【文献】
YANG Jing, et al.,Preparation of polypiperazine-amide composite nanofiltration membrane through Interfacial polymeriza,Huaxue Yanjiu yu Yingyong,2010年 4月,Vol. 22, No. 4,page 456-460,ISSN 1004-1656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリアミド分離機能層は第二級アミンを含み、かつ、前記ポリアミド分離機能層のpH6とpH9におけるゼータ電位差が12mV以上である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.複合半透膜
本発明の複合半透膜は、基材および基材上に設けられた多孔性支持層を備える支持膜と、多孔性支持層上に形成されたポリアミド分離機能層とを備える。
【0014】
(1−1)ポリアミド分離機能層
分離機能層は、複合半透膜において溶質の分離機能を担う層である。本発明においては、脂肪族多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応によって得られるポリアミドから形成される。
【0015】
複合半透膜の1価イオンと2価イオンの選択分離性には、表面荷電および孔径の両方の制御が必要である。表面荷電が中性に近づくほど1価イオンは透過しやすくなる。このとき、分離機能層の孔径が、2価イオンを除去できる程度の大きさに制御されていることで、2価イオンを確実に除去することができ、2価イオンの選択除去性は高くなる。ここで、表面荷電の大きさは、ポリアミド中の官能基(アミノ基、カルボキシ基)の量に依存するため、表面荷電を中性にするためには、アミノ基量およびカルボキシ基量を等しくすればよく、両者が等しくなる量の脂肪族多官能アミンおよび多官能酸ハロゲン化物が存在していることが好ましい。
【0016】
本発明者らは鋭意検討を行い、分離機能層における脂肪族多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物の存在比を精密に制御することにより、複合半透膜の2価イオン除去性の向上および、1価イオンと2価イオンの選択除去性を向上できることを見出した。このとき、表面荷電は中性に近い値となっていると考えられる。また、このとき、ポリアミド中のアミノ基およびカルボキシ基量はほぼ等しくなっており、ポリアミドの網目構造は均一になっていることが考えられる。よって、孔径分布も制御されていると考えられる。
【0017】
ポリアミド分離機能層における脂肪族多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物の存在比は、支持膜から剥離した分離機能層を
13C−NMR測定することや、支持膜から剥離した分離機能層を強アルカリ水溶液で加水分解した試料を用いて
1H−NMR測定することにより、脂肪族多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物の成分をそれぞれ分析し、脂肪族多官能アミン成分を、多官能酸ハロゲン化物の成分で除することにより求めることができる。
【0018】
ポリアミド分離機能層における脂肪族多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物の存在比(脂肪族多官能アミン/多官能酸ハロゲン化物)は、モル比で、1.2以上であり、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.35以上であり、1.4以上がさらに好ましい。また、前記存在比は、モル比で、1.8以下であり、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.65以下であり、1.6以下がさらに好ましい。前記存在比が1.2以上であることにより、膜の負の荷電量を大きくなりすぎない程度に制御できるため、高い1価イオン透過性を得ることができる。また、前記存在比が1.8以下であることにより、膜の正の荷電量を大きくなり過ぎない程度に制御できるため、十分な2価イオン除去性を得ることができる。
【0019】
ポリアミド分離機能層おける多官能脂肪族アミンと多官能酸ハロゲン化物の存在比を制御する方法としては、界面重縮合時の多官能脂肪族アミン濃度と多官能酸ハロゲン化物濃度との比率を調整する方法、多官能酸ハロゲン化物を溶解する溶媒を変える方法、界面重縮合場を界面活性剤によって乱す方法、界面重縮合途中で反応停止させる方法、界面重縮合時に反応を阻害するような添加剤を加える方法、界面重縮合時に外部から熱を加えることで反応を活性化する方法などがある。
【0020】
本発明のポリアミド分離機能層は、pH6とpH9におけるゼータ電位差(絶対値)が12mV以上であることが好ましい。分離機能層のpH6とpH9におけるゼータ電位差(絶対値)は、2価イオン除去性能および2価イオン選択性に関係しており、ゼータ電位差が12mV以上であると、複合半透膜の2価イオン除去性能および2価イオン選択性は高くなる。これは、pH6〜pH9でアミノ基およびカルボキシ基の解離度が大きく変化するためで、電位差が大きいとアミノ基およびカルボキシ基の量が多いと考えられる。アミノ基およびカルボキシ基の量が多いと、静電反発が大きくなるため、2価イオン除去性能および2価イオン選択性が高くなると考えられる。
【0021】
なお、ゼータ電位は、電気泳動光散乱光度計により測定できる。例えば、平板試料用セルに、複合半透膜の分離機能層面がモニター粒子溶液に接するようにセットして測定する。モニター粒子はポリスチレンラテックスをヒドロキシプロピルセルロースでコーティングしたもので、10mM−NaCl溶液に分散させてモニター粒子溶液とする。モニター粒子溶液のpHを調整しておくことで所定のpHでのゼータ電位を測定することができる。電気泳動光散乱光度計は、大塚電子株式会社製ELS−8000などが使用できる。
【0022】
脂肪族多官能アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族アミンであり、例えば、エチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,3,5−トリメチルピペラジン、2,5−ジエチルピペラジン、2,3,5−トリエチルピペラジン、2−n−プロピルピペラジン、2,5−ジ−n−ブチルピペラジン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリエチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリ−n−ブチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジンなどが例示される。性能発現の安定性から、ピペラジン系アミンおよびその誘導体を用いることが好ましく、中でも、ピペラジン(以下、「Pip」と称することがある。)を用いるとさらに好ましい。これらの脂肪族多官能アミンは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。
例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができる。
2官能酸ハロゲン化物としては、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物;アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物;シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0024】
脂肪族多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましい。また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能酸塩化物は一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることがより好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリド(以下、「TMC」と称することがある。)を用いるとさらに好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0025】
分離機能層を構成するポリアミドは、上記の脂肪族多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合によって得られる架橋ポリアミドであることが、製造の容易性の観点から好ましい。
【0026】
ポリアミド分離機能層の厚みは40nm以下であることが好ましい。厚みが40nm以下であれば、2価イオン除去性能を高めつつ、十分な透水性能が得られる。
【0027】
ポリアミド分離機能層の厚みは、透過型電子顕微鏡、TEMトモグラフィー、集束イオンビーム/走査型電子顕微鏡(FIB/SEM)等の観察手法を用いて分析できる。例えば、TEMトモグラフィーで観察するのであれば、複合ナノろ過膜を水溶性高分子で処理してポリアミド分離機能層の形状を保持したのち、四酸化オスミウム等で染色し観察を行う。
【0028】
なお、本明細書において、特に付記しない限り、層又は膜の厚みとは、それぞれ平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。
層又は膜の厚みは、層又は膜の断面観察で厚み方向に直交する方向(層又は膜の面方向、水平方向)に20μm間隔で測定した20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0029】
(1−2)支持膜
支持膜は、基材と前記基材上に設けられる多孔性支持層とを備えるものであり、実質的にイオン等の分離性能を有さず、分離機能層に強度を与えることができる。
【0030】
支持膜の厚みは、複合半透膜の強度および複合半透膜を膜エレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、支持膜の厚さは50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100〜250μmの範囲内である。
【0031】
(1−2−1)多孔性支持層
本発明における多孔性支持層は、下記素材を主成分として含有することが好ましい。多孔性支持層の素材としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、あるいはポリフェニレンオキシドなどのホモポリマー又はコポリマーを単独で若しくはブレンドして使用することができる。
【0032】
ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが使用され、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。
中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホンなどのホモポリマーまたはこれらのコポリマーが好ましい。
より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられる。
【0033】
これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、さらに成型が容易であることからポリスルホンが特に好ましく使用できる。
具体的には、多孔性支持層の主成分となる素材として、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径を制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0035】
本発明で使用されるポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN−メチルピロリドンを展開溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは15,000〜100,000の範囲内にあるものである。
このMwが10,000以上であることで、多孔性支持層として、好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200,000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0036】
多孔性支持層における孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面即ち基材側の面まで徐々に大きな微細孔となり、かつ、分離機能層が形成される側の表面における微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような孔が好ましい。
【0037】
多孔性支持層は、例えば、上記ポリスルホンを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と称することもある。)溶液を、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることにより得られる。この方法によって得られた支持膜は、その表面の大部分が直径1〜30nmの微細な孔を有することができる。
【0038】
また、多孔性支持層の厚みは、得られる複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、厚みが10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜150μmの範囲内である。
【0039】
多孔性支持層の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持層を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜15kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)によって観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。
【0040】
(1−2−2)基材
支持膜を構成する基材としては、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的強度、耐熱性、耐水性等により優れた支持膜を得られることから、ポリエステル系重合体であることが好ましい。
【0041】
本発明で用いられるポリエステル系重合体とは、酸成分とアルコール成分からなるポリエステルであり、本発明における基材の主成分であることが好ましい。なお、主成分とは、基材を構成する重合体中、70重量%以上、好ましくは90重量%以上含有することをいう。
【0042】
酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸およびフタル酸などの芳香族カルボン酸;アジピン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。
また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0043】
ポリエステル系重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂およびポリブチレンサクシネート樹脂等が挙げられ、またこれらの樹脂の共重合体も挙げられる。中でも製造面でのコストに特に優れている点からポリエチレンテレフタレートのホモポリマーまたはこれらのコポリマーが好ましく用いられる。
【0044】
本発明における基材は、前記重合体等からなる布帛状のものである。前記布帛には、強度、凹凸形成能、流体透過性の点で繊維状基材を用いることが好ましい。
基材としては、長繊維不織布及び短繊維不織布のいずれも好ましく用いることができる。
長繊維不織布又は短繊維不織布は、成形性、強度の点で、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向であることが好ましい。縦配向については後述する。
【0045】
そのような構造を取ることにより、強度を保つことで複合半透膜の膜破れ等を防ぐ高い効果が実現されるだけでなく、分離機能層に凹凸を付与する際の、多孔性支持層と基材とを含む積層体としての成形性も向上し、分離機能層表面の凹凸形状が安定するので好ましい。
【0046】
より具体的に、前記長繊維不織布又は短繊維不織布の、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度は、0°〜25°であることが好ましい。また、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と、多孔性支持層側の表層における繊維配向度との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
【0047】
複合半透膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により多孔性支持層または分離機能層が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。
【0048】
収縮することにより寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布において多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と多孔性支持層側表層における繊維配向度との差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することもでき、好ましい。
【0049】
本明細書において「繊維配向度」とは、多孔性支持層を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標である。連続製膜を行う際の製膜方向、すなわち不織布基材の長手方向を0°とし、前記製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
【0050】
繊維配向度は以下のように測定する。
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、該サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で100〜1000倍で撮影する。撮影像の中で、各サンプルから繊維を10本ずつ選び、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向、製膜方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定する。測定した角度の平均値において、小数点以下第一位を四捨五入して得られる値が繊維配向度である。
【0051】
基材の通気度は2.0cc/cm
2/sec以上であることが好ましい。通気度がこの範囲であると、複合半透膜の透水性能が高くなる。これは、多孔性支持膜を形成する工程で、基材上に高分子重合体を流延し、凝固浴に浸漬した際に、基材側からの非溶媒置換速度が速くなることで多孔性支持層の内部構造が変化し、その後の分離機能層を形成する工程においてモノマーの保持量や拡散速度に影響を及ぼすためと考えられる。
【0052】
なお、通気度はJIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定できる。例えば、200mm×200mmの大きさに基材を切り出し、サンプルとする。このサンプルをフラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から基材を通過する空気量、すなわち通気度を算出することができる。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製KES−F8−AP1などが使用できる。
また、基材の厚みは10〜200μmの範囲内にあることが機械的強度及び充填密度の点から好ましく、より好ましくは30〜120μmの範囲内である。
【0053】
本発明に使用する支持膜は、ミリポア社製”ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製”ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるし、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法などに従って製造することもできる。
【0054】
なお、基材の厚みおよび複合半透膜の厚みは、デジタルシックネスゲージによって簡易的に測定することができる。また、分離機能層の厚みは支持膜と比較して非常に薄いので、複合半透膜の厚みを支持膜の厚みとみなすことができる。従って、複合半透膜の厚みをデジタルシックネスゲージで測定し、複合半透膜の厚みから基材の厚みを引くことで、多孔性支持層の厚みを算出することができる。デジタルシックネスゲージとしては、株式会社尾崎製作所製”PEACOCK(登録商標)”などが使用できる。デジタルシックネスゲージを用いる場合は、20箇所について厚みを測定して平均値を算出する。
なお、基材の厚みもしくは複合半透膜の厚みをシックネスゲージによって測定することが困難な場合、走査型電子顕微鏡で測定してもよい。
【0055】
(1−3)保護層
本願発明者らは鋭意検討を行った結果、多官能脂肪族アミンと多官能酸ハロゲン化物とから構成されるポリアミド分離機能層上に直接又は他の層を介して設けられたポリマー成分を含有する保護層により、複合半透膜の2価イオン(特に、硫酸イオン)除去性能が向上すると共に、1価イオンと2価イオンとの選択分離性が向上することを見出した。
【0056】
まず、保護層によって、膜荷電を中性化することができるので、イオンと膜との静電相互作用を抑制することができる。その結果、膜における1価イオンの除去性を低減させることができる。さらに、保護層に含まれるポリマー成分が、2価イオンよりも大きな孔を塞ぐことができる。その結果、2価イオン(特に、硫酸イオン)の除去性を十分に高めることができると考えられる。
【0057】
ポリマー成分は、ポリアミド分離機能層及び多孔性支持膜を溶解せず、また水処理操作時に溶出しないポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、キトサン、及びケン化ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0058】
これらのうち、ポリビニルアルコールは、経済性、入手の容易さ、取り扱い易さの点から好ましい。特に、ポリビニルアルコールのケン化度が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ケン化度が85%以上であることで、分子鎖間水素結合の影響により、熱水(80℃程度)には可溶であるが常温付近(25℃程度)では水不溶性となり、水処理操作時におけるポリビニルアルコールの溶出を防止することができる。また、ポリビニルアルコールの重合度は、50〜50,000の範囲内にあることが好ましい。重合度が50以上であることで水への溶解性が低下し、水処理操作時におけるポリビニルアルコールの溶出を防止することができる。一方、重合度が50000以下であることにより、ポリビニルアルコール水溶液の粘度を好適に保つことができ、ポリビニルアルコール水溶液の塗布厚みを薄くすることができる。その結果、保護層としての上述の機能と膜の透水性を両立することができる。
【0059】
また、保護層中のポリマーを前記ポリアミド分離機能層に架橋させることにより、2価イオンの除去性を未架橋に比べ高めることができるほか、水処理操作時における保護層中のポリマーの溶出を高度に防止することができる。なお、架橋させるポリマーとしては取り扱い易さや透水性低下抑制の点から親水性ポリマーが好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましく、ケン化度85%以上のポリビニルアルコールがより好ましい。ケン化度によりポリビニルアルコールの反応性が変化するので、ケン化度85%以上であることで架橋による効果が高められる。
【0060】
ポリビニルアルコールを架橋させる方法としては、多価アルデヒド、エポキシ化合物、多価カルボン酸、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などの有機架橋剤、ホウ素化合物などの無機架橋剤を用いることが好ましく、経済性、入手の容易さ、取り扱い易さの点から、多価アルデヒドがより好ましく、反応性の容易さからグルタルアルデヒドが特に好ましい。
【0061】
保護層の厚さは特に制限されないが、通常0.01μm以上であり、好ましくは0.05μm以上である。保護層の厚さが薄すぎると水処理操作時にポリマー成分が溶出やすくなって膜性能が低下しやすくなる。また、保護層の厚さは通常5μm以下であり、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。一方、保護層の厚さが厚すぎると透過流束が低下しやすくなる。
【0062】
2.複合半透膜の製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。製造方法は、支持膜の形成工程および分離機能層の形成工程を含む。
【0063】
(2−1)支持膜の形成工程
支持膜の形成工程は、基材に高分子溶液を塗布する工程および溶液を塗布した前記基材を凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させる工程を含む。
【0064】
基材に高分子溶液を塗布する工程において、高分子溶液は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して調製する。
【0065】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、高分子としてポリスルホンを用いる場合、10℃〜60℃の範囲が好ましい。高分子溶液の温度が、この範囲内であれば、高分子が析出することがなく、高分子溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層が基材に強固に接合し、良好な支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0066】
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、0.1〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の種類や、所望の溶液粘度などによって適宜調整することができる。
【0067】
凝固浴としては、通常水が使われるが、多孔性支持層の成分である高分子を溶解しないものであればよい。凝固浴の組成によって得られる支持膜の膜形態が変化し、それによって得られる複合半透膜も変化する。凝固浴の温度は、5℃〜100℃が好ましい。さらに好ましくは10℃〜40℃である。凝固浴の温度が上限以下であれば、熱運動による凝固浴面の振動を抑えることができ、膜形成後の膜表面の平滑性を保持できる。また温度が下限以上であれば凝固速度が維持できるため、製膜性を向上できる。
【0068】
次に、このようにして得られた支持膜を、膜中に残存する溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は40℃〜100℃が好ましく、さらに好ましくは60℃〜95℃である。洗浄温度が上限以下であれば、支持膜の収縮度が大きくなり過ぎず、透水性能の低下を防ぐことができる。また、洗浄温度が下限以上であれば洗浄効果が十分となる。
【0069】
(2−2)分離機能層の形成工程
次に、複合半透膜を構成するポリアミド分離機能層の形成工程の一例として、界面重縮合を行うポリアミドの形成を挙げて説明する。ポリアミド分離機能層の形成工程では、脂肪族多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液とを用い、支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、ポリアミド分離機能層を形成する。
【0070】
脂肪族多官能アミン水溶液における脂肪族多官能アミンの濃度は1.0重量%以上8.0重量%以下であることが好ましい。脂肪族多官能アミンの濃度が1.0重量%以上であれば均一な分離機能層が形成され、十分な2価イオン除去性能が得られる。また、8.0重量%以下であれば分離機能層の厚みが厚くなり過ぎず、十分な1価イオン透過性および透水性が得られる。
【0071】
多官能酸ハロゲン化物を溶解する有機溶媒としては、水と非混和性のものであって、支持膜を破壊しないものであり、かつ、架橋ポリアミドの生成反応を阻害しない、溶解性パラメーター(SP値)が15.2(MPa)
1/2以上、かつ、logPが3.2以上の有機溶媒を用いる。SP値が15.2(MPa)
1/2以上、かつ、logPが3.2以上であることで、界面重縮合時の脂肪族多官能アミンの分配、拡散が最適化され、官能基量を増加することができる。代表例としては、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、1−デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられ、中でも取り扱いや性能発現の安定性からノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが好ましい。
【0072】
水と非混和性の有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物濃度は、0.01重量%以上5.0重量%以下の範囲内であると好ましく、0.1重量%以上3.0重量%以下の範囲内であるとより好ましく、0.2重量%以上1.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。多官能酸ハロゲン化物濃度が0.01重量%以上であることで十分な反応速度が得られ、また、5.0重量%以下であることで副反応の発生を抑制することができる。
【0073】
そして脂肪族多官能アミンとしてピペラジンを、多官能酸ハロゲン化物としてトリメシン酸クロリドを含有している場合、ピペラジン濃度/トリメシン酸クロリド濃度が5.0以上30.0以下であることが好ましく、10.0以上30.0以下であることがより好ましい。5.0以上30.0以下の範囲内であると、形成されたポリアミド中のピペラジン(Pip)とトリメシン酸クロリド(TMC)の存在比(モル比)としてPip/TMC≧1.2を得ることができ、高い2価イオン選択性が得られる。
【0074】
脂肪族多官能アミンを含有する水溶液には、界面活性剤が含まれていてもよい。例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、スチレンビス(ナフタレンスルホン酸ナトリウム)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムなどが挙げられる。界面活性剤が含まれることで、分離機能層と多孔性支持層との接着性を高める効果や、界面重縮合場を乱すことでポリアミド中の官能基量、特にアミノ基量が増加する効果を得られる。このとき、脂肪族多官能アミンとしてピペラジンを、多官能酸ハロゲン化物としてトリメシン酸クロリドを含有している場合は、ポリアミド中のPip/TMCの値を1.5にさらに近づけることができ、高い2価イオン選択性が得られる。
【0075】
脂肪族多官能アミンを含有する水溶液には、アルコールが含まれていてもよい。例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。アルコールが含まれることで、界面重縮合場を乱し、ポリアミド中の官能基量、特にアミノ基量が増加する効果を得られる。
【0076】
脂肪族多官能アミンを含有する水溶液には、アルカリ性化合物が含まれていてもよい。例えば、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、トリエチルアミンなどが挙げられる。アルカリ性化合物が含まれることで、界面重縮合反応にて発生するハロゲン化水素を除去し、脂肪族多官能アミンの反応性低下を抑制することができ、高い2価イオン選択性が得られる。
【0077】
脂肪族多官能アミンを含有する水溶液や、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液には、それぞれ、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0078】
界面重縮合を支持膜上で行うために、まず、脂肪族多官能アミンを含有する水溶液で支持膜表面を被覆する。脂肪族多官能アミンを含有する水溶液で支持膜表面を被覆する方法としては、支持膜の表面がこの水溶液によって均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、例えば、水溶液を支持膜表面にコーティングする方法、支持膜を水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。支持膜と脂肪族多官能アミンを含有する水溶液との接触時間は、5秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、10秒以上2分以下の範囲内であるとさらに好ましい。
【0079】
次いで、過剰に塗布された水溶液を液切り工程により除去することが好ましい。液切りの方法としては、例えば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法やエアーを吹き付けて除去する方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。
【0080】
その後、脂肪族多官能アミンを含有する水溶液で被覆した支持膜に、前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を塗布し、界面重縮合により架橋ポリアミドの分離機能層を形成させる。界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。
【0081】
前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液の塗布温度は、10℃以下が好ましい。塗布温度が10℃以下であれば、分離機能層の厚みが薄くなり、透水性が高くなる。
【0082】
次に、反応後の有機溶媒溶液を液切り工程により除去することが好ましい。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に保持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法や送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体(2流体)で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0083】
上述の方法により得られた複合半透膜は、さらに、25℃〜90℃の範囲内で1分間〜60分間熱水で洗浄処理する工程を付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性能をより一層向上させることができる。
【0084】
(2−3)保護層の形成工程
次に、保護層の形成工程を説明する。保護層の形成工程では、分離機能層上に直接又は他の層を介して、ポリマー成分を含有する保護層を形成する。
【0085】
保護層の形成工程は、具体的には、ポリマー成分を含有する溶液をポリアミド分離機能層上に直接又は他の層(例えば、親水性樹脂を含む親水性層など)を介して塗工するステップ、およびその後に溶液を乾燥させるステップを備える。
【0086】
塗工方法としては、例えば、噴霧、塗布、シャワーなどが挙げられる。溶媒としては、水の他、ポリアミド分離機能層等の性能を低下させない有機溶媒を併用してもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールなどの脂肪族アルコール;メトキシメタノール及びメトキシエタノールなどの低級アルコールが挙げられる。もちろん、これらは単独で用いても2種以上の混合溶媒として用いても構わない。
【0087】
溶液の温度は、該溶液が液体として存在する温度範囲であれば特に制限されないが、ポリアミド分離機能層の劣化防止の観点、及び取り扱いの容易さ等から10〜90℃であることが好ましく、10〜60℃であることがより好ましく、10〜45℃であることがさらに好ましい。
【0088】
前記溶液をポリアミド分離機能層上に塗工した後、溶液を乾燥させるステップは、例えば加熱または送風等により実行される。乾燥処理を行う際の温度は特に制限されないが、20〜160℃程度であることが好ましく、40〜130℃であることがより好ましく、60〜120℃であることがさらに好ましい。乾燥温度が20℃以上であることで、乾燥にかかる時間が短縮できると共に、溶液を充分に乾燥させることで、良好な膜性能を得ることができる。一方、温度が160℃以下であることで、熱による膜の構造変化が抑制されるので、良好な膜性能が得られる。
【0089】
前記ポリマー成分を架橋する方法として、以下にポリビニルアルコールを用いる場合の架橋方法を挙げる。架橋方法としては、例えば、乾燥処理後に酸性の多価アルデヒド溶液中に浸漬する方法(方法A)、また、ポリビニルアルコール及び多価アルデヒドを含有する酸性溶液をポリアミド分離機能層上に塗布し加熱乾燥して保護層を形成すると同時に、多価アルデヒドによってポリビニルアルコールをポリアミド分離機能層に架橋させる方法(方法B)が挙げられる。酸としては、無機酸でも有機酸でも構わないが、例えば、硫酸、塩酸等が使用される。更には、ポリビニルアルコール、および有機チタン系化合物、または有機ジルコニウム化合物を含有する水溶液をポリアミド分離機能層上に塗布し加熱乾燥して、架橋ポリビニルアルコールによる保護層を形成する方法(方法C)が挙げられる。経済性、操作性の容易さ等の点から方法Bがより好ましい。
【0090】
前記方法Bを用いる場合、溶液中のポリビニルアルコール濃度は、0.01〜1重量%であることが好ましく、0.1〜0.7重量%がより好ましい。溶液中のポリビニルアルコール濃度が0.01重量%以上であることは、保護層としての上述の機能を得るために好適である。また、溶液中のポリビニルアルコール濃度が1重量%以下であることは、保護層としての上述の機能と膜の透水性を両立する上で好適である。
【0091】
前記方法Bを用いる場合、多価アルデヒド濃度は、0.001〜0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.3重量%である。
前記方法Bを用いる場合、酸濃度は、0.01〜1モル/リットルの範囲内、より好ましくは0.01〜0.5モル/リットルの範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.3モル/リットルの範囲内とするとよい。濃度が0.01モル/リットル以上であることで、触媒としての酸の機能が十分に発現される。また、酸濃度が極端に高いと架橋反応を阻害することがあるが、酸濃度が1モル/リットル以下であれば、架橋反応を妨げにくい。
【0092】
また、複合半透膜の塩阻止性、透水性、及び耐酸化剤性等を向上させるために、従来公知の各種処理を施してもよい。
【0093】
3.複合半透膜の利用
本発明の複合半透膜は、二価イオンの除去に好適に用いることができる。例えば、カン水若しくは海水からの塩分除去またはミネラル調整、および食品分野での塩分除去またはミネラル調整などに適用可能である。
【0094】
より具体的には、本発明の複合半透膜は、蒸留法により淡水を得る方法において、原水(例えば、海水、地表水など)に対する蒸留前の膜分離処理に好適に用いられる。この膜分離処理によって、スケール成分が実用上問題とならない程度に低減された透過水を得ることができる。こうして得られる透過水を蒸留法により処理することで、淡水が得られる。このように、蒸留に用いられる水におけるスケール成分の濃度を低減することで、蒸留工程においてCaCO
3、Mg(OH)
2、CaSO
4などのスケールの析出を効果的に抑制することができる。
【0095】
本発明における蒸留法としては、多段蒸留法、多重効用法、蒸発圧縮法等が挙げられるが、特に多段蒸留法が好ましい。多段蒸留法は、1段で全量を蒸発させる方式と比較して、同一量の淡水を得るのに必要な熱エネルギーを大幅に減少させることができるため好ましい方法である。かかる多段蒸発法の条件等の詳細は、“「造水技術ハンドブック」、2004年11月25日、造水技術ハンドブック編集企画委員会編、財団法人造水促進センター発行、122〜124頁”等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0096】
また、この複合半透膜は、海底油田から原油の回収率向上を目的に油田内に注入する水を得るために、好適に用いられる。すなわち、2価イオン(特に、硫酸イオン)を含有する原水(例えば、海水、地表水など)の膜分離処理工程にこの複合半透膜を用いることで、前記2価イオン(特に、硫酸イオン)の濃度が実用上問題とならない程度に十分に低減された透過水を得ることができる。さらに、こうして得られる透過水では、その後の工程でも問題とならない程度に、2価イオン(特に、硫酸イオン)の濃度が低減されている。つまり、油田内に透過水を注入した際に、(1)原油中に含まれるBa
2+またはSr
2+と原水中に含まれる硫酸イオンとによりスケールが発生し、原油回収用の配管が閉塞すること;更に、(2)原油中に存在する硫酸イオン還元菌により硫化水素が発生し、原油品質が低下すること;を効果的に抑制することができる。また、一価イオンと二価イオンの混合溶液から二価イオン(特に、硫酸イオン)だけを選択的に分離することができるため、膜分離処理前後での浸透圧差が小さくなり、海水からの硫酸イオン除去に必要なエネルギーを大幅に減少させることができる。
【0097】
本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0098】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものはない。
【0100】
《特性評価1》
<MgSO
4除去率>
複合半透膜に、温度25℃、pH7.5、MgSO
4濃度2000mg/Lに調整した塩水を操作圧力0.48MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。供給水および透過水の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で測定して、それぞれの実用塩分、すなわちMgSO
4濃度を得た。こうして得られたMgSO
4濃度および下記式に基づいて、MgSO
4除去率を算出した。
MgSO
4除去率(%)={1−(透過液中のMgSO
4濃度)/(供給液中のMgSO
4濃度)}×100
【0101】
<NaCl除去率>
複合半透膜に、温度25℃、pH7.5、NaCl濃度500ppmに調整した評価水を操作圧力0.48MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。供給水および透過水の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で測定して、それぞれの実用塩分、すなわちNaCl濃度を得た。こうして得られたNaCl濃度および下記式に基づいて、NaCl除去率を算出した。
NaCl除去率(%)=100×{1−(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
【0102】
<膜透過流束>
前項の試験において、供給水(MgSO
4水溶液またはNaCl水溶液)の膜透過水量を測定し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)に換算した値を膜透過流束(m
3/m
2/日)とした。
【0103】
<2価イオン選択性>
前項の試験において求めた、MgSO
4除去率およびNaCl除去率を用いて、下記式に基づいて、2価イオン選択性を求めた。
2価イオン選択性=(MgSO
4除去率)/(NaCl除去率)
【0104】
<分離機能層を構成するピペラジンとトリメシン酸クロリドの存在比>
複合半透膜から基材を剥離し、多孔性支持層と分離機能層の積層体とした後、ジクロロメタンで多孔性支持層を溶解させることで、分離機能層を得た。得られた分離機能層を強アルカリ重水溶液にて加熱することにより加水分解し、加水分解後の重水溶液をろ過して
1H−NMR測定した。測定で得られたデータを解析し、ピークの面積値からピペラジンとトリメシン酸クロリドの存在比を算出した。
【0105】
<ゼータ電位>
複合半透膜を超純水で洗浄し、平板試料用セルに、複合半透膜の分離機能層面がモニター粒子溶液に接するようにセットし、大塚電子株式会社製電気泳動光散乱光度計(ELS−8000)により測定した。モニター粒子溶液としては、pH6、pH9にそれぞれ調整した10mM−NaCl水溶液にポリスチレンラテックスのモニター粒子を分散させた測定液を用いた。
【0106】
<分離機能層の厚み>
複合半透膜をPVAで包埋した後、四酸化オスミウムで染色して測定サンプルとした。
得られたサンプルをTEMトモグラフィーを用いて撮影し、得られた3D画像を解析ソフトにより解析した。TEMトモグラフィー分析には、日本電子製電界放出型分析電子顕微鏡JEM2100Fを用いた。30万倍の倍率での取得画像を用いて、分離機能層の厚みを50箇所の点について解析を行った。0.1ナノメートル以上の精度で上記の測定および解析を行い、平均厚みを式1より有効数字2桁で算出した。
分離機能層の厚み=測定厚みの和/標本数 ・・・(式1)
【0107】
<複合半透膜の作製>
(実施例1)
抄紙法で製造されたポリエステル繊維からなる不織布(通気度1.0cc/cm
2/sec)上に、ポリスルホンの15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を室温(25℃)で塗布厚み180μmでキャストした後、ただちに純水中に5分間浸漬することによって基材上に多孔性支持層を形成し、支持膜を作製した。
次に、この支持膜をピペラジンが1.0重量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが100ppm、リン酸三ナトリウムが1.0重量%となるように溶解した水溶液に10秒間浸漬した後、エアーノズルから窒素を吹き付け余分な水溶液を除去し、さらにn−デカン(SP値=15.8、logP=4.7)にトリメシン酸クロリドが0.20重量%となるように溶解した溶液を、多孔性支持層の表面全体に均一塗布した(塗布温度20℃)。1分間静置した後、膜面に2流体(純水とエアー)を吹き付けて、表面の溶液を除去した。その後、80℃の純水で洗浄し、複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、膜性能は、表1に示す値であった。
【0108】
(実施例2〜10、比較例1〜3)
実施例1において、ピペラジン濃度、トリメシン酸クロリド濃度、リン酸三ナトリウム濃度、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム濃度、トリメシン酸クロリドを溶解する溶媒を表1に示す値にした以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜の膜性能を表1に示す。
【0109】
(実施例11、12)
実施例1において、トリメシン酸クロリドの溶液塗布温度を表2に示す値にした以外は実施例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜の膜性能を表2に示す。
【0110】
(実施例13、比較例4)
実施例1において、2流体でトリメシン酸クロリド溶液を除去した後、表2に示す濃度のピペラジン水溶液に2分間浸漬させた。その後、80℃の純水で洗浄し、複合半透膜を得た。このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、膜性能は、表2に示す値であった。
【0111】
(実施例14)
実施例1で得た膜に対し、ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度500)0.2重量%、グルタルアルデヒド0.065重量%、酸触媒として硫酸を0.04モル/リットル含む水溶液を膜表面に塗布し、熱風乾燥機にて65℃で2分間乾燥し、架橋した。その後、未架橋物や酸触媒を除去するため70℃の熱水で洗浄を行い、イソプロピルアルコールを10重量%含む水溶液に10分間接触させた後、十分に水洗を行い、複合半透膜を得た。この膜の評価結果を表3に示す。
【0112】
(実施例15)
実施例1で得た膜に対し、ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度1000)0.2重量%を含む水溶液(イソプロパノール:水=3:7)を膜表面に塗布後、熱風乾燥機にて90℃で2分間乾燥させて保護層を形成し、複合半透膜を得た。この膜の評価結果を表3に示す。
【0113】
(実施例16)
実施例1で得た膜に対し、ポリビニルアルコール(ケン化度88%、平均重合度500)0.2重量%、有機チタン化合物(チタンラクテート)0.04重量%を含む水溶液を膜表面に塗布後、熱風乾燥機にて40℃で12時間乾燥し、ポリビニルアルコールを架橋した。その後、未架橋物や有機チタン化合物を除去するため70℃の熱水で洗浄を行い、イソプロピルアルコールを10重量%含む水溶液に10分間接触させた後、十分に水洗を行い、複合半透膜を得た。この膜の評価結果を表3に示す。
【0114】
(実施例17)
実施例4で得た膜に対し、実施例14と同様の方法で保護層を形成し、複合半透膜を得た。この膜の評価結果を表3に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
実施例1〜13より、NMRによって測定したポリアミド分離機能層中のピペラジンとトリメシン酸クロリドの存在比が1.2以上1.8以下の範囲にあることで、2価イオンの選択除去性が2以上と高いことがわかる。実施例11、12より、トリメシン酸クロリド溶液の塗布温度を低くすることで、透水性を高めることができる。また、実施例14〜17より、ポリアミド分離機能層上に保護層を形成することで、2価イオン除去率を高めることができる。
【0119】
《特性評価2》
複合半透膜に、温度25℃、pH7.5に調整した海水(TDS(Total Dissolved Solids)濃度約3.5%)を操作圧力1.0MPaで供給して膜ろ過処理を行ない、透過水、供給水の水質を測定することにより、下記式から、イオン除去率、TDS除去率、膜透過流束を次の式から求めた。
なお、イオン除去率の測定に於いて、原水および透過水中の溶質濃度のうち、陽イオンおよび陰イオン濃度の測定はイオンクロマトグラフ法で行った。装置は、日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフを使用した。また、TDS除去率の測定では、透過水および供給水の電気伝導度を東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で測定して、TDS濃度を求めた。
イオン除去率(%)=100×{1−(透過水中の各イオン濃度/供給水中の各イオン濃度)}
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
また、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって、膜透過流束(m
3/m
2/d)を表した。
【0120】
(実施例18)
実施例3で得た複合半透膜の特性評価2における評価結果を表4に示す。
【0121】
(実施例19)
実施例4で得た複合半透膜の特性評価2における評価結果を表4に示す。
【0122】
(実施例20)
実施例17で得た複合半透膜の特性評価2における評価結果を表4に示す。
【0123】
(比較例5)
比較例2で得た複合半透膜の特性評価2における評価結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4より、本発明の複合半透膜は、硫酸イオンやカルシウムイオン、マグネシウムイオンといった2価イオンの除去率が高いことがわかる。よって、スケール成分を十分に除去できる。
【0126】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2012年12月27日出願の日本特許出願(特願2012−285566)、2013年5月31日出願の日本特許出願(特願2013−115031)および2013年5月31日出願の日本特許出願(特願2013−115033)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。