特許第6269076号(P6269076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6269076(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269076
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/12 20060101AFI20180122BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20180122BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180122BHJP
【FI】
   C12P17/12ZNA
   C12N1/20 A
   C12N15/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-2283(P2014-2283)
(22)【出願日】2014年1月9日
(65)【公開番号】特開2015-128402(P2015-128402A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年10月21日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01710
(73)【特許権者】
【識別番号】000246398
【氏名又は名称】有機合成薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】翁長 朝典
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−116916(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/139055(WO,A1)
【文献】 特開2007−252238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 17/12
C12N 1/20
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンの存在下、1−ベンジル−3−ピペリドンにアルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arhrobacter nitroguajacolicus)又はその破砕物を作用させて、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させることにより、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを得ることを特徴とする、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法。
【請求項2】
前記アルスロバクター ニトログアジャコリカスが、配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスである、請求項1に記載の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法。
【請求項3】
前記アルスロバクター ニトログアジャコリカスが、アルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arhrobacter nitroguajacolicus) YGK−2123(NITE P−01710)である、請求項1又は2に記載の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法。
【請求項4】
受託番号NITE P−01710である、アルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arhrobacter nitroguajacolicus) YGK−2123。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを選択的に製造する方法に関する。(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンは、医農薬中間体を始め、各種ファインケミカルの中間体として用いられ、産業上有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
微生物を用いる(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法としては、以下の方法が知られている。
立体選択的加水分解酵素を生産する微生物を用いて、光学分割によりラセミ体の1−ベンジル−3−アミノピペリジンから(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを取得する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、不必要な(R)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを除去して光学純度を上げる操作が必要であり、効率的な合成方法とは言いがたい。
立体選択的加水分解酵素を生産する微生物を用いて、光学分割によりラセミ体の1−ベンジルニペコチン酸アミドから(S)−1−ベンジルニペコチン酸アミドを取得した後、ホフマン転移により(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを合成する方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、不必要な(R)−1−ベンジルニペコチン酸を除去して光学純度を上げる操作が必要であり、また、多段階反応であり、効率的な合成方法とは言いがたい。
上記以外の方法としては、微生物が生産するアミノトランスフェラーゼを用いて、アミノ基供与体の存在下に、ケトン化合物から光学活性アミン化合物を合成する方法が知られている。
シュードモナス・フルオロエセンス(Pseudomonas fluoroescens)、又はアルスロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.)のアミノトランスフェラーゼ遺伝子の組換え微生物を用い、α−アラニンをアミノ基供与体として、ケトン化合物から光学活性アミン化合物を得る方法が知られている(特許文献3)。具体的には、シュードモナス・フルオロエセンスのアミノトランスフェラーゼ遺伝子の組換え微生物を用いて1−ブトキシカルボニル−3−ピペリジノンから(S)−1−ブトキシカルボニル−3−アミノピペリジンを合成し、また、アルスロバクター・スピーシーズのアミノトランスフェラーゼ遺伝子の組換え微生物を用いて1−ベンジル−3−アミノピペリジノから(R)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを得る方法が記載されている。しかしながら、アミノ基供与によりα−アラニンからピルビン酸が生じるが、反応を促進させるために、ピルビン酸を乳酸変換する乳酸還元酵素の遺伝子を導入している。さらに、乳酸還元酵素の補酵素を再生するために、グルコース脱水素酵素遺伝子あるいはギ酸脱水素酵素遺伝子も導入している。しかし、アミノトランスフェラーゼの他、酵素やアミノ基転移後の副生物の分解、酸化還元補酵素の再生酵素など、反応を進行させるために複数の酵素遺伝子の組み換え微生物を作成する必要があり、効率的な合成方法とは言いがたい。
シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、キサントモナダセア(Xanthomonadaceae)科に属する微生物を用いて、フェネチルアミンをアミノ基供与体とし、1−ベンジル−3−ピロリドンから(S)−1−ベンジル−3−アミノピロリジンを得る方法が知られている(特許文献4)。しかしながら、得られる光学純度は70.6〜90.9%eeと低く、立体選択性に問題があり、効率的な合成方法とは言いがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−252238号公報
【特許文献2】国際公開第2008/102720号
【特許文献3】国際公開第2007/139055号
【特許文献4】特開2007−116916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを微生物学的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決すべき鋭意検討を重ねた結果、アルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arshrobacter nitroguajacolicus)が、フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンをアミノ基供与体とし、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させ、高い立体選択性で(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを蓄積する能力があることを見い出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンの存在下、1−ベンジル−3−ピペリドンにアルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arshrobacter nitroguajacolicus)又はその処理物を作用させて、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させることにより、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを得ることを特徴とする、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法、
[2]前記アルスロバクター ニトログアジャコリカスが、配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスである、[1]に記載の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法、
[3]前記アルスロバクター ニトログアジャコリカスが、アルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arshrobacter nitroguajacolicus) YGK−2123(NITE P−01710)である、[1]又は[2]に記載の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法、及び
[4]受託番号NITE P−01710である、アルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arshrobacter nitroguajacolicus) YGK−2123、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1−ベンジル−3−ピペリドンから(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを高い立体選択性で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[1](S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法
本発明の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの製造方法は、フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンの存在下、1−ベンジル−3−ピペリドンにアルスロバクター ニトログアジャコリカス(Arshrobacter nitroguajacolicus)又はその処理物を作用させて、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させることにより、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを得ることを特徴とするものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における微生物としては、フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンをアミノ基供与体とし、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させ、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを著量生成し蓄積する能力を有する、アルスロバクター ニトログアジャコリカスであればその起源は何ら問わない。
【0008】
好ましい菌株としては、アルスロバクター ニトログアジャコリカス YGK−2123(NITE P−01710)を挙げることができる。本菌株は平成25年9月26日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(あて名:〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)に上記受託番号で国内寄託されている。
【0009】
本発明において使用することができるアルスロバクター ニトログアジャコリカス YGK−2123(NITE P−01710)の菌学的性質は次の通りである。
【0010】
1−1.形態的性質(+は陽性、−は陰性を表す)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.7〜0.8μm
(3)長さ:0.9〜2.0μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:−
【0011】
1−2.コロニー形態(+は陽性、−は陰性を表す)
培養条件:Nutrient agar培地 30℃ 48時間
(1)直径:1.0〜2.0mm
(2)色調:黄色
(3)形:円形
(4)隆起状態:レンズ状
(5)周縁:全縁
(6)表面の形状など:スムーズ
(7)透明度:不透明
(8)粘調度:バター様
【0012】
1−3.生理学的性質(+は陽性、−は陰性、wは弱いを表す)
(1)グラム染色:+
(2)生育の範囲 温度
37℃:+
45℃:−
(3)カタラーゼ反応:+
(4)オキシダーゼ反応:−
(5)グルコースからの酸/ガス産生(酸産生/ガス産生):−/−
(6)O/Fテスト(酸化/発酵):−/−
(7)硝酸塩還元:−
(8)ピラジンアミダーゼ:−
(9)ピロリドニルアリルアミダーゼ:+
(10)アルカリフォスファターゼ:−
(11)β−グルクロニダーゼ:−
(12)β−ガラクトシダーゼ:+
(13)α−グルコシダーゼ:+
(14)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:+
(15)エスクリン(β−グルコシダーゼ):+
(16)ウレアーゼ:−
(17)ゼラチン加水分解:+
(18)ブドウ糖:−
(19)リボース:−
(20)キシロース:−
(21)マンニトール:−
(22)マルトース:−
(23)乳糖:−
(24)グリコーゲン:−
(25)カタラーゼ:+
(26)嫌気条件下での生育:−
(27)6%NaCl:+
(28)でんぷんの加水分解:−
(29)資化性
D−ガラクトース:+
D−グルコース:+
D−リボース:+w
【0013】
1−4.化学分類学的性質
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号1に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索の結果、アルスロバクター属由来の16S rDNA 塩基配列に対し高い相同性を示し、アルスロバクター ニトログアジャコリカス G2−1株[Accession番号:AJ512504]の16S rDNA 塩基配列に対し相同率100%の最も高い相同性を示した。また、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、アルスロバクター属の16s rDNA 塩基配列に対して高い相同性を示し、アルスロバクター ニトログアジャコリカス G2−1株[Accession番号:NR027199]の16S rDNA 塩基配列に対し相同率100%の最も高い相同性を示した。
【0014】
本菌株の16S rDNA塩基配列を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索上位10株の16s rDNA 塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、本菌株はアルスロバクター ニトログアジャコリカスと同一の分子系統学的位置を示した。
形態的性質とコロニー形態、生理学的性質においては、多くの点で、アルスロバクター ニトログアジャコリカスと類似点が認められたが、相違点も確認され、特に、運動性を示さず、オキシダーゼ反応が陰性の点はアルスロバクター ニトログアジャコリカスと異なった。しかし、これらの性質の違いにより、本菌株がアルスロバクター ニトログアジャコリカスと異なると判断することは難しい。
以上のことから、本菌株はアルスロバクター ニトログアジャコリカスであると判定した。
【0015】
本発明の製造方法に使用されるアルスロバクター ニトログアジャコリカスは、限定されるものではないが、好ましくは配列番号1で表される塩基配列と98%以上の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスであり、より好ましくは配列番号1で表される塩基配列と99%以上の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスであり、更に好ましくは配列番号1で表される塩基配列と99.5%以上の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスであり、最も好ましくは配列番号1で表される塩基配列と100%の同一性の16SリボゾームDNAを有するアルスロバクター ニトログアジャコリカスである。
【0016】
次に、本発明において使用するアルスロバクター ニトログアジャコリカスの培養方法について説明する。
前記微生物を培養するための培地は、通常これらの微生物が生育可能な培地であれば特に制限はなく、一般的な微生物用の任意の公知培地を用いることができる。培地の炭素源及び窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸、無機窒素、有機酸、糖類などを使用することができる。また、必要に応じて、微量金属塩、ビタミン類、核酸関連物質、無機塩類などを添加することもできる。
【0017】
更に、培養の際に、前記微生物が有する、1−ベンジル−3−ピペリドンから(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを生成する能力を最大限に引き出すために、糖類、有機酸又はアミノ酸を添加して培養することもできる。特に効果が得られる物質は、D−グルコース、D−フルクトース、スクロース、D−リボース、マンニトール、グリセロール、D−キシロース、ソルビトール、D−ラクトース、マルトース、L−リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、L−グルタミン酸、L−グルタミンなどであり、培地に対して0.1〜5.0w/v%、好ましくは0.5〜2.0w/v%である。なお、本明細書で記載するw/vは質量/容積を、v/vは容積/容積を意味する。
【0018】
前記微生物の培養温度は10〜37℃、好ましくは23〜32℃である。培養時の培地のpHは6.0〜10.0であり、好ましくはpH6.5〜9.0である。培養は、好気的条件下で行うことが好ましく、液体培養時には通気及び撹拌を行うことが望ましい。培養時間は10時間〜1週間であり、好ましくは1〜3日間であり、より好ましくは1〜2日である。
培養の進行とともに、酵素生産量も増加していくが、培養の後半には、生育速度の低下とともに、炭素源及び窒素源の消費速度、酵素生産速度も低下し、培養を終了する。炭素源及び窒素源の総添加量、培養時間、菌体の濃度、酵素生産量などから本培養の終了を判断することもできる。
【0019】
以上のようにして、前記微生物の培養菌体を培養液中に蓄積させ、1−ベンジル−3−ピペリドンから(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの蓄積反応に用いることができる。
[i]得られた培養液はそのまま以下に述べる蓄積反応に使用してもよいし、
[ii]微生物を培養液から回収して反応に使用したり、更に
[iii]微生物の処理物、例えば、破砕物、粗酵素、精製酵素などを反応に使用することもできる。
【0020】
続いて、前記微生物又はその処理物により、フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンの存在下、1−ベンジル−3−ピペリドンのケトン基をアミノ基に転移させ、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを生成する反応を行うことができる。この反応は、バッチ式でも、バイオリアクターなどを用いた連続式でも可能である。バッチ式反応の場合には、数時間から10日間で行うことができる。
【0021】
本発明において、フェネチルアミンをアミノ基供与体として使用することができる。(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを合成する際に用いるフェネチルアミンとして、S体のフェネチルアミンを用いることができ、具体的にはS体又はラセミ体のフェネチルアミンを使用することができる。すなわち、S体のフェネチルアミンである(S)−α−フェネチルアミンを、又はラセミ体のフェネチルアミンであるDL−α−フェネチルアミンを用いることができる。R体のフェネチルアミンである(R)−α−フェネチルアミンはアミノ基供与体として用いることはできない。フェネチルアミンの使用量(S体換算)は1−ベンジル−3−ピペリドンに対して、1〜5倍モル量が必要であり、好ましくは1〜3倍モル量である。
本発明において、ナフチルエチルアミンをアミノ基供与体として使用することもできる。(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを合成する際に用いるナフチルエチルアミンとしては、S体のナフチルエチルアミンを用いることができ、具体的にはS体又はラセミ体のナフチルエチルアミンを使用することができる。すなわち、S体のナフチルエチルアミンである(S)−(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、若しくは前記S体((S)−(−)−1−(1−ナフチル)エチルアミン)とR体とのラセミ体、又は(S)−(−)−1−(2−ナフチル)エチルアミン、若しくは前記S体((S)−(−)−1−(2−ナフチル)エチルアミン)とR体とのラセミ体を用いることができる。R体のナフチルエチルアミン(R)−(+)−1−(1−ナフチル)エチルアミン、又は(R)−(+)−1−(2−ナフチル)エチルアミンはアミノ基供与体として用いることはできない。ナフチルエチルアミンの使用量(S体換算)は1−ベンジル−3−ピペリドンに対して、1〜5倍モル量が必要であり、好ましくは1〜3倍モル量である。
一般的にアミノトランスフェラーゼによる酵素反応においては、補酵素としてピリドキサールリン酸を必要とするが、微生物が生産しているピリドキサールリン酸により反応が進行する場合は特に添加する必要はない。使用する濃度は好ましくは0.01〜0.1mMであるが、触媒量添加すれば良く、特に限定されるものではない。
【0022】
上述の[i]の場合を具体的に説明すると、上記の方法で増殖させた前記微生物を含む培養液に、直接、フェネチルアミン又はナフチルエチルアミンと、1−ベンジル−3−ピペリドン、糖類、有機酸、アルコール類などを加え、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを系内に蓄積させる反応を開始させることができる。
【0023】
反応のpHは5.0〜10.0、好ましくはpH5.0〜8.0である。反応温度は10〜50℃、好ましくは20〜40℃である。基質の1−ベンジル−3−ピペリドンの添加量は、反応液に対して0.1〜10.0w/v%、好ましくは0.3〜5.0w/v%である。1−ベンジル−3−ピペリドンの添加は一度に行ってもよいが、高濃度の1−ベンジル−3−ピペリドンによる反応阻害が見られる場合には分割して添加してもよい。
【0024】
(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの蓄積反応は、前記微生物が十分に増殖して、変換能力が十分となった時点から開始することができるが、前記微生物の増殖が十分でない培養初期段階でも、生育阻害が起こらない濃度範囲で培地に1−ベンジル−3−ピペリドンを添加して、微生物の増殖と(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの蓄積反応を同時に行うことができる。
【0025】
また、上述の[ii]の場合には、上記の培養方法で増殖させた微生物をろ過又は遠心分離により培養液から回収して蓄積反応に使用することができる。すなわち、得られた微生物は1−ベンジル−3−ピペリドンとリン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液などの水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。反応条件(pH、温度、1−ベンジル−3−ピペリドンと糖類、有機酸、アルコール類などの添加量)は[i]の場合と同じである。
【0026】
更に、上述の[iii]の場合には、前記培養方法で増殖させ、回収した微生物の処理物(例えば、破砕物、粗酵素、精製酵素)は、1−ベンジル−3−ピペリドンと水性溶媒に懸濁して反応に使用することができる。あるいは、微生物又はその処理物を公知の方法で適当な担体に固定化し、その固定化物を水性溶媒と接触させて反応に使用してもよい。前記微生物又はその処理物を使用した蓄積反応に用いる水性溶媒としては、生理食塩水、リン酸カリウム緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液などを挙げることができる。反応条件は[i]の場合と同様である。
【0027】
以上のようにして得られた蓄積反応後の反応液から、必要に応じて、ろ過、遠心分離などにより微生物を除去した後、溶媒で(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを抽出して、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを回収することができる。粗酵素、精製酵素などの処理物を使用した場合などでは微生物除去操作を省略することができる。また、クロマトグラフィーなどの公知の精製方法により(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンを回収することもできる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
実施例において使用する培地組成を以下に記載する。
(1)培地[A]
脱塩水1.0L中に酵母エキス(オリエンタル酵母)1.0g、グリセロール3.0g、グルコース3.0g、DL−α−フェネチルアミン0.5g、リン酸水素二カリウム3.0g、リン酸二水素カリウム1.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、塩化ナトリウム3.0g、ミネラル溶液10mLを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。なお、前記のミネラル溶液は、脱塩水1.0L中にニトリロ三酢酸1.5g、硫酸鉄(II)七水和物1.06g、塩化カルシウム二水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物0.4g、塩化マンガン(II)四水和物0.2g、硫酸銅(II)五水和物0.002g、ヨウ化カリウム0.02g、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.02g、塩化コバルト(II)六水和物0.02g、ホウ酸0.04g、塩化ナトリウム2.0gを含み、水酸化カリウム水溶液でpHを7.0に調整したものである。
【0030】
[HPLC分析条件1:反応収率の分析]
カラム:CAPCELL PAK SCX UG80、粒径5μm、4.6×250mm(資生堂)
溶離液:50mMリン酸水素二カリウム及び50mMリン酸二水素カリウムを含む溶液とアセトニトリルとを80/20(v/v)の割合で混合したもの
流速:1mL/分
カラム温度:40℃
検出:UV210nm
保持時間:(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジン;23.76分
【0031】
上記分析条件によって得られた(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンのモル濃度を用いて、反応収率を下記の計算式により算出する。
反応収率(%)=[反応後の(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンのモル濃度]÷[添加した1−ベンジル−3−ピペリドンのモル濃度]×100
【0032】
[HPLC分析条件2:(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの光学純度(e.e.(%))の分析]
カラム:CROWNPAK CR(+)、粒径5μm、4.0×150mm(ダイセル化学工業)
溶離液:脱塩水に過塩素酸を加え、pH1.0とした溶液
流速:0.8mL/分
カラム温度:25℃
検出:UV210nm
保持時間:(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジン;17.13分、(R)−1−ベンジル−3−アミノピペリジン;18.49分
【0033】
上記分析条件によって得られた(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンと(R)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンのピーク面積をそれぞれSa、Raとして、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの光学純度(e.e.(%))を、下記の計算式により算出する。
e.e.(%)=(Sa−Ra)/(Sa+Ra)×100(%)
【0034】
《実施例1》
アルスロバクター ニトログアジャコリカス YGK−2123を用いた(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンの蓄積反応
(1)培養
培地[A]10mLを50mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したアルスロバクター ニトログアジャコリカス YGK−2123の菌体を1白金耳接種し、27℃で48時間振とう培養し、培養液[B]を得た。
【0035】
(2)蓄積反応
5mMの1−ベンジル−3−ピペリドン塩酸塩、25mMのDL−α−フェネチルアミン、50mMのリン酸二水素カリウム、0.05mMのピリドキサールリン酸一水和物を含む反応液[C](pH7)を調製した。培養液[B]5mLを遠心分離により集菌し、得られた菌体に前記反応液[C]1mLを加えて縣濁した。27℃で24時間振とうして反応を行った後、遠心分離した上清を分析した結果、(S)−1−ベンジル−3−アミノピペリジンが反応収率27.4%で生成し、光学純度は100e.e.(%)であった。
【受託番号】
【0036】
受託番号:NITE P−01710
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]