特許第6268903号(P6268903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268903
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両及びその制御方法。
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20180122BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20180122BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20180122BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20180122BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20180122BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20180122BHJP
   B60W 40/13 20120101ALI20180122BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60W20/00 900
   B60K6/48ZHV
   B60K6/54
   B60L11/14
   B60L15/20 J
   B60W40/13
   B60L9/18 J
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-214929(P2013-214929)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-77839(P2015-77839A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治雄
(72)【発明者】
【氏名】小泉 芳久
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−245872(JP,A)
【文献】 特開平10−104049(JP,A)
【文献】 特開2002−081989(JP,A)
【文献】 特開2012−210834(JP,A)
【文献】 特開2000−283831(JP,A)
【文献】 特開2007−008334(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0049771(US,A1)
【文献】 特開2006−337087(JP,A)
【文献】 特開2012−228998(JP,A)
【文献】 特開2011−235695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 50/16
F02D 29/00 − 29/06
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
G01G 19/00 − 19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動発電機を有するハイブリッド車両において、
前記電動発電機を制御する制御装置と、
前記ハイブリッド車両の車重を推定する車重推定装置と、
前記車重の推定を行うために必要なデータを記憶するデータ記憶装置と、
を備え、
前記データ記憶装置は、前記ハイブリッド車両が空荷状態の時の車重である空荷車重と、空荷状態であって前記電動発電機が基準のトルク検出値で前記電動発電機のみによる走行を行った場合の前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度である基準の加速度検出値と、前記基準のトルク検出値と、を記憶しており、
前記ハイブリッド車両が前記電動発電機のみにより走行している場合に、前記制御装置が前記電動発電機で発生するトルクを前記データ記憶装置に記憶した基準のトルク検出値に制御するとともに、前記車重推定装置が前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度検出値と前記データ記憶装置に記憶した各データとを基に車重推定を行う
ことを特徴とするハイブリッド車両
【請求項2】
前記データ記憶装置に記憶される前記基準のトルク検出値及び前記基準の加速度検出値が、前記ハイブリッド車両の工場出荷前の空荷状態であって、前記電動発電機のみにより車両を発進した際のトルク検出値及び加速度検出値であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両
【請求項3】
前記車重推定装置が、少なくとも前記ハイブリッド車両の発進時に車重推定を行うように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両
【請求項4】
内燃機関と、電動発電機と、前記電動発電機を制御する制御装置と、車重推定装置と、データ記憶装置と、を備えて構成されるハイブリッド車両の制御方法において、
前記ハイブリッド車両が空荷状態の時の車重である空荷車重と、空荷状態であって前記電動発電機が基準のトルク検出値で前記電動発電機のみによる走行を行った場合の前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度である基準の加速度検出値と、前記基準のトルク検出値と、を前記データ記憶装置に記憶させた後、
前記ハイブリッド車両が前記電動発電機のみにより走行している場合に、前記制御装置により前記電動発電機で発生するトルクを前記データ記憶装置に記憶した前記基準のトルク検出値に制御するとともに、前記車重推定装置により前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度検出値と前記データ記憶装置に記憶した各データとを基に車重推定を行うことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法
【請求項5】
前記データ記憶装置に記憶する各データを設定するときの前記空荷状態を前記ハイブリッド車両の工場出荷前の空荷状態とすると共に、前記データ記憶装置に記憶する各データを設定するときの前記電動発電機のみによる走行を、前記電動発電機のみによる車両の発進とすることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御方法
【請求項6】
少なくとも前記ハイブリッド車両の発進時に車重推定を行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のハイブリッド車両の制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的簡単な計算で走行中のハイブリッド車両の車重を推定することができ、しかも、走行中のハイブリッド車両の車重の推定精度を高めることができるハイブリッド車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電動発電機の両方を搭載し、内燃機関と電動発電機(走行用モータ)との両方を走行用の動力源とするハイブリッド車両においては、電動発電機による回生制御が行われるので、電動発電機で発生する回生トルクの大きさと、ディスクブレーキなどの機械的ブレーキで発生する制動トルクの大きさと、場合によっては、エンジンブレーキ等で発生する制動トルクの大きさ等との割合を決定して、目標要求制動トルクの発生先を割り当てる必要があり、この制御においては、目標要求制動トルクに密接な関係を持っている車重が必要になる。
【0003】
この車重は、燃料の消費量や運搬荷物の荷役による重量変化を受けるため、時々刻々と変化しているものであり、より適切なハイブリッド車両の運転制御では、制御時の車重を推定することが重要となっている。特に、トラックやバス等では、乗用車に比べて車重が大きく、また、車重の変化も大きい。
【0004】
この車両重量の推定に関しては、制動トルク指令値と、これを与えた時における車体減速度との関係から推定する方法があり、例えば、車両重量を、制動トルク指令値と、これを与えた時における車体減速度との関係から推定する時の推定精度を、温度変化に影響されることなしに高く保つことを目的に、制動中と判定してから回生制御のみによる制動中と判定する間、回生制動トルク指令値、および、その指令時に発生した車体減速度を蓄積しその蓄積回数が必要最低回数以上になったと判定すると、蓄積したデータの履歴データ群を直線回帰して、この回帰直線の勾配およびタイヤ有効半径を基に車両重量を求めて推定する車両重量推定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この車両重量推定装置では、一般に制駆動トルク指令値と車体減速度との関係が温度変化するため、制駆動トルク指令値と車体減速度との関係が温度変化しない、電動モータのみを用いた車両の制駆動時に車両重量の推定を行うように構成されているが、回生制動トルク指令値とそれに対応した車体減速度のデータを直線回帰するなどのデータ処理をする必要があり、車両重量推定の機会が回生時に限られてしまう上に、比較的複雑なデータ処理が必要になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−337087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のことを鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡単な計算で走行中のハイブリッド車両の車重を推定することができ、しかも、車重の推定精度を高めることができるハイブリッド車両及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両は、内燃機関と電動発電機を有するハイブリッド車両において、前記電動発電機を制御する制御装置と、前記ハイブリッド車両の車重を推定する車重推定装置と、前記車重の推定を行うために必要なデータを記憶するデータ記憶装置と、を備え、前記データ記憶装置は、前記ハイブリッド車両が空荷状態の時の車重である空荷車重と、空荷状態であって前記電動発電機が基準のトルク検出値で前記電動発電機のみによる走行を行った場合の前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度である基準の加速度検出値と、前記基準のトルク検出値と、を記憶しており、前記ハイブリッド車両が前記電動発電機のみにより走行している場合に、前記制御装置が前記電動発電機で発生するトルクを前記基準のトルク検出値に制御するとともに、前記車重推定装置が前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度検出値と前記データ記憶装置に記憶した各データとを基に車重推定を行うように構成される。
【0009】
この構成によれば、ハイブリッド車両の車量の推定を、電動発電機のハイブリッド車両を駆動及び制動するためのトルク(駆動トルクと回生トルク)に基づいて比較的簡単な計算で行うことができ、さらに、非常に計測精度が高い前記ハイブリッド車両の空荷状態のときの、車重の計測値と、トルク検出値と加速度検出値に基づいて、推定車重を算出するので、より車重の推定精度を向上させることができる。
【0010】
なお、この車重の推定は、ハイブリッド車両が電動発電機のみにより走行しているときに、常時、行ってもよいが、常時行うと煩雑になり、また、トルク検出値と加速度検出値が小さいと車重の推定精度が悪化するので、定期的若しくは周期的に、又は、車両の発進時など、トルク検出値と加速度検出値が大きくなる所定の条件下で行うのが好ましい。
【0012】
上記のハイブリッド車両において、前記データ記憶装置に記憶される前記基準のトルク検出値及び前記基準の加速度検出値が、前記ハイブリッド車両の工場出荷前の空荷状態であって、前記電動発電機のみにより車両を発進した際のトルク検出値及び加速度検出値であるように構成する
【0013】
上記のハイブリッド車両において、前記車重推定装置が、少なくとも前記ハイブリッド車両の発進時に車重推定を行うようにすると、ハイブリッド車両が停車した後は、内燃機関のための燃料補給や荷役により、ハイブリッド車両の車重が変化することが多く、また、ある程度の大きさの加速度を必ず発生するので、精度の高いハイブリッド車両の推定車重をより確実に得ることができる。
【0014】
上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両の制御方法は、内燃機関と、電動発電機と、前記電動発電機を制御する制御装置と、車重推定装置と、データ記憶装置と、を備えて構成されるハイブリッド車両のハイブリッドシステムの制御方法において、前記ハイブリッド車両が空荷状態の時の車重である空荷車重と、空荷状態であって前記電動発電機が基準のトルク検出値で前記電動発電機のみによる走行を行った場合の前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度である基準の加速度検出値と、前記基準のトルク検出値と、を前記データ記憶装置に記憶させた後、前記ハイブリッド車両が前記電動発電機のみにより走行している場合に、前記制御装置により前記電動発電機で発生するトルクを前記データ記憶装置に記憶した前記基準のトルク検出値に制御するとともに、前記車重推定装置により前記ハイブリッド車両の車両進行方向の加速度検出値と前記データ記憶装置に記憶した各データとを基に車重推定を行うことを特徴とする方法である。
【0015】
この方法によれば、ハイブリッド車両の車量の推定を、電動発電機のハイブリッド車両を駆動及び制動するためのトルクに基づいて比較的簡単な計算で行うことができ、さらに、非常に計測精度が高い前記ハイブリッド車両の空荷状態のときの、車重の計測値と、トルク検出値と加速度検出値に基づいて、車重算出用係数を設定するので、より車重の推定精度を向上させることができる。
【0017】
上記のハイブリッド車両の制御方法において、前記データ記憶装置に記憶する各データを設定するときの前記空荷状態を前記ハイブリッド車両の工場出荷前の空荷状態とすると共に、前記データ記憶装置に記憶する各データを設定するときの前記電動発電機のみによる走行を、前記電動発電機のみによる車両の発進とすることを特徴とする方法とする
【0018】
上記のハイブリッド車両の制御方法において、少なくとも前記ハイブリッド車両の発進時に車重推定を行うようにすると、ハイブリッド車両が停車した後は、内燃機関のための燃料補給や荷役により、ハイブリッド車両の車重が変化することが多く、また、ある程度の大きさの加速度を必ず発生するので、精度の高いハイブリッド車両の推定車重をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、ハイブリッド車両の車量の推定を、電動発電機のハイブリッド車両を駆動及び制動するためのトルクに基づいて比較的簡単な計算で行うことができ、さらに、非常に計測精度が高い前記ハイブリッド車両の空荷状態のときの、車重の計測値とトルク検出値と加速度検出値に基づいて、推定車重を算出するので、より車重の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態のハイブリッド車両の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態のハイブリッド車両の制御方法を説明するための図である。
図3】ハイブリッド車両の構成の一例を示す図である。
図4図3のハイブリッド車両における、電動発電機のみによる走行状態を示す図である。
図5図3のハイブリッド車両における、電動発電機で回生トルクを発生し、充電している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両及びその制御方法について説明する。この実施の形態のハイブリッド車両及びその制御方法を使用するハイブリッド車両(HEV:以下車両とする)1は、例えば、図3に示すような、エンジン(内燃機関)10と電動発電機(走行用電動機兼発電機)20の両方を走行用の動力源とするハイブリッド車両である。
【0022】
最初に、このハイブリッド車両1について説明する。図3に示すように、このエンジン10の動力は、トルクコンバータ14、接続状態のエンジン用クラッチ15を介してトランスミッション30に伝達され、さらに、プロペラシャフト31を介してデファレンシャルギア32及びドライブシャフト33を介して車輪34に伝達される。これにより、エンジン10の駆動トルクが車輪34に伝達され、車両1が走行する。
【0023】
一方、電動発電機20の駆動トルクに関しては、バッテリ22に充電(蓄電)された電力がインバータ21を介して電動発電機20に供給され、この電力により駆動トルクを発生する。この電動発電機20の駆動トルクは、接続状態の電動発電機用クラッチ23を介してトランスミッション30に伝達され、更に、プロペラシャフト31を介してデファレンシャルギア32及びドライブシャフト33を介して車輪34に伝達される。これにより、電動発電機20の駆動トルクが車輪34に伝達され、車両1が走行する。
【0024】
そして、エンジン用クラッチ15の接続と断絶の切替操作により、エンジン10の駆動トルクの車輪34への伝達と遮断を行い、電動発電機20の駆動トルクの車輪34への伝達と遮断を行うが、エンジン10又は電動発電機20の駆動トルクの伝達と遮断を適宜切り替えることができれば良く、エンジン用クラッチ15及び電動発電機用クラッチ23を必ずしも設ける必要はない。
【0025】
なお、このエンジン10では、エンジン10内の燃焼により生じた排気ガスGにはNOx(窒素酸化物)、PM(Particulate Matter:微粒子状物質)等が含有されるため、酸化触媒装置やNOx低減触媒装置やPM捕集フィルタ装置等を備えた排気ガス浄化装置13を排気通路11に配設して、この排気ガス浄化装置13により、排気ガスG中のNOx、PM等を浄化処理している。この浄化処理された排気ガスGcは、マフラー(図示しない)等を経由して大気中に放出される。
【0026】
この車両1の制動トルク(ブレーキ力)を発生するものとして、ブレーキペダルの踏み込みにより作動する、車輪34に備えられたドラムブレーキやディスクブレーキ等の機械的な常用ブレーキを備えている。しかしながら、トラック等の大型車両では、車両1の重量に比べて、この油圧式、空気圧式、空気油圧複合式等の機械的な常用ブレーキの制動トルクが相対的に小さいので、エンジンブレーキ若しくは圧縮開放ブレーキに加えて、補助ブレーキとして、排気通路11に排気ブレーキ弁(シャッターバルブ)12を備えている。
【0027】
そして、エンジン10、電動発電機20、ハイブリッドシステム、及び車両1の制御を行うための制御装置40が設けられ、この制御装置40により、エンジン10の全般の制御、インバータ21による電動発電機20の全般の制御、エンジン用クラッチ15の断接制御と電動発電機用クラッチ23の断接制御を含むハイブリッドシステムの全般の制御、車両1の全般の制御等々を行う。
【0028】
この制御装置40には、車両1の制御を行うための車重を推定する必要があるため、本発明に係る実施の形態のハイブリッド車両の車重の推定システム50が備えられている。
【0029】
次に、この実施の形態のハイブリッド車両の車重の推定システム50について説明する。図1に示すように、このハイブリッド車両の車重の推定システム(以下「車重の推定システム」という)50は、電動発電機トルク検出装置50aと、車両加速度検出装置50bと、車重推定装置50cと、データ記憶装置50dを備えて構成される。
【0030】
この電動発電機トルク検出装置50aは、電動発電機20の車両1を駆動及び制動するためのトルクを検出するための装置であり、この電動発電機20に流れる電流値等から駆動トルク又は回生トルクを検出する。また、車両加速度検出装置50bは、車両1の車両進行方向の加速度αを検出する装置であり、加速度センサや勾配センサ等から構成され、車両1に固定された加速度センサで検出された加速度βを、必要に応じて勾配センサで検出された勾配θの関数値や係数値等で修正して、車両1の車両進行方向の加速度αとする。
【0031】
そして、車重推定装置50cは、電動発電機トルク検出装置50aで検出されたトルク検出値Tmと車両加速度検出装置50bで検出された加速度検出値αmと車重算出用係数K1を用いて、車両1の算出車重W2を算出する。また、データ記憶装置50dは、車重推定計算をするために、車重推定装置50cが必要とするデータを記憶しておく装置である。
【0032】
これらの内、電動発電機トルク検出装置50aは、電動発電機20を制御するインバータ21と信号を入出力する制御装置40に配置され、車両加速度検出装置50bは、車両1の適正な場所に配置され、車重推定装置50cとデータ記憶装置50dは、制御装置40に組み込まれる。
【0033】
次に、車両1の走行状態について説明する。この車両1は、エンジン用クラッチ15のON/OFF制御、電動発電機用クラッチ23のON/OFF制御の組み合わせで、種々の走行形態を採ることができる。具体的には、エンジン用クラッチ15をONとすると共に電動発電機用クラッチ23をOFFとするエンジン10の駆動トルクだけで車両1を走行させる走行状態(エンジン単独走行)、エンジン用クラッチ15をONとすると共に電動発電機用クラッチ23もONとするエンジン10の駆動トルクに電動発電機20の駆動トルクを加えて車両1を走行させる走行状態(モータアシスト走行)、エンジン用クラッチ15をOFFとすると共に電動発電機用クラッチ23をONとする電動発電機20の駆動トルクのみで車両を走行させる走行状態(モータ単独走行)などがあり、更に、電動発電機20では車両1の制動トルクの一部又は全部を回生トルクとして利用する車両1の減速走行状態(モータ回生走行)などもある。
【0034】
この電動発電機20の駆動トルクのみで車両1を走行させる走行状態(モータ単独走行)を図4に示し、また、電動発電機20の回生トルクのみで車両1を減速させている走行状態(モータ回生走行)を図5に示す。
【0035】
本発明においては、図2に示すように、初期値を学習する初期設定段階として、この重量推定装置50で、車重算出用係数K1を、車両1の空荷状態のときに、好ましくは、車両1の工場出荷前の空荷状態のときに、車両1の空荷車重W1を計測し、データ記憶装置50dで記憶しておく。
【0036】
次に、この空荷車重W1の空荷状態で、電動発電機20のみによる走行で、好ましくは、電動発電機20のみによる車両の発進で、電動発電機トルク検出装置50aでトルク検出値Tm1と車両加速度検出装置50bで加速度検出値αm1とをそれぞれ検出する。この場合に、検出されたトルク検出値Tm1と加速度検出値αm1とがそれぞれ、データ処理が難しい適正な範囲内に無い場合は、再度、電動発電機20のみによる走行、好ましくは、電動発電機20のみによる車両の発進を行い、検出されたトルク検出値Tm1と加速度検出値αm1の両方がデータ処理の精度を維持できる適正な範囲内に入るデータを収集する。
【0037】
次に、加速度αm1と空荷車重W1を掛けた値(αm1×W1)は駆動力F1になり、すなわち、重力加速度をgとすると、F1=αm1×W1/gとなる。この駆動力F1は、電動発電機20で発生する駆動トルク又は回生トルクのトルク検出値Tm1と直接的な関係があるので、例えば、比例するとして、F1=Tm1×K1とする。このK1は電動発電機20のトルクTm1が駆動力F1になるまでの間で発生する機械損失(又は変換効率)等を考慮した係数であり、ここでは、車重算出用係数と呼ぶことにする。
【0038】
上記の「F1=αm1×W1/g」と「F1=Tm1×K1」とにより、「K1=(αm1×W1×g)/Tm1」となるので、この車重算出用係数K1は、計測された空荷車重W1と、検出されたトルク検出値Tm1と加速度検出値αm1とから容易に算出でき、これにより、車重算出用係数K1を算出する。
【0039】
つまり、初期設定段階として、車重推定装置50cが、車両1の空荷状態のときに車両1の空荷車重W1を計測し、かつ、空荷状態のときに電動発電機20のみによる走行を行って、このときの基準のトルク検出値Tm1基準の加速度検出値αm1と空荷車重W1から車重算出用係数K1を設定する。この車重算出用係数K1の数値をデータ記憶装置50dで記憶しておく。なお、この車重算出用係数K1の数値の代わりに、空荷車重W1と基準のトルク検出値Tm1基準の加速度検出値αm1の各数値を記憶しておいてもよい。
【0040】
そして、初期設定段階を完了した後は、車重推定段階に移行し、車両1の運転中の車両1の加速(駆動)又は減速(制動)中において、電動発電機20のみで車両1を走行する状態にした場合か、あるいは、電動発電機20のみで車両1を走行している状態で、車両1の加速又は減速になった場合において、この駆動のとき又は制動(回生)のときのトルク検出値Tm2と加速度検出値αm2を検出する。
【0041】
この場合にも、検出されたトルク検出値Tm2と加速度検出値αm2とがそれぞれ、データ処理が難しい適正な範囲内に無い場合は、以下の推定車重Weの算出を止めて次の機会を待つ。
【0042】
このトルク検出値Tm2と加速度検出値αm2と、上記で予め設定した車重算出用係数K1を用いて、そのときの駆動力をF2、推定車重をWeとすると、上記と同様に、「F2=Tm2×K1」と「F2=αm2×We/g」となるので、「We=(Tm2×K1×g)/αm2」から推定車重Weを算出する。あるいは、「We=(Tm2×K1×g)/αm2」と「K1=(αm1×W1×g)/Tm1」とから、「We=W1×(Tm2×αm1)/(Tm1×αm2)=W1×(Tm2/Tm1)×(αm1/αm2)」となるので、車重算出用係数K1を用いずに、空荷車重W1を用いて、推定車重Weを算出することもできる。
【0043】
そして、車重推定時に電動発電機20で発生するトルク、即ち、トルク検出値Tm2が基準のトルク検出値Tm1と同じになるように電動発電機20を制御した場合には、「W2=W1×αm1/αm2」となるので、工場出荷時に測定した加速度検出値である基準の加速度基準値αm1と車重測定時の加速度検出値αm2との比較により推定車量Weを非常に簡単に算出して推定することができる。
【0044】
この推定車重Weの数値をデータ記憶装置50dで記憶しておき、車両1の運転で必要とされる場合に、データ記憶装置50dで記憶しておいた、この推定車重Weの数値を読み出して使う。
【0045】
つまり、車両1が電動発電機20のみにより走行しているときに、上記のように車重推定装置50cで推定車重Weを算出するように構成される。
【0046】
なお、初期設定段階の空荷状態を車両1の工場出荷前の空荷状態とすると共に、初期設定段階の電動発電機20のみによる走行を、電動発電機20のみによる車両の発進とすると、車両1の工場出荷前においては車両1の空荷状態のときの空荷車重W1を非常に精度良く測定でき、しかも、電動発電機20のみによる車両の発進のときは、電動発電機20のみによる車両の走行のときよりも、電動発電機20の駆動用トルクTが大きいので、適正な大きさの基準のトルク検出値Tm1と、適正な大きさの基準の加速度検出値αm1を得られ、又、これらの検出値Tm1、αm1に基づいて、精度良く、車重算出用係数K1を設定することができる。
【0047】
また、車両1が停車した後は、エンジン10のための燃料補給や荷役により、車重Wが変化することが多く、また、ある程度の加速度αを必ず発生するので、車両1が停車した後の発進において車両1の電動発電機20のみによる車両1の発進の機会を増やしたり、あるいは、車両1の発進時に電動発電機20のみによる車両の発進の期間を取り入れたりして、この機会又は期間に、車重推定装置50cで推定車重Weを推定しておくことが好ましい。
【0048】
次に、ハイブリッド車両の制御方法について説明する。この制御方法では、車両1が電動発電機20のみにより走行しているときに、このときの電動発電機20の車両1を駆動及び制動するためのトルク検出値Tm2と、車両1の車両進行方向の加速度検出値αm2から、車両1の空荷状態のときに計測した空荷車重W1と、空荷状態のときに電動発電機20のみによる走行を行って検出した基準のトルク検出値Tm1基準の加速度検出値αm1とを用いて車重Weを算出する。
【0049】
また、記憶する数値を減少するために、車両1の空荷状態のときに車両1の空荷車重W1を計測し、かつ、空荷状態のときに電動発電機20のみによる走行を行って、このときの電動発電機20の車両1を駆動及び制動するための基準のトルク検出値Tm1と、車両1の車両進行方向の基準の加速度検出値αm1と、空荷車重W1を用いて、車重算出用係数K1を設定すると共に、車両1が電動発電機20のみにより走行しているときに、トルク検出値Tm2と加速度検出値αm2と車重算出用係数K1を用いて車両1の推定車重Weを算出する。これにより、記憶する数値を、空荷車重W1と基準のトルク検出値Tm1基準の加速度検出値αm1との三つから、車重算出用係数K1の一つにすることができる。
【0050】
また、好ましくは、車重算出用係数K1を設定するときの空荷状態を車両1の工場出荷前の空荷状態とすると共に、車重算出用係数K1を設定するときの電動発電機20のみによる走行を、電動発電機20のみによる車両の発進とする。
【0051】
また、この推定車重Weの推定は、車両1が電動発電機20のみにより走行しているときに、常時行ってもよいが、常時行うと煩雑になるので、前回の推定車重Weの推定から予め設定した時間経過毎に行うか、つまり、定期的若しくは周期的に行うことが好ましいく、また、燃料補給や荷役により車重が車両1の停車時から変化する可能性の高い車両1の発進時に行うことが好ましい。つまり、少なくとも車両1の発進時に、車重推定装置50cで推定車重Weを算出するようにすることが好ましい。
【0052】
また、トルク検出値Tm2と加速度検出値αm2が小さいと推定車重Weの推定精度が悪化するので、また車両1の発進時など、トルク検出値Tm2と加速度検出値αm2の一方又は両方がそれぞれ予め設定した数値よりも大きくなる条件下で行うのが好ましい。なお、急な勾配の登り走行時や急な勾配の降り走行時等の勾配θの絶対値が大きい場合では、勾配θの影響を除去するための計算における誤差の問題が生じるので、この推定車重Weの推定は、急な勾配の登り走行時や急な勾配の降り走行時を避けるのが好ましい。
【0053】
上記の構成のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、車両1の車量Wの推定を、電動発電機20の車両1を駆動及び制動するためのトルク(駆動トルクと回生トルク)Tに基づいて比較的簡単な計算で行うことができ、さらに、非常に計測精度が高い車両1の空荷状態のときの、車重Wの計測値W1と、基準のトルク検出値Tm1基準の加速度検出値αm1に基づいて、推定車重Weを算出するので、より車重Wの推定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 車両(ハイブリッド車両:HEV)
10 エンジン(内燃機関)
11 排気通路
14 トルクコンバータ
15 エンジン用クラッチ
16 クランクシャフト
20 電動発電機
23 電動発電機用クラッチ
30 トランスミッション
40 制御装置(ECU)
50 車重の推定システム
50a 電動発電機トルク検出装置
50b 車両加速度検出装置
50c 車重推定装置
50d データ記憶装置
F1、F2 駆動力
K1 車重算出用係数
Tm、Tm1、Tm2 トルク検出値
α 車両の車両進行方向の加速度
αm、αm1、αm2 加速度検出値
W 車重
W1 空荷車重
We 車両の推定車重
図1
図2
図3
図4
図5