(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269260
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】ビアリール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/89 20060101AFI20180122BHJP
C07D 307/92 20060101ALI20180122BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20180122BHJP
B01J 31/30 20060101ALI20180122BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20180122BHJP
B01J 31/26 20060101ALI20180122BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20180122BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20180122BHJP
【FI】
C07D307/89 Z
C07D307/92
B01J31/22 Z
B01J31/30 Z
B01J31/28 Z
B01J31/26 Z
B01J37/04 102
!C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-72485(P2014-72485)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193569(P2015-193569A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西尾 正幸
(72)【発明者】
【氏名】今嶋 啓晶
【審査官】
黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−302654(JP,A)
【文献】
特開2000−186063(JP,A)
【文献】
特開昭60−051150(JP,A)
【文献】
特開2005−145962(JP,A)
【文献】
特開平05−222024(JP,A)
【文献】
NILSSON, Martin,Acta Chemica Scandinavica,1966年,20,423-426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有混合ガス又は空気雰囲気下で、以下に示す(A)〜(C)
からなる触媒を用いて、下記一般式(1a)で示される芳香族化合物をカップリングさせることを特徴とする、ビアリール化合物の製造方法。
(A)パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物
(B)2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、前述の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物
(C)銅化合物
又は銅
【化1】
(置換基Yは−COXで示されるハロゲン化カルボニル基(Xはハロゲン原子を示す)、−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基(R
aは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基である。nは0又は1である。nが1のとき、カルボキシル基と置換基Yは反応して、下記一般式(1b)で示すように、環を形成していてもよい。
【化2】
また、R
1〜R
4は水素原子、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基(R
bは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基を示し、R
1〜R
4は同一であっても異なっていてもよい。アルケニル基及びアリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
さらに、R
1〜R
4のうち隣り合う基は互いに結合して環を形成してもよい。ただし、R
1〜R
4のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【請求項2】
一般式(1a)において、R1〜R4が水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載のビアリール化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(1a)で示される化合物が、下記一般式(2a)で示される芳香族化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のビアリール化合物の製造方法。
【化3】
(置換基Yは−COXで示されるハロゲン化カルボニル基(Xはハロゲン原子を示す)、−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基(R
aは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基である。nは0又は1である。nが1のとき、カルボキシル基と置換基Yは反応して環を形成していても良い。
また、R
1及びR
4は水素原子、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基(R
bは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基を示す。R
5〜R
8は水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。R
1及びR
4〜R
8は同一であっても異なっていてもよい。アルケニル基及びアリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
さらに、R
1及びR
4〜R
8のうち隣り合う基は互いに結合して環を形成してもよい。ただし、R
1及びR
4〜R
8のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【請求項4】
ビアリール化合物が、下記一般式(3)で示される3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、下記一般式(4)で示される2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び下記一般式(5)で示される2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【化4】
【請求項5】
2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物が、下記一般式(6)〜(9)のいずれかで示されるピリジン化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【化5】
(一般式(6)〜(9)において、R
9〜R
36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。カルボニル基であるときは、近接した基と結合して環を形成しているものとする。また、R
37は、水素原子、水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数5〜10のヘテロアリール基を示し、R
36と結合して環を形成していてもよい。)
【請求項6】
前記二座配位子化合物が、一般式(6)で示される1,10−フェナントロリン化合物、一般式(7)で示される1,10−フェナントロリン−N−オキシド化合物、又は一般式(8)で示されるビピリジン化合物のいずれかであることを特徴とする、請求項5に記載のビアリール化合物の製造方法。
【請求項7】
置換基R9〜R32が水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、カルボキシル基、又はニトロ基のいずれかであることを特徴とする、請求項6に記載のビアリール化合物の製造方法。
【請求項8】
前記(A)〜(C)からなる触媒に対して、典型金属元素の酸化物を混合させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基を有する芳香族化合物又はその無水物をカップリングさせて、ビアリール化合物を選択的に製造することが可能で、工業的に好適な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビアリール化合物は種々の用途で用いられており、中でもビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと称することもある)は、エンジニアリングプラスチックであるポリイミドのモノマーとして利用価値が高く、その製造方法に関して既にいくつかの方法が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1や特許文献2のように、パラジウム触媒を用いて分子状酸素が存在する雰囲気中でフタル酸ジメチルをカップリングさせてビフェニルテトラカルボン酸テトラエステルとした後、エステル部位を加水分解してビフェニルテトラカルボン酸とし、さらにこれを脱水環化させることで、BPDAを製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3のように、4−クロロフタル酸無水物をアルカリ水溶液及びアルコールの混合溶媒中でパラジウム触媒を用いて還元的にカップリングしてビフェニルテトラカルボン酸を製造する方法が開示されている。
【0005】
一方、特許文献4では、パラジウム化合物を用いて無水フタル酸を直接カップリングさせる方法が開示されている。
【0006】
非特許文献1では、ビアリール化合物の製造方法において、銅が触媒として作用するが、カルボン酸を用いた場合、脱炭酸反応が進行すると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−141417号公報
【特許文献2】特許第4048689号公報
【特許文献3】特開昭62−26238号公報
【特許文献4】特開平5−222024号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Acta.Chem.Scand.1966,20,423−426.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の引用文献1〜3では、カップリング反応前に安価なフタル酸又は無水フタル酸を一旦エステル化、クロル化等の処理を行う必要がある。また、BPDAを得るためには、カップリング反応後も、加水分解や脱水環化等の処理が必要である。したがって、引用文献1〜3に記載された製造方法は原子効率や処理工程数等の観点から、十分工業的に好適な方法であるとは言えない。
【0010】
特許文献4では、無水フタル酸から直接BPDAを製造することは可能であるため、従来の方法に比べ工程数、原子効率ともに有利であるものの、実施例では生成したBPDAの物質量よりもパラジウム化合物の物質量の方が多いという結果になっている。すなわち、触媒回転数(Turnover Number。以下、TONと称することがある。)が1より小さい。
【0011】
一方、非特許文献1では、銅触媒存在下ではカルボン酸やカルボン酸無水物の脱炭酸反応が進行することが知られていた。また、溶媒中に反応前から存在する、あるいはカップリング反応によって生成した水と反応することによって、カルボン酸無水物の加水分解反応が進行し、より脱炭酸反応が進みやすいカルボン酸の生成が予想された。したがって、銅触媒を用いて、無水フタル酸等のカルボキシル基を有する芳香族化合物又はその無水物から、カップリング反応により一段階で、BPDA等のカルボキシル基を有するビアリール化合物又はその無水物を製造することは困難と考えられてきた。
【0012】
以上から、本発明の課題は、無水フタル酸のような、カルボキシル基を有する芳香族化合物又はその無水物をカップリングさせることで、高いTONで、カルボキシル基を有するビアリール化合物又はその無水物を製造することが可能な、工業的に好適な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
酸素雰囲気下で、以下に示す(A)〜(C)の化合物からなる触媒を用いて、下記一般式(1a)で示される芳香族化合物をカップリングさせることで、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
(A)パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物
(B)2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、前述の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物
(C)銅化合物
【0014】
本発明は、以下の項に関する。
【0015】
1.酸素雰囲気下で、以下に示す(A)〜(C)の化合物からなる触媒を用いて、下記一般式(1a)で示される芳香族化合物をカップリングさせることを特徴とする、ビアリール化合物の製造方法。
(A)パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物
(B)2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、前述の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物
(C)銅化合物
【0016】
【化1】
(置換基Yは−COXで示されるハロゲン化カルボニル基(Xはハロゲン原子を示す)、−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基(R
aは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基である。nは0又は1である。nが1のとき、カルボキシル基と置換基Yは反応して環を形成していても良い。
また、R
1〜R
4は水素原子、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基(R
bは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基を示し、R
1〜R
4は同一であっても異なっていてもよい。アルケニル基及びアリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
さらに、R
1〜R
4のうち隣り合う基は可能なら環を形成してもよい。ただし、R
1〜R
4のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【0017】
2.一般式(1a)において、R
1〜R
4が水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基であることを特徴とする、上記1に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0018】
3.一般式(1a)で示される化合物が、下記一般式(2a)で示される芳香族化合物であることを特徴とする、上記1に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0019】
【化2】
(置換基Yは−COXで示されるハロゲン化カルボニル基(Xはハロゲン原子を示す)、−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基(R
aは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基である。nは0又は1である。nが1のとき、カルボキシル基と置換基Yは反応して環を形成していても良い。
また、R
1及びR
4は水素原子、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基(R
bは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基を示す。R
5〜R
8は水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。R
1及びR
4〜R
8は同一であっても異なっていてもよい。アルケニル基及びアリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
さらに、R
1及びR
4〜R
8のうち隣り合う基は互いに結合して環を形成してもよい。ただし、R
1及びR
4〜R
8のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【0020】
4.ビアリール化合物が、下記一般式(3)で示される3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、下記一般式(4)で示される2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び下記一般式(5)で示される2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、上記1〜2のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0021】
【化3】
【0022】
5.2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物が、下記一般式(6)〜(9)のいずれかで示されるピリジン化合物であることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0023】
【化4】
(一般式(6)〜(9)において、R
9〜R
36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、直鎖状もしくは分枝状の炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニル基、又は炭素数6〜10のアリール基を示す。アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。カルボニル基であるときは、近接した基と結合して環を形成しているものとする。また、R
37は、水素原子、水酸基、炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数5〜10のヘテロアリール基を示し、R
36と結合して環を形成していてもよい。)
【0024】
6.二座配位子化合物が、一般式(6)で示される1,10−フェナントロリン化合物、一般式(7)で示される1,10−フェナントロリン−N−オキシド化合物、又は一般式(8)で示されるビピリジン化合物のいずれかであることを特徴とする、上記5に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0025】
7.置換基R
9〜R
32が水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、カルボキシル基、又はニトロ基のいずれかであることを特徴とする、上記6に記載のビアリール化合物の製造方法。
【0026】
8.金属酸化物を混合させることを特徴とする、上記1〜7のいずれか一項に記載のビアリール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって、カルボキシル基を有する芳香族化合物又はその無水物を高いTONでカップリングさせることができる。本発明により、基質が無水フタル酸のとき、BPDAを製造するための、前述の加水分解や脱水環化処理が不要となる。以上から、この工程数の削減及びTONの向上により、目的生成物あたりの触媒費用や収率を高めることで、工業的に好適なビアリール化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法に使用される反応原料は、下記一般式(1a)で示される芳香族化合物である。
【0029】
【化5】
(置換基Yは−COXで示されるハロゲン化カルボニル基(Xはハロゲン原子を示す)、−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基(R
aは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基である。nは0又は1を示す。また、R
1〜R
4は水素原子、直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基(R
bは炭素数1〜5のアルキル基を示す)、又は−COOHで示されるカルボキシル基を示す。ただし、R
1〜R
4のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【0030】
前記一般式(1a)中の置換基Yが−COXで示されるハロゲン化カルボニル基であるとき、Xはハロゲン原子を示し、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0031】
前記一般式(1a)中の置換基Yが−COOR
aで示されるアルコキシカルボニル基であるとき、R
aは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示し、炭素数は1又は2であることが好ましい。
【0032】
前記一般式(1a)中の置換基Yが、−COOHで示されるカルボキシル基であるとき、2つのカルボキシル基が互いに脱水反応により、環を形成していることが好ましい。
【0033】
nは前記一般式(1a)中の置換基Yの数を示し、0又は1である。nが0であるとき、一般式(1a)で示される芳香族化合物中に置換基Yが存在しないこと、すなわち置換基Yの位置に存在する基が水素原子であることを示す。nは0又は1であるが、1であることが好ましい。また、一般式(1a)中の置換基Yはハロゲン化カルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を示し、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基であることが好ましく、カルボキシル基であることがさらに好ましい。
【0034】
置換基Yはカルボキシル基と反応して環を形成してもよく、環を形成した化合物は、具体的には下記一般式(1b)に示される芳香族化合物である。
【0035】
【化6】
(式中、R
1〜R
4は前記と同義である。)
【0036】
前記一般式(1a)中のR
1〜R
4が直鎖状又は分枝状のアルキル基であるとき、アルキル基の炭素数は1〜5であり、好ましくは1又は2である。
【0037】
前記一般式(1a)中のR
1〜R
4がアルケニル基であるとき、アルケニル基の炭素数は2〜5であり、好ましくは2〜3である。アルケニル基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
【0038】
前記一般式(1a)中のR
1〜R
4がアリール基であるとき、アリール基の炭素数は6〜10であり、好ましくは6〜8である。アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
【0039】
前記一般式(1a)中のR
1〜R
4が−COOR
bで示されるアルコキシカルボニル基であるとき、R
bは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜5のアルキル基を示し、炭素数は1又は2であることが好ましい。
【0040】
前記一般式(1a)中のR
1〜R
4は同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つは水素原子であるとする。R
1〜R
4のうち隣り合う基が互いに結合して環を形成してもよい。さらに、R
1〜R
4は水素原子又はアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0041】
前記一般式(1a)において、R
2とR
3が環を形成しているとき下記一般式(2a)で示されるナフタレン化合物も、本発明の製造方法で好適に使用することができる。
【0042】
【化7】
(置換基n、Y、R
1及びR
4は前記と同義である。R
5〜R
8は水素原子、又は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基を示す。R
1及びR
4〜R
8は同一であっても異なっていてもよい。R
1及びR
4〜R
8のうち隣り合う基は結合して環を形成してもよい。ただし、R
1及びR
4〜R
8のうち少なくとも1つは水素原子であるとする。)
【0043】
前記一般式(2a)中のR
5〜R
8が直鎖状又は分枝状のアルキル基であるとき、炭素数は1〜5であり、好ましくは1又は2である。
【0044】
前記一般式(2a)中のR
1及びR
4〜R
8は同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つは水素原子であるとする。R
1及びR
4〜R
8のうち隣り合う基が互いに結合して環を形成してもよい。さらに、R
1及びR
4〜R
8は水素原子又はアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0045】
また、一般式(2a)中の置換基Yはハロゲン化カルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を示し、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基であることが好ましく、カルボキシル基であることがさらに好ましい。
【0046】
置換基Yはカルボキシル基と反応して環を形成してもよく、環を形成した化合物は、具体的には下記一般式(2b)に示される芳香族化合物である。
【0047】
【化8】
【0048】
前記一般式(1a)で示される芳香族化合物の具体例としては、例えば、フタル酸、3−メチルフタル酸、4−メチルフタル酸、3,4−ジメチルフタル酸、安息香酸、2−メトキシカルボニル安息香酸、2−クロロカルボニル安息香酸、4−メトキシカルボニル安息香酸、テレフタル酸、2,3−ナフタル酸などの芳香族カルボン酸及びこの無水物などが挙げられるが、2−メトキシカルボニル安息香酸等のカルボン酸モノエステル、フタル酸、又は無水フタル酸を用いることが好ましく、フタル酸又は無水フタル酸を用いることがより好ましく、無水フタル酸を用いることが特に好ましい。
【0049】
本発明で得られる生成物としては、下記一般式(3)で示される3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDAと称することもある)、下記一般式(4)で示される2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDAと称することもある)、及び下記一般式(5)で示される2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDAと称することもある)からなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を得ることができる。さらに、生成物としては、s−BPDA及びa−BPDAからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物であることが好ましく、s−BPDAを含む化合物であることがより好ましい。
【0050】
【化9】
【0051】
本発明の製造方法では前記一般式(1a)において、n=1で、Yがハロゲン化カルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基の芳香族化合物を用いても、前記一般式(3)〜(5)で示されるような、酸二無水物が得られることがある。これは、本発明の製造方法において、芳香族化合物のカップリング反応と、脱離反応が同時に起こることがあるからである。例えば、Yがアルコキシカルボニル基のとき、前述の脱離反応は下記反応工程式1のような脱アルコール反応を示す。
【0052】
【化10】
(置換基R
aは前記と同義である。また、波線は前述のR
1〜R
8又はカップリング反応後の芳香族環を示す。)
【0053】
本発明の製造方法で使用する触媒は、以下に示す(A)〜(C)の化合物からなる触媒である。この触媒は、カップリング反応の生成物の収率が高く、且つ、特定の異性体を選択的に製造することができるので好適である。
(A)パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物
(B)2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、前述の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物
(C)銅化合物
【0054】
2個の窒素原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子により、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物と錯体形成することができる二座配位子化合物としては、例えば、下記一般式(6)〜(9)のいずれかで示される二座配位子化合物を好適に用いることができる。
【0055】
【化11】
(一般式(6)〜(9)において、R
9〜R
36は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニル基、又はアリール基を示す。R
37は、水素原子、水酸基、直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を示し、R
36と結合して環を形成していてもよい。)
【0056】
前記R
9〜R
36がハロゲン原子であるとき、塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0057】
前記R
9〜R
36が直鎖状又は分枝状のアルキル基であるとき、炭素数は1〜5であり、好ましくは1又は2である。
【0058】
前記R
9〜R
36がアルコキシ基であるとき、−OR
cと表され、R
cは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜5のアルキル基を示し、R
cの炭素数は好ましくは1又は2である。
【0059】
前記R
9〜R
36がアルコキシカルボニル基であるとき、−COOR
dと表され、R
dは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜5のアルキル基を示し、R
dの炭素数は好ましくは1又は2である。
【0060】
前記R
9〜R
36カルボニル基であるとき、近接した基と結合して環を形成しているものとする。例えば、一般式(8)で示される化合物として、下図に示す化合物(10)〜(12)のような化合物を挙げることができる。
【0061】
【化12】
【0062】
前記R
9〜R
36がアリール基であるとき、炭素数は6〜10であり、好ましくは6〜8である。また、アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
【0063】
前記R
9〜R
36はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、アミノ基、直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、又はアリール基を示すが、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、カルボキシル基、又はニトロ基のいずれかであることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。特に、R
9〜R
36の中で、窒素原子に隣接する炭素上の基であるR
9、R
16、R
17、R
24、R
25、R
32及びR
33はいずれも水素原子であることが好ましい。窒素原子に隣接する炭素上の基を水素原子とすることで、配位子中の窒素原子や酸素原子がパラジウム原子及び/又はロジウム原子に配位しやすくなり、生成した金属錯体がカップリング反応に関与することで、高い触媒活性を有するからである。なお、前述の、高い触媒活性とは、TONが大きいことを示す。
【0064】
前記R
37が直鎖状又は分枝状のアルキル基であるとき、炭素数は1〜5であり、好ましくは1又は2である。
【0065】
前記R
37がアルコキシ基であるとき、−OR
eと表され、R
eは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜5のアルキル基を示し、R
eの炭素数は好ましくは1又は2である。
【0066】
前記R
37がアリール基であるとき、炭素数は6〜10であり、好ましくは6〜8である。また、アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。
【0067】
前記R
37がヘテロアリール基であるとき、炭素数は5〜10であり、好ましくは6〜8である。また、アリール基上の任意の水素原子はアルキル基に置換されていてもよい。そのようなヘテロアリール基の例としては、キノリル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基及びそれらの各種異性体が挙げられるが、中でもピリジル基が好適である。
【0068】
前記R
37はR
36と結合して環を形成していてもよい。このような一般式(9)で示される化合物の例として、下図のような化合物を挙げることができる。
【0069】
【化13】
【0070】
前記一般式(6)〜(9)で示される二座配位子化合物の具体例としては、1,10−フェナントロリン、1,10−フェナントロリン−N−オキシド、2,2’−ビピリジル、ジ(ピリジン−2−イル)メタノン等を好適に挙げることができる。
【0071】
本発明において、二座配位子化合物の代わりに、例えば、化学式(17)で示される1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカンのような環状窒素配位子、化学式(18)で示されるN,N−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンのようなサレン配位子、化学式(19)で示される1−ブチルー3−メチルイミダゾリニウムブロミドのような環状カルベン配位子等も用いることができる。
【0072】
【化14】
【0073】
本発明の製造方法において使用される二座配位子としては、前記一般式(6)〜(9)のいずれかで示される化合物が好ましく、その中でも一般式(6)で示される1,10−フェナントロリン化合物、一般式(7)で示される1,10−フェナントロリン−N−オキシド化合物、又は一般式(8)で示されるビピリジン化合物を用いることがさらに好ましく、一般式(6)で示される1,10−フェナントロリン化合物又は一般式(7)で示される1,10−フェナントロリン−N−オキシド化合物を用いることがより好ましく、一般式(6)で示される1,10−フェナントロリン化合物を用いることが特に好ましい。1,10−フェナントロリン化合物はカップリング反応を促進する効果が高く、パラジウム化合物及びロジウム化合物に配位したとき、フタル酸ジエステルなどの芳香族化合物への溶解性が高いので好適である。
【0074】
本発明において、二座配位子化合物は、パラジウム化合物及びロジウム化合物の総量に対して0.1〜5倍モル、特にパラジウム化合物及びロジウム化合物の総量に対して0.1〜2倍モル用いることが好ましい。0.1倍モル未満の量ではカップリング生成物の選択性が十分でなくなる。5倍モルを超える量では触媒活性が低下する場合がある。
【0075】
本発明において、触媒として用いる金属化合物として、パラジウム化合物及びロジウム化合物が挙げられるが、パラジウム化合物の方が好ましい。また、パラジウム化合物及びロジウム化合物は単独で用いても、混合して用いても構わない。
【0076】
本発明で使用するパラジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウム、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、及びビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)パラジウムなどを具体例として挙げることができる。
【0077】
本発明で使用するロジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩化ロジウム、臭化ロジウム、沃化ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(カルボニル)二ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(エチレン)二ロジウム、ジ−μ−クロロテトラ(シクロオクテン)二ロジウム、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二ロジウムなどのハロゲン化ロジウム類、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム、アセチルアセトナトジクロロロジウム、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサカルボニル六ロジウム、ヒドリドテトラカルボニルロジウム、アセチルアセチナトビス(カルボニル)ロジウムなどのカルボニル化ロジウム類、酢酸ロジウム、トリフルオロ酢酸ロジウムなどのカルボン酸ロジウム類、及びアセチルアセチナトビス(エチレン)ロジウム等の無水物及び含水物を挙げることができる。
【0078】
本発明で使用するパラジウム化合物及びロジウム化合物の総量は、反応原料の芳香族化合物に対して、1×10
−5〜1×10
−2倍モル、好ましくは5×10
−5〜5×10
−3倍モル、より好ましくは8×10
−5〜3×10
−3倍モル、更に好ましくは1×10
−4〜1×10
−3倍モルである。本規定の範囲より多くパラジウム及びロジウムを使用することは、TON向上効果が十分でなくなることがある点、高価なパラジウム化合物やロジウム化合物を多量に使用するのは工業的に好適ではない点から、好ましくない。一方、本規定の範囲より少ないパラジウムやロジウムを使用することは、カップリング反応は進行するが反応速度が小さくなる点、反応バッチあたりの生成物の収量が低くなる点から、実用的でなくなることがある。
【0079】
本発明で使用する銅化合物としては、例えば、銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、ノルマルブチル酸銅、2−メチルプロピオン酸銅、ピバル酸銅、乳酸銅、酪酸銅、安息香酸銅、トリフルオロ酢酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、ビス(1,1,1−5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅、塩化銅、臭化銅、沃化銅、硝酸銅、亜硝酸銅、硫酸銅、リン酸銅、酸化銅、水酸化銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、パラトルエンスルホン酸銅、及びシアン化銅等を好適に挙げることができる。なお、これらの銅化合物は、無水物又は水和物どちらも用いることができる。
【0080】
銅化合物の好適な使用量は、パラジウム化合物及びロジウム化合物の総量に対し0.01〜5倍モル、より好ましくは0.1〜2倍モル、さらに好ましくは0.1〜1倍モルである。パラジウム化合物及びロジウム化合物の総量に対し5倍モルを超えると、工業的に不利になる。
【0081】
本発明において、連続操作によってもカップリング反応を実施することもできる。連続操作で行うとき、反応原料の芳香族化合物と、前記金属化合物、二座配位子化合物及び銅化合物を含む触媒成分とを、反応装置の反応区域へ連続的または断続的に供給する。
【0082】
ここで「断続的に供給する」とは、反応原料の芳香族化合物と、前記金属化合物、二座配位子化合物及び銅化合物を含む触媒成分とを反応装置の反応区域へ供給する際、所定間隔の供給停止期間を挟む供給を意味する。また、「連続的に供給する」とは、この供給停止期間が0分であることを意味する。そして、本発明における供給停止期間は、2時間未満であることが好ましく、1時間未満であることがより好ましく、30分間未満であることがさらに好ましい。
【0083】
本発明において、連続操作によってカップリング反応を進行させることができるのであれば、各反応区域から反応液を取出す(抜き出す)方法は、特に限定されない。具体的には、反応区域内の反応液が所定の液面に達したら抜き出しを開始し、所定の液面まで下がれば抜き出しを停止する、といった間欠抜き出しでもよく、供給される液量とほぼ等量の反応液をポンプで連続的に抜き出しても良い。特に、反応区域の所定の高さに横管あるいは連通孔を設置し、オーバーフローにより抜き出す方法が、複雑な設備を必要とせず簡便に所定の液量に保つことが出来るため好ましい。
【0084】
本発明の反応は、前述の(A)〜(C)の化合物からなる触媒に対して、金属酸化物を混合することにより促進される。金属酸化物として、例えば、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の典型金属元素の酸化物が挙げられるが、酸化アルミニウムであることが好ましく、酸化アルミニウム以外の化合物が含まれていても構わない。酸化アルミニウムの様態としては、モレキュラーシーブス4A、Al
2O
3/SiO
2、γ−Al
2O
3等を好適に挙げることができるが、中でもモレキュラーシーブス4A(以下、MS4Aと称することもある)が好ましい。
【0085】
本発明の製造方法では、反応溶媒を用いても構わないが、反応原料が反応条件下で液体のときは用いなくても構わない。一般的に、反応溶媒を用いないで反応することが好ましい。ただし、反応原料として昇華性の化合物を用いる場合、原料が反応中に昇華して排気管等を閉塞させる等、操作が煩雑になる場合がある。このような場合、反応系中に高沸点の溶媒を添加することで、反応条件下で溶媒の蒸気により昇華物による閉塞が抑えられ、簡便な操作で反応を行うことが出来るため好適である。このような溶媒は、常圧において沸点150〜300℃のもので、基質と副反応を起こさないものであれば特に限定されるものではないが、例えばエチレングリコールジアセテート、アジピン酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレンなどの有機エステル化合物、ジフェニルエーテルなどのエーテル化合物、n−ブチルメチルケトン、メチルエチルケトン、イソプロピルエチルケトンなどのケトン化合物、などを好適に挙げることができる。このうち、良好に昇華を抑えることができるため、有機エステル化合物が好ましく、中でも炭酸プロピレンが特に好ましい。
【0086】
反応溶媒を使用する場合、溶媒の使用量は特に限定されないが、反応原料に対して0.001〜100質量倍、好ましくは0.01〜10質量倍、さらに好ましくは0.05〜1質量倍用いるのが好ましい。使用量が0.001質量倍よりも少ないと、昇華を抑制する効果が十分に得られない。一方100質量倍よりも多いと、単位体積あたりの収量が少なくなり、工業的に不利となる。
【0087】
本発明の製造方法において、反応温度は140℃以上300℃以下で行うことができるが、特に工業的に好適な反応を行うためには、好ましくは200℃以上290℃以下、より好ましくは220℃以上280℃以下で行うことが好適である。この範囲とすることで、工業的に良好な反応速度を維持しながら、生成物の分解や触媒成分の失活を抑制することができる。また、反応時間、即ち原料混合液の反応区域全体への平均滞留時間は、限定はなく適宜決定されれば良いが、通常は1〜50時間、好ましくは2〜30時間、より好ましくは3〜20時間程度である。
【0088】
カップリング反応は酸素の存在下で行われる。具体的には、カップリング反応は、例えば酸素を反応系内へ供給しながら供給することによって好適に行われる。酸素として純酸素ガスを用いてもよいが、爆発の危険性を考慮して、窒素ガスや炭酸ガスなどの不活性ガスで酸素含有量が約5〜50体積%程度まで希釈された酸素含有混合ガス、又は空気を好適に用いることができる。例えば空気を供給する場合には、反応液1000ミリリットル当たり約1〜20000ミリリットル/分、特に10〜10000ミリリットル/分の供給速度で、反応混合液中に均一に行き渡るように供給することが好ましい。供給方法としては、例えば反応混合液の液面に沿って分子状酸素含有ガスを流通させて気液接触させる方法、反応混合物の上部に設けられたノズルから前記ガスを噴出させて吹き込む方法、反応混合物の底部に設けられたノズルから前記ガスを気泡状で供給しその気泡を反応混合液中に流動させて気液接触させる方法、反応混合液の底部に設けられた多孔板から前記ガスを気泡状で供給する方法、あるいは導管内に反応混合液を流動させその反応混合液に導管の側部から前記ガスを気泡状に噴出させる方法などを好適に挙げることができる。
【0089】
本発明のカップリング反応は、大気圧〜200気圧好ましくは大気圧〜50気圧の圧力雰囲気下で行うことができるが、大気圧雰囲気下でおこなうことが設備や操作が簡便になるので特に好ましい。
なお、本発明において、カップリング反応は、酸素分圧が0.01以上特に0.05気圧以上の雰囲気で好適に行うことができる。
【0090】
本発明の製造方法において、目的生成物のビアリール化合物は周知の手段によって精製して得ることができる。例えば、生成物が前述の一般式(3)〜(5)の化合物の混合物である時、蒸留操作、昇華操作及び/又は晶析操作などの手段からなる後処理工程を経て、各成分を分離、精製して得ることができる。この無水物は、ポリイミド樹脂などのポリマー原料又はエポキシ樹脂の硬化剤などとして有用に用いられるものである。
【実施例】
【0091】
次に、本発明の製造方法について実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
以下の実施例では、無水フタル酸(以下、PAと略すこともある)等の反応原料を用いて、カップリング反応の生成物であるビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略記することもある)を製造している。ここで、カップリング反応生成物中の異性体である3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)の生成量の比(以下、S/Aと略記することもある)、生成物であるs−BPDAに対する触媒回転率(TON)は、次の計算式に従って算出した。
【0093】
【数1】
【0094】
以下、実施例及び表おいて、下記の略語を使用する。
PA:無水フタル酸
o−phen:1,10−フェナントロリン
s−DA:3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)
a−DA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)
i−DA:2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)
PC:炭酸プロピレン
【0095】
反応生成物の同定及び生成量の測定は、特に断りのない限り、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略すこともある)を用いて、反応生成物と標準物質の保持時間及びピーク強度を比較することにより行った。測定条件は以下のとおりである。
装置:島津製作所製
カラム:TOSOH ODS-80TM TSK-gel (4.6 ×250mm)
UV検出器:254nm
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
溶離液:A; 10mM燐酸ナトリウム緩衝溶液/B;アセトニトリル
Bの濃度;20体積%(0min)→20体積%(8min)→75体積%(20min)→75体積%(35min)
【0096】
[実施例1]
50ミリリットル三ツ口フラスコに空気導入用導管、窒素導入用導管、水分定量受器、コンデンサーを連結した反応装置を用いた。攪拌は回転子(25ミリ)、加熱はオイルバスにより行った。
反応槽に無水フタル酸0.081モルを仕込み、130℃に加熱して均一溶液とした後、酢酸パラジウム0.02ミリモル、1,10−フェナントロリン 0.02ミリモル、ビス(アセチルアセトナト)銅0.01ミリモルを加え緑色均一溶液とし、空気を液中に100ミリリットル/分で流通させながら230℃に昇温した。また、気相部に窒素を100ミリリットル/分で流通させた。その後、240℃で6時間反応を行った。途中、ガス排出用導管をホットブラスターで加熱し、昇華した無水フタル酸を溶解して反応器に戻す操作を数回行った。反応終了後、反応混合液をサンプリングし、10mMりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルで希釈し、HPLCにて反応混合液の各成分の濃度を定量した。その結果に基づいてS/A、TONを算出したところ、S/Aは0.33、TONは203であった。結果を表1に示す。
【0097】
[比較例1〜比較例3]
比較例1〜比較例3についても、表1に示す通り無水フタル酸や触媒の使用量を変え、使用量に応じた大きさの実験装置を使用した。これらの点以外は実施例1と同様に実験した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
<基質の検討>
【0099】
[実施例2〜実施例3]
実施例2、及び実施例3についても、表2に示す通り無水フタル酸や触媒の使用量を変え、使用量に応じた実験装置を使用した以外は実施例1と同様に実験した。結果を表2に示す。
【0100】
[実施例4]
100ミリリットル三ツ口フラスコに空気導入用導管、窒素導入用導管、水分定量受器、コンデンサーを連結した反応装置を用いた。攪拌は回転子(50ミリ)、加熱はオイルバスにより行った。
反応槽に無水フタル酸0.20モル、溶媒として炭酸プロピレン29.5gを仕込み、100℃に加熱して均一溶液とした後、酢酸パラジウム0.09ミリモル、o-Phen 0.09ミリモル、ビス(アセチルアセトナト)銅0.09ミリモルを加え緑色均一溶液とし、空気を液中に100ミリリットル/分で流通させながら230℃に昇温した。また、気相部に窒素を100ミリリットル/分で流通させた。その後、240℃で6時間反応を行った。反応終了後、反応混合液をサンプリングし、10mMりん酸Na緩衝溶液とアセトニトリルで希釈し、HPLCにて反応混合液の各成分の濃度を定量した。その結果に基づいてS/A、TONを算出したところ、S/Aは0.25、TONは68であった。結果を表2に示す。
【0101】
[実施例5]
実施例5についても、表2に示す通り基質やその使用量、及び触媒の使用量を変え、使用量に応じた大きさの実験装置を使用した。これらの点以外は実施例4と同様に実験した。結果を表2に示す。
【0102】
[実施例6]
実施例6についても、表2に示す通り基質やその使用量、及び触媒の使用量を変え、使用量に応じた大きさの実験装置を使用した。これらの点以外は実施例4と同様に実験した。反応終了後、反応混合液をサンプリングし、0.1重量%トリフルオロ酢酸水溶液とアセトニトリルで希釈した。この希釈液を液体クロマトグラフィー質量分析法(以下、LC−MSと略すこともある)にて分析したところ、下記化学式と同じ分子量の化合物由来のピークが2つ観測され、面積%値がそれぞれ6.3%、4.1%であった。以上より、2,3−ナフタル酸無水物を用いても、カップリング反応が進行することを確認できた。
【0103】
【化13】
【0104】
[分析方法]
実施例6において、LC―MS分析の測定条件は以下の通りである。
カラム:TOSOH ODS-80TM TSK-gel (4.6×250mm)
UV検出器:249−254nm
流速:1.0ml/min
溶離液:A; 0.1質量%トリフルオロ酢酸水溶液/B;アセトニトリル
溶液Bの体積濃度;16%(0min)→16%(15min)→25%(24min)→25%(30min) →75%(55min)→90%(60min)→90%(75min)
【0105】
【表2】
【0106】
[実施例7〜実施例18]
実施例7〜実施例18についても、表3に示す通り無水フタル酸の使用量や配位子を変え、使用量に応じた大きさの実験装置を使用した以外は実施例1と同様に実験した。結果を表3に示す通りである。また、検討した配位子は下図に示す通りである。
【0107】
【表3】
【0108】
【化14】
<銅使用量の検討>
【0109】
[実施例19〜実施例23]
実施例19〜実施例23については、表4に示す通りアセチルアセトン銅の使用量を変えた点以外は実施例1と同様に実験した。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
[実施例24〜実施例32]
実施例24〜実施例32については、表5に示す通り、無水フタル酸の使用量や銅化合物の種類、溶媒量を変え、使用量に応じた大きさの実験装置を使用した以外は実施例4と同様に実験した。結果を表5に示す。
【0112】
【表5】
【0113】
[実施例33〜実施例39]
実施例33〜実施例39については、表6に示す通りパラジウム塩の種類を変えた点以外は実施例1と同様に実験した。結果を表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
[実施例40〜実施例42、比較例4〜比較例17]
実施例40〜実施例42、比較例4〜比較例17については、表7に示す通り触媒の種類と量、溶媒量、及び無水フタル酸の使用量を変え、使用量に応じた実験装置を使用した以外は実施例4と同様に実験した。結果を表7に示す。
【0116】
【表7】
【0117】
なお、表7において「−」は未測定、「N.D.」は化合物のピークが未検出であったことを示す。
【0118】
[実施例43〜実施例49]
実施例43〜実施例49については、表8に示す通り反応温度と無水フタル酸の使用量を変え、使用量に応じた実験装置を使用した以外は実施例1と同様に実験した。結果を表8に示す。
【0119】
【表8】
【0120】
[実施例50〜実施例53]
実施例50〜実施例53、については、表9に示す通り、添加剤を加え、触媒量を変えた点以外は実施例1と同様に実験した。結果を表9に示す。
【0121】
【表9】
【0122】
[実施例54〜実施例58]
実施例54〜実施例58については、表10に示す通り、モレキュラーシーブス4A(MS4A)を加え、その添加量を変えた点以外は実施例1と同様に実験した。結果を表10に示す。
【0123】
【表10】
【0124】
以上より、カルボキシル基を有する芳香族化合物又はその無水物を用いて、種々の反応条件でカップリング反応を進行させ、高いTONでビアリール化合物を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、酸素雰囲気下で、パラジウム及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物、銅化合物、及び二座配位子化合物からなる触媒を用いて、芳香族化合物をカップリングさせて、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のようなビアリール化合物を製造する、改良されて工業的に好適な製造方法を提供することができる。