【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板10について説明する図である。具体的には、
図1(a)はスピーカー振動板10の断面図であり、
図1(b)はエッジ部12付近の拡大断面図である。なお、説明に不要な一部の構成や、内部構造等は、図示ならびに説明を省略する。
【0026】
本実施例のスピーカー振動板10は、マグネシウム合金を含む基材20を有する振動板部11と、振動板部11の外周端部に樹脂材料により連結して成形されるエッジ部12と、を備えるスピーカー振動板である。スピーカー振動板10は、バランスドーム型の振動板部11にスチレン系熱可塑性エラストマーでエッジ部12をインサート成型により一体に形成したスピーカー振動板である。スピーカー振動板10は、円形の口径4cmの動電型スピーカーに用いる振動板であって、
図1(a)では、中心軸Oに対して対称な左半分の図示を省略している。
【0027】
振動板部11は、ドーム状のドーム振動部11aと、コーン形状のコーン振動部11bと、をマグネシウム合金を含むシート状の基材20をプレス成型することで一体的に形成する。ドーム振動部11aとコーン振動部11bとの境界となる下側への凸環状の稜線部には、略円筒形状の(図示しない)ボイスコイルのボビンが結合するボイスコイル結合部が形成される。
図1(a)では、図示する上側がスピーカー振動板10の表側であり、図示する下側がスピーカー振動板10の裏側であって、スピーカーが組み立てられる際には、ボイスコイルおよび磁気回路が配置される側である。
【0028】
なお、このスピーカー振動板10を用いる(図示しない)スピーカーでは、スピーカー振動板10のコーン振動部11bの外周端部11cに形成されるエッジ部12が、ボイスコイルのコイルを(図示しない)磁気回路の磁気空隙に配置されて、磁気回路等に接触すること無く振動可能に支持する。したがって、ボイスコイルに音声信号電流が供給されると、スピーカーはスピーカー振動板10を振動させて音声を再生することができる。
【0029】
コーン振動部11bの外周端部11cには、エッジ部12が樹脂材料により連結して成形される。エッジ部12は、その断面形状が、コーン振動部11bの外周端部11cに沿って覆う部分である内周連結部12aおよび12bと、断面がロール形状に形成されるロール部12cと、ガスケット13に連結する外周連結部12dと、を有する環状の部分である。内周連結部12aは、外周端部11cを表側から覆う部分であり、内周連結部12bは、外周端部11cを裏側から覆う部分である。したがって、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dは、ロール部12cによって覆われる。なお、エッジ部12の外径部を所定の形状に保つガスケット13は、(図示しない)フレームまたは磁気回路に連結される。
【0030】
図2は、スピーカー振動板10の層構造について模式的に説明する図である。具体的には、
図2(a)は、コーン振動部11bの断面を示し、また、
図2(b)は、外周端部11cおよびエッジ12の内周連結部付近の断面を示し、それらの層構造について説明する。また、
図2(c)は、後述する酸化皮膜層21の顕微鏡写真である。
【0031】
振動板部11の基材20は、マグネシウム(Mg)を少なくとも90%以上含む合金であって、厚さ0.045mmの金属箔のシートである。マグネシウムは、軽量で比較的に内部損失が大きく、金属振動板としての音響特性に優れる利点がある。しかし、その一方で、他の金属と比べ非常に耐食性が弱くて発錆しやすく、表面処理を施さないと実用性に欠ける金属であるので、基材20の表面および裏面に陽極酸化処理、および、電着塗装処理によって被膜を形成する必要がある。
【0032】
基材20の表面および裏面には、酸化皮膜層21が形成される。具体的には、酸化皮膜層21は、陽極酸化処理によって基材20の表面全体(裏面を含む)に形成される酸化皮膜層である。したがって、酸化皮膜層21は、
図2(a)に示すコーン振動部11bでも、
図2(b)に示す外周端部11cでも、基材20の両面に形成される。陽極酸化処理は、電解液中で金属である振動板部11の基材20を陽極(プラス極)にして電気を流して、基材20の表面に水酸化マグネシウムである酸化皮膜を積極的に形成させる工程である。酸化皮膜層21は、数μm(ミクロンメートル)以上の厚さになり、
図2(c)に示すように、表面に多数の孔を有するポーラス状の多孔質皮膜が形成される。酸化皮膜層21は、基材20の厚みに応じて5〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0033】
図2(a)に示すコーン振動部11bでは、酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成される。電着塗装処理は、電着塗装液中で金属である振動板部11の基材20を陽極(プラス極)にして電気を流して、陽極酸化処理した基材20の酸化皮膜層21の上に電着塗装層22を積極的に形成させる工程である。電着塗装層22は、数μm(ミクロンメートル)以上の厚さになり、基材20の厚みに応じて5〜10μmの範囲であることが好ましい。酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されると、電着塗装層22の表層は均一で化学的に安定しているので、酸化皮膜層21のみの場合に比較して、耐食性に優れるようになるという利点がある。
【0034】
一方で、
図2(b)に示すコーン振動部11bの外周端部11cおよびエッジ12の内周連結部付近では、酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されない。電着塗装層22を形成する工程では、コーン振動部11bの外周端部11cをマスキングして、外周端部11cを除く酸化皮膜層21の表面にさらに電着塗装層22を形成するからである。マスキングは、エッジ12を形成する外周端部11cに相当する部分である外周端部11cの酸化皮膜層21の上に、電着塗装層22が形成されないように、非導通性の材料のマスキングテープなどを事前に貼り付ける、あるいは、非導通性材料の型で挟んで保護する、塗料を事前に塗りつける、などの前加工をしておけばよい。したがって、樹脂材料によりエッジ部12を連結して成形する工程に入る段階では、マスキングを剥がす等除去すれば、エッジ12の内周連結部12aおよび12bが形成される振動板部11の外周端部11cには、酸化皮膜層21が露出する。
【0035】
続いて、樹脂材料によりエッジ部12を連結して成形する工程では、振動部11を所定の金型に載置して、コーン振動部11bの外周端部11cにエッジ部12を一体成型する。上記の通り、外周端部11cには酸化皮膜層21が露出しているので、エッジ部12は、電着塗装層22を介在することなく外周端部11cの酸化皮膜層21と密着して接合することができる。酸化皮膜層21は、
図2(c)に示すように、表面に多数の孔を有するポーラス状の多孔質皮膜が形成されるので、エッジ部12を構成する樹脂材料が多数形成されたポーラス状の孔に入り込み、アンカー効果を発揮するので、その結果、マグネシウム振動板である振動部11とエッジ12との密着性を高めることができる。このスピーカー振動板10を備えるスピーカーは、振動部11からエッジ部12が剥離するなどの動作不良が発生することを抑制でき、適切に動作するスピーカーを実現できる。
【0036】
振動板部11の外径を規定する切断端面11dは、マグネシウム合金の基材20を成型して、所定の寸法形状のドーム振動部11aおよびコーン振動部11bを形成する際に、あるいは、形成した後に、金型で打ち抜いて切断すればよい。この外径を切断する工程は、酸化皮膜層21を形成する工程、さらに電着塗装層22を形成する工程、エッジ21を一体に形成する工程、のそれぞれについて、それらの前であっても、後であってもよい。いずれの場合にも、外周端部11cの切断端面11dは、ロール部12cによって覆われている。ロール部12cは、外周端部11cを表側から覆う内周連結部12aと、外周端部11cを裏側から覆う内周連結部12bとを連結するので、振動部11とエッジ部12の密着性は向上する。
【0037】
なお、本実施例の場合には、振動部11とエッジ12との密着強度は、700〜1000gfであるのに対して、酸化皮膜層21とエッジ12との間に電着塗装層22を介在させた場合には、振動部11とエッジ12との密着強度は、380〜550gfまで低下する。
【0038】
エッジ部12を構成する樹脂材料は、樹脂材料がマグネシウムを含む基材20の酸化皮膜層21に多数形成された孔に入り込んで密着するように、JIS−A硬度が0°〜90°のものが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、のいずれかであればよい。
【0039】
また、
図3は、スピーカー振動板10のエッジ部12について説明する図である。具体的には、
図3(a)は、
図1および
図2と同様のエッジ12の場合であり、
図3(b)は、エッジ12の内周連結部の構成が異なる場合である。
図3(a)の場合には、内周連結部12aおよび12bが、コーン振動部11bの外周端部11cを表側と裏側にそれぞれ沿って覆っている。一方で、
図3(b)の場合には、外周端部11cを表側から覆う部分である内周連結部12aのみが設けられている。いずれの場合にも、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dは、ロール部12cによって覆われている。
【0040】
図3(a)又は
図3(b)のいずれの場合にも、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTは、振動板部11の切断端面部分11dで最も厚くなり、さらに、振動板部11の径方向内側に向かうにつれて連続的に薄くなり、かつ、エッジ部12の径方向外側に向かうにつれて連続的に薄くなる。例えば、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTは、外周端部11cにおける振動板部11の法線方向の厚みとして規定すればよい。エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTが連続的に変化するようにすることで、機械インピーダンスが急激に変化する部位が無くなり振動の反射が減少する。
【0041】
図4は、本実施例のスピーカー振動板10を備えるスピーカーの音圧周波数特性を比較例と対比したグラフである。
図4(a)は、
図3(a)に示す本実施例の場合である。一方で、
図4(b)は、エッジ部12の樹脂材料の断面厚みTが連続的に変化することのない従来のエッジであり、コーン振動部11bの外周端部11cの外径を規定する切断端面11dがロール部12cによって覆われていない(図示しない)比較例の場合である。
【0042】
本実施例の場合には、比較例に対比して、スピーカー振動板10およびエッジ部から放射される音波の周波数特性のピーク・ディップを抑制することができる。約10kHz付近の高い周波数における分割振動を抑制して、音圧再生レベルを高くすることができる。したがって、本実施例のスピーカー振動板10を備えるスピーカーは、好ましい再生音質を実現できる。
【実施例2】
【0043】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板10aについて説明する図である。本実施例は、先の実施例のスピーカー振動板10とはエッジ部12の形状および構成が相違する場合であって、マグネシウム合金を含む基材20を有する振動板部11は共通する。したがって、共通する説明及び図示は省略する。
【0044】
本実施例のスピーカー振動板10aにおいて、エッジ部12は、振動板の形状を規定する中心軸Oからの内径寸法R1により規定される内径凸部12eと、内径寸法R1よりも大きい内径寸法R2で規定される内径凹部12fと、が周方向に複数繰り返して出現する環状形を有する。内径凸部12eおよび内径凹部12fは、環状のエッジ部12の内周連結部12aを、周方向に所定の角度で等分するように設ければよい。
【0045】
内径凸部12eを規定する内径寸法R1は、先の実施例のスピーカー振動板10における外周端部11cの内周側寸法を規定する寸法に等しい。したがって、スピーカー振動板10aの内径寸法R1の内側(ドーム振動部11aと、コーン形状のコーン振動部11bの外周端部11cを除く部分)においては、基材20の表面には酸化皮膜層21の上にさらに電着塗装層22が形成されている。
【0046】
また、スピーカー振動板10aの内径寸法R1の外側(コーン形状のコーン振動部11bの外周端部11c)においては、基材20の表面には酸化皮膜層21のみが形成され、さらに電着塗装層22が形成されていない。内径凹部12fを規定する内径寸法R2は、内径寸法R1よりも大きい内径寸法であって、かつ、振動板部11の切断端面11dを規定する外径寸法よりも小さい寸法である。したがって、内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲においては、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになる。
【0047】
このスピーカー振動板10aのエッジ部12は、以下に説明するエッジ部12をインサート成型により連結して成形する工程によって実現される。すなわち、振動板部11を挟持する(図示しない)金型が、外周端部11cにおいて酸化皮膜層21が露出する範囲を挟持する(図示しない)外周端部挟持部を有する。金型の外周端部挟持部は、内径凸部12eおよび内径凹部12fに対応するような周方向に複数繰り返して出現する凸部になる。金型の外周端部挟持部は、振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込むので、エッジ部12を構成する樹脂材料が流れ込まない部分を形成する。したがって、金型の外周端部挟持部により形成される内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲は、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになる。
【0048】
上記の通り、エッジ部12を構成する樹脂材料が流れ込まない部分は、金型の外周端部挟持部によって振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込まれる部分である。したがって、エッジ部12をインサート成型により連結して成形する工程において、振動板部11の外周端部11cの形状を所定の形状に保つことができ、均等にエッジ部12を形成する樹脂材料を流せるようになるという利点がある。金型が外周端部挟持部を備えない場合には、振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟めなくなるので、所定の形状を保てないおそれが出てくるが、本実施例の場合にはそのような恐れを無くすることができる。結果的に、所定の振動板形状を保ってスピーカー振動板10aが作成できるので、所定の周波数特性を発揮する適切に動作するスピーカーを実現することができる。
【0049】
なお、内径凹部12eに対応する内径寸法R1以上であって、かつ、内径寸法R2未満の範囲においては、振動板部11の外周端部11cの酸化皮膜層21が露出することになるが、酸化皮膜層21が形成されているのでマグネシウム振動板の防錆性を満足することができる。
【0050】
もちろん、金型の外周端部挟持部によって振動板部11の外周端部11cを表側および裏側の両面から挟み込まれる部分を設けるのであれば、
図5に図示するエッジ部12のような内径凸部12eおよび内径凹部12fに限らない。金型に複数のピンを設けて外周端部挟持部とし、振動板部11の外周端部11cを両面から挟み込めばよい。