特許第6268631号(P6268631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グンゼ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000003
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000004
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000005
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000006
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000007
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000008
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000009
  • 特許6268631-ワイヤーケーブル 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268631
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】ワイヤーケーブル
(51)【国際特許分類】
   F16C 1/20 20060101AFI20180122BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   F16C1/20 A
   D07B1/16
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-90012(P2013-90012)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-214763(P2014-214763A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 真
(72)【発明者】
【氏名】鞍岡 隆志
(72)【発明者】
【氏名】永井 義之
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭46−033723(JP,Y1)
【文献】 実開昭56−134398(JP,U)
【文献】 実開昭59−181319(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 1/20
D07B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線材と、前記芯線材の周囲に撚り合わされる複数の側方線材とを備えるワイヤーケーブルであって、
前記複数の側方線材のうち互いに隣り合わない各側方線材は、その外周に螺旋状に巻回される樹脂製線材を備えており、
前記樹脂製線材を備える前記側方線材以外の各側方線材は、その表面に樹脂によるコーティング層を備え
前記樹脂製線材は、前記側方線材の表面に熱融着されて配置されていることを特徴とするワイヤーケーブル。
【請求項2】
前記芯線材は、その表面に芯線用樹脂層を備えていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤーケーブル。
【請求項3】
前記芯線材は、複数の芯線用素線を備える撚線部材であり、
前記複数の芯線用素線のうち少なくとも一つが、その外周に芯線素線用樹脂層を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤーケーブル。
【請求項4】
前記芯線素線用樹脂層は、前記芯線用素線の表面に樹脂製線材を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されている請求項に記載のワイヤーケーブル。
【請求項5】
前記芯線素線用樹脂層は、前記芯線用素線の表面に樹脂をコーティングすることにより形成されていることを特徴とする請求項に記載のワイヤーケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーケーブルは、種々の装置や機器の操作系や動力伝達系に用いられている。このようなワイヤーケーブルは、操作性、応答性等の性能に優れるとともに、取り付けやすく、使用中には断線し難く、かつ、長期間にわたり安全に使用できる耐久性が要求される。また、導管の内部に挿通して使用される場合には、高い摺動性を有することが求められている。ここで、主として耐久性及び摺動性の向上を図ることを目的としたワイヤーケーブルとして、ケーブル内部に油が含浸され、かつ、ケーブルの外周を非金属のコーティング材料で被覆したワイヤーケーブルが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−120579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のワイヤーケーブルはその内部に油が含浸されていることから、ワイヤーケーブルを構成する素線同士の擦れ合い(フレッティング)摩耗による早期断線や発錆に対して一定の効果を有している。また、ケーブルの外周は、非金属のコーティング材料で被覆されていることから摺動性も良好なものである。しかしながら、ケーブルを構成する素線の内部断線抑制や、摺動性向上に関し、まだまだ改良の余地があり、より一層、耐久性が高く、また、摺動性に優れるワイヤーケーブルの開発が望まれている。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、高い耐久性と摺動性を有するワイヤーケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、芯線材と、前記芯線材の周囲に撚り合わされる複数の側方線材とを備えるワイヤーケーブルであって、前記複数の側方線材のうち少なくとも一つが、その外周に樹脂層を備えることを特徴とするワイヤーケーブルより達成される。
【0007】
このように、芯線材の周囲に配設される複数の側方線材の少なくとも一つが、その外周に樹脂層を備えるように構成することにより、側方線材同士が擦れ合うことや、側方線材と芯線材とが擦れ合うことを抑制することができ、ワイヤーケーブルの内部断線を効果的に防止することができる。また、ワイヤーケーブルを導管の内部に挿通して使用する場合には、側方線材の表面に配設される樹脂層が、導管の内面との摺動抵抗を低減する作用を発揮するため、高い摺動性を得ることが可能となる。
【0008】
このワイヤーケーブルにおいて、前記樹脂層は、前記側方線材の表面に樹脂製線材を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されていることが好ましい。このように、側方線材の表面に配設される樹脂層を側方線材の表面に樹脂製線材を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成する場合、螺旋状に巻回された樹脂製線材が、側方線材の表面から突出する凸部となるため、導管の内面との接触面積が減少することなり、より一層、摺動抵抗を低減することが可能となる。この結果、より一層高い摺動性をワイヤーケーブルに付与することが可能とる。なお、側方線材の表面を螺旋状に巻回して配置される樹脂製線材により構成される樹脂層が存在するため、側方線材同士が擦れ合うことや、側方線材と芯線材とが擦れ合うことを効果的に抑制できる。
【0009】
また、前記複数の側方線材のうち互いに隣り合わない各側方線材が、その外周に前記樹脂層を備えていることが好ましい。このような構成を採用する場合、ワイヤーケーブルの可撓性を効果的に維持することが可能となる。
【0010】
また、前記樹脂層が形成される前記各側方線材以外の側方線材は、その表面に樹脂によるコーティング層が形成されていることが好ましい。このような構成を採用することにより、より一層効果的にワイヤーケーブルの内部断線を防止することができる。
【0011】
また、前記樹脂層は、前記側方線材の表面に樹脂をコーティングすることにより形成されていることが好ましい。このように、側方線材の表面に樹脂製線材を螺旋状に巻回して熱融着することにより樹脂層を形成する代わりに、側方線材の表面に樹脂をコーティングすることにより樹脂層を形成する場合であっても、側方線材同士が擦れ合うことや、側方線材と芯線材とが擦れ合うことを抑制して、ワイヤーケーブルの内部断線を効果的に防止すると共に、ワイヤーケーブルを導管の内部に挿通して使用する場合における導管の内面との摺動抵抗を低減させることが可能となる。
【0012】
また、前記芯線材は、その表面に芯線用樹脂層を備えていることが好ましい。このように、芯線材の表面にも芯線用樹脂層を形成することにより、芯線材と側方線材とが擦れ合うことを効果的に抑制することができ、芯線材や側方線材が内部断線することを防止できる。
【0013】
また、前記芯線材は、複数の芯線用素線を備える撚線部材であり、前記複数の芯線用素線のうち少なくとも一つが、その外周に芯線素線用樹脂層を備えることが好ましい。また、前記芯線素線用樹脂層は、前記芯線用素線の表面に樹脂製線材を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されていることが好ましい。また、前記芯線素線用樹脂層は、前記芯線用素線の表面に樹脂をコーティングすることにより形成されていることが好ましい。このように、複数の芯線用素線を備える撚線部材によって芯線材を形成する場合に、複数の芯線用素線のうち少なくとも一つが、その外周に芯線用樹脂層を備える構成を採用することにより、芯線材における内部断線を効果的に抑制することが可能となり、より一層耐久性の高いワイヤーケーブルを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い耐久性と摺動性を有するワイヤーケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤーケーブルの概略構成断面図である。
図2図1に示すワイヤーケーブルが備える側方線材の要部拡大側面図である。
図3図1に示すワイヤーケーブルの変形例を示す概略構成断面図である。
図4図1に示すワイヤーケーブルの変形例を示す概略構成断面図である。
図5図1に示すワイヤーケーブルの変形例を示す概略構成断面図である。
図6図1に示すワイヤーケーブルの変形例を示す概略構成断面図である。
図7】本発明に係るワイヤーケーブルの摺動性評価試験の内容を説明するための説明図である。
図8】摺動性評価試験において使用したワイヤーケーブルの構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態にかかるワイヤーケーブルについて添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤーケーブル1の概略構成断面図である。このワイヤーケーブル1は、長尺状でかつ可撓性を有するケーブルであり、種々の装置や機器の操作系や動力伝達系に用いられるケーブルである。このワイヤーケーブル1は、図1に示すように、芯線材2と、当該芯線材2の周囲に撚り合わされる複数の側方線材3とを備えている。
【0017】
芯線材2は、可撓性を有する長尺な線材状部材である。この芯線材2としては、ワイヤーケーブル1の芯材として使用される従来からある種々の材料を用いて形成することができる。芯線材2としては、例えば、ステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金線材、擬弾性を示す合金線材(超弾性合金を含む)などの各種金属線材を使用することができる。
【0018】
また、芯線材2の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、一本の金属線によって芯線材2を形成してもよく、或いは、一本の金属線を折り合わせた後撚り合わせて芯線材2を形成してもよい。また、複数の金属線を撚り合わせて芯線材2を形成してもよく、金属線及び線状樹脂部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの等、種々の構成を採用することができる。
【0019】
また、芯線材2は、その外径がほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように形成してもよい。芯線材2の先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように構成した場合、芯線材2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ワイヤーケーブル1の先端部に良好な柔軟性を付与することができ、折れ曲がり等を防止することができる。
【0020】
芯線材2の周囲に撚り合わされる複数の側方線材3も、芯線材2と同様に可撓性を有する長尺な線材状部材である。この側方線材3としては、ワイヤーケーブル1を構成する側方線材3として使用される従来からある種々の材料を用いて形成することができる。側方線材3としては、例えば、ステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金線材、擬弾性を示す合金線材(超弾性合金を含む)などの各種金属線材を使用することができる。
【0021】
また、側方線材3の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、一本の金属線によって側方線材3を形成してもよく、或いは、一本の金属線を折り合わせた後撚り合わせて側方線材3を形成してもよい。また、複数の金属線を撚り合わせて側方線材3を形成してもよく、金属線及び線状樹脂部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの等、種々の構成を採用することができる。
【0022】
本発明におけるワイヤーケーブル1においては、複数の側方線材3のうち少なくとも一つが、その外周に樹脂層4を備えるように構成されている。この樹脂層4は、側方線材3の要部拡大側面図である図2に示すように、側方線材3の表面に樹脂製線材41を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されることが好ましい。なお、図1の断面図は、芯線材2の周囲に撚り合わされる全ての側方線材3が樹脂層4を備える構成を示している。
【0023】
樹脂製線材41としては、種々の樹脂材料から形成することができるが、例えば、易滑性樹脂により樹脂製線材41を形成することが好ましい、易滑性樹脂としては、例えば、潤滑性を有するフッ素系樹脂を挙げることができる。このようなフッ素系樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300〜310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250〜280℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260〜270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160〜180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290〜300℃)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等のフッ素系樹脂から形成した疎水性樹脂を挙げることができる。なかでも、優れた摺動特性を有することから、PFA、PTFE、FEP、ETFE、PVDFが好ましい。また、易滑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ウレタン、シリコーン、ポリエチレンやポリプロピレン等の疎水性樹脂や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレインサン系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、水溶性ナイロン等の親水性樹脂を使用することもできる。これらの樹脂から樹脂製線材41を製造する方法は特に限定されず、例えば、原料を押出成形により紡糸する方法等の従来公知の方法を用いることができる。なお、樹脂製線材41としては、その最大径が、側方線材3への熱融着前において、10μm以上200μm以下であるものを好ましく使用できる。
【0024】
また、樹脂製線材41とは、上述した樹脂材料単体により製造される線材状部材の他、種類の異なる樹脂材料を組み合わせて製造される線材状部材や、樹脂材料及び金属材料を組み合わせて製造される線材状部材、樹脂材料及び非金属材料を組み合わせて製造される線材状部材を含む概念である。樹脂製線材41の形態としては、単線でもよく、或いは、同一種類の単線同士を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。また、種類の異なる単線を撚り合わせて形成される撚線であってもよい。
【0025】
側方線材3に樹脂製線材41を巻き付ける方法は特に限定されず、例えば、カバリング糸を製造するために使用されるカバリング装置を用いて巻き付ける方法等が挙げられる。
【0026】
樹脂製線材41は、上述のように、側方線材3の表面に対して螺旋状に巻回されて熱融着されているが、側方線材3の長手方向に沿う方向に隣り合う樹脂製線材41同士の間隔は、任意に設定することができる。例えば、側方線材3の長手方向に沿う方向に隣り合う樹脂製線材41同士が、互いに密接するように構成してもよく、或いは、側方線材3の長手方向に沿う方向に所定の間隔を設けるように構成してもよい。また、隣り合う樹脂製線材41同士の間隔を一部分において広く設定し、その他の部分において狭く設定するようにして構成してもよい。側方線材3の長手方向に沿う方向に隣り合う樹脂製線材41同士に所定の間隔を形成する場合には、例えば、側方線材3の長手方向に沿う方向における樹脂製線材41の線材ピッチが、樹脂製線材41の最大径の1〜10倍の範囲となるように構成することが好ましい。なお、樹脂製線材41の線材ピッチとは、図2の側面図に示すように、側方線材3の長手方向に沿う方向に隣り合う樹脂製線材41同士の中心間距離を表す概念である。
【0027】
また、樹脂層4を構成する樹脂製線材41は、側方線材3の表面に螺旋状に巻回されて熱融着されているが、樹脂製線材41を側方線材3の表面に熱融着させる方法としては、例えば、樹脂製線材41を側方線材3の表面に螺旋状に巻回した後、加熱することによって樹脂製線材41を溶融させて、樹脂製線材41を側方線材3の表面に融着させる方法を挙げることができる。加熱方法としては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、側方線材3に巻回された樹脂製線材41の外側から熱を付与することにより行うことができる。
【0028】
また、特に、側方線材3を、導電性材料(電気を通しやすい材料)により構成するとともに、樹脂製線材41を、側方線材3よりも磁性が低い材料により形成する場合には、側方線材3上に配置された樹脂製線材41の外側から側方線材3を電磁誘導加熱装置により電磁誘導加熱し、加熱された側方線材3の熱によって樹脂製線材41と側方線材3との対向領域の少なくともいずれか一方を溶融させて、樹脂製線材41を側方線材3に融着させるようにして、樹脂製線材41を側方線材3の外表面に合着させることが好ましい。なお、側方線材3よりも磁性が低い材料とは、側方線材3よりも磁性が弱い材料の他、磁性が無い材料を含む概念である。なお、電磁誘導加熱とは、電磁調理器(IHクッキングヒーター)や高周波溶接等にも利用されている加熱方式の一種であり、コイルに交流電流を流すことにより磁界(磁束密度)の変化を生じさせ、その磁界内に置いた導電性物質に誘導電流(渦電流)を発生させて、その抵抗により導電性物質自体を発熱させる原理を利用した加熱方式である。
【0029】
電磁誘導加熱された側方線材3に生じる誘導電流の密度は、側方線材3の中心からその表面に近いほど高くなることから、側方線材3の内部に比べてその表面の方が早く加熱(集中して加熱)されることとなる。したがって、側方線材3の融点が樹脂製線材41の融点よりも低い場合には、集中して加熱される側方線材3の表面(側方線材3における樹脂製線材41との対向領域(接触領域))が溶融することとなる。また、樹脂製線材41の融点が側方線材3の融点よりも低い場合には、側方線材3が発した熱が樹脂製線材41に伝わって、樹脂製線材41における側方線材3との対向領域(接触領域)が溶融することとなる。なお、電磁誘導加熱装置に流れる電流(コイルに流れる交流電流)の周波数を高く設定することにより、側方線材3において発熱する部位をその表面に集めることができ、逆に、電流の周波数を低く設定することにより側方線材3の内部も均一に発熱させることができるため、電磁誘導加熱装置に流れる電流の周波数を適宜変更できるように構成することが好ましい。
【0030】
このように電磁誘導加熱を行うことにより、樹脂製線材41と側方線材3との接触界面及びその近傍で速やかに軟化又は溶融するため、樹脂製線材41の物性に寄与する分子配向を維持しやすく、上記樹脂製線材41の機械的強度をより高く保つことができる。また、外部からの伝熱又は輻射、エネルギー線照射等による加熱と異なり、樹脂製線材41と側方線材3との接触界面及びその近傍のみで軟化又は溶融するため、側方線材3の外表面となる側の表面凹凸形状が維持しやすくなる。
【0031】
また、側方線材3の外表面に樹脂製線材41をより強固に接着させるためには、プライマーなどの接着剤を側方線材3の外表面に塗布した後に、当該側方線材3の外表面に樹脂製線材41を巻回し、その後、加熱することによって接着剤及び樹脂製線材41を溶融させて、側方線材3上に樹脂製線材41を融着させるのが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るワイヤーケーブル1は、芯線材2の周囲に配設される複数の側方線材3の少なくとも一つが、その外周に樹脂層4を備えるように構成されているため、側方線材3同士が擦れ合うことや、側方線材3と芯線材2とが擦れ合うことを抑制することができ、ワイヤーケーブル1の内部断線を効果的に防止することができる。また、ワイヤーケーブル1を導管の内部に挿通して使用する場合には、側方線材3の表面に配設される樹脂層4が、導管の内面との摺動抵抗を低減する作用を発揮するため、高い摺動性を得ることが可能となる。
【0033】
また、本実施形態に係るワイヤーケーブル1は、樹脂層4が、側方線材3の表面に樹脂製線材41を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されている。したがって、螺旋状に巻回された樹脂製線材41が、側方線材3の表面から突出する凸部を形成するため、側方線材3と導管の内面との接触面積が大幅に減少することなり、より一層、摺動抵抗を低減することが可能となる。この結果、より一層高い摺動性をワイヤーケーブル1に付与することが可能とる。なお、側方線材3の表面を螺旋状に巻回して配置される樹脂製線材41により構成される樹脂層4が存在するため、側方線材3同士が擦れ合うことや、側方線材3と芯線材2とが擦れ合うことを効果的に抑制できる。
【0034】
以上、本発明に係るワイヤーケーブル1について説明したが、具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、図3に示すように、複数の側方線材3のうち互いに隣り合わない各側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成してもよい。このような構成を採用する場合、側方線材3全てに樹脂層4を形成する場合に比べて、ワイヤーケーブル1の可撓性を効果的に維持することが可能となる。具体的に説明すると、例えば、全ての側方線材3に対して、その表面に樹脂製線材41を螺旋状に巻回して熱融着することにより樹脂層4を形成する場合、ワイヤーケーブル1の内部断線を確実に抑制できるという効果を得ることができる一方、互いに隣り合う側方線材3に配設される樹脂製線材41により構成される凸部(側方線材3の表面から突出する凸部)同士が互いに噛み合ってしまい、ワイヤーケーブル1の可撓性が悪化するおそれが生じる。これに対し、複数の側方線材3のうち互いに隣り合わない各側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成する場合には、互いに隣り合う側方線材3に配設される樹脂製線材41により構成される凸部が噛み合うことがないため、ワイヤーケーブル1の可撓性を効果的に維持することが可能となる。
【0035】
また、上記実施形態において、樹脂層4が形成される側方線材3以外の側方線材3に対して、その表面に樹脂によるコーティング層を形成するように構成してもよい。このような構成を採用することにより、より一層効果的にワイヤーケーブル1の内部断線を防止することができると共に、ワイヤーケーブル1を導管の内部に挿通して使用する場合に高い摺動性を付与することが可能となる。
【0036】
また、上記実施形態においては、側方線材3の表面に配設される樹脂層4が、側方線材3の表面に樹脂製線材41を螺旋状に巻回して熱融着することにより形成されているが、例えば、樹脂層4が、側方線材3の表面に樹脂をコーティングすることにより形成されてもよい。このように、側方線材3の表面に樹脂をコーティングすることにより樹脂層4を形成する場合であっても、側方線材3同士が擦れ合うことや、側方線材3と芯線材2とが擦れ合うことを抑制して、ワイヤーケーブル1の内部断線を効果的に防止すると共に、ワイヤーケーブル1を導管の内部に挿通して使用する場合における導管の内面との摺動抵抗を低減させることが可能となる。なお、側方線材3の表面にコーティングされる樹脂としては、上述の樹脂製線材41を形成する樹脂材料を例示することができる。
【0037】
また、上記実施形態において、図4の概略構成断面図に示すように、芯線材2が、その表面に芯線用樹脂層21を備えるように構成してもよい。芯線用樹脂層21は、芯線材2の表面に樹脂製線材21aを螺旋状に巻回して熱融着させることにより形成することができる。ここで、芯線材2の表面に巻回される樹脂製線材21aとしては、側方線材3の表面に巻回される樹脂製線材41と同種の線材を用いることができる。このように、芯線材2の表面に芯線用樹脂層21を形成することにより、芯線材2と側方線材3とが擦れ合うことを効果的に抑制することができ、芯線材2や側方線材3が内部断線することを防止できる。また、芯線材2の表面に樹脂製線材21aを螺旋状に巻回して熱融着することにより芯線用樹脂層21を形成する代わりに、芯線材2の表面に樹脂をコーティングすることにより、芯線用樹脂層21を形成してもよい。なお、芯線材2の表面にコーティングされる樹脂としては、上述の樹脂製線材41を形成する樹脂材料を例示することができる。
【0038】
また、上記実施形態において、芯線材2を複数の芯線用素線22を備える撚線部材から構成する場合、図5の概略構成断面図に示すように、複数の芯線用素線22のうち少なくとも一つが、その外周に芯線素線用樹脂層23を備えるように構成してもよい。芯線素線用樹脂層23は、芯線用素線22の表面に樹脂製線材23aを螺旋状に巻回して熱融着することにより形成することが好ましい。このように、複数の芯線用素線22を備える撚線部材を芯線材2とする場合に、複数の芯線用素線22のうち少なくとも一つが、その外周に芯線素線用樹脂層23を備える構成を採用することにより、芯線材2における内部断線を効果的に抑制することが可能となり、より一層耐久性の高いワイヤーケーブル1を得ることができる。ここで、芯線用素線22の表面に巻回される樹脂製線材23aとしては、側方線材3の表面に巻回される樹脂製線材41と同種の線材を用いることができる。また、芯線用素線22の表面に樹脂製線材23aを螺旋状に巻回して熱融着することにより芯線素線用樹脂層23を形成する代わりに、芯線用素線22の表面に樹脂をコーティングすることにより、芯線素線用樹脂層23を形成してもよい。なお、芯線用素線22の表面にコーティングされる樹脂としては、上述の樹脂製線材41を形成する樹脂材料を例示することができる。
【0039】
また、上記実施形態においては、図1の概略構成断面図に示すように、芯線材2に対して一層の層を構成するようにして、芯線材2の周囲に複数の側方線材3を撚り合わせてワイヤーケーブル1を形成しているが、このような構成に特に限定されず、例えば、図6の概略構成断面図に示すように、芯線材2に対して複数の層を構成するようにして、芯線材2の周囲に複数の側方線材3を撚り合わせることによりワイヤーケーブル1を形成してもよい。このように構成する場合、図6に示すように、ワイヤーケーブル1において最外層を形成する側方線材3に対して樹脂層4を形成するように構成することが好ましい。なお、図6においては、ワイヤーケーブル1の最外層を形成する複数の側方線材3のうち互いに隣り合わない各側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成している。
【0040】
また、上記実施形態においては、図2の側面図に示すように、側方線材3の表面に一本の樹脂製線材41を螺旋状に巻回して熱融着させることにより樹脂層4を構成しているが、例えば、太さが同一或いは異なる複数の樹脂製線材41を側方線材3の表面に螺旋状(二重螺旋状)に巻回して熱融着することにより、樹脂層4を形成してもよい。
【0041】
また、上記実施形態においては、側方線材3の表面に巻回される樹脂製線材41(或いは、芯線材2の表面に巻回される樹脂製線材21aや、芯線用素線22の表面に巻回される樹脂製線材23a)の断面形状は特に限定されず、断面形状が円形或いは非円形であってもよい。非円形の断面形状としては、例えば、楕円形状や多角形の断面形状、扇型の断面形状等を例示できる。このように断面が非円形である樹脂製線材41を用いて樹脂層4を構成した場合、断面が円形である樹脂製線材41を用いた場合よりも複雑な凹凸形状を樹脂層4に形成することができるため、例えば、潤滑油をワイヤーケーブル1に含浸させて使用する場合に、潤滑油がワイヤーケーブル1から流れ出ることを効果的に抑制することが可能となり、ワイヤーケーブル1の摺動性を長期間維持することができ、また、内部断線を効果的に防止することが可能となる。なお、このように断面が非円形である樹脂製線材41を用いて樹脂層4を構成した場合であっても、導管の内面に接する部分は、樹脂製線材41の最外部(頂部)となることから、導管に対するワイヤーケーブル1の摺動性は低下しない。
【0042】
本発明の発明者らは、上記ワイヤーケーブル1の摺動性を評価する試験を行ったので、この試験内容及び評価結果について以下説明する。試験内容は、図7に示すように、4つの溝付きローラ71に可撓性を有するパイプ(導管)72を沿わせて配置し、このパイプ72内にワイヤーケーブル1を通し、当該ワイヤーケーブル1の一方端に錘73を吊り下げると共に、ワイヤーケーブル1の他方端にフォースゲージ74を接続し、当該フォースゲージ74を一軸駆動装置75にて上方に牽引することにより、フォースゲージ74にて計測されるパイプ72内を摺動するワイヤーケーブル1の動摩擦力に基づいて操作ワイヤー8の摺動性を評価した。
【0043】
ここで、ワイヤーケーブル1の一方端に吊り下げられる錘73の重量は600gとし、一軸駆動装置75の牽引速度を、2.0mm/secとした。また、ワイヤーケーブル1が挿通されるパイプ72として、内径が2.0mm、内面材料がポリエチレンの可撓性円管を使用した。フォースゲージ74は、イマダ製デジタルフォースゲージ(ZP−50N)を使用した。
【0044】
また、ワイヤーケーブル1としては、5種類のサンプル(サンプル1〜サンプル5)を準備し、各サンプルについて上記方法によりパイプ72内を摺動するワイヤーケーブル1の動摩擦力を測定した。
【0045】
各サンプルについて説明すると、サンプル1〜4は、図8の概略構成断面図に示す構造を有しており、1本の芯線材2と、この芯線材2の周囲に撚り合わされる18本の側方線材3を備えるように形成した。また、サンプル1は、芯線材2として、線径が0.2mmのSUS304製の素線を採用している。この芯線材2の表面には芯線用樹脂層21が形成されており、当該芯線用樹脂層21は、線径が50μmのPFA樹脂製の樹脂製線材21aを線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に芯材線2に巻回して熱融着させることにより形成されている。芯線材2の周囲に撚り合わされる側方線材3は、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。また、サンプル1の最外層を形成する12本の側方線材3のうち互いに隣り合わない6本の側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成している。樹脂層4は、線径が50μmのPFA樹脂製の樹脂製線材41を線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に巻回して熱融着することにより形成した。
【0046】
サンプル2は、芯線材2として、線径が0.2mmのSUS304製の素線を採用している。この芯線材2の表面には芯線用樹脂層21が形成されており、当該芯線用樹脂層21は、線径が50μmのポリアミド樹脂製の樹脂製線材21aを線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に芯材線2に巻回して熱融着させることにより形成されている。芯線材2の周囲に撚り合わされる側方線材3は、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。また、サンプル2の最外層を形成する12本の側方線材3のうち互いに隣り合わない6本の側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成している。樹脂層4は、線径が50μmのポリアミド樹脂製の樹脂製線材41を線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に巻回して熱融着することにより形成した。
【0047】
サンプル3は、芯線材2として、線径が0.2mmのSUS304製の素線を採用している。この芯線材2の表面には芯線用樹脂層21が形成されており、当該芯線用樹脂層21は、線径が50μmのポリアミド樹脂製の樹脂製線材21aを線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に芯材線2に巻回して熱融着させることにより形成されている。芯線材2の周囲に撚り合わされる側方線材3は、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。また、サンプル3の最外層を形成する12本の側方線材3のうち互いに隣り合わない6本の側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成している。樹脂層4は、線径が50μmのPFA樹脂製の樹脂製線材41を線材ピッチが150μmとなるようにして螺旋状に巻回して熱融着することにより形成した。
【0048】
サンプル4は、芯線材2として、線径が0.2mmのSUS304製の素線を採用している。この芯線材2の表面には、芯線用樹脂層21が形成されており、当該芯線用樹脂層21は、PFA樹脂をコーティングすることにより構成されている。PFA樹脂のコーティング厚みは、20μmである。芯線材2の周囲に撚り合わされる側方線材3は、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。また、サンプル4の最外層を形成する12本の側方線材3のうち互いに隣り合わない6本の側方線材3が、その外周に樹脂層4を備えるように構成している。樹脂層4は、PFA樹脂を側方線材3の表面にコーティングすることにより形成している。芯線用樹脂層21の厚みは、20μmである。
【0049】
サンプル5は、サンプル1〜4の構造に対して、芯線用樹脂層21や樹脂層4を備えない構造とした。具体的には、芯線材2として、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。また、芯線材2の周囲に撚り合わされる18本の側方線材3は、線径が0.2mmのSUS304製の素線を使用した。
【0050】
これらサンプル1〜サンプル5についての動摩擦力の測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から分かるように、ワイヤーケーブル1の最外層を形成する12本の側方線材3のうち互いに隣り合わない6本の側方線材3の外周に樹脂層4を備えるように構成したサンプル1〜4は、樹脂層4を形成していないサンプル5よりも、約28%〜43%も動摩擦力が低減しており、本発明に係るワイヤーケーブル1が極めて摺動性に優れたものであることが分かる。なお、表1中における低減率は、以下の式により算出した。
(サンプル5の動摩擦力−各サンプルの動摩擦力)/(サンプル5の動摩擦力)×100
【符号の説明】
【0053】
1 ワイヤーケーブル
2 芯線材
21 芯線用樹脂層
22 芯線用素線
23 芯線素線用樹脂層
3 側方線材
4 樹脂層
41 樹脂製線材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8