特許第6268197号(P6268197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268197
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   F16H61/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-561239(P2015-561239)
(86)(22)【出願日】2015年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2015050204
(87)【国際公開番号】WO2015118895
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-22735(P2014-22735)
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 大城
(72)【発明者】
【氏名】宮石 広宣
(72)【発明者】
【氏名】禹 成勲
(72)【発明者】
【氏名】松井 才明
(72)【発明者】
【氏名】本間 知明
(72)【発明者】
【氏名】安井 義男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑太
(72)【発明者】
【氏名】萬年 正行
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 進
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−133451(JP,A)
【文献】 特開2010−025246(JP,A)
【文献】 特開2010−203597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機構と、
エンジンと前記無段変速機構との間に設けられ、前記エンジンと一体に回転するポンプインペラと、前記無段変速機の入力軸と一体に回転するタービンランナと、前記ポンプインペラと前記タービンランナとを連結するロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータと、
走行状態に応じて前記ロックアップクラッチを所定の締結状態に制御するとともに、前記無段変速機を所定変速比に制御する制御手段と、
を備えた、無段変速機の制御装置において、
前記制御手段は、前記ロックアップクラッチを解放状態から締結状態に移行させるとき、エンジン回転数と前記タービンランナの回転数であるタービン回転数との差回転が所定差回転以下となったときは、前記タービン回転数が、前記移行中の走行状態に基づいて設定される前記無段変速機構の変速比の制御を継続した場合のタービン回転数よりも、エンジン回転数に近づくように前記無段変速機構の変速比を制御し、
前記所定差回転は、前記差回転の変化速度の絶対値が小さいほど小さな値に設定する、無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと無段変速機構との間にトルクコンバータを備えた車両に搭載される無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、トルクコンバータのロックアップクラッチをスリップ制御する際、流体の温度に応じてロックアップクラッチの制御ゲインを可変とする技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、クラッチの摩擦特性によってスリップ制御が影響を受けた場合、温度に応じて制御ゲインを変更したとしても、適正なスリップ制御を実現することが困難であった。
本発明は上記課題に着目してなされたもので、ロックアップクラッチの安定した締結が可能な無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-143267号公報
【発明の概要】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機の制御装置では、プライマリプーリとセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機構と、エンジンと前記無段変速機構との間に設けられ、前記エンジンと一体に回転するポンプインペラと、前記無段変速機の入力軸と一体に回転するタービンランナと、前記ポンプインペラと前記タービンランナとを連結するロックアップクラッチと、を有するトルクコンバータと、走行状態に応じて前記ロックアップクラッチを所定の締結状態に制御するとともに、前記無段変速機を所定変速比に制御する制御手段と、を備えた、無段変速機の制御装置において、前記制御手段は、前記ロックアップクラッチを解放状態から締結状態に移行させるとき、エンジン回転数と前記タービンランナの回転数であるタービン回転数との差回転が所定差回転以下となったときは、前記タービン回転数が、前記移行中の走行状態に基づいて設定される前記無段変速機構の変速比の制御を継続した場合のタービン回転数よりも、エンジン回転数に近づくように前記無段変速機構の変速比を制御することとした。
【0006】
すなわち、ロックアップクラッチが完全締結状態となる前にタービン回転数がエンジン回転数に近づくため、ロックアップクラッチが完全締結する時にエンジン回転数を過度に押し下げることがなく、トルクコンバータのトルク増幅作用を早期に抑制できる。また、エンジン回転数の低下を抑制することでエンジン負荷を軽減しつつロックアップクラッチを解放状態から締結状態に移行することが可能となり、摩擦係数にばらつきがあったとしても安定的に完全締結に移行することができる。よって、運転者に前後加速度の変動等に伴う違和感を与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。
図2】ロックアップクラッチ締結に伴う前後加速度及びエンジン回転数とタービン回転数との関係を表すタイムチャートである。
図3】実施例1のロックアップ変速制御処理を表すフローチャートである。
図4】実施例1のロックアップ変速制御処理の詳細を表す説明図である。
図5】実施例1の所定差回転設定マップである。
図6】実施例1のロックアップ変速制御処理を行った場合における前後加速度及びエンジン回転数とタービン回転数との関係を表すタイムチャートである。
図7】実施例1のロックアップ変速制御処理を行った場合における前後加速度G及びエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの関係を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1は実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。実施例1の車両は、内燃機関であるエンジン1と、無段変速機と、ベルト式無段変速機構CVTとを有し、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪に駆動力を伝達する。無段変速機は、トルクコンバータ2と、オイルポンプ3と、前後進切替機構4と、ベルト式無段変速機構CVTとを有する。トルクコンバータ2は、エンジン1に連結されオイルポンプ3を駆動する駆動爪と一体に回転するポンプインペラ20と、前後進切替機構4の入力側(ベルト式無段変速機構CVTの入力軸)と接続されるタービンランナ21と、これらポンプインペラ20とタービンランナ21とを一体的に連結可能なロックアップクラッチ2aとを有する。前後進切替機構4は、遊星歯車機構と複数のクラッチ4aから構成されており、クラッチ4aの締結状態によって前進と後進とを切り替える。ベルト式無段変速機構CVTは、前後進切替機構4の出力側(無段変速機の入力軸)と接続されたプライマリプーリ5と、駆動輪と一体に回転するセカンダリプーリ6と、プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6との間に巻回され動力伝達を行うベルト7と、を有する。
【0009】
コントロールユニット10は、運転者の操作によりレンジ位置を選択するシフトレバー11からのレンジ位置信号(以下、レンジ位置信号をそれぞれPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジと記載する。)と、アクセルペダル開度センサ12からのアクセルペダル開度信号(以下、APO)と、プライマリプーリ5の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ13からのプライマリ回転数信号Npriと、セカンダリプーリ6の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ14からのセカンダリ回転数信号Nsecと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ15からのエンジン回転数Neを読み込む。尚、プライマリ回転数信号Npriは、Dレンジの場合、クラッチ4aの締結によりタービン回転数と一致することから、以下、タービン回転数Ntとも記載する。
【0010】
コントロールユニット10は、レンジ位置信号に応じたクラッチ4aの締結状態を制御する。具体的にはPレンジもしくはNレンジであればクラッチ4aは解放状態とし、Rレンジであれば前後進切替機構4が逆回転を出力するように後進クラッチ(もしくはブレーキ)を締結し、Dレンジであれば前後進切替機構4が一体回転して正回転を出力するように前進クラッチ4aを締結する。また、セカンダリ回転数Nsecに基づいて車速VSPを算出する。コントロールユニット10内には、走行状態に応じて最適な燃費状態を達成可能な変速マップが設定されている。この変速マップに基づいてAPO信号と車速VSPとに基づいて目標変速比(所定変速比に相当)を設定する。そして、目標変速比に基づいて各プーリの油圧をフィードフォワード制御により制御すると共に、プライマリ回転数信号Npriとセカンダリ回転数信号Nsecとに基づいて実変速比を検出し、設定された目標変速比と実変速比とが一致するように、各プーリの油圧をフィードバック制御する。
【0011】
ここで、実施例1の構成においてロックアップクラッチ2aを締結する際に生じる課題について説明する。図2は発進後にロックアップクラッチ締結に伴う前後加速度G及びエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの関係を表すタイムチャートである。
時刻t1において、車両停止状態から運転者がアクセルペダル12を踏み込むと、エンジン回転数Neが上昇すると共に、エンジントルクがトルクコンバータ2により増幅されてタービンランナ21に伝達され、タービン回転数Ntも増大することで車両が発進する。
時刻t2において、車速VSPが上昇して所定車速VSP1に到達すると、燃費改善の目的からロックアップクラッチ2aの締結指令が出力され、ロックアップクラッチ2aの解放状態から締結状態への移行に伴ってエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転ΔNが徐々に小さくなる。尚、発進時はベルト式無段変速機構CVTの変速比が最Low変速比として設定され、車速VSPの上昇に伴って徐々にHigh側にアップシフトを行う。よって、タービン回転数Ntの上昇はアップシフトを行うほど抑制される。
【0012】
時刻t3において、差回転ΔNが略0となると、ロックアップクラッチ2aの締結が完了する。このとき、ロックアップクラッチ2aの摩擦材における静止摩擦係数と動摩擦係数の間の差にバラつきがあると、ロックアップクラッチ2aが伝達するトルクに変動が生じ、車両の前後加速度Gが振動(ジャダー振動)するという問題があった。特に、ベルト式無段変速機構CVTのアップシフトによってタービン回転数Ntの上昇が抑制されている場面でのロックアップクラッチ2aの締結は、エンジン回転数Neをタービン回転数Ntに向けて引き下げることとなり、トルクコンバータ2のトルク増幅作用が大きく変動し、かつ、エンジン負荷が増大するため振動の振幅が大きくなるという問題があった。
そこで、実施例1では、ロックアップクラッチ2aが解放状態から締結状態に移行するときには、通常の変速比制御で変速比を制御するよりも、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づくようにベルト式無段変速機構CVTの変速比を制御するロックアップ変速制御処理を導入することとした。
【0013】
図3は実施例1のロックアップ変速制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、ロックアップクラッチ締結制御開始判定に基づき、発進後のロックアップクラッチ2aの締結要求か否かを判断し、YESの場合はステップS2に進み、NOの場合は本制御フローを終了する。ロックアップクラッチ締結制御は、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいて開始される。
ステップS2では、差回転ΔN(=Ne−Nt)が所定回転数ΔN1以下か否かを判断し、所定回転数ΔN1以下の場合はステップS3に進み、それ以外の場合は本ステップを繰り返す。
ステップS3では、ロックアップ変速制御処理を実行する。ここで、タービン回転数Ntは、現在の車速VSPと変速比によって決定されるため、所望のタービン回転数Ntを得る際には、ベルト式無段変速機構CVTを現在の車速VSPと所望のタービン回転数Ntとから算出される変速比G0に制御することで実現する。ロックアップ変速制御処理を実行している間は、目標変速比を設定するにあたり、通常の変速マップから決定される所定変速比に代えて、変速比G0を目標変速比として各プーリ油圧を制御する。
【0014】
図4は実施例1のロックアップ変速制御処理の詳細を表す説明図である。この説明図では、ロックアップクラッチ2aの締結指令が出力されてからロックアップ変速制御処理が終了するまでの間のエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの関係を示す。
【0015】
フェーズp1は、差回転ΔNが所定差回転ΔN1に到達したタイミングを示す。この所定差回転ΔN1は、差回転ΔNの変化速度d(ΔN)/dtに応じて決定される。図5は実施例1の所定差回転設定マップである。図5に示すように、変化速度d(ΔN)/dtの絶対値小さいほど、所定差回転ΔN1が小さな値に設定される。ロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態へ移行させる場合、差回転ΔNは、小さくなる方向へ変化するので、変化速度d(ΔN)/dtは、マイナス側に行くほど絶対値として大きくなり、図5の横軸は図の右側にゼロがある形となっている。
すなわち、ロックアップクラッチ2aを締結して差回転ΔNを0とする際、差回転ΔNの変化が遅いときには、ロックアップクラッチ2aの締結完了に時間がかかるので、所定差回転ΔN1を小さく設定して、ロックアップ変速制御処理を開始してから終了するまでの時間が長くなり過ぎないようにしている。また、ゆっくりと差回転ΔNが減少しているときには、比較的、エンジン回転数が低下する変化速度も小さいので、ロックアップ変速制御処理変速比により、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づくようにベルト式無段変速機構CVTの変速比を制御する量が少なくても、トルクコンバータ2のトルク増幅作用の大きな変動やエンジン負荷の増大は小さく、車両の振動の振幅が大きくなりにくいと言える。一方、差回転ΔNが素早く減少している場合に、遅い場合と同じ所定差回転ΔN1に設定すると、ロックアップ変速制御処理を開始してから終了するまでの時間が短くなってしまうので、所定差回転ΔN1を遅い場合より大きく設定して、ロックアップ変速制御処理を開始してから終了するまでの時間を確保できるようにしている。これにより、素早く差回転ΔNが減少しているときでも、ロックアップ変速制御処理変速比により、十分にタービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づくようにベルト式無段変速機構CVTの変速比を制御することができるので、トルクコンバータ2のトルク増幅作用の大きな変動やエンジン負荷の増大を少なくすることができ、車両の振動の振幅を抑制することができる。
【0016】
フェーズp2では、差回転ΔNが所定差回転ΔN1以下となった後、予め設定された所定上昇勾配でタービン回転数Ntが上昇するような変速比を設定する。ここで、所定上昇勾配は、アクセルペダル開度APOに基づいて設定する。図6は実施例1のタービン回転数補正量設定マップである。所定の低開度APO1までは、アクセルペダル開度APOが大きいほど大きなタービン回転数補正量Nxを設定し、大きな上昇勾配とする。これにより、加速要求が強いほど素早くロックアップクラッチ2aを完全締結することで運転者の加速要求に対応する。また、所定開度APO2より大きなアクセルペダル開度APOでは、アクセルペダル開度APOが大きいほど小さなタービン回転数補正量Nxを設定する。アクセルペダル開度APOが所定開度APO2よりも大きいときは、エンジントルクも十分に出力されており、締結ショックに伴う違和感が小さいからである。
また、発進時にあっては、上述の変速マップから設定される所定変速比は最Low側から徐々にHigh側にアップシフトすることで燃費の向上を図っている(図4中の点線参照)。この所定変速比に対応するタービン回転数Ntにタービン回転数補正量Nxを加算した補正後タービン回転数Ntを達成する変速比G0を設定する。
【0017】
上記タービン回転数の補正によって、例えば、ベルト式無段変速機構CVTの変速比を現時点の変速比(比較的Low側の変速比)に維持し、High側へのアップシフトが禁止される場合や、Low側に向けてダウンシフトする場合もある。車速VSPが上昇している場面でベルト式無段変速機構CVTの変速比をアップシフトすると、タービン回転数Ntは減少、もしくは上昇が抑制される。これに対し、ベルト式無段変速機構CVTの変速比をLow側とすることで、車速VSPの上昇に伴ってタービン回転数Ntも所定変速比で制御する場合より素早く上昇させることができる。
【0018】
フェーズp3では、差回転ΔNが所定差回転ΔN2未満となり、ロックアップクラッチ2aが完全締結の直前であると判断された後、差回転ΔNの変化率を低下させる。これにより、完全締結時における無段変速機構CVTの回転数の急変によるイナーシャショックを抑制できる。尚、所定差回転ΔN2は固定値でもよいし、変化速度d(ΔN)/dtが大きいほど大きな値に設定することで、完全締結に伴う締結ショックを抑制する構成としてもよい。
【0019】
フェーズp4では、完全締結が確認された後、現在のタービン回転数Ntが現時点の車速VSPとアクセルペダル開度APOによって決定される所定変速比に対応する基準タービン回転数Nt1に向かうように変速比を制御する。このとき、現在のタービン回転数Ntと基準タービン回転数Nt1との差ΔNtの変化率が予め設定された所定変化率となるように変速比を制御する。これにより、エンジン回転数Neやタービン回転数Ntの急変を抑制し、安定した加速状態を達成する。
【0020】
図7は実施例1のロックアップ変速制御処理を行った場合における前後加速度G及びエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの関係を表すタイムチャートである。
時刻t11において、車両停止状態から運転者がアクセルペダル12を踏み込むと、エンジン回転数Neが上昇すると共に、エンジントルクがトルクコンバータ2により増幅されてタービンランナ21に伝達され、タービン回転数Ntも増大することで車両が発進する。
時刻t12において、車速VSPが上昇して所定車速VSP1に到達すると、ロックアップクラッチ2aの締結指令が出力され、ロックアップクラッチ2aの解放状態から締結状態への移行に伴ってエンジン回転数Neとタービン回転数Ntとの差回転ΔNが徐々に小さくなる。
時刻t13において、差回転ΔNが所定差回転ΔN1以下となると、ロックアップ変速制御が開始され、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに向けて上昇する。言い換えると、時刻t12から時刻t13の間で、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づく速度よりも速い速度で、タービン回転数Ntがエンジン回転数Neに近づく。これによりトルクコンバータ2のトルク増幅作用が軽減されると共に、エンジン負荷を軽減することでエンジン回転数Neが引き下げられることを抑制する。
時刻t14において、ロックアップクラッチ2aが完全締結すると、その後は、基準タービン回転数Nt1に向けて変速制御され、時刻t15においてタービン回転数Ntが基準タービン回転数Nt1に到達すると、ロックアップ変速制御処理を終了し、通常の変速制御に移行する。
【0021】
これにより、ロックアップクラッチ2aをスムーズに締結することが可能となり、ロックアップクラッチ2aの摩擦材における静止摩擦係数と動摩擦係数の間の差にバラつきがあったとしても、ロックアップクラッチ2aが伝達するトルクの変動を抑制し、車両の前後加速度Gの振動が抑制できる。
【0022】
以上説明したように、実施例にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)エンジン1と、
プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6の間にベルト7を巻装して動力を伝達するベルト式無段変速機構CVTと、
エンジン1とベルト式無段変速機構CVTとの間に設けられ、エンジン1と一体に回転するポンプインペラ20と、ベルト式無段変速機構CVTの入力軸と一体に回転するタービンランナ21と、ポンプインペラ20とタービンランナ21とを連結するロックアップクラッチ2aと、を有するトルクコンバータ2と、
走行状態に応じてロックアップクラッチ2aを所定の締結状態に制御するとともに、ベルト式無段変速機構CVTを所定変速比に制御するコントロールユニット10(制御手段)と、
を備えた、無段変速機の制御装置において、
コントロールユニット10は、ロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態に移行させるとき、エンジン回転数Neとタービン回転数Nt(タービンランナ21の回転数)との差回転ΔNが所定差回転ΔN1以下となったときは、タービン回転数Ntが、移行中の走行状態に基づいて設定されるベルト式無段変速機構CVTの変速比の制御を継続した場合のタービン回転数Nt1よりも、エンジン回転数Neに近づくようにベルト式無段変速機構CVTの変速比を制御することとした。
よって、エンジン回転数Neを過度に押し下げることなくタービン回転数Ntを近づけることで、トルクコンバータ2のトルク増幅作用を早期に抑制できる。また、エンジン回転数Neの低下を抑制してエンジン負荷を軽減しつつロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態に移行することが可能となり、摩擦係数にばらつきがあったとしても安定的に完全締結に移行することができる。よって、運転者に前後加速度の変動等に伴う違和感を与えることを抑制できる。また、このように、所定変速比に対応するタービン回転数Ntにタービン回転数補正量Nxを加算した補正後タービン回転数Ntを達成する変速比G0を設定するようにしているので、ロックアップクラッチ2aが解放状態から締結状態に移行中の走行状態に基づいて設定される無段変速機構CVTの変速比の制御を継続した場合のタービン回転数よりも、エンジン回転数に近づけることができる。このため、変速比を維持中であったり、アップシフト中であったり、ダウンシフト中であったりしても、それぞれの制御を継続する場合に比べ、タービン回転数をエンジン回転数に近づけることができる。
【0023】
(2)所定差回転ΔN1は、差回転ΔNの変化速度d(ΔN)/dtの絶対値が小さいほど小さな値に設定する。
よって、ロックアップクラッチ2aの締結完了までの時間を短縮しつつ、NeとNtとの回転角加速度の乖離を抑制でき、ロックアップクラッチ2aを安定的に締結することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7