(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268544
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】オルニチン高蓄積酵母及びその取得方法並びに当該酵母を用いた酒類その他の食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20180122BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20180122BHJP
C12G 3/02 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
C12N1/16 A
C12N1/16 G
A23L33/10
C12G3/02 119G
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-20780(P2015-20780)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-140335(P2016-140335A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年10月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第66回日本生物工学会大会講演要旨集,第62頁,公益社団法人日本生物工学会 発行者名:公益社団法人日本生物工学会 発行年月日:平成26年8月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス:http://www.sbj.or.jp/2014/news/news_20140805−1.html 掲載年月日:平成26年8月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年9月9日に開催された第66回日本生物工学会大会で発表
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-01983
(73)【特許権者】
【識別番号】000225142
【氏名又は名称】奈良県
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正孝
(72)【発明者】
【氏名】高木 博史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大輔
【審査官】
飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−067806(JP,A)
【文献】
特開2007−060902(JP,A)
【文献】
特開2010−130899(JP,A)
【文献】
Lee Soo Youn, et al,Enhancement of Ornithine Production in Proline-Supplemented Corynebacterium glutamicum by Ornithine Cyclodeaminase,J.Microbiol.Biotechnol,2010年,Vol.20,p.127-131
【文献】
高木博史,製パンプロセスにおけるパン酵母のストレス耐性:プロリン・アルギニン代謝と育種への応用,日本食品微生物学会雑誌,2014年,Vol.31,p.185-193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母を変異処理し、アゼチジン−2−カルボン酸を含有する選択培地で生育する菌株から、親株よりもプロリンを多く蓄積することができる酵母を選択し、さらに親株よりもエタノール耐性を有する酵母を選択した菌株から、前記親株より多くオルニチンを生産することができる酵母を選択分離することを特徴とするオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母の育種方法。
【請求項2】
前記酵母が清酒酵母であることを特徴とする請求項1に記載のオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母の育種方法。
【請求項3】
協会酵母No.701又はNo.901を変異処理し、アゼチジン−2−カルボン酸を含有する選択培地で生育する菌株から、親株よりもプロリンを多く蓄積することができる酵母を選択し、さらに親株よりもエタノール耐性を有する酵母を選択した菌株から、前記親株より多くオルニチンを生産することができる酵母を選択分離することを特徴とするオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母の育種方法。
【請求項4】
オルニチンを高蓄積し、エタノール耐性を有するサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)オルニチン蓄積酵母(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター2014年12月17日受領番号NITE AP−01983)。
【請求項5】
請求項4に記載の酵母を用いることを特徴とする酒類又は食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルニチンを細胞内に高蓄積し、エタノール耐性を有する酵母及びその育種方法並びにその酵母を用いた酒類又は食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全国の清酒消費量の推移を見ると、最も消費された昭和50年には1,675千kl消費されたのが、平成24年には593千klと約35%程度にまで減少している。これは、清酒の仕込み配合等が旧態依然であり、清酒のほとんどが、既存の醸造協会系酵母を使用して製造され、その個性が失われていることが要因として考えられる。そこで消費者に訴求力のある新たなインパクトのある清酒酵母が必要とされている。
【0003】
このような課題を解消するために、例えば、特許第5201622号(特許文献1)、特開2004−357623号(特許文献2)公報等に示されるように爽やかな酸味を呈するリンゴ酸を高生産する酵母や特許第5181095号(特許文献3)、特開2014−018107号(特許文献4)公報等に示されるように吟醸香を呈する酢酸イソアミルやカプロン酸エチルを高生産する酵母が開発されている。しかし、いずれも味覚や香りの改善であって、清酒中に含まれる機能性成分に着目した事例ではない。
【0004】
オルニチンは、肝臓中で人体に有毒なアンモニアを尿素へ代謝するのを促進することから、肝臓の働きを助けることが知られており、また、それ以外にもアルコール性疲労の抑制効果や成長ホルモンの分泌を促す等の機能性が知られている(非特許文献1及び2)。
【0005】
現在、肝臓の働きを助けるオルニチンの機能性を利用するために、飲料にオルニチンを添加した商品事例、ヨーグルトにオルニチンを添加した商品事例が見られる。また、特開2010−270101号公報(特許文献5)で示されるように、清酒醸造過程で生じる副産物を乳酸菌発酵させた組成物にオルニチンを添加して、呼気中及び血中のアルコール濃度上昇ならびに血中のアセトアルデヒド濃度上昇が抑制される事例が報告されているが、いずれも、オルニチンを新たに添加するために、コストがかかる。発酵中にオルニチンを高蓄積する酵母を育種することができれば、新たなコストが発生せず、オルニチンの機能性を活用する酒類あるいは食品を製造することが可能となるが、今まで、発酵中にオルニチンを高蓄積する酵母を育種し、それを用いた酒類又は食品の製造方法を報告した事例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5201622号公報
【特許文献2】特開2004−357623号公報
【特許文献3】特許第5181095号公報
【特許文献4】特開2014−018107号公報
【特許文献5】特開2010−270101号公報
【非特許文献1】Takeshi Kokubo, Emiko Ikeshima, Takayoshi Kirisako, Yutaka Miura, Masahisa Horiuchi and Akira Tsuda, BioPsychoSocial Medicine, 7:6(2013).
【非特許文献2】Shinichi Demura, Takayoshi Yamada, Shunsuke Yamaji, Miho Komatsu, Koji Morishita, Advances in Bioscience and Biotechnology, 7-11(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、オルニチンを高蓄積する酵母を育種し、それを用いた酒類又は食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者等は、鋭意研究の結果、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母から、エタノール耐性を有し、さらにオルニチンを高蓄積する酵母の育種方法を開発し、その育種方法で得られた新規な酵母、すなわち、酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)オルニチン蓄積酵母(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター2014年12月17日受領番号NITE AP−01983)株を分離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る酵母の育種方法は、酵母を親株とし、親株を変異処理後、L−アゼチジン−2−カルボン酸(AZC)の耐性株を取得し、その株の中で親株よりプロリンを多く細胞内に蓄積できる株で、さらに親株よりエタノール耐性株を示す株からオルニチンを細胞内に高蓄積する酵母を選択することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係わる育種方法において、プロリン高蓄積とエタノール耐性の両方を満たす株を選択することによって、目的とするエタノール耐性を有し、さらにオルニチンを高蓄積する酵母を容易に取得することが可能となる。
【0011】
本発明に係わるオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母を用いた酒類又は食品の製造方法は、一般的に行われている方法で問題ない。例えば清酒といった酒類の製造では、掛米、麹米、汲水、乳酸及び当該酵母を用いた一段仕込みあるいは酒母をつくり、初、仲、留添の三段仕込みで醸造する。また、酒粕といった食品の製造では、清酒を醸造後、ろ過して残った粕を酒粕とする。ただし、オルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母を用いるため、得られる酒類あるいは食品にオルニチンが多く含有することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例を示すエタノール耐性スポット試験結果を示す図
【
図2】本発明の一実施例を示す細胞内プロリン含量を示す図
【
図3】本発明の一実施例を示す細胞内オルニチン含量を示す図
【
図4】本発明の一実施例を示すAZC耐性スポット試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係わる育種方法において、親株として用いる酵母は、清酒酵母であることが望ましい。清酒酵母はあらかじめエタノール高生産性を有しているため、本発明の育種目的であるエタノール耐性を有し、さらにオルニチンを高蓄積する酵母の取得を容易にすることが可能となる。清酒酵母の例としては、一般的に清酒の醸造でよく使用されている協会酵母No.701又はNo.901が挙げられる。
【0014】
酵母を変異処理する方法としては、紫外線、放射線、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアジニン(NTG)、又はエチルメタンスルホネート(EMS)等を用いて酵母に対して適宜変異処理を行えばよいが、好ましくはEMSを用いた変異処理である。
【0015】
本発明に係わる育種方法においては、プロリンを細胞内に高蓄積する酵母を取得するために、プロリンのアナログであるAZCを含有する培地で生育する株を選択する。
【0016】
本発明に係わる育種方法においては、親株よりプロリンを多く蓄積する株を選択するが、親株よりプロリンを5倍以上細胞内に蓄積する株を選択することが望ましい。
【0017】
AZC耐性株を取得する方法は、特開2013−158301号や特開平04−091782号公報等に示された例がある。特開2013−158301号公報では、アルコール発酵を抑制しながら、有機酸をより多く生産する酵母を取得する例であり、特開平04−091782号公報はイソブチルアルコールやイソアミルアルコールを多く生産する酵母を取得する例であり、いずれもオルニチンを細胞内に高蓄積する酵母を取得する例ではない。
【0018】
プロリン高蓄積酵母が冷凍や乾燥、エタノールなどのストレスに対して優れた耐性を示す例は特許第4837335号公報に示されているが、これもオルニチンを細胞内に高蓄積する酵母を取得する例ではない。
【0019】
本発明に係わる育種方法においては、プロリンを細胞内に高蓄積する株の中から親株よりエタノール耐性を有する株を選択するために、プロリンを細胞内に高蓄積する株を、エタノールを含有する培地で培養し、親株より生育の良い株を選択する。15%エタノール含有培地で8日以上培養するのが望ましく、その際わずかの生育の差を利用する。
【0020】
本発明の酒類又は食品に限定はないが、酒類としては、清酒、焼酎、ビール、ワイン等を例示できる。また、食品としては、酒粕類、パン類、醤油類を例示することができる。本発明の酒類又は食品の製造方法は、酵母を用いる製造工程において、酵母として本発明の酵母を採用することにより実施することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係わるエタノール耐性を有し、さらにオルニチンを高蓄積する酵母の育種方法及びその酵母を用いた酒類又は食品の製造方法に関する実施形態について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されない。
【0022】
(酵母の変異処理、AZC耐性株の取得)
以下、変異処理、AZC耐性株を取得する方法について説明する。
協会酵母No.701又は901を親株とし、YPD培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、1%酵母エキス)で30℃16時間培養後、菌体を遠心分離して集菌する。滅菌水で洗浄し、4%EMS含有リン酸緩衝液5mLに懸濁させ、30℃、30分間変異処理した。その後、集菌・洗浄の後、AZC含有SD培地(2%グルコース、0.17%酵母ニトロゲンベースアミノ酸・硫酸アンモニウム不含、0.5%硫酸アンモニウム、2%寒天、AZC 100〜1000μg/mL)に塗布し、30℃、2日間静置培養して生育したコロニーを選択することによって、AZC耐性株を44株取得した。次に得られた菌株をSD培地(2%グルコース、0.17%酵母ニトロゲンベースアミノ酸・硫酸アンモニウム不含、0.5%硫酸アンモニウム)にて30℃、2日間培養した後、細胞内に蓄積するプロリン量を測定し、親株より5倍以上蓄積する株を選択し、プロリン高蓄積株を9株取得した。
【0023】
さらに得られた菌株をYPD培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、1%酵母エキス)で30℃2日間培養後、15%エタノール含有YPD培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、1%酵母エキス、2%寒天)に段階希釈してスポットした。8日間後、親株よりわずかに生育がよかった株を選択し、プロリン高蓄積株でかつエタノール耐性株である株を4株(A901−8、A902−4、A902−6、A902−8)取得した。
図1のスポット試験の結果が示すように、4株とも、8日目でわずかに親株(K901−wt)より生育がよかった。当該A902−4株は受領番号NITE AP−01983(2014年12月17日)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託している。
【0024】
得られた4株をSD培地(2%グルコース、0.17%酵母ニトロゲンベースアミノ酸・硫酸アンモニウム不含、0.5%硫酸アンモニウム)にて30℃、2日間培養した後、細胞内に蓄積するプロリン及びオルニチン量を測定した。
図2に示すように、4株は、親株(K901−wt)より6.2〜10.4倍プロリンを高蓄積する。さらに、
図3に示すように、3株(A902−4、A902−6、A902−8)で親株より7.3〜13.3倍オルニチンを蓄積する株であった。本発明に係わる酵母の育種方法により、AZC耐性株として取得した44株中3株、すなわち約7%という高い確率で、エタノール耐性を有し、さらにオルニチンを高蓄積する酵母を取得することが可能となった。
【0025】
(酵母の特性)
得られた4株は協会酵母No.901を突然変異処理して得た株であるため、属種はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。確認のために、シスメックス・ビオメリュー社の酵母真菌様同定キット(ID32Cアピ及びAPI20C AUX)で炭素源資化性を調べることにより、種属を同定したところ、予想どおりサッカロマイセス・セレビシエであった。表1にその結果を示す。
【0026】
炭素源資化性
【表1】
【0027】
得られた4株の酵母は、以下の特性を有している。
(1)『K701』や『K901』といった既存の清酒酵母に対して無害(キラー因子を持たない)である。
YPD培地(酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グルコース2%、寒天1.5%、1Mクエン酸水溶液でpH4.7に調整)にメチレンブルーを0.003%添加した寒天平板に協会酵母を10
6 cfu/g塗布し、得られた4株をそれぞれ植菌し、25℃で24時間培養した。
その結果、微小コロニーが培地一面に発生したときに現れるクリアーゾーンを観察したところ、阻止円ができていないことが確認された。
参考文献:河野勇人他、醸造協会誌、83,5,344(1988)
【0028】
(2)得られた4株はいずれもTTC染色試験で赤色を呈色した。
すなわち、古川、秋山の方法(古川敏郎、秋山裕一:農化, 37, 398(1963))に従って、菌体を適当に希釈し(1プレートに約200程度となるよう)、TTC下層培地に30℃で2日間プレート培養したコロニー上へ、TTC寒天を溶解後45℃程度にしてから静かに重層し、固まった後30℃で2〜3時間放置し、コロニーの染色性を観察したとき、赤色を示した。親株である協会酵母K901も赤色を示した。
【0029】
(3)得られた4株はいずれも親株よりもAZC耐性を示す。
得られた4株をSD培地(2%グルコース、0.17%酵母ニトロゲンベースアミノ酸・硫酸アンモニウム不含、0.5%硫酸アンモニウム)にて30℃、2日間培養した後、AZC含有SD培地(2%グルコース、0.17%酵母ニトロゲンベースアミノ酸・硫酸アンモニウム不含、0.5%硫酸アンモニウム、2%寒天、AZC 100〜1000μg/mL)に段階希釈してスポットした。
図4に示すように、親株(K901−wt)より生育が良かった。
【0030】
(4)得られた4株のうち、A902−4、A902−6、A902−8の3株は、
図3に示すように親株よりもオルニチンを細胞内に高蓄積する酵母であった。従って、これら3株が、本発明に係わる育種方法により得られる、親株よりもエタノール耐性を有しかつオルニチンを高蓄積する酵母に該当する。
【0031】
本発明に係る酵母の取得方法で得られた4株を用いて、総米200gで清酒小仕込み試験を行った。この仕込み配合を表2に示す。
【0032】
総米200gの清酒仕込み配合
【表2】
【0033】
まず、汲水312gに乳酸0.12ml、乾燥麹米(歩留86%)46gを加えて室温で16時間浸漬した。
【0034】
次に、その浸漬した液に、酵母数が10
8 cfu/mlとなるように培養した麹汁液体培地(ボーメ度10.1、pH3.6)10mlを加えて、15℃で17日間醸造した。遠心分離を行い、上澄みを60℃、30分間加熱殺菌(火入れ)を行い、清酒とした。
遠心分離後の残さを酒粕とした。
【0035】
このような一般的な清酒の製造工程を経て製造された清酒は以下のようなものであった。親株である『K901』との比較で示す。
【0036】
清酒のアルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度を表3に示す。得られた4株のうち、A902−4、A902−6、A902−8で醸造した清酒は、親株で醸造した清酒と比較して、アルコール度数は若干高めで、酸度が低かった。また、清酒の酒質を損なうような異臭は感じられず、辛口のすっきりした清酒であった。
【0037】
清酒の成分分析値
【表3】
【0038】
清酒中及び酒粕中のオルニチン含量を表4に示す。A902−4で醸造した清酒及び酒粕中には、親株(K901)と比較して、それぞれ2.4倍、3倍多くオルニチンを含んでいた。そこで、A902−4を受領番号NITE AP−01983(2014年12月17日)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した。得られた酵母を用いることによって、オルニチンを多く含んだ酒類又は食品を製造することが可能となった。
【0039】
【表4】
【0040】
本発明により、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母を変異処理し、AZCを含有する選択培地で生育する菌株から、親株よりもプロリンを多く蓄積することができる酵母を選択し、さらに親株よりもエタノール耐性を有する酵母を選択した菌株から、前記親株より多くオルニチンを生産することができる酵母を選択分離することによって、オルニチンを高蓄積、かつエタノール耐性を有する酵母を育種する方法の開発に成功し、得られた酵母を用いることによって、オルニチンを多く含んだ酒類又は食品を製造することが可能となった。得られた株のうちの一株を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託し、受領番号としてNITE AP−01983(2014年12月17日)が付与されている。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係わるオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母の育種方法、当該育種方法で育種されたオルニチンを高蓄積し、かつエタノール耐性を有する酵母、当該酵母を用いた酒類及び食品の製造方法は、オルニチンを高蓄積し、エタノール耐性を有する酵母の育種方法、並びに当該酵母を用いた酒類及び食品の製造に利用することができる。実施例に示した清酒や酒粕のみならず、一般的な酵母と同様に食酢、パン、味噌、醤油等の飲食物の製造に用いることができる。
【0042】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP−01983(2014年12月17日)