(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成されるとともに、上記ドリル本体の先端には切刃が設けられたドリルであって、上記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面は、上記軸線に直交する断面において第1の円弧に沿った凹曲線状とされるとともに、該壁面に連なって上記ドリル本体の外周側を向く上記切屑排出溝の底面は、上記軸線に直交する断面において上記ドリル本体先端部の心厚円に外接する第2の円弧に沿った凹曲線状とされており、上記第1の円弧は、上記第2の円弧よりも半径が大きく、上記軸線に直交する断面において上記第2の円弧と上記心厚円との接点よりもリーディングエッジ側で該第2の円弧と接しており、
上記第1の円弧と第2の円弧との接点は、上記軸線に直交する断面において、上記リーディングエッジと上記軸線とを結ぶ線分よりも回転方向の前方側に位置し、
上記切刃は、該切刃の外周端から内周側に延びる主切刃と、上記主切刃の内周に連なるシンニング刃とを有し、上記主切刃は上記軸線方向の先端側から見て略直線状であり、
上記主切刃と上記シンニング刃との接続点は、上記第1円弧と上記第2円弧との接点よりも上記軸線との間隔が小さいことを特徴とするドリル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら特許文献1、2に記載されたドリルでは、上記第1、第2の凹曲面部の断面がなす円弧、あるいは上記第1、第2の円が、いずれもドリル本体先端部の切屑排出溝に内接する心厚円において接するようにされている。このため、いずれのドリルにおいても切屑排出溝の溝幅が広くなり易く、ドリル本体先端部の断面積が小さくなって剛性や強度が低下するため、ドリル本体を高速で回転させて高い送り量で送り出す高能率加工では、ドリル本体先端部に折損等が生じるおそれがある。
【0005】
一方、切屑排出溝の溝幅を小さくしてドリル本体先端部の断面積を確保するために上記円弧や円の半径を小さくしようとすると、高能率加工の際に切屑排出溝内を高速で多量に通過する切屑が溝の内壁面を強く摩擦して内壁面に擦過痕が形成され、再研磨の際に研磨代を大きくしなければならなくなったり、切刃やその近傍に欠損を生じ易くなったりしてしまう。また、こうして上記円弧や円の半径を小さくすると、特にヒール側の第2の円の半径がリーディングエッジ側の第1の円の半径よりも小さくなる特許文献1に記載されたドリルでは、ドリル本体の回転によって切屑排出溝のヒール側に押し込まれた切屑が十分にカールさせられずに詰まりを生じるおそれもある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切屑排出溝の溝幅が広がるのを抑えてドリル本体先端部の剛性や強度を確保しつつも、切屑による擦過痕や切刃等の欠損、切屑詰まりが生じるのは防ぐことが可能で、高能率加工に用いて好適なドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に切屑排出溝が形成されるとともに、上記ドリル本体の先端には切刃が設けられたドリルであって、上記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面は、上記軸線に直交する断面において第1の円弧に沿った凹曲線状とされるとともに、該壁面に連なって上記ドリル本体の外周側を向く上記切屑排出溝の底面は、上記軸線に直交する断面において上記ドリル本体先端部の心厚円に外接する第2の円弧に沿った凹曲線状とされており、上記第1の円弧は、上記第2の円弧よりも半径が大きく、上記軸線に直交する断面において上記第2の円弧と上記心厚円との接点よりもリーディングエッジ側で該第2の円弧と接しており、上記第1の円弧と第2の円弧との接点は、上記軸線に直交する断面において、上記リーディングエッジと上記軸線とを結ぶ線分よりも回転方向の前方側に位置し、上記切刃は、該切刃の外周端から内周側に延びる主切刃と、上記主切刃の内周に連なるシンニング刃とを有し、上記主切刃は
上記軸線方向の先端側から見て略直線状であり、上記主切刃と上記シンニング刃との接続点は、上記第1円弧と上記第2円弧との接点よりも
上記軸線との間隔が小さいことを特徴とする。
【0008】
このように構成されたドリルでは、切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面の断面がなす凹曲線が沿う第1の円弧が、切屑排出溝のドリル本体外周側を向く底面の断面がなす凹曲線が沿う第2の円弧と心厚円との接点よりもリーディングエッジ側で第2の円弧と接しているので、例えば特許文献2に記載されたドリルに対して、第1、第2の円の半径と第1、第2の円弧の半径を等しく、心厚円の直径およびドリル本体先端部の外径も等しくしたとすると、第1の円弧が第2の円弧と接したままドリル回転方向側に位置することになるので、切屑排出溝の溝幅を小さくすることができる。このため、ドリル本体先端部の断面積を特に外周側で大きくして断面2次モーメントを増大させ、剛性や強度を確保することが可能となる。
【0009】
また、切屑排出溝の溝幅を等しくしたとすると、第1の円弧の半径をより大きくすることができるので、切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面への切屑の摩擦を抑制して、擦過痕が形成されるのを防ぐことができる。さらに、第1の円弧との接点がリーディングエッジ側に位置しているために第2の円弧を長くすることができるので、ドリル本体の回転によってリーディングエッジ側からヒール側に押し込まれる切屑を、この第2の円弧に沿った断面凹曲線状をなす切屑排出溝の上記底面に摺接させて十分にカールさせることができる。
【0010】
従って、上記構成のドリルによれば、高負荷で、多量の切屑が高速で切屑排出溝内を通過することになる高能率加工においても、ドリル本体の先端部が折損したり、再研磨の際の研磨代が増大したり、切刃やその近傍に欠損が生じたり、あるいは切屑詰まりが生じたりするのを防ぐことができ、ドリル寿命の延長を図るとともに安定した穴明け加工を行うことが可能となる。
【0011】
ここで、上記軸線に直交する断面における上記第1、第2の円弧の接点の位置は、上記軸線から上記切刃の外径Dに対して0.1×D〜0.35×Dの範囲に位置していることが望ましい。この接点の位置が上記範囲よりも軸線に近くて、第2の円弧と心厚円との接点に近い位置であると、上述のような効果を確実に奏功することができなくなるおそれがある一方、上記範囲よりも軸線から離れすぎていると、上記断面において第1の円弧に沿った凹曲線をなす切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面が小さくなりすぎ、溝幅は小さくできても切屑排出溝の断面積が不十分となって容量が不足し、切屑詰まりを生じるおそれがある。
【0012】
また、同様に上記切刃の外径Dに対して、上記第1の円弧の半径は1.0×D〜3.0×Dの範囲とされるとともに、上記第2の円弧の半径は0.2×D〜0.4×Dの範囲とされているのが望ましい。第1、第2の円弧の半径がそれぞれ上記範囲を上回るほど大きいと切屑排出溝の溝幅が広くなりすぎるおそれがあり、逆に上記範囲を下回るほど小さいとドリル回転方向を向く壁面やドリル本体外周側を向く底面への切屑の摩擦が大きくなりすぎるおそれが生じる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ドリル本体を高速で回転させて高い送り量で送り出す高能率加工でも、ドリル本体の損傷を防いで寿命の延長を図りつつ、切屑を円滑に排出して安定した穴明け加工を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図3は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、ドリル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした外形円柱状に形成され、図示されない後端部がシャンク部とされて、このシャンク部が工作機械の主軸に把持されることにより軸線O回りにドリル回転方向Tに回転されつつ、該軸線O方向先端側(
図2において左側)に送り出されて被削材に穴明け加工を行う。
【0016】
ドリル本体1の先端部の外周には、このドリル本体1の先端面に開口して後端側に向かうに従い軸線O回りにドリル回転方向Tの後方側に捩れる切屑排出溝2が、本実施形態では軸線Oに関して180°回転対称に一対形成されており、これらの切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2Aと、上記ドリル本体1先端面における切屑排出溝2の開口部からドリル回転方向T後方側に延びる先端逃げ面3との交差稜線部に切刃4がそれぞれ形成されている。すなわち、本実施形態のドリルは2枚刃のツイストドリルである。
【0017】
先端逃げ面3は、ドリル回転方向T後方側に向かうに従いドリル本体1の後端側に向かうように傾斜して切刃4に逃げ角が付されるとともに、ドリル本体1の先端部外周側に向けても後端側に向かうように傾斜して、切刃4に先端角が与えられるようにされている。なお、この先端逃げ面3には、本実施形態では、切刃4のドリル回転方向T後方に連なる第1逃げ面3Aと、この第1逃げ面3Aのさらにドリル回転方向T後方側に連なり、第1逃げ面3Aよりも大きな逃げ角が与えられた第2逃げ面3Bとが形成されている。
【0018】
また、ドリル本体1先端部の外周面には、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く上記壁面2Aとの交差稜線部に、切刃4の外径D(図示略。切刃4の外周端が軸線O回りになす円の直径)と等しい外径の軸線Oを中心とした円筒面上に位置するマージン部5Aが形成されるとともに、このマージン部5Aよりもドリル回転方向T後方側の部分は、上記外径Dよりも僅かに小径とされた二番取り面5Bとされている。マージン部5Aと上記壁面2Aとの交差稜線がドリル本体1先端部のリーディングエッジ1Aとされ、二番取り面5Bと切屑排出溝2のドリル回転方向T後方側を向く壁面2Bとの交差稜線がヒール1Bとされる。なお、マージン部5Aにはバックテーパが与えられていてもよい。
【0019】
さらに、切屑排出溝2のドリル本体1先端面における開口部の内周側すなわち軸線O側には、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面の内周部を軸線O側に切り欠くようにしてシンニング部6が形成されている。このシンニング部6には、ドリル回転方向Tを向くシンニング面6Aと、ドリル回転方向T後方側を向いてドリル回転方向T側に隣接する先端逃げ面3の上記第2逃げ面3Bと交差するシンニング壁面6Bとが形成されており、このシンニング壁面6Bは本実施形態ではドリル本体1先端部外周の上記ヒール1Bに達するように延びている。
【0020】
上記切刃4には、該切刃4の外周端から内周側に延びる主切刃4Aと、この主切刃4Aの内周に連なり、上記シンニング部6のシンニング面6Aと先端逃げ面3(第1逃げ面3A)との交差稜線部に形成されるシンニング刃4Bとが形成されている。切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く上記壁面2Aは主切刃4Aのすくい面とされて、切屑排出溝2が上述のように捩れることにより主切刃4Aには正のすくい角が与えられるとともに、シンニング面6Aがシンニング刃4Bのすくい面とされる。
【0021】
さらに、ドリル本体1の先端部内には、周方向における一対の切屑排出溝2の間の部分に、これらの切屑排出溝2と等しいリードで捩れるクーラント穴7がそれぞれ形成されている。これらのクーラント穴7は、本実施形態では
図3に示すように軸線Oに直交する断面において、ドリル回転方向T側に位置して切屑排出溝2の上記壁面2Aとの間隔が略一定とされた凸曲する前穴壁面と、ドリル回転方向T後方側に位置して上記壁面2Bとの間隔が略一定とされた凸曲する後穴壁面と、ドリル本体1の外周側に位置して上記二番取り面5Bとの間隔が略一定とされた凹曲する外周穴壁面とを備えて、略三角形状に形成されている。
【0022】
従って、このクーラント穴7の上記前穴壁面と後穴壁面とは、外周側に向かうに従い互いの周方向の間隙が漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるようにされる。ただし、軸線Oに直交する断面において、これら前後穴壁面が交差する上記三角形の角部と、前後穴壁面と外周穴壁面とが交差する角部とは、半径の小さな凹円弧によって滑らかに連なるようにされている。このようなクーラント穴7は、
図1に示すようにドリル本体1の先端逃げ面3において上記第2逃げ面3Bに開口させられている。
【0023】
切屑排出溝2の内面は、ドリル回転方向Tを向く上記壁面2Aと、ドリル回転方向T後方側を向く上記壁面2Bと、これらの壁面2A、2Bの間に位置してドリル本体1外周側を向く底面2Cとを備えている。そして、
図3に示すように軸線Oに直交する断面において、このうちドリル回転方向Tを向く壁面2Aは第1の円弧C1に沿った凹曲線状とされるとともに、ドリル本体1外周側を向く底面2Cはドリル本体1先端部の心厚円Eに外接する第2の円弧C2に沿った凹曲線状とされ、第1の円弧C1の半径R1は第2の円弧C2の半径R2よりも大きくされるとともに、第1の円弧C1は、第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pよりも上記リーディングエッジ1A側に位置する接点Qにおいて第2の円弧C2に接するようにされている。
【0024】
言い換えれば、軸線Oに直交する断面において、リーディングエッジ1Aから第1、第2の円弧C1、C2の接点Qまでの部分が切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2Aとされ、この接点Qから第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pを経てヒール1B側に延びる部分が切屑排出溝2のドリル本体1外周側を向く底面2Cとされる。なお、軸線Oに直交する断面において、切屑排出溝2のドリル回転方向T後方側を向く壁面2Bは、底面2Cからヒール1B側に向けて上記第2の円弧C2に略沿って延びた後に曲折し、ドリル回転方向T後方側に僅かに凸曲する凸曲線を描いてヒール1Bに達するように形成されている。
【0025】
ここで、本実施形態では、軸線Oに直交する断面における第1、第2の円弧C1、C2の上記接点Qは、同断面において軸線Oから上記切刃4の外径Dに対して0.1×D〜0.35×Dの範囲に位置するように、すなわち接点Qと軸線Oとの間隔Lが0.1×D〜0.35×Dの範囲となるようにされている。また、心厚円Eの直径(心厚)dは、本実施形態では0.15×D〜0.4×Dの範囲とされ、ただし上記間隔Lの2倍の2×Lよりは小さくされる。
【0026】
さらに、第1の円弧C1の半径R1は切刃4の外径Dに対して1.0×D〜3.0×Dの範囲とされるとともに、第2の円弧C2の半径R2は0.2×D〜0.4×Dの範囲とされている。なお、このように切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く上記壁面2Aが軸線Oに直交する断面において大きな半径R1の第1の円弧C1に沿った凹曲線とされることにより、上述のようにこの壁面2Aをすくい面とする切刃4の主切刃4Aは、軸線O方向先端側から見て同じく半径の大きな凹曲線状、または
図1に示すように略直線状に形成される。
【0027】
また、本実施形態では、上記断面において、軸線Oを通り第1の円弧C1に接する第1の径線と第2の円弧C2に接する第2の径線とがなす溝角度は60°〜90°の範囲とされている。さらにまた、第1の円弧C1の中心は、軸線Oを通って上記溝角度を二等分する径線と軸線Oを中心とした上記外径Dの直径の円との交点よりも、上記第1の径線が延びる方向においてドリル本体1の外周側にあり、第2の円弧C2の中心は上記交点よりも軸線O側に位置している。
【0028】
このように構成されたドリルでは、軸線Oに直交する断面において切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2Aがなす凹曲線が沿う第1の円弧C1の半径R1が、ドリル本体1外周側を向く底面2Cがなす凹曲線が沿う心厚円Eに外接する第2の円弧C2の半径R2よりも大きく、そして第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pよりも第1、第2の円弧C1、C2の接点Qがリーディングエッジ1A側に位置しているので、この接点Qが第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pと一致している場合に比べてリーディングエッジ1Aがよりドリル回転方向T側に位置することになる。
【0029】
このため、切屑排出溝2の溝幅を小さくしてランド幅を広げることができるので、ドリル本体1の先端部における断面積を大きく確保することが可能となる。しかも、特にドリル本体1先端部の外周側において断面積が大きくなるので、断面2次モーメントを効果的に増大させて確実にドリル本体1先端部の剛性や強度を確保することができ、高負荷となる高能率加工においてドリル本体1先端部に折損が生じたりするのを防止することが可能となる。
【0030】
また、接点Qが第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pと一致している場合に比べて、切屑排出溝2の溝幅が同じであれば、第1の円弧C1の半径R1を上述のように大きくすることができるので、高能率加工において多量の切屑が切屑排出溝2内を通過しても、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2Aへの切屑の摩擦を軽減することができ、該壁面2Aに擦過痕が形成されるのを防ぐことができる。従って、再研磨の際にこのような擦過痕がない位置まで先端逃げ面3を研磨するために研磨代が増大してドリル寿命が短くなったり、あるいは切刃やその近傍に擦過痕が残されて欠損が生じ易くなったりするのを防ぐことができる。
【0031】
しかも、このように切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2Aの断面がなす凹曲線が沿う第1の円弧C1の半径R1を大きくすることができるのに伴い、この壁面2Aと先端逃げ面3との交差稜線部に形成される主切刃4Aも、上述のように半径の大きな凹曲線状または略直線状とすることができる。このため、再研磨した後は勿論、ドリル使用当初においても切刃4の強度を確保することができ、負荷の高い高能率加工においても欠損等の発生を防止することができる。
【0032】
さらに、第1、第2の円弧C1、C2の接点Qが第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pよりもリーディングエッジ1A側に位置していることにより、第2の円弧C2に沿った切屑排出溝2の底面2Cの断面がなす凹曲線の長さを長くすることができる。従って、ドリル本体1の回転に伴いリーディングエッジ1A側から小さい半径R2の第2の円弧C2に沿った底面2Cに押し込まれる切屑を、この底面2Cに十分に摺接させてカールさせることができ、切屑詰まりの発生を防止して円滑な切屑排出を促すことができる。
【0033】
また、本実施形態では、第1、第2の円弧C1、C2の接点Qの位置が、切刃4の外径Dに対して軸線Oから0.1×D〜0.35×Dの範囲とされており、これにより上述の効果を一層確実に奏功することが可能となる。すなわち、この接点Qの位置が上記範囲よりも軸線O側に位置していて、第2の円弧C2と心厚円Eとの接点Pに近すぎると、ドリル本体1先端部の断面積を大きくすることができずに剛性や強度を確保することができなくなったりするおそれがあり、逆に接点Qが上記範囲よりも外周側に位置していると、切屑排出溝2の断面において小さな半径R2の第2の円弧C2に沿った部分が大きくなりすぎ、切屑排出溝2の容量が不足して切屑詰まりを生じるおそれがある。
【0034】
さらに、本実施形態では、上述のように第1の円弧C1の半径R1が切刃4の外径Dに対して1.0×D〜3.0×Dの範囲と十分に大きくされているとともに、第2の円弧C2の半径R2は0.2×D〜0.4×Dの範囲とされており、これによってもドリル本体1先端部の剛性や強度を確実に維持しつつ、安定した穴明け加工を可能とすることができる。すなわち、第1、第2の円弧C1、C2の半径R1、R2がそれぞれ上記範囲よりも大きいと切屑排出溝2の溝幅が広くなりすぎて、高能率加工の際にドリル本体1先端部が折損しやすくなるおそれがあり、逆に上記範囲よりも小さいと切屑排出溝2の上記壁面2Aや底面2Cへの切屑の摩擦が大きくなり、擦過痕の形成を確実に防止できなくなったり切屑詰まりを生じたりするおそれがある。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例では、上述した実施形態に基づいて、切刃4の外径Dが8mm、第1の円弧C1の半径R1が12.8mm(1.6×D)、第2の円弧C2の半径R2が1.76mm(0.22×D)、軸線Oから接点Qまでの間隔Lが1.92mm(0.24×D)の超硬合金製のドリルを製造した。なお、心厚円Eの直径(心厚)dは、実施例および次述する比較例1、2ともに2.00mm(0.25×D)であった。
【0036】
また、この実施例に対する比較例として、切刃4の外径Dは実施例と同じく8mmで、実施例とは逆に第2の円弧C2の半径R2が第1の円弧C1の半径R1よりも大きくされた特許文献1に基づく超硬合金製のドリルと、第1の円弧C1の半径R1が第2の円弧C2の半径R2より大きいものの、第1、第2の円弧C1、C2の接点Qが心厚円Eと第2の円弧C2の接点Pと一致した特許文献2に基づく超硬合金製のドリルも製造した。これらを順に比較例1、2とする。
【0037】
なお、比較例1の第1の円弧C1の半径R1は2.4mm(0.3×D)、第2の円弧C2の半径R2は2.64mm(0.33×D)、軸線Oから接点Qまでの間隔Lは心厚円Eの半径d/2と等しく1.0mm(0.125×D)であり、比較例2の第1の円弧C1の半径R1は3.2mm(0.4×D)、第2の円弧C2の半径R2は0.24mm(0.3×D)、軸線Oから接点Qまでの間隔Lはやはり心厚円Eの半径d/2と等しく1.0mm(0.125×D)であった。
【0038】
そして、これら実施例および比較例1、2のドリルによって、S50Cよりなる厚さ40mmの板材に、切削速度200m/min、送り0.35mm/revの切削条件で貫通穴を形成する高能率穴明け加工試験を行い、加工可能であった切削長と試験後のドリルの状態を調べた。なお、試験には縦型マシニングセンターを使用して、クーラント穴7から1MPaの圧力でクーラントを供給する湿式切削とした。
【0039】
その結果、比較例1では切削長25m(625穴)に達したところで主切刃にクラックが生じて穴あけ加工不能となった。また、比較例2は切削長20m(500穴)でドリル本体先端部外周に欠損が生じて穴明け不能となった。これらに対して実施例では、切削長40m(1000穴)に達したところでも穴明け加工が可能で、その時点で試験を終了した。試験後の実施例のドリルでは、切屑排出溝2内に多少の摩耗は認められたものの、欠損やチッピング等は確認されなかった。