(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、このような空回り防止や抜け防止についての機能のさらなる向上が求められている。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、空回り防止や抜け防止についての機能も向上した、インサートカラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインサートカラーは、樹脂部材又は金属部材に埋め込まれる金属製のインサートカラーにおいて、
金属板が曲げ加工によって円筒状に成形されてなるカラー本体を有し、
前記カラー本体の外周面には、開口形状が底面形状より大となる角錐台形状の凹部、又は上端面形状が底形状より小となる角錐台形状の凸部が、前記カラー本体の高さ方向及び周方向に沿って規則的に配設されていることを特徴とする。
【0007】
このインサートカラーによれば、カラー本体の外周面に、角錐台形状の凹部又は凸部を、前記カラー本体の高さ方向及び周方向に沿って規則的に配設しているので、これが埋め込まれる樹脂部材や金属部材に対して、周方向への空回りや組付け方向への抜けがより確実に防止される。
【0008】
また、前記インサートカラーにおいて、前記凹部又は凸部は、四角錐台形状であることが好ましい。
その場合に、前記凹部は、前記開口形状の各辺が1mm以上2mm以下であり、深さが0.15mm以上0.8mm以下であり、各内側面の底面に対する傾斜角が30°以上90°未満である、又は、前記凸部は、前記底形状の各辺が1mm以上2mm以下であり、高さが0.15mm以上0.8mm以下であり、外側面のカラー本体外周面に対する傾斜角が30°以上90°未満であることが好ましい。
このようにすれば、後述する実験結果からもわかるように、これが埋め込まれる樹脂部材や金属部材に対して、周方向への空回りや組付け方向への抜けがより確実に防止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインサートカラーにあっては、空回り防止や抜け防止についての機能が向上しているので、例えばこのインサートカラーを樹脂部材に埋め込むことにより、部材間をより強固に締結することができる。また、金属部材に対して埋め込んでも、同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明のインサートカラーをより詳しく説明する。
図1(a)、(b)は、本発明のインサートカラーの一実施形態の概略構成を示す図であり、(a)は一部を切り欠いた斜視図、(b)は外周面側を示す展開図である。これらの図において符号1はインサートカラーであり、このインサートカラー1は、樹脂部材又は金属部材に埋め込まれる金属製のものである。
【0012】
このインサートカラー1は、
図1(a)に示すように円筒状のカラー本体2と、カラー本体2の外周面に形成された複数の凹部3と、から構成されている。
カラー本体2は、
図1(b)に示す金属板2aが曲げ加工によって円筒状に成形されたものである。
【0013】
金属板2aは、例えば冷延鋼板にニッケルめっき処理が施された金属平板が、所定寸法の短冊状(長細い矩形状)に打ち抜き加工され、あるいは切り出されて形成されたものである。この金属板2aには、
図1(b)に示すようにその一方の面、すなわち外周面となる側の面に、複数の凹部3が形成されている。
【0014】
図1(b)に示す複数の凹部3は、金属板2aに対して潰し加工(プレス成型)されることで形成されたもので、金属板2aの短辺方向及び長辺方向に沿って規則的に配設されている。このような構成によって凹部3は、金属板2aがその長辺方向に沿って曲げられ、それぞれの短辺が突き合わされた際、カラー本体2の高さ方向及び周方向に沿って規則的に配設されたものとなる。
【0015】
凹部3は、開口部3aの形状(開口形状)が底面の形状(底面形状)より大となる角錐台形状のもので、本実施形態では四角錐台形状に形成されている。具体的には、カラー本体2の要部側断面図である
図2(a)に示すように、開口部3aの形状の各辺の長さLが1mm以上2mm以下であり、深さdが0.15mm以上0.8mm以下であり、各内側面3bの底面3cに対する傾斜角θが30°以上90°未満であるのが好ましい。ただし、本明細書においては、
図2(a)に示すように底面3cの延長面に対する各内側面3bの傾斜角度を、傾斜角θとして定義している。
【0016】
開口部3aの形状や底面3cの形状としては、四角形(矩形)であれば、長方形でも正方形でもよく、菱形や平行四辺形などであってもよい。長方形や平行四辺形の場合には、長辺と短辺のいずれの長さも、1mm以上2mm以下であるのが好ましい。本実施形態では、開口部3aの形状及び底面3cの形状を正方形としている。
【0017】
なお、カラー本体2の厚さ、すなわち金属板2aの厚さ(凹部3が形成された箇所以外の部位での厚さ)は、インサートカラー1に挿通されるボルト(雄ネジ)のサイズ(ネジサイズ)に応じて適宜に設定される。また、凹部3の前記深さdは、カラー本体2の厚さ、すなわち金属板2aの厚さ(凹部3が形成された箇所以外の部位での厚さ)に応じて適宜に設定される。例えば、ネジサイズ、インサートカラー1の厚さ(金属板2aの厚さ)、凹部3の深さdの関係は、以下の通りである。
ネジサイズ 金属板2aの厚さ 凹部3の深さd
・M2.6 0.5〜1.3mm 0.15〜0.30mm
・M3 0.5〜1.3mm 0.15〜0.30mm
・M4 0.7〜1.5mm 0.20〜0.30mm
・M5 1.0〜2.0mm 0.20〜0.40mm
・M6 1.0〜2.0mm 0.20〜0.50mm
・M8 1.5〜2.8mm 0.20〜0.80mm
【0018】
そして、このようにして設定される凹部3の深さdにさらに対応して、前記傾斜角θが30°以上90°未満に設定される。30°未満では、インサートカラー1が埋め込まれる部材に対しての、引き抜き強度や回転トルクが小さくなり、抜け防止や空回り防止についての機能が充分に得られるなくなるおそれがある。また、90°以上になると、潰し加工によって凹部3を形成した後の型抜きができなくなり、加工が困難になる。
【0019】
また、このような深さdや傾斜角θを満足するように、開口部3aの各辺の長さLが1mm以上2mm以下の範囲で適宜に設定される。このようにして開口部3aの各辺の長さL、凹部3の深さd、傾斜角θを前記各範囲内に設定することにより、該凹部3はインサートカラー1が埋め込まれる樹脂部材や金属部材に対して充分な強度で結合(係止)し、その周方向への空回りや組付け方向への抜けを防止するものとなる。
【0020】
このような形状・寸法の凹部3は、
図1(b)の展開図に示すように、例えば金属板2aの短辺方向(カラー本体2の高さ方向)に沿って等間隔で3列、また金属板2aの長辺方向(カラー本体2の周方向)に沿って等間隔で9列形成配置されている。すなわち、凹部3は、カラー本体2の外周面に、縦横に規則的に配設されたものとなっている。このように凹部3を規則的に配設することにより、該凹部3はインサートカラー1が埋め込まれる樹脂部材や金属部材に対して、その周方向への空回りや組付け方向への抜けをより確実に防止するものとなる。なお、凹部3の配列については、例えばカラー本体2の大きさ、すなわち金属板2aの大きさや、その厚さ等に応じて適宜に設定される。
【0021】
このような構成のインサートカラー1を形成するには、まず、前述したように金属平板から、打ち抜き加工によって所定寸法の短冊状の金属板を形成する。次に、この金属板の一方の面に、
図1(b)に示すように複数の凹部3を潰し加工(プレス成形)で形成し、規則的に配置する。これにより、金属板2aが得られる。なお、予め金属平板に潰し加工(プレス成形)を行って凹部3を形成し、その後、打ち抜き加工によって所定寸法の短冊状の金属板2aを形成するようにしてもよい。
【0022】
次いで、前記金属板2aを曲げ加工によってその長辺方向に曲げ、それぞれの短辺を突き合わせて円筒状に形成することにより、インサートカラー1を得る。このように曲げ加工によって円筒状に形成することで、凹部3は、カラー本体2の高さ方向及び周方向に沿って規則的に配設されたもの、すなわち縦横に配置されたものとなる。
【0023】
このような構成のインサートカラー1は、例えば
図3に示すように、外装用のカバーなどとして用いられる樹脂部材4のボルト挿通孔5の周囲にインサート成形によって埋め込まれる。インサート成形とは、インサートカラー1を例えば射出成形型などの型内に配置した状態で樹脂を流し込んで成形する方法である。
【0024】
インサートカラー1の高さは、例えば該インサートカラー1が埋設される樹脂部材4の厚さと同等に設定されており、したがってその両側の開口は、樹脂部材4の表面及び裏面にそれぞれ面一となるように配置されている。このようにインサートカラー1を樹脂部材4に埋め込むことにより、この樹脂部材4を、ボルト(雄ネジ)6によって金属部材7に高強度で固定することが可能になる。
【0025】
すなわち、ボルト6をインサートカラー1の内部孔(ボルト挿通孔)1aに挿通し、さらにこのボルト6を、金属部材7に形成された雌ネジ8に螺合する。これにより、ボルト6によって樹脂部材4を金属部材7に固定することができる。
【0026】
本実施形態のインサートカラー1にあっては、その外周面に四角錐台形状の凹部3を規則的に配設しているので、該インサートカラー1(カラー本体2)の外周面と樹脂部材4との間の結合力が増加し、これによってインサートカラー1が埋め込まれる樹脂部材4に対して結合力が高くなり、したがって周方向への空回りや組付け方向への抜けがより確実に防止されたものとなる。
【0027】
また、金属板2aを円筒状に成形することによってインサートカラー1を形成しているので、例えば丸棒状の材料から孔をあけて円筒状に形成する場合に比べ、材料の使用効率を格段に高めることができ、さらに、加工に要する時間も短縮することができる。したがって、コストの低減化を図ることができる。
【0028】
「実験例」
本発明のインサートカラー1として、凹部3を、
図1(b)に示すように3列×9列に形成したものを用意した。凹部3は正四角錐台形状であり、
図2(a)に示す開口部3aの各辺の長さLを1.6mm、深さdを0.36mm、傾斜角θを74.5°とした。なお、インサートカラー1の外径は8.5mm、高さは10mmとした。
このインサートカラー1を、インサート成形によってPPS[フォートロン]製で高さ10mm、一辺の長さが25mmの正四角柱状の樹脂部材4中に埋め込み、一体化して試料Aとした。
【0029】
この試料Aを、
図4に示すように孔9を有する台10上に置き、インサートカラー1を孔9上に配置した。その後、丸ピン11をインサートカラー1の上に当接させ、この丸ピン11に力Fをかけ、かつその強度を徐々に高めていき、インサートカラー1が樹脂部材4から抜けるときの強度(引き抜き強度)を測定した。
また、同様にして用意した試料Aに対し、そのインサートカラー1にスリットを入れて試料Bとした。そして、この試料Bのスリットにトルク計の測定子を嵌め込み、この測定子に回転トルクを加えていき、インサートカラー1が回転し始める回転トルクを測定した。
【0030】
また、比較のため、
図5(a)〜(c)の展開図に示す凹部を有したインサートカラーについて、前記インサートカラー1の場合と同様にして試料A1〜A3、試料B1〜B3を作製し、前記の引き抜き強度の測定、回転トルクの測定をそれぞれ行った。
図5(a)に示す凹部41は、開口部を正四角形とする正四角錐形状のもので、開口部の各辺の長さLを1.76mm、深さdを0.36mmとしている。このような凹部41を形成したインサートカラーを前記試料A、試料Bの作製と同様にしてインサート成形し、得られた樹脂部材を、試料A1、試料B1とした。なお、本例のインサートカラーの外径寸法については、前記インサートカラー1と同じにしている。
【0031】
図5(b)に示す凹部42は、開口部を正四角形とする正四角錐台形状のもので、開口部の各辺の長さLを1.76mm、深さdを0.36mm、傾斜角θを26.3°としている。このような凹部42を形成したインサートカラーを前記試料A、試料Bの作製と同様にしてインサート成形し、得られた樹脂部材を、試料A2、試料B2とした。なお、本例のインサートカラーの外径寸法については、前記インサートカラー1と同じにしている。
【0032】
図5(c)に示す凹部43は、本実験例における前記インサートカラー1の凹部3と同じ形状としている。ただし、この
図5(c)に示したインサートカラーでは、前記凹部3とは別に、金属板の長辺方向に対して斜めに延び、したがって円筒状に成形された際に螺旋状となる斜め溝12を形成した。この斜め溝12は、このインサートカラーに挿通される雄ネジ(ボルト)に対して逆ネジ方向に傾斜して形成されており、したがってこのインサートカラーが雄ネジの回転によって連れ回りし始める際に、これに抗するように形成されている。このような凹部および斜め溝12を形成したインサートカラーを前記試料A、試料Bの作製と同様にしてインサート成形し、得られた樹脂部材を、試料A3、試料B3とした。なお、本例のインサートカラーの外径寸法については、前記インサートカラー1と同じにしている。
【0033】
以上のようにして、各試料A、A1〜A3、試料B、B1〜B3についてそれぞれ引き抜き強度、回転トルクの測定をそれぞれ行った。得られた結果を以下に示す。
引き抜き強度 回転トルク
・試料A /試料B 523.9Kg 19.92N・m
・試料A1/試料B1 283.2Kg 10.63N・m
・試料A2/試料B2 346.0Kg 13.62N・m
・試料A3/試料B3 446.0Kg 12.94N・m
【0034】
以上の結果より、本発明のインサートカラー1(試料A、試料B)は、樹脂部材からの引き抜き強度、回転し始める回転トルクが、共に比較例(試料A1〜A3、試料B1〜B3)より高いことが分かった。したがって、本発明のインサートカラー1によれば、周方向への空回りや組付け方向への抜けがより確実に防止されることが確認された。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態ではカラー本体2の外周面に四角錐台形状の凹部3を設けたが、これに代えて、上端面形状が底形状より小となる角錐台形状の凸部を、カラー本体2の高さ方向及び周方向に沿って規則的に配設してもよい。規則的な配置については、凹部3の場合と同様とされる。
【0036】
また、凸部の具体的形状としては四角錐台形状が好ましい。その場合に、例えば
図2(b)に示すように、底形状の各辺の長さLが1mm以上2mm以下であり、高さhが0.15mm以上0.8mm以下であり、外側面のカラー本体外周面に対する傾斜角θが30°以上90°未満であるのが好ましい。ただし、本明細書においては、
図2(b)に示すようにカラー本体2の外面の、凸部13の底側への延長面に対する各外側面13aの傾斜角度を、傾斜角θとして定義している。
上端面13bの形状や底形状としては、四角形(矩形)であれば、長方形でも正方形でもよく、菱形や平行四辺形などであってもよい。長方形や平行四辺形の場合には、長辺と短辺のいずれの長さも、1mm以上2mm以下であるのが好ましい。
【0037】
また、前記実施形態では、本発明のインサートカラーを主に樹脂部材に対して埋め込んで使用する形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、金属部材に埋め込んで使用するようにしてもよい。その場合にも、周方向への空回りや組付け方向への抜けをより確実に防止できるとした、優れた効果を奏する。