(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記付加情報は、前記第3パターンの振動または前記第4パターンの振動の周波数に対して4n(nは非負整数)+1倍の周波数の振動であり、かつ、その位相をπ分ずらせた振動を仮想的に発生させるための情報、または、前記第1パターンの振動の周波数に対して1/(4n+1)倍の周波数の振動であり、かつ、その位相をπ分ずらせた振動を仮想的に発生させるための情報である請求項4に記載の地震動擬似的再現システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
【0014】
図1は、第1実施形態に係る地震動擬似的再現システム1の機能ブロックを示す図である。この地震動擬似的再現システム1は、たとえば起震車に搭載される地震体験室などの開放型狭隘空間において被験者に地震動を体感させることを想定している。そして、この地震動擬似的再現システム1は、狭隘空間では物理的制約により再現が不可能な長周期地震動を、振動を発生させる技術と、仮想的な空間を作り上げる技術(仮想現実[VR:Virtual reality])、より詳細には、現実空間に情報を付加して現実空間を拡張する技術(拡張現実[AR:Augmented reality])または現実空間と仮想空間とを組み合わせる技術(複合現実[MR:Mixed reality])とを融合させて擬似的に再現することを可能としたものである。つまり、この地震動擬似的再現システム1は、長周期地震波による変位応答スペクトルが最大となる固有周期での変位再現を可能とする。
【0015】
図1に示すように、地震動擬似的再現システム1は、起震装置11、補助装置12および制御装置13を有している。
【0016】
起震装置11は、振動を発生させる装置である。起震装置11は、鉛直方向であるY軸方向の振動(縦揺れ)と、水平方向であるX軸方向の振動(横揺れ:左右揺れ)と、同じく水平方向であって、Y軸およびX軸と直交するZ軸方向の振動(横揺れ:前後揺れ)とを重ね合わせた振動を発生させることができる。もちろん、起震装置11は、1方向のみの振動を発生させることもできるし、2方向の振動を重ね合わせた振動を発生させることもできる。また、起震装置11は、必ずしも3方向の振動を発生させることができる機能を有していなくともよく、少なくとも1方向の振動を発生させることができる機能を有していればよい。
【0017】
補助装置12は、現実空間に付加する情報を被験者に提示するための装置であって、被験者に装着可能に構成される、たとえばヘッドマウントディスプレイなどである。補助装置12は、光学透過型ディスプレイ121、音声出力部122およびセンサ123を有している。ここでは、補助装置12が音声出力部122を有していることを想定するが、音声出力部122は必須ではない。
【0018】
光学透過型ディスプレイ121は、補助装置12が被験者に装着された際、表示面が被験者の視界と重なるように補助装置12内に配置される。一方、音声出力部122は、補助装置12が被験者に装着された際、被験者の耳孔近傍に位置するように補助装置12内に配置される。表示面が被験者の視界と重なっている状態にある光学透過型ディスプレイ121においては、被験者によって目視される現実空間に重畳させて画像を表示することが可能である。センサ123は、補助装置12の状態、より詳細には、位置、向き、動きなどを制御装置13側において把握するためのデータを取得する。センサ123は、たとえば、ジャイロコンパス、加速度センサなどである。
【0019】
制御装置13は、起震装置11と補助装置12とを同期的に制御する装置である。制御装置13は、主処理部131、ユーザインタフェース部132、データ記憶部133、駆動コントローラ134、ディスプレイコントローラ135およびサウンドコントローラ136を有している。なお、補助装置12が音声出力部122を有しない場合、サウンドコントローラ136は不要となる。しかしながら、補助装置12における音声出力部122の有無に関わらず、サウンドコントローラ136を有してもよい。また、制御装置13と補助装置12との間は、コードレス(無線通信)で接続されることが好ましく、その場合には、制御装置13と補助装置12との双方に、(
図1には示されない)無線通信装置が設けられる。もちろん、制御装置13と補助装置12との間がコード(有線通信)で接続されてもよい。
【0020】
主処理部131は、たとえば、ファームウェアを書き換え可能に格納する不揮発性メモリおよび作業領域として用いる揮発性メモリを内蔵するマイクロプロセッサであり、ユーザインタフェース部132を介して受け付けるオペレータの指示に応じて、データ記憶部133から必要なデータ(後述する地震動パターンデータ210)を読み出し、駆動コントローラ134を介して起震装置11を制御するとともに、ディスプレイコントローラ135およびサウンドコントローラ136を介して補助装置12を制御する。
【0021】
ユーザインタフェース部132は、オペレータと制御装置13との間で情報の受け渡しを行うためのモジュールである。ユーザインタフェース部132は、機械的な操作ボタン群が設けられる操作パネルであってもよいし、操作ボタン群をアイコンとして表示可能であり、かつ、アイコンに対する表示面上でのタッチ操作を検出可能なタッチスクリーンディスプレイであってもよい。
【0022】
データ記憶部133は、たとえばHDD(Hard disk drive)などの不揮発性の記憶装置であり、再現する地震動に関するデータである地震動パターンデータ210を格納する。地震動擬似的再現システム1は、複数の地震動を再現することができ、地震動パターンデータ210は、これら複数の地震動と一対に作成されている。オペレータは、ユーザインタフェース部132を介して、複数の地震動の中の任意の地震動を選択することができる。主処理部131は、オペレータにより選択された地震動に対応する地震動パターンデータ210をデータ記憶部133から読み出す。なお、主処理部131の処理手順が記述されるプログラムを、主処理部131に内蔵される不揮発性メモリにファームウェアとして格納することに代えて、このデータ記憶部133に格納するようにしてもよい。あるいは、地震動パターンデータ210を、主処理部131に内蔵される不揮発性メモリに予め格納しておくようにしてもよい。この場合、データ記憶部133は不要となる。
【0023】
地震動パターンデータ210は、振動データ211、画像作成用データ212および音声作成用データ213を含む。振動データ211、画像作成用データ212および音声作成用データ213は、相互間で時間的な同期が取られたデータである。補助装置12が音声出力部122を有しない場合、音声作成用データ213は不要である。しかしながら、前述したように、補助装置12における音声出力部122の有無に関わらず、サウンドコントローラ136を有してもよく、これと同様、地震動パターンデータ210に音声作成用データ213が含まれていてもよい。
【0024】
振動データ211は、起震装置11によって発生させる振動に関するデータである。主処理部131は、この振動データ211に基づき、駆動コントローラ134を介して起震装置11により振動を発生させる。
【0025】
画像作成用データ212は、補助装置12により被験者に提示する画像、つまり、光学透過型ディスプレイ121に表示する画像に関するデータである。主処理部131は、補助装置12のセンサ123によって取得されるデータと、この画像作成用データ212とに基づき、光学透過型ディスプレイ121に表示すべき画像を作成し、ディスプレイコントローラ135を介して光学透過型ディスプレイ121に表示する。光学透過型ディスプレイ121に表示される画像は、被験者によって目視される現実空間に重ね合される。この光学透過型ディスプレイ121による画像の表示により、実在しないオブジェクト(物体)を被験者の視界に登場させることができ、逆に、実在するオブジェクトを被験者の視界から消去することができる。また、被験者の視界内のオブジェクトに動き(歪みや移動を含む)を与えることもできる。被験者の視界は、センサ123によって取得されるデータから推定することができる。
【0026】
このように、光学透過型ディスプレイ121による画像の表示は、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示である。つまり、主処理部131は、拡張現実(AR:Augmented reality)機能を有している。また、主処理部131は、現実空間と仮想空間とを組み合わせるという観点から、複合現実(MR:Mixed reality)機能を有しているともいえる。
【0027】
音声作成用データ213は、補助装置12により被験者に提示する音声、つまり、音声出力部122から出力する音声に関するデータである。主処理部131は、補助装置12のセンサ123によって取得されるデータと、この音声作成用データ213とに基づき、音声出力部122から出力すべき音声を作成し、サウンドコントローラ136を介して音声出力部122から出力する。この音声は、いわゆる効果音として被験者に提示される。音声出力部122による音声の出力も、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示である。
【0028】
また、以上のような、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示、より詳細には、光学透過型ディスプレイ121による画像の表示と、音声出力部122による音声の出力とで、被験者に錯覚を起こさせることができる。この現象を利用して、地震動擬似的再現システム1は、起震装置11が発生させることのできる上限の振幅の振動よりも振幅の大きい振動を被験者に体感させることを実現する。
【0029】
図2は、この地震動擬似的再現システム1の一適用例を示す図である。
【0030】
図2に示すように、ここでは、地震動擬似的再現システム1が、起震車に適用される場合を想定する。
【0031】
起震車には、地震体験室111が搭載される。起震装置11は、この地震体験室111を揺らすための装置として、たとえば地震体験室111の底面下に配置される。地震体験室111内には、たとえばテーブルやイスなどのオブジェクトが所定の位置に配置されている。地震体験室111の内壁も、オブジェクトとして扱うことができる。また、補助装置12が、たとえばテーブル上の所定の位置に置かれている。制御装置13は、たとえば地震体験室111と並ぶように起震車に搭載される。なお、制御装置13は、必ずしも起震車に搭載されていなくともよい。
【0032】
被験者は、地震体験室111に入場すると、たとえばテーブル上の所定の位置に置かれている補助装置12を装着し、たとえば所定の位置に配置されているイスに着席する。制御装置13の主処理部131は、被験者に装着される補助装置12の状態を、たとえばテーブル上の所定の位置に置かれている状態を初期状態として、センサ123によって取得されるデータに基づき、追跡・推定する。地震体験室111内のオブジェクトは、所定の位置に配置されているので、補助装置12の状態により、被験者の視界内にどのようにオブジェクトが存在するのかが特定される。なお、センサ123として、被験者の視線方向を撮像対象とするカメラを搭載し、撮像された画像を解析して、被験者に装着される補助装置12の状態や、被験者の視界内にどのようにオブジェクトが存在するのかを判定してもよい。または、ジャイロコンパスや加速度センサなどとともにカメラを搭載し、これらにより取得されるデータから総合的に判定してもよい。
【0033】
図3は、起震装置11が発生させる振動のイメージを表す図である。
【0034】
前述したように、起震装置11は、鉛直方向であるY軸方向の振動(縦揺れ)と、水平方向であるX軸方向の振動(横揺れ:左右揺れ)と、同じく水平方向であって、Y軸およびX軸と直交するZ軸方向の振動(横揺れ:前後揺れ)とを重ね合わせた振動を発生させることができる。しかしながら、起震装置11が発生させることのできる振動には、物理的制約により、3方向の各々について上限が設けられる。したがって、起震装置11のみでは、その上限を超える振幅の長周期地震動を再現することはできない。
【0035】
一方、前述したように、地震動擬似的再現システム1は、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示、より詳細には、光学透過型ディスプレイ121による画像の表示と、音声出力部122による音声の出力とで、被験者に錯覚を起こさせることができる。
【0036】
そこで、地震動擬似的再現システム1は、起震装置11が発生させた振動を受ける被験者に対して、起震装置11による振動の発生と同期させて、現実空間を拡張するための付加情報を提示することにより、長周期地震動を擬似的に再現し、被験者に長周期地震動を体感させる。
【0037】
図4は、起震装置11による振動の発生と、補助装置12による被験者に対する付加情報の提示とを協調させて擬似的に再現される長周期地震動のイメージを表す図である。
【0038】
前述したように、起震装置11が発生させる振動は、3方向の振動が重ね合わせられている。しかしながら、ここでは、判り易くするため、1方向のみの振動を考える。
【0039】
図4中、符号aは、再現対象の長周期地震動を、縦方向に振幅をとり、横方向に時間をとった波形として示している。また、符号bは、起震装置11が発生させることのできる最大振幅の振動を、同じく、縦方向に振幅をとり、横方向に時間をとった波形として示している。また、符号cは、再現対象の長周期地震動の振幅と、起震装置11が発生させることのできる最大振幅の振動の振幅との差分を示している。地震動擬似的再現システム1においては、この差分を補填すべく、つまり、符号bで示される振動が符号aで示される振動として知覚されるように被験者に錯覚を起こさせるために、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示を行う。
【0040】
より詳細には、制御装置13の主処理部131が、補助装置12のセンサ123によって取得されるデータと、画像作成用データ212とに基づき、光学透過型ディスプレイ121に表示すべき画像を作成し、ディスプレイコントローラ135を介して光学透過型ディスプレイ121に表示する。また、主処理部131は、補助装置12のセンサ123によって取得されるデータと、音声作成用データ213とに基づき、音声出力部122から出力すべき音声を作成し、サウンドコントローラ136を介して音声出力部122から出力する。
【0041】
画像作成用データ212は、(補助装置12のセンサ123によって取得されるデータから推定される)被験者の目の位置および視線の方向に応じて、起震装置11が発生させている、
図4の符号bで示される波形の振動を受けている被験者に対して、たとえば被験者の視界内のオブジェクトに動きを与えることにより、あたかも
図4の符号aで示される波形の振動を受けているかのように錯覚を起こさせるために補助装置12の光学透過型ディスプレイ121に表示すべき画像(現実空間に付加すべき画像)を作成するための各種情報を含む。
【0042】
また、音声作成用データ213は、(補助装置12のセンサ123によって取得されるデータから推定される)被験者の目および視線の方向に応じて、補助装置12の音声出力部122から出力すべき、
図4の符号aで示される波形の振動を受けているかのような効果音を作成するための各種情報を含む。
【0043】
なお、以上のような、主処理部131が有する、現実空間に情報を付加して現実空間を拡張する機能または現実空間と仮想空間とを組み合わせる機能は、既知のVR(Virtual reality)技術、AR(Augmented reality)技術またはMR(Mixed reality)技術などに関する様々な手法を適用して実現することが可能である。
【0044】
図5は、視覚(光学透過型ディスプレイ121による画像の表示)および聴覚(音声出力部122による音声の出力)による振動(起震装置11が発生させる振動)の変位増幅効果を得るための一具体例を示す図である。
【0045】
図5中、符号bは、
図4と同様、起震装置11が発生させる振動を、縦方向に振幅をとり、横方向に時間をとった波形として示している。また、符号dは、視覚および聴覚により仮想的に発生させる振動を、同じく、縦方向に振幅をとり、横方向に時間をとった波形として示している。
【0046】
視覚および聴覚により仮想的に発生させる振動は、被験者が実際に受ける振動の
周波数(振動数)に対して4n(nは非負整数)+1倍の
周波数の振動であり、かつ、その位相をπ分ずらした振動とする。または逆に被験者が実際に受ける振
動は、仮想的に発生させる
振動の周波数に対して4n(nは非負整数)+1倍の
周波数の振動で、かつ、その位相をπ分ずらした振動でもよい。つまり、被験者が実際に受ける振動の
周波数と、視覚および聴覚により仮想的に発生させる振動の
周波数とを逆転させても同じ効果を得ることができる。例えば、窓の外に見える別の高層ビルで固有周期が自身の居る高層ビルよりもゆっくりした動きの場合などが該当する。
図5では、nが1、つまり、被験者が実際に受ける振動の
周波数に対して5倍の
周波数の振動であり、かつ、その位相をπ分ずらした振動を仮想的に発生させる例を示している。この場合、被験者の視界内のオブジェクトが、起震装置11により発生させる振動の
周波数に対して5倍の
周波数で、かつ、その位相がπ分ずれて揺れているかのように感じさせるべく、補助装置12による被験者に対する付加情報の提示が行われる。位相をπ分ずらすことで、仮想的に発生させる振動を実際の振動とは逆位相で重ねることになる。これにより、視覚および聴覚による効果として、振幅を増幅させる効果を得ることができる。また、被験者の視界内の複数のオブジェクト間において、nの値を異ならせることで、体感する揺れに複雑さを加えることができる。たとえば、基本的にはnを0とし、一部のオブジェクトについて、nを0以外とすることが好ましい。
【0047】
このように、この地震動擬似的再現システム1は、狭隘空間では物理的制約により再現が不可能な長周期地震動を、振動を発生させる技術と、現実空間に情報を付加して現実空間を拡張する技術とを融合させて擬似的に再現することを可能とする。
【0048】
図6は、地震動擬似的再現システム1の動作手順を示すフローチャートである。
【0049】
制御装置13の主処理部131は、地震動擬似的再現システム1で再現することのできる複数の地震動の中からいずれかの地震動を選択する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップA1のYES)、その選択された地震動に対応する地震動パターンデータ210をデータ記憶部133から読み出す(ステップA2)。
【0050】
また、主処理部131は、地震動の再現を開始する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップA3のYES)、第1に、読み出した地震動パターンデータ210に含まれる振動データ211に基づき、駆動コントローラ134経由で起震装置11を制御して振動を発生させる(ステップA4)。また、これと並行して、主処理部131は、第2に、補助装置12のセンサ123により取得されたデータと、読み出した地震動パターンデータ210に含まれる画像作成用データ212および音声作成用データ213とに基づき、現実空間を拡張するために被験者に対して提示すべき付加情報である画像および音声を作成して、ディスプレイコントローラ135経由で補助装置12の光学透過型ディスプレイ121に表示し、サウンドコントローラ136経由で補助装置12の音声出力部122から出力する(ステップA5)。主処理部131は、このステップA4およびステップA5の処理を、地震動の再現を終了する指示が行われるまで継続する。
【0051】
そして、主処理部131は、地震動の再現を終了する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップA6のYES)、ステップA4およびステップA5の処理を止め、地震動擬似的再現システム1としての一連の地震動再現動作を終了する。
【0052】
以上のように、本実施形態の地震動擬似的再現システム1によれば、たとえば起震装置11のみではその物理的制約により再現不可能な長周期地震動などを擬似的に再現することが実現される。
【0053】
なお、ここでは、補助装置12が光学透過型ディスプレイ121を有する例を説明したが、光学透過型ディスプレイ121に代えて、非透過型ディスプレイを有し、起震装置11による振動の発生と同期させて、(拡張現実または複合現実ではなく)完全な仮想現実を被験者に目視させるようにしてもよい。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0055】
図6は、第2実施形態に係る地震動擬似的再現システム1Aの機能ブロックを示す図である。第1実施形態の地震動擬似的再現システム1では、たとえば起震車に搭載される地震体験室などの開放型狭隘空間において被験者に地震動を体感させることを想定していたが、本実施形態の地震動擬似的再現システム1Aでは、たとえばコンテナ内などの閉鎖型狭隘空間において被験者に地震動を体感させることを想定している。
【0056】
この地震動擬似的再現システム1Aも、狭隘空間では物理的制約により再現が不可能な長周期地震動を、振動を発生させる技術と、仮想的な空間を作り上げる技術、より詳細には、現実空間に情報を付加して現実空間を拡張する技術または現実空間と仮想空間とを組み合わせる技術とを融合させて擬似的に再現することを可能としたものである。なお、第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を使用し、その説明は省略する。
【0057】
図7に示すように、地震動擬似的再現システム1Aは、起震装置11、1以上のプロジェクタ14、1以上のスピーカ15および制御装置13Aを有している。つまり、地震動擬似的再現システム1Aは、第1実施形態における補助装置12に代えて、プロジェクタ14およびスピーカ15を有している。ここでは、スピーカ15が存在していることを想定するが、スピーカ15は必須ではない。
【0058】
プロジェクタ14は、コンテナ内に設けられる、閉鎖型狭隘空間である地震体験室の内壁や、この地震体験室内に配置された後述するベースオブジェクトに画像を投影するための装置、より詳細には、地震体験室内においてプロジェクションマッピング(PM:Projection Mapping)を行うための装置である。つまり、この地震動擬似的再現システム1Aは、閉鎖型狭隘空間内でのプロジェクションマッピングにより、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示を実行する。プロジェクションマッピングによっても、実在するオブジェクトを被験者の視界から消去することができるし、オブジェクトに動き(歪みや移動を含む)を与えることもできる。スピーカ15は、効果音を出力するための装置である。
【0059】
そして、プロジェクションマッピングによる、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示によっても、被験者に錯覚を起こさせることができるので、この現象を利用して、地震動擬似的再現システム1Aは、起震装置11が発生させることのできる上限の振幅の振動よりも振幅の大きい振動を被験者に体感させることを実現する。
【0060】
本実施形態の制御装置13Aは、起震装置11と、プロジェクタ14およびスピーカ15とを同期的に制御する。なお、スピーカ15が存在しない場合、
図7中のサウンドコントローラ136は不要となる。制御装置13Aの主処理部131Aは、ユーザインタフェース部132を介して受け付けるオペレータの指示に応じて、データ記憶部133から必要なデータ(地震動パターンデータ210A)を読み出し、駆動コントローラ134を介して起震装置11を制御するとともに、ディスプレイコントローラ135およびサウンドコントローラを介してプロジェクタ14およびスピーカ15を制御する。
【0061】
本実施形態における地震動パターンデータ210Aも、振動データ211A、画像作成用データ212Aおよび音声作成用データ213Aを含み、振動データ211A、画像作成用データ212Aおよび音声作成用データ213Aは、相互間で時間的な同期が取られたデータである。なお、スピーカ15が存在せず、サウンドコントローラ136が存在しない場合、音声作成用データ213は不要である。
【0062】
本実施形態における画像作成用データ212Aは、プロジェクタ14により、地震体験室の内壁や、この地震体験室内に配置された後述するベースオブジェクトに投影する画像に関するデータである。一方、音声作成用データ213Aは、スピーカ15により地震体験室内に出力する効果音に関するデータである。
【0063】
図8は、この地震動擬似的再現システム1Aの一適用例を示す図である。
【0064】
図8に示すように、ここでは、地震動擬似的再現システム1Aが、たとえばコンテナ内などの閉鎖型狭隘空間において被験者に地震動を体感させるシステムとして適用される場合を想定する。この地震動擬似的再現システム1Aでは、コンテナ内の空間(複合現実空間300)の略全体が地震体験室となり、第1実施形態での起震車に搭載される地震体験室111と比較して、一度に、より多くの被験者に地震動を体験させることができる。また、第1実施形態においては被験者に装着させていた補助装置12などを各被験者に装着させる必要がない。たとえば、ヘッドマウントディスプレイは、12才未満の子供による装着は好ましくないとされており、特に、12才未満の子供にも地震を体験させることができる点において有効である。なお、各被験者は、コンテナ内に点在させて複数設けられる所定の領域内に位置するように誘導されることが好ましい。
【0065】
閉鎖型狭隘空間であるコンテナ内の床部には、起震装置11が配置される。また、コンテナ内には、プロジェクタ14およびスピーカ15が配置される。さらに、コンテナ内の所定の位置には、VR(Virtual reality)オブジェクト310を作り出すためのベースオブジェクト311が配置されている。
図9を参照して、VRオブジェクト310について説明する。
【0066】
ベースオブジェクト311は、プロジェクタ14によって投影される画像(投影画像312)が張り合わされる対象物である。ベースオブジェクト311に投影画像312を張り合わせることにより、たとえば、ベースオブジェクト311を家具などとして被験者に見せることができる。被験者に家具などとして見せている状態のベースオブジェクト311がVRオブジェクト310である。このベースオブジェクト311への投影画像312の張り合わせによって、VRオブジェクト310に動きを与えることができる。
【0067】
なお、ベースオブジェクト311は、本物の家具などであってもよい。また、コンテナの内壁も、ベースオブジェクト311として利用される。コンテナの内壁に投影画像312を張り合わせることにより、たとえば高層マンションの高層階の窓から外景が望める部屋などのようにコンテナ内の空間を見せることができる。つまり、複合現実空間300を作成することができる。
【0068】
起震装置11が発生させている振動を受けている被験者に対し、たとえば、ベースオブジェクト311に投影画像312を張り合わせて作成したVRオブジェクト310が大きく揺れたり被験者に迫ってくるように飛んで来たりする様子を見せ、また、外景が大きく揺れている様子を見せることにより、たとえば、起震装置11が発生させている振動よりも最大振幅が大きい振動のように被験者に錯覚させることができる。なお、外景を含むVRオブジェクト310に与える動きは、たとえば、第1実施形態において
図5を参照して説明した動きである。
【0069】
そこで、本実施形態の制御装置13Aの主処理部131Aは、第1に、地震動パターンデータ210Aに含まれる振動データ211Aに基づき、駆動コントローラ134経由で起震装置11を制御して振動を発生させ、かつ、これと並行して、第2に、地震動パターンデータ210Aに含まれる画像作成用データ212Aおよび音声作成用データ213Aに基づき、現実空間を拡張するために被験者に対して提示すべき付加情報である画像および音声を作成して、ディスプレイコントローラ135経由でプロジェクタ14により投影し、サウンドコントローラ136経由でスピーカ15から出力する。このように、本実施形態の地震動擬似的再現システム1Aの動作手順は、第1実施形態の地震動擬似的再現システム1と略同様であるので、その図示については省略する。
【0070】
以上のように、本実施形態の地震動擬似的再現システム1Aにおいても、たとえば起震装置11のみではその物理的制約により再現不可能な長周期地震動などを擬似的に再現することが実現される。
【0071】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
【0072】
図10は、第3実施形態に係る地震動擬似的再現システム1Bの機能ブロックを示す図である。本実施形態の地震動擬似的再現システム1Bも、第2実施形態の地震動擬似的再現システム1Aと同様、たとえばコンテナ内などの閉鎖型狭隘空間において被験者に地震動を体感させることを想定している。
【0073】
この地震動擬似的再現システム1Bも、狭隘空間では物理的制約により再現が不可能な長周期地震動を、振動を発生させる技術と、仮想的な空間を作り上げる技術、より詳細には、現実空間に情報を付加して現実空間を拡張する技術または現実空間と仮想空間とを組み合わせる技術とを融合させて擬似的に再現することを可能としたものである。なお、第1実施形態または第2実施形態と同一の構成要素については同一の符号を使用し、その説明は省略する。
【0074】
図10に示すように、地震動擬似的再現システム1Bは、起震装置11を2つ有している。ここでは、一方を起震装置11−1、他方を起震装置11−2と称するが、これらを起震装置11と総称することがある。以下、この起震装置11と同様、枝番号が付された符号で示される複数の構成要素を、枝番号抜きの符号を用いて総称することがあるものとする。また、起震装置11を2つ有していることに伴い、この地震動擬似的再現システム1Bでは、制御装置13Bが、駆動コントローラ134を2つ有している(駆動コントローラ134−1,134−2)。この2つの駆動コントローラ134を介して、制御装置13Bは、さらに、2つの起震装置11を同期的に制御する。より詳細には、起震装置11−1により発生させる振動に対して、起震装置11−2により発生させる振動が、同一周期かつ逆位相となるように各々を制御する。これは、動的視覚効果により変位増幅を意図するものであって、相対的に2倍の振幅効果を発生させる。動的視覚効果とは、
平衡感覚であり、生体が運動している時や重力に対して傾いた状態にある時にこれを察知する働きである。たとえば、一方の起震装置11が発生させる振動を受けている被験者に、他方の起震装置11が発生させる振動を受けている被験者を見せることで、実際に受けている振動の振幅以上に揺れているように錯覚させることができる。なお、
図10には、地震動パターンデータ210Bが、起震装置11−1用の振動データ211B−1と、起震装置11−2用の振動データ211B−2とを含む例を示しているが、1つの振動データ211Bを、(たとえば起震装置11−2については位相を反転させる対応を取ることで)2つの起震装置11に対して用いることも可能である。
【0075】
また、地震動擬似的再現システム1Bは、1以上の大型LED(Light emitting diode)ディスプレイ16、1以上の透過ディスプレイ17、1以上のスピーカ15および制御装置13Bを有している。つまり、地震動擬似的再現システム1Bは、第2実施形態におけるプロジェクタ14に代えて、大型LEDディスプレイ16および透過ディスプレイ17を有している。
【0076】
大型LEDディスプレイ16は、閉鎖型狭隘空間である地震体験室の(天井を含む)内壁に沿って配置される。または、大型LEDディスプレイ16は、地震体験室の内壁に貼着されてもよい。大型LEDディスプレイ16は、第2実施形態におけるプロジェクタ14と同様、たとえば高層マンションの高層階の窓から外景が望める部屋などのようにコンテナ内の空間を見せるため、つまり、(他の被験者が実在する)複合現実空間300を作成するために用いられる。
【0077】
一方、透過ディスプレイ17は、地震体験室内において3D(Dimensional)ホログラムを表示するために設けられる。この地震動擬似的再現システム1Bでは、第2実施形態で説明したVRオブジェクト310を、透過ディスプレイ17による3Dホログラムの表示によって表現する。
【0078】
大型LEDディスプレイ16および透過ディスプレイ17により、現実空間を拡張するための被験者に対する付加情報の提示を行うことによって、被験者に錯覚を起こさせることができるので、(2つの起震装置11の同期的制御とともに)この現象を利用して、地震動擬似的再現システム1Bは、起震装置11が発生させることのできる上限の振幅の振動よりも振幅の大きい振動を被験者に体感させることを実現する。
【0079】
図11は、この地震動擬似的再現システム1Bの一適用例を示す図である。
【0080】
図11に示すように、ここでは、地震動擬似的再現システム1Bが、たとえばコンテナ内などの閉鎖型狭隘空間において被験者に地震動を体感させるシステムとして適用される場合を想定する。第2実施形態の地震動擬似的再現システム1Aと同様、この地震動擬似的再現システム1Bでは、コンテナ内の空間(複合現実空間300)の略全体が地震体験室となり、一度に、より多くの被験者に地震動を体験させることができ、また、第1実施形態においては被験者に装着させていた補助装置12などを各被験者に装着させる必要がない。さらに、地震動擬似的再現システム1Bでは、各被験者が、任意の場所に位置して構わない。
【0081】
閉鎖型狭隘空間であるコンテナ内の床部には、起震装置11−1,11−2の2つの起震装置11が配置される。また、コンテナ内には、大型LEDディスプレイ16、透過ディスプレイ17およびスピーカ15が配置される。前述したように、大型LEDディスプレイ16は、コンテナの内壁(たとえば、床部を除く5面)に沿って配置される。透過ディスプレイ17は、少なくとも1つは、起震装置11−1と起震装置11−2との間、より詳細には、起震装置11−1が発生させる振動を受ける被験者が位置する空間と起震装置11−2が発生させる振動を受ける被験者が位置する空間との間に介在させて設けられる。前述したように、透過ディスプレイ17は、VRオブジェクト310を表現する3Dホログラムを表示するために設けられる。起震装置11−1と起震装置11−2との間に設けられる透過ディスプレイ17は、起震装置11−1側からは見えるが起震装置11−2側からは見えないように3Dホログラムを表示することができ、逆に、起震装置11−2側からは見えるが起震装置11−1側からは見えないように3Dホログラムを表示することができるものが望ましい。この場合、起震装置11−1と起震装置11−2との間に設けられる透過ディスプレイ17に、起震装置11−1が発生させる振動と同期させて動きを与える、起震装置11−1が発生させる振動を受ける被験者向けのVRオブジェクト310と、起震装置11−2が発生させる振動と同期させて動きを与える、起震装置11−2が発生させる振動を受ける被験者向けのVRオブジェクト310とを同時に表示することができる。
【0082】
起震装置11が発生させている振動を受けている被験者に対し、たとえば、透過ディスプレイ17に3Dホログラムを表示して表現したVRオブジェクト310が大きく揺れたり被験者に迫ってくるように飛んで来たりする様子を見せ、また、大型LEDディスプレイ16に表示した外景が大きく揺れている様子を見せることにより、さらに、2つの起震装置11に同一周期かつ互いに逆位相の振動を発生させることにより、たとえば、起震装置11が発生させている振動よりも最大振幅が大きい振動のように被験者に錯覚させることができる。なお、外景を含むVRオブジェクト310に与える動きは、たとえば、第1実施形態において
図5を参照して説明した動きである。
【0083】
図12は、地震動擬似的再現システム1Bの動作手順を示すフローチャートである。
【0084】
制御装置13の主処理部131Bは、地震動擬似的再現システム1で再現することのできる複数の地震動の中からいずれかの地震動を選択する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップB1のYES)、その選択された地震動に対応する地震動パターンデータ210Bをデータ記憶部133から読み出す(ステップB2)。
【0085】
また、主処理部131Bは、地震動の再現を開始する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップB3のYES)、第1に、読み出した地震動パターンデータ210Bに含まれる振動データ211B−1に基づき、駆動コントローラ134−1経由で起震装置11−1を制御して振動を発生させ(ステップB4)、同時に、読み出した地震動パターンデータ210Bに含まれる振動データ211B−2に基づき、駆動コントローラ134−2経由で起震装置11−2を制御して(起震装置11−1が発生させる振動と同一周期かつ逆位相の)振動を発生させる(ステップB5)。
【0086】
さらに、これと並行して、主処理部131は、第2に、読み出した地震動パターンデータ210Bに含まれる画像作成用データ212Bおよび音声作成用データ213Bに基づき、現実空間を拡張するために被験者に対して提示すべき付加情報である画像および音声を作成して、ディスプレイコントローラ135−1,135−2経由で大型LEDディスプレイ16および透過ディスプレイ17に表示し、サウンドコントローラ136経由でスピーカ15から出力する(ステップB6)。主処理部131Bは、このステップB4乃至ステップB6の処理を、地震動の再現を終了する指示が行われるまで継続する。
【0087】
そして、主処理部131Bは、地震動の再現を終了する指示をユーザインタフェース部132経由で受け付けると(ステップB6のYES)、ステップB4乃至ステップB6の処理を止め、地震動擬似的再現システム1としての一連の地震動再現動作を終了する。
【0088】
以上のように、本実施形態の地震動擬似的再現システム1Bにおいても、たとえば起震装置11のみではその物理的制約により再現不可能な長周期地震動などを擬似的に再現することが実現される。
【0089】
なお、前述の説明では、長周期地震動などを擬似的に再現することを例示したが、これに限らず、通常の地震動を体験させるにあたり、たとえば起震車などでは体験させることが不可能な地震による様々な危険要因の再現に本手法を適用することも有効である。その他、本手法は、前述した実施形態そのままに限定されず、様々に変形・応用することが可能である。
【解決手段】本発明に係る地震動擬似的再現システムは、第1パターンの振動を発生させる起震手段と、前記第1パターンよりも最大振幅が大きい第2パターンの振動を体感させるべく、前記起震手段が発生させる振動を受ける被験者に対して、少なくとも視覚要素を含む付加情報を提示する拡張現実手段と、を具備するものである。