特許第6268446号(P6268446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268446スピーカー振動板およびその製造方法、並びにこれを用いるスピーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268446
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】スピーカー振動板およびその製造方法、並びにこれを用いるスピーカー
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20180122BHJP
   H04R 7/12 20060101ALI20180122BHJP
   H04R 7/20 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   H04R7/02 B
   H04R7/12 K
   H04R7/20
   H04R7/02 D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-222471(P2015-222471)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-92786(P2017-92786A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 武士
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4518243(JP,B2)
【文献】 特開昭62−149297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00 − 7/26
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金を含む基材を有する振動板部と、該振動板部の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部と、を備えるスピーカー振動板であって、
該振動板部が、該基材の表面全体に形成される酸化皮膜層と、該外周端部を除いて該酸化皮膜層の表面にさらに形成される電着塗装層と、を有し、
該エッジ部を構成する該樹脂材料が、該電着塗装層を介在することなく該外周端部の該酸化皮膜層と密着して接合する、
スピーカー振動板。
【請求項2】
前記エッジ部は、第1内径寸法により規定される内径凸部と、該第1内径寸法よりも大きい第2内径寸法で規定される内径凹部と、が周方向に複数繰り返して出現する環状形を有し、該内径凹部に対応する該第1内径寸法以上該第2内径寸法未満の範囲において前記振動板部の前記外周端部の前記酸化皮膜層が露出する、
請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記エッジ部を構成する前記樹脂材料がJIS−A硬度が0°〜90°のスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、のいずれかであり、該樹脂材料が前記基材の前記酸化皮膜層に多数形成された孔に入り込んで密着する、
請求項1または2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記エッジ部の前記樹脂材料の断面厚みが、前記振動板部の切断端面部分で最も厚くなり、さらに、前記振動板部の径方向内側に向かうにつれて連続的に薄くなり、かつ、前記エッジ部の径方向外側に向かうにつれて連続的に薄くなり、該振動板部の該切断端面が、該樹脂材料で覆われている、
請求項1からのいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
マグネシウム合金の基材を有する振動板部を形成する工程と、該振動板部の外周端部に樹脂材料によりエッジ部を連結して成形する工程と、を含み、
該振動板部を形成する工程が、該基材の表面全体に酸化皮膜層を形成する工程と、該外周端部をマスキングして該外周端部を除く該酸化皮膜層の表面にさらに電着塗装層を形成する工程と、を含み、
該エッジ部を連結して成形する工程が、該エッジ部を構成する該樹脂材料を、該電着塗装層を介在することなく該外周端部の該酸化皮膜層と密着させて接合する工程を含む、
スピーカー振動板の製造方法。
【請求項6】
前記エッジ部を連結して成形する工程は、第1内径寸法により規定される内径凸部と、該第1内径寸法よりも大きい第2内径寸法で規定される内径凹部と、を周方向に複数繰り返して出現する環状形に形成し、該内径凹部に対応する該第1内径寸法以上該第2内径寸法未満の範囲において前記振動板部の前記外周端部の前記酸化皮膜層が露出するようにする工程を含み、該振動板部を挟持する金型が、該外周端部において該酸化皮膜層が露出する該範囲を挟持する外周端部挟持部を有する、
請求項5に記載のスピーカー振動板の製造方法。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載のスピーカー振動板を備える、スピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板およびその製造方法、並びにこれを用いるスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
動電型スピーカーでは、スピーカー振動板の外周端にエッジを連結して、スピーカー振動板を自由振動可能なように支持する構造が多用されている。従来のスピーカーにおいては、スピーカー振動板の材料は、抄紙により形成する紙振動板の他に、織布又は不織布などの基材に熱硬化性樹脂を含浸させた複合振動板、樹脂材料で形成する樹脂振動板、金属材料で形成する金属振動板、など様々なものが使用される場合がある。
【0003】
金属振動板では、軽量で比較的に内部損失が大きいマグネシウムを含む合金が使用される場合がある。マグネシウム振動板は、金属振動板としての音響特性に優れる反面で発錆しやすいので、陽極酸化処理、あるいは、さらなる電着塗装処理などによって表面に被膜を形成したうえで、スピーカー振動板に形成する必要がある(特許文献1、2)。従来には、振動板基材の少なくとも片面にマスキングをして陽極酸化処理することにより振動板基材面に酸化膜を部分的に生成せしめ、振動板基材に酸化皮膜生成部と非生成部とを形成するスピーカー用振動板がある(特許文献3)。
【0004】
また、従来のスピーカーには、エッジの厚みを、断面略半円状部における振動板接合部側において厚くし、また断面略半円状部と振動板接合部とはスピーカー前面側の断面形状が直線状又は曲線状に連続されるようにすることで、音圧周波数特性上でいわゆる中域の谷が発生することを防止し、良好な音圧周波数特性を得ることができるようにしたものがある(特許文献4)。
【0005】
また、従来には、マグネシウムを主成分としたマグネシウム振動板と、マグネシウム振動板をフレームに取り付けるために内周縁がマグネシウム振動板の外周縁に接合される樹脂製のエッジと、からなるスピーカー用振動板であって、エッジの内周縁は、マグネシウム振動板の外周縁が密着嵌合する挾持溝を有した構造で、マグネシウム振動板は、外周を所定寸法に切断した後、その外周の切断面に対して防錆用の端面処理をしない状態で、エッジがインサート成形によってマグネシウム振動板に一体形成されているスピーカー振動板がある(特許文献5)。
【0006】
【特許文献1】実公昭62−16062号公報
【特許文献2】特開2006−5458号公報
【特許文献3】実開平3−44996号公報
【特許文献4】特開平7−7790号公報
【特許文献5】特許第4518243号公報
【0007】
しかしながら、マグネシウム合金を含む基材を有するスピーカー振動板は、上記の通りに防錆のための表面処理を行う必要があるので、樹脂材料によるエッジをインサート成形によってマグネシウム振動板に一体形成させる場合に、その表面処理が災いして、マグネシウム振動板とエッジとの密着性が弱くなる場合があるという問題がある。マグネシウム振動板に陽極酸化処理および電着塗装処理によって被膜を形成すると、電着塗装の表層は均一で化学的に安定しているので接着性が悪くなるからである。その結果、マグネシウム合金の振動板に連結するエッジをインサート成型により一体に成型し、適切にエッジの厚みを設計して音響特性の改善を図ろうとしても、マグネシウム振動板とエッジとが密着せずに剥がれて、異音が発生するなどの問題が発生する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、マグネシウム合金を含む基材を有する振動板部と、振動板部の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部と、を備えるスピーカー振動板に関し、マグネシウム振動板の防錆性を満足しつつ、マグネシウム振動板とエッジとの密着性を高めて、適切に動作し、かつ、音響特性に優れたスピーカーを実現するスピーカー振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカー振動板は、マグネシウム合金を含む基材を有する振動板部と、振動板部の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部と、を備えるスピーカー振動板であって、振動板部が、基材の表面全体に形成される酸化皮膜層と、外周端部を除いて酸化皮膜層の表面にさらに形成される電着塗装層と、を有し、エッジ部を構成する樹脂材料が、電着塗装層を介在することなく外周端部の酸化皮膜層と密着して接合する。
【0010】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジ部は、第1内径寸法により規定される内径凸部と、第1内径寸法よりも大きい第2内径寸法で規定される内径凹部と、が周方向に複数繰り返して出現する環状形を有し、内径凹部に対応する第1内径寸法以上第2内径寸法未満の範囲において振動板部の外周端部の酸化皮膜層が露出する。
【0011】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジ部を構成する樹脂材料がJIS−A硬度が0°〜90°のスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、のいずれかであり、樹脂材料が基材の酸化皮膜層に多数形成された孔に入り込んで密着する。
【0012】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジ部の樹脂材料の断面厚みが、振動板部の切断端面部分で最も厚くなり、さらに、振動板部の径方向内側に向かうにつれて連続的に薄くなり、かつ、エッジ部の径方向外側に向かうにつれて連続的に薄くなり、振動板部の切断端面が、樹脂材料で覆われている。
【0013】
また、本発明のスピーカー振動板の製造方法は、マグネシウム合金の基材を有する振動板部を形成する工程と、振動板部の外周端部に樹脂材料によりエッジ部を連結して成形する工程と、を含み、振動板部を形成する工程が、基材の表面全体に酸化皮膜層を形成する工程と、外周端部をマスキングして外周端部を除く酸化皮膜層の表面にさらに電着塗装層を形成する工程と、を含み、エッジ部を連結して成形する工程が、エッジ部を構成する樹脂材料を、電着塗装層を介在することなく外周端部の酸化皮膜層と密着させて接合する工程を含む。
【0014】
また、本発明のスピーカー振動板の製造方法は、エッジ部を連結して成形する工程は、第1内径寸法により規定される内径凸部と、第1内径寸法よりも大きい第2内径寸法で規定される内径凹部と、を周方向に複数繰り返して出現する環状形に形成し、内径凹部に対応する第1内径寸法以上第2内径寸法未満の範囲において振動板部の外周端部の酸化皮膜層が露出するようにする工程を含み、振動板部を挟持する金型が、外周端部において酸化皮膜層が露出する範囲を挟持する外周端部挟持部を有する。
【0015】
また、本発明のスピーカーは、上記のいずれかのスピーカー振動板を含む。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のスピーカー振動板は、マグネシウム合金を含む基材を有する振動板部と、振動板部の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部と、を備える。振動板部は、基材の表面全体に形成される酸化皮膜層と、外周端部を除いて酸化皮膜層の表面にさらに形成される電着塗装層と、を有するので、エッジ部を構成する樹脂材料が、電着塗装層を介在することなく外周端部の酸化皮膜層と密着して接合する。また、本発明のスピーカーは、このスピーカー振動板を含んで構成される。
【0018】
本発明のスピーカー振動板は、振動板部を形成する工程において、基材の表面全体に酸化皮膜層を形成し、外周端部をマスキングして外周端部を除く酸化皮膜層の表面にさらに電着塗装層を形成するので、エッジ部を構成する樹脂材料を、電着塗装層を介在することなく外周端部の酸化皮膜層と密着させて接合させることができる。したがって、マグネシウム振動板の防錆性を満足しつつ、マグネシウム振動板とエッジとの密着性を高めて、適切に動作し、かつ、音響特性に優れたスピーカーを実現することができる。
【0019】
本発明のスピーカー振動板では、エッジ部を構成する樹脂材料を、JIS−A硬度が0°〜90°のスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、のいずれかから選ぶことができる。エッジ部を構成する樹脂材料が、マグネシウム合金を含む基材の酸化皮膜層に多数形成されたポーラス状の孔に入り込むので、マグネシウム振動板とエッジとの密着性が高まり、エッジ部が剥離するなどの動作不良が減少して適切に動作するスピーカーを実現することができる。
【0020】
また、本発明のスピーカー振動板のエッジ部は、第1内径寸法により規定される内径凸部と、第1内径寸法よりも大きい第2内径寸法で規定される内径凹部と、が周方向に複数繰り返して出現する環状形を有するようにしてもよい。この場合には、内径凹部に対応する第1内径寸法以上第2内径寸法未満の範囲において振動板部の外周端部の酸化皮膜層が露出することになる。これは、振動板部にエッジ部を連結して成形する工程において、振動板部を挟持する金型が、外周端部において酸化皮膜層が露出する範囲を挟持する外周端部挟持部を有するようにすることで、振動板部の外周端部の形状を所定の形状に保つことができ、均等にエッジ部を形成する樹脂材料を流せるようになるからである。したがって、所定の周波数特性を発揮する適切に動作するスピーカーを実現することができる。
【0021】
また、スピーカー振動板は、エッジ部の樹脂材料の断面厚みが、振動板部の切断端面部分で最も厚くなり、さらに、振動板部の径方向内側に向かうにつれて連続的に薄くなり、かつ、エッジ部の径方向外側に向かうにつれて連続的に薄くなり、振動板部の切断端面が、樹脂材料で覆われているようにしてもよい。エッジ部の樹脂材料の断面厚みが連続的に変化すると、機械インピーダンスが急激に変化する部位が無くなり振動の反射が減少して、結果的にスピーカー振動板およびエッジ部から放射される音波の周波数特性のピーク・ディップを抑制することができる。したがって、このスピーカー振動板を備えるスピーカーの再生音質に好ましい影響を与えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のスピーカー振動板およびその製造方法、並びにこれを用いるスピーカーは、マグネシウム振動板の防錆性を満足しつつ、マグネシウム振動板とエッジとの密着性を高めて、適切に動作し、かつ、音響特性に優れたスピーカーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例1)
図2】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板の層構造について模式的に説明する図である。(実施例1)
図3】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板のエッジ部について説明する図である。(実施例1)
図4】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーの音圧周波数特性について説明するグラフである。(実施例1、比較例1)
図5】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板およびその製造方法、並びにこれを用いるスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板10について説明する図である。具体的には、図1(a)はスピーカー振動板10の断面図であり、図1(b)はエッジ部12付近の拡大断面図である。なお、説明に不要な一部の構成や、内部構造等は、図示ならびに説明を省略する。
【0026】
本実施例のスピーカー振動板10は、マグネシウム合金を含む基材20を有する振動板部11と、振動板部11の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部12と、を備えるスピーカー振動板である。スピーカー振動板10は、バランスドーム型の振動板部11にスチレン系熱可塑性エラストマーでエッジ部12をインサート成型により一体に形成したスピーカー振動板である。スピーカー振動板10は、円形の口径4cmの動電型スピーカーに用いる振動板であって、図1(a)では、中心軸Oに対して対称な左半分の図示を省略している。
【0027】
振動板部11は、ドーム状のドーム振動部11aと、コーン形状のコーン振動部11bと、をマグネシウム合金を含むシート状の基材20をプレス成型することで一体的に形成する。ドーム振動部11aとコーン振動部11bとの境界となる下側への凸環状の稜線部には、略円筒形状の(図示しない)ボイスコイルのボビンが結合するボイスコイル結合部が形成される。図1(a)では、図示する上側がスピーカー振動板10の表側であり、図示する下側がスピーカー振動板10の裏側であって、スピーカーが組み立てられる際には、ボイスコイルおよび磁気回路が配置される側である。
【0028】
なお、このスピーカー振動板10を用いる(図示しない)スピーカーでは、スピーカー振動板10のコーン振動部11bの外周端部11cに形成されるエッジ部12が、ボイスコイルのコイルを(図示しない)磁気回路の磁気空隙に配置されて、磁気回路等に接触すること無く振動可能に支持する。したがって、ボイスコイルに音声信号電流が供給されると、スピーカーはスピーカー振動板10を振動させて音声を再生することができる。
【0029】
コーン振動部11bの外周端部11cには、エッジ部12が樹脂材料により連結して成形される。エッジ部12は、その断面形状が、コーン振動部11bの外周端部11cに沿って覆う部分である内周連結部12aおよび12bと、断面がロール形状に形成されるロール部12cと、ガスケット13に連結する外周連結部12dと、を有する環状の部分である。内周連結部12aは、外周端部11cを表側から覆う部分であり、内周連結部12bは、外周端部11cを裏側から覆う部分である。したがって、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dは、ロール部12cによって覆われる。なお、エッジ部12の外径部を所定の形状に保つガスケット13は、(図示しない)フレームまたは磁気回路に連結される。
【0030】
図2は、スピーカー振動板10の層構造について模式的に説明する図である。具体的には、図2(a)は、コーン振動部11bの断面を示し、また、図2(b)は、外周端部11cおよびエッジ12の内周連結部付近の断面を示し、それらの層構造について説明する。また、図2(c)は、後述する酸化皮膜層21の顕微鏡写真である。
【0031】
振動板部11の基材20は、マグネシウム(Mg)を少なくとも90%以上含む合金であって、厚さ0.045mmの金属箔のシートである。マグネシウムは、軽量で比較的に内部損失が大きく、金属振動板としての音響特性に優れる利点がある。しかし、その一方で、他の金属と比べ非常に耐食性が弱くて発錆しやすく、表面処理を施さないと実用性に欠ける金属であるので、基材20の表面および裏面に陽極酸化処理、および、電着塗装処理によって被膜を形成する必要がある。
【0032】
基材20の表面および裏面には、酸化皮膜層21が形成される。具体的には、酸化皮膜層21は、陽極酸化処理によって基材20の表面全体(裏面を含む)に形成される酸化皮膜層である。したがって、酸化皮膜層21は、図2(a)に示すコーン振動部11bでも、図2(b)に示す外周端部11cでも、基材20の両面に形成される。陽極酸化処理は、電解液中で金属である振動板部11の基材20を陽極(プラス極)にして電気を流して、基材20の表面に水酸化マグネシウムである酸化皮膜を積極的に形成させる工程である。酸化皮膜層21は、数μm(ミクロンメートル)以上の厚さになり、図2(c)に示すように、表面に多数の孔を有するポーラス状の多孔質皮膜が形成される。酸化皮膜層21は、基材20の厚みに応じて5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0033】
図2(a)に示すコーン振動部11bでは、酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成される。電着塗装処理は、電着塗装液中で金属である振動板部11の基材20を陽極(プラス極)にして電気を流して、陽極酸化処理した基材20の酸化皮膜層21の上に電着塗装層22を積極的に形成させる工程である。電着塗装層22は、数μm(ミクロンメートル)以上の厚さになり、基材20の厚みに応じて5〜10μmの範囲であることが好ましい。酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されると、電着塗装層22の表層は均一で化学的に安定しているので、酸化皮膜層21のみの場合に比較して、耐食性に優れるようになるという利点がある。
【0034】
一方で、図2(b)に示すコーン振動部11bの外周端部11cおよびエッジ12の内周連結部付近では、酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されない。電着塗装層22を形成する工程では、コーン振動部11bの外周端部11cをマスキングして、外周端部11cを除く酸化皮膜層21の表面にさらに電着塗装層22を形成するからである。マスキングは、エッジ12を形成する外周端部11cに相当する部分である外周端部11cの酸化皮膜層21の上に、電着塗装層22が形成されないように、非導通性の材料のマスキングテープなどを事前に貼り付ける、あるいは、非導通性材料の型で挟んで保護する、塗料を事前に塗りつける、などの前加工をしておけばよい。したがって、樹脂材料によりエッジ部12を連結して成形する工程に入る段階では、マスキングを剥がす等除去すれば、エッジ12の内周連結部12aおよび12bが形成される振動板部11の外周端部11cには、酸化皮膜層21が露出する。
【0035】
続いて、樹脂材料によりエッジ部12を連結して成形する工程では、振動部11を所定の金型に載置して、コーン振動部11bの外周端部11cにエッジ部12を一体成型する。上記の通り、外周端部11cには酸化皮膜層21が露出しているので、エッジ部12は、電着塗装層22を介在することなく外周端部11cの酸化皮膜層21と密着して接合することができる。酸化皮膜層21は、図2(c)に示すように、表面に多数の孔を有するポーラス状の多孔質皮膜が形成されるので、エッジ部12を構成する樹脂材料が多数形成されたポーラス状の孔に入り込み、アンカー効果を発揮するので、その結果、マグネシウム振動板である振動部11とエッジ12との密着性を高めることができる。このスピーカー振動板10を備えるスピーカーは、振動部11からエッジ部12が剥離するなどの動作不良が発生することを抑制でき、適切に動作するスピーカーを実現できる。
【0036】
振動板部11の外径を規定する切断端面11dは、マグネシウム合金の基材20を成型して、所定の寸法形状のドーム振動部11aおよびコーン振動部11bを形成する際に、あるいは、形成した後に、金型で打ち抜いて切断すればよい。この外径を切断する工程は、酸化皮膜層21を形成する工程、さらに電着塗装層22を形成する工程、エッジ21を一体に形成する工程、のそれぞれについて、それらの前であっても、後であってもよい。いずれの場合にも、外周端部11cの切断端面11dは、ロール部12cによって覆われている。ロール部12cは、外周端部11cを表側から覆う内周連結部12aと、外周端部11cを裏側から覆う内周連結部12bとを連結するので、振動部11とエッジ部12の密着性は向上する。
【0037】
なお、本実施例の場合には、振動部11とエッジ12との密着強度は、700〜1000gfであるのに対して、酸化皮膜層21とエッジ12との間に電着塗装層22を介在させた場合には、振動部11とエッジ12との密着強度は、380〜550gfまで低下する。
【0038】
エッジ部12を構成する樹脂材料は、樹脂材料がマグネシウムを含む基材20の酸化皮膜層21に多数形成された孔に入り込んで密着するように、JIS−A硬度が0°〜90°のものが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、のいずれかであればよい。
【0039】
また、図3は、スピーカー振動板10のエッジ部12について説明する図である。具体的には、図3(a)は、図1および図2と同様のエッジ12の場合であり、図3(b)は、エッジ12の内周連結部の構成が異なる場合である。図3(a)の場合には、内周連結部12aおよび12bが、コーン振動部11bの外周端部11cを表側と裏側にそれぞれ沿って覆っている。一方で、図3(b)の場合には、外周端部11cを表側から覆う部分である内周連結部12aのみが設けられている。いずれの場合にも、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dは、ロール部12cによって覆われている。
【0040】
図3(a)又は図3(b)のいずれの場合にも、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTは、振動板部11の切断端面部分11dで最も厚くなり、さらに、振動板部11の径方向内側に向かうにつれて連続的に薄くなり、かつ、エッジ部12の径方向外側に向かうにつれて連続的に薄くなる。例えば、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTは、外周端部11cにおける振動板部11の法線方向の厚みとして規定すればよい。エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTが連続的に変化するようにすることで、機械インピーダンスが急激に変化する部位が無くなり振動の反射が減少する。
【0041】
図4は、本実施例のスピーカー振動板10を備えるスピーカーの音圧周波数特性を比較例と対比したグラフである。図4(a)は、図3(a)に示す本実施例の場合である。一方で、図4(b)は、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTが連続的に変化することのない従来のエッジであり、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dがロール部12cによって覆われていない(図示しない)比較例の場合である。
【0042】
本実施例の場合には、比較例に対比して、スピーカー振動板10およびエッジ部から放射される音波の周波数特性のピーク・ディップを抑制することができる。約10kHz付近の高い周波数における分割振動を抑制して、音圧再生レベルを高くすることができる。したがって、本実施例のスピーカー振動板10を備えるスピーカーは、好ましい再生音質を実現できる。
【実施例2】
【0043】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板10aについて説明する図である。本実施例は、先の実施例のスピーカー振動板10とはエッジ部12の形状および構成が相違する場合であって、マグネシウム合金を含む基材20を有する振動板部11は共通する。したがって、共通する説明及び図示は省略する。
【0044】
本実施例のスピーカー振動板10aにおいて、エッジ部12は、振動板の形状を規定する中心軸Oからの内径寸法R1により規定される内径凸部12eと、内径寸法R1よりも大きい内径寸法R2で規定される内径凹部12fと、が周方向に複数繰り返して出現する環状形を有する。内径凸部12eおよび内径凹部12fは、環状のエッジ部12の内周連結部12aを、周方向に所定の角度で等分するように設ければよい。
【0045】
内径凸部12eを規定する内径寸法R1は、先の実施例のスピーカー振動板10における外周端部11cの内周側寸法を規定する寸法に等しい。したがって、スピーカー振動板10aの内径寸法R1の内側(ドーム振動部11aと、コーン形状のコーン振動部11bの外周端部11cを除く部分)においては、基材20の表面には酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されている。
【0046】
また、スピーカー振動板10aの内径寸法R1の外側(コーン形状のコーン振動部11bの外周端部11c)においては、基材20の表面には酸化皮膜層21のみが形成され、さらに電着塗装層22が形成されていない。内径凹部12fを規定する内径寸法R2は、内径寸法R1よりも大きい内径寸法であって、かつ、振動板部11の切断端面11dを規定する外径寸法よりも小さい寸法である。したがって、内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲においては、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになる。
【0047】
このスピーカー振動板10aのエッジ部12は、以下に説明するエッジ部12をインサート成型により連結して成形する工程によって実現される。すなわち、振動板部11を挟持する(図示しない)金型が、外周端部11cにおいて酸化皮膜層21が露出する範囲を挟持する(図示しない)外周端部挟持部を有する。金型の外周端部挟持部は、内径凸部12eおよび内径凹部12fに対応するような周方向に複数繰り返して出現する凸部になる。金型の外周端部挟持部は、振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込むので、エッジ部12を構成する樹脂材料が流れ込まない部分を形成する。したがって、金型の外周端部挟持部により形成される内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲は、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになる。
【0048】
上記の通り、エッジ部12を構成する樹脂材料が流れ込まない部分は、金型の外周端部挟持部によって振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込まれる部分である。したがって、エッジ部12をインサート成型により連結して成形する工程において、振動板部11の外周端部11cの形状を所定の形状に保つことができ、均等にエッジ部12を形成する樹脂材料を流せるようになるという利点がある。金型が外周端部挟持部を備えない場合には、振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟めなくなるので、所定の形状を保てないおそれが出てくるが、本実施例の場合にはそのような恐れを無くすることができる。結果的に、所定の振動板形状を保ってスピーカー振動板10aが作成できるので、所定の周波数特性を発揮する適切に動作するスピーカーを実現することができる。
【0049】
なお、内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲においては、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになるが、酸化皮膜層21が形成されているのでマグネシウム振動板の防錆性を満足することができる。
【0050】
もちろん、金型の外周端部挟持部によって振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込まれる部分を設けるのであれば、図5に図示するエッジ部12のような内径凸部12eおよび内径凹部12fに限らない。金型に複数のピンを設けて外周端部挟持部とし、振動板部11の外周端部11cを両面から挟み込めばよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のスピーカー振動板を用いたスピーカーは、ヘッドフォン、イヤフォン、にも適用が可能である。また、家庭用のステレオ再生、もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に限らず、車載用のオーディオ機器や、映画館等の音響再生設備にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10、10a スピーカー振動板
11 振動板部
12 エッジ部
13 ガスケット
20 基材
21 酸化皮膜層
22 電着塗装層
図1
図2
図3
図4
図5