【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、ナノメートル二酸化チタンを調製するための方法であって、以下の工程:
(1)塩酸を用いてイルメナイト粉末を溶出して、粗鉱溶液を得ること;
(2)粗鉱溶液中の鉄元素を除去して、チタンイオンを含有する最終溶液を得ること;
(3)最終溶液を加水分解のために加熱して、二酸化チタンを含有する加水分解生成物を得ること;及び
(4)得られた加水分解生成物を仮焼して、ナノメートル二酸化チタンを得ること、
を含む、該方法を提供する。
【0010】
工程(1)が、鉱石を溶出するための工程であることは、容易に理解される。本発明では、塩酸を用いて鉱石を溶出することにより四塩化チタンが取得され得、それはさらに熱加水分解に供せられて二酸化チタンが得られる。加水分解により得られた二酸化チタンは、非常にひび割れし易くかつ仮焼後に分散して、ナノメートル二酸化チタン粉末を生じる。本発明により提供された方法は、設備に高い要求性を課さず、かつ高純度及び高品質のナノメートル二酸化チタン粉末を製造し得る。
【0011】
本発明では、工程(1)において、酸に対する鉱石の比(即ち、塩酸の重量に対するイルメナイト粉末の重量の比)の具体値は、特に制限されない。充分量の塩酸を用いることで、鉱石溶出率及び鉱石溶出度の双方が増大され得;同時に、鉱石溶出中のチタンの加水分解が防止され得て、チタンの溶解速度が確保されるようにした。本発明の具体的な一実施形態として、塩酸の量は、イルメナイト中の酸可溶性物質の量、及びそれにより消費される塩化水素の量、並びに鉱石溶出の最後におけるチタン溶液中の所望の塩酸濃度に従って計算され得る。一般に、鉱石溶出の最後に約9mol/Lの塩酸があることが所望される。即ち、塩酸の質量濃度は30%〜38%である。
【0012】
イルメナイト粉末中の鉄濃度が高すぎる場合、鉱石溶出の間に高い酸性度が塩化第二鉄の沈殿を引き起こすこととなり、それ故溶解速度は低減され、かつ沈殿した塩化第二鉄は濾過により除去されることとなる。それ故、以下の因子:イルメナイトの組成、酸の濃度、及び浸出温度、が一緒に考慮されねばならない。一般に、鉱石対酸の比は、1:3〜4の範囲内であり、鉱石溶出のための温度は、60℃と100℃の間であり、かつ鉱石溶出のための時間は、4時間と6時間の間である。
【0013】
イルメナイト粉末の粒径が小さい程、鉱石溶出中の溶出速度は大きい。好ましくは、イルメナイト粉末の粒径は、300μmであり得、その場合、鉱石溶出率は90%以上に達し得る。
【0014】
低濃度の塩酸が使用される場合、所望の溶出率は鉱石溶出を反復して行うことにより得られ得る。
【0015】
コストを節約するため、本発明の塩酸は回収され得る。回収された塩酸は、塩化水素による富化後に、次のナノメートル二酸化チタン調製プロセスにおいて再使用され得る。
【0016】
本発明では、粗鉱溶液中の鉄元素を除去するための具体的な方法は、粗鉱溶液中の鉄元素が、除去可能でありかつ最終的に得られたナノメートル二酸化チタン粉末中に残留しない限り、特に制限されない。鉱石溶出は、工程(1)において塩酸を用いて60と100℃の間で実施されることから、粗鉱溶液中に第一鉄イオンが存在する。コストを節約するため、鉄元素は冷却法により除去され得る。特に、工程(2)は:
(2a)塩化第一鉄の結晶化:工程(1)で得られた粗鉱溶液を冷却して結晶塩化第一鉄四水和物を得ること、及び濾過により結晶塩化第一鉄四水和物を分離して第1溶液を得ること;
(2b)酸化:第1溶液中に残留する塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化して第2溶液を得ること;
(2c)抽出:第2溶液に対し溶媒抽出を実施して、第二鉄イオンを含有する脱離液と、及びチタンイオンを含有するラフィネートとを得ること;及び
(2d)ケイ素の除去:ラフィネートからケイ素を除去して最終溶液を得ること
を含み得る。
【0017】
イルメナイトは通常、第一鉄イオン及び第二鉄イオンを含有し、それ故粗鉱溶液中には第一鉄イオン及び第二鉄イオンの双方がある。工程(2c)における溶媒抽出の負荷を低減する目的で、殆どの第一鉄は工程(2a)における結晶化により除去されている。塩化第一鉄四水和物結晶は、粗鉱溶液が0〜4℃に冷却された場合に沈殿され得る。本発明では、説明のため、工程(2a)後に得られた溶液は、第1溶液と称される。第1溶液中の結晶塩化第一鉄四水和物は、濾過により分離され得る。工程(2a)では、塩化水素を適切に注入して塩酸の濃度を増大することにより、第一鉄が最大範囲まで結晶化されることとなり、得られた結晶塩化第一鉄四水和物は、高温下の加水分解により、塩酸及び酸化鉄を産生し得る。得られた塩酸は、塩化水素を投入することにより富化され得て、次のナノメートル二酸化チタン粉末の調製プロセスにおいて再使用されるようにし、加水分解により得られた酸化鉄は、製鋼所の製鋼のための原料として使用され得る。したがって、本発明において提供されたナノメートル二酸化チタン調製のための方法は、生産コストをさらに低減し得ることが見て取れる。
【0018】
好ましくは工程(2a)においては、工程(1)で得られた粗鉱溶液は、0〜4℃に冷却される。
【0019】
塩化第一鉄の結晶化後、第1溶液はなお少量の第一鉄イオンを含有しており、これは第二鉄イオンに酸化され得、そして次に抽出法により第1溶液から除去されて、第2溶液を生じるようにする。工程(2b)では、酸化剤は、塩素ガス、過酸化水素、及び塩素酸ナトリウムのいずれか1つから選択され得る。完全な抽出を行うためには、第二鉄イオンの完全な酸化が非常に重要であり、このことはオンライン検出及びコントロールにより実現され得る。
【0020】
工程(4)で得られたナノメートル二酸化チタン粉末のタイプは、工程(2c)において抽出剤のタイプ及び抽出の時間を選択することによりコントロールされ得る。チタン元素及び第二鉄元素は、抽出により分離され得る。
【0021】
第二鉄イオンを含有する脱離液、及びチタンイオンを含有するラフィネートは、抽出剤を用いて第2溶液の抽出を行うことにより取得され得る。
【0022】
工程(2c)における抽出プロセスは、溶媒抽出であり、それ故、抽出剤の選択及び組成物は、その抽出能力、選択性、及び層分離速度の効果が大きいが故に重要である。さらに、抽出温度は抽出油相の粘度変化を引き起こすものであり、このことは、抽出剤の抽出能力、選択性、及び層分離速度に著しく影響を及ぼすであろう。一般に、抽出温度は30℃とされる。抽出工程の油−水比は、1〜2の間で選択可能であろう。
【0023】
最終的に得られたナノメートル二酸化チタン粉末のタイプは、抽出剤の成分に依存する。例えば、抽出剤がアミン抽出剤を含有する有機油相である場合、ルチル型二酸化チタンが、3〜3段階の連続抽出後に取得可能であろう。
【0024】
ルチル型二酸化チタンは、工程(3)の加水分解の工程後に既に得られている。工程(4)における仮焼は、分子間の水及び残留塩素を除去し得て、水及び塩素のないナノメートル二酸化チタン粉末が得られるようにする。かかる実施形態においては、得られたルチル型二酸化チタンは99.5%までの純度、及び10〜40nmの粒径を有する。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態として、アミン抽出剤は、一般式R
1R
2R
3N[式中、R
1、R
2、及びR
3、は、8〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキルである]をもつ第三級アミンである。
【0026】
アミン抽出剤に加えて、アミン抽出剤を含有する有機油相はさらに希釈剤を含み得る。希釈剤は、ケロシン又はアルコール溶媒から選択され得る。さらに、アルコール溶媒はオクタノール又はデカノールであり得る。各成分の割合は適用範囲が広く、かつ決定的なものではない。
【0027】
チタンイオン及び少量の鉄イオンに加えて、チタンイオンを含有するラフィネート相はまた、ケイ素及びリンなどの、加水分解生成物の純度に影響を及ぼす他の成分も含有する。
【0028】
好ましくは、工程(2)はさらに:(2d)ケイ素の除去:ラフィネート中のケイ素を除去して最終溶液を得るようにすること、を含みうる。ケイ素は、ゲル化プロセスにより共に凝集され得、次いで濾過されて、最終溶液を生じる。
【0029】
工程(2c)を調整することにより、アナターゼ型の二酸化チタン粉末が工程(4)において得られ得る。具体的には、工程(2c)は:
(2c
1)第1の溶媒抽出:アミン含有抽出剤を用いた有機油相により3〜5段階の連続抽出を行って、第二鉄イオンを含有する脱離液と、及びチタンイオンを含有するラフィネートとを得ること;及び
(2c
2)第2の溶媒抽出:有機リン抽出剤を含有する油相を用いて、第1の溶媒抽出から得られたチタンイオンを含有するラフィネートの第2の抽出を行って、油相中にチタンイオンを含有するラフィネートと、水相中に塩酸を含有する脱離液とを得るようにすることであって、これにおいて抽出プロセスが3〜5段階の連続抽出であること、
を含み得る。
【0030】
かかる実施形態においては、工程(2c
1)は、ルチル型二酸化チタン粉末を調製する工程(2c)と同じであり、これは再度詳細には記載しない。工程(2d)では、工程(2c
2)で得られた、チタンイオンを含有するラフィネート中のケイ素が除去される。
【0031】
工程(2c
2)では、有機リン抽出剤は、有機リン化合物又はその混合物であって、それは一般式R
1R
2R
3PO[式中、R
1、R
2、及びR
3、は、直鎖又は分枝鎖アルキルであり、かつR
1、R
2、及びR
3の炭素原子の総数は12より多い]を有する。工程(2c
2)において、有機リン抽出剤を含有する油相が、さらに希釈剤を含むことは容易に理解され、これはケロシン又はアルコール溶媒から選択され得る。さらに、アルコール溶媒は、オクタノール又はデカノールであり得る。各成分の割合は適用範囲が広く、かつ決定的なものではない。
【0032】
工程(2c
2)で得られた、塩酸を含有する水相は、ナノメートル二酸化チタン粉末を調製するべく、富化後に次の鉱石溶出工程において使用され得、これにより生産コストが低減される。
【0033】
工程(2c
2)で得られた、チタンイオンを含有するラフィネートは、アナターゼ型二酸化チタンを取得するべく加水分解され得る。仮焼後、得られたアナターゼ型の二酸化チタン粉末は、99.8〜99.9%の純度及び10〜40nmの粒径を有し得る。
【0034】
加水分解のための最終溶液を加熱する工程(3)においては、最終溶液の酸性度を調整し、次いで加水分解を行うことが望ましい。
【0035】
具体的には、工程(3)は:
(3a)工程(2d)において得られた最終溶液を加水分解のために加熱することであって、これにおいて、加水分解温度が80〜110℃であり得ること、及び
(3b)工程(3a)において得られた加水分解生成物の酸洗浄及び脱イオン水洗浄を実施して、二酸化チタン粉末を得るようにすること
を含みうる。
【0036】
工程(3a)の加水分解が完了すれば、加水分解生成物、二酸化チタン及び低濃度の塩酸が、濾過により得られ得る。この工程において得られた低濃度の塩酸は、富化後に、ナノメートル二酸化チタン粉末を調製するための次の鉱石溶出工程においてさらに使用され得る。
【0037】
工程(3a)後、濾過により得られた加水分解生成物は、一定量の加水分解母液を含有しており、このことは加水分解生成物中に不純物を残す。加水分解生成物中の不純物を除去するため、それは工程(3b)において洗浄される。本発明においては、洗浄液の量を最大限減らすべく、希塩酸及び脱イオン水が連続的に洗浄に使用される。
【0038】
工程(3)の開始前に、最終溶液は、二酸化チタンの結晶品質に影響を及ぼすこととなる、最終溶液中に存在する他の懸濁物質による結晶化中心の形成を防止するべく、精密濾過されるべきである。
【0039】
製品品質の要求に合致するため、加水分解条件は適宜にコントロールされるべきである。例えば、最終溶液は、時には濃縮される必要がある。
【0040】
加水分解の方法は、蒸発による加水分解、温度をコントロールした加熱による加水分解、その他から選択され得る。
【0041】
加水分解条件は、加水分解生成物の品質に著しく影響を及ぼし、これにおいて、加水分解生成物の品質に影響を及ぼす加水分解条件は、主として酸性度、最終溶液中のチタンイオンの濃度、加水分解温度、昇温速度、加水分解の温度保持時間、種結晶の量及び質を含む。本発明では、上記の加水分解条件は、製品品質の様々な要求に従って選択的にコントロールされ得る。
【0042】
本方法では、工程(3)は、自己発生性種晶を用いた強制加熱による加水分解法において行われ、最終的に得られるナノメートル二酸化チタン粉末の品質は、他の条件を調整することによりコントロールされる。一般に加水分解は、最終溶液の臨界加水分解温度が加水分解生成物の品質にとり非常に重要であることから、還流下に行われる。
【0043】
乾燥ナノメートル二酸化チタン粉末を得る目的で、工程(4)は、好ましくは:
(4a)工程(3)で得られた二酸化チタン粉末を、200〜300℃の乾燥温度下で乾燥すること;及び
(4b)工程(4a)で得られた生成物を、700〜800℃の仮焼温度下で仮焼すること
を含み得る。
【0044】
上記の加水分解生成物は、既にルチル型ナノメートル二酸化チタン又はアナターゼ型ナノメートル二酸化チタンであり、これらはなお乾燥及び仮焼の工程を受ける必要がある。
【0045】
200〜300℃下で乾燥することにより、加水分解された二酸化チタン粉末の分子間水が除去されて、水のない二酸化チタンを得ることが可能である。乾燥二酸化チタン粉末の粒径は、仮焼により増加することとなるが、かかる増加は一定の温度範囲においては顕著ではない。仮焼温度が高すぎれば、粒子は焼結されるであろう。したがって、仮焼温度は厳密にコントロールされねばならない。好ましくは、工程(4b)において、仮焼温度は800〜900℃であり、これは、ナノメートル二酸化チタン粒子の過剰な成長又は焼結を防止するばかりでなく、ナノメートル二酸化チタン粉末中の塩素濃度を低下させるものでもある。
【0046】
当然、工程(4)はまた、工程(3)で得られた生成物を800〜900℃の仮焼温度下で直接仮焼することも含み得る。
【0047】
良好な分散性をもつナノメートル二酸化チタン粉末を得るためには、好ましくは、方法はまた:(5)工程(4)で得られた生成物を粉砕して、分散されたナノメートル二酸化チタン粉末を得ること、も含み得る。
【0048】
工程(4)で得られた生成物を破砕することは容易であり、良好な分散性をもつ二酸化チタン粉末が得られる。
【0049】
本発明は、以下の利点を有する:
1.原料が容易に入手でき、低品質のイルメナイトであってもよく、それは製鋼に使用されるものであって、チタンの存在が高炉の壁付着を引き起こすものであることから適切には機能しないが、本発明においては使用可能であり、かつその価格は通常のイルメナイトの価格の半分にすぎないこと;
2.製造中に低い反応温度(100℃以下)が適用されることから、エネルギー消費が小さいこと;
3.ルチル型二酸化チタン及びアナターゼ型二酸化チタンの双方が製造可能であり、かつルチル型製品は、直接加水分解により仮焼なしに取得可能であること;
4.製品が99.5〜99.9%の高純度であること;
5.粒径が小さく、粒径の分布が狭く、かつ分散性が良好であること;
6.反応条件が穏やかであり、かつプロセスがコントロールされ易いこと;
7.装置が単純であり、かつ投資コストが低いこと;
8.鉱石溶出のフィルター残渣が建築材料に使用され、塩酸は分離された塩化第二鉄の加水分解により回収され、得られた酸化鉄はグループ会社で製鋼の原料として使用され、他の材料はリサイクル可能であり、かつ何ら排出物がないこと;
9.本発明の一つの明白な利点が、塩化水素の使用であって、このことが、鉱石溶解における溶出率を98%まで上昇させると同時に、回収された低濃度の塩酸を富化して、そのフル活用を実現させること;及び
10.本発明の別の明白な特徴は、二酸化チタンにより良好な純度を持たせる溶媒抽出を適用することである。本発明は、試験生産を完了しており、実現可能と証明され、したがって明らかな利点をもつ。
【0050】
本発明のさらなる理解を提供しかつ本明細書の一部を構成する添付の図面は、以下の具体的な実施形態と一緒に本発明を例示することを意図したものであり、本発明を制限することを意図したものではない。