【文献】
安田武夫,プラスチック材料の各種特定の試験法と評価結果<5>,プラスチックス,日本,日本工業出版,2000年 6月,51巻6号,119−127頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下地基材表面上に、構造色を発色するための規則的配列の空洞部が形成されている構造色発色用樹脂層が設けられ、該構造色発色用樹脂層上に保護層が形成されている構造色発色積層構造体において、
該保護層は、ビニルアクリル系塗料からなり、且つ、23℃で測定した水に対する接触角が85度以下となるように親水化処理が施された表面を有していることを特徴とする構造色発色積層構造体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、全体として30で示されている積層構造体においては、構造色発色用樹脂層50が、下地基材53の上方に設けられている。構造色発色用樹脂層50には、構造色を発色するための微細な空洞部55が規則的にほぼ等間隔で配列されている。また、構造色発色用樹脂層50の上には、空洞部55を完全に閉じた状態に保持し、空洞部55内へのホコリ等の異物の侵入を防止し、空洞部55による構造色の発色が安定に維持されるように、透明な保護層57が設けられている。
【0014】
即ち、空洞部55の間隔及びその大きさは、可視光波長(約400nm〜700nm)に近いものであり、このような空洞部55が多数形成されていることにより、光の回折が生じ、空洞部55と、空洞部55の間の部分との間で光路差による光の干渉が生じ、これにより、構造色が発現するわけである。
尚、
図1の例において、上記の空洞部55は、構造色発色用樹脂層50の表面に露出しており、透明な保護層57により閉じられているが、空洞部55の上端部が構造色発色用樹脂の薄層で覆われており、構造色発色用樹脂層50内に空洞部55が埋設された状態となることもある。
このような空洞部55は、一般に、後述する周期的強度分布を有するレーザ光を照射することにより形成される。
【0015】
本発明においては、上記の保護層57の表面が親水性面57aとなっており、このような親水性面57aにより、構造色の発色が消失するという現象を確実に防止することができる。
即ち、構造色の発色が消失するという現象は、通常、空洞部55に異物などが侵入することが要因となっており、このために、空洞部55(構造色発色用樹脂層50)を覆うように保護層57を設け、異物の侵入を防止しているのであるが、このような保護層57を設けているにもかかわらず、構造色の発色が消失してしまう。このような構造色の発色が消失するという現象は、本発明者らの研究によると、熱水処理によるものと判明している。
【0016】
例えば、後述する実施例での実験(基本実験)に示されているように、構造色発色積層構造体30を90℃の熱水に浸漬した後、これを取り出して乾燥させたものは、構造色の発色が消失している。このことから、構造色の発色が熱水処理に起因していることが判る。即ち、容器やキャップの分野では、飲料等の内容液の充填に先立って、殺菌や洗浄のための熱水処理が一般に行われる。この結果、構造色の発色の消失が頻繁に生じることとなる。
【0017】
しかも、驚くべきことに、構造色発色積層構造体30を90℃の熱水に浸漬した後、浸漬した状態で熱水温度を70℃まで降温させると、構造色の発色が消失せずにそのまま維持されるのである。かかる事実も、上記の基本実験から明らかにされている。このような驚くべき事実から判断して、本発明では、保護層57の表面を親水性面57aとし、これにより、熱水処理に起因する構造色の消失を防止することに成功したものである。
【0018】
かかる原理を説明するため
図2を参照して、熱水処理前の構造色発色積層構造体30では、空洞部55は、例えばレーザ加工で形成されたままの形態に保持されている(
図2(a)参照)。
しかるに、これを70℃以上の熱水で処理すると(熱水中への浸漬や熱水噴霧)、構造色発色樹脂層50の膨張による空洞部55の収縮及び保護層57の膨張によって、保護層57を形成している樹脂が空洞部55内に侵入し、この結果、空洞部55の大部分が埋められた状態となる(
図2(b)参照)。
【0019】
空洞部55がこのような状態となっている熱水処理された構造色発色積層構造体30を冷却すると、保護層57の表面が外部雰囲気に直接接触しているため、保護層57が急冷され、構造色発色用樹脂層50よりも先に降温して収縮し、寸法が安定化されてしまう(
図2(c)参照)。このため、空洞部55は、保護層57の侵入により埋められた状態のまま固定化されてしまい、この結果、構造色の発色が消失してしまうわけである。事実、熱水処理され、冷却された構造色発色積層構造体30(親水性表面57aが形成されていないもの)についての断面を顕微鏡観察すると、空洞部55がほとんど閉塞してしまっていることが確認される。
【0020】
しかるに、本発明にしたがって、保護層57の表面が親水性面57aとなっている場合には、熱水処理後に冷却したとき、この親水性面57a上に熱水の水膜60が形成された状態で冷却されていくこととなる。即ち、熱水の水膜60が存在しているため、保護層57は急冷されず、徐々に冷却されていくこととなる(
図2(d)参照)。この結果、保護層57と構造色発色用樹脂層50とは、大きな温度差を生じることなく、徐々に降温していくこととなり、該樹脂層50の収縮による空洞部55の粗大化と保護層57の収縮とがほぼ同時に進行し、保護層57と該樹脂層50とが寸法安定化され、初期の大きさの空洞部55が再生される。従って、本発明によれば、構造色の発色の消失が防止されることとなるわけである。実際、親水性面57aが保護層57の表面に形成されている本発明の構造色発色積層構造体30について、熱水処理及び冷却後の断面を顕微鏡観察すると、空洞部55が閉塞することなく、初期と同様の大きさで存在していることが確認される。
【0021】
<構造色発色用樹脂層50>
本発明において、構造色発色用樹脂層50は、それ自体公知の樹脂で形成されていてよく、熱可塑性樹脂、又は熱若しくは紫外線硬化型樹脂により形成される。
【0022】
熱可塑性樹脂の例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフエニレンオキサイド樹脂;ポリ乳酸など生分解性樹脂などを挙げることができる。
【0023】
また、熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、ケトンホルムアルデヒド樹脂、ノボラック樹脂、キシレン樹脂、芳香族系アクリル樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂等を挙げることができ、これらの熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、アクリル重合体、飽和ポリエステル樹脂などと上記熱硬化性樹脂との樹脂組成物を用いることもできる。
【0024】
さらに、紫外線硬化型樹脂は、上記のような熱硬化性樹脂に公知の紫外線吸収剤を配合したものであってよい。
【0025】
かかる層50には、例えばレーザ光の照射により構造色を発色するためのは空洞部55の規則的配列パターンが形成される。従って、この構造色発色用樹脂層50は、空洞部55の形成に用いるレーザ光に対して高い吸収性を示すことが好ましい。
【0026】
例えば、本出願人が先に出願したPCT/JP2009/068052で提案したように、芳香族環を分子中に有する樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート)は、所定の短波長領域の波長のレーザ光に対して吸収性を示す。従って、このような芳香族環を分子中に有する樹脂を選択し、このような樹脂を用いて、該樹脂が感度を示す波長のレーザ光を照射することによりレーザアブレーションが進行し、所定のパターンで空洞部55が配列した構造色発色用樹脂層50が形成される。
【0027】
また、レーザ光に対する吸収性を高めるために、この樹脂層50に有機系或いは無機系の紫外線吸収剤を配合することもできる。このような紫外線吸収剤の配合により、所定の波長のレーザ光に対する吸収性が著しく向上することから、当該波長のレーザ光の照射により、例えば樹脂層50に入射したレーザ光のみならず下地基材層53との界面での反射レーザ光によってもレーザアブレーションが生成し、この結果、空洞部55には、樹脂層50の表面に露出しているものと、樹脂層50の内部に閉じられた状態で存在するものとが混在したパターンを形成することもできる。
【0028】
上記のような有機系の紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系、ヒドロキシベンゾエート系、ベンゾオキサジノン系、トリアジン系等に属する化合物や、アゾ系染料、アントラキノン系染料、インジゴ系染料、フタロシアニン系染料、ピラゾロン染料、スチルペン系染料、チアゾール系染料、キノリン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、アクリジン染料、アジン染料、チアジン染料、オキサジン染料、ポリメチン染料、インドフェノール染料、ナフタルイミド染料、ペリレン染料等が知られており、これらの内、所定のレーザ光の波長領域に極大吸収を有するものが使用される。
また、無機系の紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン等の金属酸化物やこれら金属酸化物を含む複合金属酸化物などのコロイド粒子を挙げることができ、これらの内、所定のレーザ光の波長領域に極大吸収を有するものが使用される。
【0029】
構造色発色用樹脂層50中に分散される紫外線吸収剤の量は、その種類やレーザ光に対する感度によっても若干異なるが、一般には、樹脂層50の形成に用いる樹脂(樹脂マトリックス)100重量部当り、0.01乃至40重量部の量で使用され、特に有機系の紫外線吸収剤を用いる場合には、0.01乃至20重量部、さらに好ましくは0.3乃至3.0重量部の量で使用するのがよく、無機系紫外線吸収剤の場合には1乃至200重量部、特に5乃至40重量部の範囲が好ましい。
【0030】
尚、構造色を発色させるための空洞部55は、レーザ加工だけでなく、保護層57を形成する前の段階での注型、型押し、フォトレジスト等の手段によって形成することも可能であり、この場合も、光透過性のある樹脂、例えば各種の熱可塑性樹脂、熱乃至光硬化型樹脂、感光性樹脂等で形成されていてよい。
型押しを採用するのであれば、構造色を発色させるための空洞部55のパターンに対応する凸部を備えた型を用意し、この型を樹脂層に圧接して空洞部(凹部)を形成する。この場合には、紫外線吸収剤の配合は全く必要ない。但し、このような型を用いての空洞部55のパターンの形成は、型の製造など、極めて面倒な作業が必要となり、高コストとなるため、通常は、レーザ光の照射により空洞部55が形成される。
【0031】
上記のような構造色発色用樹脂層50は、構造色を発色するための空洞部55を所定のパターンで形成するためにのみ設けられる層であるため、その厚みは、空洞部55を形成し得る程度の大きさであればよく、一般に、0.5μm以上、特に1乃至15μm程度の厚みを有していればよい。
【0032】
尚、紫外線硬化型の樹脂を用いて構造色発色用樹脂層50を形成する場合には、その硬化のための紫外線として、前述した紫外線吸収剤が感度を有していない波長領域の紫外線を用いることが、空洞部55を形成するためのレーザ加工を効果的に行うために必要である。即ち、樹脂の硬化のための紫外線照射に際して、この紫外線に対して紫外線吸収剤が感度を有していると、レーザ加工に際して、紫外線吸収剤が劣化してしまって効果的に機能せず、空洞部55の形成が困難となってしまうからである。
【0033】
<保護層57>
上述した構造色発色用樹脂層50の上に設けられる保護層57は、先にも述べたように、空洞部55内への異物の侵入を防止し、異物の侵入による構造色の不鮮明化を抑制するために設けられる。
【0034】
保護層57は、当然のことながら、構造色を発色させるために、可視光に対して透過性を有している(例えば可視光に対する光線透過率が70%以上)必要がある。
また、保護層57を形成した後にレーザ加工により空洞部55を形成する場合には、保護層55は、使用するレーザ光に対しての透過性が高いこと(例えば、レーザ光に対する光線透過率が70%以上)が好ましい。
さらに、このような保護層57は、水不溶性であることが望ましい。ポリビニルアルコールの如き、水溶性樹脂で保護層57が形成されていると、殺菌のための熱水処理を行うことができなくなってしまうからである。即ち、熱水処理により、保護層57が溶解して消失してしまうことになる。
【0035】
上記の観点から、保護層57は、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等により形成されていることが好ましい。また、従来トップコートとして用いられていたアクリル系塗料等、或いは仕上げワニス等により保護層57を形成することもできる。
【0036】
保護層57の厚みは、これを形成する材質によっても異なるが、一般的には、空洞部55への異物の侵入が効果的に防止される程度の厚みを有してればよく、例えば1μm以上、特に3μm以上の厚みを有していることが好ましい。また、必要以上に厚く設けても格別の効果はなく、コストの増大或いはレーザ加工性の低下、構造色の不鮮明化などの不都合を生じ易くなってしまうため、通常は、300μm以下、特に150μm以下であるのがよい。
【0037】
尚、上記の保護層57と構造色発色用樹脂層50との間に接着性がない場合には、その間に接着剤層を設けることもできるが、この場合、接着剤層も可視光及び使用するレーザ光に対する透過性と疎水性とを有することは言うまでもない。
【0038】
<親水性表面57a>
本発明において、上述した保護層57の表面は、親水性面57aとなっている。具体的には、23℃で測定した水に対する接触角が85度以下、特に81度以下となっており、極めて濡れ性が高い。即ち、この接触角が上記範囲よりも大きいと、熱水処理によって前述した熱水の水膜60を効果的に形成することができず、従って、熱水処理による構造色発色の消失を防止することができなくなってしまう。
【0039】
このような親水性面57aは、保護層57を親水性の樹脂により形成することができるが、このような樹脂によって親水性面57aを形成すると、例えば70度以上の熱水を用いての処理により保護層57が消失してしまったり、或いは剥離する恐れがある。従って、かかる親水性面57aは、表面の親水化処理により形成するべきである。
【0040】
親水化処理には、物理的又は化学的な処理により、表面への極性基の導入、表面張力の向上、表面の微細な凹凸面化などがあり、特に限定されないが、通常は、コロナ放電処理、紫外線露光処理、プラズマ処理による公知の親水化処理が好ましく、簡単に行うことができるという観点から、コロナ放電処理や紫外線露光処理が特に好ましい。
【0041】
<下地基材53>
本発明において、構造色発色用樹脂層50の下地となる下地基材53の種類は特に制限されず、例えばスチールやアルミニウム等の金属、ガラス、プラスチック、紙等からなるものであってよく、さらに、これらの基材は、多層構造を有していてもよい。例えば、金属製の下地基材53は、箔でもよいし、板状でもよく、例えば、ティンフリースチール、錫めっき鋼板、ブリキ等の各種表面処理鋼板、アルミニウム箔等の軽金属板等、従来金属缶や金属製キャップに用いられている金属板や金属箔であってよい。また、その表面がポリエステル等の樹脂被覆が形成されている樹脂被覆金属板であってもよい。さらに、プラスチック製の下地基材53は、多層ボトルのように、種々の機能の樹脂層を積層した多層構造を有しているものであってもよく、下地基材53の構造は制限されず、用途に応じて適宜の構造とすることできる。
【0042】
また、上記の下地基材53は、その用途に応じて、種々の形態を採ることができ、例えば、キャップ、缶蓋、缶、ボトル、カップ、トレイ、パウチ、シート、フィルム等の形態を有していてよい。
【0043】
尚、本発明においては、上記の下地基材53としては、金属製であることが好ましい。即ち、下地基材53が金属製である場合、より頻繁に構造色の発色が消失してしまうという問題を生じ易い。熱水処理後の冷却時に、下地基材53(金属)からの伝熱により構造色発色用樹脂層50が冷却されにくく、保護層57と間に温度差を生じ易く、
図2(c)の形態になりやすいからである。
しかるに、本発明においては、保護層57の表面を親水性面57aとすることにより、下地基材53が金属製であった場合においても、熱水処理後の冷却時に、
図2(d)に示されるように熱水の水膜60が形成され、保護層57を徐冷とすることができ、構造色の発色の消失を有効に回避することが可能となる。即ち、本発明の効果が最も顕著に発現することとなる。
【0044】
<構造色発色積層構造体30の製造>
上述した構造を有する本発明の構造色発色積層構造体30は、下地基材53の材質等に応じて、適宜の手段を採用して製造することができる。
例えば、下地基材53が金属製である場合には、この上に、各層に対応する組成の塗料(所定の樹脂と層に応じた顔料や紫外線吸収剤を溶媒に分散させたもの)を塗布し、乾燥及び硬化して各層を形成し、目的とする積層構造を形成することができる。
また、予め形成されたフィルムを用いてのドライラミネーション等により、下地基材53上に所定の層を形成することもできる。
【0045】
下地基材53がプラスチック製である場合には、各層に対応する組成の樹脂組成物を使用し、これを押出成形(或いは共押出)する手段や、予め形成されたフィルムを用いてのドライラミネーション等の手段を採用することができる。
【0046】
本発明においては、上記のようにして下地基材53、構造色発色用樹脂層50、保護層57からなる積層体を形成した後、レーザ光を所定のパターンで照射してのレーザ加工によって空洞部55が形成される。
【0047】
このようなレーザ加工を行うためのレーザ光照射装置は、
図3に示された構造を有するものであり、全体として10で示されている照射装置10は、レーザ発振器11、ビームスプリッタ(透過型回折光学素子)12、コリメータ素子13、光束選択素子14と、集光素子15を備えている。
【0048】
レーザ発振器(レーザ光源)11は、レーザを出力するものであって、本発明においては、YAGレーザ、YVO
4レーザ、YLFレーザ等を好適に用いることができる。
前述した構造色発色用樹脂層50に空洞部55を形成するためには、高パワーパルスレーザであることが必要であり、また微細周期構造により構造色を発現させる場合、可視光で効率よく発色する為には微細周期構造のピッチは0.5〜2μm程度がよく、その周期構造を精度よく加工するためにはレーザ光の波長をこのピッチよりも短い紫外線波長域にする必要があり、更に、微細周期構造の凹部55(または空洞部)の形成は、レーザ光の干渉を利用した樹脂等の分解(レーザアブレーション)によるものであるため、コヒーレンシーの高いレーザを使用する必要がある。このために、上記レーザを好適に用いることができる。
【0049】
また、これらのパルスレーザは、数Hz〜数十MHzの繰り返し周波数を有するが、この繰り返し周期の間、蓄えられたエネルギーを数ps〜数十nsというきわめて短い時間幅で放出する為、少ない入力エネルギーから高いピークパワーを効率的に得ることができる。
【0050】
このレーザ発振器11は、照射パルス数を調整する機能を有している。またレーザ発振器11は、レーザ出力を調整することで、エネルギー密度(フルエンス:1パルス照射面積当たりのエネルギー)をコントロールすることもできる。
尚、エネルギー密度のコントロールは、レーザ発振器11におけるレーザ出力の調整の他、例えば、レーザ出力が同じで照射ビーム径を変化させることによっても実現できる。
【0051】
ビームスプリッタ12は、表面に微細な凹部又は凸部が周期的に刻まれている為に回折を起こす、透過型の光学素子であって、レーザ光を複数の光束に分割する。
【0052】
コリメータ素子13は、例えば焦点距離が200mmの合成石英平凸レンズを用いることができ、この場合は、ビームスプリッタ12から200mmの位置に置かれる。そして、コリメータ素子13は、ビームスプリッタ12で分割された複数の光束を通す。
【0053】
光束選択素子14は、コリメータ素子13を通過した光束が焦点を結ぶ位置におかれ、複数の光束のうち干渉に不必要な光束を遮り、必要な光束のみを通過させる。
集光素子15は、例えば、焦点距離が100mmの合成石英平凸レンズを用いることができ、光束選択素子14を通過した光束を集光し、光束を交差させ干渉させる。
尚、コリメータ素子や集光素子としては、凸レンズの他、フレネルレンズやGRIN(Graded−Index)レンズ等の光学素子を用いることができる。
【0054】
この干渉した領域は
図4に示すように高強度域の分布となり、この領域で20で示されている積層構造体20に照射する。このとき、干渉領域における高強度域の間隔(周期)dは、光束の交差角度θによって異なる。高強度域の周期dは、レーザ波長λ、光束の交差角度θを用いて次式で求めることができる。
d=λ/(2sin(θ/2))
【0055】
即ち、下地基材53の表面に構造色発色用樹脂層50(空洞部55を形成すべき層)が形成された積層構造体(20)をレーザ光照射装置10の集光素子15から所定の距離のところに配置する。この位置は集光素子15により複数の光束が交差する干渉領域である(
図4参照)。
レーザ光照射装置10が、レーザ光を出力し、ビームスプリッタ12がレーザ光を分割して複数の光束を形成し、集光素子15がそれら複数の光束を交差させて干渉領域を形成し、積層構造体20に照射させる。ここで積層構造体20の樹脂層(50)中の紫外線吸収剤によりレーザ光が吸収される。また、レーザ光の照射が干渉領域で行われるため、樹脂層50の表面に周期的な光強度分布が励起し、高強度部でレーザアブレーションの発生が顕著となり、空洞部55が形成されることとなる。
【0056】
尚、上記のようなレーザ加工による空洞部55の形成は、保護層57を形成する前に行うこともできる。
また、先にも述べたように、レーザー加工によらず、型押し等によっても行うことができるが、このよう手段での空洞部55の形成は、当然、保護層57を形成する前に行われる。
【0057】
空洞部55が形成された後は、前述した親水化処理(例えばコロナ放電処理や紫外線処理など)が行われ、これにより、保護層57の表面に親水性面57aが形成される。
親水性面57aを形成した後は、殺菌や洗浄のため、70度以上の熱水を用いての浸漬や噴霧などによる熱水処理が行われることとなる。処理時間等は、この構造色発色積層構造体30の形態によって適宜、決定することができる。
【0058】
本発明の構造色発色積層構造体30は、殺菌のための熱水処理による構造色発色の消失を有効に防止することができるため、このような殺菌処理が行われる用途、例えば飲料、各種食品類、各種医療品等を収容する容器(例えばボトル、カップ、袋など)や、このような容器用のキャップとしての使用に極めて有用である。
【実施例】
【0059】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
【0060】
(構造色発色積層構造体の作製)
アルミニウム製板にポリエステル系塗料を塗布した後、ポリエステル系塗料面側にビニルアクリル系塗料を塗布した。各層の厚みは、アルミニウム製板が約240μm、ポリエステル系塗料が約2μm、ビニルアクリル系塗料が約4μmである。その後、ビニルアクリル系塗料面が外面側となるようにキャップ形状に成形した。
その次に、レーザ光照射装置を用いてビニルアクリル系塗料面側からQ-スイッチ パルスYAGレーザ第4高調波(波長266nm)を照射した。なお、波長266nmの透過率は、ポリエステル系塗料に対しては0%、ビニルアクリル系塗料に対しては88.9%である。パルスYAGレーザの仕様は、パルス幅5ns、繰り返し周波数が10Hzである。レーザ照射により、ポリエステル系塗料層に規則的配列の空洞部が形成された。このとき、形成された空洞部の周期は約1.0μmである。上記のようにして、構造色発色積層構造体を作製した。作製した構造色発色積層構造体からは、虹色に発色する構造色が観察された。
ここで、アルミニウム製板は下地基材に、周期的配列の空洞部が形成されたポリエステル系塗料から成る塗膜は構造色発色用樹脂層に、ビニルアクリル系塗料から成る塗膜は保護層に相当する。
【0061】
(基本実験1)
上記で作製した構造色発色積層構造体のビニルアクリル系塗料表面は、23℃で測定した水に対する接触角は95.0度だった。この構造色発色積層構造体を90℃の熱水に浸漬した後、これを取り出して乾燥させたものは、構造色の発色が消失していた。
【0062】
(基本実験2)
一方、上記で作製した構造色発色積層構造体を90℃の熱水に浸漬した後、浸漬した状態で熱水温度を70℃まで降温させると、構造色の発色が消失せずにそのまま維持されることが確認された。
【0063】
(実施例と比較例)
上記で作製した構造色発色積層構造体に対して、親水化処理(コロナ放電処理、あるいは紫外線露光処理)を施した実施例1〜3、及び比較例1〜2の試料を調整した。そのときの各試料のビニルアクリル系塗料表面に対して、23℃で測定した水に対する接触角を表1に示す。そして、各試料において90℃の熱水に浸漬した後、これを取り出して乾燥させたときの構造色の発色の有無について確認した。(表1)
【0064】
なお、親水化処理は次に示す方法にて実施した。
コロナ放電処理はバッチ式処理装置を用いて実施した。装置仕様は、放電電極長が350mm、放電電極と構造色発色積層構造体表面との間隔が3mm、試料固定台の送り速度が50mm/secである。処理回数は1パスで、放電電力を異ならせてコロナ放電処理を施した。
紫外線露光処理は、ウシオ電機(株)製DEEP−UVメタルハライドランプ装置(電源:BA−M500、ランプハウス:SX−UID501MAMQQ、ランプ光源:UXM−500SX)を用いて実施した。このとき、ランプ装置にはファイバーアタッチメントを取り付け、ファイバー端面と構造色発色積層構造体表面との間隔が120mm、構造色発色積層構造体表面に対して正面から露光するように配置した。印加電流25A(一定)として、露光時間を異ならせて紫外線露光処理を施した。
【0065】
【表1】
【0066】
(結果)
ビニルアクリル系塗料表面の接触角が85度超であった比較例1〜2では、90度の熱水に浸漬した後、これを取り出して乾燥させると、構造色の発色が消失していた。一方、ビニルアクリル系塗料表面の接触角が85度以下であった実施1〜3では、90度の熱水に浸漬した後、これを取り出して乾燥させた後も構造色の発色が維持されていることが確認された。よって、23度で測定した水に対する接触角が85度以下の親水性表面となっていることにより、構造色発色の消失が有効に防止されたと言える。