(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記対物レンズの焦点位置が前記複数の撮像位置において前記内部空間の底面近傍に位置づけられるよう、前記試料セルおよび前記対物レンズの少なくとも一方を前記第1方向へ移動させている間に、前記試料セルおよび前記対物レンズの少なくとも一方を前記第2方向へ移動させるよう前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御するように構成されている、
請求項1乃至5の何れか一項に記載の細胞撮像装置。
前記制御部は、前記試料セルを停止させることなく前記第1方向へ連続して移動させている間に、前記対物レンズを前記第2方向に連続して移動させるよう前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御するように構成されている、
請求項2に記載の細胞撮像装置。
前記制御部は、前記試料セルを前記第1方向へ等速で移動させている間に、前記対物レンズを前記第2方向に等速で移動させるよう、前記第1駆動部及び前記第2駆動部を制御するように構成されている、
請求項7に記載の細胞撮像装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態1)
<細胞撮像装置の構成>
図1を参照し、細胞撮像装置の構成について説明する。細胞撮像装置100は、試料セル10と、設置部20と、光源部40と、撮像部50と、駆動部60と、制御部70と、表示部80とを備える。細胞撮像装置100は、液体試料に含まれる細胞、例えば、被検者から採取された尿試料中の細胞を撮像する装置であり、試料セル10内に尿試料を充填し、試料セル10を水平方向に移動させている間に、撮像部50で試料セル10内の細胞を撮像するように構成されている。撮像対象となる液体試料としては、大きさの異なる複数種類の細胞を含む生体試料であればよく、例えば、血液、体腔液、子宮頸部組織等であってもよい。
【0014】
図2を参照する。試料セル10は、尿試料を保持するための内部空間11と、内部空間11に連なる流入口12と、内部空間11に連なる流出口13とを備える。試料セル10は、扁平で一方向に延伸した直方体形状をなしており、透光性がある材料により構成されている。内部空間11は、扁平で一方向に延伸した直方体形状の空間であり、試料セル10の内部に設けられている。内部空間11の長手方向は、試料セル10の長手方向と合わせられている。内部空間11の各面は、平坦に形成されている。
【0015】
内部空間11の一端から、流入口12が長手方向に直交する方向に延びている。内部空間11の他端からは、流出口13が流入口12と同一方向に延びている。流入口12及び流出口13のそれぞれは、試料セル10の一側面に開口している。
【0016】
試料セル10は、内部空間11の流出口13側の位置に第1基準マーク16aを備え、内部空間11の流入口12側の位置に第2基準マーク16bを備える。第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bは、内部空間11の底面11aに設けられている。
【0017】
第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bを、試料セル10の上面、底面、又は内部空間11の上面等、内部空間11の底面11a以外の場所に設けてもよい。
【0018】
図3を参照し、第1基準マーク16aの形状について説明する。第2基準マーク16bの形状は、第1基準マーク16aの形状と同じであるので、第2基準マーク16bの形状についての説明を省略する。第1基準マーク16aは、レーザ加工により形成された複数の微細溝161を備える。微細溝161の線幅は数μmであり、長さは数十μmである。互いに平行な3つの微細溝161が1組とされ、矩形の領域に微細溝161の組が複数形成されて、第1基準マーク16aが構成されている。それぞれの微細溝161の長手方向は、試料セル10の内部空間1の長手方向と同一方向に延びている。
【0019】
図4を参照する。試料セル10の流入口12は、チューブ及び電磁弁を介して、吸引管151に接続されている。試料セル10の流出口13は、チューブ及び電磁弁を介して、ポンプ152に接続されている。ポンプ152は、チューブ及び電磁弁を介して、緩衝液を収容する容器153に接続されている。緩衝液は、尿試料の導入のために、チューブ中に充填される。容器153は、チューブ及び電磁弁を介して、洗浄槽154に接続されている。緩衝液は、洗浄槽154に供給され、洗浄液としても用いられる。廃液容器155が洗浄槽154の下方に設けられている。
【0020】
吸引管151は、採尿管である試料容器160に挿入される。ポンプ152が動作することで、試料容器160中の尿試料が吸引管151から吸引される。所定量の尿試料が吸引されると、吸引管151は、試料容器160から抜き出される。吸引管151が試料容器160から抜き出された後も、ポンプ152が動作することで、吸引管151から空気が吸引され、尿試料が流入口12から内部空間11に導入される。尿試料が流出口13から出るまでポンプ152が動作することで、内部空間11の全体に尿試料が充填される。
【0021】
尿試料に含まれる細胞が撮像された後、吸引管151及び試料セル10の洗浄が行われる。洗浄のために、吸引管151が洗浄槽154に移動される。ポンプ152が動作することで、緩衝液が内部空間11に供給され、内部空間11が洗浄される。内部空間11から押し出された尿試料は、吸引管151から洗浄槽154に排出される。さらにポンプ152が動作することで、吸引管151から緩衝液が排出され、吸引管151の内部が洗浄される。洗浄槽154には、容器153から緩衝液が供給され、吸引管151の外側が洗浄される。洗浄槽154からの廃液は、廃液容器155に貯留される。
【0022】
洗浄が完了した後は、次の尿試料が吸引管151で吸引され、試料セル10の内部空間11に導入される。
【0023】
再び
図2を参照する。試料セル10は、内部空間11において、第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bが設けられた底面11aが下側になるように、設置部20に固定される。試料セル10は、水平方向に対して所定方向に所定角度だけ傾くように設置部20に固定されている。試料セル10が水平方向に対して傾かないように設置部20を構成したとしても、機差により微妙に試料セル10が水平方向に対して傾いてしまうことがあり、また、試料セル10は水平方向に対して上方に傾くこともあれば、下方に傾くこともある。そこで、本実施形態では、試料セル10を水平方向に対して予め所定方向に傾けることにより、後述する撮像動作において、対物レンズ52を移動させる方向を各尿試料で一定にすることができ、対物レンズ52の移動機構及び移動制御を簡略化させることができる。
【0024】
試料セル10は、取り外しできないように、設置部20に取り付けられている。試料セル10を使い捨てとしてもよい。この場合、設置部20は、試料セル10を着脱可能な構成とする。
【0025】
再び
図1を参照する。駆動部60は、第1駆動部61と、第2駆動部62とを備え、試料セル10と撮像部50の対物レンズ52を移動させる。第1駆動部61は、電気モータを備える。設置部20は、第1駆動部61によって、水平方向の一方向である第1方向に移動される。第1方向は、内部空間11が延伸される方向である。
【0026】
図5を参照する。光源部40は、設置部20の下方に設けられる。光源部40は、LEDの光源41と、拡散板42と、レンズ43とを備える。光源41は等間隔でパルス発光するパルス発光光源であり、各照明時間は140〜200μsecである。光源部40の光軸方向である第2方向は、水平方向に交差する方向であり、例えば鉛直方向である。試料セル10に光を照射するため、光源41は上方に光を照射する。光源41の上方に、拡散板42及びレンズ43が配置される。光源41から出た光は、拡散板42により拡散され、レンズ43により平行光にされる。平行光が試料セル10に照射される。
【0027】
撮像部50は、設置部20の上方に設けられる。撮像部50は、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサである撮像素子51と、対物レンズ52とを備える。撮像素子51と対物レンズ52とは、光源部40と同一の光軸に沿って、撮像素子51が上側に、対物レンズ52が下側になるように配置される。撮像素子51と対物レンズ52とは、1つの鏡筒に保持されている。つまり、撮像素子51と対物レンズ52との距離は変わることがない。対物レンズ52の倍率は、15倍であるが、尿中の白血球、赤血球、上皮細胞等の細胞、及び円柱等の他の有形成分の像を適切な大きさに拡大することができる倍率であれば、15倍に限られない。
【0028】
再び
図1を参照する。第2駆動部62は、電気モータを備える。撮像部50は、第2駆動部62によって、第2方向に移動される。撮像部50が第2方向に移動されることで、対物レンズ52の焦点が調整される。
【0029】
制御部70は、マイクロコンピュータ、及びメモリを備え、光源部40、撮像部50、第1駆動部61、第2駆動部62、及び表示部80のそれぞれを制御する。撮像部50によって得られた画像は、制御部70に与えられる。制御部70は、取得した画像に対して所定の処理を行う。制御部70は、撮像部50の自動合焦動作を実行する合焦検出部71を備える。
【0030】
画像処理をパーソナルコンピュータによって実行する構成とすることもできる。この場合、制御部70がパーソナルコンピュータと通信を行い、細胞の画像をパーソナルコンピュータに送信する。パーソナルコンピュータは、細胞毎に部分画像を切り出すなど、画像処理を行う。
【0031】
表示部80は、液晶表示パネルを備えている。表示部80は、制御部70に接続されており、制御部70によって制御され、画面を表示する。表示部80には、撮像された画像、又は画像処理により得られた部分画像等が表示される。画像処理をパーソナルコンピュータにより実行する場合は、パーソナルコンピュータの表示部に、撮像された画像、又は画像処理によって得られた部分画像を表示してもよい。
【0032】
<細胞撮像装置の動作>
細胞撮像装置100は、試料セル10の内部空間11に充填された尿試料に含まれる細胞を、撮像部50により撮像する。撮像動作においては、試料セル10を第1方向に一定速度で移動させつつ、試料セル10の傾きにしたがった移動速度で対物レンズ52を第2方向に等速移動させ、撮像部50の複数の視野において撮像を実行する。これにより、各視野で合焦状態の検出を行うことなく、内部空間11の底面近傍に焦点が合わせられる。対物レンズ52の第2方向への移動速度は、尿試料の撮像に先立ち、細胞撮像装置100の初期化動作中に決定される。このような細胞撮像装置100の動作について、以下に説明する。
【0033】
ユーザが細胞撮像装置100を起動させると、細胞撮像装置100は、初期化動作を実行する。初期化動作には、尿中の細胞を撮像するときの撮像部50の移動速度を決定する移動速度決定動作が含まれる。
図6を参照し、移動速度決定動作について説明する。
【0034】
ステップS101において、制御部70は、ポンプ152を制御し、容器153から緩衝液を吸引管151までの流路に充填する。これにより、試料セル10の内部空間11に緩衝液が保持される。
【0035】
ステップS102において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、撮像部50の光軸上に、試料セル10の流出口13側の第1基準マーク16aが配置されるよう、設置部20を移動させる。以下、撮像部50の光軸上に第1基準マーク16aが配置されるときの設置部20の位置を、「初期位置」という。撮像部50の光軸上に、試料セル10の流入口12側の第2基準マーク16bが配置されるときの設置部20の位置を、「最終位置」という。
【0036】
ステップS103において、制御部70は、初期位置における対物レンズ52の合焦位置である第1合焦位置を検出する。制御部70は、第1合焦位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。自動合焦動作では、第2駆動部62が、対物レンズ52を第2方向へ移動させ、合焦検出部71が、第1基準マーク16aに焦点が合う状態を検出する。
【0037】
自動合焦動作は、コントラスト検出方式である。撮像素子51によって得られる画像のコントラストが最大となる対物レンズ52の位置が、対物レンズ52の合焦位置として検出される。検出された合焦位置は、制御部70のメモリに記憶される。
【0038】
コントラスト検出方式以外の自動合焦動作を採用してもよい。例えば、位相差検出方式、ラインセンサ方式、超音波方式、及び赤外線方式等の公知の自動合焦動作を採用することができる。
【0039】
制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、合焦位置を示す数値が最も離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を第1合焦位置としてメモリに記憶する。
【0040】
ステップS104において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、設置部20を最終位置に移動させる。
【0041】
ステップS105において、制御部70は、最終位置における対物レンズ52の合焦位置である第2合焦位置を検出する。制御部70は、第2合焦位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。
【0042】
制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、合焦位置を示す数値が最も離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を第2合焦位置としてメモリに記憶する。
【0043】
第1及び第2合焦位置の検出における自動合焦動作の回数は、3回に限られない。1回であってもよいし、3回以外の複数回であってもよい。但し、自動合焦動作の回数が多くなると、動作時間が長くなるため、可能な限り少なくすることが好ましい。検出精度の観点からは、自動合焦動作を複数回実行することが好ましい。
【0044】
第1合焦位置の検出において、2つの合焦位置の平均値を算出したが、これに限られない。3つの合焦位置の平均値を第1合焦位置としてもよいし、3つの合焦位置のうちの中央の1つを、第1合焦位置としてもよい。第2合焦位置についても同様である。
【0045】
ステップS106において、制御部70は、第1合焦位置と、第2合焦位置を用いて、対物レンズ52の移動速度を決定する。
【0046】
図7を参照し、対物レンズ52の移動速度の決定について説明する。上述したように試料セル10は水平方向に対して傾くように設置部20に設置されており、
図7に示すように、試料セル10が傾いていると、試料セル10における複数の位置を視野として撮像を行う場合に、各視野で内部空間11の底面11aに焦点が合う対物レンズ52の位置が異なる。このため、対物レンズ52を静止させたまま、試料セル10を第1方向に水平移動させると、対物レンズ52と試料セル10の底面11aとの距離が変化するため、一の視野で底面11aに焦点が合っていても、他の視野では底面11aに焦点が合わなくなる。どの視野でも底面11aに焦点を合わせるためには、試料セル10を第1方向に移動させている間、対物レンズ52と底面11aの距離を一定に保つ必要がある。つまり、内部空間11の底面11aに焦点が合う対物レンズ52の位置は、底面11aと平行な直線52a上にある。直線52aは、第1合焦位置と第2合焦位置とを通過する直線である。
【0047】
1つの尿試料に対する撮像動作において、試料セル10の複数の視野で撮像が行われる。後述するように、撮像動作では、第1駆動部61が設置部20を第1方向に等速で移動させている間に、撮像部50が複数回撮像を実行する。内部空間11に導入された尿試料中の細胞は、底面11aより上方に位置するため、細胞撮像装置100は、各視野において底面11aより一定距離上方の位置に対物レンズ52の焦点を合わせる。
【0048】
撮像動作の間、底面11aより一定距離上方の位置に対物レンズ52の焦点を合わせ続けるために、第2駆動部62が撮像部50を第2方向に等速で移動させる。このとき、設置部20の第1方向への移動速度と、撮像部50の第2方向への移動速度とが合成され、対物レンズ52と試料セル10とは、相対的に斜め方向に等速移動する。ステップS106では、設置部20が第1方向に等速で移動している間に、対物レンズ52が試料セル10に対して直線52aに沿って相対移動するための移動速度が決定される。
【0049】
撮像動作の開始から終了までの時間、つまり、第2駆動部62が対物レンズ52を移動させる時間(以下、「設定時間」という)は予め設定されている。設定時間は、第1駆動部61が設置部20を移動させる時間でもある。対物レンズ52の移動速度は、設定時間に第1合焦位置から第2合焦位置に移動する速度となる。具体的には、第2方向における第1合焦位置と第2合焦位置の差分距離を算出し、算出した差分距離を設定時間で除することにより、対物レンズ52の移動速度を決定する。
【0050】
試料セル10に3つ以上の基準マークを第1方向に互いに離して設けた場合には、これらの基準マークのそれぞれにおいて合焦位置を検出し、検出された3つ以上の合焦位置から移動速度を決定してもよい。
【0051】
制御部70は、対物レンズ52の移動速度を決定すると、移動速度を示す速度情報をメモリに記憶する。速度情報は、対物レンズ52の各視野の焦点調整に用いられる情報である。速度情報は、内部空間11の底面11aの傾きを反映した情報でもある。
【0052】
再び
図6を参照する。ステップS106の後、制御部70は、移動速度決定動作を終了する。
【0053】
細胞撮像装置100は、初期化動作を終了すると、スタンバイ状態に入る。スタンバイ状態は、尿試料の受け入れが可能な状態である。
【0054】
細胞撮像装置100は、スタンバイ状態において、尿試料の撮像の開始の指示をユーザから受け付けると、尿試料撮像処理を実行する。以下、
図8を参照し、尿試料撮像処理について説明する。
【0055】
ステップS201において、制御部70は、吸引管151及びポンプ152を制御し、試料容器160から所定量の尿試料を吸引させ、試料セル10の内部空間11に尿試料を導入させる。尿試料には、染色液又は希釈液などの試薬が混合されておらず、遠心処理も施されていない。
【0056】
ステップS202において、制御部70は、所定時間、例えば100秒間待機する。これにより、試料セル10に保持された尿試料が所定時間静止した状態で置かれ、尿試料中で細胞が沈降し、多くの細胞が内部空間11の底面11a上に配置される。
【0057】
ステップS203において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、設置部20を初期位置に移動させる。
【0058】
ステップS204において、制御部70は、初期位置における対物レンズ52の合焦位置である第1合焦位置を検出する。制御部70は、第1合焦位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、合焦位置を示す数値が最も離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を第1合焦位置としてメモリに記憶する。
【0059】
移動速度決定動作において第1合焦位置を検出しているにもかかわらず、ステップS204において第1合焦位置を再度検出するのは、時間経過による合焦位置のずれを解消するためである。時間経過により、細胞撮像装置100が置かれた室内の温度が変化する場合があり、温度変化によって細胞撮像装置100の各部間の距離、例えば、対物レンズ52と試料セル10との距離が変化することがある。したがって、移動速度決定動作において検出された第1合焦位置に対物レンズ52を位置付けると、温度変化によって対物レンズ52の焦点が底面11aに合わなくなっていることがある。このため、ステップS204において再度第1合焦位置を検出し、対物レンズ52の焦点を内部空間11の底面11aに合わせる。
【0060】
ステップS205において、制御部70は、第1合焦位置から所定のオフセット量だけ上方の位置に補正した撮像開始位置を求める。
【0061】
図9を参照し、オフセット量について説明する。対物レンズ52が第1合焦位置にあるとき、対物レンズ52の焦点は、底面11aに合っている。細胞の多くは、底面11a上に配置されているため、対物レンズ52の焦点は、細胞に合っておらず、この状態で撮像を行うと、細胞の画像が不明瞭となってしまう。したがって、対物レンズ52の焦点を細胞に合わせるために、細胞の半径分程度、対物レンズ52を上方に移動させ、細胞の中心近くに対物レンズ52の焦点を位置させる。
【0062】
オフセット量は、予め制御部70が記憶している。オフセット量を、例えば5乃至6μmとすれば、対物レンズ52の焦点が赤血球に合うことになる。但し、オフセット量は、5乃至6μmでなくてもよく、注目する細胞のサイズによって適宜オフセット量を設定することができる。
【0063】
第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bを、試料セル10の内部空間11の底面11a以外の場所に設けている場合には、第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bが設けられている面から注目する細胞の中心位置までの第2方向の距離をオフセット量とすればよい。
【0064】
再び
図8を参照する。ステップS206において、制御部70は、第2駆動部62を制御し、対物レンズ52を撮像開始位置に位置付ける。ステップS207において、制御部70は、メモリから速度情報を読み出す。
【0065】
ステップS208において、制御部70は、撮像動作を実行する。撮像動作では、制御部70が、第1駆動部61及び第2駆動部62を制御して、設置部20の第1方向への移動と、撮像部50の第2方向への移動とを同時に開始する。第1駆動部61は、設置部20を途中で停止させることなく設定された速度で設定時間だけ第1方向に移動させる。第2駆動部62は、撮像部50を途中で停止させることなく速度情報に示される速度で設定時間だけ第2方向に移動させる。
【0066】
図10を参照する。撮像動作において、制御部70は、撮像部50を制御し、撮像を複数回実行させる。設置部20の移動に伴い、対物レンズ52の視野は、第1基準マーク16aから、第2基準マーク16bへと移動する。したがって、撮像部50は、第1基準マーク16aと第2基準マーク16bとの間の領域における複数の視野で撮像を実行する。
【0067】
設置部20が設定速度で第1方向に連続して移動している間、撮像部50は速度情報に示される速度で第2方向に連続して移動する。したがって、対物レンズ52は、試料セル10に対して、内部空間11の底面11aと平行に相対移動する。つまり、試料セル10の内部空間11の傾きにしたがって、対物レンズ52が第2方向へ移動することとなる。設置部20が初期位置にあるとき、対物レンズ52の焦点は、底面11aよりもオフセット量だけ上方に位置付けられている。このため、対物レンズ52の焦点は、底面11aよりもオフセット量だけ上方の直線上を移動する。したがって、対物レンズ52と試料セル10とが相対移動している間、対物レンズ52の焦点位置が各視野において内部空間11の底面11a近傍に位置づけられる。この結果、対物レンズ52の焦点が細胞に合う状態が維持され、安定して明瞭な細胞の画像が得られる。また、設置部20が等速で第1方向に連続して移動している間、光源41は等間隔でパルス発光するため、撮像のたびに設置部20を停止させなくても、ブレの無い画像を得ることができる。
【0068】
撮像動作では、各視野で合焦状態を検出することなく、決められた移動速度で対物レンズ52を等速移動させることで焦点調整が行われる。したがって、撮像動作の時間を短くすることができる。また、尿試料における細胞の濃度又は細胞の大きさに焦点位置が左右されることがなく、各視野での焦点位置を均一にすることができる。試料セル10を停止させることなく第1方向に連続して移動させながら撮像を行うので、各視野において撮像のために試料セル10を停止させる必要がなく、試料セル10の停止に起因して液体試料中の細胞が振動することを抑制することができる。したがって、細胞の振動が収まるのを待つ必要が無く、安定して明瞭な細胞の画像を得ることができる。
【0069】
撮像部50及び設置部20の移動開始から設定時間が経過すると、設置部20は最終位置に到達する。つまり、撮像部50の光軸上に第2基準マーク16bが位置する。このとき、撮像部50及び設置部20が停止し、撮像動作が完了する。
【0070】
尿試料撮像処理では、1つの尿試料の撮像につき、初期位置における第1合焦位置の検出にのみ、自動合焦動作を実行する。しかし、移動速度決定動作において、各視野の焦点調整を行うための情報として、決定された移動速度を示す速度情報と、検出された第1合焦位置を示す情報とを記憶し、尿試料撮像処理において、記憶された第1合焦位置を示す情報を用いて、初期位置における対物レンズ52の位置決めを行う構成としてもよい。これにより、尿試料撮像処理において、初期位置における合焦状態を検出する必要がなくなり、より一層尿試料の撮像を短時間に行うことが可能となる。但し、上述したように、施設内の温度環境等が原因となって、移動速度決定動作において決定された第1合焦位置では、内部空間11の底面11aに対物レンズ52の焦点が合わなくなる場合がある。このため、焦点のあった明瞭な画像を得る観点からは、尿試料毎に第1合焦位置を検出することが好ましい。
【0071】
複数の尿試料の撮像を連続して実行する場合には、相前後する尿試料の撮像では、時間間隔が短いため温度変化が実質的に生じない。このため、尿試料毎に第1合焦位置を検出するのではなく、複数の尿試料毎、例えば、10の尿試料毎に第1合焦位置を検出する構成としてもよい。これにより、各尿試料において細胞に焦点が合う状態を維持しつつ、第1合焦位置の検出の回数を抑制して時間を節約することができる。
【0072】
尿試料撮像処理において、初期位置と最終位置とで自動合焦動作を実行し、第1合焦位置及び第2合焦位置を検出してもよい。この場合、制御部70は、撮像部50の移動速度を、尿試料毎に決定する。したがって、初期化動作中に移動速度決定動作を実行する必要がない。これにより、尿試料毎に、正確に内部空間11の底面11aの傾斜角を特定することができる。
【0073】
再び
図8を参照する。撮像素子51から信号として出力された画像は、制御部70に入力され、記憶される。ステップS209において、制御部70は、画像処理を実行し、撮像部50によって得られた各画像から、細胞及び他の有形成分毎に部分画像を切り出す。
【0074】
ステップS210において、制御部70は、切り出した部分画像を表示部80に表示させる。
図11に、細胞撮像装置における画像の表示例を示す。図に示すように、表示部80には、1つの尿試料に含まれる細胞及び他の有形成分の画像が複数並べて表示される。ステップS210の後、制御部70は、尿試料撮像処理を終了する。
【0075】
第1基準マーク16a及び第2基準マーク16bではなく、内部空間11の底面11aの複数位置のそれぞれに対する相対距離を光学式又は超音波式の距離センサを用いて検出し、検出した相対距離に基づいて上記複数位置のそれぞれの座標を求め、求めた座標に基づいて試料セル10の傾きを反映した情報を取得してもよい。
【0076】
(実施の形態2)
図12に示すように、細胞撮像装置が備える試料セル210は、内部空間211の底面211aに基準マークを備えない。細胞撮像装置のその他の構成は、上述した細胞撮像装置100の構成と同様であるので、その説明を省略する。
【0077】
細胞撮像装置は、設定された大きさの標準粒子を含むコントロール試料を用いて移動速度を決定する。コントロール試料に含まれる標準粒子は、大きさが均一にそろえられている。
【0078】
ユーザが細胞撮像装置を起動させると、細胞撮像装置は、初期化動作を実行する。初期化動作には、尿中の細胞を撮像するときの撮像部50の移動速度を決定する移動速度決定動作が含まれる。
図13を参照し、移動速度決定動作について説明する。
【0079】
ステップS121において、制御部70は、吸引管151及びポンプ152を制御し、コントロール試料が収容された試料容器から所定量のコントロール試料を吸引させ、試料セル210の内部空間211にコントロール試料を導入させる。
【0080】
ステップS122において、制御部70は、所定時間、例えば100秒間待機する。これにより、試料セル210に保持されたコントロール試料が所定時間静止した状態で置かれ、コントロール試料中で標準粒子が沈降し、多くの標準粒子が内部空間211の底面上に配置される。
【0081】
ステップS123において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、撮像部50の光軸上に、試料セル210の内部空間211の第1位置、例えば、流出口13側の位置が配置されるよう、設置部20を移動させる。
【0082】
ステップS124において、制御部70は、第1位置における対物レンズ52の合焦位置である第1合焦位置を検出する。制御部70は、第1合焦位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。自動合焦動作では、第2駆動部62が、対物レンズ52を第2方向へ移動させ、合焦検出部71が、第1位置に存在する標準粒子に焦点が合う状態を検出する。
【0083】
制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、合焦位置を示す数値が最も離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を第1合焦位置としてメモリに記憶する。
【0084】
ステップS125において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、撮像部50の光軸上に、試料セル210の内部空間211の第2位置、例えば、流入口12側の位置が配置されるよう、設置部20を移動させる。
【0085】
ステップS126において、制御部70は、第2位置における対物レンズ52の合焦位置である第2合焦位置を検出する。制御部70は、第2合焦位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。
【0086】
制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、合焦位置を示す数値が最も離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を第2合焦位置としてメモリに記憶する。
【0087】
ステップS127において、制御部70は、第1合焦位置と、第2合焦位置を用いて、対物レンズ52の移動速度を決定する。ステップS127の動作は、ステップS106の動作と同様であるので、その説明を省略する。ステップS127の後、制御部70は、移動速度決定動作を終了する。
【0088】
細胞撮像装置200は、初期化動作を終了すると、スタンバイ状態に入る。スタンバイ状態は、尿試料の受け入れが可能な状態である。
【0089】
細胞撮像装置200は、スタンバイ状態において、尿試料の撮像の開始の指示をユーザから受け付けると、尿試料撮像処理を実行する。以下、
図14を参照し、尿試料撮像処理について説明する。
【0090】
ステップS221において、制御部70は、吸引管151及びポンプ152を制御し、試料容器160から所定量の尿試料を吸引させ、試料セル10の内部空間11に尿試料を導入させる。尿試料には、染色液又は希釈液などの試薬が混合されておらず、遠心処理も施されていない。
【0091】
ステップS222において、制御部70は、所定時間、例えば100秒間待機する。これにより、試料セル210に保持された尿試料が所定時間静止した状態で置かれ、尿試料中で細胞が沈降し、多くの細胞が内部空間211の底面上に配置される。
【0092】
ステップS223において、制御部70は、第1駆動部61を制御し、撮像部50の光軸上に、試料セル210の内部空間211の第1位置が配置されるよう、設置部20を移動させる。
【0093】
ステップS224において、制御部70は、第1位置における対物レンズ52の合焦位置である撮像開始位置を検出する。制御部70は、撮像開始位置の検出のために、自動合焦動作を3回実行する。各自動合焦動作においては、合焦検出部71が、第1位置に存在する細胞に焦点が合う状態を検出する。制御部70は、得られた3つの合焦位置のうち、最も数値が離れた1つを除外し、残った2つの合焦位置の平均値を求める。制御部70は、得られた平均値を撮像開始位置としてメモリに記憶する。
【0094】
ステップS225において、制御部70は、第2駆動部62を制御し、対物レンズ52を撮像開始位置に位置付ける。ステップS226において、制御部70は、メモリから速度情報を読み出す。撮像開始位置は、細胞に焦点が合う位置であるので、オフセット量による補正は必要ない。
【0095】
ステップS227において、制御部70は、撮像動作を実行する。ステップS227の動作は、ステップS208の動作と同様であるので、その説明を省略する。
【0096】
ステップS228において、制御部70は、画像処理を実行し、撮像部50によって得られた各画像から、細胞及び他の有形成分毎に部分画像を切り出す。
【0097】
ステップS229において、制御部70は、切り出した部分画像を表示部80に表示させる。ステップS229の後、制御部70は、尿試料撮像処理を終了する。
【0098】
(実施の形態3)
図15を参照し、細胞撮像装置の他の実施形態について説明する。実施の形態3に係る細胞撮像装置100Aは、温度変動に起因する対物レンズの焦点ズレを抑制するための温度制御を実行するように構成されている。実施の形態1と同様の構成については説明を省略する。
【0099】
細胞撮像装置100Aは、撮像部として、対物レンズ52Aと、対物レンズ52Aを保持するレンズ保持部であるレンズブロック53と、レンズブロック53と空間を介して設けられた撮像素子51Aとを含む。レンズブロック53は、内部が空洞の立方体形状を有しており、その下面には、対物レンズ52Aの上端部を挿入可能な孔部を備え、孔部を介して挿入された対物レンズ52Aを保持可能に構成されている。
図16に示すように、レンズブロック53は、リニアスライダ54に取り付けられ、リニアスライダ54に沿って、光軸方向である第2方向に移動可能に構成されている。レンズブロック53は、電気モータ62Aによってプーリー62B及びベルト62Cが駆動された場合に、リニアスライダ54に沿って、光軸方向に移動するように構成されている。電気モータ62Aはステッピングモータである。撮像素子51Aおよびリニアスライダ54は基板であるベースブロック90に固定され、レンズブロック53が撮像素子51に対して光軸方向に移動する。実施の形態1の細胞分析装置100のように撮像素子と対物レンズとを保持する鏡筒を光軸方向に移動させる場合に比べて、光軸方向に移動させる部材の重量が軽くなるため、駆動機構である電気モータ62A、プーリー62B及びベルト62Cを小型化することが可能となる。
【0100】
図15に示すように、設置部20は、リニアスライダ21に取り付けられている。設置部20は水平方向に設置されている。リニアスライダ21は、水平方向に対して鉛直方向に所定角度傾斜するようにベースブロック90に固定されている。リニアスライダ21の傾斜角は微小であり、略水平方向にベースブロック90に固定されている。電気モータ61Aによってベルト61Bが駆動されると、設置部20は、リニアスライダ21に沿って略水平方向に移動する。設置部20には、2つの試料セル10A,10Bが固定されており、設置部20が移動すると、試料セル10A,10Bも設置部20と一体的に移動する。2つの試料セル10A、10Bを用いて複数の尿試料を並行して撮像することができるので、効率的に撮像処理を行うことが可能となる。
【0101】
レンズブロック53には、対物レンズ52Aの温度制御を行うためのヒータ91が取り付けられている。ヒータ91はラバーヒータであり、レンズブロック53の一側面全体に取り付けられ、レンズブロック53を加温するように構成されている。レンズブロック53にはサーミスタ92が取り付けられており、サーミスタ92によってレンズブロック53の温度が検出される。サーミスタ92の代わりに、温度センサとして熱電対を用いてもよい。レンズブロック53は熱伝導性の高いアルミニウムにより形成されており、ヒータ91でレンズブロック53を加温することで、レンズブロック53内部の空気が温められ、温められた空気が対物レンズ52Aに伝わる。対物レンズ52Aは、レンズ部分と、レンズ部分を取り囲む筒状部を含んでおり、レンズブロック53で温められた空気が対物レンズ52Aの筒状部内に入り込み、レンズ部分の温度が制御される。レンズブロック53は、熱伝導性の高い材料により形成されればよく、たとえば銅により形成されてもよい。対物レンズ52Aよりも表面積の広いレンズブロック53にヒータ91を設けるように構成しているため、対物レンズ52Aの表面積が小さくてヒータを設置することができないような場合でも、効果的に対物レンズ52Aの温度制御を行うことができる。
【0102】
図16に示すように、ベースブロック90には、撮像素子51A、電気モータ61A、電気モータ62A、リニアスライダ54、リニアスライダ21が固定されている。ベースブロック90において、撮像素子51A等が取り付けられた面と反対側の面には、ベースブロック90の温度制御を行うためのヒータ93が取り付けられている。ヒータ93もラバーヒータであり、ベースブロック90を加温するように構成されている。
図17に示すように、ベースブロック90にはサーミスタ94が取り付けられており、サーミスタ94によってベースブロック90の温度が検出される。サーミスタ94の代わりに、温度センサとして熱電対を用いてもよい。ベースブロック90は熱伝導性の高いアルミニウムにより形成されている。ベースブロック90は、熱伝導性の高い材料により形成されればよく、たとえば銅により形成されてもよい。
【0103】
図15に示すように、ベースブロック90、撮像素子51A、レンズブロック53、対物レンズ52A、設置部20、電気モータ61A,62A等は、筐体30内に設置されている。また、細胞分析装置100Aには、装置外の周辺温度を検知するための温度センサ95が取り付けられている。
【0104】
対物レンズ52Aが温度変動のある環境で用いられた場合、温度変動に伴って対物レンズ52Aのレンズ部分が膨張又は収縮し、焦点ズレを生じるおそれがある。たとえば細胞撮像装置100Aが起動して細胞の撮像動作が行われている間、撮像素子51Aは発熱し、温度が上昇する。撮像素子51Aの発熱により生じた熱が対物レンズ52Aに伝わった場合、その熱に起因して対物レンズ52A自体の温度が上昇し、焦点ズレが生じるおそれがある。
図18は、レンズブロック53およびベースブロック90にヒータを設けなかった場合の対物レンズ52Aの焦点位置の変化を示すグラフである。このグラフは細胞分析装置100Aの周辺温度が32℃の場合の実験結果を示している。このグラフが示すように、装置の起動後、撮像動作が行われている間、撮像素子51Aの温度が上昇し、それにつれてレンズブロック53の温度も上昇する。
図18のグラフの右側の縦軸に示す「パルス数」は、対物レンズ52Aをその原点位置から既定の焦点位置に調整するためにモータ62Aに与えた駆動パルス数を示している。グラフが示すように、レンズブロック53の温度が上昇するにつれて、対物レンズ52Aの焦点位置にズレが生じ、対物レンズ52Aを既定の焦点位置に調整するための駆動パルス数が上昇する。この実験では、装置が起動してから対物レンズ52Aの焦点位置が安定するまでに約25パルスもの変動が生じている。また、装置が起動してからレンズブロック53の温度が安定するまでに200分以上かかっているため、対物レンズ52Aの焦点位置が安定するまでに長時間を要している。そのため、対物レンズ52Aの焦点位置が安定するまでの間は、新たな尿試料を試料セルに導入するたびに対物レンズ52Aの焦点調整を行う必要があり、撮像動作に時間がかかる。
【0105】
実施の形態3では、対物レンズ52Aを保持するレンズブロック53にヒータ91が取り付けられ、ヒータ91によってレンズブロック53が一定温度に制御される。具体的には、レンズブロック53は41℃に制御される。ヒータ91の熱はレンズブロック53を介して対物レンズ52Aに伝わるため、対物レンズ52Aの温度も一定に保たれる。そのため、対物レンズ52Aの温度変動が抑制され、焦点ズレの発生を抑制することができる。
【0106】
対物レンズ52Aの温度には、撮像素子51Aからの熱だけでなく、細胞撮像装置100Aの周辺温度も影響を与えることがある。実施の形態3では、ベースブロック90にもヒータ93が取り付けられ、ベースブロック90が一定温度に制御される。ベースブロック90は、レンズブロック53と同じ温度になるよう制御され、具体的には41℃に制御される。ベースブロック90は筐体30内に配置されており、筐体30内外での空気の出入りが遮断されているため、筐体30内の空気の温度をベースブロック90とほぼ同じ温度に維持することができ、温度変動が抑制される。そのため、筐体30内に配置された対物レンズ52Aの周囲の空気の温度をベースブロック90とほぼ同じ温度に維持することができるため、細胞撮像装置100Aの周辺温度の変化による影響を抑制でき、対物レンズ52Aの焦点ズレをさらに抑えることができる。
【0107】
なお、対物レンズ52Aを保持するレンズブロック53と撮像素子51Aとは、空間を介して離れるように配置されているため、互いに熱伝導が生じることを抑制することができる。そのため、撮像素子51Aの発熱により生じた熱が対物レンズ52Aに伝わることが抑制され、対物レンズ52Aの温度上昇により焦点ズレが生じることをさらに防止することができる。
【0108】
図19、
図20を参照して、細胞分析装置100Aの動作手順を説明する。
図19は細胞分析装置100Aの起動時の初期化動作を示すフローである。細胞分析装置100Aが起動すると、制御部70は、ステップS321において、温度センサ95からの検知結果に基づき、装置外温度T、すなわち、細胞分析装置100Aが設置された室内の温度がT1以上であるか否かを判断する。温度T1はたとえば15℃であるが、他の温度でもよい。装置外温度TがT1以上である場合、制御部70は、ステップS322においてヒータ91,93による温度制御を開始し、ステップS323において時間M1が経過したか否かを判断する。時間M1はたとえば15分であるが他の時間でもよい。時間M1が経過すると、制御部70は、ステップS327において移動速度決定動作を行う。移動速度決定動作は、
図6で説明した動作と同様である。移動速度決定動作の後、制御部70は、ステップS328においてスタンバイに移行する。
【0109】
装置外温度TがT1未満の場合、制御部70は、ステップS324において、装置外温度TがT2以上であるか否かを判断する。温度T2はたとえば10℃であるが、温度T1よりも低い温度であれば他の温度でもよい。装置外温度TがT2以上の場合、制御部70は、ステップS325において、ヒータ91,93による温度制御を開始し、ステップS326において時間M2が経過したか否かを判断する。時間M2はたとえば25分であるが、時間M1よりも長い時間であれば他の時間でもよい。時間M2が経過すると、制御部70は、ステップS327において移動速度決定動作を行い、ステップS328においてスタンバイに移行する。このように、細胞分析装置100Aの周辺温度が高ければスタンバイに移行するまでの時間を短くし、周辺温度が低ければスタンバイに移行するまでの時間を長くする。細胞分析装置100Aの周辺温度に応じてスタンバイに移行するまでの時間を変更することにより、周辺温度が低い場合でも確実に対物レンズ52Aを目標の温度に設定することができる。
【0110】
装置外温度TがT2未満である場合、制御部70は、ステップS329において「撮像不可」を表示部80に表示し、スタンバイに移行せずに、ステップS321に戻る。細胞分析装置100Aの周辺温度が通常想定される温度に対して低すぎる場合には、ヒータ91,93による温度制御を行ったとしても対物レンズ52Aの焦点ずれが生じるおそれがある。そのため、このような場合には、撮像動作を禁止することにより精度の悪い撮像が行われることを防止することができる。
【0111】
次に、
図20を参照して、ヒータ91,93による温度制御処理について説明する。この温度制御処理は、ステップS322またはステップS325で温度制御処理が開始された後、シャットダウン指示を受けるまで継続する。温度制御処理が開始されると、制御部70は、ステップS421において、サーミスタ92からの検知結果に基づいて、レンズブロック53の温度、すなわち対物レンズ52Aの温度が目標温度T
G以上であるか否かを判断する。目標温度T
Gはたとえば41℃である。対物レンズ52Aの温度が目標温度T
G未満である場合には、制御部70は、ステップS423においてヒータ91をONにする。対物レンズ52Aの温度が目標温度T
G以上になっている場合には、制御部70は、ステップS422においてヒータ91をOFFにする。
【0112】
続いて、制御部70は、ステップS424において、サーミスタ94からの検知結果に基づいて、ベースブロック90の温度が目標温度T
G以上であるか否かを判断する。目標温度T
Gはたとえば41℃である。ベースブロック90の温度が目標温度T
G未満である場合には、制御部70は、ステップS426においてヒータ93をONにする。ベースブロック90の温度が目標温度T
G以上になっている場合には、制御部70は、ステップS425においてヒータ93をOFFにする。
【0113】
制御部70は、ステップS427においてシャットダウン指示を受け付けたか否かを判断し、シャットダウン指示がない場合には、ステップS421〜S426の処理を繰り返す。これにより、対物レンズ52A、ベースブロック90が目標温度T
Gに到達すればヒータがOFFになり、目標温度T
G未満になればヒータがONになるという動作が繰り返されるため、対物レンズ52A、ベースブロック90の温度を目標温度T
G近傍に維持することができる。
【0114】
図21を参照して、ヒータ91,93による温度制御を行った場合の実験結果を説明する。この実験は、細胞分析装置100Aの周辺温度が32℃、ヒータ91,93の設定温度が41℃の条件下で行われた。
図21のグラフに示すように、細胞分析装置100Aが起動すると、撮像素子51Aの温度は発熱により上昇するが、ベースブロック90がヒータ93により加温されるため、
図18の場合と比べて、ベースブロック90と撮像素子51Aの間の温度差が小さくなる。そのため、撮像素子51Aからベースブロック90への熱移動が抑えられ、撮像素子51Aの温度がすぐに安定し、ベースブロック90の温度もすぐに41℃で安定する。
図21の実験ではベースブロック90及びレンズブロック53は10分程度で41℃に安定している。グラフに示されるように、レンズブロック53の温度が安定している間、対物レンズ52Aの焦点位置にはほとんどズレが生じていない。装置起動から約15分経過時点での対物レンズ52Aの焦点位置を基準とすると、対物レンズ52Aの焦点位置のズレは5パルス以内に収まっており、
図18の場合と比べると焦点位置の変動幅を大きく減らすことができている。このように、ヒータ91,93による温度制御を行った場合には、対物レンズ52Aの焦点位置を迅速に安定化することができる。そのため、焦点位置を安定化させた後は、対物レンズ52Aの焦点調整の実施頻度を低減させることができ、撮像処理を効率的に行うことができる。たとえば、新たな尿試料の撮像を行うたびに焦点調整をする回数も減らすことができ、迅速に撮像処理を実施することができる。
【0115】
なお、ベースブロック90およびレンズブロック53の目標温度は41℃でなくてもよいが、細胞分析装置100Aの周辺温度よりも高い温度であることが望ましく、たとえば本発明の技術分野において一般に室温とされる25℃よりも高い温度であることが好ましい。また、目標温度を撮像素子51Aの温度に近づけるほど、ベースブロック90およびレンズブロック53の温度を早く安定化することができるが、目標温度が高すぎると試料セル10A、10B内の尿試料中の細胞に影響を与えるおそれがあるため、目標温度は38℃以上42℃未満であることが特に好ましい。