(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定歯数で回転不能に備えられる内歯歯車と、前記所定歯数より少ない歯数で可撓性の円環状で回転自在に支持される外歯歯車と、回転軸芯を中心に回転することにより前記外歯歯車の一部を撓め前記内歯歯車に噛み合う位置を周方向に変位させる波動機構と、前記波動機構の回転に伴う前記外歯歯車の回転力を取り出す出力部材とを備えることにより減速伝動機構が構成されると共に、
前記内歯歯車に連なり前記外歯歯車の一方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する固定側内壁を有し、
前記外歯歯車が、前記回転軸芯に沿う方向での少なくとも一方の端部に対して半径方向に伸び、前記外歯歯車の内部空間と外部空間とを連通する溝状に切り欠いた複数の凹状部を有している波動歯車装置。
所定歯数で回転不能に支持される内歯歯車と、前記所定歯数より少ない歯数で可撓性の円環状で回転自在に支持される外歯歯車と、回転軸芯を中心に回転することにより前記外歯歯車の一部を撓め前記内歯歯車に噛み合う位置を周方向に変位させる波動機構と、前記波動機構の回転に伴う前記外歯歯車の回転力を取り出す出力部材とを備えることにより減速伝動機構が構成されると共に、
前記内歯歯車に連なり前記外歯歯車の一方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する固定側内壁と、前記出力部材において前記外歯歯車の他方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する回転側内壁とが形成され、前記固定側内壁と前記回転側内壁との少なくとも何れか一方に対して、前記外歯歯車の外部空間と内部空間とに連通する溝状部が形成されている波動歯車装置。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置として特許文献1には、円環状で剛性の内歯歯車と、この内歯歯車の内側に配置される可撓性の外歯歯車と、この外歯歯車の内側に配置される楕円形輪郭の波動発生器とを有する構成が示されている。この波動歯車装置は、内歯歯車の歯数より外歯歯車の歯数が2つ少なく、波動発生器の回転を減じて外歯歯車に伝える伝動が行われる。
【0003】
また、特許文献1では、波動発生器には放熱用のフィンを備えることにより波動発生器部の温度上昇を抑制できるように構成されている。
【0004】
波動歯車装置として特許文献2には、固定保持される内歯歯車と、この内歯歯車の内部に配置される可撓性で円筒形の外歯歯車と、この外歯歯車の内部に配置される波動発生器(文献ではウェーブジェネレータ)とを有する構成が示されている。また、この波動歯車装置では、特許文献1と同様に波動発生器の回転を減じて外歯歯車に伝える伝動が行われる。
【0005】
この特許文献2では、内歯歯車と外歯歯車とが樹脂で構成され、外歯歯車に出力軸が連結した構成を有している。ウェーブジェネレータには送風ファンが複数立設され、内歯歯車と外歯歯車とには熱伝導率の高いカーボン又はメタル製のファイバ又はチップを全体に含有しており、これらには通風孔が形成され、作動時には発熱を除去するように構成されている。
【0006】
波動歯車装置として特許文献3には、特許文献1と特許文献2と同様の構成を有し、これらと同様の減速作動を行うものである。また、外歯歯車の各々に対して複数のスリットを形成した構成が示されている。この構成により、放熱性が向上し、スリット部への潤滑剤流入により潤滑性が向上し、外歯の温度上昇を抑制し、温度上昇による材料強度低下を防ぎ、摩擦、摩耗の低減が図れる点が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に示される波動歯車装置では、波動発生器の外周部分を外歯歯車に接触させて回転させる構成であるため、この接触部位で発熱を招く。また、この波動歯車装置では、外歯歯車の歯部に対して、内歯歯車の歯部が変形に共に接触するため、この接触時の摩擦によっても発熱を招くことになる。
【0009】
この波動歯車装置で発熱を招いた場合には、熱膨張により内歯歯車と外歯歯車とに歪みを生じることがあり、外歯歯車が樹脂材により構成されている場合には、温度上昇に伴い変形や破損を生じることもある。これらの不都合を解消するため特許文献1〜3では放熱のための構成を備えている。
【0010】
しかしながら、内歯歯車と外歯歯車との間には熱が籠もりやすく、良好な除熱を必要としている。
【0011】
本発明の目的は、内歯歯車と外歯歯車との間の温度上昇を抑制して良好に作動する波動歯車装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の特徴は、所定歯数で回転不能に備えられる内歯歯車と、前記所定歯数より少ない歯数で可撓性の円環状で回転自在に支持される外歯歯車と、回転軸芯を中心に回転することにより前記外歯歯車の一部を撓め前記内歯歯車に噛み合う位置を周方向に変位させる波動機構と、前記波動機構の回転に伴う前記外歯歯車の回転力を取り出す出力部材とを備えることにより減速伝動機構が構成されると共に、
前記内歯歯車に連なり前記外歯歯車の一方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する固定側内壁を有し、
前記外歯歯車が、前記回転軸芯に沿う方向での少なくとも一方の端部に対して半径方向に伸び
、前記外歯歯車の内部空間と外部空間とを連通する溝状に切り欠いた複数の凹状部
を有している点にある。
【0013】
この構成の波動歯車装置では、外歯歯車が単純な筒状に形成されるため、この外歯歯車のうち回転軸芯に沿う方向での一方の端部を、内歯歯車を構成する壁状の当接面に当接させ、他方の端部を出力部材の当接面に当接させることで、回転軸芯方向での位置を決める構成が採用される。
この構成によると、外歯歯車のうち回転軸芯に沿う方向の一方の端部に複数の凹状部が形成されるため、例えば、外歯歯車の端部が内歯歯車を構成する壁状の当接面に当接する状態で支持されていても、この壁状の部材と外歯歯車との間に空気の流通が可能な空間を形成することになる。これにより、外歯歯車の
外部空間と、この外歯歯車の内部空間(この外歯歯車より回転軸芯の方向に形成される空間)との間での空気の流通を可能にして、作動時に内歯歯車と外歯歯車との間で発熱した場合には、その部位で加熱された空気を内歯歯車の内部に流し出すと共に、内歯歯車の内部空間の空気を内歯歯車と外歯歯車との間に供給して放熱を促進することが可能となる。
その結果、内歯歯車と外歯歯車との間の温度上昇を抑制して良好に作動する波動歯車装置が構成された。
【0014】
本発
明は、前記凹状部が、前記外歯歯車における隣り合う歯部の歯底部分に形成されている点にある。
【0015】
これによると、外歯歯車の外周側で加熱された空気を、凹状部を介して外歯歯車の内周側に送り出すことや、外歯歯車の外周側に対して凹状部を介して空気を込むことを可能にして良好な放熱を実現する。
【0016】
本発明の特徴は、所定歯数で回転不能に支持される内歯歯車と、前記所定歯数より少ない歯数で可撓性の円環状で回転自在に支持される外歯歯車と、回転軸芯を中心に回転することにより前記外歯歯車の一部を撓め前記内歯歯車に噛み合う位置を周方向に変位させる波動機構と、前記波動機構の回転に伴う前記外歯歯車の回転力を取り出す出力部材とを備えることにより減速伝動機構が構成されると共に、前記内歯歯車に連なり前記外歯歯車の一方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する固定側内壁と、前記出力部材において前記外歯歯車の他方の端部に当接して前記外歯歯車の位置を規制する回転側内壁とが形成され、前記固定側内壁と前記回転側内壁との少なくとも何れか一方に対して、前記外歯歯車の外部空間と内部空間とに連通する溝状部が形成されている点にある。
【0017】
この構成によると、固定側内壁に対して外歯歯車の一方の端部が当接する状態では溝状部を介して外歯歯車の外部空間と内部空間との間での空気の流通が可能となる。これと同様に回転側内壁に対して外歯歯車の他方の端部が当接する状態では、溝状部を介して外歯歯車の歯部と内部空間との間での空気の流通が可能となる。このように、外歯歯車の外部空間と、この外歯歯車の内部空間(この外歯歯車より回転軸芯の方向に形成される空間)との間での空気の流通を可能にすることにより、作動時に内歯歯車と外歯歯車との間で発熱した場合には、その部位で加熱された空気を内歯歯車の内部に流し出すと共に、内歯歯車の内部空間の空気を内歯歯車と外歯歯車との間に供給して放熱を促進できる。
その結果、内歯歯車と外歯歯車との間の温度上昇を抑制して良好に作動する波動歯車装置が構成された。
【0018】
本発明は、
前記外歯歯車が、前記回転軸芯に沿う方向での少なくとも一方の端部に対して半径方向に伸び、前記外歯歯車の内部空間と外部空間とを連通する溝状に切り欠いた複数の凹状部を有しても良い。
【0019】
これによると、
複数の凹状部が外歯歯車の内部空間と外部空間との間での空気の流通を行わせ放熱性能を向上させることが可能となる。
【0020】
本発明は、前記出力部材が、前記外歯歯車を収容する円筒部を備え
、この円筒部と前記内歯歯車との対向面のうち少なくとも一方に前記外歯歯車から前記円筒部の外周面に連通する連通部が形成されても良い。
【0021】
これによると
、作動時に外歯歯車と内歯歯車との間で発熱した場合には、その部位で加熱された空気を、連通部を介して円筒部の外周面に送り出す、あるいは、円筒部の外周面の空気を、連通部を介して内歯歯車と外歯歯車との間に供給して放熱を促進できる。
【0022】
本発明は、
前記出力部材が、前記回転軸芯に直交する姿勢の端部壁を備え、この端部壁に対して貫通孔が形成されても良い。
【0023】
これによると、
外歯歯車の内部空間の空気を端部壁の貫通孔を介して外部に送り出すことが可能になると共に、外部の空気を外歯歯車の内部空間に供給して放熱性能を向上させることが可能となる。
【0024】
本発明は、
前記出力部材が、前記外歯歯車を収容する円筒部を備えており、この円筒部の外周面と、前記端部壁の外面との少なくとも何れか一方に翼体が形成されても良い。
【0025】
これによると、
出力部材の回転に伴い、翼体が気流を作り出し、この気流が出力部材の円筒部の外周面又は端部壁の外面に接触することにより出力部材の熱を奪うことになり、この内部に収容されている外歯歯車の放熱が可能になる。特に、端部壁に貫通孔が形成されている構成では、出力部材の内部空間の空気を貫通孔から外部に送り出し翼体に供給することが可能となり、これとは逆に、翼体からの空気を出力部材の内部空間に供給することも可能となる。
【0026】
本発明は、前記出力部材が、前記外歯歯車を収容する円筒部と、前記回転軸芯に直交する姿勢の端部壁とを備え、前記円筒部の外周面と前記端部壁の外面との少なくとも何れか一方に翼体が形成されも良い。
【0027】
これによると、出力部材の回転に伴い、翼体が気流を作り出し、この気流が出力部材の円筒部の外周面又は端部壁の外面に接触することにより出力部材の熱を奪うことになり、この内部に収容されている外歯歯車の放熱が可能になる。
【0028】
本発明は、前記外歯歯車の内部空間で前記波動機構と一体的に回転するファンを備えても良い。
【0029】
これによると、外歯歯車の内部空間で波動機構の回転に伴いファンが回転し、気流を作り出すことにより外歯歯車の内周面を含めた領域の放熱が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1〜
図5に示すように、 内歯歯車としてのサーキュラスプラインCと、外歯歯車としてのフレックススプラインFと、波動機構としてのウェーブジェネレータWと、出力部材としての出力ケースTとを備えると共に、これらを支持するハウジングHを備えて波動歯車機構が構成されている。
【0032】
この構成の波動歯車機構は、ハーモニックドライブ(登録商標)とも称呼され、真円の内歯歯車を構成するサーキュラスプラインCと、楕円の外歯歯車を構成するフレックススプラインFとの差動を利用することにより、ウェーブジェネレータWに伝えられる回転を減速して出力ケースTに伝える減速伝動機構を具備するものである。
【0033】
ハウジングHは金属材料で成るフロントケース10と、金属材料で成るリヤケース20とをボルト1で締結した構成を有しており、フロントケース10と出力ケースTの間には内側空間Saが形成され、リヤケース20と出力ケースTの間には外側空間Sbが形成されている。
【0034】
フロントケース10に対して回転軸芯Xと同軸芯で形成された筒状部11の内周に対してサーキュラスプラインC(内歯歯車の一例)が一体的に構成されている。このサーキュラスプラインC(内歯歯車の一例)には、所定歯数の内歯型の多数の歯部12が形成されている。これによりサーキュラスプラインCはハウジングHに対して回転不能に備えられることになる。
【0035】
筒状部11の内周の内端側(フロントケース10側)には、回転軸芯Xに直交する姿勢の固定側内壁13が形成され、この固定側内壁13は、フレックススプラインFの一方の端部に当接してフレックススプラインFの位置決めを行う。
【0036】
尚、この波動歯車機構では、サーキュラスプラインCを樹脂材で構成しても良い。また、サーキュラスプラインCを、その内周に複数の歯部12を形成したリング状の素材をフロントケース10に対して回転不能に支持するように構成しても良い。
【0037】
フレックススプラインF(外歯歯車の一例)は、可撓性で円筒状となる環状体30の外周に対してサーキュラスプラインCの歯部12の歯数より2つ少ない歯数となる多数の歯部31が形成される。このフレックススプラインは金属材で構成されるものであるが、樹脂材で構成しても良い。
【0038】
出力ケースT(出力部材の一例)は、フロントケース10に対し回転軸芯Xを中心にして相対回転自在に支持されるものである。この出力ケースTは、回転軸芯Xを中心とする円筒部41と、回転軸芯Xに直交する姿勢の端部壁42と、回転軸芯Xと同軸芯で端部壁42からフロントケース10と反対側に突出する出力軸43とが金属材により一体的に構成されている。
【0039】
円筒部41の内周には、サーキュラスプラインCの歯部12の歯数と同数の歯部44を有した受動スプラインTSが形成されている。また、端部壁42の内面側には回転軸芯Xに直交する姿勢の回転側内壁45が形成されている。この回転側内壁45は、フレックススプラインFの他方の端部に当接してフレックススプラインFの位置決めを行う。
【0040】
尚、出力ケースTを樹脂で形成しても良い。また、受動スプラインTSを、その内周に複数の歯部44を形成したリング状の素材を出力ケースTに対して回転不能に支持するように構成しても良い。
【0041】
ウェーブジェネレータW(波動機構の一例)は、回転軸芯Xと同軸芯上に配置され外端側に伸びる入力軸51と、これと一体回転する中間軸52とを有すると共に、入力軸51と一体回転する一対のアーム53と、一対のアーム53の突出端に対して回転軸芯Xと平行する姿勢の支軸54を中心に回転自在に支持されるローラ55とを備えて構成されている。
【0042】
入力軸51にはファン56が支持されている。このファン56は、後述する第6の冷却構成として機能するものであり、入力軸51と一体的に回転することにより空気の流れを作り出す。
【0043】
リヤケース20は、フロントケース10に対して連結し回転軸芯Xと同軸芯の筒状体21と、回転軸芯Xに対して直交する姿勢の壁状体22とを金属材料により一体形成した構成を有している。
【0044】
フロントケース10には、ウェーブジェネレータWの入力軸51が貫通するフロント軸支部15が備えられている。出力ケースTの端部壁42には、ウェーブジェネレータWの中間軸52を支持する中間軸支持部46が備えられている。リヤケース20の壁状体22には、出力ケースTに形成された出力軸43が貫通するリヤ軸支部23が備えられている。
【0045】
〔伝動構成〕
図1〜
図3に示すように、この波動歯車機構は、フレックススプラインFを構成する環状体30の一方の端部側をフロントケース10の筒状部11に内装し、この環状体30の他方の端部側を出力ケースTの円筒部41に内装している。また、筒状部11の突出側の端面と、出力ケースTの円筒部41の突出側の端面とを突き合わせるようにフロントケース10と出力ケースTとが配置されている。
【0046】
このようにフレックススプラインFを配置することにより、フレックススプラインFの一方の端部はフロントケース10の固定側内壁13に近接し、他方の端部は出力ケースTの回転側内壁45に近接する。これによりフレックススプラインFは、回転軸芯Xに沿う方向への変位が規制される状態で、回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。
【0047】
ウェーブジェネレータWは、フレックススプラインFの内部空間(内側空間Sa)に配置され、フレックススプラインFを構成する環状体30の内周に対して一対のローラ55が圧接するように各々が配置される。
【0048】
この配置により、一対のローラ55から作用する圧力で環状体30が弾性変形し、この弾性変形により
図2に示す如く、楕円形に撓め、環状体30の複数の歯部12のうち周方向での2箇所の領域がサーキュラスプラインCの歯部12の一部に噛み合う状態となる。
これと同様に、環状体30の弾性変形により
図3に示すように、環状体30の複数の歯部12のうち周方向での2箇所の領域が出力ケースTの歯部44に噛み合う状態となる。
【0049】
また、フロントケース10に対してハウジングHの筒状体21の突出端を当接させ、ボルト1によりフロントケースと筒状体21とが締結されている。波動歯車機構が組み立てられた状態ではウェーブジェネレータWの入力軸51の一端側がフロント軸支部15に回転自在に支持され、中間軸52が中間軸支持部46に回転自在に支持され、出力ケースTの出力軸43がリヤ軸支部23に回転自在に支持される。
【0050】
この伝動構成では、筒状部11の複数の歯部12と、環状体30の複数の歯部12と、円筒部41の複数の歯部44とにグリス等の潤滑剤が塗布され、各回転部分にも同様にグリス等の潤滑剤が塗布されている。
【0051】
このような構成から、入力軸51が回転駆動された場合には、ウェーブジェネレータWの一対のローラ55が回転軸芯Xを中心に回転し、一対のローラ55が支軸54を中心に回転する状態でフレックススプラインFの環状体30の内周面を周方向に移動する。このローラ55の移動により、フレックススプラインFの歯部31とサーキュラスプラインCの歯部12との噛み合い位置が周方向に変位する。この変位量は、入力軸51の1回転に対して、サーキュラスプラインCの歯部12の歯数とフレックススプラインFの歯部31の歯数との差に等しい。これによりフレックススプラインFが、入力軸51の回転方向と逆方向に回転する。
【0052】
前述したようにフレックススプラインFの歯部31の歯数と、出力ケースTの歯部44の歯数とが等しいため、フレックススプラインFの回転と等しい回転速度で出力ケースTが回転することになる。その結果、出力軸43から減速駆動力が伝えられるのである。
【0053】
〔冷却構成〕
この波動歯車機構では、ウェーブジェネレータWの回転に伴い一対のローラ55がフレックススプラインFの環状体30の内周面に圧接した状態で相対移動するため、この圧接部位で摩擦や、環状体30の変形に伴う発熱を招く。更に、ウェーブジェネレータWの回転に伴いサーキュラスプラインCの歯部12に対してフレックススプラインFの歯部31が噛み合う方向に相対変位することから、噛み合い時に歯部同士が圧接部位で摩擦することによっても発熱を招くものである。
【0054】
このような発熱のうち、フレックススプラインFの内周側の発熱は、フレックススプラインFの内周に内側空間Saの空気が接触することにより放熱が可能である。しかしながら、サーキュラスプラインCの歯部12とフレックススプラインFの歯部31との間で発生する熱は籠もりやすい。この理由から本発明の波動歯車装置では、冷却のための以下に説明する複数の冷却構成を備えている。
【0055】
〔第1の冷却構成〕
第1の冷却構成は、
図5、
図6に示すように、フレックススプラインFを構成する環状体30の端部のうちの両端部に半径方向に伸びる溝状に切り欠いた複数の凹状部32を備えている。つまり、凹状部32は、隣り合う歯部31の中間の歯底部分を切り欠く形態で形成されている。また、フレックススプラインFの一方の端部と固定側内壁13との間、及び、フレックススプラインFの他方の端部と回転側内壁45との間には周方向で所定間隔で凹状部32が配置されることになる。
【0056】
これにより、フレックススプラインFの外周側で加熱された空気を、凹状部32を介してフレックススプラインFの内周側に送り出すことや、フレックススプラインFの外周側に対して凹状部32を介して空気を送り込むことを可能にして良好な放熱を実現する。
【0057】
〔第2の冷却構成〕
第2の冷却構成は、
図5に示すように、フレックススプラインFが収容される円筒部41の突出側の端部に対して、回転軸芯Xに沿う方向に突出する複数の突出部41Aを形成することにより、これら複数の突出部41Aの間に連通部Jを形成している。この円筒部41の突出側の端部はフロントケース10の筒状部11の突出側の端部に対向するものであり、この対向する部位に連通部Jが形成されることでフレックススプラインFの歯部31と円筒部41の外周面より外側の外側空間Sbとを連通させる領域が形成される。
【0058】
この連通部Jは、フロントケース10の筒状部11に形成しても良い。この筒状部11に形成する場合には、サーキュラスプラインCを構成する歯部12の歯先と筒状部11の外周面とを連通させる領域に形成されることになる。尚、この連通部Jは筒状部11と円筒部41との対向面の双方に形成されても良い。
【0059】
これにより、円筒部41の外周面より外側の外側空間Sbからの空気を、連通部Jを介してフレックススプラインFの外面に供給することや、フレックススプラインFの外周の空気を連通部Jから円筒部41の外周面より外側に送り出すことを可能にして良好な放熱を実現する。
【0060】
また、連通部Jを作り出す構成として、
図8に示すようにフレックススプラインFが収容される円筒部41の突出側の端部に形成される複数の突出部41Aを、回転時に空気の流れを円筒部41の内部側や、外部側に供給する姿勢で形成しても良い。このように構成したものでは、例えば、外側空間Sbからの空気を良好にフレックススプラインFの外面に供給することも可能となる。
【0061】
〔第3の冷却構成〕
第3の冷却構成は、
図9、
図11に示すように、フロントケース10の固定側内壁13と、出力ケースTの回転側内壁45とにおいて前記フレックススプラインFの内部空間に連なる溝状部Kを備えている。
【0062】
図11には、フロントケース10の筒状部11に形成される歯部12の歯底に対応する位置から、回転軸芯Xを中心とする放射状に形成される溝状部Kを示しているが、回転側内壁45に対して形成される溝状部Kも同様に、歯部44の歯底に対応する位置から放射状に形成されることになる。尚、この溝状部Kは、固定側内壁13と回転側内壁45との何れか一方に形成されるものでも良い。
【0063】
これにより、フレックススプラインFの外周側で加熱された空気を、溝状部Kを介してフレックススプラインFの内周側に送り出すと共に、フレックススプラインFの外周側に対して溝状部Kを介して空気を送り込むことを可能にして良好な冷却を実現する。
【0064】
〔第4の冷却構成〕
第4の冷却構成は、
図1、
図3〜
図5に示すように、出力ケースTの端部壁42に対して形成される複数の貫通孔42Aを備えている。この貫通孔42Aは、内側空間Saと、出力ケースTより外側の外側空間Sbとを連通させ空気の流通を可能にする。
【0065】
〔第5の冷却構成〕
第5の冷却構成は、
図3〜
図5、
図7に示すように、出力ケースTを構成する円筒部41の外周面と端部壁42の外面とに形成される翼体Lを備えている。この翼体Lのうち、円筒部41の外周面に形成されるものは、円筒部41の外周部分に溝部41Gを形成する加工により形成されている。また、翼体Lのうち端部壁42の外面に形成されるものも同様に溝部42Gを形成する加工により形成されている。
【0066】
特に、端部壁42の外面に形成される溝部42Gと翼体Lとは、出力ケースTの回転に伴い回転軸芯Xに近い空間の空気を出力ケースTの外周側に送る姿勢で形成されている。
また、円筒部41の外周面に形成される溝部41Gと翼体とは、出力ケースTの回転に伴い円筒部41の突出端の方向に空気を送る姿勢で形成されている。
【0067】
尚、翼体Lは円筒部41の外周面と、端部壁42の外面との何れか一方に形成されるものであっても良い。また、円筒部41の外周面、あるいは、端部壁42の外面に対して板状やブロック状の部材を取り付けることで翼体Lを形成しても良い。
【0068】
〔第6の冷却構成〕
第6の冷却構成は、
図1〜
図3、
図5に示すように、ウェーブジェネレータWの回転に伴って装置の内部空間に気流を発生させるファン56を備えたものである。このファン56は、入力軸51と一体回転するように備えられ、回転に伴い、回転軸芯Xに沿う方向で端部壁42の方向に流れる気流を発生させる。
【0069】
〔冷却形態〕
この実施形態では、第4〜第6の冷却構成を1つの送風ユニットを考えており、この送風ユニットを、第1〜第3の冷却構成の何れかと併せて用いることにより効果的な冷却を実現している。
【0070】
〔第1の冷却形態〕
具体的な構成として
図1〜
図7には、第1、第2の冷却構成と、第4〜第6の冷却構成で成る1つの送風ユニットとを組み合わせたものを示している。この構成では、
図4に矢印で示す如く、入力軸51の回転に伴いファン56が内部空間の空気を端部壁42の方向に送り、この空気のうち端部壁42に達したものの一部は貫通孔42Aから外側空間Sbに流れ出し、残余は、端部壁42の回転側内壁45に沿ってフレックススプラインFの方向に流れる。
【0071】
フレックススプラインFの方向に流れた空気は、複数の凹状部32からフレックススプラインFの歯部31の外周側を歯すじ方向に沿ってフロントケース10の方向に流れることになる。
【0072】
また、貫通孔42Aを介して外側空間Sbに達した空気は出力ケースTの回転により翼体Lと溝部42Gとの作用により出力ケースTの外周側に流れ、更に、出力ケースTの外周面の翼体Lと溝部42Gとの作用により円筒部41の突出端の方向に流れる。
【0073】
ハウジングHの外面は外気に接触しているため常に外気温に近い温度にある。従って、外側空間Sbに流れる空気はハウジングHの壁状体22、あるいは、筒状体21の内面に接触することにより熱が奪われ、冷却されることになる。
【0074】
出力ケースTの円筒部41の外周面の翼体Lは、円筒部41の熱を放熱する機能も有するものであり、この翼体Lに空気が触れることにより円筒部41の冷却が実現する。
【0075】
次に、外側空間Sbのうち円筒部41の突出端に達した空気は連通部JからフレックススプラインFの外周面に達し、更に、フレックススプラインFの歯部31の外周側を歯すじ方向に沿ってフロントケース10の方向に流れる。このように流れる際には、端部壁42の回転側内壁45から凹状部32を介してフレックススプラインFの歯部31の外周側を歯すじ方向に沿って流れる空気と合流する。
【0076】
このように合流した空気は、固定側内壁13に達し、フレックススプラインFの端部の凹状部32から内側空間Saに流れることになる。このように空気が循環することにより、サーキュラスプラインCの歯部12とフレックススプラインFの歯部31との間における部位の放熱も無理なく行い局部的な温度上昇の抑制も実現するのである。
【0077】
〔第2の冷却形態〕
また、第2、第3の冷却構成と、第4〜第6の冷却構成で成る1つの送風ユニットとを組み合わせたものでは、前述した第1の冷却形態と略同様に空気が循環するものであり、連通部JからフレックススプラインFの外周に達した空気がフレックススプラインFの歯部31に沿って流れた後に溝状部Kに沿って流れることにより、内側空間Saに達するように循環の経路が構成される。
【0078】
つまり、このように空気の循環の経路が形成されるものでは、
図11に示す第3の冷却構成を用いるため、両端部に複数の凹状部32を形成したフレックススプラインFを用いずに済む。
【0079】
この構成では、
図9に矢印で示す如く空気が流れる。この空気の流れは、
図4に基づいて先に説明した空気の流れと一部共通するものであるが、端部壁42の回転側内壁45に沿ってフレックススプラインFの方向に流れた空気が、回転側内壁45に形成された溝状部Kを通過し、フレックススプラインFの歯部31の外周側を歯すじ方向に沿ってフロントケース10の方向に流れる点が第1の冷却形態と異なっている。
【0080】
また、貫通孔42Aを介して外側空間Sbに達した空気は、翼体Lと溝部42Gとの作用により出力ケースTの外周側に流れ、出力ケースTの外周面の翼体Lと溝部42Gとの作用により円筒部41の突出端の方向に流れる。また、外側空間Sbのうち円筒部41の突出端に達した空気は連通部JからフレックススプラインFの外周面に達する。
【0081】
また、このように流れる際には、端部壁42の回転側内壁45から凹状部32を介してフレックススプラインFの歯部31の外周側を歯すじ方向に沿って流れる空気と合流することになり、合流した空気は、固定側内壁13に達し、固定側内壁13に形成された溝状部Kから内側空間Saに流れることになる。このように空気が循環することにより、サーキュラスプラインCの歯部12とフレックススプラインFの歯部31との間における部位の放熱も無理なく行い局部的な温度上昇の抑制も実現するのである。
【0082】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0083】
(a)内側空間Saの空気を、フレックススプラインFの外部空間に送り、次に、連通部Jから外側空間Sbに送り、貫通孔42Aを介して内側空間Saに戻すように空気の循環方向を設定する。つまり、この構成では第1の冷却形態、第2の冷却形態と逆方向に空気を流すことになるが、このような構成であっても、フレックススプラインFの局部的な温度上昇の抑制が可能となる。
【0084】
このような空気の流れを作り出すために、ファン56による空気の流れを逆向きに設定し、また、出力ケースTの端部壁42の外面、円筒部41の外面において翼体Lを形成するための溝部の傾斜方向を逆向きに設定することが合理的である。
【0085】
(b)連通部Jをフロントケース10の筒状部11の突出側の端部に形成する。このように形成したものでも、外側空間SbとフレックススプラインFの外面との間での空気の流れを可能にして冷却を実現する。
【0086】
(c)外気を吸入し、加熱された空気の排出を可能にするようにハウジングHに開口を形成しても良い。このように開口を形成することにより一層良好な放熱が実現する。