(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の豆腐用凝固剤は、油脂及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを特定量含有する油相中に、塩化マグネシウムを特定量含有する水相が乳化分散した形態のW/O型乳化物である。まず、本発明の豆腐用凝固剤の調製について以下に説明する。
【0011】
本発明の豆腐用凝固剤の調製方法に特に制限はなく、例えば、塩化マグネシウムを特定量含有する水溶液と、油脂及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油脂組成物とを、W/O型に乳化分散することで得られる。得られるW/O型乳化物において、上記水溶液は水相を、上記油脂組成物は油相を構成する。
【0012】
前記油脂組成物を構成する油脂としては、食用に適する動物性油脂、食用に適する植物性油脂、及び、多価アルコールと脂肪酸とのエステル(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを除く)から選ばれる、1種又は2種以上を用いることができる。
前記植物性油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、米油、ひまわり油、胡麻油等、又はこれらの硬化油、そのエステル交換油もしくは分別油が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。また、前記動物油としては、ラード、牛脂等が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。
前記の多価アルコールと脂肪酸のエステルを構成する多価アルコールは、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビト−ル及びソルビタンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。また、前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限は無く、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸等から選ばれる1種あるいは2種以上が挙げられる。前記の多価アルコールと脂肪酸のエステルは、公知のエステル化反応等により調製することができる。
【0013】
前記油脂組成物中の油脂の含有量は、乳化物である凝固剤の乳化安定性の観点から、70質量%以上とすることが好ましく、74質量%以上とすることがより好ましく、76質量%以上とすることがさらに好ましい。また、保水性の高い豆腐を得る観点からは、油脂組成物中の油脂の含有量は82質量%以下とすることが好ましく、81質量%以下とすることがより好ましくは、80質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0014】
前記油脂組成物は、1種又は2種以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する。当該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを構成するグリセリン重合体のグリセリン単位の数に特に制限はないが、乳化安定性の観点から、グリセリン重合度(平均重合度)を4〜6とすることが好ましい。また、同様の観点から、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルにおける縮合リシノレイン酸は、2〜5分子のリシノレイン酸が縮合した構造であることが好ましい。
本発明に用いうるポリグリセリン脂肪酸エステルは通常の方法で合成することができる。また、サンソフトNo.818SK(商品名、太陽化学社製)、サンソフトNo.818R(商品名、太陽化学社製)、SYグリスターCR−500(商品名、阪本薬品工業社製)、ポエムPR−300(商品名、理研ビタミン社製)などの市販品を用いてもよい。
【0015】
前記油脂組成物中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、保水性の高い豆腐を調製する観点から17質量%以上とすることが好ましく、18質量%以上とすることがより好ましく、19質量%以上とすることがさらに好ましい。得られる豆腐に十分な硬さないし弾力を与え、また、十分な塩化マグネシウム風味(にがり風味)を与える観点及び雑味を減少させる観点からは、油脂組成物中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量を30質量%以下とすることが好ましく、28質量%以下とすることがより好ましく、26質量%以下とすることがさらに好ましく、24質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0016】
前記油脂組成物は、上記の油脂、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの他、着色料、酸化防止剤、調味料、強化剤等から選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい。
【0017】
前記水溶液中の塩化マグネシウム濃度は、28〜38質量%であることが好ましい。豆腐製造時の凝固剤の使用量をより抑える観点から、前記水溶液中の塩化マグネシウム濃度は30質量%以上とすることがより好ましく、31質量%以上とすることがさらに好ましい。また、乳化安定性の観点からは、前記水溶液中の塩化マグネシウム濃度を36質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましい。
【0018】
前記水溶液中の塩化マグネシウムは、通常は塩化マグネシウム6水和物に由来する。本発明において塩化マグネシウムの含有量は、無水物換算の含有量である。
【0019】
本発明の豆腐用凝固剤の調製では、作業性ないし安全面から、前記水溶液を前記油脂組成物に乳化分散させる際の温度は90℃以下とすることが好ましく、85℃以下の温度下で乳化分散させることがより好ましく、80℃以下の温度下で乳化分散させることがさらに好ましい。
本発明の豆腐用凝固剤の調製では、水溶液及び油脂組成物は、予め上記好ましい温度に加熱しておき、この加熱した水溶液及び油脂組成物を混合・乳化分散することが好ましい。こうすることで、塩化マグネシウムをより確実に溶解させた状態でW/O型乳化物を形成させることができるので、塩化マグネシウムの沈殿がなく乳化安定性に優れた乳化物をより確実に得ることができる。予め加熱しておく際の加熱温度は、乳化分散工程を実施する温度と同一であることが好ましい。
【0020】
本発明の豆腐用凝固剤の調製における乳化分散工程には、通常の乳化分散方法を採用することができる。例えば、上述してきた油脂組成物を、上記好ましい温度まで加温し、これをホモミキサーで撹拌しながら、上述の塩化マグネシウムを含有する水溶液を除々に添加する方法などが挙げられる。前記水溶液と前記油脂組成物の乳化分散工程における混合比は、乳化安定性及び凝固剤中の塩化マグネシウム含有量をより高める観点から、質量比で水溶液:油脂組成物=66:34〜71:29とすることが好ましく、67:33〜70:30とすることがより好ましい。上記の水溶液と油脂組成物の混合比率は、凝固剤の水相と油相の比率になる。
【0021】
本発明の豆腐用凝固剤中、塩化マグネシウムの含有量は21〜26質量%であるが、豆腐製造時の凝固剤の使用量を抑える観点から、22質量%以上とすることが好ましい。また、乳化安定性の観点からは、本発明の豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの含有量を25質量%以下とすることが好ましく、24質量%以下とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の豆腐用凝固剤中、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は5.5〜9.0質量%である。より保水性の高い豆腐を製造する観点から、豆腐用凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は6.0質量%以上とすることが好ましく、6.5質量%以上とすることがより好ましい。得られる豆腐に十分な硬さないし弾力を与え、また、十分な塩化マグネシウム風味(にがり風味)を与える観点及び雑味を減少させる観点からは、豆腐用凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は8.0質量%以下とすることが好ましく、7.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0023】
本発明の豆腐用凝固剤中の油脂の含有量は、乳化安定性の観点から20質量%以上とすることが好ましく、21質量%以上とすることがより好ましく、22質量%以上とすることがさらに好ましい。また、保水性の高い豆腐を得る観点から、豆腐用凝固剤中の油脂の含有量は、28質量%以下とすることが好ましく、27質量%以下とすることがより好ましく、26質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の豆腐用凝固剤は、W/Oの乳化安定性の観点から、分散相を構成する乳化粒子(水相)の体積基準メジアン径、すなわち、体積基準平均乳化粒子径が1.0〜5.0μmであることが好ましく、1.5〜4.0μmであることがより好ましく、2.0〜3.5μmであることがさらに好ましい。体積基準平均乳化粒子径は後述の実施例に記載の方法で測定した値である。
【0025】
本発明の豆腐用凝固剤の粘度は、500〜3000mPa・sとすることが好ましく、1000〜2800mPa・sとすることがより好ましく、1700〜2800mPa・sとすることがより好ましく、2000〜2800mPa・sとすることがより好ましい。上記好ましい粘度であれば、適度な乳化安定性を有し、より保水性の高い豆腐を製造することができる。
【0026】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の豆腐用凝固剤を開示する。
【0027】
<1>
油脂及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相と塩化マグネシウムを含有する水相とを有する油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、該豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの含有量が21〜26質量%であり、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が5.5〜9.0質量%である、豆腐用凝固剤。
【0028】
<2>
前記油脂が、好ましくは動物性油脂、植物性油脂、及び多価アルコールと脂肪酸とのエステル(但し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを除く)から選ばれる1種又は2種以上である、前記<1>に記載の豆腐用凝固剤。
<3>
前記植物性油脂が、好ましくは大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、米油、ひまわり油及び胡麻油、並びにこれらの硬化油、エステル交換油及び分別油から選ばれる1種又は2種以上である、前記<2>に記載の豆腐用凝固剤。
<4>
前記動物性油脂が、好ましくはラード及び牛脂から選ばれる1種又は2種以上である、前記<2>又は<3>に記載の豆腐用凝固剤。
<5>
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する多価アルコールが、好ましくはプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビト−ル及びソルビタンから選ばれる1種又は2種以上である、前記<2>〜<4>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<6>
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸が、好ましくはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸から選ばれる1種あるいは2種以上である、<2>〜<5>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤。
<7>
前記油相中の前記油脂の含有量が、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは74質量%以上であり、さらに好ましくは76質量%以上である、前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の豆腐用凝固剤。
<8>
前記油相中の前記油脂の含有量が、好ましくは82質量%以下であり、より好ましくは81質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である、前記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<9>
前記油相中の前記油脂の含有量が、好ましくは70〜82質量%であり、より好ましくは74〜81質量%であり、さらに好ましくは76〜80質量%である、前記<1>〜<6>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0029】
<10>
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを構成するグリセリン重合体のグリセリン単位の数が好ましくは4〜6である、<1>〜<9>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<11>
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの縮合リシノレイン酸が、好ましくは2〜5分子のリシノレイン酸が縮合した構造である、前記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0030】
<12>
前記油相中の前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは17質量%以上であり、より好ましくは18質量%以上であり、さらに好ましくは19質量%以上である、前記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<13>
前記油相中の前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは28質量%以下であり、さらに好ましくは26質量%以下であり、さらに好ましくは24質量%以下である、前記<1>〜<12>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<14>
前記油相中の前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは17〜30質量%であり、より好ましくは17〜28質量%であり、さらに好ましくは18〜26質量%であり、さらに好ましくは19〜24質量%である、前記<1>〜<11>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0031】
<15>
前記油相中に着色料、酸化防止剤、調味料、及び強化剤から選ばれる1種又は2種以上を含有する、前記<1>〜<14>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0032】
<16>
前記水相中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは28質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは31質量%以上である、前記<1>〜<15>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<17>
前記水相中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは38質量%以下であり、より好ましくは36質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である、前記<1>〜<16>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<18>
前記水相中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは28〜38質量%であり、より好ましくは30〜36質量%であり、さらに好ましくは31〜35質量%である、前記<1>〜<15>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<19>
前記塩化マグネシウムが、好ましくは塩化マグネシウム6水和物に由来する、前記<1>〜<18>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0033】
<20>
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは22質量%以上である、前記<1>〜<19>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<21>
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは24質量%以下である、前記<1>〜<20>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<22>
前記豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウムの含有量が、好ましくは22〜25質量%であり、より好ましくは22〜24質量%である、前記<1>〜<19>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0034】
<23>
前記豆腐用凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは6.0質量%以上であり、より好ましくは6.5質量%以上である、前記<1>〜<22>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<24>
前記豆腐用凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下である、前記<1>〜<23>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<25>
前記豆腐用凝固剤中のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が、好ましくは6.0〜8.0質量%であり、より好ましくは6.0〜7.5質量%であり、より好ましくは6.5〜7.5質量%である、前記<1>〜<22>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0035】
<26>
前記豆腐用凝固剤中の油脂の含有量が、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは21質量%以上であり、さらに好ましくは22質量%以上である、前記<1>〜<25>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<27>
前記豆腐用凝固剤中の油脂の含有量が、好ましくは28質量%以下であり、より好ましくは27質量%以下であり、さらに好ましくは26質量%以下である、前記<1>〜<26>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<28>
前記豆腐用凝固剤中の油脂の含有量が、好ましくは20〜28質量%であり、より好ましくは21〜27質量%であり、さらに好ましくは22〜26質量%である、前記<1>〜<25>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<29>
前記水相と前記油相の比率が質量比で、好ましくは水相/油相=66/34〜71/29であり、より好ましくは水相/油相=67/33〜70/30である、前記<1>〜<28>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0036】
<30>
前記豆腐用凝固剤の体積基準平均乳化粒子径が、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上であり、さらに好ましくは2.0μm以上である、前記<1>〜<29>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<31>
前記豆腐用凝固剤の体積基準平均乳化粒子径が、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは4.0μm以下であり、さらに好ましくは3.5μm以下である、前記<1>〜<30>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<32>
前記豆腐用凝固剤の体積基準平均乳化粒子径が、好ましくは1.0〜5.0μmであり、より好ましくは1.5〜4.0μmであり、さらに好ましくは2.0〜3.5μmである、前記<1>〜<29>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<33>
前記豆腐用凝固剤の粘度が、好ましくは500mPa・s以上であり、より好ましくは1000mPa・s以上であり、より好ましくは1700mPa・s以上であり、より好ましくは2000mPa・s以上である、前記<1>〜<32>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<34>
前記豆腐用凝固剤の粘度が、好ましくは3000mPa・s以下であり、より好ましくは2800mPa・s以下である、前記<1>〜<33>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
<35>
前記豆腐用凝固剤の粘度が、好ましくは500〜3000mPa・sであり、より好ましくは1000〜2800mPa・sであり、より好ましくは1700〜2800mPa・sであり、より好ましくは2000〜2800mPa・sである、前記<1>〜<32>のいずれか1つに記載の豆腐用凝固剤。
【0037】
本発明を実施例に基づき以下に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[分析方法]
水相中の塩化マグネシウム濃度:
乳化分散工程に用いた水溶液中の塩化マグネシウム濃度を「第8版食品添加物公定書」の「粗製海水塩化マグネシウム」の項に記載の方法により定量し、得られた値を水相中の塩化マグネシウム濃度とした。
【0039】
豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム濃度:
豆腐用凝固剤0.2gにエタノールを加えて溶解し、20mLまでメスアップしてA液とした。A液5mLにエタノール50mL及びアンモニア塩化アンモニウム緩衝液(塩化アンモニウム67.5gを1000mLメスフラスコに量り、アンモニア水570mLを加えて溶かし、蒸留水を加えて1000mLとした溶液)を5mL加えた。この溶液にエリオクロムブラックT溶液を2滴加え、0.01mol/LのEDTAで滴定した。終点は赤色から青色に変わった点とした。下記計算式より豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム濃度を算出した。
豆腐用凝固剤中の塩化マグネシウム濃度(質量%)=a×0.3803/0.2
(a:試料の滴定に要した0.01mol/L EDTAの使用量(mL))
【0040】
体積基準平均乳化粒子径:
5℃で1日間保存した豆腐用凝固剤をレーザー回析式粒度分布計(商品名:SALD−2100、島津製作所社製)を用いてメジアン径(体積基準、屈折率1.70−0.20i)を測定した。
【0041】
粘度:
15℃で調温した豆腐用凝固剤を音叉型振動式粘度計(商品名:SV−10型、エー・アンド・デイ社製、振動数30Hz)を用いて測定した。
【0042】
[豆腐用凝固剤の製造]
実施例1〜6、比較例1〜4
表1に示す配合組成(単位:質量部)で全量1000gのW/O型乳化物よりなる豆腐用凝固剤(実施例1〜6、比較例1〜4)を得た。表1に記載の塩化マグネシウム6水和(MgCl
2・6H
2O)として、ソフトウエハー(商品名、赤穂化成社製)を用いた。また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとしてサンソフトNo.818R(商品名、太陽化学社製、グリセリン平均重合度:6)を用いた。また、油脂として、コーンサラダ油(日清オイリオ社製)を用いた。具体的な方法を以下に説明する。
【0043】
表1に記載の濃度で塩化マグネシウム6水和物を水に溶解し、水溶液を調製した。また、表1に記載の比率でポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと油脂とを混合し、油脂組成物を調製した。これらの水溶液及び油脂組成物を80℃まで加温した。アンカー羽(Φ58mm)を用いて300rpmで前記油脂組成物を攪拌しながら、前記水溶液をローラーポンプ(東京理科社製:RP−1000、チューブΦ48mm)を用いて125rpmで添加し、前記水溶液を添加後にアンカー羽を500rpmに設定し15分間攪拌し予備乳化物を得た。前記予備乳化物をホモミキサー(プライミクス社製、TKホモミクサーMARKII)を用いて5000rpmで、4分間撹拌することで乳化させ、W/O乳化型の豆腐用凝固剤を得た。
【0044】
試験例1 豆腐用凝固剤を用いて製造した豆腐の評価
カナダ産白目大豆を原料として得たBrix12の豆乳を使用し、上記で製造した豆腐用凝固剤を用いて豆腐を製造した。具体的には、60℃に調整した豆乳500gに凝固剤を、豆乳中の塩化マグネシウム濃度が0.19質量%になるように添加し、TKアジホモミクサー(プライミクス社製、2M-03型)を用いて6000rpmで20秒間攪拌し分散処理液とした。前記分散処理液を豆腐容器(第一パック製、型式C−150、83×83×H34mm)に150g充填し、80℃にて20分間熟成した。熟成後の豆腐を用いて、後述の方法により保水性、硬さ(弾力)及び風味を評価した。
【0045】
−保水性試験−
80℃にて20分間熟成した豆腐を、カッターナイフでさいの目上に16分割(1片 18×18×H33)にし、ステンレスふるい(目開き850μm)上に前記豆腐を乗せて室温にて40分間静置した。静置前後の豆腐重量を測定し、下記計算式により保水率とした。結果を表1に示す。
保水率(%)=(静置後の豆腐重量/静置前の豆腐重量)×100
保水率90%以上の豆腐は、豆腐として好ましい保水性を有するといえる。
【0046】
−豆腐の硬さ(弾力)評価−
上記熟成後の豆腐を5℃で一晩保存後、豆腐を直径28mm、高さ15mmの円柱に切り出し、小型卓上試験機Ez−TEST(島津製作所社製)を用い圧縮破断試験を行った。破断点の強度(gf)を表1に示す。破断点強度が500gf以上の豆腐は、豆腐として好ましい硬さないし弾力を有するといえる。
【0047】
−豆腐の風味及び雑味の評価−
上記熟成後の豆腐を5℃で一晩保存後、豆腐の風味を下記評価基準により点数化し、専門パネル10名の平均点を比較した。結果を表1に示す。
<風味評価基準>
5点:塩化マグネシウムの甘味がより強い。
4点:塩化マグネシウムの甘味が強い。
3点:塩化マグネシウムの甘味を感じる。
2点:塩化マグネシウムの甘味が弱い。
1点:塩化マグネシウムの甘味がより弱い。
<雑味評価基準>
5点:油相成分に由来する異味を感じない。
4点:油相成分に由来する異味をほとんど感じない。
3点:油相成分に由来する異味を感じる。
2点:油相成分に由来する異味が強い。
1点:油相成分に由来する異味がより強い。
ここで、「油相成分に由来する異味」とは、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに由来する異味もしくは油脂の油っぽさ、又はこれらの双方を感じることを意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示されるように、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が本発明で規定するよりも少ない比較例1の凝固剤は、粘度がやや低く、豆乳と混ぜると、素早く塩化マグネシウムが放出され、得られる豆腐のゲル組織が不均一で保水性に劣る結果となった。
一方、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が本発明で規定するよりも多い比較例2の凝固剤は、乳化安定性(粘度)が高く、豆乳と混ぜた際に塩化マグネシウムを徐放し、得られる豆腐はゲル組織が均一で保水性に優れる結果となった。しかし、この豆腐はゲル組織の機械強度が弱く(破断点強度が小さく)食感に劣り、また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの異味を強く感じ、にがり風味は弱まっていた。
また、塩化マグネシウムの含有量が本発明で規定するよりも少ない比較例3の凝固剤も乳化安定性(粘度)が高く、豆乳と混ぜた際に塩化マグネシウムを徐放し、得られる豆腐はゲル組織が均一で良好な保水性を示した。しかし、この豆腐を得るためには、凝固に十分な塩化マグネシウムを添加するために凝固剤の添加量を多くしなければならない。そのため、油相成分に由来する異味を強く感じるものとなった。
さらに、塩化マグネシウムの含有量が本発明で規定するよりも多い比較例4の凝固剤は、沈殿が生じ、安定な乳化形態を維持することができなかった。
【0050】
これに対し、塩化マグネシウムとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの双方を本発明で規定する範囲内で含有する実施例1〜6の凝固剤は、いずれも適度な粘度を有し乳化安定性が高く、豆乳と混合する際に塩化マグネシウムの放出速度が抑えられ、得られる豆腐はゲル組織が均一で良好な保水性を示した。さらに、これらの豆腐は破断点強度も500gf以上あり、硬さないし弾力が良好で、且つ、塩化マグネシウムの甘味も十分に引き立ち、雑味も少なかった。
【0051】
本発明の凝固剤は、適度な乳化安定性を有し、マグネシウムの放出速度がより緩やかで、豆乳の凝固をより遅効化することができる。したがって、自動豆腐凝固成型システムを用いた工業的生産においてもより高品質の豆腐を製造することができる。