特許第6268512号(P6268512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧 ▶ 日清紡ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000002
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000003
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000004
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000005
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000006
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000007
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000008
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000009
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000010
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000011
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000012
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000013
  • 特許6268512-アンテナ装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268512
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/00 20060101AFI20180122BHJP
   G01S 13/44 20060101ALI20180122BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   H01Q19/00
   G01S13/44
   H01Q21/06
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-194471(P2013-194471)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-61231(P2015-61231A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100086379
【弁理士】
【氏名又は名称】高柴 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真行
(72)【発明者】
【氏名】土田 航
【審査官】 米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−260667(JP,A)
【文献】 特開平10−335924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 19/00
G01S 13/44
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された少なくとも一対のアンテナ素子と、
前記一対のアンテナ素子の配列方向における前記基板の端部と前記一対のアンテナ素子との間に、検知対象からの反射波の回折点となるように形成されたチョーク部と、
を備えたアンテナ装置。
【請求項2】
前記チョーク部は、
前記一対のアンテナ素子の配列方向と略直交する方向に延在するように形成された凹部を有することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記チョーク部の前記凹部の開口方向は、前記アンテナ素子が配置された前記基板の主面と略平行をなすように設定されたことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記チョーク部の前記凹部の開口方向は、前記アンテナ素子が配置された前記基板の主面と略垂直をなすように設定されたことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記基板の端部に傾斜面が形成されたことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記傾斜面は、前記基板の外方に向けて凸状に形成された曲面であることを特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関し、更に詳しくは、モノパルス方式のレーダ装置等に適用可能なアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、方位検知を目的としたモノパルス方式のレーダ装置がある(例えば、特許文献1参照)。モノパルス方式のレーダ装置によれば、所定の間隔を置いて基板上に配置された複数のアンテナ素子により検知対象からの反射波を受信し、各アンテナ素子により受信された受信信号の位相差または振幅差から検知対象の方位角を特定する。一般に、この種のレーダ装置では平面アンテナが用いられている。
【0003】
図13は、モノパルス方式のレーダ装置に用いられている従来のアンテナ装置(平面アンテナ)100を説明するための図であり、(A)は、従来のアンテナ装置100の構成を示し、(B)は、そのアンテナ特性(方位角θと位相差θdとの関係)を示す。図13(A)に示すように、アンテナ装置100は、基板110と、基板110の主面に形成されたアンテナ素子120,130と、基板110の裏面に形成されたグランド板160とを備えている。
【0004】
アンテナ装置100によれば、理想的には図13(B)に実線で示すように、アンテナ素子120,130によりそれぞれ受信された受信信号間の位相差θdと検知対象の方位角θとの関係を示すアンテナ特性は、揺らぎのない曲線により表される。このアンテナ特性に基づき、受信信号間の位相差θdから検知対象の方位角θを特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−145444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のアンテナ装置100によれば、アンテナ素子120,130が形成された基板110の端部で発生する回折波WDによりアンテナ特性が劣化するという問題がある。
【0007】
詳細には、アンテナ素子120,130から送信された電波は検知対象で反射され、その反射波がアンテナ素子120,130により受信される。このとき、反射波の一部が、アンテナ装置100の基板110の端部に入射し、この端部で回折される。基板110の端部で回折された反射波が回折波WDとなってアンテナ素子120,130に受信されると、アンテナ特性が劣化する。具体的には、図13(B)において点線により示したように、アンテナ素子120,130のそれぞれにより受信された受信信号間の位相差θdと検知対象の方位角θとの間の関係を示すアンテナ特性の特性線に揺らぎが発生し、この特性線に極大値、極小値、あるいは平坦部が存在するようになる。
【0008】
このようにアンテナ特性の特性線に揺らぎが発生すると、アンテナ素子120,130により受信された受信信号間の位相差θdに対して複数の方位角θが対応する領域が発生し、位相差θdと方位角θとが一対一に対応しなくなる。このため、アンテナ装置100の受信精度が低下し、受信信号間の位相差θdから検知対象の方位角θを特定することが困難になる。
【0009】
上述の問題の解決を図った従来技術として、例えば特開2006−145444号公報(特許文献1)に開示された技術がある。この従来技術では、パッチアンテナの配置間隔をレーダの送信周波数の波長の半分の奇数倍±1/4波長とすることにより、各パッチアンテナで受信された回折波を相殺している。しかしながら、この従来技術によれば、パッチアンテナの配置間隔の自由度が制約されるという問題がある。
【0010】
また、他の手法として、アンテナ素子と基板の端部との間の距離を拡大する手法が挙げられる。この手法によれば、アンテナ素子に受信される回折波の振幅が減衰するので、アンテナ特性の劣化を低減させることができる。しかしながら、この手法によれば、基板が大型化するため、アンテナ装置を小型化することが困難になるという問題がある。
【0011】
従って、本発明の課題の一つは、アンテナ素子が形成された基板の端部で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制することができるアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によるアンテナ装置は、基板と、前記基板上に配置された少なくとも一対のアンテナ素子と、前記一対のアンテナ素子の配列方向における前記基板の端部と前記一対のアンテナ素子との間に、検知対象からの反射波の回折点となるように形成されたチョーク部と、を備える。
この構成によれば、チョーク部が電波の回折点として機能し、回折波を発生させる。チョーク部により発生された回折波と基板端部において発生された回折波とがアンテナ素子の近傍で干渉し合う結果、基板端部において発生された回折波がアンテナ素子に受信される際に、チョーク部で発生された回折波により減衰される。これにより、アンテナ特性として、一対のアンテナ素子によりそれぞれ受信される電波の位相差と検知対象の方位角(電波の入射角)とが一対一に対応した特性が得られる。このため、一対のアンテナ素子のそれぞれにより受信された受信信号間の位相差から検知対象の方位角を特定することが可能になる。従って、アンテナ素子が形成された基板の端部で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制し、受信精度を改善することが可能になる。
【0013】
前記アンテナ装置において、例えば、前記チョーク部は、前記一対のアンテナ素子の配列方向と略直交する方向に延在するように形成された凹部を有することを特徴とする。この構成によれば、基板の端部とアンテナ素子との間の伝搬波がチョーク部により遮断される。このとき、チョーク部は、伝搬波の一部を回折波として発生させ、回折点として機能する。
【0014】
前記アンテナ装置において、例えば、前記チョーク部の前記凹部の開口方向は、前記アンテナ素子が配置された前記基板の主面と略平行をなすように設定される。この構成によれば、基板の端部と一対のアンテナ素子との間の伝搬波がチョーク部の凹部に侵入して反射される。この場合、チョーク部は基板の端部とアンテナ素子との間の伝搬波を遮断するため、アンテナ素子に入射される不要波を抑制することができる。また、チョーク部は、回折点として機能するため、基板端部において発生された回折波を減衰させることができる。
【0015】
前記アンテナ装置において、例えば、前記チョーク部の前記凹部の開口方向は、前記アンテナ素子が配置された前記基板の主面と略垂直をなすように設定される。この構成によれば、基板の端部と一対のアンテナ素子との間の伝搬波がチョーク部の凹部に侵入して反射される。この場合、チョーク部は基板の端部とアンテナ素子との間の伝搬波を遮断するため、アンテナ素子に入射される不要波を抑制することができる。また、チョーク部は、回折点として機能するため、基板端部において発生された回折波を減衰させることができる。
【0016】
前記アンテナ装置において、例えば、前記基板の端部に傾斜面が形成される。例えば、前記傾斜面は、前記基板の外方に向けて凸状に形成された曲面である。この構成によれば、基板の端部における回折が緩和される。これにより、アンテナ素子に受信される回折波が低減される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、アンテナ素子が形成された基板の端部で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の2面図である。
図3】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の部分拡大図であり、(A)は、チョーク部の第1例を示し、(B)は、チョーク部の第2例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置が備えるチョーク部の技術的意義を説明するための図であって、アンテナ装置の基板幅とアンテナ特性との関係の一例を示す図であり、(A)は、基板幅が15mmのときの方位角と位相差との関係を示し、(B)は、基板幅が50mmのときの方位角と位相差との関係を示し、(C)は、基板幅が100mmのときの方位角と位相差との関係を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置の特性例を示す図である。
図6】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置が備えるチョーク部の動作を説明するための図であり、(A)は、チョーク部と電界との関係を示す図であり、(B)〜(D)は、チョーク部における電界の振る舞いを示す図である。
図7】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の2面図である。
図9】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の部分拡大図であり、(A)は、基板の端部の第1例を示し、(B)は、基板の端部の第2例を示す図である。
図10】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置の特性例を示す図である。
図11】本発明の第3実施形態によるアンテナ装置の構成例を示す図である。
図12】本発明の第3実施形態によるアンテナ装置の特性例を示す図である。
図13】従来のアンテナ装置を説明するための図であり、(A)は、従来のアンテナ装置の構成を示し、(B)は、そのアンテナ特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
(構成の説明)
図1は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10の構成例を示す図であり、図2は、アンテナ装置10の2面図(上面図、側面図)である。
【0020】
アンテナ装置10は、基板11と、複数対のアンテナ素子12,13と、チョーク部14,15とを備えている。基板11の主面上には、複数のアンテナ素子12からなるアンテナ素子列と複数のアンテナ素子13からなるアンテナ素子列とが並列に配列されている。複数のアンテナ素子12と複数のアンテナ素子13とは対をなしている。図1および図2の例では、基板11上には5対のアンテナ素子12,13が配列されている。ただし、この例に限定されず、アンテナ装置10は、一対のアンテナ素子12,13のみを備えてもよく、例えばレーダ装置の仕様に応じて、そのアンテナ素子の数は任意に設定し得る。複数のアンテナ素子12は、マイクロストリップ線路を通じて給電点に接続されている。同様に、複数のアンテナ素子13もマイクロストリップ線路を通じて給電点に接続されている。
【0021】
本実施形態では、対をなすアンテナ素子12とアンテナ素子13との配列方向における基板11の長さを基板幅WSとする(図1参照)。アンテナ装置10と接続される送受信回路ユニット(図示省略)がアンテナ装置10と一体化される場合、例えば、基板幅WSは、送受信回路ユニットのサイズに合わせて設定される。
【0022】
対をなすアンテナ素子12とアンテナ素子13との間の距離は、例えば、自由空間中における1波長λの2分の1(=λ/2)に相当する距離に設定される。この場合、−90°〜+90°の範囲の検知対象の方位角に対し、アンテナ素子12,13によりそれぞれ受信される受信信号間の位相差として、―180°から+180°の範囲の位相差を得ることができる。これにより、アンテナ素子12,13によりそれぞれ受信される受信信号の位相差(または振幅差)から検知対象の方位角を知ることが可能となっている。
【0023】
対をなすアンテナ素子12とアンテナ素子13との配列方向における基板11の端部EG1,EG2とアンテナ素子12,13との間には、導電部材からなるチョーク部14,15が形成されている。図1の例では、基板11の端部EG1とアンテナ素子12との間には複数のチョーク部14が形成され、基板11の端部EG2とアンテナ素子13との間にも複数のチョーク部15が形成されている。その詳細については後述する。基板11の裏面には、必要に応じてグランド板16が形成される。
【0024】
図3は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10の部分拡大図であり、(A)は、チョーク部15の第1例に係るチョーク部15Aを示し、(B)は、チョーク部15の第2例に係るチョーク部15Bを示す。図3では、図1および図2に示すアンテナ装置10の構成要素のうち、アンテナ素子12とアンテナ素子13との間の中間点からアンテナ素子13側の領域の構成のみを示しており、アンテナ素子12とチョーク部14を含む反対側の領域の構成は省略されている。
【0025】
以下ではチョーク部15に着目して説明するが、チョーク部14についてもチョーク部15と同様に説明され、また、アンテナ素子12とチョーク部14との間の配置関係もアンテナ素子13とチョーク部15との間の配置関係と同様である。
図1から図3に示すように、チョーク部15(15A,15B)は、対をなすアンテナ素子12,13の配列方向と略直交する方向に延在するように形成された凹部(溝)を有している。
【0026】
本実施形態では、図3(A)に例示する第1例によるチョーク部15Aの凹部の開口方向は、アンテナ素子12,13が配置された基板11の主面と略平行をなすように設定される。具体的には、チョーク部15Aは、その開口部が基板11のアンテナ素子12,13に向かうようにして基板11上に配置される。従って、チョーク部15Aは、一般的なチョーク構造を横にして基板11上に配置した構成を有している。図3(A)に示す例の場合、アンテナ素子12,13により送受信される電波の偏波面が図3(A)の紙面と平行をなすように、アンテナ装置10の姿勢が設定される。即ち、アンテナ素子12,13により送受信される電波の偏波面が、基板11の主面と略直交し、且つ、チョーク部15Aの長手方向と略直交するように、アンテナ装置10の姿勢が設定される。また、アンテナ素子12,13により送受信される電波の電界方向がチョーク部15Aの溝の深さ方向と平行となるように、アンテナ装置10の姿勢が設定される。
【0027】
チョーク部15Aの配置位置は、チョーク部15Aで発生した回折波がアンテナ素子12,13に受信されることによりアンテナ特性が改善されることを限度として、基板11の端部EG2とアンテナ素子13との間であれば任意である。好ましくは、チョーク部15Aは、アンテナ素子13に近接した位置に配置される。
チョーク部15Aの凹部の深さh(チョークの長さ)は、基板11上を伝搬する電波の1波長λの4分の1(=λ/4)に設定されており、凹部の底面の幅w(チョークの幅)は1波長λの2分の1以下に設定されている。これにより、チョーク部15Aは、チョークとして機能する。
【0028】
また、図3(B)に例示する第2例によるチョーク部15Bの凹部の開口方向は、アンテナ素子13が配置された基板11の主面と略垂直をなすように設定されている。図3(A)の第1例と同様に、チョーク部15Bの配置位置は、チョーク部15Bで発生した回折波がアンテナ素子12,13に受信されることによりアンテナ特性が改善されることを限度として、基板11の端部EG2とアンテナ素子13との間であれば任意である。好ましくは、チョーク部15Bは、アンテナ素子13に近接した位置に配置される。チョーク部15Bの凹部の深さh(チョークの長さ)は、伝搬する電波の1波長λの4分の1(λ/4)に設定されており、凹部の底面の幅w(チョークの幅)は1波長λの2分の1以下に設定されている。これにより、チョーク部15Bは、チョーク部15Aと同等にアンテナ素子12,13により送受信される電波の偏波面が図3(B)の紙面と平行をなし、その電界方向がチョーク部15Bの溝の深さ方向と平行となる状況下でチョークとして機能する。
【0029】
次に、第1実施形態において、アンテナ装置10が備えるチョーク部15の技術的意義を説明する。
図4は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10が備えるチョーク部15の技術的意義を説明するための図であって、アンテナ装置10の基板幅WSとアンテナ特性との関係の一例を示す図である。同図(A)は、基板幅WSが15mmのときの方位角θと位相差θdとの関係を示し、同図(B)は、基板幅WSが50mmのときの方位角θと位相差θdとの関係を示し、同図(C)は、基板幅WSが100mmのときの方位角θと位相差θdとの関係を示す図である。ここで、図4において、実線で示す特性は、回折波の影響がない場合の特性を示し、点線で示す特性は実験結果を示す。また、方位角θは、検知対象が存在する方向を示す角度である。本実施形態では、方位角θは、基板11の主面と直交する軸であって対をなすアンテナ素子12とアンテナ素子13との間の中間点を通る軸を基準とした角度である。また、位相角θdは、対をなすアンテナ素子12とアンテナ素子13のそれぞれによって受信された受信信号間の位相差である。
【0030】
本発明者は、図4に例示するように、平面アンテナにおいて、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2とが近接している場合(図4(A))と、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の距離が充分に離れている場合(図4(C))に、アンテナ特性の特性線の揺らぎが低減し、方位角θと位相差θdとの関係が一対一の関係となるという実験結果を得た。
【0031】
図4に示す例では、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2とが近接する基板幅WSが15mmの場合と、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の距離が充分に離れる基板幅WSが100mmの場合に比較して、基板幅WSが50mmの場合(図4(B))に方位角θに対する位相差θdの揺らぎの振幅が最も大きくなっている。
【0032】
これに対し、基板幅WSが15mmの場合(図4(A))、即ち、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2とが近接している場合、誤差原因となる位相差θdに現れる揺らぎの間隔が方位角θの範囲よりも広くなり、その揺らぎの数は減少する。これにより、方位角θと位相差θdとの関係が一対一の関係となり、位相差θdから方位角θを特定することが可能になる。また、基板幅WSが100mmの場合(図4(C))、即ち、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の距離が充分に離れている場合、基板11の端部EG1,EG2まで伝搬する波の振幅が減衰するため、回折波の振幅が小さくなる。これにより、アンテナ特性における位相差θdの揺らぎの数は増えるが、この揺らぎの傾きが小さくなる傾向を示す。このため、上述の基板幅WSが15mmの場合と同様に、方位角θと位相差θdとの関係が一対一の関係となり、位相差θdから方位角θを特定することが可能になる。
【0033】
上記の実験結果から理解されるように、アンテナ素子12,13と基板の端部EG1,EG2とが近接している場合(図4(A))、または、アンテナ素子12,13と基板の端部EG1,EG2との間の距離が充分に離れている場合(図4(C))、アンテナ特性において受信信号間の位相差θdに表れる揺らぎの影響が低減し、位相差θdから方位角θを特定することが可能になる。従って、基板幅WSを調整することにより、アンテナ特性を改善することも可能である。
【0034】
しかしながら、必ずしもアンテナ特性を優先して基板幅WSを設定することができない事情が存在する。例えば、アンテナ装置10と回路ユニット(図示省略)とを一体化する場合、基板幅WSは回路ユニットのサイズよりも小さくすることはできない。従って、この場合、上述の図4(A)に例示する実験結果を得るためにアンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間を有効に近接させることができないおそれがある。逆に、上述の図4(C)に例示する実験結果を得るためにアンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の距離を充分に離すと、基板11が大型化し、アンテナ装置10が大型化する。従って、この場合、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間を有効に離すことができないおそれがある。
【0035】
そこで、本発明者は、チョーク部14,15を、アンテナ素子12,13と端部EG1,EG2との間の領域に形成し、チョーク部14,15を回折点として機能させることを見出した。これにより、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1、EG2との間を近接させた場合(図4(A))と同様に、受信信号間の位相差θdと検知対象の方位角θとが一対一の対応関係を有するアンテナ特性を得ることができる。このため、基板11の基板幅WSを調整することなく、アンテナ特性を改善することができ、一対のアンテナ素子12,13により受信される受信信号間の位相差θdから検知対象の方位角θを特定することが可能になる。
【0036】
(動作の説明)
次に、第1実施形態によるアンテナ装置10の動作を説明する。
ここでは、図1から図3に示すチョーク部15に着目し、このチョーク部15が図3(A)に示すチョーク部15Aであるものとして、検知対象から反射された電波を受信する場合の動作を説明する。
【0037】
検知対象からの反射波(電波)は、アンテナ素子12およびアンテナ素子13に対し概ね同じ入射角で受信される。また、基板11の端部EG1,EG2よりもアンテナ素子12,13に近接して配置されたチョーク部15Aに入射した反射波は、チョーク部15Aにより回折される。即ち、チョーク部15Aは、検知対象からの反射波の回折点として機能して回折波を発生させる。そして、基板11の端部EG2で回折された反射波がアンテナ素子12,13に受信される際に、端部EG2で回折された反射波がチョーク部15Aにより回折された反射波の干渉を受けて減衰される。この結果、アンテナ装置10のアンテナ特性は、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG2とを近接させた場合(図4(A))と同様に、受信信号間の位相差θdと検知対象の方位角θとが一対一の対応関係を有した特性となる。
【0038】
図5は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10の特性例を示す図である。
図5において、実線は、チョーク部15Aを備えない従来のアンテナ特性を示し、点線および一点鎖線は、チョーク部15Aを備えた場合のアンテナ特性を示す。このうち、点線は、チョーク部15Aの凹部における底面の幅wが0.4mmの場合のアンテナ特性を示し、一点鎖線は、チョーク部15Aの凹部における底面の幅wが0.8mmの場合のアンテナ特性を示している。
【0039】
図5に例示するアンテナ特性から理解されるように、チョーク部15Aを設けたことにより、アンテナ特性における位相差θdの揺らぎが改善されている。図5の例では、方位角θが0°付近を除けば、位相差θdと方位角θが一対一の関係にあるため、位相差θdから方位角θを特定することが可能になる。ただし、図5の例における方位角θが0°付近の特性も、チョーク部15Aを調整することにより改善することが可能である。従って、アンテナ素子12,13により受信される受信信号間の位相差θdから検知対象の方位角θを特定し、基板11の端部EG1,EG2で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態では、チョーク部15Aは、本来のチョークとして機能することにより、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の基板表面を伝搬する電波を遮断する。これにより、アンテナ素子12,13に受信される不要波を低減させ、アンテナ特性をいっそう改善することが可能になる。
【0041】
参考までに、図3(B)に示すチョーク部15Bを例として、チョークの動作を補足説明する。
図6は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置10が備えるチョーク部15Bの動作を補足説明するための図である。ここで、同図(A)は、チョーク部15Bと電界Eとの関係を示す図であり、同図(B)〜(D)は、チョーク部15Bにおける電界Eの振る舞いを示す図である。
【0042】
チョーク部15Bが本来のチョークとして機能するためには、図6(A)に示すように、チョーク部15Bに対する電界Eの向き(即ち、電波の偏波面の向き)が、チョーク部15Bの凹部(溝)の延在方向に対して垂直方向となり、その凹部の深さ方向に対して平行方向となる必要がある。チョーク部15Bでは、図6(B)に示すように、チョーク部15Bの凹部に入射せずに直進する伝搬波(実線)の電界と、チョーク部15Bの凹部に入射し、短絡端(凹部の底面)で反射して戻る伝搬波(点線)の電界とが存在する。
【0043】
ここで、図6(C)に示すように、チョーク部15Bの凹部に入射せずに直進した伝搬波の電界Eの位相は維持される。これに対し、図6(D)に示すように、チョーク部15Bの凹部に入射した電界Eの位相は、チョーク部15Bの凹部の短絡端で180°回転する。このため、図6(B)に示すように、チョーク部15Bの凹部に入射せずに直進した伝搬波の電界と、チョーク部15Bの凹部に入射して戻った伝搬波の電界とが打消し合う。これにより、基板11上の電界が低減され、チョーク部15Bにより基板表面を伝搬する電波が遮断される。図3(A)に示すチョーク部15Aのチョークとしての動作についても同様に説明される。ただし、本実施形態では、このようなチョークとしての動作の過程で、検知対象からの反射波がチョーク部15(15A,15B)に入射することによりチョーク部15(15A,15B)が発生させる回折波を利用して基板11の端部EG1,EG2で発生された回折波を抑圧することにより、アンテナ特性を改善している。
【0044】
以上、第1実施形態を説明したが、本実施形態によれば、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間に回折点として機能するチョーク部14,15を備えたので、アンテナ素子12,13と基板11の端部EG1,EG2との間の距離を短縮した場合と類似した効果が得られる。これにより、アンテナ素子12,13によりそれぞれ受信される受信信号間の位相差θdと検知対象の方位角θとが一対一の対応関係を有するアンテナ特性が得られる。従って、アンテナ装置の寸法(サイズ)や配置形態などに影響を与えることなく、基板11の端部EG1,EG2で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制することができ、受信精度を改善することができる。
【0045】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図7は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置20の構成例を示す図であり、図8は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置20の2面図である。
【0046】
第2実施形態によるアンテナ装置20は、上述の第1実施形態によるアンテナ装置10の構成において、基板11に代えて基板21を備えている。基板21の端部EG1,EG2には、基板21の端部EG1,EG2に入射する電波の回折を緩和するための傾斜面が形成されている。第2実施形態では、基板21の端部EG1,EG2に形成された傾斜面は、基板21の外方に向けて凸状に形成された曲面である。ただし、この例に限定されず、例えば、基板21の端部EG1,EG2に形成された傾斜面は、多角形の形状を有してもよい。
【0047】
図9は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置20の部分拡大図であり、(A)は、基板21の端部EG2の第1例を示し、(B)は、基板21の端部EG2の第2例を示す図である。なお、図9では、図7および図8のアンテナ装置20の構成のうち、アンテナ素子12とアンテナ素子13との間の中間点からアンテナ素子13側の領域を示しており、アンテナ素子12等を含む反対側の領域は省略されている。
【0048】
図9(A)に示す第1例による基板21の端部EG2は、その断面形状が概略扇形の形状を有し、一定の回転半径を有する曲面を有している。即ち、基板11の上面から側面にかけて連続した面が形成されており、基板21の端部EG2の上面側に角が存在しない。このため、基板21の端部EG2で反射波が回折される際に、回折による反射波の放射方向が分散され、回折が緩和される。
【0049】
図9(B)に示す第2例では、上述の図9(A)に示す第1例の構成において、基板21の端部EG2の裏面に、端部EG2に形成された曲面と連続した面を有する基板延長部210を更に有している。この第2例では、基板延長部210を設けたため、グランド板16は、基板延長部210をよけて形成される。
【0050】
上述の図9(A)に示す第1例によれば、基板21の端部EG2の裏面側の角で回折が発生し、この回折によりアンテナ特性が劣化する場合がある。これに対し、図9(B)に示す第2例によれば、基板延長部210を備えたことにより、基板21の端部EG2の裏面側の角(回折発生部位)とアンテナ素子13との間の伝搬距離が延長される。これにより、端部EG2の裏面側で発生する回折による影響を緩和することができる。
【0051】
図10は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置20の特性例を示す図である。
図10において、実線は、チョーク部を備えず、且つ、基板の端部に曲面を形成しない従来のアンテナ特性を示し、点線は、上述の第1例によるアンテナ装置20のアンテナ特性を示している。同図に示す特性から理解されるように、アンテナ装置20によれば、アンテナ特性における位相差θdの揺らぎを緩和することができ、アンテナ素子12,13によりそれぞれ受信される受信信号の位相差θdと検知対象の方位角θとが一対一の対応関係を有するアンテナ特性が得られる。従って、基板21の端部EG2で発生する回折波に起因したアンテナ特性の劣化を抑制することができ、受信精度を改善することができる。
【0052】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図11は、本発明の第3実施形態によるアンテナ装置30の構成例を示す図である。
アンテナ装置30は、上述した第1実施形態によるアンテナ装置10と第2実施形態によるアンテナ装置20とを組み合わせた構成を有している。即ち、アンテナ装置30は、第1実施形態によるアンテナ装置10の構成において、基板11に代えて、第2実施形態によるアンテナ装置20が備えた基板21を備えている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0053】
第3実施形態によるアンテナ装置30によれば、第1実施形態と同様に、アンテナ素子12,13と基板21の端部EG1,EG2との間に回折点として機能するチョーク部14,15を備えたので、第1実施形態と同様に、アンテナ素子12,13と基板21の端部EG1,EG2との間の距離を短縮した場合と類似した効果が得られる。加えて、アンテナ装置30によれば、第2実施形態と同様に、基板21の端部EG1,EG2に曲面を形成したので、この端部EG1,EG2での回折を緩和することができる。
【0054】
図12は、本発明の第3実施形態によるアンテナ装置30の特性例を示す図である。
図12において、実線は、チョーク部15を備えず、且つ、基板の端部に曲面を形成しない従来のアンテナ特性を示し、点線は、第3実施形態によるアンテナ装置30のアンテナ特性を示している。同図に示す特性から理解されるように、アンテナ装置30のアンテナ特性では、図5に示す第1実施形態によるアンテナ装置10の特性と比較して、方位角θが0°付近での極値が解消されている。また、アンテナ装置30のアンテナ特性では、図10に示す第1実施形態によるアンテナ装置20の特性と比較して、方位角θが0°付近での平坦性が解消されている。このため、アンテナ装置30によれば、全域にわたって位相差θdと方位角θとが一対一の対応関係となり、位相角θdから方位角θを特定することが可能となっている。従って、第3実施形態によれば、上述した第1実施形態および第2実施形態に比較して、更に効果的にアンテナ特性の劣化を抑制することができ、受信精度を改善することが可能になる。
【0055】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、本発明は、上述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の変形、修正、置換、付加等が可能である。
例えば、上述の実施形態では、アンテナ素子12,13と基板11,21の端部EG1,EG2との間の領域にチョーク部15(15A,15B)を形成するものとしたが、端部EG1,EG2で発生された回折波を減衰させることができることを限度に、チョーク部15に代えて溝が省略された導電部材を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
10,20,30 アンテナ装置
11,21 基板
12,13 アンテナ素子
14,15,15A,15B チョーク部
16 グランド板
210 基板延長部
EG1,EG2 基板の端部
WS 基板幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13