(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン化ガスの種類に応じて、前記プラズマ生成室内で生成されるプラズマから比較的質量の軽いイオンを含むイオンビームを引き出す際の前記カソード位置は、前記プラズマ生成室内で生成されるプラズマから比較的質量の重いイオンを含むイオンビームを引き出す際の前記カソード位置に比べて、前記プラズマ生成室の内壁側に配置される請求項1記載のイオン源の運転方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1には本発明に係るイオン源ISの構成例が描かれている。プラズマ生成室6は直方体、立方体あるいは円柱体の部屋で、その一面に開口が形成されている。当該開口には絶縁フランジ8が取り付けられていて、絶縁フランジ8にはプラズマ生成室6からイオンビームを引き出す為の引出電極系9と呼ばれる複数枚の電極が電気的に離間した状態で支持されている。
【0015】
プラズマ生成室6の周囲には特許文献1と同様に複数の永久磁石10が配置されていて、この永久磁石10によってプラズマ生成室6内にカスプ磁場が生成される。また、プラズマ生成室6内にはイオン化ガスがガスポート7を通じて導入されていて、室内に配置されたフィラメント1から放出された熱電子によって当該イオン化ガスが電離され、プラズマ生成室6内にプラズマPが生成される。
【0016】
フィラメント1の端部はフィラメントチャック2によって支持されていて、フィラメントチャック2はプラズマ生成室6の壁面に形成された貫通孔Hを通してプラズマ生成室6外に設けられた電流導入端子3に接続されている。電流導入端子3はフィラメント1に電流を導入する為の端子で、セラミックからなる絶縁体5に取り付けられている。この実施形態では絶縁体5がフィラメント支持に係る土台となる支持ベースBを兼ねている。
【0017】
絶縁体5とプラズマ生成室6の外壁との間には、同部材間の距離を可変に変更することのできる伸縮部材4が配置されている。この伸縮部材4は、例えば、筒状の部材で、成形ベローズや溶接ベローズ等の金属製のベローズや非金属製である蛇腹といった伸縮性のある部材である。この伸縮部材4はプラズマ生成室6の壁面に形成された貫通孔Hの周囲を覆い、絶縁体5(支持ベースB)とプラズマ生成室6の間の空間を気密に保つ機能を有している。なお、イオン源ISの近傍は高温であり、伸縮部材4の機能としては気密性が高いものが望ましいので、上述した伸縮部材4の候補としては、耐熱性、気密性に優れた溶接ベローズを用いることが望まれる。
【0018】
プラズマ生成室6内でのフィラメント1の位置調整は、支持ベースBを兼ねる絶縁体5の位置をプラズマ生成室6の外壁に対して近づける、あるいは遠ざけることで行われる。なお、絶縁体5の位置変更に関しては、装置のオペレーターによって手動で行ってもいいし、絶縁体5の移動機構を新たに設けておき、これを用いて自動で行うように構成しておいてもいい。
【0019】
このような構成を用いることで、プラズマ生成室6内でのフィラメント配置を変更させる機構等の配置場所、つまり支持ベースBを移動させる手段が設けられる場所へのイオン化ガスの流出を防止することができる。その結果、プラズマ生成室6内でのプラズマ生成に係るイオン化ガスの利用効率を向上させることが可能となる。
【0020】
上述した実施形態において、絶縁体5とプラズマ生成室6の外壁への伸縮部材4の取り付けはボルトを用いて行われる。図面の簡略化の為、図示が省略されているが各部材間にはO-ringのようなシール部材が配置されている。また、伸縮部材4の取り付け方とシール部材の配置については後述する他の実施形態においても同様である。
【0021】
また、後述する実施形態においてもフィラメント1がカソードを成す構成について説明するが、当該カソードとしては、フィラメント以外に、傍熱型あるいは間接型イオン源で用いられるフィラメントとカソードキャップからなるカソードであってもいいし、ホローカソードであってもいい。
【0022】
図2には本発明に係るカソードの支持構造例が描かれている。
図1の実施形態では伸縮部材4が絶縁体5に取り付けられていたが、
図2(A)に示されるように金属製のベース12を設けておき、ここに伸縮部材4を取り付けるようにしておいてもいい。この場合、絶縁体5と金属製のベース12で本発明の支持ベースBが構成される。
【0023】
一方で
図2(B)に示す構成を用いてもよい。
図2(B)の構成ではプラズマ生成室6と伸縮部材4の間に取付板11が配置されている。例えば、複数のカソードを有するイオン源の場合、個々のカソードとその支持機構をプラズマ生成室6に取り付けるのでは、取付に係る作業に時間を要してしまう。一方、
図2(B)に示す取付板11を大きなものにしておき、ここに複数のカソード及びその支持機構を予め取り付けておくようにすれば、プラズマ生成室6への部材の取り付けに係る作業性を大幅に改善することが可能となる。
【0024】
さらに、取付板11を用いて次にように構成することも考えられる。プラズマ生成室6の壁面に複数のカソードが配置される方向に沿って大きな貫通孔を設けておき、取付板11の寸法をプラズマ生成室6に形成された貫通孔の寸法よりも大きなものにしておく。その上で、取付板11のカソードが取付られる位置にカソードを挿通する為の小孔をあけておく。このような取付板11をプラズマ生成室6に取り付けるようにすれば、プラズマ生成室6に対して取付板11を取り付ける際の位置調整が非常に簡便なものとなる。
【0025】
本発明のバケット型イオン源では、プラズマ生成室6内でアーク放電を発生させる為に、フィラメント1(カソード)の電位とプラズマ生成室6の電位を異ならせている。伸縮部材4が導電性の部材であれば、プラズマ生成室6とフィラメント1(カソード)間が電気的に短絡してしまうことが懸念されるが、図示される絶縁体5を設けておくことで両部材間の電気的な短絡を防止することが可能となる。
【0026】
図3には本発明に係るカソード移動機構Cの構成例が描かれている。
図3(A)は特許文献1と同様に支持ベースBをモーター13の駆動軸14によって図示される矢印の方向に移動させる構成である。このようなカソード移動機構Cを用いて、カソード位置の調整を機械的に行えるようにしてもいい。また、特許文献1と同様にカソードを2方向に移動させるような構成であってもよい。その場合、図示されるモーター13が別のモーターの駆動軸に連結されるような構成が考えられる。また、カソード移動機構Cの構成例としては
図3(B)に示す構成であってもよい。
【0027】
図3(B)の構成では、リンク機構15を用いて支持ベースBを図示される矢印の方向に移動させる構成である。リンク機構15の構成としては、モーター13の駆動軸14に連結された図示されない歯車の回転によって、2本のアームが屈曲、伸展されるものが考えられる。なお、ここに挙げたカソード移動機構Cの構成はあくまで一例であって、他の構成を用いても構わない。
【0028】
図4には本発明に係るガイドとスライダーの構成例が描かれている。伸縮部材4の剛性が低い場合、所望方向へのカソードの移動が困難となる。また、カソード位置の変更に伴って、カソードもしくはカソードを支持する部材が伸縮部材4やプラズマ生成室6の壁面と衝突することが懸念される。イオン源ISの稼働中、カソードとカソードを支持する部材の電位(カソード電位)と伸縮部材4とプラズマ生成室6の電位(アノード電位)は異なっているので、電位の異なる部材が接触することで短絡による放電が発生し、イオン源ISが故障してしまうことが懸念される。
このような点を鑑み、プラズマ生成室6内でのカソード配置の調整をスムーズに行い、かつ、短絡による放電を防止する為に、
図4に示すガイドとスライダーからなる摺動機構を利用することが考えられる。
【0029】
図4(A)に示す構成例では、取付板11に棒状のガイド16が取り付けられている。また、伸縮部材4はカソードの移動方向において2つに分割されていて、分割された伸縮部材4の間にスライダー17が配置されている。この例において、スライダー17は筒状の伸縮部材4よりも径の大きい円環状の部材で、一部にガイド16が挿通される孔を有している。このような構成を用いることで、カソードの移動をスムーズに行うことができるとともに、カソード電位の部材がアノード電位であるプラズマ生成室6や伸縮部材4に接触することを防止することができる。
【0030】
図4(B)に示す構成例では、支持ベースBを構成する金属製のベース12がスライダー17を兼ねている。この金属製のベース12に棒状のガイド16を通す孔が形成されている。このような構成を用いても、
図4(A)と同様の効果を奏することができる。
【0031】
図4(C)に示す構成例では、取付板11に中空筒状のガイド16が取り付けられていて、金属製のベース12に棒状のスライダー17が取り付けられている。支持ベースBの移動に伴って、筒状のガイド16内をスライダー17が摺動するように構成されている。このような構成を用いても、
図4(A)と同様の効果を奏することができる。
【0032】
図4(D)に示す構成例では、一部に溝が形成されたレール状のガイド16が用いられる。2つに分割された伸縮部材4の間に配置された突起物がスライダー17を成し、ガイド16に形成された溝内を摺動するように構成されている。このような構成を用いても、
図4(A)と同様の効果を奏することができる。なお、ガイド16の溝に摺動させる突起物として、支持ベースBを成す金属製のベース12の端部を加工したものを用いてもよい。
【0033】
図4に示す実施形態においてガイド16は取付板11に支持されるものであったが、
図1に示した実施形態のように取付板11がない場合には、プラズマ生成室6の外壁にガイド16を取り付けるようにしておけばよい。なお、取付板11はプラズマ生成室6の外壁に取り付けられる部材であることから、ガイド16はプラズマ生成室6の外壁に間接的あるいは直接的に取り付けられるものである。
【0034】
図4に示す実施形態において、
図4(A)、
図4(D)では支持ベースBが支持されていないので、カソードが通過する領域の寸法(カソード挿通方向と直交する方向での伸縮部材4、取付板11、貫通孔Hの寸法)が十分に大きくない場合には、カソードの移動に伴ってカソード電位の部材がアノード電位の部材に接触してしまうことが懸念される。
【0035】
上述した点を鑑み、
図4(A)、
図4(D)に示す構成において、支持ベースBを成す金属製のベース12にスライダー17としての機能を持たせることが考えられる。具体的には、
図4(A)の構成で、
図4(B)の構成と同様に金属製のベース12に貫通孔をあけておき、この孔にガイド16を挿通するように構成しておく。このような構成を用いれば、ガイド16上に支持ベースBが摺動支持されるようになるので、カソードの移動に伴ってカソード電位の部材がアノード電位の部材に接触してしまうことを完全に防止することが可能となる。同様に、
図4(D)の構成でも支持ベースBを成す金属製のベース12にスライダー17としての機能を持たせるようにすることが考えられる。具体的には、
図4(D)の構成で、支持ベースBを成す金属製のベース12の端部を加工し、これがレール状のガイド16の溝内に摺動支持されるように構成しておく。このような構成を用いることで、カソードの移動に伴ってカソード電位の部材がアノード電位の部材に接触してしまうことを完全に防止することが可能となる。
【0036】
フィラメント1の交換時、フィラメント1はプラズマ生成室6内の特定位置に配置される。支持ベースBを移動させてフィラメント1を特定位置に配置することになるが、支持ベースBの移動量だけをみてフィラメント位置の調整を行うと、支持ベースBとプラズマ生成室6の外壁との距離が想定していたものと異なっている場合には所望する場所にフィラメント1を配置することができなくなる。その為、支持ベースBを移動させる前に支持ベースBとプラズマ生成室6の外壁との距離を測定しておくか、支持ベースBを移動させる前にプラズマ生成室6の外壁に対して支持ベースBが特定位置に配置されるように支持ベースBの位置調整を行うことが必要となる。
また、装置のオペレーターが手動により支持ベースBの位置を変更する場合、支持ベースBの移動量をいちいち測定していたのではフィラメント位置の調整にかなりの時間を要してしまう。
【0037】
このような点を鑑み、
図5に示す構成例のように、スライダー17の位置出し用マーク18をガイド16には付しておくことが考えられる。このような位置出し用マーク18があれば、その位置にスライダー17が配置されるように支持ベースBを移動させるだけでいいので、フィラメント1を特定位置へ配置するときの作業が簡便となる。
【0038】
位置出し用マーク18としては1つでもいいが、これを複数設けておいてもいい。例えば、次のようなケースでは、複数の位置出し用マーク18を設けておけば、フィラメント1の配置に係る調整作業が簡便となる。
【0039】
イオン源ISではイオン化ガスとして様々なガスが用いられる。例えば、イオン注入装置で用いられるイオン源ISではP型、N型の半導体素子を製造する為に、BF
3とPH
3が用いられる。これらのガスはプラズマ生成室6内でイオン化されてプラズマが生成されることになるが、プラズマ内には多種多様なイオンが存在している。
【0040】
BF
3がイオン化された際にBF
+、BF
2+、F
+、B
+といったイオンが発生するが、全てのイオンが必要ではなく、半導体製造の一プロセスにおいてはB
+イオンが必要とされる。この場合、B
+イオン以外のイオンは同プロセスにおいては不要なイオンであることから、イオン源ISから引出されるイオンビーム内のB
+イオンの比率を高めることが望まれる。
同様に、PH
3がイオン化された際、P
+、PH
+、PH
2+、PH
3+、H
+、H
2+、H
3+といったイオンが発生するが、半導体製造の一プロセスにおいてはP
+、PH
+、PH
2+、PH
3+イオンが必要とされる。
【0041】
バケット型イオン源の場合、プラズマ生成室6内に形成されたカスプ磁場近傍では、質量の軽いイオンがカスプ磁場に捕捉され、質量の重いイオンがプラズマ生成室6の内壁面に衝突して消失してしまう傾向がみられる。このような点を鑑み、同一イオン源内でイオン化ガスとしてBF
3とPH
3を用いる場合には、フィラメント1のプラズマ生成室6内での配置をイオン化ガスの種類に応じて異ならせておいたほうがいい。
【0042】
具体的には、BF
3を使用する場合、イオン化されたイオンのうち比較的質量の軽いイオン(B
+)が必要で質量の重いイオンが不要となるので、フィラメント1の位置はプラズマ生成室6の内壁面に近い位置に配置される方がいい。このようなフィラメント配置にしておければ、プラズマ生成室6の内壁面近傍でプラズマが生成され、このプラズマに含まれる質量の重いイオンをプラズマ生成室6の壁面で消失させることができる。これによって、イオン源ISから引出されるイオンビーム中のB
+の比率を高めることが可能となる。
【0043】
一方、PH
3を使用する場合、イオン化されたイオンのうち比較的質量の重いイオン(P
+、PH
+、PH
2+、PH
3+)が必要で質量の軽いイオンが不要となるので、フィラメント1の位置はプラズマ生成室6の内壁面から遠い位置に配置される方がいい。プラズマ生成室6内のフィラメント位置をBF
3使用時のままにしておくと必要とされる比較的質量の重いイオンがプラズマ生成室6の内壁面に衝突して消失してしまうので、BF
3使用時のフィラメント位置に比べてフィラメント1とプラズマ生成室6の内壁面との距離が広がるようにフィラメントを配置することが望まれる。このようなケースを考慮し、ガイド16に位置出し用マーク18を複数付すようにしておけば、イオン化ガスに応じた適切な位置にフィラメント位置を簡便に切換えることが可能となる。
【0044】
図6には本発明に係る位置検出手段の構成例が描かれている。
図6(A)に示すように支持ベースBの移動経路にセンサー20を配置しておく。例えば、このセンサー20は受発光一体型のセンサーで、支持ベースBがセンサー位置を横切ったときにセンサー20で支持ベースBからの反射光を受光して、支持ベースBがその位置に移動したことを検出するようなものである。また、支持ベースBの移動経路を挟むようにして受発光分離型のセンサーを配置してもよい。さらに、支持ベースBの位置検出に代えてスライダー17の位置検出を行うことで、カソード位置の確認を行うようにしてもよい。
また、支持ベースBの移動経路に沿ってラインセンサーを設けておき、移動経路全体に亘って、支持ベースBやスライダー17の位置検出を行えるようにしておいてもよい。
一方、光学的なセンサーの代わりに物理的なセンサーを用いてもよい。具体的には支持ベースBやスライダー17が移動することで、これらの部材と接触してオンオフが切り替えられる物理的なスイッチを設けておき、このスイッチのオンオフの切り替えを検知して各部材の位置検出を行うようにしてもよい。
【0045】
図6(A)に示すセンサー20を用いた位置検出に代えて、
図6(B)のように支持ベースBを移動させるモーター13の回転数に応じて支持ベースBの位置検出を行うようにしてもよい。この場合、モーターの回転をロータリーエンコーダーによってパルス信号に変換して、パルスをカウントすることで支持ベースBの位置を算出できるように構成しておく。
【0046】
図6(A)、
図6(B)に示す構成で得られた位置情報に基づいて、次のようにして半導体製造装置の制御することが考えられる。例えば、イオン注入装置の各部の動作を制御する制御装置19を設けておき、この制御装置19にイオン化ガスの情報を含む注入条件のデータを入力する。また、この制御装置19には位置検出手段によって得られた現在のフィラメント位置情報が送信されるように構成しておく。
図5の実施形態で述べたように同一イオン源で複数のイオン化ガスが取り扱われる場合、イオン化ガスの種類に応じてプラズマ生成室6内でのフィラメント配置を異ならせておく方が望ましい。このような点を鑑み、制御装置19には予めイオン化ガスに応じた適切なフィラメント位置の情報を記憶させておく。
そして、イオン注入処理に先だって、制御装置19に記憶されたフィラメント位置情報と位置検出手段から制御装置19に送信された現在のフィラメント位置情報とを制御装置19で比較する。比較の結果、両者のズレが大きい場合には、制御装置19からエラー信号を出力させる。
このような構成のもと、エラー信号に基づいてアラームを発生させる、あるいは、ディスプレイ等のユーザーインターフェースにフィラメント位置がエラーである旨を表示させるように構成すれば、不適切なフィラメント位置でのイオン注入処理を未然に防ぐことが可能となる。
また、制御装置19がエラー信号を発生させる段階で、制御装置19がイオン注入装置の各部の機能を停止するように構成してもよい。
【0047】
図7には本発明に係るカソードの配置例が描かれている。この実施形態ではイオン源ISには複数本のフィラメント1があり、各フィラメント1のプラズマ生成室6内への付出し量が異なっている。具体的には、一方のフィラメント1は通電されておらず、その先端部TがプラズマPの生成される領域外に配置されている。他方のフィラメント1は通電されていて、その先端部TがプラズマPの生成される領域内に配置されている。このような構成にしておけば、例えば、次のようなケースで有効となる。
【0048】
イオン源の稼働時間を延ばす為に、予備のカソードを備えたイオン源が用いられている。現在使用中のカソードが断線、消耗した際に予備のカソードとの交換が行われるが、予備のカソードの使用前にプラズマ生成室内のプラズマによって予備のカソードがスパッタリングされて消耗してしまうことが懸念される。予備のカソードが使用前に消耗してしまうと、イオン源の稼働時間を期待通りに延ばすことが出来なくなる。
この点を鑑み、上記構成を用いて、予備となるカソードの先端部Tをプラズマ生成室6内でプラズマPが生成される領域外に配置しておく。これにより、使用前に予備のカソードがプラズマPによってスパッタリングされることを抑制することが可能となる。
【0049】
上述した予備となるカソードの消耗を防止する点の他にカソードの交換を簡便に行う点から、
図8に示す構成を用いることが考えられる。
図8の実施形態では、取付板11とプラズマ生成室6の外壁との間にカソードの移動経路を開閉する弁体22が設けられている。当該弁体22はバルブ21に組み込まれており、手動または自動によって弁体22の開閉が行えるように構成されている。
また、弁体22の開け閉めによってプラズマ生成室6の壁面に形成された貫通孔Hが開け閉めされ、弁体22が閉じられることでプラズマ生成室側からの気流が貫通孔Hを通して容器の外側に流出しないようにシールされる。
【0050】
図8(A)では、バルブ21の弁体22は開けられていて、支持ベースBの移動方向においてフィラメント1がバルブ21の配置される場所を行き来できるように構成されている。
図8(A)の状態で支持ベースBを図示される矢印の方向に移動させ、フィラメント1の先端部Tがプラズマ生成室6の外部に完全に排出されたときの様子が
図8(B)に描かれている。
【0051】
図8(B)に示す位置までフィラメント1の先端部Tが移動したとき、バルブ21が操作され、弁体22が閉められる。
図7を用いて説明した実施形態において、予備となるカソードがある場合には、イオン源の稼働中は弁体22を閉じておき予備となるカソードをプラズマ生成室6の外部に配置しておけば、プラズマ生成室6内で発生したプラズマPによって予備となるカソードが消耗することを完全に防止することが可能となる。
【0052】
また、カソードが消耗した場合、新しいカソードとの交換が必要となる。
図8に示す構成を用いると、プラズマ生成室6内の雰囲気と伸縮部材4内の雰囲気とを完全に切り離すことができるので、プラズマ生成室6内の真空を破らずにカソードの交換を行うことが可能となることから、カソードの交換作業が簡便となる。
【0053】
カソードの交換に用いられる構成に関して、具体的な例を挙げると
図9に示す構成例が考えられる。
図9(A)に示す例では伸縮部材4に圧力調整部23が連結されている。圧力調整部23はクリーンな空気や乾燥窒素ガスを供給し伸縮部材4で囲まれた空間を真空圧から大気圧に圧力変更する機能と同空間内を排気し大気圧から真空圧に圧力変更する機能とを備えている。また、気体を供給排気する気体流路が伸縮部材4に接続されていて、気体流路の途中に設けられた弁体でもって当該流路が開閉可能となるように構成されている。このような構成を用いれば、プラズマ生成室6内の真空を破らずにカソードの交換を実施することができる。
【0054】
また、
図9(B)に示す構成を用いてカソードの交換を行ってもよい。
図9(B)の構成は従来から知られた技術で、同種の技術が特開平11−250846に開示されている。この方式ではカソード排出領域を囲むように補助容器24を設けておき、圧力調整部23を用いて容器内部の気圧を調整し、フィラメント導入端子3の一端に操作棒25を螺合させて使用済みのフィラメント1の排出を行う方式である。このような構成を用いても、プラズマ生成室6内の真空を破らずにカソードの交換を実施することができる。また、伸縮部材4で囲まれた領域内や補助容器24内の真空排気に関しては、プラズマ生成容器6の真空排気を行う真空ポンプを利用してもよい。この場合、上述した圧力調整部23は排気機能を備えている必要はない。
【0055】
<その他の変形例>
本発明で貫通孔Hが形成されるプラズマ生成室6の壁面は平坦な壁面に限られない。例えば、プラズマ生成室6の外形が直方体あるいは立方体であれば、その角部分の壁面に貫通孔Hを形成するようにしてもいい。角部分にはプラズマ生成室6の周囲に配置される永久磁石や冷却手段が配置されないので、この部分を利用することで、イオン源全体の設計自由度を向上させることが可能となる。
さらに、プラズマ生成室6の外形が円柱体であれば、湾曲した壁面に貫通孔Hを形成するようにしてもよい。
【0056】
また、本発明で使用されるプラズマ生成室6のガスポート7から室内に導入されるイオン化ガスは腐食性ガスであってもよい。半導体製造装置では、BF
3やPF
3等の腐食性ガスが使用される場合がある。特許文献1に示す装置構成では、イオン化ガスが機構配置室内に流出する。イオン化ガスとして腐食性ガスを用いた場合、イオン化ガスがフィラメント移動機構と化学反応して、フィラメント移動機構が故障してしまうことが懸念される。しかしながら、本発明の構成であれば、カソード配置を変更させる機構等の配置場所へのイオン化ガスの流出が防止できるので、イオン化ガスとして腐食性ガスを用いたとしてもカソードの移動に支障を来さない。
【0057】
本発明の実施形態では主にカソードを移動させる構成について説明してきたが、カソードの移動後にカソード位置を固定させる為の構成を追加で設けるようにしてもよい。支持ベースBは大気側からの圧力やプラズマ生成室6側での真空排気の影響を受けて、放っておくとプラズマ生成室6側に移動してしまうことが懸念される。この対策として種々の構成が考えられるが、例えば手動で支持ベースBを移動させる場合、支持ベースBを特定位置まで移動させた後、ガイド16上に着脱可能なストッパーを取り付けてスライダー17のプラズマ生成室6側への移動を規制するようにしてもいい。具体的には、ガイド16の延設方向に沿って複数の穴や同方向に沿った溝を形成しておき、ここにストッパー用のピンを差し込み、当該ピンが支持ベースBの移動を規制するような構成でもいい。
また、
図3の実施形態で示した機械的に支持ベースBを移動させる構成やボールねじを用いて支持ベースBを移動させる構成の場合には、支持ベースBに連結されている駆動機構が抑止力となり、支持ベースBのプラズマ生成室6側への移動を規制することができる。
【0058】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。