質領域のシグナルが有意に減衰されることに留意されたい。
【0125】
次に、図10を参照すると、例えば、以下の図11に対する説明及び/又は(特許文献4)(それらの内容はあたかも全体が本明細書に述べられたが如く参照により本明細書に組み込まれる)の記載のように、BCAAの定量は、NMR臨床アナライザー22を備えたシステム10を用いて実施可能であると考えられる。アナライザー22は、分光計22s及びサンプルハンドラーシステムを含む。
【0126】
システム10は、アナライザー22に実装されているもの又はアナライザー22から少なくとも部分的に離れているものであり得るBCAA分析モジュール及び/又は回路20を含み得る。後者の場合、分析モジュール又は回路20は、完全に又は部分的にサーバー150上に存在可能である。サーバー150は、コンピュータネットワークを介する要求に応じたコンピュータ資源の提供を含むクラウドコンピューティングを用いて提供可能である。資源は、種々のインフラサービス(例えば、コンピュータ、記憶装置など)、更にはアプリケーション、データベース、ファイルサービス、電子メールなどとして具現化可能である。伝統的な計算モデルでは、データ及びソフトウェアは両方共、典型的には、ユーザーのコンピュータ上に完全に内蔵されるが、クラウドコンピューティングでは、ユーザーのコンピュータは、ソフトウェア又はデータをほとんど内蔵しておらず(恐らく、オペレーティングシステム及び/又はウェブブラウザー)、外部コンピュータのネットワーク上で行われるプロセスに対する単なるディスプレイ端末として機能し得る。クラウドコンピューティングサービス(又は複数のクラウド資源の集合)は、一般的には「クラウド」として参照され得る。クラウド記憶装置は、ネットワーク接続されたコンピュータデータ記憶装置のモデルを含み得る。この場合、データは、1つ以上の専用サーバー上にホストされるのではなく、複数の仮想サーバー上に記憶される。データ転送は、暗号化可能であり、HIPAAなどの工業規格又は規制規格に準拠した任意の適切なファイアウォールを用いてインターネットを介して実施可能である。「HIPAA」という用語は、医療保険の携行性と責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)により規定された米国の法律を意味する。患者データは、受託番号又は識別子、性別、年齢、及び試験データを含み得る。
【0127】
分析結果は、インターネットなどのコンピュータネットワークを介して、電子メールなどを介して、患者に、臨床医サイト50に、医療保険機関52又は薬局51に伝送可能である。結果は、分析サイトから直接送ることが可能であるか、又は間接的に送られ得る。結果は、プリントアウトされ、従来の郵便物を介して送られ得る。この情報はまた、薬局及び/又は医療保険会社更には患者に伝送可能であり、処方箋を調べたり、又は有害イベントのリスク増加を生じる恐れのある薬剤使用を調べたりする為に、又は矛盾した医薬剤の処方箋を防止すべく医学的注意を行う為に、モニターされる。結果は、電子メールを介して患者に、「ホーム」コンピュータに、又はスマートフォンやノートパッドなどの普及したコンピュータデバイスに、送ることが可能である。結果は、例えば、全レポートのメール添付として又はテキストメッセージによる注意として存在し得る。
【0128】
次に、図11を参照すると、選択されたサンプルの線形状の取得及び計算の為のシステム207が例示されている。システム207は、サンプルのNMR測定値を取得する為のNMR分光計22sを含む。一実施形態では、分光計22sは、NMR測定がプロトンシグナルに対して約400MHzで行われるように構成され、他の実施形態では、測定は、200MHz〜約900MHz又は他の好適な周波数で行われ得る。所望の操作磁場強度に対応する他の周波数を利用することも可能である。典型的には、プロトンフロープローブは、温度コントローラーの場合と同様に、サンプル温度を47±0.5℃に維持するように設置される。然しながら、他のサンプル温度を取得時間時に使用してもよい。分光計22は、デジタルコンピュータ214又は他のシグナル処理ユニットにより制御される。コンピュータ211は、高速フーリエ変換を行えることが望ましい。それはまた、他のプロセッサ又はコンピュータ213へのデータリンク212、並びにハード記憶装置ユニット215に接続可能なダイレクトメモリアクセスチャネル214を含み得る。
【0129】
デジタルコンピュータ211はまた、パルス制御回路及びインターフェース回路216を介して分光計22sの操作要素に接続された一群のアナログ−デジタル変換器、デジタル−アナログ変換器、及びスローデバイスI/Oポートを含み得る。これらの要素は、デジタルコンピュータ211に実装可能な又はそれと通信可能な少なくとも1つのデジタルシグナルプロセッサにより指示される持続時間、周波数、及び振幅のRF励起パルスを生成するRFトランスミッター217、並びにパルスを増幅してそれをサンプルセル220及び/又はフロープローブ220pを取り囲むRF送信コイル219に結合するRFパワーアンプリファイア218を含む。超伝導磁石221により生成される9.4テスラの分極磁場の存在下で励起サンプルにより生成されるNMRシグナルは、コイル222により受信され、RFレシーバ223に適用される。増幅及び濾波されたNMRシグナルは、224で復調され、得られた直交シグナルは、インターフェース回路216に適用され、そこでデジタル化され、デジタルコンピュータ211を介して入力される。リポタンパク質測定及び/又はBCAAアナライザー回路20及び/又はモジュール350(図11〜12)は、デジタルコンピュータ211に関連付けられる1つ以上のプロセッサ内、及び/又はインターネット227などの世界的ネットワークを介してアクセス可能なサイト上若しくはリモートであり得る二次コンピュータ213内若しくは他のコンピュータ内に位置し得る。
【0130】
NMRデータを測定セル220中でサンプルから取得した後、コンピュータ211による処理は、所望により記憶装置215に記憶可能な他のファイルを生成する。この第2のファイルは、化学シフトスペクトルのデジタル表現であり、それは、後でコンピュータ213に読み取られ、その記憶装置225又は1つ以上のサーバーに関連付けられるデータベースに記憶される。メモリ中に記憶された又はコンピュータ213によりアクセス可能なプログラムの指示の下で、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ワークステーションコンピュータ、電子ノートパッド、電子タブレット、スマートフォン、又は少なくとも1つのプロセッサ若しくは他のコンピュータを備えた他のデバイスであり得るコンピュータ213は、本発明の教示に従って化学シフトスペクトルを処理してレポートを作成する。このレポートは、プリンタ226に出力され得るか、又は電子的に記憶されて所望の電子メールアドレス若しくはURLにリレーされ得る。コンピュータディスプレイスクリーン、電子ノートパッド、スマートフォンなどの他の出力デバイスもまた、結果の表示に利用され得ることは、当業者であれば分かるであろう。
【0131】
コンピュータ213及びその個別の記憶装置225により行われる機能はまた、分光計のデジタルコンピュータ211により行われる機能に組み込まれ得ることは、当業者には自明なはずである。そのような場合、プリンタ226は、デジタルコンピュータ211に直接接続され得る。当業者に周知のように、他のインターフェース及び出力デバイスもまた、利用され得る。
【0132】
本発明の特定の実施形態は、in vitro生体サンプルのスクリーニングの為の臨床疾患状態の自動スクリーニング試験及び/又はリスクアセスメント評価に特に有用であり得るBCAA評価を使用する方法、システム、及び/又はコンピュータプログラム製品を提供することに関する。
【0133】
本発明の実施形態は、全ソフトウェアの実施形態又はソフトウェアの態様とハードウェアの態様とを組み合わせた実施形態の形態をとり得る。これらはすべて、本明細書では一般に「回路」又は「モジュール」として参照される。
【0134】
当業者であれば分かるであろうが、本発明は、装置、方法、データ若しくはシグナル処理システム、又はコンピュータプログラム製品として具現化され得る。従って、本発明は、全ソフトウェアの実施形態又はソフトウェアの態様とハードウェアの態様とを組み合わせた実施形態の形態をとり得る。更に、本発明の特定の実施形態は、媒体中に具現化されたコンピュータ使用可能プログラムコード手段を有するコンピュータ使用可能記憶媒体上のコンピュータプログラム製品の形態をとり得る。ハードディスク、CD−ROM、光記憶デバイス、又は磁気記憶デバイスを含めて、任意の好適なコンピュータ可読媒体を利用し得る。
【0135】
コンピュータ使用可能又はコンピュータ可読の媒体は、限定されるものではないが、電子、磁気、光学、電磁、赤外、又は半導体のシステム、装置、デバイス、又は伝播媒体であり得る。コンピュータ可読媒体のより具体的な例(網羅的リストではないが)としては、次のもの、即ち、1つ以上のワイヤーを有する電気接続体、ポータブルコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、光ファイバ、及びポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD−ROM)が挙げられよう。プログラムは、例えば、紙又は他の媒体のオプティカルスキャニングを介して電子的に取り込まれ、次いで、必要であれば、好適な形で編集、解釈、又は他の形で処理され、次いで、コンピュータメモリに記憶可能であるので、コンピュータ使用可能又はコンピュータ可読の媒体は、更には、プログラムがプリントされた紙又は他の好適な媒体であり得ることに留意されたい。
【0136】
本発明に係る操作を行うコンピュータプログラムコードは、Java(登録商標)7、スモールトーク(Smalltalk)、パイソン(Python)、ラボビュー(Labview)、C++、ビジュアルベーシック(VisualBasic)などのオブジェクト指向プログラミング言語で書くことが可能である。然しながら、本発明に係る操作を行うコンピュータプログラムコードはまた、従来の手続き型プログラミング言語、例えば、「C」プログラミング言語更にはアセンブリー言語で書くことも可能である。プログラムコードは、ユーザーのコンピュータ上で完全に、ユーザーのコンピュータ上で部分的に、スタンドアロンソフトウェアパッケージとして、ユーザーのコンピュータ上で部分的に且つリモートコンピュータ上で部分的に、又はリモートコンピュータ上で完全に実施され得る。後者のシナリオでは、リモートコンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)若しくは広域ネットワーク(WAN)を介してユーザーのコンピュータに接続され得るか、又は接続は、外部コンピュータに行われ得る(例えば、インターネットサービスプロバイダーを用いたインターネットを介して)。
【0137】
図12は、本発明の実施形態に係るシステム、方法、及びコンピュータプログラム製品を例示するデータ処理システム305の例示的実施形態のブロック図である。プロセッサ310は、アドレス/データバス348を介してメモリ314と通信する。プロセッサ310は、任意の市販又はカスタムのマイクロプロセッサであり得る。メモリ314は、データ処理システム305の機能を実現する為に使用されるソフトウェア及びデータを含有するメモリデバイスの全階層を表している。メモリ314は、限定されるものではないが、次のタイプのデバイス、即ち、キャッシュ、ROM、PROM、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリ、SRAM、及びDRAMを含み得る。
【0138】
図12に示されるように、メモリ314は、データ処理システム305で使用される複数のカテゴリーのソフトウェア及びデータ、即ち、オペレーティングシステム352、アプリケーションプログラム354、入出力(I/O)デバイスドライバ358、BCAA評価モジュール350、及びデータ356を含み得る。BCAA評価モジュール350は、NMRシグナルをデコンボリューションして、其々の生体サンプルのプロトンNMRスペクトル中の定義されたNMRシグナルピーク領域を明らかにし、BCAAのレベルを同定することが可能である。システム305はまた、測定されたBCAAのレベルを考慮して、比、複合リスク数、又はマルチパラメーターリスクモデルを生成する臨床疾患状態評価モジュール又はリスク予測モジュールの1つ以上を含み得る。
【0139】
データ356は、データ取得又はシグナル取得システム320(例えば、NMR分光計22s及び/又はアナライザー22)から取得され得るシグナル(成分及び/又は複合スペクトル線形状)データ362を含み得る。当業者であれば分かるであろうが、オペレーティングシステム352は、データ処理システムと共に使用するのに好適な任意のオペレーティングシステムであり得る。例えば、インターナショナルビジネスマシーンコーポレーション(International Business Machines Corporation)(ニューヨーク州アーモンク(Armonk,NY))製のOS/2、AIX、又はOS/390、マイクロソフトコーポレーション(Microsoft Corporation)(ワシントン州レッドモンド(Redmond,WA))製のWindows(登録商標)CE、Windows(登録商標)NT、Windows(登録商標)95、Windows(登録商標)98、Windows(登録商標)2000、又はWindows(登録商標)XP、パームインコーポレーテッド(Palm Inc.)製のPalmOS、アップルコンピュータ(Apple Computer)製のMacOS、UNIX(登録商標)、FreeBSD、又はLinux(登録商標)、自社開発オペレーティングシステム、又は専用オペレーティングシステム、例えば、埋込みデータ処理システムである。
【0140】
I/Oデバイスドライバ358は、典型的には、アプリケーションプログラム354によりオペレーティングシステム352を介してアクセスされるソフトウェアルーチンを含み、I/Oデータポート、データ記憶装置356、及び特定のメモリ314素子、及び/又は画像取得システム320などのデバイスと通信する。アプリケーションプログラム354は、データ処理システム305の種々の特徴を実現するプログラムの例であり、本発明の実施形態に係る操作を支援する少なくとも1つのアプリケーションを含み得る。最後に、データ356は、アプリケーションプログラム354、オペレーティングシステム352、I/Oデバイスドライバ358、及びメモリ314に常駐し得る他のソフトウェアプログラムにより使用される静的及び動的データを表している。
【0141】
本発明は、例えば、図12のアプリケーションプログラムであるモジュール350を参照して例示されるが、当業者であれば分かるように、本発明の教示が依然として奏効する他の構成もまた、利用され得る。例えば、BCAAモジュール350はまた、オペレーティングシステム352、I/Oデバイスドライバ358、又はデータ処理システム305の他のそのような論理部分に組み込まれ得る。従って、本発明は、図12の構成に限定されるものとみなされるべきではなく、それは、本明細書に記載の操作を行うことのできる任意の構成を包含することが意図される。
【0142】
特定の実施形態では、モジュール350は、臨床疾患状態若しくはリスクを評価する為に、及び/又は療法介入が望ましいかを示す為に、及び/又は療法の有効性更には療法の意図されない結果を追跡する為に、マーカーとして使用され得るBCAAのレベルを提供する為のコンピュータプログラムコードを含む。
【0143】
図13は、本発明の実施形態を実施可能な例示的操作のフロー図である。生体サンプル(例えば、血漿又は血清)の当てはめ領域のNMRスペクトルの(測定)複合エンベロープNMRスペクトルを取得可能である(ブロック400)。NMR複合シグナルエンベロープは、定義された化学シフト位置を中心とする少なくとも1つのBCAAピーク領域(例えば、約0.85ppmと約1.10ppmとの間)を有する定義されたモデルを用いて電子的にデコンボリューションされる(ブロック402)。
【0144】
其々のBCAAに関連付けられるピーク領域に対する定義された数の(例えば、ローレンツ及び/又はガウス)曲線当てはめ関数の和をとることが可能である(ブロック415)。和をとった関数に換算係数を適用して、BCAAの計算測定値を生成することが可能である(ブロック420)。
【0145】
CFF又はCFFの線幅は、複合NMRスペクトルを取得する為に使用される分光計のシム状態の尺度に関連付けられる少なくとも1つの参照ピークの線幅に基づいて選択可能である(ブロック414)。
【0146】
BCAA測定値は、患者レポート及び/又は臨床試験レポートで提供可能である(ブロック422)。レポートは、臨床疾患状態を有する若しくは発症するリスクがあるか、及び/又は少なくとも部分的にBCAA測定値に基づいて追加のスクリーニングが適切であり得るか、を同定又は警告することが可能である(ブロック424)。
【0147】
図14A〜14Cは、本発明の実施形態に従ってバリンに関連付けられたNMRシグナルを取得する為に使用可能な操作の例示的フロー図である。
【0148】
図14Aは、分析前評価(ブロック610)を行ってから、NMRシグナルのBCAA領域、例えば、バリン領域などを決定し(ブロック625)、次いで、デコンボリューション(ブロック650)を行うことが可能であることを例示している。図14Bは、完全障害(ブロック612)又は部分注入障害(ブロック613)のいずれかとしてフローセル内へのサンプルの送達検証、シミング検証(ブロック615)、温度検証(ブロック617)、及びシトレートチューブ検出(障害)(ブロック619)を含む例示的分析前評価610を示しており、すべて、サンプルに添加される定義された希釈剤に関連付けられるシグナルの定義された特性が用いられる。シミング検証は、定量シミング調整因子を適用することを含む。任意の好適な参照アナライトを用いて、分析前評価に使用する為の参照ピークを生成し得る。評価に使用される変数は、選択される参照ピークに基づいて決定されるであろう。
【0149】
再度、図14Aを参照すると、定義されたパラメーターが限度内にあることが確認されたら、分析前品質管理解析を終了し(ブロック620)、バリン領域の決定を確認し(ブロック625)、スペクトルをデコンボリューションし、そしてバリンレベルを計算することが可能である(ブロック650)。任意選択で、分析後品質管理を電子的に行って(ブロック655)、結果を出力することが可能である(ブロック660)。結果は、コメント、高又は低の視覚的表示などと共に試験レポートに組込み可能である(ブロック665)。
【0150】
図14Cを参照すると、バリンの定量に使用可能な操作の例示的方法/分析700が示されている。定義された添加希釈剤を有するin vitro生体サンプルのNMRシグナルを電子的に取得可能である(ブロック702)。QC評価を実施可能である(ブロック710)。バリン領域を決定する(ブロック725)。バリン領域をデコンボリューションし(ブロック750d)、バリンのNMR導出値を計算する(750c)。
【0151】
希釈剤は、参照アナライト、例えば、カルシウムエチレンジアミン四酢酸(CaEDta)(ブロック703)又は信頼性のあるピークを形成し且つ予測可能に挙動する他の好適な希釈剤などを含み得る。十分に確立された化学シフト又は定量の参照アナライトとしては、例えば、ホルメート、トリメチルシリルプロピオネート(及び同位体標識異性体)、及びEDTAが挙げられる。
【0152】
分析前品質管理評価710は、参照ピーク、例えば、CaEDTA参照ピークなどの特性の検査に基づき得る。また、システム又はプロセッサは、図14Bに示されるような指定条件下でNMRスペクトルが得られない限り、バリン試験を行わないように構成可能である。サンプル温度は、NMRスキャン/シグナル取得の為のフローセル内では47±0.5℃であり得る。サンプルは、1:1の比又は他の定義された比(例えば、より多くのサンプル、より少ない希釈剤、又はより多くの希釈剤、より少ないサンプル、例えば、2:1、又はより多くのサンプル、より少ない希釈剤、例えば、1:2)で希釈剤を含み得る(ブロック705)。
【0153】
いずれの取得スペクトルに対しても、CaEDTA高さ>140の場合、定義されたエラーコードを付けて試験サンプルを排除可能である(ブロック719)。この高い値は、CaEDTAピークと一緒にシトレートピークが検出されたことを示唆する。シトレートピークは、不適切なシトレートチューブ中への試料採取により導入される。CaEDTAピークの正確な位置を決める能力を撹乱することにより、シトレートピークは、バリン領域を決定するプロセスを撹乱し得る。
【0154】
バリン領域は、CaEDTAピークの位置に対して高磁場側に位置する。バリン下の広幅ピークは、リポタンパク質の種々のメチル(−CH−)プロトンである。CaEDTA位置は、約22258±398データ点で決定可能である(ブロック721)。バリン領域は、各取得スペクトルに対して独立して決定可能である。バリンシグナルは、好適なデータ点を用いて、例えば、四重線の各ピークに対して25データ点(中心±12データ点)又は両方の二重線のバリン領域に対して300データ点を用いて、モデリング可能であるが、他の数のデータ点を使用してもよい。バリンの測定は、バリンピーク四重線の1、2、3、又は4つすべてのピークを用いて行うことが可能である。
【0155】
非負最小二乗アルゴリズムにより利用する前に、すべての基底セットスペクトルを線形補間することが可能である。非負最小二乗アルゴリズムにより利用する前に、分析対象スペクトル及び基底セットスペクトルは、ゼロベースラインオフセット補正を有し得る。
【0156】
バリン領域の開始位置は、CaEDTAピークの位置から約2196〜4355データ点(典型的には、両方の二重線を組み込む場合は後者)(「バリン領域オフセット」)だけ高磁場側にあり得る(ブロック722)。幾つかの実施形態では、バリン領域の開始位置は、CaEDTAピークの位置から4355データ点だけ高磁場側にある。幾つかの実施形態では、バリン定量は、0.0〜1.01ppmのバリン共鳴を2つの二重線として特性付けることにより行われる。バリンシグナルをモデリングする為の基底セットとして、2データ点のステップ間隔の3つ以上のバリン実験スペクトルを使用することが可能である。中心バリンピークは、3つのバリン成分を±15データ点スライドさせることにより位置決めし、最小二乗和最小化により決定可能である。バリンシグナルは、合計約300データ点を用いてモデリング可能である。当てはめアルゴリズムは、実験関数又は計算導出関数の定義されたスカラー結合パターンを用いて、当てはめの拘束及び最適化を支援し得る。
【0157】
各基底セットは、ベースラインに使用されるものを含めて、但し、DCオフセットを除いて、関数から最低値を引き算することにより(最小点を0に等しくなるようする)、オフセット処理される。これにより、それらが呈する形状中にDCオフセットが混入するのを防止する。
【0158】
一連のアナライト関数及び取得スペクトルと同一タイプの前処理が施されたベースライン関数を用いて、各取得スペクトルのバリン領域をデコンボリューションする。各成分に対するデコンボリューション係数に関連換算係数を掛け算することが可能である。得られた値の和とる。各取得スペクトルに対して独立して生成された結果値を平均して、測定に使用される最終値を生成することが可能である。
【0159】
データは、プリサチュレーンョン水抑制を用いて1:1希釈サンプルから取得可能であり、約16スキャン、典型的には、2スキャンの8つのブロック(其々2スキャンからなる8つのFID)として記憶された約16スキャンを含み得る(ブロック726)。
【0160】
プリサチュレーンョン水抑制と併用されるパルスシーケンスは、任意選択で、プリサチュレーンョン(水抑制)パルス及び好適な励起パルスを含み得る。例えば、FIDは、4496.4Hzの掃引幅で9024データ点を用いて取得可能であるが、当業者には公知のように、他のデータ点及び掃引幅を使用してもよい。各FIDに以下のシフトガウス関数を掛け算することが可能である。
【数1】
又はコンピュータ用語で、exp(−((t−gfs)/gf)^2)、但し、gfs=0.2秒間及びgf=0.2秒間。
【0161】
これは、16,384データ点からなる各FIDに対して周波数領域GMスペクトルを生成するゼロ充填フーリエ変換前に実施可能である(ブロック727)。各FIDに数学関数を掛け算してシグナル対ノイズ(例えば、減衰指数関数)及び/又は分解能(例えば、ガウス型関数及び/又はその任意のシフト型関数)を増加させることが可能である。スペクトルは、校正により特定された位相値を用いて位相調整可能である。スペクトルは、校正により特定されたスケーリング係数によりスケール調整可能である(掛け算)。非負最小二乗アルゴリズムにより利用する前に、すべての基底セットスペクトルを線形補間することが可能である。非負最小二乗アルゴリズムにより利用する前に、分析対象スペクトル及び基底セットスペクトルは、ゼロベースラインオフセット補正を有し得る(例えば、解析されるモデル及びスペクトルに使用される成分はすべて、線形補間可能である)(ブロック728)。バリン当てはめ領域の中心を決定する為に、0.9〜1.0のバリン共鳴を2つの二重線として特徴付けることが可能であり、3つのバリン成分を±15データ点スライドさせることにより中心ピークを同定することが可能である(ブロック729)。
【0162】
上記は、本発明を例示したものであり、それらに限定されるとみなされるべきではない。本発明の少数の例示的実施形態を説明してきたが、本発明の新規な教示及び利点から実質的に逸脱することなく、例示的実施形態で多くの変更が可能であることは、当業者であれば分かるであろう。従って、すべてのそのような変更は、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内に包含されることが意図される。特許請求の範囲では、ミーンズプラスファンクションクレームは、使用された場合、構造的均等物だけでなく等価構造物もまた、挙げられた機能を発揮するものとして、本明細書に記載の構造物に包含されることが意図される。従って、上記は、本発明を例示したものであり、開示された特定の実施形態に限定されるとみなされるべきではなく、開示された実施形態、更には他の実施形態に対する変更は、添付の特許請求の範囲内に包含されることが意図されることを理解すべきである。本発明は、以下の請求項により規定され、請求項の均等物は、それに包含される。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C