特許第6268327号(P6268327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268327酸性ガス燃焼および発電のための硫酸カルシウムループサイクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268327
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】酸性ガス燃焼および発電のための硫酸カルシウムループサイクル
(51)【国際特許分類】
   F23C 10/01 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   F23C10/01
【請求項の数】28
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-502647(P2017-502647)
(86)(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公表番号】特表2017-522529(P2017-522529A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】US2015039018
(87)【国際公開番号】WO2016010745
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】14/334,077
(32)【優先日】2014年7月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599130449
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】オテ,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ユネス,ムーラッド
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015-195061(JP,A)
【文献】 特開2014-38609(JP,A)
【文献】 特表2011-513862(JP,A)
【文献】 特表2011-513861(JP,A)
【文献】 特表2012-513501(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0072917(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0050654(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0237404(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2610216(EP,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第2903994(FR,A1)
【文献】 特表2013-518353(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/162344(WO,A1)
【文献】 特開2003-190763(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0214106(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0025293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23C 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気反応器にてCaCOをか焼させてカルシウム系輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器から燃料反応器へと輸送するステップと、
酸性ガスを前記燃料反応器に供給するステップと、
前記燃料反応器の中に配置された前記カルシウム系輸送媒体を還元して気相酸素を提供するステップと、
還元カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器の空気で酸化させてカルシウム系酸素輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系酸素輸送媒体を前記空気反応器からライザーへと供給するステップと、
(HSのない)清浄酸性ガスを前記燃料反応器から前記ライザーに輸送するステップと、
前記ライザーの中で前記酸性ガスを燃焼させて前記還元カルシウム系輸送媒体を含有する生成物流を生成するステップと、
前記還元カルシウム系輸送媒体を前記生成物流から取り除くステップと、
前記還元カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器の空気で再酸化させて前記カルシウム系酸素輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系酸素輸送媒体を前記ライザーに再供給するステップと、
を備える、カルシウムループ燃焼を用いて硫黄の原位置除去、酸素輸送媒体の生成、および酸性ガスを燃焼させると同時に生成物流を生成するプロセス。
【請求項2】
前記カルシウム系輸送媒体に、前記燃料反応器の下部に配置された有孔板に配置された層が含まれることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記層が前記空気反応器から来るCO、水蒸気、低酸素空気、またはこれらの組み合わせからなる気流により流動化されることを特徴とする請求項2記載のプロセス。
【請求項4】
前記低酸素空気が2%〜5%のOを含有することを特徴とする請求項3記載のプロセス。
【請求項5】
カルシウム系輸送媒体がCaOであることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項6】
前記還元カルシウム系輸送媒体がCaSであることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項7】
前記カルシウム系酸素輸送媒体が前記ライザーの前記酸性ガスと反応し、前記還元カルシウム系輸送媒体を生成することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項8】
前記酸性ガスが、前記燃料反応器の底部に形成された流入口に流入する供給物となり、前記酸性ガスに存在するHSが前記カルシウム系輸送媒体と反応することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項9】
CaSOがカルシウム系酸素輸送媒体となることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項10】
前記カルシウム系酸素輸送媒体が前記ライザーの前記酸性ガスに存在するメタンと反応し、前記生成物流を生成することを特徴とする請求項1記載のプロセス
【請求項11】
前記生成物流にCOおよびHが含まれることを特徴とする請求項10記載のプロセス。
【請求項12】
前記生成物流に合成ガスが含まれることを特徴とする請求項11記載のプロセス。
【請求項13】
気固分離器を用いて前記生成物流から前記還元カルシウム系輸送媒体を除去することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項14】
前記気固分離器がサイクロンであることを特徴とする請求項13記載のプロセス。
【請求項15】
前記生成物流から前記還元カルシウム系輸送媒体を除去するステップに、
前記還元カルシウム系輸送媒体をホッパーに供給するステップと、
空気を前記ホッパーに注入して前記還元カルシウム系輸送媒体を酸化させて前記カルシウム系酸素輸送媒体を生成し、前記カルシウム系酸素輸送媒体が前記ライザーに供給されるステップと、
がさらに含まれることを特徴とする請求項13記載のプロセス。
【請求項16】
比率Ca/Sが約1.2から2.5までの間にあることを特徴とする請求項9記載のプロセス。
【請求項17】
生成物として熱と水蒸気が発生することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項18】
生成物として石こうが生成されることを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項19】
前記か焼ステップによって生成された前記カルシウム系輸送媒体の一部が前記ライザーへと供給されて前記酸性ガスに存在するHSと反応することを特徴とする請求項1記載のプロセス。
【請求項20】
空気反応器にてCaCOをか焼させてカルシウム系輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器から燃料反応器へと輸送するステップと、
酸性ガスを前記燃料反応器に供給して前記酸性ガスが前記カルシウム系輸送媒体と反応して前記カルシウム系輸送媒体が還元されるステップと、
前記燃料反応器と流体連通するライザーにカルシウム系酸素輸送媒体を注入し、前記酸性ガスが前記ライザーの中で燃焼し、還元カルシウム系輸送媒体を含有する前記生成物流が生成されるステップと、
を備え、
前記カルシウム系酸素輸送媒体を注入するステップに、前記還元カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器の空気を用いて酸化させ、前記カルシウム系酸素輸送媒体を生成しこれをライザーに供給するステップが含まれることを特徴とする、
カルシウムループ燃焼を用いて硫黄の原位置除去、酸素輸送媒体の生成、および酸性ガスを燃焼させると同時に生成物流を生成するプロセス。
【請求項21】
前記空気反応器にてCaCOをか焼させるステップによって生成されたカルシウム系輸送媒体を、前記ライザーへと注入するステップをさらに含む請求項20記載のプロセス。
【請求項22】
前記カルシウム系輸送媒体にCaOが含まれ、前記還元カルシウム系輸送媒体にCaSが含まれ、前記カルシウム系酸素輸送媒体にCaSOが含まれることを特徴とする請求項20記載のプロセス。
【請求項23】
前記カルシウム系輸送媒体にCaOが含まれ、前記還元カルシウム系輸送媒体にCaSが含まれ、前記カルシウム系酸素輸送媒体にCaSOが含まれ、前記空気反応器の中に形成されたCaOとCaSOの両方の少なくとも一部が共に前記燃料反応器と前記ライザーの両方に供給されることを特徴とする請求項21記載のプロセス。
【請求項24】
CaSOが自身の酸素を供給することにより前記燃料反応器および前記ライザーにある前記酸性ガス中のメタンと反応することを特徴とする請求項23記載のプロセス。
【請求項25】
前記空気反応器に注入されSOと反応するカルシウム系吸着剤をSOと反応させることによりCaSOを生成し、これを前記空気反応器の前記生成物流から分離させることによって、前記空気反応器の生成物流からSOを除去させるステップをさらに含む請求項22記載のプロセス。
【請求項26】
空気反応器にてCaCOをか焼させてカルシウム系輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器から燃料反応器へと輸送するステップと、
酸性ガスを前記燃料反応器に供給するステップと、
前記燃料反応器の中に配置された前記カルシウム系輸送媒体を還元するステップと、
還元カルシウム系輸送媒体を前記燃料反応器から前記空気反応器へと供給するステップと、
前記還元カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器の空気で酸化させてカルシウム系酸素輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系酸素輸送媒体を前記空気反応器からライザーへと供給するステップと、
前記酸性ガスを前記燃料反応器から前記ライザーに輸送するステップと、
前記ライザーの内部で前記酸性ガスを燃焼させて前記還元カルシウム系輸送媒体を含有する合成ガス生成物流を生成するステップと、
前記還元カルシウム系輸送媒体を前記生成物流から取り除くステップと、
前記還元カルシウム系輸送媒体を前記空気反応器の空気で再酸化させて前記カルシウム系酸素輸送媒体を生成するステップと、
前記カルシウム系酸素輸送媒体を前記ライザーに再供給するステップと、
を備える、カルシウムループ燃焼を用いて硫黄の原位置除去、カルシウム系酸素輸送媒体の生成、および酸性ガスを燃焼させると同時に合成ガスからなる生成物流を生成するプロセス。
【請求項27】
前記ライザーにて生成された前記合成ガスが複合サイクルタービンに利用されて電力が生成することを特徴とする請求項26記載のプロセス。
【請求項28】
前記空気反応器から来る前記低酸素空気を利用して、蒸気タービンから水蒸気および電気を生成することを特徴とする請求項3記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルシウム系ループ燃焼プロセスを利用した酸性ガスの燃焼から来る熱、水蒸気、電力の生成プロセスに関する。特に、本発明は酸性ガスから硫黄を原位置除去する、酸性ガスのカルシウム系ループ燃焼のプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの需要が世界中で増大するにつれて、代替エネルギー資源の需要もまた増大している。再生不能なエネルギー資源は未だ世界中で大きなエネルギー供給源を占めており、これは再生可能なエネルギー資源はこのような需要を満たすにはまだ量が少なすぎ、これら資源の開発も遅れており、また特定の地域に限られたものであるからである。確立された再生不能なエネルギー資源(発掘可能な石炭、在来型石油、天然ガス等)が主なエネルギー資源となっている今、エネルギー生産者は非在来型石油資源(シェールオイル、タールサンド、重質原油、等)や非在来型天然ガス資源(加圧帯水層および炭層のガス、等)など他の非再生エネルギー資源に着目し、今後増えてゆく需要に応えなければならない。
【0003】
このような非在来型再生不能エネルギー資源の1つに酸性ガス燃料がある。酸性ガスは他の非再生資源と比較してずっと長寿命であるので、利用されなければならないエネルギー資源の1つである。酸性ガスは無色、可燃性であって、高水準の硫化水素(HS)を含有している腐食性の天然ガスである。
【0004】
電力発電の分野において燃焼は慣用的に利用される反応で、場合によっては、酸性ガスを燃料として利用することもできる。しかしながら酸性ガスは高温・高圧のガスタービンシステム条件の下、燃焼システムの機械部品に損傷を与える虞があり、また発熱量も低い。さらに、HSが空気に触れると、大気汚染物質の一つであるSOなどの硫黄酸化物(SO)に容易に酸化される。場合によっては、ガスタービンで酸性ガスを直接燃焼させることが、ガスの組成および物理的性質によって不可能となる場合があり、特に酸性ガスのHS含有量が5〜20%を超えた場合にそうなる。このため、酸性ガスは、燃焼プロセスに特に有益となる化石燃料とは考えられてこなかった。
【0005】
しかしながら、世界的なエネルギー需要の増大により、酸性ガスをエネルギー源として使用せざるを得なくなった。未開発および開発中の酸性ガスの貯留層は世界中に数多く存在する。これらの資源を電力発電に使用するのであれば、このような利用を実現するために相当量のHSを処理する燃焼プロセスの能力が必要とされる。当然ながら、HSの経済的な打撃を抑え、酸性ガス燃料の硫黄管理をするために世界中で相当の尽力がなされている。
【0006】
これまで、酸性ガスの燃焼に伴う腐食作用および汚染を回避するため、ガス流から硫黄化合物を十分除去するために(スウィートニングとして知られている工程)酸性ガスの前処理が必要とされていた。例えば、酸性ガスをスウィートニング(HSの除去、等)するためにアミンガス処理プロセスを利用することができる。酸性ガスをスウィートニングするプロセスの最大の欠点は、プロセスが複雑で費用が嵩む点にある。
【0007】
したがって、非在来型エネルギー資源を利用してエネルギーを効率的かつ低コストで生成するプロセスに需要がある。特にエネルギー転換効率が高く、かつコスト高なHSの前処理を必要としない酸性ガス燃焼プロセスが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は電力発電に利用する生成ガスを生成する酸性ガスのカルシウム系化学ループ燃焼(CLC)のプロセスに関する。より具体的には、本発明は、少なくとも部分的な原位置HS除去と、酸素輸送媒体の生成を特徴とする酸性ガスのCLCプロセスに関する。
【0009】
ある実施例において、カルシウム系の輸送媒体(CaO、等)の層が燃料反応器下部内側に配置され、COおよび水蒸気の気流を用いて層が流動化される。流動化の後、CaOの層が燃料反応器に注入された酸性ガス供給物のHSと反応してCaSを生成し(原位置HS除去)、その後、空気反応器に運搬されて酸化される。
【0010】
空気反応器において、空気が注入されてCaSを酸化し、カルシウム系酸素輸送媒体(CaSO4、等)が生成される。さらに、空気反応器に石灰石が注入され、ここにおいて空気反応器の運転条件により、焼成してCaOおよびCOが生成される。空気反応器にて生成されたCaOは燃料反応器下部の層に還流し、空気反応器で生成されたCaSOは燃料反応器および/またはライザーへと循環可能である。
【0011】
ライザーでは、酸性ガスのCHは、COおよび水蒸気の気流において、注入されたCaSOと反応し、生成ガス流(合成ガス、等)とCaSが生成される。生成ガス流はその後気固分離器を用いてCaSから分離される。ライザーの反応から生じるCaS粒子はその後、反応ホッパーに送られ、ここでこれらの一部がCaSOに酸化される。結果生じたCaSOおよび残りのCaSは、その後、反応ホッパーから空気反応器へと運搬されて、システム全体をさらに循環する。生成ガス流は、発電システムまたはガスタービンシステム複合サイクルなど、他の関連応用分野に利用することができる。
【0012】
本発明は酸性ガスに関する他のCLCプロセスに対して際立った優位性を提供するもので、大抵のCLC酸性ガスプロセスでは、生成物流中に完全転換されないガス生成物が僅かに残ってしまうのに対して、本発明は酸性ガスの完全転換を可能にする。加えて、本発明は燃料反応器中の反応時間を削減し、これにより燃料反応器のサイズ削減が可能になり、これまでのCLCプロセスと比較してプロセスのコストを全体的に削減することができる。
【0013】
本発明のより完全な理解ならびにその数多くの特徴および利点は、以下の発明の詳細な説明および添付図面を参照することにより達成することができる。図面は本発明の一実施例のみを説明するもので、その範囲を制限する意味ではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の少なくとも1つの実施例に従ったカルシウムループ燃焼プロセスの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は酸性ガスから硫黄を原位置除去する、酸性ガスのカルシウム系化学ループ燃焼(CLC)プロセスに関する。CLCプロセスでは、固体金属酸化物酸素キャリアは燃料反応器の燃料流を酸化させるために通常使用される。これによりCOおよびHOが生成される。酸素キャリアの還元体はその後、空気反応器へと運搬され、ここで空気と接触し、最初の状態まで再酸化され、その後、さらなる燃焼反応のために燃料反応器へと戻る。
【0016】
一般に、CLCプロセスの総熱量は2つの熱状態の和、つまり酸化反応中の発熱反応と還元反応中の吸熱反応の和となり、これは慣用的な燃焼反応で放出される熱に等しい。したがって、CLCプロセスの利点の1つは、直接燃焼プロセスと同様な燃焼効率を維持しつつ、COを回収するために最小限のエネルギーしか必要としない点にある。より正確には、CLCプロセスにおけるCO回収に最小限のエネルギー損失しか発生せず、2%〜3%の能率損失でしかないと推測される。加えて、直接燃焼プロセスと比較するとCLCプロセスではNOの形成が少なく、これは酸化反応が燃料の存在しない空気反応器にて起こり、また酸化反応が1200℃未満の温度で進行するためであって、この温度を超えるとNOの形成が著しく上昇する。したがって、NOの形成が欠如することによって、CLCプロセスのCO回収が他の燃焼法と比較して安価となるが、これは回収前にCOをNOから分離させる必要がないからである。さらに、他の燃焼プロセスとは対照的に、CLCプロセスにおけるCO生成物は、余計なステップおよび器具を使用することなく、その他のガスから分離させて回収することができる。
【0017】
本願のCLCプロセスは、酸性ガスの燃焼に関連するところの、直接燃焼プロセスおよび慣用CLCプロセスに関する欠点克服のために考案された。特に、本願のカルシウム系CLCプロセスによって、燃焼反応中に酸性ガスを完全転換しかつHSを原位置除去することができる。さらに、本願のCLCプロセスは、カルシウム系ループプロセスを用いた酸性ガス供給物の燃焼により、熱、水蒸気、および/または電力を生成するために考案された。本願に関わる他の利点は、以下の明細書本文から理解されよう。
【0018】
図1は本願に従って酸性ガスのカルシウム系化学ループ燃焼を行うための例示的なシステム100を説明している。図1は本願に係るカルシウム系CLCプロセスを説明する例示的なフロースキームも同様に示している。図1のシステム100に例示された一以上の実施形態において、当該CLCシステムは少なくとも3つの異なる反応領域:つまり、燃料反応器102により定められる第一の反応領域、空気反応器104により定められる第二の反応領域、燃料反応器102と空気反応器104に作動可能に接続可能なライザー106により定められる第三の反応領域、を有することが可能である。
【0019】
燃料反応器102はあらゆる適当な形態をとることが可能で、内部で燃料等の燃焼ができるように設計されている。燃料反応器102はしたがって燃料の燃焼が進行する中空内部により定められた構造(筺体)によって定められる。燃料反応器102での燃焼のために酸素を供給する層材料(流動層)は、燃料反応器102の一部分108(図示されている下部、等)の内部に配置することができる。酸素キャリアはここに記載されるもの以外にもあらゆる異なった形態をとることができるものと理解されよう。
【0020】
燃料反応器102内部に層材料を収容・保持するためにあらゆる方法が使用可能であり、これには下部108の内部に配置された基板または支持構造に層材料を配置する方法が含まれるがこれに限定されるものではない。例えば有孔水平板を下部108に設けて、層材料をこのような有孔板に沿って設けることができる。水平板の穿孔によって水平板を通って流体が流れるようになり、これによりガス等の流体が水平板だけでなく配置された層材料を介して流れるようになる。これにより層材料が流動層として機能するようになる。層材料は燃料反応器102での燃焼用の酸素を供給する酸素キャリアとして機能する。
【0021】
一以上の実施例において、燃料反応器102の層材料はカルシウム系輸送媒体から構成することができる。実施例において、燃料反応器102のカルシウム系輸送媒体は酸化カルシウム(CaO)であり、ここにおいて「石灰」とも称される。その他の変形実施例において、燃料反応器102のカルシウム系輸送媒体層は石灰石(CaCO)から構成することもできる。カルシウム系輸送媒体とは、反応条件下で、酸素など一以上の成分を運搬することのできる反応媒体のことである。カルシウム系輸送媒体層はCOの気流または他の適当な流体流(ガス流)など、適当な流体によって流動させることができる。一以上の変形実施例において、COと水蒸気の両方を含む気流がカルシウム系輸送媒体層を流動化させるために使用される。少なくとも1つの変形実施例において、前記適当な流体には空気反応器からくる低酸素空気が含まれる。別の変形実施例では、蒸気タービン流出口における低酸素空気の一部が空気反応器へと接続され、燃料反応器の石灰層を流動化させる。この低酸素空気は2〜5%の酸素を含有可能で、燃料反応器102およびライザー106内部の反応性を高めることができる。図1を参照すると、COおよび水蒸気の気流が輸送ライン110を通って運搬され、層材料の中を自由に流れることによって燃料反応器102の下部108内部にある石灰層を流動化させるために用いられる。
【0022】
燃料反応器102の直径は好ましくはガス空塔速度に基づいて設計されるものと理解されるであろう。少なくとも一実施例によれば、燃料反応器102の底部108において望ましい流動化ガスの分布および輸送媒体の混合に必要なガス速度は、約0.15m/sから0.8m/sの間、好ましくは約0.25m/sから0.5m/sの間にある。流動ガス速度はカルシウム系輸送媒体粒子の終端速度を超えない。燃料反応器102の底部における典型的な作動温度は700℃から1200℃の間を変化する。
【0023】
一以上の変形実施例において、燃料(酸性ガス等)はカルシウム系輸送媒体層(石灰等)を含有する燃料反応器102下部に形成された流入口112へと注入される。一以上の変形実施例において、前記燃料は酸性ガス供給物である。一以上の変形実施例において、カルシウム系輸送媒体層の下流側にある燃料反応器102の位置に酸性ガスを注入可能である。ある実施例において、酸性ガスのHSが燃料反応器102の下部にあるCaO(石灰層)と反応して(原位置HS除去)還元カルシウム系輸送媒体(硫化カルシウム「CaS」、等)を生成する。得られたCaSは輸送ライン114を通って空気反応器104へと輸送されてシステム100を循環して再酸化される。一以上の変形実施例において,輸送ライン114は燃料反応器102と空気反応器104の気密性を確実にするループシール116に接続することができる。低酸素空気を用いてカルシウム系輸送媒体の層を流動化させる変形例において、低酸素空気はカルシウム系輸送媒体のHSに対する反応性を高め、以ってHS除去性能を高めることができる。
【0024】
酸性ガス供給物が石灰と反応する、酸性ガス供給物の燃料反応器102内部における滞留時間は、約1秒から800秒の間、好ましくは約100秒から500秒の間とすることができる。これらの値は本体、例示的なものに過ぎないと理解できよう。HSとCaOの反応は発熱反応であって、これは化学ループユニットの総合効率を高める。酸性ガス流は約0.1から約75%のHS濃度、好ましくは0.1から50%のHS濃度を有することができる。一以上の実施例において、Sに対するCaの比率は1〜3、好ましくは1.2〜2.5とすることができる。
【0025】
一以上の変形実施例において、空気反応器104では少なくとも2つの反応:焼成反応および酸化反応が起こる。燃料反応器102の下部108の層を形成するCaO(石灰)は、空気反応器104の中で焼成により生成される。空気反応器104で石灰を生成するため、輸送ライン118から空気反応器104へとCaCO(石灰石)を注入することができる。空気反応器104へと注入された石灰石粒子の粒子径区分は、70ミクロンから300ミクロンまでの間、選択的に100ミクロンから250ミクロンまでの間とすることができる。空気反応器104の作動温度は800℃から1300℃までの間、好ましくは850℃から1300℃までの間とすることができる。例示的な実施例において、空気反応器104内部の石灰石は、空気反応器104の作動条件(850℃を超える温度、等)によって焼成反応を起こす。このようなものとして、石灰石(CaCO)はCaO(石灰)およびCOへとか焼(分解)する。
【0026】
さらに、燃料反応器102から輸送ライン114を通って移動してきた還元カルシウム系輸送媒体(CaS)が、空気反応器104の酸素(O)と反応してカルシウム系酸素輸送媒体(CaSO)が生成され(反応条件の下で酸素を発生する)、空気反応器104で酸化反応が起こる。空気反応器104の酸化反応に必要な酸素は、輸送ライン120を介して空気反応器へと注入することができる。空気反応器104にて生成されたCaOおよびCaSO生成物はその後、燃料反応器および/またはライザーまで運ばれる。CaOおよびCaSO生成物のこの部分は輸送ライン122を介して空気反応器104から排出され、気固分離器124(サイクロン、等)に進入する。CaOおよびCaSOの固体粒子は輸送ライン126を介して気固分離器124から排出され、一方、余剰ガス(低酸素空気)は輸送ライン128を介して気固分離器124から排出される。
【0027】
輸送ライン128のCaO生成物およびCaSO生成物の一部はその後、輸送ライン130を通ってライザー106および燃料反応器102へと送られる。輸送ライン128にあるCaO生成物およびCaSO生成物の他の部分は、輸送ライン132を通って燃料反応器102の底部108へと再循環する。ある実施例において、輸送ライン132をループシール134に接続して空気反応器104と燃料反応器102の気密性を確実にすることができる。CaSOが酸素キャリアとして燃料反応器102およびライザー106を循環する機能により、酸性ガスを生成ガスへと完全転換することができる。
【0028】
一以上の変形実施例において,燃料反応器102および/またはライザー106内部の酸性ガス反応の結果、空気反応器104の中にSO副生成物が存在する場合がある。SO副生成物は、空気反応器104に導入された適当なカルシウム系吸着剤との反応によって空気反応器104から除去することができる。一以上の変形実施例において,前記吸着剤は(輸送ライン118を介して注入された)石灰石である。空気反応器104におけるSOとカルシウム吸着剤の反応によってCaSOが形成され、これはその後、燃料反応器102および/またはライザー104まで運搬される。これらの変形実施例において、空気反応器104にカルシウム系吸着剤を注入することにより、SO汚染の影響のリスクが回避される。
【0029】
既に説明したように、空気反応器104で生成されたCaSO(カルシウム系酸素輸送媒体)の一部がライザー106へと運ばれる。ライザー106では、CaSOは非金属の酸素輸送媒体、つまり酸素キャリアとして機能する。輸送ライン112から燃料反応器102へと注入された酸性ガスは、CO、水蒸気、および/または低酸素空気の流れにのって燃料反応器102からライザー106へと流れる。ライザー106において、CO,水蒸気,および/または低酸素空気の流れに存在する酸性ガスのCHとCaSOが反応して燃焼反応が起こる。この燃焼反応によってCaSおよび生成ガス流が生成され、生成ガス流はCOおよびHを含有する。一以上の変形実施例において、生成ガス流はCO、HO、N、および微量のHSから構成することも可能である。一以上の変形実施例において、前記生成ガス流は合成ガスである。一以上の変形実施例において、前記ガス流はガスタービン複合サイクルによる発電等、他の用途に使用できる。燃料反応器102の酸素キャリアの層を流動化させるために低酸素空気が用いられる変形例では、低酸素空気によりCaSOとCHの反応性を高めることができ、これにより生成ガス流(合成ガス、等)の生産性を高めることができる。ライザー106でのCaSOと、酸性ガスのCHの反応は、僅かに発熱反応であって、その結果、ライザー106の温度が上昇する。ライザーの作動温度は変化する。
【0030】
一以上の変形実施例において、燃料反応器およびライザーは共通の構造体に組み込むことが可能で、図面および明細書本文ではこれら2つの構成要素を別々に説明しているが、いくつかの実施例において、これら2つの構成要素を1つに組み込むことも本発明の範囲に入るものとする。周知の通り、ライザーの内部にはライザー流路が形成され、燃料(反応成分)として原料をライザーに添加することができる流入口(供給管、等)が通常含まれ、燃料(反応成分)はライザーにて内部に存在する他の成分(燃料反応器内部での燃焼の結果生じることがある)と反応する。
【0031】
CaSおよび生成物流は輸送ライン136を通ってライザー106を排出する。CaSおよび生成ガス流はそれから第2の気固分離器138(サイクロン、等)へと送られ、ここでCaS粒子を生成ガス流から分離させることができる。生成ガスは輸送ライン140を通って第2の気固分離器138を排出し、生成ガスはシステムの外に送られる。生成ガス流との分離後、CaS粒子は分離器138を排出し、輸送ライン142を通って、高密度の流動層にて作動する反応ホッパー144へと輸送される。
【0032】
一以上の変形実施例において、空気を反応ホッパー144に注入し、少なくとも一部のCaSがCaSOに再酸化されるようにすることができる。これらの変形実施例において、反応ホッパー144に空気を注入することは、CaSOの流動性をライザーまで維持することにも役立つ。さらに、システム100の圧力バランスを保つため、反応ホッパー144に存在するCaSO生成物の一部を、回収ライン146を通ってシステム100から保管リアクター148に移動させることができる。
【0033】
反応ホッパー144にある残りのCaS粒子は、それから輸送ライン150(ループシール152に接続)から空気反応器104に戻され、CaSOに再酸化され、以ってカルシウムループが完成する。反応ホッパー144でCaSOが生成される変形実施例では、CaSO粒子を、CaS粒子と共に輸送ライン150から空気反応器104へと移動させることができる。
【0034】
実施例によっては、システム100により副生成物として熱と水蒸気を発生させることができる。熱および水蒸気は空気反応器の流出口気流から発生させることができる。空気反応器から排出される1200℃の高温低酸素空気は、熱と水蒸気を生成し、また蒸気タービンを用いて電力を発生させるために使用することができる。
【0035】
一以上の変形実施例において、システム100は副生成物として石こう(CaSO)を生成することもできる。空気反応器の底において、システムから石こうを排出させることができる。嵩、熱およびシステムの圧力バランスを制御することにより、ループから抽出される石こうの量が調節される。したがって、少なくとも1つの変形実施例において、石こうはCSABセメントの原材料となるため、本システムをセメント製造のプロセスに接続させることができる。本システムをセメント製造のプロセスに接続することは、通常は両プロセスに関連するCOの総排出量が削減されるために有益であり、コスト削減につながる。
【実施例】
【0036】
以下の実施例は本発明の実施例を詳しく説明するために提供され、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【0037】
この実施例において、燃料反応器102の下部108に配置されたカルシウム系輸送媒体は石灰石であり、2750kg/mの密度を有する。燃料反応器に注入される酸性ガス供給物は以下の組成(質量%)を有する:CH(58.8%),HS(20.9%),N(13%),CO(7.3%)。流動層反応器に必要な石灰の量は、反応器に対する石灰の流量と一緒に計算される。石灰は、酸性ガスのHS含有量を均衡値397ppm、流入体積分率yHS=0.209まで減少させるが、これは99.81%の平均硫黄保持に相当する。
【0038】
ガスの完全転換に要する算出時間は950℃、大気圧で約360秒である。0.7の粒子転換に必要な滞留時間は、石灰(CaO)流および在庫量の存在下で420秒である。450MWthを生成するために用いられる酸性ガスの全流量は約60,646Kg/hである。酸性ガス中の一定量のHSを処理するために空気反応器に注入される石灰石の流量は、約21.45kg/sである。これに相当する石灰(CaO)の流量は約12kg/sである。石灰層(燃料器内部、等)の位置での温度は約700℃から約1200℃の間、好ましくは約850℃から約1040℃までの間にある。ライザーの流出口温度は約1050℃まで上昇する。
【0039】
Sに対するCaの比率はおよそ1から3までの間にあり、好ましくはおよそ1.2から2.5までの間にある。空気反応器から再循環されるCaSOは約1.83トン/秒である。ライザーでは、再循環されたCaSOは酸性ガスのCHと反応して以下の組成比(質量%)を有する合成ガスを生成する:CO(27.0%),H(55.1%),CO(3.4%),HO(8.5%),N(6.1%),HS(397.0ppm)。
【0040】
すでに説明した通り、本発明は原位置HS除去、酸素輸送媒体の生成、合成ガスの生成、を含む酸性ガスのカルシウムループ燃焼に関する。本発明の方法によれば、従来のCLCプロセスとは対照的に、酸性ガスの完全転換が可能になる。本発明の方法によって燃料反応器における反応時間が短くなり、これにより燃料反応器の寸法と化学ループ装置の総コストを下げることができる。加えて、本発明の方法によって酸性ガスと石灰層が燃料反応器内部で発熱反応することが可能となり、これによりカルシウムループ装置の全体的な能率が上がる。
【0041】
これまで特定の実施形態および実施例を用いて本発明の説明を行ってきたが、当業者に明白な数多くの変形実施例および改良実施例が存在する。そのため、前述の変形実施例および実施例はあらゆる点で例示的なものと考えられ、限定して解釈してはならない。特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。したがって、本発明の範囲は、添付のクレームにより示されるものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。
図1