【文献】
三輪哲也、他,静水圧力による培養細胞の付着挙動,コロイドおよび界面化学討論会講演要旨集,2006年,Vol. 59th,P. 237, 1G03
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記培養容器内から培養液を排出し、次いで前記培養容器の空気を吸引して前記培養容器内を陰圧にすることにより、前記接着培養系細胞が付着する前記培養容器のフィルムの面に対向する前記培養容器のフィルムの面を、前記接着培養系細胞に接触させて前記接着培養系細胞に圧力を加え、
前記培養容器内に培養液を注入して、前記接着培養系細胞を前記培養容器から剥離する
ことを特徴とする請求項1記載の細胞剥離方法。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められており、ガス透過性のある培養バッグを用いて、閉鎖系で自動的に細胞の大量培養が行われている。
ところで、最近では特に分化万能性を有するiPS細胞や間葉系に属する細胞への分化能をもつ間葉系幹細胞等を用いる再生医療等の研究開発が急速に発展しているが、このような研究開発において使用される細胞の多くは、接着培養系細胞である。
【0003】
接着培養系細胞は、培養容器に付着して増殖する細胞であるため、培養液内において浮遊状態で増殖する浮遊培養系細胞と異なり、培養した後に培養容器から剥がす必要がある。このため、従来、接着培養系細胞は、剥離作業を可能にするために、ペトリディッシュなどの開放系の培養容器で培養することが多かった。
しかし、ペトリディッシュで大量培養を行うのは煩雑で手間がかかるため、今後、より効率的に大量培養するためには、閉鎖系の培養バッグを用いて培養することが望まれる。
また、接着培養系細胞の培養にあたっては、状態の良いものなど選択したもののみを培養する必要があるため、培養容器から所望の部分のみを剥がすことも求められる。
【0004】
従来の細胞剥離方法としては、まずトリプシン処理による方法を挙げることができる。この方法では、タンパク質分解酵素であるトリプシンによって、接着培養系細胞と培養容器との接着因子を分解することで、細胞を剥離する。
すなわち、
図8に示すように、培養液2を入れたペトリディッシュ10に接着培養系細胞3を播種して増殖させた後、ペトリディッシュ10から培養液2を除去する(1)。次に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)で培養液成分を洗浄し(2)、トリプシン溶液を注入する(3)。インキュベータ内で数分間保持することで、接着因子が分解し、接着培養系細胞3は、ペトリディッシュ10からばらばらに剥がれる(4)。最後に、ペトリディッシュ10に培養液2を注入して、トリプシンを失活させ、培養液2と共に接着培養系細胞3を回収する。
このようなトリプシン処理によれば、接触性培養細胞3を培養容器から剥がすことが可能である。
【0005】
また、従来の細胞剥離方法として、セルスクレーパーを使用して、細胞を物理的に掻き取る方法もある(特許文献1参照)。この方法によれば、トリプシン処理に比べて操作が簡単であり、ある程度であれば狙った範囲の細胞を剥がすことも可能である。
【0006】
さらに、特許文献2には、探針を有する走査型プローブ顕微鏡を利用して、特定の細胞に対して探針を予め決められた力で押しつけて物理的な刺激を与え、細胞を基板上から剥離する方法が開示されている。この方法によれば、細胞を選択的に剥がすことが可能になっている。
【0007】
【特許文献1】実用新案第2531969号
【特許文献2】特許第481543号
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の細胞剥離方法は、可撓性を有するフィルムからなる培養容器に付着させて培養した接着培養系細胞を、培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、接着培養系細胞が付着する培養容器のフィルムの面に対向する培養容器のフィルムの面を、接着培養系細胞に接触させて接着培養系細胞に圧力を加えることにより、接着培養系細胞を培養容器から剥離する方法であれば良く、その他の構成により特に限定されるものではない。
【0015】
すなわち、接着培養系細胞に圧力を加える手段としては、接着培養系細胞が付着する培養容器のフィルムの面に対向する培養容器のフィルムの面を、接着培養系細胞に接触させて接着培養系細胞に圧力を加えることができれば良く、培養容器の外部から圧力を加えることによって細胞に圧力を加えても、培養容器内の空気を陰圧にすることによって細胞に圧力を加えても良い。
また、培養容器の外部から圧力を加える方法としては、押圧部材などによって培養容器を押圧したり、あるいは空気圧などによって培養容器を押圧したりすることもできる。
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
【0016】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態の細胞剥離方法について、
図1及び
図2を参照して詳細に説明する。
図1の(1)において、可撓性を有するフィルムからなる培養容器1(培養バッグ)に培養液2と接着培養系細胞3が封入されて積載台4に載置され、押圧部材5が培養容器1の上方に配置されている様子が、模式的に示されている。培養容器1内のフィルムの底面には、接着培養系細胞3が付着して、培養されている。
次に、
図1の(2)に示すように、押圧部材5により、培養容器1を上方から押圧する。このとき、培養容器1内のフィルムの上面を、接着培養系細胞3に接触させて、接着培養系細胞3に対して接着培養系細胞3が損傷しない程度の圧力を加える。
そして、
図1の(3)に示すように、押圧部材5を培養容器1から離すと、接着培養系細胞3が培養容器1内のフィルムの底面から剥がれる。
【0017】
ここで、培養容器1内のフィルムの底面に付着した接着培養系細胞3は、培養容器1の下から擦っても剥離することはできなかった。すなわち、接着培養系細胞が付着する培養容器1のフィルムの面に対して、培養容器1の外部から力を加えても、フィルムに傷がついたり、あるいは延びたりするのみであり、接着培養系細胞3を剥がすことはできなかった。
これに対して、上述した本実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ内に付着している接着培養系細胞3を、損傷させることなく、ある程度狙った範囲のものを選択的かつ効率的に剥離することが可能である。
【0018】
その理由は明らかではないが、本実施形態のように培養容器1のフィルムを接着培養系細胞3に接触させて圧力を加えることで、接着培養系細胞3と培養容器1の接着力よりも大きい応力が接着培養系細胞に対して働いて、培養容器1から接着培養系細胞3を分離していると推測される。
【0019】
培養容器1は、軟包材を材料として袋状に形成した、可撓性を有するフィルムからなる培養バッグである。培養容器1は、接着培養系細胞3の培養に用いるため、ガス透過性を有し、かつ内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有していることが好ましい。このような条件を満たすフィルムの材料としては、例えばポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0020】
また、培養容器1内に接着培養系細胞3が付着できるようにするため、培養容器1内を親水性にする、又は十分量の接着因子、例えばフィブロネクチン等をコーティングする必要がある。培養容器1内を親水性にする方法としては、例えばUVオゾン処理又はコロナ処理したフィルムを用いて、培養容器1を形成することが挙げられる。接着因子をコーティングする方法としては、例えば接着因子の溶液で培養容器1内を浸し、所定時間保持することで接着因子を培養容器1内面に吸着させる方法が挙げられる。
さらに、培養容器1には、培養液2及び接着培養系細胞3の出し入れを行うためのポートが一又は二以上備えられている。
【0021】
培養液2は、接着培養系細胞3を培養可能なものであれば良く、既存のものを使用できる。例えば、DMEM(ダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地)にFBS(牛胎児血清)10%を加えたものなどを好適に使用することができる。
接着培養系細胞3は、培養容器1内に付着して増殖するものであれば特に限定されないが、たとえばiPS細胞や間葉系幹細胞等を用いることができる。
積載台4は、その上面に培養容器1を載置する平面の台である。積載台4には、例えば培養容器1を積載台4に固定するための固定具など、培養容器1を定置させるための各種構成を設けることができる。
【0022】
押圧部材5は、培養容器1の外部から培養容器1を押圧することで、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加える部材である。
この押圧部材5としては、例えば
図2の(A)に示すように、その底面が平面である立体形状のものを用いることができる。このような底面が平面の押圧部材5−1を用いると、平面により押圧される培養容器1内の一定領域におけるフィルムに付着した接着培養系細胞3を、選択的かつ効率的に剥離することができる。このような立体形状としては、例えば直方体、立方体、円柱、円錐、多角柱などの形状を挙げることができる。
【0023】
また、押圧部材5として、例えば
図2の(B)に示すように、その底面が曲面(下方に出っ張った凸面)である立体形状のものを用いることもできる。このような底面が曲面の押圧部材5−2を用いると、培養容器1内のより狭い一定領域におけるフィルムに付着した接着培養系細胞3を、選択的に剥離することが可能となる。
さらに、押圧部材5として、例えば
図2の(C)に示すように、ローラ5−3を用いることもできる。すなわち、培養容器1を上からローラで押圧して、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加えながら、ローラ5−3を積載台4に平行に移動させることで、培養容器1内のより広い一定領域におけるフィルムに付着した接着培養系細胞3を、選択的かつ効率的に剥離することができる。特に、培養容器1内における全ての接着培養系細胞3を効率的に剥離するには、押圧部材5として、ローラ5−3を用いることが適している。
【0024】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の細胞剥離方法について、
図3を参照して説明する。本実施形態は、積載台4として穴4−1を備えたものを使用することにより、剥離対象の接着培養系細胞3をより選択しやすくしたものである。その他の点については、第一実施形態と同様であり、培養容器1、培養液2、接着培養系細胞3、及び押圧部材5については、第一実施形態と同様のものを用いることができる。
【0025】
すなわち、本実施形態の細胞剥離方法では、
図3に示すように、積載台4として、その一定領域に穴4−1を形成したものを使用し、培養容器1の内面に付着させて培養した接着培養系細胞3のうち、剥離したくない接着培養系細胞3が付着している培養容器1内の一定領域を、穴4−1の上に配置する。そして、当該領域を含む範囲を培養容器1の外部から押圧部材5で押圧し、当該領域に付着している接着培養系細胞3を剥離することなく、当該領域以外の押圧した範囲に付着している接着培養系細胞3のみを選択的に剥離することができる。
【0026】
具体的には、
図3の(1)において、可撓性を有するフィルムからなる密閉系の培養容器1(培養バッグ)に培養液2と接着培養系細胞3が封入されて、穴4−1を備えた積載台4に載置され、押圧部材5が培養容器1の上方に配置されている様子が、模式的に示されている。培養容器1内のフィルムの底面には、接着培養系細胞3が付着して、培養されている。
【0027】
次に、
図3の(2)に示すように、押圧部材5により、培養容器1を穴4−1を含む範囲の上方から押圧する。このとき、培養容器1内のフィルムの上面は、接着培養系細胞3に接触し、穴4−1の上方以外の領域に付着している接着培養系細胞3に対しては、接着培養系細胞3が損傷しない程度の圧力が加えられる。一方、穴4−1の上方の領域に付着している接着培養系細胞3は、上から押圧されると穴4−1に沈み込み、引き剥がしに必要な圧力が接着培養系細胞3に加えられない。
【0028】
その結果、
図3の(3)に示すように、押圧部材5を培養容器1から離すと、穴4−1の上方以外の領域に付着している接着培養系細胞3のみが培養容器1内のフィルムの底面から剥がれ、穴4−1の上方の領域に付着している接着培養系細胞3は、培養容器1内のフィルムの底面から剥がれない。
このように、本実施形態の細胞剥離方法によれば、剥離したくない接着培養系細胞3が、積載台4の穴4−1の上方に位置するように、培養容器1を積載台4に配置することで、剥離する接着培養系細胞3をよりきめ細かく選択することが可能になる。
【0029】
なお、穴4−1は、
図3では積載台4を貫通して形成された孔として示されているが、これに限定されず、積載台4における窪みとして形成しても良い。また、積載台4の水平面における穴の形状も任意のもので良く、円形、長方形、多角形等の他、曲線などからなる自由な形状とすることもできる。さらに、その個数も一個に限定されず、積載台4に二以上の穴4−1を設けることもできる。
また、本実施形態において押圧部材5を用いることなく、例えば空気圧や液圧等によって、穴4−1の上に配置された領域を含む範囲を押圧することもできる。
【0030】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の細胞剥離方法について、
図4を参照して説明する。本実施形態の細胞剥離方法は、培養容器1内を陰圧にすることによって、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加えている。培養容器1、培養液2、接着培養系細胞3、及び積載台4については、第一実施形態と同様のものを用いることができる。
【0031】
すなわち、本実施形態の細胞剥離方法では、培養容器1内から培養液2を排出し、次いで培養容器1の空気を吸引して培養容器1内を陰圧にすることにより、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加える。次いで、培養容器1内に培養液2を注入して、接着培養系細胞3を培養容器1の内面から剥離する。
【0032】
具体的には、
図4の(1)において、可撓性を有するフィルムからなる密閉系の培養容器1(培養バッグ)に培養液2と接着培養系細胞3が封入されて、積載台4に載置されている様子が、模式的に示されている。培養容器1内のフィルムの底面には、接着培養系細胞3が付着して、培養されている。
次に、
図4の(2)に示すように、培養容器1から培養液2を排出し、さらにポンプ等によって培養容器1内の空気を吸引して、培養容器1内を陰圧にする。これによって、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加える。
さらに、
図4の(3)に示すように、培養容器1内に培養液2を注入することによって、接着培養系細胞3を培養容器1の内面から剥離する。
本実施形態の細胞剥離方法によれば、培養容器1内の接着培養系細胞3を損傷することなく、容易かつ効率的に剥離することが可能となる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
上記第一実施形態の細胞剥離方法により、培養バッグ1から接着培養系細胞3を剥離する実験を行った。
培養バッグ1には、ポリエチレン(PE)製で、サイズが100mm×225mm、フィルム厚が0.1mmのものを使用した。この培養バッグ1内にフィブロネクチンをコーティングした。
【0034】
具体的には、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で5μg/mlに希釈したフィブロネクチン溶液100mlを、培養バッグ1の内面全体に浸らせた状態で、37℃で約2時間CO
2インキュベータ内に保持した。
次いで、フィブロネクチン溶液を全量排出した後、PBSで培養容器1の内面を1回洗浄した(PBS100mlを培養バッグの内面全体に浸らせてすぐに排出した)。液の出し入れは、培養バッグ1に備えられているポートにシリンジを接続して行った。
【0035】
接着培養系細胞3には、CHO細胞(Chinese Hamster Ovary,チャイニーズハムスターの卵巣)を使用した。また、培養液2には、FBS(牛胎児血清)10%入りのDMEM培地を使用した。このCHO細胞200万個を、培養液150mlと共に培養バッグ1内に播種し、72時間静置培養したものを用いて、剥離実験を行った。
培養は、CO
2インキュベータにより、37℃、CO
2濃度5%、湿度97%の条件で行った。
【0036】
剥離実験では、押圧部材5として、先端の丸い、太さ1mmのピン(先端SR1)を使用し、積載台4としてガラス板を使用した。そして、このピンを指で摘んで培養バッグに軽く押しつけた。このときの圧力は数十gfで、ガラス板からの応力が感じられるまでピンを押下した。そして、ピンを培養バッグ1から離した。その結果を
図5に示す。
【0037】
図5の(1)には、培養バッグ1をピンで押圧している状態の顕微鏡写真が示され、
図5の(2)には、培養バッグ1からピンを離した状態の顕微鏡写真が示されている。
図5の(2)により、培養バッグ1のピンで押圧した領域のみにおいて、接着培養系細胞3が剥離していることがわかる。
したがって、第一実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ内に付着している接着培養系細胞を、選択的かつ効率的に剥離できることが明らかとなった。
【0038】
(実施例2)
上記第二実施形態の細胞剥離方法により、培養バッグ1から接着培養系細胞3を剥離する実験を行った。培養容器1、培養液2、及び接着培養系細胞3は、実施例1と同じものを使用した。本実施例では、穴4−1を備えた積載台4’に培養バッグ1を載置し、ローラ5−3’により培養バッグ1を押圧しならが、ローラ5−3’を積載台4’に平行に回転移動させた。このローラ5−3’として、以下のように、一定間隔毎に培養バッグ1を押下できるものを使用した。
【0039】
具体的には、
図6の(1)に示すように、押圧部材5として、スポンジ付きローラ5−3’を使用した。スポンジ付きローラ5−3’には、細長い板状のスポンジ2個が、ローラの長手方向全体に亘り、ローラの円周面上の一部に対向して貼り付けられている。これらのスポンジは、硬度がアスカーC15のシリコンスポンジであり、幅が6.5mm、厚みが3mm、長さがローラの長手方向の長さと同一のものを使用した。
【0040】
このようなスポンジ付きローラ5−3’が培養バッグ1上を回転移動する間に、スポンジが下方に位置するときに培養バッグ1を押圧することができ、スポンジが上方や横方向に位置するときには、培養バッグ1を押圧しない。このようなスポンジ付きローラ5−3’を用いて、培養バッグ1上を押圧しながら回転移動させると、培養バッグ1において、スポンジ付きローラ5−3’により押圧された部分と、押圧されなかった部分が生じることとなる。
【0041】
また、積載台4’としては、ステンレス製のパンチングメタル板(穴径2、開孔率40.2)を使用した。この積載台4’には、多数の穴が備えられている。本実施例では、積載台4’に載置された培養容器1における、スポンジ付きローラ5−3’により押圧された領域で、かつ積載台4’の穴の上方でない領域に付着している接着培養系細胞3のみが選択的に剥離されることになる。
図6の(2)〜(4)には、その結果が示されている。
【0042】
すなわち、
図6の(2)には、培養バッグ1において、スポンジが接触した領域のみが黒く、その他の領域には細胞が付着して白く見えている様子が示されている。
図6の(3)は、
図6の(2)における白い囲み部分を拡大した写真であり、積載台4’の穴に対応する領域には、白く細胞が付着していることが分かる。
図6の(4)は、積載台4’の穴に対応する領域の周辺を含む顕微鏡写真であり、穴に対応する領域に付着している接着培養系細胞3は剥離されておらず、周辺に付着していた接着培養系細胞3のみが剥離されていることがわかる。
したがって、第二実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ1内に付着している接着培養系細胞3を、よりきめ細かく選択的に剥離できることが明らかとなった。
【0043】
(培養試験)
本実施形態の細胞剥離方法により剥離された接着培養系細胞に損傷がなく、培養可能なものであることを確認するために、従来のセルスクレーパーを用いて剥離した後に培養した細胞と、本実施形態の細胞剥離方法により剥離した後に培養した細胞との培養状態を比較確認するための培養試験を行った。
【0044】
(1)セルスクレーパーを用いて剥離された接着培養系細胞の培養試験
培養容器には、ファルコン 組織培養用ディッシュ(φ6cm)を使用し、培養液には、FBS(牛胎児血清)10%入りのDMEM培地4mlを使用した。また、接着培養系細胞には、CHO細胞を使用し、播種密度を1×10
5cells/mlとして、CO
2インキュベータを用いて、37℃、CO
2濃度5%、湿度97%の条件で培養を行った。継代間隔は72時間とし、継代は以下の手法で行った。
【0045】
まず、培養容器をCO
2インキュベータから取り出し、ピペットで上清を吸い出して全量排出した。次に、セルスクレーパーで培養容器内全面を擦り、細胞を剥がした。そして、培養容器に新鮮な培養液を2ml注入し、ピペッティングして細胞をほぐした。一旦別容器(コニカルチューブ)に回収し、そこから極少量採取して、血球計数盤を使用して細胞数をカウントした。カウントした値に基づいて、細胞密度が1×10
5cells/mlになるように培養液を注入した。そして、得られた細胞懸濁液を新たな培養容器に4ml播種し、再び72時間インキュベータ内に保管した。この継代方法を繰り返して、半年以上培養し続けた。
【0046】
(2)実施例2において剥離された接着培養系細胞の培養試験
実施例2において剥離された接着培養系細胞を、コニカルチューブに回収して極少量採取し、血球計数盤を使用して細胞数をカウントした。カウントした値に基づいて、細胞密度が1×10
5cells/mlになるように培養液(FBS10%入りのDMEM培地)を注入した。そして、得られた細胞懸濁液を新たな培養容器に4ml播種し、72時間インキュベータ内に保管した。
【0047】
図7の(A)は、セルスクレーパーを用いて剥離され、半年以上継代培養した接着培養系細胞の顕微鏡写真である。また、
図7の(B)は、実施例2において剥離された接着培養系細胞を、セルスクレーパーを用いて剥離された接着培養系細胞と同一の播種密度及び培養条件で、72時間培養したものの顕微鏡写真である。
これらを比較すると、ほぼ同等の細胞増殖率と、ほぼ同等の接着率(細長い細胞が接着しているもの)が得られていることが分かる。
したがって、本発明の細胞剥離方法によって剥離された接着培養系細胞は、細胞を損傷することなく、剥離できたものであることが明らかとなった。
【0048】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、押圧部材を用いる代わりに、押圧部材を用いた場合と同程度の空気圧や液圧を、培養容器の外部から接着培養系細胞に対して加えることにより、培養容器から接着培養系細胞を剥離するなど適宜変更することが可能である。