特許第6268519号(P6268519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268519
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】製紙用表面紙力増強剤および表面塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/18 20060101AFI20180122BHJP
   D21H 19/12 20060101ALI20180122BHJP
   D21H 17/42 20060101ALI20180122BHJP
   D21H 17/28 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   D21H21/18
   D21H19/12
   D21H17/42
   D21H17/28
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-256914(P2013-256914)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-113541(P2015-113541A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相野谷 卓
(72)【発明者】
【氏名】中川 玲
(72)【発明者】
【氏名】原口 剛士
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−109594(JP,A)
【文献】 特開2002−227095(JP,A)
【文献】 特開2010−196192(JP,A)
【文献】 特開2007−126771(JP,A)
【文献】 特開2008−179910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B1/00−37/18
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド類、アニオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類、ならびに架橋性ビニルモノマーからなるモノマー混合物を重合して得られる、重量平均分子量が300,000〜5,000,000である水溶性ポリマー(A)と、酵素減成処理澱粉(B)を、重合開始剤の存在下に反応させて得られる反応生成物を含有することを特徴とする製紙用表面紙力増強剤。
【請求項2】
前記モノマー混合物が、アクリルアミド類50〜99.5重量%、アニオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類0.3〜45重量%、ならびに架橋性ビニルモノマー0.001〜5重量%からなる請求項1に記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項3】
前記架橋性ビニルモノマーが、連鎖移動系置換基を有するものである請求項1又は2に記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項4】
前記モノマー混合物にカチオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類が含まれるものである請求項1〜3のいずれかに記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項5】
前記モノマー混合物に連鎖移動剤が含まれるものである請求項1〜4のいずれかに記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項6】
酵素減成処理澱粉(B)の重量平均分子量が10,000〜200,000に調製されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項7】
水溶性ポリマー(A)及び酵素減成処理澱粉(B)の混合重量比率〔(A)/(B)〕が、20/80〜95/5である請求項1〜6のいずれかに記載の製紙用表面紙力増強剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製紙用表面紙力剤を原紙に塗工してなる表面塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用表面紙力増強剤及び当該表面紙力増強剤を原紙の表面に塗工してなる表面塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まり、コスト削減などの要請により、古紙パルプの増配あるいは原紙自体の軽量化が進んでいる。そのため、原料パルプに紙力増強剤を添加する従来の内部添加方法では、紙力強度を維持することが困難となってきており、その強度低下を補うべく、製紙用表面紙力剤を原紙の表面に塗工する表面塗工方式が検討されている。また、該表面塗工においては、生産性向上の観点から、抄紙マシンの高速化が進んでおり、2ロール型サイズプレスの従来方式からゲートロールやロッドメタリング等のフィルム転写方式のサイズプレスに替わっている。そのため、塗工液の粘度が高いと、ロール上で塗工液が紙に均一に広がらず、結果として、塗工ムラが発生しやすくなっており、比較的低粘度の塗工液であっても、紙力強度を維持できる表面紙力増強剤が求められている。
【0003】
一般的に、塗工液の粘度を下げるには、塗工液中の表面紙力増強剤の濃度を低下させればよいが、この方法では、原紙に対する紙力増強剤の固形付着量が減少し、要求される紙力強度が十分に得られないため、少量の薬品添加でも充分な紙力強度を発現する紙力増強剤が求められている。
【0004】
紙の強度を高める手段としては、例えば、古紙パルプを含有する原料パルプから製造された原紙の両面に、澱粉を主体とした水溶性高分子の塗工液を塗布する技術が知られている(特許文献1)が、得られる塗工紙の紙力強度が不十分である。また、澱粉類、ポリビニルアルコール類、アニオン性ポリアクリルアミド類から選ばれた少なくとも1種の水溶性樹脂と硫酸アンモニウムを含有する表面塗工剤が知られている(特許文献2)が、塗工剤の粘度が高く、塗工適性に劣っている。
【0005】
また、カチオン化澱粉を含有する水溶液中でアクリルアミドを重合してなる共重合体を用いる方法も知られている(特許文献3)。しかしながら、該方法によれば、塗工適性に劣るだけでなく、経時的に粘度が上昇するため、長期保管に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−190064号公報
【特許文献2】特開平11−241295号公報
【特許文献3】特許第3876522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、少量添加でも紙力強度に優れ、また比較的低粘度で塗工適性に優れた表面紙力増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の特性に鑑み、用いる澱粉やポリアクリルアミドの分子量及び粘度、当該混合比率、反応方法などに着目して、鋭意検討を重ねた結果、特定の反応生成物を含有する表面紙力増強剤がかかる課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アクリルアミド類、アニオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類、ならびに架橋性ビニルモノマーからなるモノマー混合物を重合して得られる、重量平均分子量が300,000〜5,000,000である水溶性ポリマー(A)と、酵素減成処理澱粉(B)を、重合開始剤の存在下に反応させて得られる反応生成物を含有することを特徴とする製紙用表面紙力増強剤;および当該表面紙力増強剤を原紙に塗工してなる表面塗工紙に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面紙力増強剤は、原紙に少量塗工した場合でも良好な紙力強度を発現する。また、比較的低粘度であるため、転写方式サイズプレスによる塗工適性にも優れ、さらに長期保管しても経時的な粘度上昇が小さく、製品安定性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の表面紙力増強剤は、水溶性ポリマー(A)(以下、成分(A)という)および酵素減成処理澱粉(B)(以下、成分(B)という)を構成成分として含む。
【0012】
前記成分(A)には、アクリルアミド類(以下、成分(a1)という)、アニオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類(以下、成分(a2)という)、ならびに架橋性ビニルモノマー(以下、成分(a3)という)からなる原料モノマー混合物が用いられる。また該モノマー混合物には、更にカチオン性ビニルモノマー及び/又はその塩(以下、成分(a4)という)、又は連鎖移動剤を配合してもよい。
【0013】
成分(a1)としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられ、これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
原料モノマー混合物における成分(a1)の構成比率としては、特に限定されないが、十分な紙力効果を確保する観点から、通常は50〜99.5重量%、好ましくは70〜99重量%である。
【0015】
成分(a2)としては、アニオン性ビニルモノマー及びそれらの塩類からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いる。アニオン性ビニルモノマーの具体例としては、アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの有機スルホン酸、また、それらの塩類としては、前記各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの中でも重合性の面からアクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0016】
原料モノマー混合物における成分(a2)の構成比率としては、特に限定されないが、塗工時に紙中へ表面紙力増強剤を浸透させることで貼合性を高め、かつ十分な紙力増強効果を確保する観点から、通常は0.3〜45重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0017】
成分(a3)としては、特に限定されないが、連鎖移動性置換基を有するものが好ましい。これにより、高分子量化した場合にも比較的低粘度の共重合体を得ることができる。
【0018】
このような連鎖移動性置換基としては、アリル基、ポリアルキレングリコール基または一般式(1):−CONR[式中、R は水素原子またはメチル基を表し、R はメチル基、イソプロピル基、又は一般式(2):−C(CH−CH−R(Rはカルボキシル基、若しくはこれらの炭素数1〜4のアルキルエステルまたはアセチル基を表す)で表される基を表す]で表されるN−置換アミド基が挙げられる。
【0019】
連鎖移動性置換基として、アリル基を有するビニルモノマーには、例えば、アリル(メタ)アクリレート、N−アリル(メタ)アクリルアミド、N−ジアリル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。また、連鎖移動性置換基として、ポリアルキレングリコール基を有するビニルモノマーには、少なくとも2個のオキシアルキレン基の繰り返し単位を有するものが挙げられる。具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリトリメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、連鎖移動性置換基として、前記一般式(1)で表されるN−置換アミド基を有するビニルモノマーの具体例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ダイアセトンアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸およびこれらの炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられる。これらの中では、分岐および架橋反応の確実性から、N,N−ジメチルアクリルアミドを使用することが好ましい。
【0020】
また、成分(a3)としては、連鎖移動性置換基を有さない架橋性モノマーを使用しても良い。具体例としては、メチロールアクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビス(メタ)アクリルアミド類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等のジビニルエステル類、エポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類、ジビニルベンゼン、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、トリアリルアミン、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラアリルピロメリラートなどが挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上、又は前段落記載の架橋性モノマーと組み合わせて使用しても良い。
【0021】
原料モノマー混合物における成分(a3)の構成比率としては、特に限定されないが、通常は0.001〜5重量%、好ましくは0.01〜2.5重量%である。5重量%を超えると、分岐および架橋が進み過ぎてゲル化しやすい傾向にある。
【0022】
該モノマー混合物には、任意で成分(a4)を含有しても良い。成分(a4)としては、アミノ基や第4級アンモニウム基などのカチオン性官能基を少なくとも1つ有し、かつラジカル重合性を有するものであれば、特に限定されず、各種公知のものを使用することができる。例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第3級アミノ基含有ビニルモノマー又はそれらの塩、および前記第3級アミノ基含有ビニルモノマーと4級化剤を反応させてなるビニルモノマーの第4級アンモニウム塩などが挙げられる。また、該ビニルモノマー塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩であっても、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。また、反応させる4級化剤としては、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等が挙げられる。これらの中では、重合性の面から、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0023】
原料モノマー混合物における成分(a4)のカチオン性ビニルモノマー及び/又はそれらの塩類の構成比率としては、特に限定されないが、十分な紙力増強効果を確保する観点から、通常は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0024】
本発明の成分(A)の重合に際しては、連鎖移動剤を必ずしも使用する必要はないが、連鎖移動剤を用いることで、架橋反応前のポリマー鎖がより短くなり、低粘度で、より高分子量のポリマーを得ることが可能となる。連鎖移動剤の使用態様については特に限定されないが、通常は、予め原料モノマー混合物に添加し、重合に供せられる。
連鎖移動剤としては、例えば、2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸カリウムやメタリルスルホン酸アンモニウムなどのメタリルスルホン酸塩、エタノール、イソプロピルアルコールやペンタノール等のアリル基を有さないアルコール類、四塩化炭素、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クメン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンなどが挙げられるが、これらの中では、水との混和性から、メタリルスルホン酸ナトリウム、2−メルカプトエタノールが好ましい。
【0025】
モノマー混合物に対する連鎖移動剤の使用量は、特に限定されないが、通常は0.001〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%である。5重量%を超えると、ポリマー鎖が短くなりすぎ、結果として低分子量のポリマーが生成されやすくなり、十分な紙力効果を発揮しにくくなる。
【0026】
本発明の成分(A)で用いる原料モノマー混合物においては、本発明の目的を損なわない範囲で、成分(a1)〜(a4)以外のラジカル重合性ビニルモノマーを併用しても良い。具体的には、芳香族ビニルモノマー、アルキル(メタ)アクリレート類、カルボン酸ビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル、ビニルアルコールなどが挙げられる。芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの分子中に芳香環を有する単官能モノマー類が挙げられる。また、アルキル(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの単官能モノマー類が挙げられる。カルボン酸ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0027】
本発明の表面紙力増強剤に含まれる前記反応生成物は、次の特定方法により製造される。すなわち、成分(a1)〜(a3)、及び必要により、成分(a4)又は連鎖移動剤からなる原料モノマー混合物を共重合させて得られた成分(A)と、成分(B)または該水分散液とを、重合開始剤の存在下に反応させることにより得られる。
【0028】
成分(A)は、従来公知のモノマー滴下重合法、モノマー溶液を一括して仕込む同時重合法、又はこれらを組み合わせた重合方法で合成することができる。なお、モノマー混合液に用いる溶媒としては、各構成成分を溶解又は分散させ、重合反応に悪影響を与えないものであれば、特に限定されないが、通常、水を用いることが好ましい。
【0029】
上記方法で得られる成分(A)は、平均重量分子量が300,000〜5,000,000であることが必須とされ、好ましくは500,000〜4,000,000である。また、成分(A)の形態としては、水溶液であることが望ましい。該分子量が300,000未満の場合には、十分な紙力強度が得られず、また、5,000,000を超える場合には、粘度が高くなり、塗工適性に問題が生じる。
【0030】
上記成分(B)の原料に使用する澱粉としては、特に限定されず、各種公知のものが使用でき、例えば、コーン、馬鈴薯、タピオカ、小麦、米、サゴヤシ、ワクシーメイズから得られる各種の澱粉類の他、カチオン化澱粉、酸化澱粉、リン酸変性澱粉、カルボキシメチル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、カルバミルエチル化澱粉、ジアルデヒド化澱粉、酢酸変性澱粉等の澱粉誘導体などが挙げられる。また、市販品を使用しても差支えない。
【0031】
前記反応生成物の製造に用いる成分(B)は、未変性澱粉又は変性澱粉等に後述のような減成処理を施すことにより得られるが、本発明では、成分(A)を調製した後、成分(B)の構成成分である澱粉および減成剤を添加して、変性させても良い。また、該減成処理においては、70〜80℃で30〜60分加熱撹拌するのが好ましく、さらに、減成剤を、90℃で10分加熱撹拌するのがより好ましい。
【0032】
成分(B)に係る減成処理とは、前記原料澱粉に無機過酸化物を作用させて酸化処理する方法(以下、方法1という)、前記原料澱粉を酵素で処理する方法(以下、方法2という)などがある。方法1で用いる無機過酸化物としては、特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸塩、ペルオキソ二硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなど)、過酸化水素などが挙げられる。当該過酸化物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。さらに、過酸化水素に、硫酸鉄および硫酸銅のうちの少なくとも1種の水溶性重金属塩を組み合わせても使用できる。これらの中でも過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムのうちのいずれか少なくとも1種を好ましく使用できる。方法2では、変性酵素として、各種細菌、動植物の生産するα−アミラーゼが好ましく使用される。
【0033】
上記のようにして得られた成分(B)の重量平均分子量は通常、10,000〜200,000、好ましくは20,000〜100,000であることが望ましい。該分子量が10,000未満の場合は、十分な紙力強度が得難くなりやすく、また、200,000を超えると、成分(A)に混合した際に粘度が高まり、結果として、塗工適性に問題が生じやすくなる。
【0034】
成分(A)および成分(B)の混合時の重量比率〔成分(A)/成分(B)〕は、20/80〜95/5、好ましくは30/70〜70/30である。該比率が20/80より小さいと、成分(A)が減るため、紙力強度が低下する傾向がある。一方、95/5を越えると、成分(A)が増加するため、混合物の粘度が高くなり、塗工適性が低下する傾向があり、また、ポリアクリルアミド成分の増加で高コストとなりやすい。
【0035】
前記反応生成物の製造に際しては、上記成分(A)および成分(B)の混合液に重合開始剤を添加し、75〜85℃の温度で1時間重合することが望ましい。当該製造における反応の詳細については不明な点もあるが、水素引き抜き反応が進行し、成分(A)および成分(B)の相互間でグラフト化が生じているものと推察される。ここで、重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩や、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩などのアゾ系重合開始剤が挙げられるが、これらの中でも、コストの観点から、過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムを用いることが望ましい。また、任意ではあるが、有機過酸化物のラジカル発生を容易にし、水素引抜き効果を促進できる点で還元剤を併用しても良い。還元剤としては、亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸水素塩、トリエタノールアミンや硫酸第一銅などが挙げられる。
【0036】
かくして得られた反応生成物を含有する本発明の表面紙力増強剤は、濃度24重量%の水溶液における粘度が、通常は1,000〜20,000mPa・s程度、好ましくは1,500〜10,000mPa・sである。本発明の表面紙力増強剤には、本発明の目的・効果を逸脱しない限り、前記の反応生成物の他に、必要に応じて、各種添加剤を配合して調製できる。該添加剤としては、消泡剤、防腐剤、キレート剤、水溶性アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0037】
本発明の表面紙力増強剤を含む塗工液としては、該表面紙力増強剤をそのまま、又は水などで希釈しても良いが、必要に応じて各種添加剤を配合できる。該添加剤としては、例えば、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉などの澱粉類、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類、アルギン酸ソーダ等の水溶性高分子等の紙力増強剤やロジン類、AKD、ASA、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体等のサイズ剤や、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、顔料、染料などが挙げられる。
【0038】
前記のように調製される塗工液の粘度は、濃度5重量%において、50℃で1〜40mPa・sである。該粘度が40mPa・s以下であると、表面紙力増強剤が紙中へ浸透し易くなり、十分な貼合性及び紙力効果が発揮される。
【0039】
前記塗工液を紙や板紙に塗工するには、サイズプレス、バーコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーターやキャレンダーなどでも行えるが、特に、ゲートロールコーター、ブレードコーターあるいはロッドメタリングなどの高速塗工機の使用にあたり、当該塗工液を適用することが、紙力強度および塗工適性の面で有効である。
【0040】
また、前記塗工液は、コート原紙、新聞用紙、ライナー、中芯、印刷筆記用紙、フォーム用紙、PPC用紙、インクジェット用紙、感熱紙等の各種原紙に塗工することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、部および%はいずれも重量基準による。なお、便宜上単量体等については、下記のように略語で示す。
【0042】
AM:アクリルアミド
AA:アクリル酸
IA:イタコン酸
DM:N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
MBAA:メチレンビス(メタ)アクリルアミド
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
2MET:2−メルカプトエタノール
APS:過硫酸アンモニウム
KPS:過硫酸カリウム
【0043】
(粘度)
B型粘度計(東機産業(株)製)を用いて、25℃に調整したサンプル(濃度24.0%)の粘度を測定した。
(分子量)
ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法により、以下の測定条件で分子量を測定した。なお、カチオン基を含むポリマーについては、アルカリで加水分解した後に測定した。
・装置:HLC8020GPC(東ソー(株)製)
・使用カラム:TSKgel GMPWXL(東ソー(株)製)
・検出器:Triple Detector Aray Model 301
(Viscotec製)
・展開溶媒:0.3Mリン酸水溶液(pH8.0)
・測定値:ポリエチレンオキシド換算値で得られた重量平均分子量を測定値とした。
【0044】
合成例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管および2つの滴下ロートを備えた反応装置(I)に、イオン交換水150.0部を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、85℃まで加熱した。別途、滴下ロート(1)に50%のAM水溶液420.4部、AA4.3部、DMAA1.1部、SMAS4.4部、およびイオン交換水166.3部を仕込んだ。また、滴下ロート(2)にAPS0.31部とイオン交換水100部を仕込んだ。次に、滴下ロート(1)および(2)より反応装置(I)に3時間かけて滴下した。滴下終了後、APS0.22部とイオン交換水10.0部を入れ1時間撹拌した。60℃まで冷却後、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH 7.0になるよう調整し、水溶性ポリマー(A−1)を得た。該物性を表1に表記する(以下同様)。
【0045】
合成例2〜7
モノマーの種類、又はモノマーあるいは連鎖移動剤の仕込み量を変えた以外は、合成例1に従って合成し、水溶性ポリマー(A−2)〜(A−7)を得た。
【0046】
合成例8
合成例1の方法でSMASを加えずに合成し、水溶性ポリマー(A−8)を得た。
【0047】
合成例9
連鎖移動剤をSMASから2METに変えて、合成例1に従って合成し、水溶性ポリマー(A−9)を得た。
【0048】
合成例10
架橋性ビニルモノマーをDMAAからMBAAに変えて、合成例1に従って合成し、水溶性ポリマー(A−10)を得た。
【0049】
比較合成例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管および2つの滴下ロートを備えた反応装置(I)に、イオン交換水150.0部を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、85℃まで加熱した。滴下ロート(1)に50%のAM水溶液431.2部、AA4.4部、SMAS4.4部、およびイオン交換水166.3部を仕込んだ。また、滴下ロート(2)にAPS0.31部とイオン交換水100部を仕込んだ。次に、滴下ロート(1)(2)より反応装置(I)に3時間かけて滴下した。滴下終了後、APS0.22部とイオン交換水10.0部を入れ1時間撹拌した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH 7.0になるよう調整し、水溶性ポリマー(A−11)を得た。
【0050】
比較合成例2
連鎖移動剤の仕込み量を変えた以外は、合成例1に従って合成し、水溶性ポリマー(A−12)を得た。
【0051】
比較合成例3
DMAAの仕込み量を変えた以外は、合成例1に従って合成し、水溶性ポリマー(A−13)を得た。
【0052】
実施例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置(II)に、固形分濃度88%のコーン澱粉(製品名「コーンスターチ」、王子コーンスターチ(株)製)250.0部、クライスターゼL1(天野エンザイム(株)製)0.11部、およびイオン交換水700.0部を加えて、75℃に昇温し、40分撹拌後、90℃に昇温して更に10分間撹拌した。その後、40℃まで冷却し、減成処理澱粉(B−1)を得た。次いで、水溶液ポリマー(A−1)が入った反応装置(I)に、減成処理澱粉(B−1)を入れ、80℃まで加熱した後に、APS0.44部、およびイオン交換水10.0部を加えて、1時間撹拌し、不揮発分24.0%となるようイオン交換水で希釈し、粘度2,000mPa・s、pH7.0の表面紙力増強剤(C−1)を得た。
【0053】
実施例2〜10
水溶性ポリマー(A−2)〜(A−10)を用いて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−2)〜(C−10)を得た。該物性を表2に表記する(以下同様)。
【0054】
実施例11
添加する開始剤をAPSからKPSに変えて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−11)を得た。
【0055】
実施例12、13
クライスターゼL1の使用量を変えて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−12)、(C−13)を得た。
【0057】
実施例1、1
水溶性ポリマー(A−1)および減成処理澱粉(B−1)の混合比率を変えて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−1)、(C−1)を得た。
【0058】
実施例1
澱粉種を酸化澱粉(製品名「王子エースA」、王子コーンスターチ(株)製)に変えて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−1)を得た。
【0059】
比較例1〜3
水溶性ポリマー(A−11)〜(A−13)を用いて、実施例1に従って合成し、不揮発分24.0%の表面紙力増強剤(C−1)〜(C−19)を得た。
【0060】
比較例4
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管および3つの滴下ロートを備えた反応装置に、イオン交換水750.0部、コーン澱粉(固形分濃度88%)250部、クライスターゼL10.11部を加えて、75℃に昇温し、40分撹拌した。さらに、90℃に昇温して10分撹拌後、85℃まで冷却した。滴下ロート(1)に50%のAM水溶液420.4部、AA4.3部、DMAA1.1部、SMAS4.4部、およびイオン交換水166.3部を仕込んだ。また、滴下ロート(2)にAPS0.31部とイオン交換水100部を仕込んだ。次に、滴下ロート(1)(2)より反応装置に3時間かけて滴下した。滴下終了後、APS0.22部とイオン交換水10.0部を入れ1時間撹拌した。撹拌後、pH7.0となるよう、48%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、不揮発分24.0%となるようイオン交換水で希釈し、表面紙力増強剤(C−2)を得た。
【0061】
比較例5
水溶性ポリマー(A−1)を不揮発分24.0%となるようイオン交換水で希釈し、表面紙力増強剤(C−2)を得た。
【0062】
比較例6
水溶性ポリマー(A−1)に減成処理していないコーン澱粉を添加したが、重合中にゲル化した。
【0063】
比較例7
撹拌機、冷却管、窒素導入管、および温度計を備えた反応容器に、コーン澱粉(固形分濃度88%)113.6部、イオン交換水666.7部を仕込み、撹拌しながら80℃まで加熱して、さらに1時間保温した。その後、イオン交換水で希釈することで不揮発分10.0%の澱粉水溶液(C−2)を得た。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
(塗工液の調製)
(塗工液の調製)
表面紙力増強剤(C−1)〜(C−2)、および澱粉水溶液(C−2)を濃度5.0%になるよう、イオン交換水でそれぞれ希釈し、塗工液(D−1)〜(D−2)を調製した。
【0067】
[表面紙力増強剤の性能評価1]
(塗工紙の作成)
段ボール古紙パルプを抄いて得た原紙(坪量150g/m)に、50℃に加温した前記塗工液を固形付着量0.50g/mとなるよう、バーコーターで原紙の両面に塗工し、105℃の回転式ドラムドライヤーで1分間乾燥させて塗工紙を得た。なお、塗工液の固形付着量は、塗工前後の板紙の重量より計算した値である。
【0068】
(塗工液粘度)
B型粘度計(東機産業(株)製)を用いて、50℃に加温した前記塗工液(濃度5.0%)の粘度を測定した。結果を表3に示す。
(貼合糊の調製)
撹拌機、冷却管、および温度計を備えた反応容器に、コーン澱粉(固形分濃度88%)40部、イオン交換水200部、48%水酸化ナトリウム14部を仕込み、撹拌しながら、70℃まで加熱後、15分間保温した。イオン交換水で希釈し、不揮発分8.0%、25℃の粘度が600mPa・s、pH 13.5の貼合糊を得た。
(貼合糊の浸透速度)
動的浸透性テスター(製品名「DPM30」、Emco(株)製)を用いて、前記貼合糊の塗工紙への浸透速度を測定した。測定原理としては、紙を液体に接触させて、超音波に当てた際の単位時間当たりの超音波の透過強度変化を該装置で読み取ることで、紙への液体の浸透速度を測定できる。透過強度が高い程、紙に液体が浸透し易い(浸透速度が速い)ことを示す。本測定では、塗工紙に貼合糊を接触させてから5秒後の浸透速度(%r/s)を測定値とした。結果を表3に示す(以下同様)。
(比圧縮強度)
前記方法で得られた各試験用紙を用い、JIS P 8126に準拠して測定し、比圧縮強度(N・m/g)で示した。
(内部強度)
前記方法で得られた各塗工紙を用い、J.Tappi No.18−2に準拠して、内部強度(N/m)を測定した。
【0069】
【表3】
【0070】
表3より、比較評価例に比べて、評価例では貼合糊が浸透し易く、かつ圧縮強度、内部強度共に優れた効果を示した。
【0071】
[表面紙力増強剤の性能評価2]
針葉樹の晒クラフトパルプを抄いて得た原紙(坪量80g/m)に、50℃に加温した前記塗工液を固形付着量0.50g/mとなるよう、バーコーターで原紙の両面に塗工し、105℃の回転式ドラムドライヤーで1分間乾燥させて塗工紙を得た。
【0072】
(表面強度)
前記で得られた塗工紙を用いて、Tappi T459om−08に準拠して、表面強度を測定した。結果を表4に示す(以下同様)。
(内部強度)
前記で得られた塗工紙を用いて、J.Tappi No.18−2に準拠して、内部強度(N/m)を測定した。
【0073】
【表4】
【0074】
表4より、比較評価例に比べて、評価例では表面強度・内部強度共に優れた効果を示した。
【0075】
[長期保管安定性]
濃度24.0%の表面紙力増強剤(C−1)〜(C−2)を40℃の恒温槽に所定期間静置し、経時での粘度変化を観察した。粘度は、サンプルを25℃に調整した後、B型粘度計(東機産業(株)製)を用いて測定した。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5より、比較評価例3及び4に比べて、評価例では、長期保管しても経時での粘度が安定していた。