特許第6268669号(P6268669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6268669液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268669
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/16 20060101AFI20180122BHJP
【FI】
   C03B5/16
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-221660(P2013-221660)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81224(P2015-81224A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】内田 博幸
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−136090(JP,A)
【文献】 特表2013−523449(JP,A)
【文献】 特開2004−181347(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118053(WO,A1)
【文献】 特表2009−545512(JP,A)
【文献】 米国特許第02635388(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−5/44
B01D 21/00−21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中を沈降する異物の沈降速度を制御する装置であって、
前記液体よりも比重の大きな異物が前記液体に混合した溶液が投入される貯留槽と、
該貯留槽の内壁に設けられ前記貯留槽内に投入された溶液に向けて重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射する超音波発振器と、
前記貯留槽の内壁に前記超音波発振器に対向して設けられ前記超音波発振器から照射された超音波と重なり合うことで前記溶液中に定在圧力波を生成するための対向波を生じさせる対向波生成手段と、を備え、
前記対向波生成手段は、前記超音波発振器から照射された超音波を前記超音波発振器に向けて反射する反射部材であり、
前記反射部材は、前記貯留槽内の溶液を加熱するための電極を兼用している、
ことを特徴とする液体中における異物の沈降制御装置。
【請求項2】
前記超音波発振器から照射される超音波の強さ、周波数又は照射時間のうち少なくとも一つを変更可能な制御部を備えた、ことを特徴とする請求項1に記載の液体中における異物の沈降制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法に関し、特に、溶融ガラス中における金属粒子の沈降速度を制御するのに好適な、液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子炉施設において排出される高レベル放射性廃棄物の金属粒子が混合された放射性廃液は、ガラスビーズ(以下ガラスとも言う)と共にガラス溶融炉に投入され、溶融炉内にてガラスを溶融することで溶融ガラス内に分散される。具体的には、溶融炉の側壁には、相対向するように一対の電極が配設されており、これら電極に通電することで電極間のガラス及び金属粒子にジュール熱を発生させ、ガラスを加熱溶融する。そして、溶融ガラス中に高レベル放射性廃棄物の金属粒子が分散したガラス融液は、溶融炉の底部から排出されてキャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に注入され、ガラス固化体としてキャニスタ内に封入される。
【0003】
ところで、高レベル放射性廃液中における金属粒子としては、例えば、白金属粒子(白金、ロジウム、パラジウム等)が挙げられる。これらの金属粒子は、溶融炉内で溶融された溶融ガラスよりも比重が大きいため、溶融ガラス中を沈降し、溶融炉の底部に堆積する。これにより、炉底の排出口が金属粒子によって閉塞されてしまう可能性が生じ得る。また、溶融炉の側壁に相対向して配置された電極に通電した際、電流が電極間のガラス及び金属粒子よりも炉底に堆積した金属粒子に短絡して流れ易くなり、電極間のガラスを適切に加熱溶融することが困難となる。また、炉底の短絡路を流れる過剰電流によって炉底が焼損する可能性も考えられる。
【0004】
このため、通常、溶融炉内の温度分布を適切に制御することでガラスの粘度を変化させ、金属粒子の沈降速度を制御している。すなわち、溶融炉の底部からガラス融液を速やかに排出する流下運転時以外は、炉底を比較的低温に保って金属粒子の急速な沈降を抑制していた。しかし、高い流動性を必要とする流下運転時には、ガラス温度を高くして粘度を低下させる必要があることから、金属粒子の沈降速度の制御が不十分となり、金属粒子の炉底への堆積が避けられない。
【0005】
この対策として、従来、溶融炉内の底部に機械的な撹拌装置を設け、炉底に沈降した金属粒子を撹拌することで、炉底での堆積を抑制するようにしたガラス溶融炉が知られている。また、溶融炉の側壁に、溶融炉内のガラス融液に向けて超音波を照射する超音波発振器を設け、超音波によってガラス融液中に細かな圧力波を生成することで、ガラス融液中の金属粒子がクラスタ化(凝集)することを抑制し、金属粒子の沈降速度を抑制するようにしたガラス溶融炉が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−163292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶融炉内の底部に機械的な撹拌装置を設けたガラス溶融炉においては、撹拌装置によって炉底の溶融ガラスを撹拌することで金属粒子が溶融炉の底部に堆積することを抑制できるものの、撹拌装置が高温のガラス融液に浸漬された状態となっているので、撹拌装置の耐熱性及び耐久性が低く、短い間隔で定期的にメンテナンスしなければならないという問題があった。
【0008】
また、溶融炉内のガラス融液に向けて超音波を照射することで、金属粒子のクラスタ化を抑制するようにしたガラス溶融炉においては、金属粒子のクラスタ化を抑制することにより、金属粒子の沈降速度を抑制することができるものの、ガラス温度を高くしてガラス粘度を低下させる流下運転時には、ガラス粘度の低下に応じて、金属粒子の沈降速度が速まってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点を鑑みて創案されたものであり、液体中を沈降する異物の沈降速度を液体の温度や粘度に因らずに制御することができる、液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、液体中を沈降する異物の沈降速度を制御する装置であって、前記液体よりも比重の大きな異物が前記液体に混合した溶液が投入される貯留槽と、該貯留槽の内壁に設けられ前記貯留槽内に投入された溶液に向けて重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射する超音波発振器と、前記貯留槽の内壁に前記超音波発振器に対向して設けられ前記超音波発振器から照射された超音波と重なり合うことで前記溶液中に定在圧力波を生成するための対向波を生じさせる対向波生成手段と、を備え、前記対向波生成手段は、前記超音波発振器から照射された超音波を前記超音波発振器に向けて反射する反射部材であり、前記反射部材は、前記貯留槽内の溶液を加熱するための電極を兼用している、ことを特徴とする液体中における異物の沈降制御装置が提供される。
【0011】
前記制御装置は、前記超音波発振器から照射される超音波の強さ、周波数又は照射時間のうち少なくとも一つを変更可能な制御部を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る液体中における異物の沈降制御装置及び沈降制御方法によれば、液体に異物が混合した溶液に向けて、重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射し、該超音波と重なり合う対向波を生じさせることにより、互いに逆向きの二つの超音波を重ね合わせ、溶液中に重力方向に対して傾斜した定在圧力波を生成することができる。
【0016】
溶液中に定在圧力波を生成すると、その節の部分に異物が捕捉されることは既に知られているところであるが、本発明では重力方向に対して傾斜した定在圧力波を生成することにより、節の部分に捕捉された異物は、その傾斜に沿って徐々に沈降することとなり、異物の沈降速度を抑制することができる。
【0017】
したがって、この定在圧力波の生成条件を適宜変更することにより、液体中を沈降する異物の沈降速度を液体の温度や粘度に因らずに制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る液体中における異物の沈降制御装置の説明図であり、(a)は縦断面図、(b)は図1(a)のb−b線断面図、(c)は図1(b)のc−c線断面図、である。
図2図1(a)に示した超音波発振器の詳細説明図である。
図3図1(a)に示した定在圧力波の作用を示す詳細説明図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る液体中における異物の沈降制御装置の説明図であり、(a)は縦断面図、(b)は図4(a)のb−b線断面図、(c)は図4(b)のc−c線断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付すことにより重複した説明を省略し、また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1(a)〜(c)に、本発明の第1実施形態に係る液体中における異物の沈降制御装置1を示す。この沈降制御装置1は、液体L中を沈降する異物Cの沈降速度を制御する装置であって、液体Lよりも比重の大きな異物Cが液体Lに混合した溶液が投入される貯留槽2と、貯留槽2の内壁に設けられ貯留槽2内に投入された溶液に向けて重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射する超音波発振器3と、貯留槽2の内壁に超音波発振器3に対向して設けられ超音波発振器3から照射された超音波と重なり合うことで溶液中に定在圧力波Sを生成するための対向波を生じさせる対向波生成手段4と、を備えている。
【0021】
本実施形態に係る沈降制御装置1は、例えば、原子炉施設から排出された高レベル放射性廃液をガラスビーズと共に溶融するガラス溶融炉に適用される。この場合、ガラス溶融炉の溶融炉本体が上述した貯留槽2に相当する。なお、図1(a)に示した沈降制御装置1の縦断面図は、図1(b)におけるa−a線断面図に相当する。
【0022】
溶融炉本体(貯留槽2)には、原子炉施設から排出された高レベル放射性廃液がガラスビーズと共に矢印Xで示すように上方から投入される。ガラスビーズは、溶融炉本体(貯留槽2)内にて溶融されて溶融ガラスとなる。この溶融ガラスが上述した液体Lに相当する。
【0023】
また、高レベル放射性廃液には、高レベル放射性廃棄物の金属粒子(白金、ロジウム、パラジウム等の白金属粒子)が混合されている。この金属粒子が上述した異物Cに相当する。すなわち、本実施形態に係る沈降制御装置1は、溶融炉本体(貯留槽2)内において、溶融ガラス(液体L)中の金属粒子(異物C)の沈降速度を制御するものである。なお、以下、本実施形態において、金属粒子が溶融ガラスに混合した溶液を融液と称することとする。
【0024】
図1(b)に示したように、溶融炉本体(貯留槽2)は、例えば、水平断面において四角形状に形成されており、底部は逆四角錐形状に形成されている。溶融炉本体(貯留槽2)の相対向する内壁には、加熱用の主電極5が一対設けられている。これら主電極5に通電することで、主電極5間の液体Lにジュール熱が発生し、ガラスが加熱溶融される。
【0025】
溶融炉本体(貯留槽2)の別の相対向する内壁には、主電極5よりも低い位置に、補助電極6が一対設けられている。これら補助電極6は、図1(c)に示したように、溶融炉本体(貯留槽2)内の液位が主電極5よりも低いときに、補助電極6間の液体Lにジュール熱を発生させてガラスを加熱溶融するものである。なお、補助電極6は、スペースに余裕があれば、主電極5が設けられた内壁に配設されてもよい。
【0026】
溶融炉本体(貯留槽2)の底部には、溶融ガラス(液体L)を金属粒子(異物C)と共に排出する流下ノズル7が設けられており、流下ノズル7の周りには、底部電極8が設けられている。底部電極8と主電極4との間に通電することで、流下ノズル7の近傍のガラスが溶融液化されて詰まることなく異物Cと共に排出される。流下ノズル7から排出された液体Lは、キャニスタ(図示せず)に注入され、ガラス固化体として封入される。
【0027】
溶融炉本体(貯留槽2)の内壁には、溶融炉本体(貯留槽2)内の溶融ガラス(液体L)に金属粒子(異物C)が混合された融液に向けて、重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射する超音波発振器3が設けられている。超音波発振器3は、主電極5が設けられた一対の内壁に、主電極5よりも下方の位置で斜め上方の主電極5に向けて超音波を照射するように配置されている。ここでは、一対の主電極5に対向するように一対の超音波発振器3が配置されているが、いずれか一方のみを配置するようにしてもよい。
【0028】
主電極5は、超音波発振器3と正対するように重力方向に対して傾斜した反射面4aを有している。この反射面4aは、超音波発振器3に向けて対向波を生じさせる対向波生成手段4に相当し、反射面4aを有する主電極5は反射部材を構成している。すなわち、本実施形態では、主電極5が反射部材を兼用している。換言すれば、反射部材は、溶融炉本体(貯留槽2)内の融液を加熱するための電極を兼用していることとなる。
【0029】
このように、反射部材と電極とを兼用させることにより、主電極5とは別に反射部材(対向波生成手段4)を配置する必要がなく、コストダウンを図ることができ、溶融炉本体(貯留槽2)の設計的な余裕も生じる。また、対向波生成手段4を、反射面4aを有する反射部材により構成することによって、超音波発振器3から照射された超音波を逆方向に反射させることができ、容易に対向波を生じさせることができる。
【0030】
図2に示したように、超音波発振器3は、溶融炉本体(貯留槽2)の内壁に形成された凹部2aに収容されており、パルス電圧Vが印加されることで振動する圧電特性を有する振動子21と、振動子21を挟む一対の電極板22,23とを備えている。一方の電極板22は溶融炉本体(貯留槽2)の内壁の一部を成し、他方の電極板23にはダンパー材24が装着されている。これら電極板22,23には、パルス発生源25からパルス電圧V(例えば100〜300ボルト程度の負パルス)が印加されるようになっている。振動子21には、チタン酸バリウムやジルコン酸チタン酸鉛等の特殊な金属粉が加えられたセラミックや水晶等が用いられる。なお、超音波発振器3の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0031】
振動子21に電極板22,23を介してパルス電圧Vが印加されると、振動子21が振動する。この振動によって双方の電極板22,23が振動し、一方の電極板22から超音波Wが溶融炉本体(貯留槽2)内の液体Lに照射され、他方の電極板23の振動はダンパー材24によって減衰される。一方の電極板22と凹部2aとの間には、シール材26が設けられている。シール材26は、電極板22の振動を阻害することなく、液体Lが凹部2a内に浸入することを防止する。
【0032】
また、パルス発生源25には、超音波発振器3から照射される超音波Wの強さ(振幅)、周波数又は照射時間のうち少なくとも一つを変更可能な制御部27が接続されている。この制御部27によって、例えば、液体Lの温度、粘度、液位等の条件に応じて、照射される超音波Wを適宜調整することができ、定在圧力波Sの生成状態を任意に制御することができる。なお、図1(a)において、パルス発生源25は図示省略されているが、制御部27の内部に収容されている。
【0033】
超音波発振器3から溶融炉本体(貯留槽2)内に照射された超音波Wは、図1(a)に示したように、主電極5の反射面4aに反射して対向波となり、その対向波が超音波発振器3から照射された超音波Wと重なり合うことで、溶融炉本体(貯留槽2)内の融液(液体Lと異物Cとの混合液)中に、重力方向に対して傾斜した定在圧力波Sが生成される。すなわち、波長、周波数、振幅、速さ(速度の絶対値)が略同一で進行方向が互いに逆向きの二つの超音波が重なり合うことで、溶融炉本体(貯留槽2)の融液中に定在圧力波Sが生成される。
【0034】
図3に示したように、定在圧力波Sは、交互に形成された腹Hと節Fとを有し、圧力変動が大きな腹Hの部分の金属粒子(異物C)は、圧力変動が少ない節Fの部分に移動し、節Fの部分に捕捉される。この定在圧力波Sの腹H及び節Fの波面は、重力方向に対して傾斜していることから、捕捉された金属粒子(異物C)は、自重によって傾斜面を徐々に沈降していくこととなり、沈降速度を抑制することができる。換言すれば、定在圧力波Sは、いわゆるフィルターとして作用することとなる。そして、金属粒子(異物C)の沈降速度は、超音波発振器3から照射される超音波Wの強さ、周波数若しくは照射時間のうち少なくとも一つ又はこれらの組み合わせによって任意に制御することができる。
【0035】
例えば、超音波発振器3から照射される超音波Wの強さ(振幅)を大きくすると、定在圧力波Sの腹Hの部分と節Fの部分との圧力差が大きくなることから、腹Hの部分の金属粒子(異物C)を節Fの部分に移動させる速度を速くすることができる。また、超音波Wの周波数を高くすると、定在圧力波Sの腹H及び節Fの数が増加することから、金属粒子(異物C)を捕捉する節Fの部分の数を増やすことができ、フィルターとしての目を細かくすることができる。また、超音波Wの照射時間を長くすると、定在圧力波Sの節Fの部分に捕捉される金属粒子(異物C)の捕捉時間を長くすることができる。
【0036】
したがって、溶融ガラス(液体L)中を沈降する金属粒子(異物C)の沈降速度を、溶融ガラス(液体)の温度や粘度等の性状に因らず任意に制御することができる。その結果、例えば、溶融ガラス(液体L)の温度を高くして粘度を低下させる流下運転時であっても、金属粒子(異物C)の沈降速度を遅くすることができ、金属粒子(異物C)が一斉に沈降して底部に堆積することによる問題を回避することができる。
【0037】
また、定在圧力波Sの腹Hの部分においては、圧力変動が大きく、その撹拌効果によって金属粒子(異物C)がクラスタ化(凝集)することを抑制することができ、かつ、凝集した金属粒子(異物C)を分散化することもできる。その結果、金属粒子(異物C)が凝集することによる沈降速度の増大を抑制することができる。こうして圧力変動の大きな腹Hの部分にて分散化された金属粒子(異物C)は、凝集時よりも遙かに重量が小さい状態で、圧力変動が小さい節Fの部分に移動され、節Fの部分に捕捉されることで、沈降速度を効果的に抑制することができる。
【0038】
なお、図1(a)において、左右の超音波発振器3を定期的に交代させて使用し、定在圧力波Sの生成方向を左右で定期的に切り換えることで、金属粒子(異物C)を左右バランスよく沈降させるようにしてもよい。また、左右の超音波発振器3を同時に使用し、二つの定在圧力波Sを交差するように生成することで、金属粒子(異物C)の沈降速度に変化を与えるようにしてもよい。
【0039】
図4(a)〜(c)に本発明の第2実施形態に係る液体中における異物の沈降制御装置1を示す。この第2実施形態に係る沈降制御装置1は、対向波生成手段4として、超音波発振器3に向けて超音波を照射する対向波用超音波発振器4bを採用したものである。それ以外の構成については、図1に示した第1実施形態に係る沈降制御装置1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0040】
図4(a)に示したように、溶融炉本体(貯留槽2)の内壁には、左右の超音波発振器3と対向するように、対向波用超音波発振器4bが設けられている。対向波用超音波発振器4bは、超音波発振器3から照射される超音波と略同一の波長、周波数、振幅、速さの超音波(対向波)を、超音波発振器3に向けて照射する。これにより、対向波用超音波発振器4bと超音波発振器3との間の融液中に、定在圧力波Sが生成される。その結果、上述した第1実施形態と同様に、溶融ガラス(液体L)中を沈降する金属粒子(異物C)は、定在圧力波Sの節Fの部分に捕捉され、沈降速度が抑制される。
【0041】
対向波用超音波発振器4bは、照射される超音波の強さ、周波数又は照射時間の少なくとも一つを変更可能な制御部27bに接続されている。したがって、金属粒子(異物C)の沈降速度は、超音波発振器3と同様に、対向波用超音波発振器4bから照射される超音波Wの強さ、周波数若しくは照射時間のうち少なくとも一つ又はこれらの組み合わせによって任意に制御することができる。
【0042】
そして、波長、周波数、振幅、速さが略同一で進行方向が互いに逆向きの二つの超音波を重なり合わせることによって、定在圧力波Sを生成することができる。なお、本実施形態において、主電極5は、補助電極6が設けられた溶融炉本体(貯留槽2)の内壁の補助電極6よりも上方の位置に配置されている。
【0043】
第2実施形態に係る沈降制御装置1によれば、超音波発振器3から照射された超音波とこれに対向して対向波用超音波発振器4bから照射された超音波(対向波)とを重ね合わせることによって定在圧力波Sを生成していることから、超音波発振器3から照射された超音波を反射面4aで反射させて定在圧力波Sを生成する第1実施形態に係る沈降制御装置1と比較して、対向波の減衰が少なく、より強く安定した定在圧力波Sを生成することができる。
【0044】
また、上述した第1実施形態及び第2実施形態に係る沈降制御装置1によれば、液体Lよりも比重の大きな異物Cが液体Lに混合した融液に向かって重力方向に対して傾斜した方向に超音波を照射し、超音波と重なり合う対向波を生じさせて融液中に傾斜した定在圧力波Sを生成し、定在圧力波Sの節Fの部分に異物Cを捕捉することによって異物Cの沈降速度を制御することができる。
【0045】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0046】
例えば、水(液体)中を沈降する砂(異物)を、上述した定在圧力波Sの節Fの部分で捕捉して、砂の沈降速度を制御するようにしてもよい。また、異物は、固体に限られず、液体でもよい。この場合、媒体としての液体(油)に、異物としてそれよりも比重の大きな別の液体(水)を混合しておき、油中を沈降する水を上述した定在圧力波Sの節Fの部分で捕捉して、水の沈降速度を制御するようにしてもよい。また、第2実施形態に示した対向波用超音波発振器4bの位置に反射面4aを有する反射部材(対向波生成手段4)を配置してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 沈降制御装置
2 貯留槽
2a 凹部
3 超音波発振器
4 対向波生成手段
4a 反射面
4b 対向波用超音波発振器
5 主電極
6 補助電極
7 流下ノズル
8 底部電極
21 振動子
22,23 電極板
24 ダンパー材
25 パルス発生源
26 シール材
27,27b 制御部

図1
図2
図3
図4