特許第6268207号(P6268207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268207
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】医療用電気リード線及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20180115BHJP
   A61N 1/365 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   A61N1/05
   A61N1/365
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-24693(P2016-24693)
(22)【出願日】2016年2月12日
(62)【分割の表示】特願2014-525163(P2014-525163)の分割
【原出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2016-83578(P2016-83578A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】61/523,069
(32)【優先日】2011年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】アーンホルト、デボン エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】パゴリア、ダグラス ディ.
(72)【発明者】
【氏名】ポーキングホーン、ジャネット シー.
【審査官】 伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0241204(US,A1)
【文献】 特表2005−523116(JP,A)
【文献】 特開平04−011061(JP,A)
【文献】 特表2001−522654(JP,A)
【文献】 特表2008−500104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/05
A61N 1/365
A61L 27/00
A61L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用電気リード線であって、
先端領域から基端領域へと延在する絶縁性リード線本体と、
該絶縁性リード線本体の内部に配置されて基端領域から先端領域へと延在する導体と、
該絶縁性リード線本体の上に配置され、かつ導体と電気的に接触している電極と、
該電極を少なくとも部分的に覆って配置されている非導電性の繊維状マトリックスであってエレクトロスピニングされたポリカーボネート系ポリウレタンを含む非導電性の繊維状マトリックスと、
を含み、
前記繊維状マトリックスは0.75μm未満の平均繊維径を有するとともに13μm〜51μmの厚さを有する医療用電気リード線。
【請求項2】
前記繊維状マトリックスは0.3μm以下の平均繊維径を有する、請求項1に記載の医療用電気リード線。
【請求項3】
絶縁性リード線本体および該絶縁性リード線本体の上に配置された電極を有する医療用電気リード線を形成する方法であって、前記方法は、
エレクトロスピニング法によって非導電性のポリカーボネート系ポリウレタンポリマーを含んでなる繊維状マトリックスを形成するステップと、
該繊維状マトリックスを、電極を少なくとも部分的に覆って配置するステップと、を含み、
前記繊維状マトリックスは0.75μm未満の平均繊維径を有するとともに13μm〜51μmの厚さを有する、方法。
【請求項4】
前記繊維状マトリックスは0.3μm以下の平均繊維径を有する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
エレクトロスピニングを行う前に3〜40重量%のポリカーボネート系ポリウレタンを含んでなるコーティング溶液が調製される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
繊維状マトリックスを形成するステップは電極上に繊維状マトリックスを直接形成することを含んでなる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
繊維状マトリックスを形成するステップは、基材上で繊維状マトリックスを形成することと、電極を少なくとも部分的に覆って該繊維状マトリックスを堆積させることとを含んでなる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維状マトリックスは該繊維状マトリックスを通して電気生理学的治療法を送達するのに十分な繊維対繊維の間隔を有する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用デバイスを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は医療用デバイスをコーティングする方法およびコーティングが施された医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓ペーシングリード線はよく知られており、バッテリ作動型ペースメーカーもしくは他のパルス発生手段から心臓へとパルス刺激信号を運ぶために、また身体外部の場所から心臓の電気的活動をモニタリングするために、広く使用されている。心臓を正常な律動に戻すために電極を介して心臓に電気エネルギーが施用される。電極性能に影響を及ぼすいくつかの要因には、電極/組織接触面における分極、電極容量、センシングインピーダンス、および電圧閾値が含まれうる。上記の施用のいずれにおいても、電極/組織接触面における電気性能特性を最適化することが非常に望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電極として従来使用されてきた材料について認識されている性能上の課題には、組織の内部成長の制御困難性、移植デバイス周辺の炎症、および繊維状瘢痕組織の形成のうち少なくともいずれかが挙げられる。これらの課題は、リード線の抜去の困難性および経時的な電極性能の低下のうち少なくともいずれかをもたらしうる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記した課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、医療用電気リード線であって、先端領域から基端領域へと延在する絶縁性リード線本体と、該絶縁性リード線本体の内部に配置されて基端領域から先端領域へと延在する導体と、該絶縁性リード線本体の上に配置され、かつ導体と電気的に接触している電極と、該電極を少なくとも部分的に覆って配置されている非導電性の繊維状マトリックスであってエレクトロスピニングされたポリカーボネート系ポリウレタンを含む非導電性の繊維状マトリックスと、を含み、該繊維状マトリックスが0.75μm未満の平均繊維径を有するとともに13μm〜51μmの厚さを有する医療用電気リード線、を提供する。
【0005】
独立請求項に記載の発明は、絶縁性リード線本体および該絶縁性リード線本体の上に配置された電極を有する医療用電気リード線を形成する方法であって、該方法は、エレクトロスピニング法によって非導電性のポリカーボネート系ポリウレタンポリマーを含んでなる繊維状マトリックスを形成するステップと、該繊維状マトリックスを、電極を少なくとも部分的に覆って配置するステップと、を含み、前記繊維状マトリックスは0.75μm未満の平均繊維径を有するとともに13μm〜51μmの厚さを有する、方法、を提供する。
【0007】
本明細書中では、コーティングが施された医療用デバイス、および医療用デバイスをコーティングする方法の様々な実施形態が開示される。
実施例1において、医療用電気リード線は、先端領域から基端領域へと延在する絶縁性リード線本体を備えている。導体は該絶縁性リード線本体の内部に配置されて基端領域から先端領域へと延在する。電極は絶縁性リード線本体の上に配置され、導体と電気的に接触している。該電極を少なくとも部分的に覆って、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)を含む繊維状マトリックスが配置される。該繊維状マトリックスは約730ナノメートル以下の平均繊維径を有する。
【0008】
実施例2では、実施例1による医療用電気リード線において、繊維状マトリックスは、エレクトロスピニング(電界紡糸)されたポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)を含んでなる。
【0009】
実施例3では、実施例1または実施例2のいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスは約0.00254ミリメートル〜約0.254ミリメートルの厚さを有する。
【0010】
実施例4では、絶縁性リード線本体および該絶縁性リード線本体の上に配置された電極を有する医療用電気リード線は、エレクトロスピニング法またはメルトブロー法によって非導電性ポリマーを含む繊維状マトリックスを形成することにより、形成される。該繊維状マトリックスは電極を少なくとも部分的に覆って配置され、約800ナノメートル以下の平均繊維径を有する。
【0011】
実施例5では、実施例4による方法において、繊維状マトリックスは約750ナノメートル以下の平均繊維径を有する。
実施例6では、実施例4または実施例5による方法において、繊維状マトリックスを形成することはポリウレタンのエレクトロスピニングを行うことを含んでなる。
【0012】
実施例7では、実施例6による方法において、エレクトロスピニングを行う前に1〜30重量%のポリウレタンを含んでなるコーティング溶液が調製される。
実施例8では、実施例4または実施例5による方法において、繊維状マトリックスを形成することはポリウレタンのメルトブローを行うことを含んでなる。
【0013】
実施例9では、実施例4または実施例5による方法において、繊維状マトリックスを形成することはポリビニリデンフルオライドのエレクトロスピニングを行うことを含んでなる。
【0014】
実施例10では、実施例9による方法において、エレクトロスピニングを行う前に重量比で10%〜40%のポリビニリデンフルオライドを含んでなるコーティング溶液が調製される。
【0015】
実施例11では、実施例4による方法において、繊維状マトリックスを形成することはポリビニリデンフルオライドのメルトブローを行うことを含んでなる。
実施例12では、実施例4および9〜11のうちいずれかによる方法において、繊維状マトリックスはポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)を含んでなる。
【0016】
実施例13では、実施例1〜12のうちいずれかによる方法において、繊維状マトリックスを形成することは電極上に繊維状マトリックスを直接形成することを含んでなる。
実施例14では、実施例4〜13のうちいずれかによる方法において、繊維状マトリックスを形成することは、基材上で繊維状マトリックスを形成することと、電極を少なくとも部分的に覆って該繊維状マトリックスを堆積させることとを含んでなる。
【0017】
実施例15では、実施例4〜14のうちいずれかによる方法において、繊維状マトリックスは約0.00254ミリメートル〜約0.254ミリメートルの厚さを有する。
実施例16では、実施例4〜15のうちいずれかによる方法において、繊維状マトリックスは該マトリックスを通して電気生理学的治療法を送達するのに十分な繊維対繊維の間隔を有する。
【0018】
実施例17において、医療用電気リード線は、先端領域から基端領域へと延在する絶縁性リード線本体を備えている。導体は該絶縁性リード線本体の内部に配置されて基端領域から先端領域へと延在する。電極は絶縁性リード線本体の上に配置され、導体と電気的に接触している。該電極を少なくとも部分的に覆って、非導電性ポリマーを含む繊維状マトリックスが配置される。該繊維状マトリックスは約800ナノメートル以下の平均繊維径を有する。
【0019】
実施例18では、実施例17による医療用電気リード線において、繊維状マトリックスは約750ナノメートル以下の平均繊維径を有する。
実施例19では、実施例17または18のいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスはエレクトロスピニングされたポリウレタンを含んでいる。
【0020】
実施例20では、実施例17〜19のうちいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスはポリビニリデンフルオライドを含んでいる。
実施例21では、実施例17〜20のうちいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスはポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)を含んでいる。
【0021】
実施例22では、実施例17〜21のうちいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスは約0.00254ミリメートル〜約0.254ミリメートルの厚さを有する。
【0022】
実施例23では、実施例17〜22のうちいずれかによる医療用電気リード線において、繊維状マトリックスは該マトリックスを通して電気生理学的治療法を送達するのに十分な繊維対繊維の間隔を有する。
【0023】
多数の実施形態が開示されるが、当業者には、本発明の実例となる実施形態を示しかつ説明する以下の詳細な説明から、本発明のさらに別の実施形態が明白となるであろう。従って、図面および詳細な説明は当然例示としてみなされるべきであり、限定的なものとみなされるべきではない。
【発明の効果】
【0024】
以上、本発明によれば、リード線の抜去の困難性および経時的な電極性能の低下を解決できる医療用電気リード線及びその形成方法が提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態による医療用電気リード線の概略図。
図2A】本発明の実施形態による医療用電気リード線の長手方向の断面概略図。
図2B】本発明の実施形態による医療用電気リード線の長手方向の断面概略図。
図3】エレクトロスピニング法の概略例証図。
図4】メルトブロー法の概略例証図。
図5】実験データをグラフ表示する図。
図6】実験データをグラフ表示する図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明には様々な改変形態および代替形態の可能性があるが、特定の実施形態が例として図面に示されており、かつ以下に詳細に説明される。しかしながら、本発明を記載の特定の実施形態に限定することが目的ではない。それどころか、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるすべての改変形態、等価物、および代替形態を包含するように意図される。
【0027】
図1は、本開示の様々な実施形態による医療用電気リード線10の部分断面図である。いくつかの実施形態によれば、医療用電気リード線10は、患者の心臓内に移植するために構成可能である。他の実施形態によれば、医療用電気リード線10は患者の神経血管領域内に移植するために構成される。さらに別の実施形態では、リード線10は人工内耳用のリード線であってもよい。医療用電気リード線10は、基端16から先端20へと延在する長尺状の絶縁性リード線本体12を備えている。基端16はコネクタ24を介してパルス発生器に作動可能に接続されるように構成されている。少なくとも1つの導体32は、リード線10の基端16のコネクタ24からリード線10の先端20の1つ以上の電極28へと延在する。導体32はコイル状導体またはケーブル導体であってよい。複数の導体が使用されるいくつかの実施形態によれば、リード線はコイル状導体およびケーブル導体の組合せを含むことができる。コイル状導体が使用される場合、いくつかの実施形態によれば、該導体は同径または同軸のいずれかの構成を有することができる。
【0028】
リード線本体12は可撓性であるがその長さに沿ってほぼ圧縮不可能であり、かつ円形断面を有する。本開示の1つの実施形態によれば、リード線本体12の外径は約0.6〜約5mm(約2〜約15フレンチ)の範囲にある。多くの実施形態では、リード線本体12は薬物のカラーまたはプラグを備えていない。
【0029】
医療用電気リード線10は、送達される治療法の種類に応じて単極、双極、または多極のいずれであってもよい。多極電極28および多導体32を使用する本開示の実施形態では、導体32はそれぞれ、各電極28が個々にアドレス指定可能となるように、1対1方式で個々の電極28に接続されるようになされる。加えて、リード線本体12は、患者の心臓内の標的場所へリード線10を送達するためのガイドワイヤまたはスタイレットのような案内要素を受承するようになされた1または複数のルーメンを備えることができる。
【0030】
電極28は、当分野で知られているような任意の電極構成を有しうる。本開示の1つの実施形態によれば、少なくとも1つの電極はリング電極または部分的リング電極であってよい。別の実施形態によれば、少なくとも1つの電極28はショック用コイルである。さらに別の本開示の実施形態によれば、少なくとも1つの電極28は露出した電極部分と絶縁された電極部分とを備えている。いくつかの実施形態では、電極構成の組合せが使用されうる。電極28は、白金、ステンレス鋼、チタン、タンタル、パラジウム、MP35N、その他の同様の導電材料、前述のいずれかの合金であって例えば白金−イリジウム合金、および前述のその他の組合せであって例えばクラッドメタル層または多重金属材料(multiple metal material)でコーティングされてもよいし、前記材料から形成されてもよい。
【0031】
様々な実施形態によれば、リード線本体12は、1つ以上の電極28を備えたリード線本体12を患者の体内の標的部位に固定かつ安定化するための1つ以上の固定部材を備えることができる。該固定部材は能動型であっても受動型であってもよい。典型的な能動型固定部材にはねじ込み式固定部材が挙げられる。受動型固定部材の例には、血管壁を支承するようになされたリード線本体12の予備成形された先端側部分、およびリード線本体12の先端に提供された拡張可能な歯状部のうち少なくともいずれかを挙げることができる。
【0032】
リード線10は、絶縁性リード線本体12の様々な部分を覆って配置される繊維状マトリックスを備えている。図2Aおよび2Bは、リード線10の繊維状マトリックスを備えうる部分の、実例であるが非限定的な実施例を提供している。図2Aおよび2Bは、明瞭にするために内部構造が除去された、図1のリード線10の長手方向の断面概略図である。
【0033】
図2Aは、絶縁性リード線本体12の一部を覆って配置された繊維状マトリックス40を示す。絶縁性リード線本体12の図示された部分は、電極28のような電極に隣接していてもよいし、電極とは間隔を置いて配置されてもよい。対照的に、図2Bは、電極28を覆って配置された繊維状マトリックス40を例証している。繊維状マトリックス40は電極28全体を覆っているように図示されているが、実施形態によっては、繊維状マトリックス40は、電極28のごく一部のみ、電極28のほとんどの部分、またはその中間的な電極28の部分を覆う。
【0034】
いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40はリード線10に様々な有益な機能性を提供しうる。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40はリード線10の耐摩耗性を改善しうる。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40はリード線10の電気的絶縁または熱絶縁を改善する可能性がある。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40は、特に電極28の部位において、組織の内部成長に対する制御を改善する可能性がある。ある実施形態では、組織の内部成長の量は、移植されたリード線10を除去するのに必要な力がインストロン(Instron)のフォースゲージを用いて測定される組織抜去法によって決定されうる。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40の厚さおよび平均繊維径は組織の内部成長に影響を及ぼす。繊維状マトリックス40の厚さおよび平均繊維径はさらに、繊維状マトリックス40を通して電気生理学的治療法を送達する能力にも影響を及ぼしうる。ある実施形態では、繊維状マトリックス40はリード線10のインピーダンスに著しい影響を及ぼさない。
【0035】
繊維状マトリックス40は、該マトリックスを構成する複数の無秩序に並んだ繊維を含んでいる。ある実施形態では、繊維状マトリックス40は、例えばエレクトロスピニング法またはメルトブロー法により形成されうる。繊維は、例えば約10〜3000ナノメートル(nm)の範囲の直径を有しうる。繊維径の大きさは、例えば約40〜2000nm、約50〜1500nm、または約100〜1000nmであってよい。繊維径の大きさは、繊維の平均的大きさをとることにより測定されうる。ある実施形態では、繊維はわずか40nm、50nm、100nmまたは150nm程度の直径を有しても、また300nm、400nm、500nm、600nm、650nm、700nm、725nm、750nmまたは800nm程度の直径を有してもよいし、前述の値の任意の組合せによって境界が定められた任意の範囲内にあってもよい。他の実施形態では、繊維は約800nm、750nm、725nm、700nm、600nm、500nmまたは400nm未満の平均径の大きさを有しうる。他の実施形態では、繊維マトリックス40は、改変型のエレクトロスピニング技法およびメルトブロー技法を使用して部分的または完全に中空繊維を用いて形成されてもよい。
【0036】
繊維状マトリックス40は、約1〜約100ミクロン、より特定的には約10〜約50ミクロン、さらにより特定的には約10〜約25ミクロンの範囲の繊維対繊維の平均間隔を有しうる。いくつかの実施形態では、隣接した繊維の間の繊維間隔は、ペーシング能力への影響を最小限にしつつ組織の内部成長を制御するように調整または調節されうる。これは、例えば堆積パラメータまたは堆積材料の変更により遂行可能である。他の実施形態では、組織の内部成長はマトリックスの厚さによって制御される。繊維状マトリックスに適した厚さは、約0.00254ミリメートル(mm)〜約0.254mm(約0.0001インチ(in.)〜約0.01インチ)、より特定的には約0.0127mm〜約0.127mm(約0.0005インチ〜約0.005インチ)、さらにより特定的には約0.0254mm〜約0.0762mm(約0.001インチ〜約0.003インチ)の範囲に及びうる。
【0037】
いくつかの実施形態において、特に繊維状マトリックス40が電極28のような電極を少なくとも部分的に覆って配置される場合、繊維状マトリックス40は、イオンが繊維状マトリックス40を通って流れることを可能にするのに十分な繊維間隔を有して、電極28との電気的接点が作られるようになっていてもよい。
【0038】
繊維状マトリックス40を調製するために、導電性および非導電性いずれのポリマー材料も含む多種多様のポリマーが使用可能である。適切な非導電性ポリマー(すなわち本質的に導電性ではないポリマー)には、様々なポリシロキサン、ポリウレタン、フルオロポリマー、ポリオレフィン、ポリアミドおよびポリエステルの、ホモポリマー、コポリマーおよびターポリマーが挙げられる。ある実施形態の非導電性材料は、ポリマーの導電性を促進するドーパント材料を含まないかまたはほとんど含まない。他の実施形態では、導電性材料は、5重量パーセント(wt%)未満のドーパント、より特定的には1wt%未満のドーパント、さらにより特定的には0.5wt%未満のドーパントを含んでなることができる。適切な導電性ポリマーは、米国特許第7,908,016号明細書に開示されており、前記特許文献は参照により全体が本願に組み込まれる。
【0039】
ある実施形態では、繊維状マトリックス40は非導電性のポリウレタン材料から形成される。適切なポリウレタンには、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリイソブチレン(PIB)系のポリウレタン類が挙げられる。実例の適切なPIBポリウレタン類は、米国特許出願公開第2010/0023104号明細書に開示されており、前記特許文献は参照により全体が本願に組み込まれる。そのようなコポリマーおよび該コポリマーを合成する方法のさらなる例は、国際公開第2008/060333号、国際公開第2008/066914号、「ポリイソブチレンウレタン、尿素およびウレタン/尿素のコポリマーならびに同コポリマーを含有する医療用デバイス(POLYISOBUTYLENE URETHANE, UREA AND URETHANE/UREA COPOLYMERS AND MEDICAL DEVICES CONTAINING THE SAME)」と題された2009年6月26日に出願された米国特許出願第12/492,483号明細書、ならびに、「ポリイソブチレン系ポリマーおよびそれらの誘導体を含む医療用デバイス(Medical Devices Including Polyisobutylene Based Polymers and Derivatives Thereof)」と題された2010年9月2日に出願された米国特許出願第12/874,887号明細書に概ね記載されており、前記特許文献はいずれも全体が参照により本願に組み込まれる。他の実施形態では、繊維状マトリックス40は非導電性のフルオロポリマー材料から形成される。適切なフルオロポリマー材料には、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)、ポリテトラフルオロエチレンおよび延伸ポリテトラフルオロエチレンが含まれる。
【0040】
本明細書中に記載されるように、繊維状マトリックス40の平均直径サイズは組織の内部成長を低減する可能性がある。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40は、ポリカーボネート系ポリウレタンのようなポリウレタンを含みかつ約800nm未満または約750nm未満の平均径の大きさを有しうる。他の実施形態では、繊維状マトリックス40は、PVDF HFPを含みかつ約800nm未満または約730nm未満の平均径の大きさを有しうる。
【0041】
繊維状マトリックス40は、いくつかの異なる技法、例えばエレクトロスピニング法およびメルトブロー法を使用して、形成されうる。いくつかの実施形態では、エレクトロスピニング法を使用するとより小さな繊維の大きさが達成されうる。図3および4は両技法を概略的に示している。
【0042】
図3は、エレクトロスピニング法の概略的説明を提示している。電界は、キャピラリー供給源52からポリマーの溶液または融液54を引き出すために使用されうる。いくつかの実施形態では、キャピラリー供給源52はシリンジであってよい。ポリマーの溶液または融液54は接地コレクタ58へと引き伸ばされる。該プロセスに動力を供給するために高電圧電源56が使用されうる。コーティングされるべき要素60は、コーティングされるコレクタ58の上に配置されうる。乾燥すると、薄いポリマーの織物62が形成されうる。いくつかの実施形態では、繊維の大きさは、ポリマーの溶液または融液54の中のポリマーの相対濃度を調整することにより制御されうる。
【0043】
エレクトロスピニング溶液中のポリマーの濃度および溶媒の選択は、所望の繊維状マトリックスの特性の達成において、ならびに特に空隙率および繊維の大きさのうち少なくともいずれかの制御のために、重要な要因である。加えて、少量の金属塩溶液が堆積を改善するためにエレクトロスピニング溶液に加えられてもよい。他の実施形態では、エレクトロスピニング溶液は、約1wt%〜約40wt%、より特定的には約1wt%〜約30wt%、さらにより特定的には約3wt%〜約15wt%、さらにより特定的には約5wt%〜約15wt%のポリマー濃度を有する。適切な溶媒には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、シクロヘキサンテトラヒドロフラン(cyclohexane tetrohydrofuran)ならびにこれらの混合物および共溶媒が含まれる。
【0044】
他の実施形態では、ポリマーはポリウレタンポリマーであってよく、かつエレクトロスピニング溶液は、1%、3%もしくは5%程度のポリマー濃度を有していても、または15%、30%もしくは40%ほどのポリマー濃度を有していてもよいし、前述の値の任意の組合せによって境界が定められた任意の範囲内にあってもよい。ある実施形態では、ポリマーはフルオロポリマーであってよく、かつエレクトロスピニング溶液は、5%、10%、15%もしくは20%程度のポリマー濃度を有していても、または30%、35%もしくは40%ほどのポリマー濃度を有していてもよいし、前述の値の任意の組合せによって境界が定められた任意の範囲内にあってもよい。
【0045】
図4は、メルトブロー法の概略的説明を提示している。装置70はポリマー融液72を収容するように構成されている。ポリマー融液72はオリフィス74を通過し、装置70を通過する高温空気流76を介してオリフィス74を通り抜けて運搬される。ポリマー融液72がオリフィス74を出ると、ポリマー融液72の延伸を支援する加熱空気流78に遭遇する。その結果、ポリマー融液72は繊維80を形成して該繊維はコレクタ82に衝突する。コーティングされるべき要素はコレクタ82の上または前に単に置かれればよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、リード線10は、繊維状マトリックス40がリード線10の上で直接形成される前に、組み立てられてもよい。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40は、リード線10が組み立てられる前にリード線10の構成要素上で形成されうる。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックス40は別々に形成され、次いでリード線10の一部分の上に配置されてもよい。
【0047】
ある実施形態では、繊維状マトリックスは、複合材または材料層の形態の2以上のポリマー材料から形成されてもよい。1例において、第1のポリマー材料を含んでなる第1層がリード線10の一部分の上に堆積され、続いて第2のポリマー材料によって形成された第2層が堆積されてもよい。必要に応じて、追加の層も適用されうる。別の例では、複数の層のうちの1つは非導電性ポリマー材料を含んでなる一方、複数の層のうち別のものは導電性材料を含んでなる。さらに別の例では、層はそれぞれ非導電性材料を含んでなる。
【0048】
本明細書中の説明はリード線40の上の繊維状マトリックス40について議論しているが、繊維状マトリックス40は、任意の医療用電気デバイス、例えば、限定するものではないが、移植式電気刺激システムであって例えば神経刺激システム、数ある中でも特に例えば脊髄刺激(SCS)システム、深部脳刺激(DBS)システム、末梢神経刺激(PNS)システム、胃神経刺激システム、人工内耳システム、および網膜インプラントシステム、ならびに心臓システムであって数ある中でも特に例えば移植式心律動管理(CRM)システム、移植式除細動器(ICD)、ならびに心臓再同期化および除細動(CRDT)デバイス上にあってよい。
【0049】
実験の部
インピーダンス試験
比較試料AおよびBならびに試料C−F
一群のコイル状ペーシング用リード電極について、10秒のパルス間隔で20回の一連のショックに関する抵抗性について試験が行われた。比較試料AおよびBは、組織の成長阻害処理過程を伴って生産された市販の電極を備えたペースメーカーリード線であった。試料C−Fは試料AおよびBと同じ種類のリード線から形成されたが、電極は、エレクトロスピニング法によって該電極上に堆積されたTecothane(登録商標)55D(市販のポリエーテルポリウレタン)の繊維状マトリックスでコーティングされた。繊維状マトリックスを形成するために、ジメチルアセトアミド中に5wt%のTecothaneを含有するコーティング溶液が調製された。該コーティング溶液は、電極表面からおよそ10センチメートル(cm)の単一ニードルのエレクトロスピニング装置に装填された。該エレクトロスピニング装置は、およそ0.051mm(0.002インチ)のコーティング厚さを形成するために周囲条件下で電極上に繊維状マトリックスを堆積させるために使用された。
【0050】
図5は、インピーダンス試験のグラフ表示を提示している。比較試料Aおよび試料Bは最も低い抵抗性および最も小さい変動性を呈しているが、試料C−Fは20回のパルスの間を通じて45オーム付近の同程度の抵抗性を示した。これは、繊維状マトリックスが電極のインピーダンスをほとんど増大させなかったことを示している。
【0051】
比較試料Gおよび試料H−J
一群のコイル状ペーシング用リード電極について、10秒のパルス間隔で20回の一連のショックに関する抵抗性について試験が行われた。比較試料Gは、組織の成長阻害処理過程を伴って生産された市販の電極を備えたペースメーカーリード線であった。試料H、IおよびJは比較試料Gと同じ種類のリード線から形成されたが、電極は、エレクトロスピニング法によって電極上に堆積されたポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロペンコポリマー(PVDF HFP)(ポリビニリデンフルオライドを含む市販のフルオロポリマー)の繊維状マトリックスで覆われた。繊維状マトリックスを形成するために、ジメチルホルムアミド中に25wt%のPVDF HFPを含有するコーティング溶液が調製された。該コーティング溶液は、電極表面からおよそ10センチメートルの単一ニードルのエレクトロスピニング装置に装填された。該エレクトロスピニング装置は周囲条件下で電極上に繊維状マトリックスを堆積させるために使用された。各試料について、0.018mm〜0.051mm(0.0007インチ〜0.002インチ)の範囲の繊維状マトリックスの厚さで6本のリード線が覆われた。試料はその後、湿潤性を高めるためにポリエチレングリコールジメタクリラート溶液で処理された。
【0052】
図6は、インピーダンス試験のグラフ表示を提示している。試料Gは最も低い抵抗性および最も小さい変動性を呈したが、試料H−Jは20回のパルスの間を通じて同程度の抵抗性を示した。これは、繊維状マトリックスが電極のインピーダンスをほとんど増大させなかったことを示している。
【0053】
組織抜去法
ショック用コイルは、患者の組織内に皮下移植された。移植の30日後、ショック用コイルの片端において切り込みが作られた。コイルの端部は組織から切除され、インストロンのフォースゲージに取り付けられた。皮膚の下からコイルを長手方向に完全に抜去するための最大の力が記録された。抜去力がより大きいほど、組織接着または組織の内部成長の程度がより大きいことを示す。いくつかの実施形態では、適切な製品は、現在市販されている製品より小さいかまたはほぼ同等の抜去力を有しうる。
【0054】
試料KおよびLならびに比較試料MおよびN
一群のショック用コイルについて、組織の抜去および組織接着に関して試験が行われた。試料Kは、約0.3ミクロンの平均的な繊維の大きさを有しているポリカーボネートウレタンの繊維状マトリックスを備え、試料Lは、約0.750ミクロンの平均的な繊維の大きさを有しているポリカーボネートウレタンの繊維状マトリックスを備えていた。試料KおよびLの繊維状マトリックスはエレクトロスピニング法によって形成され、0.013ミリメートル(mm)〜0.051mm(0.0005インチ〜0.002インチ)の範囲の厚さを有していた。比較試料Mおよび比較試料Nは異なる組織の成長阻害処理過程を伴って生産された市販のコイルであった。単位ニュートン(N)で示す組織抜去の結果は表1に提示されている。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示されるように、平均径が0.3ミクロンの繊維状マトリックス(試料K)は平均径が約0.750ミクロンの繊維状マトリックス(試料L)よりも抜去に必要な力が小さかったが、これは必要とされる抜去力が繊維直径の縮小とともに減少することを例証している。さらに、試料Kは市販のコイルの試料Mよりもわずかに大きな抜去力を必要とし、また市販のコイル試料Nよりも抜去に必要な力は小さかった。試料Lは、試料Mおよび試料Nよりも抜去により大きな力を必要とした。いくつかの実施形態では、繊維状マトリックスでコーティングされたコイルについて必要な抜去力が比較試料Mおよび比較試料Nのような市販のコイルの抜去力より小さいかまたは同等であることが望ましい場合もある。
【0057】
試料OおよびP、ならびに比較試料QおよびR
PVDF HFPを含む繊維状マトリックスを有しているコイルを抜去するのに必要な力の量についても調査が行われた。試料OおよびPは、約0.730ミクロンの平均繊維径を有するPVDF HFPの繊維状マトリックスを備えていた。試料OおよびPの繊維状マトリックスはエレクトロスピニング法によって形成され、0.013mm〜0.051mm(0.0005インチ〜0.002インチ)の範囲の厚さを有していた。比較試料Qおよび比較試料Rは異なる組織の成長阻害処理過程を伴って生産された市販のコイルであった。ニュートン(N)で示す組織抜去の結果は表2に表されている。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示されるように、PVDF HFPを含有しておりかつ約0.730ミクロンの平均的な繊維の大きさを有している繊維状マトリックスは、比較試料Qおよび比較試料Rよりも抜去に大きな力を必要とした。試料Oおよび試料Pは、約0.730ミクロンより大きな平均繊維径を有しているPVDF HFP繊維が望ましからぬ高い抜去力を必要とする可能性があることを示唆している。
【0060】
議論された典型的な実施形態に対し、本発明の範囲から逸脱することなく様々な改変および追加を行うことができる。例えば、本明細書中に記載された実施形態は特定の特徴を表しているが、本発明の範囲には、様々な組み合わせの特徴を有する実施形態および記載された特徴を必ずしも全て含んでいない実施形態も含まれる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲の範囲内にあるそのような全ての代替形態、改変形態および変更形態を、それらの等価物全てとともに包含するように意図されている。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6