特許第6268982号(P6268982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6268982
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】4輪駆動車両の駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20180122BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   B60K17/348 B
   B60K23/08 C
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-244426(P2013-244426)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-101255(P2015-101255A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】吉村 孝広
(72)【発明者】
【氏名】浅井 孝宣
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−126281(JP,A)
【文献】 特開平06−156104(JP,A)
【文献】 特開2005−096565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/28−17/36
B60K 23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力が主駆動輪へ伝達される主動力伝達経路と、該主動力伝達経路に介在する回転部材から副駆動輪への動力を選択的に伝達するクラッチ機構を備える4輪駆動車両において、クラッチ機構を解放状態として専ら主駆動輪にて走行する2輪駆動走行状態と、該クラッチ機構を係合状態とすることで副駆動輪も駆動して主駆動輪および副駆動輪にて4輪駆動走行する4輪駆動走行状態とを選択的に実行する4輪駆動車両の駆動制御装置であって、
前記回転部材と前記主駆動輪との差回転が所定の回転数を超えることによって前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、該支障が発生しない場合に比較して前記クラッチ機構の動力伝達トルクを増加させることを特徴とする4輪駆動車両の駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主駆動輪にて2輪駆動走行するが、必要に応じて副駆動輪を加えて4輪駆動する4輪駆動車両において、2輪駆動走行状態において何らかの問題でエンジンからの駆動力を主駆動輪へ伝達できない場合でも、それまで駆動輪として用いられていない副駆動輪に動力を伝達して車両の走行を可能にする4輪駆動車両の駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源からの副駆動輪への動力伝達を切り離すクラッチ機構を備え、主としてクラッチ機構を解放状態として専ら主駆動輪にて2輪駆動走行し、発進時、登坂走行時、旋回走行時、手動による選択操作時などの4輪駆動要求の発生に応じてクラッチ機構を係合状態とすることで副駆動輪も駆動して4輪駆動走行する4輪駆動車両が知られている。たとえば、スタンバイ4WD、オンデマンド4WDなどと称される4輪駆動車両がそれである。たとえば、特許文献1に記載された、2輪駆動走行中には副駆動輪とプロペラシャフトとの間を切り離すディスコネクト機構を備える4輪駆動車両がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8204657号明細書(US 8,204,657 B2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示す4輪駆動車両では、ドライブトレーンの構成要素(ハードウエア)の故障(フェール)が判定されない場合にはクラッチ機構(ディスコネクト装置)を係合させて4輪駆動走行が行なわれるが、ドライブトレーンの構成要素の故障が判定される場合にはクラッチ機構が解放されるように構成されている。しかしながら、このような4輪駆動車両において、何らかの原因で駆動源から主駆動輪への動力伝達に支障が発生した場合には、車両の走行が困難となり、退避走行を行なうことが困難となるという可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、何らかの原因で駆動源から主駆動輪への動力伝達に支障が発生した場合でも退避走行が可能となる4輪駆動車両の駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、本発明の要旨とするところは、(a) 駆動源からの動力が主駆動輪へ伝達される主動力伝達経路と、その主動力伝達経路に介在する回転部材から副駆動輪への動力を選択的に伝達するクラッチ機構を備える4輪駆動車両において、クラッチ機構を解放状態として専ら主駆動輪にて走行する2輪駆動走行状態と、そのクラッチ機構を係合状態とすることで副駆動輪も駆動して主駆動輪および副駆動輪にて4輪駆動走行する4輪駆動走行状態とを選択的に実行する4輪駆動車両の駆動制御装置であって、(b) 前記回転部材と前記主駆動輪との差回転が所定の回転数を超えることによって前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して前記クラッチ機構の動力伝達トルクを増加させることにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記回転部材と前記主駆動輪との差回転が所定の回転数を超えることによって前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して前記クラッチ機構の動力伝達トルクが増加させられるので、前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪が駆動されてその副駆動輪による走行が可能となり、車両の退避走行が可能となる。
【0008】
ここで、好適には、(c) 第1軸線まわりに回転させられるデファレンシャルケースと、前記主駆動輪の一対の車軸にそれぞれ連結され、前記デファレンシャルケース内において互いに対向する状態で前記第1軸線まわりに回転可能にそのデファレンシャルケースに支持される一対のサイドギヤと、前記第1軸線に直交する軸線まわりに回転可能にデファレンシャルケースに支持され、前記一対のサイドギヤと噛み合う状態でそれらの間に配置されたピニオンとを有し、前記駆動源からの動力が入力される差動歯車装置と、前記副駆動輪へ駆動力を出力する出力ギヤと前記デファレンシャルケースとの間を選択的に連結する第1噛合クラッチ装置とを備える主駆動輪駆動力分配ユニットを含み、(d) 前記回転部材は、前記差動歯車装置のデファレンシャルケースである。これにより、デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して前記クラッチ機構の動力伝達トルクが増加させられるので、前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪が駆動されてその副駆動輪による走行が可能となり、車両の退避走行が可能となる。
【0009】
また、好適には、(e) 前記デファレンシャルケースの回転数と前記主駆動輪の回転数との差回転が所定の判定回転数を超えたことにより、前記デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生したと判定される。これにより、何等かに起因する前記デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側における動力伝達の支障が、判定される。このようにすれば、前記デファレンシャルケースと前記主駆動輪との間に所定の判定回転数を超えた差回転が発生したことで、前記デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生したと判定される。
【0010】
また、好適には、(f) 前記駆動源と前記デファレンシャルケースとの間には、変速機が設けられており、前記デファレンシャルケースの回転数は、前記駆動源の回転数を前記変速機の変速比で除算し、さらにその変速機の出力軸と前記デファレンシャルケースとの間のギヤ比で除算することにより算出される。これにより、デファレンシャルケースの回転数を検出するセンサが不要となる。
【0011】
また、好適には、(g) 前記主駆動輪駆動力分配ユニットは、前記デファレンシャルケースに選択的に連結されるドリブンピニオンを有するトランスファを備え、(h) 前記ドリブンピニオンに一端部が連結されたプロペラシャフトと、そのプロペラシャフトの他端部に電子制御カップリングを介して連結されたドライブピニオンと、第2軸線まわりに回転可能に支持され、そのドライブピニオンにより回転駆動されるリングギヤと、そのリングギヤと前記副駆動輪の一対の車軸との間を選択的に連結する第2噛合クラッチ装置とを備える副駆動輪駆動力分配ユニットとを、さらに含み、2輪駆動走行状態において前記デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、前記第1噛合クラッチ装置および前記第2噛合クラッチ装置を係合させ、次いで、前記電子制御カップリングの伝達トルクを前記支障が発生しない場合に比較して増加させる。このため、前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪が駆動されてその副駆動輪による走行が可能となり、車両の退避走行が可能となる。また、第2噛合クラッチ装置の係合後に電子制御カップリングの伝達トルクが増加させられることで、副駆動輪による走行開始時のショックが抑制される。
【0012】
また、好適には、(i) 前記副駆動輪駆動力分配ユニットは、前記ドライブピニオンと噛み合う前記リングギヤとの間を選択的に連結されて第2軸線まわりに回転可能に支持された第2デファレンシャルケースと、前記副駆動輪の一対の車軸にそれぞれ連結され、前記第2デファレンシャルケース内において互いに対向する状態で前記第2軸線まわりに回転可能にその第2デファレンシャルケースに支持された一対の第2サイドギヤと、前記第2軸線に直交する軸線まわりに回転可能に第2デファレンシャルケースに支持され、前記一対の第2サイドギヤと噛み合う状態でそれらの間に配置された第2ピニオンとを有する第2差動歯車装置を備え、前記第2噛合クラッチ装置は、前記リングギヤと前記第2デファレンシャルケースとの間を選択的に連結するものである。このようにすれば、第2差動歯車装置を介して一対の副駆動輪へ動力が伝達されるので、それら一対の副駆動輪の相対回転が許容されつつそれら副駆動輪へ動力が伝達される。
【0013】
また、好適には、(j) 前記クラッチ機構は、直列接続されている前記第1噛合クラッチ装置、前記電子制御カップリング、および前記第2噛合クラッチ装置のうちの少なくとも1つから構成される。このようにすれば、前記デファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して、前記クラッチ機構の動力伝達トルクが増加させられるので、前記回転部材よりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪が駆動されてその副駆動輪による走行が可能となり、車両の退避走行が可能となる。
【0014】
また、好適には、(k) 前記クラッチ機構を解放することで2輪駆動走行を選択するための2輪駆動走行操作位置と前記クラッチ機構を係合させることで4輪駆動走行を選択するための4輪駆動走行操作位置とに選択的に手動操作される手動4WD選択装置を備え、その手動4WD選択装置の4輪駆動走行操作位置側への操作を条件として、前記デファレンシャルケースの回転数と前記主駆動輪の回転数との差回転が所定の判定回転数を超えた場合に、前記クラッチ機構の動力伝達トルクを増加させる制御が開始される。このようにすれば、手動操作に応答して退避走行が行なわれる利点がある。
【0015】
また、好適には、(l) 前記デファレンシャルケースの回転数と前記主駆動輪の回転数との差回転が所定の判定回転数を超えた場合は、前記回転部材すなわちデファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生したこと、および、退避走行を可能とする操作手順を運転者に知らせる音声または光学表示を行なって運転者に知らせる報知装置を備える。このようにすれば、運転者に、前記回転部材すなわちデファレンシャルケースよりも前記主駆動輪側において動力伝達に支障が発生したことの情報、或いは退避走行を可能とする操作手順を運転者に知らせることができる。
【0016】
また、好適には、前記電子制御カップリングを除去し、且つ前記第2差動歯車装置に代えて、左右一対の電子制御カップリングを前記副駆動輪駆動力分配ユニット内に設けられてもよい。
【0017】
また、好適には、前記第1噛合クラッチ装置に代えて、電子制御カップリングが設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が好適に適用された4輪駆動車両の構成を概略的に説明する骨子図である。
図2図1の4輪駆動車両の駆動状態を制御する電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図3図1の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、2輪駆動走行中の退避走行制御の制御作動を説明するフローチャートである。
図4図1の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、4輪駆動走行中の退避走行制御の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明が好適に適用された4輪駆動車両8の構成を概略的に説明する骨子図である。図1において、4輪駆動車両8は、エンジン10を駆動源とし、そのエンジン10の動力を主駆動輪である前輪12L、12R(特に区別しない場合には、前輪12という)に伝達する主動力伝達経路と、その主動力伝達経路に介在する回転部材例えばフロントデフ(第1差動歯車装置)14のデファレンシャルケース14aから副駆動輪である後輪16L、16R(特に区別しない場合には、後輪16という)への動力を選択的に伝達する副動力伝達経路とを備えているFFベースの4輪駆動車両である。また、上記4輪駆動車両8には、自動変速機18と、フロントデフ14およびトランスファ20を有する主駆動輪駆動力分配ユニット22と、リアデフ(第2差動歯車装置)24を有する副駆動輪駆動力分配ユニット26と、主駆動輪駆動力分配ユニット22のトランスファ20から副駆動輪駆動力分配ユニット26の第3回転部材28のリングギヤ28aへ選択的に駆動力を伝達するプロペラシャフト30およびカップリング(電子制御カップリング)32とが備えられている。なお、図1では図示されていないが、エンジン10と自動変速機18との間には、流体伝動装置であるトルクコンバータが設けられている。
【0021】
エンジン10とフロントデフ14のデファレンシャルケース14aとの間に配設された自動変速機18は、例えば複数組の遊星歯車装置および複数の摩擦係合装置(クラッチ、ブレーキ)を備える有段式の自動変速機、有効径が可変の一対可変プーリに伝動ベルトが巻き掛けられた無段変速機、或いはシフトセレクトアクチュエータによって複数対のギヤ対が自動的に選択される常時噛合型平行軸式変速機などにより構成されている。
【0022】
左右の前輪12へ駆動力を配分する主駆動輪駆動力分配ユニット22では、図1に示すように、自動変速機18の出力軸に形成された出力歯車18aに、デファレンシャルケース14aに形成されたリングギヤ14bが噛み合わされており、エンジン10からの動力が自動変速機18を介してフロントデフ14に入力されると、そのフロントデフ14を介して前輪12の左右の車軸34L、34Rの差回転を許容しつつ動力が伝達される。なお、フロントデフ14は、第1軸線C1まわりに回転させられるデファレンシャルケース14aと、前輪12の一対の車軸34L、34Rにそれぞれ連結され、デファレンシャルケース14a内において互いに対向する状態で第1軸線C1まわりに回転可能にそのディファレンシャルケース14aに支持される一対のサイドギヤ14cと、第1軸線C1に直交する軸線まわりに回転可能にデファレンシャルケース14aに支持され、一対のサイドギヤ14cと噛み合う状態でそれらの間に配置された一対のピニオン14dとを有している。また、フロントデフ14は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
【0023】
また、主駆動輪駆動力分配ユニット22では、図1に示すように、フロントデフ14と並んでトランスファ20が設けられている。上記トランスファ20は、外周嵌合歯36aが形成された円筒状の第1回転部材36と、第1回転部材36の外周に同心に設けられ、後輪16側に動力を伝達するためのリングギヤ38aが形成された円筒状の第2回転部材38と、第1回転部材36と第2回転部材38とを選択的に断接する噛合式のドグクラッチからなる第1噛合クラッチ装置(4WD選択クラッチ装置)40と、その第1噛合クラッチ装置40によってフロントデフ14のデファレンシャルケース14aに選択的に連結させられるドリブンピニオン(出力ギヤ)42とを有している。
【0024】
第1回転部材36の内周側を車軸34Rが貫通している。また、第1回転部材36のフロントデフ14側の端部には外周嵌合歯36aが形成されており、その外周嵌合歯36aがデファレンシャルケース14aに形成された内周嵌合歯14eと嵌合されることで、第1回転部材36はフロントデフ14のデファレンシャルケース14aと一体的に回転する。また、第1回転部材36のフロントデフ14側とは反対側の端部には第1噛合クラッチ装置36の一部を構成するクラッチ歯36bが形成されている。
【0025】
第2回転部材38の内周側を車軸34Rおよび第1回転部材36が貫通している。第2回転部材38のフロントデフ14側の端部には、ドリブンピニオン42と噛み合うリングギヤ38aが形成されている。また、第2回転部材38のフロントデフ14側とは反対側の端部には、第1噛合クラッチ装置40の一部を構成するクラッチ歯38bが形成されている。なお、ドリブンピニオン42は、プロペラシャフト30に接続され、さらにプロペラシャフト30を介してカップリング32の一方の回転要素32aに接続されている。
【0026】
第1噛合クラッチ装置40は、副駆動輪である後輪16へエンジン10からの駆動力を出力する出力ギヤであるドリブンピニオン42とフロントデフ14のデファレンシャルケース14aとの間を選択的に連結するための噛合クラッチ、すなわち第1回転部材36と第2回転部材38との間を断接するための噛合クラッチである。また、第1噛合クラッチ装置40は、第1回転部材36に形成されたクラッチ歯36bと、第2回転部材38に形成されたクラッチ歯38bと、それらクラッチ歯36bおよびクラッチ歯38bと噛合可能な内周歯44aが形成されて第1軸線C1方向に移動可能に設けられたスリーブ44と、そのスリーブ44を第1軸線C1方向に駆動させる第1アクチュエータ46とを備える噛合式のドグクラッチ(断接装置)である。なお、第1アクチュエータ46は、後述する電子制御装置(駆動制御装置)50から出力される指令信号によってスリーブ44を第1軸線C1方向に駆動させる。また、第1噛合クラッチ装置40には、同期装置48が備えられている。同期装置48は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
【0027】
以上のように構成された主駆動輪駆動力分配ユニット22すなわちトランスファ20では、図1に示すように第1噛合クラッチ装置40が開放された状態の時には、第1回転部材36と第2回転部材38との接続が遮断されるので、後輪16にはエンジン10からの動力が伝達されない。一方、第1アクチュエータ46によってスリーブ44が移動させられて、クラッチ歯36bおよびクラッチ歯38bが共にそのスリーブ44の内周歯44aと噛み合うと、第1噛合クラッチ装置40が接続され、第1回転部材36と第2回転部材38とが接続される。これによって、第1回転部材36と共に、第2回転部材38、ドリブンピニオン42、プロペラシャフト30、およびカップリング32の一方の回転要素32aが回転する。なお、第1噛合クラッチ装置40が本発明のクラッチ機構の一部に対応している。
【0028】
左右の後輪16へ駆動力を配分する副駆動輪駆動力分配ユニット26は、図1に示すように、ドリブンピニオン42に一端部が連結されたプロペラシャフト30と、そのプロペラシャフト30の他端部にカップリング32を介して連結されたドライブピニオン52と、第2軸線C2まわりに回転可能に支持され、そのドライブピニオン52により回転駆動される第3回転部材28と、その第3回転部材28と後輪16の一対の車軸54L、54Rとの間を選択的に連結する第2噛合クラッチ装置(ディスコネクト装置)56と、その第2噛合クラッチ56を介して入力される動力を後輪16の左右の車軸54L、54Rに適宜差回転を与えつつ伝達させるリアデフ24とが、備えられている。
【0029】
リアデフ24は、図1に示すように、第2軸線C2まわりに回転可能に支持された第2デファレンシャルケース24aと、後輪16の一対の車軸54L、54Rにそれぞれ連結され、第2デファレンシャルケース24a内において互いに対向する状態で第2軸線C2まわりに回転可能にその第2デファレンシャルケース24aに支持された一対の第2サイドギヤ24bと、第2軸線C2に直交する軸線まわりに回転可能に第2デファレンシャルケース24aに支持され、一対の第2サイドギヤ24bと噛み合う状態でそれらの間に配置された一対の第2ピニオン24cとを有している。また、リアデフ24は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
【0030】
カップリング32は、図1に示すように、プロペラシャフト30と第3回転部材28との間に設けられ、一方の回転要素32aと他方の回転要素32bとの間でトルク伝達を行う。カップリング32は、例えば湿式多板クラッチで構成される電子制御カップリングであり、カップリング32の伝達トルクを制御することにより、前後輪のトルク配分を100:0〜50:50の間で連続的に変更することができる。具体的には、カップリング32の伝達トルクを制御する図示しない電磁ソレノイドに電流が供給されると、その電流値に比例した係合力でカップリング32が係合される。例えば上記電磁ソレノイドに電流が供給されない場合には、カップリング32の係合力が零、すなわち伝達トルクが零となり、前後輪のトルク配分が100:0となる。また、上記電磁ソレノイドの電流が高くなり、カップリング32が完全係合されると、前後輪のトルク配分が50:50となる。このように、上記電磁ソレノイドに供給される電流値が高くなるに従って後輪側に伝達されるトルク配分が高くなり、この電流値を制御することで、前後輪のトルク配分を連続的に変化させることができる。なお、カップリング32についても公知の技術であるため、具体的な構造や作動については省略する。また、カップリング32が本発明のクラッチ機構の一部に対応している。また、カップリング32の他方の回転要素32bが、ドライブピニオン52に接続されている。
【0031】
第3回転部材28の内周側を車軸54Lが貫通している。また、第3回転部材28のリアデフ24側とは反対側の端部にはリングギヤ28aが形成されており、そのリングギヤ28aがドライブピニオン52と噛み合わされることで、第3回転部材28はドライブピニオン52と一体的に回転する。また、第3回転部材28のリアデフ24側の端部には第2噛合クラッチ装置56の一部を構成するクラッチ歯28bが形成されている。なお、リアデフ24のデファレンシャルケース24aの第3回転部材28側の端部には、第2噛合クラッチ装置56の一部を構成するクラッチ歯24dが形成されている。
【0032】
第2噛合クラッチ装置56は、第3回転部材28のリングギヤ28aとリアデフ24の第2デファレンシャルケース24aとの間を選択的に連結するための噛合クラッチ、すなわち第3回転部材28とリアデフ24との間を断接するための噛合クラッチである。また、第2噛合クラッチ装置56は、第3回転部材28に形成されたクラッチ歯28bと、第2デファレンシャルケース24aに形成されたクラッチ歯24dと、それらクラッチ歯28bおよびクラッチ歯24dと噛合可能な内周歯58aが形成されて第2軸線C2方向に移動可能に設けられているスリーブ58と、そのスリーブ58を第2軸線C2方向に駆動させる第2アクチュエータ60とを備える噛合式のドグクラッチ(断接装置)である。なお、第2アクチュエータ60は、後述する電子制御装置50から出力される指令信号によってスリーブ58をその第2軸線C2方向に駆動させる。また、第2噛合クラッチ装置56には、同期装置62が備えられている。同期装置62は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
【0033】
以上のように構成された副駆動輪駆動力分配ユニット26では、図1に示すように第2噛合クラッチ装置56が開放された状態の時には、第3回転部材28とリアデフ24との接続が遮断されるので、リングギヤ28aを介して第3回転部材28にエンジン10からの動力が伝達されても後輪16にその動力が伝達されない。一方、第2アクチュエータ60によってスリーブ58が移動させられて、クラッチ歯28bおよびクラッチ歯24dが共にそのスリーブ58の内周歯58aと噛み合うと、第2噛合クラッチ装置56が接続され、第3回転部材28とリヤデフ24とが接続される。これによって、第3回転部材28と共に、後輪16が回転する。なお、第2噛合クラッチ装置56が本発明のクラッチ機構の一部に対応している。
【0034】
上述のように構成される4輪駆動車両8において、例えば第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56が接続されるとともに、カップリング32の伝達トルクが零よりも大きな値に制御されると、すなわち4輪駆動車両8において直列接続されている第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、および第2噛合クラッチ装置56から構成されるクラッチ機構が係合状態とされると、後輪16にもカップリング32の伝達トルクに応じた駆動力が伝達される。従って、前輪12および後輪16共に動力が伝達されて4輪駆動走行状態(4WD走行状態)となる。この4WD走行状態においては、カップリング32の伝達トルクが制御されることで、前後輪のトルク配分が適宜調整される。
【0035】
また、上記クラッチ機構たとえば第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56が解放状態とされる2輪駆動走行状態(2WD走行状態)となると、第3回転部材28とリアデフ24との連結が遮断されるため、走行中において、第2回転部材38から第3回転部材28までの動力伝達経路(ドリブンピニオン42、プロペラシャフト30、カップリング32、ドライブピニオン52)を構成する各回転要素には動力が伝達されなくなるため、これらの各回転要素の回転が低下する。このように、前進走行中の前記各回転要素の連れ回りが少なくなるため、走行抵抗が低減される。
【0036】
4輪駆動車両8は、図1に例示するような制御系統を備えている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、4輪駆動車両8の駆動状態を車両の走行状態に応じて制御する。また、電子制御装置50には、各種センサによって検出される情報が供給される。例えば各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ64、66、68、70によって検出される各車輪回転数Nfr、Nfl、Nrr、Nrl(rpm)、エンジン回転速度センサ72によって検出されるエンジン回転数Ne(rpm)、タービン回転速度センサ73によって検出されるトルクコンバータのタービンの回転数Nt(rpm)、回転速度センサ74によって検出されるプロペラシャフト30の回転数N3(rpm)、スロットル開度センサ76によって検出されるスロットル開度θth等が供給される。また、4輪駆動車両8には、2輪駆動走行操作位置と4輪駆動走行操作位置とに選択的に手動操作される手動4WD選択装置78が備えられており、その手動4WD選択装置78が運転者により操作されることによって、4輪駆動車両8の駆動状態が制御されるようになっている。なお、電子制御装置50には、手動4WD選択装置78の操作位置すなわち上記2輪駆動走行操作位置、上記4輪駆動走行操作位置を示す信号が供給される。
【0037】
図2は、電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図2に示す車両状態判定部80は、4輪駆動車両8の車両状態が例えば2輪駆動走行(2WD走行)が可能な2輪駆動走行可能状態(Disconnect mode)であるか、それとも4輪駆動走行(4WD走行)が可能な4輪駆動走行可能状態(Reconnect mode)であるのかを、たとえば電子制御装置50から、第1アクチュエータ46、カップリング32、第2アクチュエータ60にそれぞれ供給される指令信号に基づいて、判定する。
【0038】
フェール判定部82は、デファレンシャルケース14aの回転数N1(rpm)、前輪12Rの回転数Nfr(rpm)、前輪12Lの回転数Nfl(rpm)に基づいて、フロントデフ14のデファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生したか否かを判定する。例えば、フェール判定部82では、デファレンシャルケース14aの回転数N1と、前輪12Rの回転数Nfrおよび前輪12Lの回転数Nflから算出される前輪12の回転数N2すなわち左右の前輪12L、12Rの平均回転数((Nfr+Nfl)/2)とが相違すること、たとえばそれら差回転が、所定の判定回転数を超えることに基づいて、デファレンシャルケース14aよりも前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生したと判定する。
【0039】
なお、デファレンシャルケース14aの回転数N1は、トルクコンバータを備えない自動変速機18では、エンジン回転速度センサ72から検出されるエンジン10の回転数Ne(トルクコンバータを備える自動変速機18では、タービン回転速度センサ73から検出されるタービンの回転数Nt)を自動変速機18の変速比Aで除算し、さらにその自動変速機18の出力軸に形成された出力歯車18aとデファレンシャルケース14aに形成されたリングギヤ14bとの間で予め定められたギヤ比Bで除算することにより算出された値である。また、上記変速比Aは、トルクコンバータを備えない自動変速機18ではエンジン回転数Ne(rpm)/出力歯車18aの回転数(rpm)であり、トルクコンバータを備える自動変速機18ではタービンの回転数Nt(rpm)/出力歯車18aの回転数(rpm)である。また、上記ギヤ比Bは、リングギヤ14bの歯数/出力歯車18aの歯数である。
【0040】
運転者走行意志判定部86は、フェール判定部82でデファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したと判定されると、運転者が車両走行を行う意志があるか否かを判定する。例えば、運転者走行意志判定部86は、スロットル開度センサ76により検出されるスロットル開度θthに基づいて、スロットルONの時には運転者が車両走行を行う意志があると判定し、スロットルOFFの時には運転者が車両走行を行う意志がないと判定する。
【0041】
警告灯点灯制御部88は、フェール判定部82でデファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したと判定され、且つ運転者走行意志判定部86で運転者が車両走行を行う意志がないと判定されると、デファレンシャルケース14aよりも前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生してエンジン10からの動力が前輪12に伝達できないことを示す車内に設けられた図示しない警告灯が点灯される。
【0042】
緊急モード作動操作表示部90は、フェール判定部82でデファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したと判定され、且つ運転者走行意志判定部86で運転者が車両走行を行う意志があると判定されると、デファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したこと、および、退避走行を可能とする緊急モードの作動操作手順、例えば運転者が手動4WD選択装置78を4輪駆動走行操作位置へ手動操作することを、運転者に知らせるために車内に設けられた図示しない表示装置(報知装置)に光学表示する。
【0043】
車両移動操作判定部92は、運転者が車両を移動させる必要性があるか否かを判定、例えば、運転者が手動4WD選択装置78を4輪駆動走行操作位置へ手動操作したか否かに基づいて判定する。
【0044】
噛合クラッチ装置接続部94は、フェール判定部82でデファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したと判定されたフェール時において、2輪駆動走行可能状態である場合に、車両移動操作判定部92で手動4WD選択装置78が運転者によって操作されたと判定されると、第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56をそれぞれ接続する。
【0045】
トランスファ伝達系異常判定部96は、車両移動操作判定部92で車両移動操作が運転者によって実行されたと判定されると、トランスファ伝達系すなわちデファレンシャルケース14aからプロペラシャフト30までの動力伝達経路(第1回転部材36、第2回転部材38、およびドリブンピニオン42を含む)において、動力伝達に異常が発生しているか否かを判定する。例えば、トランスファ伝達系異常判定部96では、デファレンシャルケース14aの回転数N1と、回転速度センサ74から検出されるプロペラシャフト30の回転数N3をトランスファ20のギヤ比iすなわちドリブンピニオン42とリングギヤ38aとの間のギヤ比iで除算した値Aと、が相違することによって、上記トランスファ伝達系に異常が発生していると判定し、それらの値が一致することによって上記トランスファ伝達系に異常か発生していないと判定する。
【0046】
警告灯点灯制御部88は、トランスファ伝達系異常判定部96で上記トランスファ伝達系に異常が発生したと判定されると、そのトランスファ伝達系に異常が発生したことを示す車内に設けられた図示しない警告灯が点灯される。
【0047】
カップリングトルク制御部98は、フェール判定部82でデファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生したと判定されたフェール時において、車両移動操作判定部92で上記車両移動操作が運転者によって実行されたと判定されると、噛合クラッチ装置接続部94による2つのドグクラッチを係合と同時に、カップリング32のカップリングトルクTが零になるように、カップリング32の電磁ソレノイドを制御する。
【0048】
次いで、カップリングトルク制御部98は、車両移動操作判定部92で上記車両移動操作が運転者によって実行されたと判定され、且つトランスファ伝達系異常判定部96で上記トランスファ伝達系に異常が発生していないと判定されると、カップリングトルクTを最大カップリングトルクTmaxに上昇させるように、カップリング32の電磁ソレノイドを制御する。
【0049】
走行可能表示出力部100は、トランスファ伝達系異常判定部96で上記トランスファ伝達系に異常が発生していないと判定され、且つカップリングトルク制御部98でカップリングトルクTが最大カップリングトルクTmaxに上昇させられると、エンジン10からの動力が前輪12に伝達できない状態において退避走行が可能であることを、車内に設けられた図示しない表示装置に光学表示する。
【0050】
エンジン出力制限部102は、カップリングトルク制御部98でカップリングトルクTが最大カップリングトルクTmaxに上昇させられ、且つ走行可能表示出力部100で上記表示装置に退避走行が可能であることが表示されると、例えば、最大カップリングトルクTmaxを超えないように予め求められた関係を用いて、エンジン10の最大出力を制限する。例えば、エンジン出力制限部102では、通常用EFIマップにかえて緊急用EFIマップを作動させることによって、エンジン10の最大出力を制限する。
【0051】
図3および図4は、電子制御装置50において、4輪駆動車両8の退避走行制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。なお、図3は、Disconnect mode(4WD OFF時)で走行中、すなわち第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56が開放された2輪駆動状態で走行中における、4輪駆動車両8の上記退避走行制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。また、図4は、Reconnect mode(4WD ON時)で走行中、すなわち第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56が接続されると共にカップリング32のカップリングトルクTが零より高い4輪駆動状態で走行中における、4輪駆動車両8の上記退避走行制御の制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【0052】
図3のフローチャートに示すように、先ず、フェール判定部82に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、各種センサからデファレンシャルケース14aの回転数N1、前輪12Rの回転数Nfr、前輪12Lの回転数Nflが読み込まれる。
【0053】
次に、フェール判定部82に対応するS2において、上記S1で読み込まれた情報すなわちデファレンシャルケース14aの回転数N1、前輪12Rの回転数Nfr、前輪12Lの回転数Nflに基づいて、デファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生しているか否かが判定される。このS2の判定が否定される場合には再度上記S1が実行されるが、肯定される場合には運転者走行意志判定部86に対応するS3が実行される。
【0054】
上記S3では、運転者が車両走行を行う意志があるか否かが、スロットルON/OFFに基づいて判定される。このS3の判定が否定される場合すなわち運転者が車両走行を行う意志がない場合には、警告灯点灯制御部88に対応するS4において、エンジン10からの動力が前輪12に伝達できないことを示す警告灯が点灯させられる。上記S3の判定が肯定される場合すなわち運転者が車両走行を行う意志がある場合には、緊急モード作動操作表示部90に対応するS5において、エンジン10からの動力が前輪12に伝達できないこと、およびそのエンジン10からの動力が前輪12に伝達できない状態において退避走行を可能とする緊急モードの作動操作手順が、車内に設けられた表示装置に表示される。
【0055】
次に、車両移動操作判定部92に対応するS6において、運転者が緊急に車両を移動させる必要性を有しているか否かが、すなわち車両移動操作が運転者によって実行されたか否かが判定される。このS6の判定が否定される場合すなわち運転者が緊急に車両を移動させる必要性を有していない場合には再度上記S1が実行されるが、上記S6の判定が肯定される場合すなわち運転者が緊急に車両を移動させる必要性を有している場合には、車両状態判定部80、噛合クラッチ装置接続部94、およびカップリングトルク制御部98に対応するS7が実行される。
【0056】
上記S7では、カップリング32のカップリングトルクTが零にさせられて、第1噛合クラッチ装置40および第2噛合クラッチ装置56がそれぞれ接続される。
【0057】
次に、トランスファ伝達系異常判定部96に対応するS8において、トランスファ伝達系すなわちデファレンシャルケース14aからプロペラシャフト30までの動力伝達経路で、動力伝達に異常が発生しているか否かが判定される。このS8の判定が否定される場合すなわちトランスファ伝達系に異常が発生している場合には上記S4が実行されてそのトランスファ伝達系に異常が発生したことを示す警告灯が点灯させられるが、否定される場合にはカップリングトルク制御部98に対応するS9が実行される。上記S9では、カップリング32のカップリングトルクTが最大カップリングトルクTmaxまで上昇させられる。
【0058】
次に、走行可能表示出力部100に対応するS10において、エンジン10からの動力が前輪12に伝達できない状態において退避走行が可能であることが、車内に設けられた表示装置に表示される。
【0059】
次に、エンジン出力制限部102に対応するS11において、カップリング32でスリップが発生しないようにエンジン10の最大出力が制限される。
【0060】
次に、図4のフローチャートを用いて、4輪駆動走行中において、デファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生しエンジン10からの動力が前輪12に伝達できない場合における4輪駆動車両8の退避走行制御の制御作動を説明する。なお、図4のフローチャートのS1乃至S6は図3のフローチャートのS1乃至S6と同じであるので、その説明を省略しS12以下の退避走行制御の制御作動を説明する。
【0061】
車両移動操作判定部92に対応するS6において車両移動操作が運転者によって実行されたと肯定される場合には、トランスファ伝達系異常判定部96に対応するS12において、トランスファ伝達系すなわちデファレンシャルケース14aからプロペラシャフト30までの動力伝達経路で、動力伝達に異常が発生しているか否かが判定される。このS12の判定が否定される場合すなわちトランスファ伝達系に異常が発生している場合には警告灯点灯制御部88に対応する上記S4が実行されるが、そのS12の判定が否定される場合すなわちトランスファ伝達系に異常が発生していない場合にはカップリングトルク制御部98に対応するS13が実行される。上記S13では、カップリング32のカップリングトルクTが最大カップリングトルクTmaxまで上昇させられる。
【0062】
次に、走行可能表示出力部100に対応するS14において、エンジン10からの動力が前輪12に伝達できない状態において退避走行が可能であることが、車内に設けられた表示装置に表示される。また、エンジン出力制限部102に対応するS15において、カップリング32でスリップが発生しないようにエンジン10の最大出力が制限される。
【0063】
上述のように、本実施例の4輪駆動車両8の電子制御装置50によれば、回転部材であるデファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、第2噛合クラッチ装置56から構成されるクラッチ機構を介する動力伝達トルクを増加させる。このようにすれば、デファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して前記クラッチ機構の動力伝達トルクが増加させられるので、デファレンシャルケース14aよりも前輪12側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪である後輪16が駆動されてその後輪16による走行が可能となり、車両の退避走行が可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0065】
本実施例の4輪駆動車両8において、デファレンシャルケース14aから副駆動輪である後輪16への動力を選択的に伝達するクラッチ機構は、直列接続されている第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、および第2噛合クラッチ装置56から構成されていたが、例えば直列接続されている第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、第2噛合クラッチ装置56のうち少なくとも1つから構成されていても良い。このようにしても、デファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生した場合は、その支障が発生しない場合に比較して、前記クラッチ機構の動力伝達トルクが増加させられるので、デファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側において動力伝達に支障が発生した場合であっても副駆動輪である後輪16が駆動されてその副駆動輪である後輪16による走行が可能となり、4輪駆動車両8の退避走行が可能となる。
【0066】
また、本実施例の4輪駆動車両8の電子制御装置50では、フェール判定部82でフロントデフ14のデファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生したと判定され、車両移動操作判定部92で運転者により車両移動操作が実行されたと判定されることによって、第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、第2噛合クラッチ装置56から構成されるクラッチ機構の動力伝達トルクを増加させる制御が開始されていた。しかしながら、例えば、フェール判定部82でフロントデフ14のデファレンシャルケース14aよりも主駆動輪である前輪12側においてエンジン10からの動力伝達に支障が発生したと判定されることによって、第1噛合クラッチ装置40、カップリング32、第2噛合クラッチ装置56から構成されるクラッチ機構の動力伝達トルクを増加させる制御が開始されても良い。
【0067】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
8:4輪駆動車両
10:エンジン(駆動源)
12:前輪(主駆動輪)
14a:デファレンシャルケース(回転部材)
16:後輪(副駆動輪)
32:カップリング(クラッチ機構)
40:第1噛合クラッチ装置(クラッチ機構)
50:電子制御装置(駆動制御装置)
56:第2噛合クラッチ装置(クラッチ機構)
82:フェール判定部
94:噛合クラッチ装置接続部
98:カップリングトルク制御部
図1
図2
図3
図4