特許第6268277号(P6268277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268277SiC基板の表面処理方法、SiC基板の製造方法、及び半導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268277
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】SiC基板の表面処理方法、SiC基板の製造方法、及び半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20180115BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20180115BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20180115BHJP
   C30B 33/12 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20180115BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01L21/302 105B
   H01L21/302 201A
   H01L21/205
   C30B29/36 A
   C30B33/12
   H01L21/20
   H01L21/324 X
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-511353(P2016-511353)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015001303
(87)【国際公開番号】WO2015151413
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-74749(P2014-74749)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】鳥見 聡
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
【審査官】 齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−230944(JP,A)
【文献】 特開2004−002126(JP,A)
【文献】 特開2008−016691(JP,A)
【文献】 特開2009−256145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C30B 29/36
C30B 33/12
H01L 21/20
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板に対して、機械加工が行われた後の当該SiC基板の表面を処理する表面処理方法において、
前記SiC基板には、基板表面よりも内部に存在し、加熱することで顕在化して表面荒れの原因となる潜傷が生じており、
前記SiC基板をSi雰囲気下で加熱処理して当該SiC基板の表面の単結晶SiCをエッチングして潜傷を除去し、
前記SiC基板のエッチング時において、前記SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整することで当該SiC基板のエッチング速度を制御することを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のSiC基板の表面処理方法であって、
機械加工が行われた後であって潜傷の顕在化前の前記SiC基板の表面に研磨傷が生じているとともに、当該研磨傷の内部に潜傷が生じており、Si雰囲気下でのエッチングを行うことで研磨傷及び潜傷が除去されることを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載のSiC基板の表面処理方法であって、
Si雰囲気下でのエッチングを行う場合の前記不活性ガス圧が0.01Pa以上1Pa以下であることを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のSiC基板の表面処理方法であって、
Si雰囲気下でのエッチングを行う場合の温度が1800℃以上2000℃以下であることを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載のSiC基板の表面処理方法であって、
Si雰囲気下でのエッチングを行うことで、前記SiC基板の表面を5μm以上除去することを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のSiC基板の表面処理方法であって、
前記SiC基板をエッチングする際のエッチング速度を200nm/min以上に制御するとともに、当該SiC基板のエッチング量を10μm以上とすることを特徴とするSiC基板の表面処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載の表面処理方法を用いて表面処理する工程を含むことを特徴とするSiC基板の製造方法
【請求項8】
請求項1に記載のSiC基板の表面処理方法により、SiC基板の表面をエッチングする潜傷除去工程と、
前記潜傷除去工程で潜傷が除去された前記SiC基板の表面に単結晶SiCをエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程と、
前記エピタキシャル成長工程が行われた前記SiC基板をSi雰囲気下で加熱処理する加熱工程と、
を含むことを特徴とする半導体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体の製造方法であって、
前記加熱工程では、前記SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整して当該SiC基板のエッチング速度を制御しつつ、当該SiC基板をSi雰囲気下で加熱処理してエッチングを行うことを特徴とする半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、SiC基板の潜傷を除去する表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、Si等と比較して耐熱性及び機械的強度等に優れるため、新たな半導体材料として注目されている。
【0003】
特許文献1は、このSiC基板の表面を平坦化する表面処理方法を開示する。この表面処理方法では、SiC基板を収納容器に収納し、収納容器内をSi蒸気圧下とした状態で当該収納容器を加熱する。これにより、収納容器の内部のSiC基板がエッチングされ、分子レベルに平坦なSiC基板を得ることができる。
【0004】
ここで、SiC基板は、単結晶SiCで構成されるインゴットから所定の角度で切り出すことで得られる。切り出した状態では表面粗さが大きいので、機械研磨(MP)及び化学機械研磨(CMP)等を行って表面を平坦にする必要がある。しかし、機械研磨を行うことにより、SiC基板の表面に研磨傷が発生する。また、機械研磨時にSiC基板の表面に圧力が掛かることにより、結晶性が乱れた変質層(以下、潜傷)が生じる。
【0005】
特許文献2では、SiC基板に生じた表面変質層を除去する処理方法が開示されている。特許文献2では、表面変質層はSiC基板を作成する工程で生じた結晶構造のダメージ層と記載されている。また、特許文献2では、表面変質層を50nm以下に抑え、当該表面変質層を水素エッチングにより除去する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−16691号公報
【特許文献2】国際公開第2011/024931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、潜傷が残存するSiC基板にエッチング処理及び加熱処理等を行った場合、潜傷がエピタキシャル膜内を拡散及び貫通し、SiC基板の表面が荒れてしまう。この結果、SiC基板から製造される半導体の品質が低下してしまう。しかし、一般的な水素エッチングのエッチング速度は、数十nm〜数百nm/hであるので、数μm程度の潜傷を取り除くためには多大な時間が掛かってしまう。なお、化学機械研磨の研磨速度も1μm/h以下であるので、潜傷を取り除くためには多大な時間が掛かってしまう。
【0008】
ここで、特許文献1では潜傷について言及されていないが、仮に特許文献1の方法でSiC基板を加熱してエッチングした場合、潜傷を素早く除去することができる。しかし、高真空のSi雰囲気中で加熱処理を行うと、エッチング速度が速いので基板を過剰に除去してしまう可能性がある。
【0009】
また、特許文献2の方法を用いることにより表面変質層の厚みを小さくすることができるが、所定の原料を用いて種結晶からSiC基板を成長させる必要があり、加工工程の自由度が低下するとともに加工工程における手間が増大する。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、SiC基板に生じた潜傷を必要十分な範囲で素早く除去する表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、機械加工が行われたSiC基板の表面を処理する表面処理方法において、前記SiC基板には、基板表面よりも内部に存在し、加熱することで顕在化して表面荒れの原因となる潜傷が生じており、前記SiC基板をSi雰囲気下で加熱処理して当該SiC基板の表面の単結晶SiCをエッチングして潜傷を除去し、前記SiC基板のエッチング時において、前記SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整することで当該SiC基板のエッチング速度を制御する表面処理方法が提供される。
【0013】
これにより、SiC基板に潜傷等が存在する場合は、この潜傷等を除去することができる。従って、エピタキシャル成長及び熱処理等を行っても表面が荒れないため、高品質なSiC基板を製造することができる。また、上記の方法でエッチングを行うことで機械研磨、化学機械研磨、及び水素エッチング等を行うよりも処理時間を大幅に短くすることができる。更に、不活性ガス圧を調整することでエッチング速度を調整できるので、SiC基板が必要以上に除去されることも防止できる。
【0014】
前記のSiC基板の表面処理方法においては、機械加工が行われた後であって潜傷の顕在化前の前記SiC基板の表面に研磨傷が生じているとともに、当該研磨傷の内部に潜傷が生じており、Si雰囲気下でのエッチングを行うことで研磨傷及び潜傷が除去されることが好ましい。
【0015】
これにより、SiC基板に生じた潜傷及び研磨傷を除去することができるので、高品質なSiC基板を製造することができる。
【0016】
前記のSiC基板の表面処理方法においては、Si雰囲気下でのエッチングを行う場合の前記不活性ガス圧が0.01Pa以上1Pa以下であることが好ましい。
【0017】
前記のSiC基板の表面処理方法においては、Si雰囲気下でのエッチングを行う場合の温度が1800℃以上2000℃以下であることが好ましい。
【0018】
これにより、SiC基板の表面の潜傷を適切に除去することができる。
【0019】
前記のSiC基板の表面処理方法においては、Si雰囲気下でのエッチングを行うことで、前記SiC基板の表面を5μm以上除去することが好ましい。
【0020】
これにより、潜傷をある程度除去することができる。特に、本実施形態では不活性ガス圧を用いてエッチング速度を調整できるので、必要十分な範囲を除去できる。
【0021】
前記のSiC基板の表面処理方法においては、前記SiC基板をエッチングする際のエッチング速度を200nm/min以上に制御するとともに、当該SiC基板のエッチング量を10μm以上とすることが好ましい。
【0022】
これにより、Si雰囲気下でのエッチング後に発生し得るステップバンチングを抑制することができる。
【0023】
本発明の第2の観点によれば、前記の表面処理方法を用いて表面処理する工程を含むSiC基板の製造方法が提供される。
【0024】
これにより、エピタキシャル成長及び熱処理等を行っても表面が荒れないSiC基板が実現できる。
【0025】
本発明の第3の観点によれば、以下に示す半導体の製造方法が提供される。即ち、この半導体の製造方法は、潜傷除去工程と、エピタキシャル成長工程と、熱処理工程と、を含む。潜傷除去工程では、前記の表面処理方法によりSiC基板の表面をエッチングする。前記エピタキシャル成長工程では、前記潜傷除去工程で潜傷が除去されたSiC基板40の表面に単結晶SiCをエピタキシャル成長させる。前記熱処理工程では、前記エピタキシャル成長工程が行われた前記SiC基板をSi雰囲気下で熱処理する。
【0026】
これにより、エピタキシャル成長及び熱処理等を行っても表面が荒れないため、高品質な半導体を製造することができる。
【0027】
前記の半導体の製造方法においては、前記加熱工程では、前記SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整して当該SiC基板のエッチング速度を制御しつつ、当該SiC基板をSi雰囲気下で加熱処理してエッチングを行うことが好ましい。
【0028】
これにより、潜傷除去工程と加熱工程とで同じ内容の処理を行うため、工程を単純化したり同じ装置で加工を行ったりすることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図。
図2】各工程における基板の様子を概略的に示す図。
図3】加熱温度と、エッチング速度と、の関係性を示すグラフ。
図4】不活性ガス圧と、エッチング速度と、の関係性を加熱温度毎に示すグラフ。
図5】不活性ガス圧と、エッチング速度と、の関係性を加熱温度毎に示す別のグラフ。
図6】温度及び圧力を変化させてエッチングを行った後のSiC基板の微分干渉顕微鏡の顕微鏡写真。
図7】温度及び圧力を変化させてエッチングを行った後のSiC基板の3次元形状を示す図。
図8】エッチング速度のアレニウスプロットを示すグラフ。
図9】エッチング量と、エッチング後の基板の表面粗さと、の関係を示すグラフ。
図10】ラマン分光分析におけるエッチング量とピークシフトの関係を示すグラフ。
図11】エッチング量を略一定として他の条件を変えたときのSiC基板の表面の顕微鏡写真。
図12】エッチング量を比較的少なくして他の条件を変えたときのSiC基板の表面の顕微鏡写真。
図13】エッチング速度を略一定として他の条件を変えたときのSiC基板の表面の顕微鏡写真。
図14】エッチング速度とエッチング量を変えたときにステップバンチングが抑制されるか発生するかを計測した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0031】
初めに、図1を参照して、本実施形態の加熱処理で用いる高温真空炉10について説明する。図1は、本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図である。
【0032】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、少なくとも表面が単結晶SiCで構成されるSiC基板を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、SiC基板を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0033】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23により、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24により、本加熱室21内の不活性ガス(例えばArガス)の圧力を調整することができる。真空計25により、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0034】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板によって、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、SiC基板を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0035】
また、SiC基板は、坩堝(収容容器)30に収容された状態で加熱される。坩堝30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。
【0036】
坩堝30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。また、坩堝30は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして構成されている。
【0037】
SiC基板を加熱処理する際には、初めに、図1の鎖線で示すように坩堝30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ坩堝30を移動させ、SiC基板を加熱する。なお、予備加熱を省略しても良い。
【0038】
次に、上記の高温真空炉10を利用してSiC基板40から半導体素子を製造する処理について図2を参照して説明する。図2は、各工程における基板の様子を概略的に示す図である。
【0039】
半導体素子を製造する元となるバルク基板は、4H−SiC単結晶又は6H−SiC単結晶から構成されるインゴットを所定の厚みに切り出すことで得られる。特に、インゴットを斜めに切り出すことにより、オフ角を有するバルク基板を得ることができる。その後、バルク基板の表面の凹凸を除去するために、機械研磨を行う。しかし、この機械研磨によりバルク基板の内部に圧力が掛かることで結晶性が変化した変質層(潜傷)が生じる。
【0040】
次に、図2(a)に示すように、高温真空炉10を利用してSiC基板40の表面をエッチングする。このエッチングは、SiC基板40を坩堝30に収容し、Si蒸気圧下(Si雰囲気下)で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1800℃以上2000℃以下の環境で加熱することで行われる。Si蒸気圧下で加熱されることで、SiC基板40のSiCがSi2C又はSiC2になって昇華するとともに、Si雰囲気中のSiがSiC基板40の表面でCと結合し、自己組織化が起こり、平坦化されるのである。
【0041】
これにより、SiC基板40の表面をエッチングしつつ、当該表面を分子レベルで平坦化することができる。また、SiC基板40に研磨傷及び潜傷が存在する場合、このエッチングを行うことにより、当該研磨傷及び潜傷が除去される。また、本実施形態では、不活性ガス圧を調整することでエッチング速度を制御できるので潜傷を十分に除去しつつSiC基板が過剰に除去されることを防止できる(詳細は後述)。
【0042】
なお、本実施形態のエッチングを行うことで化学機械研磨を省略できる。従って、従来から工数を変化させることなく潜傷を除去できる。
【0043】
次に、図2(b)に示すように、SiC基板40にエピタキシャル層41を形成する。エピタキシャル層を形成する方法は、任意であり、公知の気相エピタキシャル法や液相エピタキシャル法等を用いることができる。更には、SiC基板40がOFF基板である場合、ステップフロー制御によってエピタキシャル層を形成するCVD法を用いることもできる。
【0044】
次に、図2(c)に示すように、エピタキシャル層41が形成されたSiC基板40にイオン注入を行う。このイオン注入は、対象物にイオンを照射する機能を有するイオンドーピング装置を用いて行う。イオンドーピング装置によって、エピタキシャル層41の表面の全面又は一部に選択的にイオンが注入される。そして、イオンが注入されたイオン注入部分42に基づいて半導体素子の所望の領域が形成されることになる。
【0045】
また、イオンが注入されることによって、図2(d)に示すように、イオン注入部分42を含むエピタキシャル層41の表面が荒れた状態になる(SiC基板40の表面が損傷し、平坦度が悪化する)。
【0046】
次に、注入したイオンの活性化、及び、イオン注入部分42等へのエッチングを行う。本実施形態では、両方の処理を1つの工程で行うことができる。具体的には、Si蒸気圧下(Si雰囲気下)で1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の環境で加熱処理(アニール処理)を行う。これにより、注入されたイオンを活性化することができる。また、SiC基板40の表面がエッチングされることで、イオン注入部分42の荒れた部分が平坦化されていく(図2(e)〜図2(f)を参照)。
【0047】
以上の処理を行うことで、SiC基板40の表面が、十分な平坦度及び電気的活性を有することになる。このSiC基板40の表面を利用して、半導体素子を製造することができる。
【0048】
ここで、SiC基板40の表面近傍の領域では、注入されたイオンが透過することにより、イオン濃度が十分ではない。また、SiC基板40のある程度内部の領域では、注入されたイオンが届きにくいため、イオン濃度が十分ではない。
【0049】
従って、図2(e)で行うエッチングでは、表面のイオン注入不足部分のみを除去しつつ、過剰な除去を避けることが好ましい。この点、本実施形態では、不活性ガス圧を調整することでエッチング速度を制御できるのでイオン注入不足部分を確実に除去しつつSiC基板40が過剰に除去されることを防止できる(詳細は後述)。
【0050】
以下、不活性ガス圧とエッチング速度との関係性等について図3から図5までを参照して説明する。図3は、加熱温度と、エッチング速度と、の関係性を示すグラフである。図4は、不活性ガス圧と、エッチング速度と、の関係性を加熱温度毎に示すグラフである。
【0051】
従来から知られているように、SiC基板のエッチング速度は、加熱温度に依存する。図3は、所定の環境下において、加熱温度を1600℃、1700℃、1750℃、及び1800℃としたときのエッチング速度を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸はエッチング速度を対数表示している。図3に示すように、このグラフは直線となっている。そのため、例えば温度を変更したときのエッチング速度を見積もることができる。
【0052】
図4は、不活性ガス圧とエッチング速度との関係を示すグラフである。具体的には、加熱温度が1800℃、1900℃、及び2000℃の環境において、不活性ガス圧を0.01Pa、1Pa、133Pa、及び13.3kPaと変化させたときのエッチング速度を求めたグラフである。被処理物は、オフ角が4°の4H−SiC基板である。基本的には、不活性ガス圧を上昇させる程、エッチング速度が低下する傾向がある。
【0053】
図5は、図4と同様に、不活性ガス圧とエッチング速度との関係を示すグラフである。図5のグラフでは、不活性ガス圧が0.0001Paの場合のエッチング速度についても示されている。
【0054】
特許文献1では、高真空下でエッチングを行っていたため、エッチング速度が高速になるためエッチング量を正確に把握することは困難であった。しかし、図4に示すように、不活性ガス圧を変化させることでエッチング速度を調整することができる。例えばエッチング速度が低速である場合、エッチング量を正確に把握することができるので、微量のエッチングが要求される場合に非常に効果的である。
【0055】
これにより、潜傷を除去するエッチング工程(図2(a))においてSiC基板40が過剰に除去されないため、歩留まりを向上させることができる。また、エピタキシャル層を形成した後のエッチング工程(図2(e))において、イオン注入部分が過剰に除去されることを防止できる。
【0056】
また、特許文献2では、水素エッチングを行っていたため、エッチング速度が非常に低速(数十nm〜数百nm/h程度)であり、潜傷を除去するのに非常に長い時間が掛かってしまう。この点、本実施形態の方法では、圧力が非常に高い場合であっても、数μm〜数十μm/h程度のエッチング速度を有している。従って、潜傷及びイオン注入不足部分を現実的な時間で除去することができる。
【0057】
特に、潜傷を除去する場合は後述の実験例に示すように、圧力を0.01Paから1Pa程度にすることが好ましく、その場合のエッチング速度は100μm/h以上なので一層素早く潜傷を除去できる。
【0058】
次に、図6から図8を参照して、上記のエッチング処理を用いて潜傷を除去した実験例について説明する。図6は、温度及び圧力を変化させてエッチングを行った後のSiC基板の微分干渉顕微鏡の顕微鏡写真である。図7は、温度及び圧力を変化させてエッチングを行った後のSiC基板40の3次元形状を示す図である。図8は、エッチング速度のアレニウスプロットを示すグラフである。
【0059】
図6に示した各写真は、上記のエッチング処理時のSiC基板の表面を微分干渉顕微鏡により撮影した写真である。各写真は約70μm四方の領域を示している。また、各写真の右上の文字は表面粗さを示している。また、図7には、図6に示したSiC基板40の3次元形状が示されている。
【0060】
左上の未処理と記載された写真は、エッチング処理を行わなかった場合の写真である。この写真には、表面の細かい研磨傷が多数表れている。
【0061】
未処理と記載された写真の右側には、各条件でエッチング処理を行った場合の写真が示されている。これらの写真を参照すると、圧力が133Pa以上の場合は研磨傷及び内部の潜傷が強調されスクラッチが鮮明に表れていることが分かる。一方で、圧力が1Pa以下の場合は、このスクラッチが除去されていることが分かる。
【0062】
これは、圧力が133Pa以上の場合は、エッチング速度が遅いために結晶性の低い研磨傷及び潜傷箇所から優先的にエッチングが生じるため、スクラッチが残存する(強調される)からだと考えられる。一方、圧力が1Pa以下の場合は、エッチング速度が速いために研磨傷及び潜傷だけでなくこれらを含まない平面もエッチングされる。その結果、SiC基板40の表面を均一にエッチングできるので、上記スクラッチを除去することができる。
【0063】
図8には、エッチング速度のアレニウスプロットを用いて、上記の潜傷が除去されるか否かの境界を概念的に示している。図8の横軸は温度の逆数であり、縦軸はエッチング速度である。
【0064】
また、図8には、高速エッチング領域と低速エッチング領域とが示されており、これらの領域の境界が直線となっている。高速エッチング領域では、上記スクラッチが除去され、低速エッチング領域では上記スクラッチが除去されない。この図8からは、単純にエッチング速度だけで上記スクラッチの除去の有無が定まるのではなく、処理温度も影響すると考えることができる。
【0065】
図9は、機械加工後に表面粗さが0.1nm、0.3nm、0.4nm及び1.4nmとなったSiC基板を、各々所定量エッチングした後に表面粗さを測定した結果を示すグラフである。エッチング量が1〜4μm程度では、表面粗さRaは機械加工直後より著しく上昇して2.5nm以上となり、SiC基板の潜傷が顕在化されている。このことから、機械加工したSiC基板に潜傷が存在することが判る。
【0066】
更にエッチングを行うと、5μm以上エッチングを行った段階で表面粗さは1nm以下となり、平滑な表面が得られることが明示されている。7μm以上のエッチングにより更に潜傷は除去され、10μm以上で更に平滑な表面が得られることが示されている。加えて、本方法により0.5〜4μm、好ましくは1〜3μmエッチングを行うことで、潜傷の存在が把握できることが示されている。
【0067】
図10は、図9と同様に所定量のエッチングを行った際の、ラマン分光分析におけるピークシフトの測定結果である。ラマン分光分析は、具体的には、SiC基板を後方散乱配置にて波長532nmのArレーザーを光源として4H−SiC FTOモードの776cm-1のピークを測定し得られたピークが元の776cm-1の位置からどれだけズレているかによってピークシフトを測定する。SiC基板は機械加工によるストレスに起因する結晶構造の変化等により残留応力が生じるが、ピークシフトΔωを測定することで、「残留応力σはピークシフトにおおよそ線形でσ=A×Δω、Aは定数」といった原理によりSiC基板の表面付近の残留応力が推定可能である。
【0068】
エッチング前の段階(エッチング量が0)では、ピークシフトは0からかなり離れた数値に位置し、比較的大きい残留応力が存在することが判る。本方法により、エッチングを行わなくともSiC基板の潜傷を検出することができる。図9と同様に、5μm以上のエッチングによりピークシフトが著しく低減され、潜傷が除去されることが判る。また10μm以上のエッチングにより、更にピークシフトが低下し、潜傷が除去されることが示されている。
【0069】
次に、図11から図14を参照して、ステップバンチングを抑制するための条件を求めるために行った実験について説明する。なお、図11から図13において、各顕微鏡写真の右下の数字は加工後の表面粗さを示している。
【0070】
図11は、オフ角が4°の4H−SiC基板について、潜傷が十分に除去できていると考えられる程度(約30μm)までエッチングを行った後に表面を観測した結果を示している。この実験は、機械加工を行った後の表面粗さ(Ra)が1.4nm,0.4nm,0.3nm,0.1nmのSiC基板に対して行った。また、不活性ガス圧又は加熱温度を変えることにより、エッチング速度を異ならせて実験を行った。
【0071】
図11の上から2行目の写真は、エッチング速度が少し低い条件(1750℃、0.01Pa)で処理を行った結果を示している。この図11に示すように、上から2行目の写真では、ステップバンチングが確認できる。
【0072】
図12は、オフ角が4°の4H−SiC基板について、潜傷が残存している可能性がある深さ(約10〜20μm)までエッチングを行った後に表面を観測した結果を示している。この実験は、機械加工を行った後の表面粗さ(Ra)が1.4nm,0.4nm,0.3nm,0.1nmのSiC基板に対して行った。また、不活性ガス圧又は加熱温度を変えることにより、エッチング速度を異ならせて実験を行った。
【0073】
図12に示すように、不活性ガス圧が133Paではエッチング量が11μmであるため潜傷が残存している可能性があるが、不活性ガス圧が13.3kPaの条件下においても全ての表面粗さのSiC基板に対してステップバンチングが形成されている。従って、図12で確認できたステップバンチングは、図11に示す実験と同様に、エッチング速度が遅いために発生したと考えられる。
【0074】
図13は、オフ角が4°の4H−SiC基板について、ステップバンチングが十分に分解(抑制)可能なエッチング速度でエッチングを行った後に表面を観測した結果を示している。この実験は、エッチング量を異ならせるとともに、機械加工を行った後の表面粗さ(Ra)が1.4nm,0.4nm,0.3nm,0.1nmのSiC基板に対して行った。また、不活性ガス圧又は加熱温度を変えることにより、エッチング速度を異ならせて実験を行った。
【0075】
図13に示すように、エッチング量が約5μmではステップバンチングが形成されている。また、エッチング量が15μm及び34μmでは、ステップバンチングが抑制されていた。従って、エッチング量が約5μmでは潜傷の除去が不十分であり、潜傷の残存に起因するステップバンチングが発生したと考えられる。
【0076】
以上により、SiC基板にSiエッチングを行った際のステップバンチングの発生を抑制するためには、エッチング速度を所定以上速くするとともに、エッチング量を所定以上深くする必要がある。図14は、加熱温度を1800℃から2000℃で不活性ガス圧(アルゴン圧)が10-5Paから13.3kPaの条件下で、オフ角が4°の4H−SiC基板を加熱した結果、ステップバンチングが抑制されたか発生したかをプロットしたグラフである。図14からは、エッチング量>10μmかつエッチング速度>200nm/minの場合にステップバンチングを抑制できることが分かる。なお、エッチング量>10μmかつエッチング速度<200nm/minの場合、テラスの端部がジグザグ状のステップバンチングが発生する。また、エッチング量<10μmかつエッチング速度>200nm/minの場合、テラスの端部が直線状のステップバンチングが発生する。
【0077】
以上に説明したように、本実施形態では、不活性ガス圧を調整してエッチング速度を制御する処理と、機械加工が行われたSiC基板40を加熱処理してエッチングを行う処理と、を行う。
【0078】
これにより、SiC基板40に潜傷等が存在する場合は、この潜傷等を除去することができる。従って、エピタキシャル成長及び熱処理等を行っても表面が荒れないため、高品質なSiC基板を製造することができる。また、上記の方法でエッチングを行うことで機械研磨、化学機械研磨、及び水素エッチング等を行うよりも処理時間を大幅に短くすることができる。更に、不活性ガス圧を調整することでエッチング速度を調整できるので、SiC基板40が必要以上に除去されることも防止できる。
【0079】
また、本実施形態では、潜傷除去工程と、エピタキシャル成長工程と、熱処理工程と、を含む半導体の製造方法が提供される。潜傷除去工程では、上述の表面処理方法によりSiC基板40の表面をエッチングする。エピタキシャル成長工程では、SiC基板40の表面に単結晶SiCをエピタキシャル成長させる。熱処理工程では、エピタキシャル成長工程が行われたSiC基板40を熱処理する。
【0080】
これにより、エピタキシャル成長及び熱処理等を行っても表面が荒れないため、高品質な半導体を製造することができる。
【0081】
また、本実施形態では、加熱工程において、SiC基板40の周囲の不活性ガス圧を調整してエッチング速度を制御しつつ、当該SiC基板40を加熱処理してエッチングを行うことが好ましい。
【0082】
これにより、潜傷除去工程と加熱工程とで同じ内容の処理を行うため、工程を単純化したり同じ高温真空炉10で加工を行ったりすることが容易になる。
【0083】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0084】
上記実施形態では、カーボン層(グラフェンキャップ)を形成する処理を行わないが、この処理を行っても良い。この場合、カーボン層を除去する処理と、イオンを活性化する処理と、単結晶SiC基板をエッチングする処理と、を1つの工程で行うことができる。
【0085】
不活性ガスの調整方法は任意であり、適宜の方法を用いることができる。また、エッチング工程の間、不活性ガス圧を一定にしても良いし、変化させても良い。不活性ガス圧を変化させることで、例えば初めはエッチング速度を高くして後にエッチング速度を低くして微調整を行う方法が考えられる。
【0086】
処理を行った環境及び用いた単結晶SiC基板等は一例であり、様々な環境及び単結晶SiC基板に対して適用することができる。例えば、加熱温度は上記で挙げた温度に限られず、より低温とすることでエッチング速度を一層低下させることができる。また、上述した高温真空炉以外の加熱装置を用いても良い。
【0087】
なお、本実施形態では潜傷が生じているSiC基板40について、当該潜傷を除去するエッチング処理を行った。しかし、潜傷の有無を確認することなくエッチングを行っても良い。これにより、潜傷の有無を確認する手間を省略できる。
【符号の説明】
【0088】
10 高温真空炉
21 本加熱室
22 予備加熱室
30 坩堝
40 SiC基板
図1
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