【文献】
J. Bacteriol.,1993年,Vol.29,pp.91-96
【文献】
J. Food Hyg. Soc. Japan,1984年,Vol.25,pp.297-309
【文献】
Biosci. Biotech. Biochem.,1996年,Vol.60,pp.543-545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記耐熱性芽胞形成高温細菌が、ジオバチルス属(Geobacillus stearothermophilus)、バチルス属(Bacillus coagulans等)、モーレラ属(Moorella thermoacetica)、サーモアナエロバクター属(Thermoanaerobacter mathranii、T.thermohydrosulfricus等)、クロストリジウム属(Clostridium sporogenes等)及びアリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus acidocaldarius等)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、低濃度で、なおかつ飲料等に含まれる成分の中でも、とりわけ澱粉による抗菌作用の阻害を受けることがなく、耐熱性芽胞形成高温細菌の生育を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)澱粉を含む飲食品において、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.0001〜0.5重量%で含有させることを特徴とする、耐熱性芽胞形成高温細菌の増殖を抑制する方法。
(2)前記MELが、MEL−A、MEL−B、MEL−Cから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記耐熱性芽胞形成高温細菌がフラットサワー変敗原因菌である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記耐熱性芽胞形成高温細菌が、ジオバチルス属(Geobacillus stearothermophilus)、バチルス属(Bacillus coagulans等)、モーレラ属(Moorella thermoacetica)、サーモアナエロバクター属(Themoanaerobacter mathranii、T.thermohydrosulfricus等)、クロストリジウム属(Clostridium sporogenes等)、アリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus acidocaldarius等)から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれか一に記載の方法。
(5)前記澱粉濃度が0.01〜5重量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一に記載の方法。
(6)1〜5のいずれか一項に記載の方法に使用するための耐熱性芽胞形成高温細菌抗菌剤。
(7)澱粉を0.01〜5重量%及びマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.0001〜0.5重量%を含む飲食品。
(8)澱粉を0.01〜5重量%及びマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.0001〜0.5重量%を含む容器詰めコーヒー飲料。
(9)澱粉を0.01〜5重量%及びマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.0001〜0.5重量%を含む容器詰めスープ。
(10)澱粉を0.01〜5重量%及びマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を0.0001〜0.5重量%を含む容器詰めしるこ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、加温販売する容器詰め飲料等において、耐熱性芽胞形成高温細菌の増殖抑制を目的とする添加物として、MELをはじめとするバイオサーファクタントを選択することが可能となる。本発明は従来の技術に比べ、飲料等に含まれる成分、とりわけ澱粉による抗菌作用の阻害を受けることがなく、低濃度でその抗菌作用を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の効果を示す耐熱性芽胞形成高温細菌としては、ジオバチルス属(Geobacillus stearothermophilus)、バチルス属(Bacillus coagulans等)、モーレラ属(Moorella thermoacetica)、サーモアナエロバクター属(Themoanaerobacter mathranii、T.thermohydrosulfricus等)、クロストリジウム属(Clostridium sporogenes等)、アリサイクロバチルス属(Alicyclobacillus acidocaldarius等)が挙げられ、中でも、ジオバチルス属、モーレラ属が好ましい。
【0011】
「バイオサーファクタント」とは、生物によって生み出される界面活性物質の総称であり、優れた界面活性や、高い生分解性を示すばかりでなく、さまざまな生理作用を有していることから、合成界面活性剤とは異なる挙動・機能を発現する可能性がある。バイオサーファクタントとしては、微生物が生産する界面活性物質が代表的なものとして挙げられる。現在、上述した微生物が生産する界面活性物質としては、糖型、アシルペプチド型、リン脂質型、脂肪酸型及び高分子化合物型の5つに大別されている。
【0012】
本発明に用いられるバイオサーファクタントとしては、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、MEL以外のマンノシルアルジトールリピッド(MAL)としては、マンノシルマンニトールリピッド(MML)、マンノシルソルビトールリピッド(MSL)、マンノシルアラビトールリピッド(MAraL)、マンノシルリビトールリピッド(MRL)などが挙げられ、中でも、MELが好ましい。
【0013】
(MEL)
MELは、ウスチラゴ ヌーダ(Ustilago nuda)とシゾネラ メラノグラマ(Shizonella melanogramma)から発見された物質である。その後、イタコン酸生産の変異株であるキャンデダ属酵母、キャンデダ アンタークチカ(Candida antarctica)(現在はシュードザイマ アンタークチカ(Pseudozyma antarctica)、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)属等の酵母らによっても生産されることが報告されている。
【0014】
MELの構造を一般式(1)に示す。一般式(1)中、置換基R1は、同一でも異なっていてもよい炭素数4〜24の脂肪族アシル基である。MELは、マンノースの4位及び6位のアセチル基の有無に基づいて、MEL−A、MEL−B、MEL−C及びMEL−Dの4種類に分類される。
【0016】
具体的には、MEL−Aは、一般式(1)中、置換基R2およびR3がともにアセチル基である。MEL−Bは、一般式(1)中、置換基R2はアセチル基であり、置換基R3は水素である。MEL−Cは、一般式(1)中、置換基R2が水素であり、置換基R3はアセチル基である。MEL−Dは、一般式(1)中、置換基R2及びR3がともに水素である。
【0017】
上記MEL−A〜MEL−Dにおける置換基R1の炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類であるトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数および、使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度によって変化する。また、上記、トリグリセリドが不飽和脂肪酸残基を有する場合、MEL生産菌が上記不飽和脂肪酸の二重結合部分まで資化しなければ、置換基R1として不飽和脂肪酸残基を含ませることも可能である。以上の説明から明らかなように、得られるMELは、通常、置換基R1の脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0018】
本発明の組成物には一般式(2)または一般式(3)に示されている構造を有するマンノシルエリスリトールリピッドが含まれている。
【0021】
一般式(2)及び一般式(3)における置換基R1は、同一でも異なっていてもよい炭素数4〜24の脂肪族アシル基である。置換基R1の炭素数は上記範囲内であれば特に限定されないが、8個〜14個であることがさらに好ましい。また、上記一般式(2)及び一般式(3)中の置換基R1は、飽和脂肪族アシル基であっても不飽和脂肪族アシル基であってもよく、特に限定されるものではない。不飽和結合を有している場合、例えば、複数の二重結合を有していても良い。炭素鎖は直鎖であっても分岐鎖状であってもよい。また、酸素原子含有炭化水素基の場合、含まれる酸素原子の数及び位置は特に限定されない。
【0022】
一般式(2)中、置換基R2は同一でも異なっていてもよい水素またはアセチル基である。また、一般式(3)中、置換基R2は同一でも異なっていてもよい水素またはアセチル基である
【0023】
MEL以外のMAL(マンノシルアルジトールリピッド)の構造は一般式(4)に示す。エリスリトール以外の糖アルコール(アルジトール)としては、マンニトール、アラビトール、リビトール、ソルビトールが付加している(n=4:マンニトール、ソルビトール、n=2:アラビトール、リビトール)。一般式(4)に対応させれば、MALはマンノースの2位、3位に炭素数2〜20、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜14の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有するアルカノイル基を有する。
【0025】
(式中、置換基R1は同一でも異なっていてもよい炭素数2〜20、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜14の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝を有するアルカノイル基を有し、式中、置換基R2は同一でも異なっていてもよい水素またはアセチル基である。好ましくは、式中、置換基R2のどちらもアセチル基である化合物である。)
【0026】
本発明に好ましく用いられるバイオサーファクタントは、上述で示されるMEL−A、MEL−B及びMEL−Cである。
【0027】
なお、バイオサーファクタントは、単独で使用してもよいが、2種以上のバイオサーファクタントを併用することもできる。
【0028】
(バイオサーファクタントの製造方法)
バイオサーファクタントの製造方法は特に制限されるものはないが、微生物を用いた発酵方法を任意に選択して行えば良い。例えばMEL (MEL−A、MEL−B、MEL−C)の培養生産は常法に従って、Pseudozyma antarctica(NBRC 1073)により生産することができ、微生物としてはPseudozyma antarctica、Pseudozyma sp.等を用いることができる。いずれの微生物でも容易にMEL混合物が得られることは周知の事実である。MEL混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、MEL−A、MEL−B及びMEL−Cを単離することが出来る。また、MEL−Bを生産する菌としては、Pseudozyma antarctica 及びPseudozyma tsukubaensisが知られており、その菌を用いてもよい。MEL−Cを生産する菌としては、Pseudozyma hubeiensis、Pseudozyma graminicola等が知られており、その菌を用いてもよい。MELを生産する能力を有する微生物としては特に限定するものではなく、目的に応じて適宜使用することができる。
【0029】
バイオサーファクタントを生産するときの発酵培地は、酵母エキス、ペプトン等のN源、グルコース、グリセロール、フルクトース等のC源、及び硝酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム7水塩等の無機塩類からなる一般的な組成の培地を用いることができ、これにオリーブ油、ダイズ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、キャノーラ油、ココナッツ油等の油脂類、並びに、流動パラフィン、テトラデカン等の炭化水素等の非水溶性基質の単独あるいは2種以上を添加したものを使用することができる。
【0030】
pHや温度等の発酵条件や培養時間等は任意に設定でき、発酵後の培養液をそのまま本発明のバイオサーファクタントとして使用することが可能である。また、発酵後の培養液を必要に応じて濾過、遠心分離、抽出、精製、滅菌等の任意の操作を適宜加えることも可能であり、得られたエキスを希釈、濃縮、乾燥することもできる。
【0031】
原料とする油脂類としては植物油脂が好ましい。植物油脂は特に限定されず、目的に応じて適宜選定することができる。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油などが挙げられ、これらの中でも、大豆油、オリーブ油がバイオサーファクタント(特にMEL)の生産効率(生産量、生産速度、及び収率)を向上させることができる点で特に好ましい。これらは、1種を単独で、または2種以上を併用しても構わない。
【0032】
無機窒素源としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、硝酸アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫安等が挙げられる。
【0033】
バイオサーファクタントの回収、精製方法には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、培養液を遠心分離して油分を回収し、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出濃縮することにより回収することができる。
【0034】
抽出溶媒としては、水、アルコール類(例えば、メタノール、無水エタノール、エタノールなどの低級アルコール、またはプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール)、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルなどのエステル類、キシレン、ベンゼン、クロロホルムなどの有機溶媒を、単独であるいは2種類以上の混液を任意に組み合わせて使用することができ、また、各々の溶媒抽出物が組み合わされたものでも使用することができる。
【0035】
抽出方法は特に制限されるものはないが、通常、常温から常圧下での溶媒の沸点の範囲であればよく、抽出後は濾過またはイオン交換樹脂を用い、吸着・脱色・精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状とすればよい。多くの場合は、そのままの状態で利用できるが、必要であれば、その効力に影響のない範囲でさらに脱臭、脱色などの精製処理を加えてもよい。脱臭・脱色等の精製処理手段としては、活性炭カラムなどを用いればよく、抽出物質により一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えばよい。必要に応じて、シリカゲルカラムを用いて精製することにより、純度の高いバイオサーファクタントを得ることができる。
【0036】
このようにして得られたバイオサーファクタントは、加温販売する容器詰め飲料等に添加することで用いることができる。例えば、ミルクコーヒーなどのコーヒー飲料、コーンポタージュスープなどのスープ類、しるこ等が挙げられるが、いずれにも適用でき、またこれらに限定されるものではない。
【0037】
当該バイオサーファクタントの食品への添加方法は、一般に利用されている方法であればよい。つまり、食品中に直接添加してもよいし、その他食品成分中に配合して添加してもよく、またこれらに限定されるものではない。
【0038】
当該バイオサーファクタントの飲料等への配合量は特に制限しないが、通常0.00005〜2.0重量%、好ましくは0.0001〜1.0重量%、特に好ましくは0.0001〜0.5重量%の割合で配合される。
【0039】
このようにして得られる加温販売用容器詰め飲料は、当該バイオサーファクタントの耐熱性芽胞形成高温細菌の発芽あるいは発芽後の生育を抑制する効果により、それらの菌に由来するフラットサワー変敗を防止し、保存性に優れた製品となる。
【0040】
特に、当該バイオサーファクタントは、ショ糖脂肪酸エステルで見られる澱粉による抗菌作用の阻害を受けることがないという点で優れている。特に、澱粉の濃度が0.01〜5重量%である高濃度の澱粉存在下であっても優れた抗菌作用を示す。その特性ゆえ、コーンポタージュスープのような澱粉高含有飲料においても、非常に低濃度でその抗菌効果を得ることが可能であり、添加物による製品の風味等への影響の少ない製品が得られるものである。
【0041】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1 MEL−Aの製造
種菌培養はPseudozyma antarctica NBRC 10736のコロニーを種培地(20ml/500ml坂口フラスコ)に1 loop植菌して実施した。30℃にて一晩培養した。得られた培養液を種菌とした。種培地組成は4% Glucose、0.3% NaNO3、0.02% MgSO4・7H2O、0.02% KH2PO4、0.1% yeast extractであった。培養は上記種菌75mlを生産培地1.5L(5L-jar)に植菌し、30℃、300rpm(攪拌回転)、0.5L/min(Air)の条件で5L-jarを用いて培養した。生産培地組成は、5% オリーブ油、0.02% MgSO4・7H2O、0.02% KH2PO4、0.1% yeast extractであった。培養液250mlを遠心(6500rpm、30min)し、上清を取り除き、沈殿(菌体)を回収した。沈殿に、50mlの酢酸エチルを加え、十分攪拌後、遠心(8500rpm、30min)し、沈殿と上清に分け、上清をエバポーレーターで濃縮した。シリカゲルを用いて、クロロホルム:アセトン=1:0、クロロホルム:アセトン=9:1、クロロホルム:アセトン1:1、クロロホルム:アセトン=3:7、クロロホルム:アセトン=0:1で溶出しMEL−A画分を得た。
【0043】
実施例2 MEL−Bの製造
0.2mlのPseudozyma tsukubaensisフローズンストックを20mlのYM培地/500ml容坂口フラスコに植菌し、26℃、180rpm、1晩培養させ、種種菌とした。0.2mlの種種菌を再度、20mlのYM種培地/500ml容坂口フラスコに植菌し、26℃、180rpm、1晩培養させ、種菌とした。20mlの種菌を2LのYM培地/5L Jarに植菌し、26℃ 300rpm(1/4VVM、0.5L air /min)で8日間培養した。培養液を7,900rpm 60min 4℃で遠心し、菌体(MEL−Bを含む)と上清に分離した。菌体画分にそれぞれ80mlの酢酸エチルを加え、菌体が十分懸濁するように上下に攪拌した後、7,900rpm 30min 4℃で遠心した。得られた上清に等量の飽和食塩水を加え攪拌し酢酸エチル層を得た。酢酸エチル層に無水硫酸Naを適量加え、30分間精置させた後、エバポレートしMEL−B粗精製品を得た。得られたMEL−B粗精製品をシリカゲルカラムを用いて、ヘキサン:アセトン=5:1、ヘキサン:アセトン=1:1で溶出しMEL−B画分精製品を得た。
【0044】
実施例3 MEL−Cの製造
0.2mlのPseudozyma hubeiensis及びPseudozyma graminicolaフローズンストックを20mlのYM培地/500ml容坂口フラスコに植菌し、26℃、180rpm、1晩培養させ、種種菌とした。0.2mlの種種菌を再度、20mlのYM種培地/500ml容坂口フラスコに植菌し、26℃、180rpm、1晩培養させ、種菌とした。20mlの種菌を2LのYM培地/5L Jarに植菌し、26℃ 300rpm(1/4VVM、0.5L air /min)で8日間培養した。培養液を7,900rpm 60min 4℃で遠心し、菌体(MEL−Cを含む)と上清に分離した。菌体画分にそれぞれ80mlの酢酸エチルを加え、菌体が十分懸濁するように上下に攪拌した後、7,900rpm 30min 4℃で遠心した。得られた上清に等量の飽和食塩水を加え攪拌し酢酸エチル層を得た。酢酸エチル層に無水硫酸Naを適量加え、30分間精置させた後、エバポレートしMEL−C粗精製品を得た。得られたMEL−C粗精製品をシリカゲルカラムを用いて、ヘキサン:酢酸エチル=1:1、ヘキサン:酢酸エチル=1:3、酢酸エチルで溶出しMEL−C画分精製品を得た。
【0045】
実施例4:Geobacillus stearothermophilusの芽胞精製
Geobacillus stearothermophilus NBRC12550 を802培地(1.0% ポリペプトン、0.2% 酵母エキス、0.1% 硫酸マグネシウム7水和物)で55℃ 220rpmで一晩培養し、この液を前培養液とした。前培養液を平板培地に塗沫し、55℃にて3日間培養をおこなった。その後4℃で3日間静置した後、菌体をリン酸緩衝生理食塩水で回収した。これをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、塩化リゾチーム(終濃度10mg/mL)を37℃、15時間作用させ、引き続きドデシル硫酸ナトリウム(終濃度10mg/mL)を37℃、2時間作用させた。この菌体懸濁液をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、精製芽胞液とした。培養には、この精製芽胞液を100℃、5分で活性化し、供試菌とした。
【0046】
実施例5:Moorella thermoacetica芽胞調製
Moorella thermoacetica JCM 9319 を市販の変法チオグリコレート培地(日水製薬(株))で55℃ アネロパック(三菱ガス化学株式会社)存在下で7日間培養し、この液を前培養液とした。前培養液を平板培地に播種し、55℃にて7日間培養をおこなった。平板培地から菌体を回収し、これをリン酸緩衝生理食塩水で洗浄を行った。この操作は3回繰り返しこの液を芽胞液とした。芽胞液を100℃、5分で活性化し、供試菌とした。
【0047】
表1は用いた抗菌剤の種類およびその由来菌種又は入手元を示した。
【0049】
表2は用いた耐熱性芽胞形成高温細菌の菌株、培養温度、培地を示した。
【0051】
実施例6〜9、比較例1:Geobacillus stearothermophilusに対する培地における抗菌試験
802培地(4.8ml)を含む18mL試験管に0.1mLの表1に示す各種MEL又はショ糖パルミチン酸エステルを0〜32ppmの濃度で加え混合し、実施例4で作製した0.1mLのGeobacillus stearothermophilus精製芽胞液を加え55℃ 220rpmで一晩培養し、菌の生育の有無をOD660で観察し、抗菌性を評価した。その結果を表3に示した。
【0052】
表3は、各種抗菌剤の種類とその培地中濃度における、抗菌活性を示し、+は生育が認められ、−は生育が認められないことを示している。N=2で実施した。すなわち、例えば++は、N=2における2つの系でともに生育が認められたことを示す。
【0054】
表3より、実施例6〜9及び比較例1とも、同程度の抗菌作用を有していることが明らかとなった。特に、実施例6,7,9の抗菌剤に関しては、きわめて低濃度で、耐熱性芽胞形成高温細菌に対する抗菌作用を有することが明らかとなった。
【0055】
実施例10、比較例2:Geobacillus stearothermophilusに対する澱粉による抗菌作用への影響
とうもろこし澱粉(ナカライテスク(株))を0〜5,000 ppmの濃度で含む802培地(4.8ml)にMEL-B又はショ糖パルミチン酸エステルを培地中に10 ppmとなるように加え混合し、0.1mLのGeobacillus stearothermophilus精製芽胞液を加え55℃ 220rpmで一晩培養し、菌の生育の有無をOD660で観察して、澱粉存在下における抗菌性を評価した。
【0056】
表4は、澱粉各種濃度存在下におけるMEL-Bおよびショ糖パルミチン酸エステルの抗菌活性を示したものである。+は生育が見られ、−は生育が見られないことを示している。N=3で実施した。
【0058】
表4より、比較例2においては、澱粉濃度100 ppmから抗菌効果の阻害を受けた。一方で、実施例10においては澱粉5,000 ppmにおいても抗菌効果の阻害はみられなかった。このことから、MEL-Bの抗菌効果は澱粉による阻害を受けることがなく、低濃度で効果的に耐熱性形成高温細菌の増殖を抑制することが示された。
【0059】
実施例11〜13 比較例3:Moorella thermoaceticaに対する培地における抗菌試験
変法チオグリコレート培地(8.8ml)を含む13mL試験管に0.1mLの表1に示す各種MEL又はショ糖パルミチン酸エステルを0〜32ppmの濃度で加え混合し、実施例5で作製した0.1mLのMoorella thermoacetica芽胞液を加え55℃ アネロパック存在下で7日間培養し、菌の生育の有無をOD660で観察して、抗菌性を評価した。その結果を表5に示した。
【0061】
表5は、各種抗菌剤の種類とその培地中濃度における、抗菌活性を示し、+は生育が認められ、−は生育が認められないことを示している。N=2で実施した。すなわち、例えば++は、N=2における2つの系でともに生育が認められたことを示す。
【0062】
表5より、実施例11〜13及び比較例3とも、同程度の抗菌作用を有していることが明らかとなった。特に、実施例11〜13の抗菌剤に関しては、きわめて低濃度で、嫌気性の耐熱性芽胞形成高温細菌に対する抗菌作用を有し、ショ糖脂肪酸エステルと同等程度の効果があることが明らかとなった。
【0063】
実施例14〜16、比較例4:Moorella thermoaceticaに対する澱粉による抗菌作用への影響
とうもろこし澱粉(ナカライテスク(株))を0〜5,000 ppmの濃度で含む変法チオグリコレート培地(8.8ml)に0.1mLのMEL-B又はショ糖パルミチン酸エステルを培地中に10 ppmとなるように加え混合し、0.1mLのMoorella thermoacetica芽胞液を加え55℃ で7日間培養し、菌の生育の有無をOD660で観察し、澱粉存在下における抗菌性を評価した。その結果を表6に示した。
【0065】
表5は、各種抗菌剤の種類とその培地中濃度における、抗菌活性を示し、+は生育が認められ、−は生育が認められないことを示している。N=2で実施した。すなわち、例えば++は、N=2における2つの系でともに生育が認められたことを示す。
【0066】
表6より、比較例3においては、澱粉濃度100 ppmから抗菌効果の阻害を受けた。一方で、実施例14、15においては澱粉5,000 ppmにおいても抗菌効果の阻害はみられなかった。このことから、MELの抗菌効果は澱粉による阻害を受けることがなく、低濃度で効果的に嫌気性の耐熱性形成高温細菌の増殖を抑制することが示された。