特許第6268663号(P6268663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268663活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、活性エネルギー線硬化性コーティング剤、活性エネルギー線硬化物およびその成形物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268663
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、活性エネルギー線硬化性コーティング剤、活性エネルギー線硬化物およびその成形物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20180122BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20180122BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180122BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20180122BHJP
   C08G 59/17 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C08F299/02
   C09D133/14
   C09D7/12
   C09D183/02
   C08G59/17
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-233867(P2012-233867)
(22)【出願日】2012年10月23日
(65)【公開番号】特開2014-84401(P2014-84401A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦彦
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/041831(WO,A1)
【文献】 特開2001−172494(JP,A)
【文献】 特開2002−302522(JP,A)
【文献】 特開2005−330439(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/019175(WO,A1)
【文献】 特開2007−076999(JP,A)
【文献】 特開2009−242647(JP,A)
【文献】 特開2011−207947(JP,A)
【文献】 特開2012−052103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/00 − 299/08
C08F 290/00 − 290/14
C08G 59/00 − 59/72
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートおよびポリオキシアルキレン系モノ(メタ)アクリレートを必須単量体として得られる共重合体(A)に(メタ)アクリル酸をエポキシ開環付加反応させて得られ、且つ(メタ)アクリル当量が220〜400g/eq、重量平均分子量が5,000〜60,000である反応性共重合体(B)を70重量%以上含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記共重合体(A)が、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン系モノ(メタ)アクリレートおよびその他の重合性単量体からなるものである請求項1記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基含有(メタ)アクリレートが、グリシジル(メタ)アクリレートである請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン系モノ(メタ)アクリレートが、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびメトキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートのいずれか少なくとも1種であり且つ該オキシアルキレン単位の平均繰り返し数が4以上20以下であるものである請求項1〜3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記反応性共重合体(B)が、(メタ)アクリル当量240〜350g/eq、重量平均分子量10,000〜50,000のものである請求項1〜4のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性コーティング剤。
【請求項7】
更に、オルガノシリケート化合物、無機酸化物ゾルおよび界面活性剤のいずれか少なくとも1種を含有する請求項6記載の活性エネルギー線硬化性コーティング剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより得られることを特徴とする活性エネルギー線硬化物。
【請求項9】
請求項8に記載の活性エネルギー線硬化物がそれ自体で成形され、または基材上に成形されてなることを特徴とする成形物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性、耐水性、耐摩耗性などに優れた硬化物を提供しうる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、更には該組成物を用いてなるコーティング剤や成形物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、成形品等(透明プラスチック材料やガラス材料など)の表面が結露したり、水蒸気などが付着することにより、該成形品の表面に曇りが生じ、視認性が低下するなどの問題がある。
【0003】
該曇り現象の発生を防止するために、該表面を親水性物質で被覆して防曇性を付与するなどの方法が知られている。具体的には、界面活性剤を塗布する方法、基材樹脂に界面活性剤を練り込み成形する方法、シリカや酸化チタンのような親水性無機フィラーを塗布する方法、親水性無機フィラーと界面活性剤又は水溶性ポリマーとを混合し塗布する方法などが挙げられる。しかしこれらの方法では、概して、該親水性物質が付着水滴によって成形品表面から流出しやすいため、防曇性が持続しないという問題が指摘されている。
【0004】
防曇塗料として、架橋反応性を利用し加熱硬化させることで、防曇性を長期に維持しようとする試みもある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、耐熱性の低い被塗物に防曇塗料を適用する場合などでは、加熱架橋反応を伴わない使用態様の方が好ましいこともある。
【0005】
防曇性皮膜の形成方法として、親水性の光硬化性単量体組成物を塗布し、該塗布物を光硬化させる方法(例えば、特許文献2参照)や、親水性の光硬化性樹脂組成物を塗布し、該塗布物を光硬化させる方法(例えば、特許文献3参照)も知られている。また、ハードコート性(高硬度)、耐擦傷性などの性能に特徴のあるポリマーアクリレート系の光硬化性樹脂組成物も開示されている(例えば、特許文献4参照)。一般的には、光硬化方式は加熱硬化方式に比べて、基材の選択幅が広く、また生産性などに優れるとされる。しかしながら、光硬化性単量体組成物では、使用単量体の選択如何では該組成物の貯蔵安定性が劣るため低温下で結晶析出が起こり、得られる硬化膜の平滑性、均質性や諸物性に問題が生じる場合がある。なお、光硬化性樹脂組成物に係る発明では、防曇性に着目した発明が必ずしも数多く提案されていないのが実情である。
【0006】
そのため、防曇性、耐水性および耐摩耗性などの諸性能を同時に満足する硬化膜を提供することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−105255号公報
【特許文献2】特開2005−239870号公報
【特許文献3】特開2007−84602号公報
【特許文献4】特開2007−106955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、防曇性、耐水性および耐摩耗性などの諸性能に優れる硬化膜を提供することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を収得するとともに、該組成物を活性エネルギー線硬化性コーティング剤および成形物品に適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決すべく、特に活性エネルギー線硬化性樹脂の構成と効果につき着目した。すなわち、使用する共重合体の種類および該共重合体への重合性単量体の導入条件、ならびに得られる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の物性値と目的とするコーティング剤の諸物性との相関に着目して、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、エポキシ基含有(メタ)アクリレートおよびポリオキシアルキレン系(メタ)アクリレートからなる共重合体(A)に(メタ)アクリル酸をエポキシ開環付加反応させて得られ、且つ(メタ)アクリル当量が220〜400g/eq、重量平均分子量が5,000〜60,000である反応性共重合体(B)を70重量%以上含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に係る。また本発明は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性コーティング剤に係る。また本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより得られることを特徴とする活性エネルギー線硬化物に係る。更に本発明は、前記活性エネルギー線硬化物がそれ自体で成形され、または基材上に成形されてなることを特徴とする成形物品に係る。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、防曇性、耐水性および耐摩耗性などの諸性能に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供できる。本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物や該コーティング剤を用いることにより、該諸性能に優れる硬化膜や成形物品を容易に提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
すなわち本発明は、エポキシ基含有(メタ)アクリレートおよびポリオキシアルキレン系(メタ)アクリレートからなる共重合体(A)に(メタ)アクリル酸をエポキシ開環付加反応させて得られ、且つ(メタ)アクリル当量が220〜400g/eq、重量平均分子量が5,000〜60,000である反応性共重合体(B)を有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に係る。また本発明は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性コーティング剤に係る。また本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより得られることを特徴とする活性エネルギー線硬化物に係る。更に本発明は、前記活性エネルギー線硬化物がそれ自体で成形され、または基材上に成形されてなることを特徴とする成形物品に係る。
【0013】
共重合体(A)に用いる必須単量体であるエポキシ基含有(メタ)アクリレート(以下、単量体(a−1)という)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−グリシドキシエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、4,5−エポキシペンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらのうちグリシジル(メタ)アクリレートが入手容易なため好ましく使用できる。
【0014】
共重合体(A)に用いる必須単量体であるポリオキシアルキレン系モノ(メタ)アクリレート(以下、単量体(a-2)という)としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびメトキシポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。該(メタ)アクリレートにおけるオキシアルキレン単位の平均繰り返し数は、4以上20以下のものが好ましく、より好ましくは5以上15以下とされる。これらは、該当する市販品、例えば日油(株)製のブレンマーシリーズ、日本乳化剤(株)製のMAシリーズ、ダイセル(株)製のプラクセルシリーズなどから適宜に選択して使用することができる。
【0015】
共重合体(A)に用いる任意単量体(単量体(a−3)という)としては、前記単量体(a−1)や(a−2)と共重合可能であり、且つ単量体(a−1)のエポキシ基と反応しないものであれば、差支えなく使用できる。該任意単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類:トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有アルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;酢酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0016】
共重合体(A)における前記構成単量体の使用割合は、特に限定されないが、通常は次の通りとされる。単量体(a−1)の使用割合は、後述の(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環付加反応や得られる反応性共重合体(B)の(メタ)アクリル当量を考慮して決定され、通常は45〜80重量%(但し、単量体(a−1)、(a−2)および(a−3)の合計を100重量%とする)程度、好ましくは50〜75重量%である。また、単量体(a−2)の使用割合は、得られる反応性共重合体(B)の親水性や後述する活性エネルギー線硬化物の防曇性などを考慮して決定され、通常は20〜55重量%程度、好ましくは25〜35重量%である。また、単量体(a−3)は0〜30重量%程度、好ましくは0〜25重量%である。
【0017】
共重合体(A)の製造では、格別の限定なく、公知のラジカル重合方法(溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法)を適宜に選択できるが、溶液重合法が好ましい。溶液重合法では、例えば、前記単量体を反応容器に仕込み、有機溶媒、連鎖移動剤(メルカプタン類など)、重合開始剤(無機過酸化物、アゾ系化合物など)などの存在下に、80〜150℃程度で重合反応を進行させればよい。なお、単量体の供給は、重合熱の制御、反応時間などの条件を考慮して、同時仕込み、分割仕込み、滴下仕込みなどを適宜に選択できる。また、該溶媒としては、単量体(a−1)と反応しないものを使用でき、例えば、酢酸エステル類、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒などが挙げられる。共重合体(A)の重量平均分子量は、後述する反応性共重合体(B)の重量平均分子量範囲を考慮して決定され、通常は4,000〜45,000程度、好ましくは5,000〜35,000である。
【0018】
反応性共重合体(B)は、前記共重合体(A)に(メタ)アクリル酸をエポキシ開環付加反応させることにより得られる。共重合体(A)と(メタ)アクリル酸との使用割合は、得られる反応性共重合体(B)の(メタ)アクリル当量および重量平均分子量が所定範囲内になるように、適宜に決定できる。通常は、共重合体(A)のエポキシ基1モルに対して、(メタ)アクリル酸を0.8〜1.2モル程度、好ましくは0.9〜1.1モルとされる。
【0019】
反応性共重合体(B)の製造では、格別限定されず、従来公知の方法を採用できる。例えば、反応容器に共重合体(A)、(メタ)アクリル酸、重合禁止剤などを仕込み、酸素バブリング下に攪拌しながら、80〜120℃程度でエポキシ開環付加反応を進行させればよい。このようにして、(メタ)アクリル当量が220〜400g/eq、好ましくは240〜350g/eq、重量平均分子量が5,000〜60,000、好ましくは10,000〜50,000である反応性共重合体(B)を容易に収得できる。
【0020】
反応性共重合体(B)の(メタ)アクリル当量が220g/eqに満たない場合は、得られる該樹脂硬化物の防曇性が低下する傾向にあり、また400g/eqを超える場合は、これを用いてなる活性エネルギー線硬化性組成物の該硬化性の低下や、得られる硬化物の耐水性や耐摩耗性が劣る傾向がある。反応性共重合体(B)の重量平均分子量が5,000未満では、得られる硬化物の耐水性や耐摩耗性などが低下する傾向があり、また60,000を超えると、これを用いてなる活性エネルギー線硬化性組成物の粘度が高くなり不揮発分濃度が低下したり、得られる硬化膜のレベリング性が劣る傾向がある。
【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、前記の反応性共重合体(B)を主成分として含有するものであり、ましくは70重量%以上とされる。従って、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物においては、得られる硬化物や成形物品の諸性能や諸物性を考慮の上、50重量%未満であれば必要に応じて、活性エネルギー線硬化性単量体、光重合開始剤、重合禁止剤、光増感剤などが配合できる。必要に応じて、更には公知各種の防曇剤(界面活性剤、水溶性ポリマーなど)、耐水化剤(オルガノシリケート化合物、無機酸化物ゾルなど)、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、抗菌剤、防黴剤、無機フィラー、顔料、溶剤などの添加剤を適宜に配合してもよい。本発明の活性エネルギー線硬化物の耐水性や防曇性の観点からは、これら添加剤の中でもオルガノシリケート化合物、無機酸化物ゾル、界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0022】
反応性希釈剤としての単量体やその他の活性エネルギー線硬化性樹脂としては、格別の限定はされない。該単量体としては、例えば、各種公知の単官能性単量体、多官能性単量体が挙げられ、またその他の活性エネルギー線硬化性樹脂としては、各種公知のエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、得られる活性エネルギー線硬化物の目的性能を考慮して、当該種類や使用量を適宜に選定して用いることができる。
【0023】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノンなどの水素引き抜きによってラジカルを発生するタイプの化合物や、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール、ヒドロキシアルキルフェノン、ハロゲノケトンなどの分子内分裂によってラジカルを発生するタイプの化合物を、適宜に選択採用できる。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノン、トルハイドロキノン、パラターシャリーブチルカテコールなどが挙げられる。また、光増感剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミンなどのアミン類、o−トリルチオ尿素などの尿素類、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、s−ベンジルイソチウロニウム−p−トルエンスルホネートなどの硫黄化合物などが挙げられる。前記の光重合開始剤および光増感剤の使用量は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中の光重合性成分(反応性共重合体(B)および反応性単量体)100重量部に対し、各々0.1〜20重量部程度であり、好ましくは0.5〜10重量部とされる。
【0024】
また前記耐水化剤であるオルガノシリケート化合物としては、いわゆるシランカップリング剤(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシランなど)やアルコキシシラン部分縮合物などが挙げられ、また無機酸化物ゾルとしては、コロイダルシリカゾルや該コロイドなどが挙げられる。
【0025】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をコーティング剤として適用する場合は、通常は、前記の有機溶剤や反応性希釈剤により所望の粘度に調整して用いられるが、必要に応じてエマルジョン塗料などの水性組成物として使用することもできる。例えば、水性組成物とする場合は、得られる硬化物の目的性能を考慮の上、ポリビニルアルコール、アクリルアミド系重合体、アクリル酸/アクリルエステル系共重合体、変性セルロース系樹脂などの親水性樹脂を添加できる。
【0026】
該コーティング剤の製造は、格別限定されず、公知の製造方法を選択適用できる。本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が塗布される基材としては、格別限定されず、各種公知の成形材、物品、支持体などを対象としうる。例えば、プラスチック成形品としては、一般的に使用される各種のプラスチック素材から得られる成形品に適用できる。該プラスチックとしては、例えばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂などが挙げられる。プラスチック素材以外の被塗物としては、例えば、ガラスなどの無機基材や各種の金属を対象とすることができる。
【0027】
基材がプラスチックシートやフィルムである場合は、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を常法に従って塗布し、必要に応じて予備乾燥させたのち、後述のように活性エネルギー線を照射することにより、目的性能を有する硬化物や成形物品を容易に得ることができる。該組成物やコーティング剤の塗布方法については、特に限定はされず、適用基材に応じて、適宜に選択決定でき、例えばバーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0028】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させるには、公知の活性エネルギー線(電子線、紫外線など)を照射して行う。該光源としては、例えば、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを有する紫外線照射装置が使用され、必要に応じて光量、光源の配置などが調整される。高圧水銀灯を使用する場合は、通常80〜160W/cmの光量を有したランプ1灯に対して搬送速度5〜50m/分で硬化させるのが好ましい。換言すれば、通常は、紫外線の積算照度が300〜3,000mJ/cmとなる条件で紫外線照射を行うことが好ましく、紫外線の積算照度が500〜1,500mJ/cmとなる条件がより好ましい。一方、電子線により硬化させる場合は、通常10〜300kVの加速電圧を有する電子線加速装置にて、搬送速度5〜50m/分で硬化させるのが好ましい。なお、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を剥離性基材上に塗工し、活性エネルギー線を照射した後、定法に従って剥離することで、それ自体をフィルムとして収得しうる。
【実施例】
【0029】
以下に製造例、実施例および比較例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下「部」および「%」は特記しない限り重量基準である。また、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、商品名「HLC−8220」、カラム:東ソー(株)製、商品名「SuperHZ−M」×3)により測定した。
【0030】
製造例1(反応性共重合体(B)の合成)
撹拌機、温度計、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、グリシジルメタクリレート(以下、GMAという)187.5部、オキシエチレン単位の平均繰り返し数が9であるメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名「M−90G」)62.5部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1,000部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという)7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 562.5部、M−90G 187.5部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を、約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより、共重合体(A)溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、アクリル酸(以下、AAという)380.3部、メトキノン2.0部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン1.4部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、反応性共重合体(B)溶液を得た(以下、共重合体(B1)という)。共重合体(B1)のアクリル当量は、固形分換算で262g/eq、重量平均分子量41,000であった。
【0031】
製造例2(反応性共重合体(B)の合成)
製造例1で用いたと同様の反応装置に、GMA 150部、M−90G 100部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1,000部およびAIBN 7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 450部、M−90G 300部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を、約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより、共重合体(A)溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、AA 304.2部、メトキノン1.8部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン1.3部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、反応性共重合体(B)溶液を得た(以下、共重合体(B2)という)。共重合体(B2)のアクリル当量は、固形分換算で309g/eq、重量平均分子量40,000であった。
【0032】
製造例3(反応性共重合体(B)の合成)
製造例1で用いたと同様の反応装置に、GMA 175部、M−90G 50部、トリフルオロエチルメタクリレート25部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1,000部およびAIBN 7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 525部、M−90G 150部、トリフルオロエチルメタクリレート75部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を、約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより、共重合体(A)溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、AA 354.9部、メトキノン2.0部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン1.4部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、反応性共重合体(B)溶液を得た(以下、共重合体(B3)という)。共重合体(B3)のアクリル当量は、固形分換算で275g/eq、重量平均分子量38,000であった。
【0033】
製造例4(反応性共重合体(B)の合成)
製造例1で用いたと同様の反応装置に、GMA 175部、M−90G 50部、メチルメタクリレート(以下、MMAという)25部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1,000部およびAIBN 7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 525部、M−90G 150部、MMA 75部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより、共重合体(A)溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、AA 354.9部、メトキノン2.0部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン1.4部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、反応性共重合体(B)溶液を得た(以下、共重合体(B4)という)。共重合体(B4)のアクリル当量は、固形分換算で275g/eq、重量平均分子量40,000であった。
【0034】
比較製造例1(比較用反応性共重合体の合成)
製造例1で用いたと同様の反応装置に、GMA 100部、M−90G 150部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1,000部およびAIBN 7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 300部、M−90G 450部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を、約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより、共重合体(A)溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、AA 202.8部、メトキノン1.2部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン0.9部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、比較用反応性共重合体溶液を得た(以下、共重合体(C1)という)。共重合体(C1)のアクリル当量は、固形分換算で430g/eq、重量平均分子量39,000であった。
【0035】
比較製造例2(比較用反応性共重合体の合成)
製造例1で用いたと同様の反応装置に、GMA 187.5部、MMA 62.5部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1000部およびAIBN 7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA 562.5部、MMA 187.5部、ラウリルメルカプタン3.7部、およびAIBN 22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を、約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN 10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温することにより共重合体溶液を得た。
続いて、窒素導入管を空気導入管につけ替え、AA 380.3部、メトキノン2.3部およびトリフェニルフォスフィン6.0部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃にて8時間保温後、メトキノン1.6部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、比較用共重合体溶液を得た(以下、比較用反応性共重合体(C2)という)。共重合体(C)のアクリル当量は、固形分換算で262g/eq、重量平均分子量 37,000であった。
【0036】
実施例1〜6(活性エネルギー線硬化性コーティング組成物の調製)
製造例1〜4で得られた反応性共重合体(B1)〜(B4)をそれぞれ固形分換算で100部、光重合開始剤(チバ・スペシャルテイー・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)5部、反応性希釈剤および希釈溶剤としてメチルエチルケトンを表1に示す割合で配合することにより、本発明の活性エネルギー線硬化型コーティング組成物を調製した(順に本組成物1〜6という)。
【0037】
比較例1〜2(比較用の活性エネルギー線硬化性コーティング組成物の調製)
実施例1において、反応性共重合体(B1)に代えて比較用反応性共重合体(C1)〜(C2)を用いた他は同様に配合して、比較用組成物を得た(順に比較用組成物1〜2という)。
【0038】
【表1】
【0039】
表1中、BC300は多官能ポリエステルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名「ビスコート300」を、TMPTAはトリメチロールプロパントリアクリレートを、MEKはメチルエチルケトンを意味する。
【0040】
(活性エネルギー線硬化膜の作製)
本組成物1〜6および比較用組成物1〜2を、それぞれ基材A(ポリエチレンテレフタレート樹脂板)および基材B(透明ガラス板)にバーコーターで塗装し、70℃で1分間の予備乾燥を行った後、空気下で高圧水銀灯を用いて600mj/cmの照射量となるよう紫外線照射を行い、膜厚15μmの硬化膜を得た。
【0041】
(評価例)
硬化膜の性能試験条件と評価方法は以下の通りである。各評価結果を表2に示す。
【0042】
<硬化塗膜の防曇試験>
40℃の温水を入れたシャーレの上部を試験板にて硬化塗膜面側を温水側にして密閉し20秒経過後、PC基材を通して12ポイントの活字を5cmの距離から目視した。見え具合を以下の基準に従い評価した。
◎:塗膜の曇りが発生しておらず活字がはっきりと判読できる。
○:塗膜に曇りが発生するが活字が判読できる。
×:塗膜に曇りが発生し活字が判読できない。
【0043】
<硬化塗膜の耐温水試験>
40℃の温水を入れた水槽中に試験板を浸漬し、80時間経過後の塗膜外観を目視にて以下の基準に従い評価した。
○:硬化塗膜に変化が認められない。
△:硬化塗膜が白化したが、溶解、脱膜、破れが認められない。
×:溶解、脱膜、破れが認められる。
【0044】
<耐摩耗性試験>
600gの重りの底に10mm×10mmの範囲に付けたスチールウールで試験板を30回擦り、外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:変化無し。
△:細かいキズ有り。
×:大きなキズ有
【0045】
【表2】
【0046】
表1から、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、比較用活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に比べて、防曇性および耐水性のいずれかの点で優れると共に、耐摩耗性についても遜色がないことが明らかである。