(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のリバスチグミン含有貼付剤は、リバスチグミンを含む薬物層に粘着性を付与することが困難であったため、薬物層とは別途に粘着層を設ける必要があった。また、支持体、薬物層、粘着剤層等からなる3層以上の積層構造を有する貼付剤は、薬物と粘着剤等との相溶性が十分でない等の理由から、薬物の利用効率(リバスチグミンの皮膚透過性等)の点でも改善の余地があった。
【0005】
また、従来のリバスチグミン含有貼付剤においては、常温で液体であるリバスチグミンを粘着剤層中に高濃度で含有させることが困難であるだけでなく、粘着剤層においてコールドフロー(粘着剤層が、常温等の環境下で、軟化したり、流動変形したりする現象)が生じることがあった。コールドフローが生じると、貼付剤の外側に粘着剤層がはみ出てしまう結果、貼付剤が包装袋内に貼りついてしまい、貼付剤が包装袋から取り出しにくくなる等の問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、リバスチグミンの皮膚透過性に優れ、優れた粘着性を有し、かつコールドフローが生じにくいリバスチグミン含有貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リバスチグミン含有貼付剤の成分として所定のアクリル系粘着剤を配合することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0008】
支持体と、前記支持体上に位置する粘着剤層とを備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、
リバスチグミン及び/又はその薬学的に許容できる塩と、
アクリル系粘着剤と、を少なくとも含み、
前記アクリル系粘着剤は、下記の粘着剤(I)又は粘着剤(II)を含む貼付剤。
粘着剤(I):少なくともジアセトンアクリルアミドを構成成分として含むアクリル系共重合体。
粘着剤(II):少なくともアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートを構成成分として含むアクリル系共重合体。
【0009】
前記アクリル系粘着剤は、下記の粘着剤(I)又は粘着剤(II)を含む(1)に記載の貼付剤。
粘着剤(I): 下記アクリル系共重合体(A)100質量部、及び下記アクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部若しくはポリアミン化合物0.05〜2質量部からなる樹脂混合物。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
粘着剤(II): アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、前記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体。
【0010】
前記支持体及び前記粘着剤層のみからなる(1)又は(2)に記載の貼付剤。
【0011】
前記粘着剤層が、単一の層である(1)又は(2)に記載の貼付剤。
【0012】
アルツハイマー型認知症の治療又は予防に用いられる(1)から(4)のいずれかに記載の貼付剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リバスチグミンの皮膚透過性に優れ、優れた粘着性を有し、かつコールドフローが生じにくいリバスチグミン含有貼付剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0016】
本発明は、支持体と、上記支持体上に位置し、リバスチグミン等の所定の成分を含む粘着剤層とを備える貼付剤を提供する。支持体上に設けられた粘着剤層が皮膚に接着されることで、粘着剤層中のリバスチグミンが粘着剤層から皮膚へと吸収され、所望の治療効果が奏される。以下、本発明の貼付剤の各構成について説明する。
【0017】
[粘着剤層]
本発明における粘着剤層は、リバスチグミン及び/又はその薬学的に許容できる塩と、後述するアクリル系粘着剤と、を少なくとも含む。
【0018】
(リバスチグミン)
本発明におけるリバスチグミンとしては、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示すリバスチグミン(遊離体)及び/又はその薬学的に許容できる塩を使用できる。リバスチグミンの塩としては、リバスチグミン塩酸塩、リバスチグミン酒石酸塩等が挙げられ、皮膚透過性が良好である点でリバスチグミンの遊離体が好ましい。
【0019】
粘着剤層中のリバスチグミンの含有量は、得ようとする治療効果に応じて適宜調整でき、特に限定されない。粘着剤層中のアクリル系粘着剤が、後述する粘着剤(I)である場合、リバスチグミンは、粘着剤層中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上含まれていてもよい。また、粘着剤層中のアクリル系粘着剤が、後述する粘着剤(II)である場合、リバスチグミンは、粘着剤層中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上含まれていてもよい。本発明における粘着剤層中においては、リバスチグミンと粘着剤との相溶性が良好であるため、リバスチグミン含有量が高い場合であっても、コールドフロー(粘着剤層が、常温等の環境下で、軟化したり、流動変形したりする現象)や、ブリーディング(粘着剤層から成分がにじみ出す現象)が抑制される。また、本発明の貼付剤には、後述するアクリル系粘着剤が含まれるため、貼付剤中のリバスチグミンの含有量が相対的に高く、かつ、粘着剤の含有量が相対的に低くても、貼付剤の粘着性の低減が抑えられている。
【0020】
粘着剤層中のアクリル系粘着剤が、後述する粘着剤(I)である場合、リバスチグミンは、粘着剤層中に40質量%以下、好ましくは30質量%未満、さらに好ましくは25質量%以下、最も好ましくは、20質量%以下含まれていてもよい。また、粘着剤層中のアクリル系粘着剤が、後述する粘着剤(II)である場合、リバスチグミンは、粘着剤層中に40質量%以下、好ましくは30質量%未満、さらに好ましくは25質量%以下含まれていてもよい。本発明における粘着剤層中のリバスチグミン含有量が低い場合であっても、良好なリバスチグミンの皮膚透過性を実現できる。
【0021】
(粘着剤)
本発明における粘着剤は、下記の粘着剤(I)又は粘着剤(II)を含む。これらの粘着剤は、皮膚への粘着性が高く、かつ、皮膚刺激性が低いだけでなく、リバスチグミンとの反応性が低いため、リバスチグミンの経皮吸収性の低下を抑制できる。
【0022】
〔粘着剤(I)〕
粘着剤(I)は、少なくともジアセトンアクリルアミドを構成成分として含むアクリル系共重合体であり、好ましくは、下記アクリル系共重合体(A)100質量部、及び下記アクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部若しくはポリアミン化合物0.05〜2質量部からなる樹脂混合物である。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基(カルボキシ基)を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
【0023】
粘着剤(I)は、アクリル系共重合体(A)に含まれるジアセトンアクリルアミド由来のカルボニル基と、アクリル系共重合体(B)に含まれる第1級アミノ基やカルボキシヒドラジド基との架橋反応に基づく微細な網目構造を粘着剤層全体に形成させることができ、当該網目構造中にリバスチグミン等を保持することができる。
【0024】
粘着剤(I)は、例えば国際公開第2011/027786号パンフレットや、特開2005−325101号公報に従って調製できる。
【0025】
粘着剤(I)の具体的な調製方法としては、下記の方法が挙げられる。アクリル系共重合体(A)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、同じくモノマー成分であるジアセトンアクリルアミドをモノマー全体に対して3〜45質量%となるように添加して、ラジカル重合させる方法が例示される。これらのモノマー成分は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、常法により重合させることができる。これらのモノマーを重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
アクリル系共重合体(A)の数平均分子量は10万〜150万が好ましく、重量平均分子量は30万〜250万であることが好ましい。アクリル系共重合体(A)の分子量が上記の範囲であることにより、リバスチグミン含有貼付剤の粘着剤層が皮膚への適度な粘着性を示すようになるので好ましい。アクリル系共重合体(A)の数平均分子量は、上記の範囲の中でも、30万〜100万がより好ましく、50万〜80万が最も好ましい。また、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は、上記の範囲の中でも、50万〜200万であることがより好ましく、100万〜150万であることが最も好ましい。
【0028】
アクリル系共重合体(B)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分をモノマー全体に対して1〜30質量%となるように添加してラジカル重合させ、その後、カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖をカルボキシヒドラジド基に転換する方法が例示される。モノマー成分をラジカル重合させる際は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、常法により重合させればよい。モノマー成分をラジカル重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。なお、アクリル系共重合体(B)を製造する際に使用される(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記アクリル系共重合体(A)で例示したものと同様のものを使用することができる。
【0029】
また、アクリル系共重合体(B)中の第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基は、アクリル系共重合体(A)との適度の架橋性を発揮するために、アクリル系共重合体(B)の1分子鎖中、2個以上存在することが好ましく、3個以上存在することがより好ましい。
【0030】
さらに、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとを、これらのモル比が1:5〜1:100となるように混合して共重合させることが好ましい。
【0031】
アクリル系共重合体(B)に対して第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、第1級アミノ基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ビニルアミン等が例示される。
【0032】
アクリル系共重合体(B)に対してカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、ヒドラジド化合物と反応可能なケト基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ジアセトンアクリルアミド、アクロレイン、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が例示される。
【0033】
カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖をカルボキシヒドラジド基に転換させるには、上記ラジカル重合で得られた重合体を、極性溶媒に溶解させ、酸触媒の存在下、ジカルボン酸のジヒドラジドを反応させればよい。ジカルボン酸のジヒドラジドとしては、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド等が例示される。
【0034】
アクリル系共重合体(B)の数平均分子量は1500〜50000が好ましく、重量平均分子量は2000〜100000であることが好ましい。アクリル系共重合体(B)の分子量が上記の下限値以上であることにより、混合液がゲル化してしまうことが抑制され、粘着剤層を作製する際の塗工性が良好になるので好ましい。また、アクリル系共重合体(B)の分子量が上記の上限値以下であることにより、アクリル系共重合体(A)との間で適度な架橋状態を得ることができるので好ましい。アクリル系共重合体(B)の数平均分子量は、上記の範囲の中でも、2000〜10000であることがより好ましく、3000〜8000であることが最も好ましい。また、アクリル系共重合体(B)の重量平均分子量は、上記の範囲の中でも、5000〜20000であることがより好ましく、8000〜15000であることが最も好ましい。
【0035】
粘着剤(I)は、アクリル系共重合体(A)100質量部、及びポリアミン化合物0.05〜2質量部からなる樹脂混合物を粘着剤として使用することもできる。ポリアミン化合物としては、国際公開第2011/027786号パンフレット等に記載されるポリヒドラジド化合物(アジピン酸ジヒドラジド等)が挙げられる。これらの化合物は、上記パンフレットに従って調製できる。
【0036】
粘着剤層中の粘着剤(I)の含有量は、特に限定されないが、粘着剤層中50〜95質量%、好ましくは60〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%であってもよい。
【0037】
〔粘着剤(II)〕
粘着剤(II)は、少なくともアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートを構成成分として含むアクリル系共重合体であり、好ましくは、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、上記アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な1種又は2種以上のビニルモノマーとの共重合体であって、遊離カルボキシル基を含まない共重合体である。
【0038】
粘着剤(II)は、共重合体に含まれるアセトアセトキシアルキル基同士の架橋反応に基づく微細な網目構造を粘着剤全体に形成し、当該網目構造中にリバスチグミン等を保持することができる。
【0039】
粘着剤(II)は、例えば日本特許第3809462号明細書に従って調製でき、例えば、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと、他のビニルモノマーとの共重合体は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて常法により製造することができる。
【0040】
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキレングリコール類の一つの水酸基がアセトアセチル基でアシル化され、他の一つの水酸基がアクリル酸又はメタクリル酸でアシル化されたものが挙げられる。このような化合物としては、例えば、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルアクリレート等が好ましく使用され、2−アセトアセトキシエチルメタクリレートがより好ましく使用される。また、アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートの含量としては、共重合体総質量を100としたときに、5〜50質量%程度であることが好ましく、10〜45質量%程度であることがより好ましい。
【0041】
アセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なビニルモノマーとしては、ビニル基を分子内に有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、アルキル基の炭素数が1〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、分子内にヒドロキシル基、アミド基、アルコキシルアルキル基等の官能基を有する官能性モノマー類、及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類等を例示することができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0042】
アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体
的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。また、分子内に官能基を有する官能性モノマー類としては、具体的には、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
粘着剤層中の粘着剤(II)の含有量は、特に限定されないが、粘着剤層中50〜95質量%、好ましくは60〜90質量%、さらに好ましくは60〜85質量%であってもよい。
【0044】
粘着剤層中のアクリル系粘着剤として粘着剤(I)と粘着剤(II)との混合物を使用する場合は、粘着剤層中に粘着剤の総量が50〜95質量%、好ましくは60〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%であってもよい。
【0045】
(その他の成分)
本発明における粘着剤層には、必要に応じてその他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、酸化防止剤(抗酸化剤)、粘着付与剤、可塑剤、防腐剤、pH調整剤、キレート剤、経皮吸収促進剤、賦形剤、香料、色剤、脂肪酸、油脂、コレステロール等が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤(抗酸化剤)としては、トコフェロール(α−トコフェロール等)、そのエステル、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、1,3−ブチレングリコール、安息香酸等が挙げられる。
【0047】
なお、薬物の酸化を防止するための方法としては、上述の酸化防止剤を粘着剤層に配合する方法のほか、包装袋内に脱酸素剤を同封する方法、剥離ライナーや支持体又は包装袋に脱酸素剤を含ませる方法、包装袋内を減圧して空気を減らす方法、包装袋内を窒素ガス等の不活性ガスによって置換してから貼付剤を封入する方法、薬物安定性を向上させる剥離ライナー(酸素不透過性ライナー等)を貼付剤に積層させる方法等があり、これらの方法を必要に応じて適宜使用できる。
【0048】
粘着剤層中のその他の成分の含有量は、特に限定されないが、粘着剤層中にその他の成分の総量が0.01〜30質量%、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜15質量%であってもよい。
【0049】
本発明における粘着剤層は、可塑剤等を含まず、リバスチグミン及びアクリル系粘着剤からなるものであってもよい。本発明においては、粘着剤層中に可塑剤等が含まれなくとも、薬物の溶解性及び/又は粘着剤と薬物との相溶性が優れるため、粘着剤層を良好に形成できるうえに、皮膚刺激性が低く、リバスチグミンの皮膚透過性に優れる。また、本発明においては、粘着剤層中に可塑剤等が含まれなくとも、薬物の溶解性及び/又は粘着剤と薬物との相溶性が優れるため、ブリーディングが抑制された粘着剤層が得られ、皮膚粘着性も良好である。
【0050】
[支持体]
本発明における支持体は、薬剤成分に対して不透過性又は難透過性であり、かつ柔軟なものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・ブチルアクリレート・一酸化炭素共重合体、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂フィルムやアルミニウムシート等が挙げられる。これらが積層され、シート状に形成されてもよく、織布や不織布とともに積層されてもよい。支持体としては、リバスチグミンの安定性をより高められる点(具体的には、リバスチグミン類縁物質の生成を抑制できる点)で、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含むものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートを含む好ましい支持体としては、PET不織布とPETフィルムとの積層体等を例示できる。
【0051】
粘着剤層との接着性を高めるため、支持体の表面には、コロナ処理、プラズマ放電処理等の表面処理を施したり、アンカー剤によりアンカーコート処理を施したりしてもよい。
【0052】
支持体とは反対側の粘着剤層表面には、粘着剤層表面を保護するための剥離シートを設けてもよい。貼付剤の使用者が剥離シートを剥がして粘着剤層表面を露出させると、貼付剤は使用可能な状態となる。剥離シートの素材は、粘着剤層から容易に取り除くことができ、有効成分非透過性であることが好ましい。このような素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等のプラスティックフィルム、金属フィルム等の素材から選ばれる単層フィルム、又は2種以上の素材を積層した積層フィルムが挙げられる。これらのフィルムの表面をシリコン処理したものを用いることもできる。
【0053】
[貼付剤の調製方法]
本発明の貼付剤の調製方法は特に限定されず、公知の貼付剤の調製方法によって調製できる。例えば、粘着剤層を構成する成分を均一に撹拌し、得られた組成物を、塗工機を用いて支持体表面上に塗工乾燥した後に、本発明の貼付剤を得ることができる。なお、粘着剤層の表面に、粘着剤層と支持体との投錨性を高めるために公知のアンカー層を設けてもよい。かかる場合、粘着剤層とアンカー層は一体として粘着剤層を構成する。また、粘着剤層は、単一の粘着剤層からなるものであってもよく、複数の粘着剤層からなるものであってもよい。
【0054】
本発明の貼付剤は、従来の貼付剤同様に粘着剤層と薬物層とを別に設けて、支持体、薬物層及び粘着剤層等からなる3層以上の積層構造を有する貼付剤として調製してもよいが、本発明における粘着剤層は、薬物等の相溶性が良好であり、かつ、接着性に優れるため、支持体及び粘着剤層のみからなる貼付剤(つまり、2層以上の積層構造を有さない貼付剤)として調製してもよい。なお、支持体、薬物層に加えて、支持体とは反対側の粘着剤層表面に上述の剥離シートが設けられた貼付剤も「支持体及び粘着剤層のみからなる貼付剤」に含まれる。本発明の貼付剤を支持体及び粘着剤層のみからなる貼付剤として調製すると、粘着剤層と薬物層とが別に設けられている3層以上の積層構造を有する従来の貼付剤と比較して容易な製造工程によって調製できる。
【0055】
[本発明の貼付剤]
本発明の貼付剤は、リバスチグミンの皮膚透過性に優れる。リバスチグミンの皮膚透過性は、公知の皮膚透過性試験を行い、リバスチグミンの皮膚透過量及び/又は皮膚透過速度を測定することで評価する。
【0056】
上述の通り、本発明の貼付剤は、リバスチグミンの皮膚透過性等に優れるため、リバスチグミンを好適に体内へ経皮吸収させることができる。従って、本発明の貼付剤は、リバスチグミンの投与を簡便に行うことができるため、アルツハイマー型認知症の治療又は予防に好適に使用できる。
【0057】
また、本発明の貼付剤は、優れた粘着性を有する。貼付剤の粘着性は、貼付剤の剥離力を測定することで評価する。
【実施例】
【0058】
本発明について、以下の実施例により詳説するが、この実施例は本発明について例示するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
本実施例で使用したアクリル系粘着剤は、下記の粘着剤(I)又は粘着剤(II)である。
【0060】
<粘着剤(I)>
以下に示す合成方法によって得られた共重合体(A)の溶液と、共重合体(B)の溶液とを、質量比100:5(共重合体(A):共重合体(B))の割合で混合し、粘着剤(I)を得た。
【0061】
[粘着剤(I)の共重合体(A)]
アクリル酸2−エチルヘキシル200質量部、アクリル酸ブチル100質量部、ジアセトンアクリルアミド50質量部、及び酢酸エチル300質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに供給し、撹拌及び窒素置換しながら、75℃に昇温した。過酸化ベンゾイル2質量部を酢酸エチル20質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合を開始した。残りの4部を、反応開始後2時間目から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調節のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ4回添加した。反応終了後、冷却し、次いで酢酸エチルを添加することで、固形分濃度30質量%の粘着剤(I)に使用する共重合体(A)を得た。
【0062】
[粘着剤(I)の共重合体(B)]
アクリル酸エチル660質量部、ジアセトンアクリルアミド70質量部、分子量調節剤としてドデシルメルカプタン40質量部及び酢酸エチル400質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに供給し、撹拌及び窒素置換しながら、70℃に昇温した。アゾビスイソブチロニトリル5質量部を酢酸エチル100質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合を開始した。残りの4部を、反応開始後2時間目から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調節のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ3回添加した。その後、アジピン酸ジヒドラジド40質量部を、精製水40質量部、メタノール1600質量部、酢酸エチル260質量部の混合液に溶解したものを添加し、さらに濃塩酸5質量部を加えた後、70℃に昇温した。反応終了後、冷却し、精製水で3回洗浄した後、生成物を酢酸エチル700質量部、アセトン1400質量部、メタノール400質量部の混合溶媒に溶解させることで、固形分濃度30質量%の粘着剤(I)に使用する共重合体(B)を得た。
【0063】
<粘着剤(II)>
2−エチルヘキシルアクリレート158質量部、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート35.1質量部、メチルメタクリレート76.2質量部、ジアセトンアクリルアミド80.3質量部、及びテトラエチレングリコールジメタクリレート1.0質量部を均一に溶解しモノマー液を調製した。このモノマー液100質量部をジムロー冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管、及び撹拌翼を備えた2リットルの4つ口フラスコに仕込み、溶剤として酢酸エチル350質量部を加えた。100mL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら75℃まで昇温し、75℃で30分間維持した後、開始剤として過酸化ベンゾイル0.35質量部を酢酸エチル5質量部に溶解して添加し、外温を85℃に設定した。溶剤の還流を確認した後、残りのモノマー液を3時間かけて連続して投入した。モノマー液を連続投入開始から、1時間後から酢酸エチル500質量部を3時間かけて投入した。酢酸エチル投入後12時間撹拌を続けた後、過酸化ベンゾイル0.5質量部を追加触媒として投入し、12時間熱処理しその後に冷却して、粘着剤(II)を得た。
【0064】
[実施例1]
(貼付剤の調製)
表1記載の配合で組成物を作製し、本発明の処方については、支持体(PET不織布とPETフィルムとの積層体フィルムを使用した)上に塗工乾燥(60℃、15分)し、貼付剤を得た。また、従来の処方としては、支持体上に薬物層及び粘着剤層が設けられた市販品(ノバルティスファーマ株式会社製)を用いた。表1中、Duro tack 387−2051(ヘンケルジャパン株式会社製)及び、EUDRAGIT E100(別名:オイドラギットE100、デグサジャパン株式会社/株式会社樋口商会製)は、アクリル系粘着剤である。なお、表1中、「%」は質量%を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
(リバスチグミンの皮膚透過量の検討)
ヘアレスマウスの皮膚を直径24mmの円形に打ち抜き、得られた皮膚片を6ウェルのセルカルチャープレート(各ウェルには、レシーバ溶液としてPBS(pH7.4)を1.2mL入れた)に、真皮層側がウェル側となるように設置した。皮膚の角質層側に、直径10mmの円形に打ち抜いた貼付剤の粘着層(リバスチグミン濃度は、10、11、12.5、15、16、18、20、22、24又は26質量%のうちのいずれかである)を貼付した。温度条件を32℃に維持し、皮膚の設置から24時間にわたって、経時的に複数回レシーバ溶液を回収した。回収したレシーバ溶液中のリバスチグミン濃度をHPLCで測定し、得られた数値に基づいて、貼付後24時間での皮膚面積当たりのリバスチグミンの累積皮膚透過量を算出した。
【0067】
リバスチグミンの累積皮膚透過量の評価結果を
図1に示す(平均値±SD、n=3)。
図1に示される通り、本発明の貼付剤は、貼付剤のリバスチグミン濃度が低い値であっても、従来の貼付剤と同等の累積皮膚透過量、又は従来の貼付剤よりも高い累積皮膚透過量を示した。
【0068】
[実施例2]
表2記載の配合で組成物を作製し、本発明の処方については、支持体(PET不織布とPETフィルムとの積層体フィルムを使用した)上に塗工乾燥(60℃、15分)し、貼付剤を得た。また、従来の処方としては、支持体上に薬物層及び粘着剤層が設けられた市販品(ノバルティスファーマ株式会社製)を用いた。表2中、Duro tack 387−2051(ヘンケルジャパン株式会社製)及び、EUDRAGIT E100(別名:オイドラギットE100、デグサジャパン株式会社/株式会社樋口商会製)は、アクリル系粘着剤である。なお、表2中、「%」は質量%を示す。得られた貼付剤を皮膚への貼付し、24時間後の貼付剤の粘着性を、以下の試験法に準じて測定した。その結果を表3に示す。
【0069】
(貼付剤の剥離力の試験法)
各貼付剤を20mm幅に裁断した後、ユカタンマイクロピッグ摘出皮膚に貼付し、2kgローラーで1往復させて圧着した。32℃(湿度60%)条件下で24時間放置した後、貼付剤を皮膚から引っ張り試験機で300mm/minの速度で剥離し、剥離したときの最大及び最小の荷重の平均を剥離力とした。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示される通り、本発明の貼付剤は、貼付後24時間後であっても、従来の貼付剤同様の剥離力を有しており、従来の貼付剤と同等の優れた粘着性を有していることが認められた。
【0073】
[実施例3]
(貼付剤の調製)
表4記載の配合で組成物を作製し、本発明の処方については、支持体(PET不織布とPETフィルムとの積層体フィルムを使用した)上に塗工乾燥(60℃、15分)し、貼付剤を得た。また、従来の処方としては、支持体上に薬物層及び粘着剤層が設けられた市販品(ノバルティスファーマ株式会社製)を用いた。表4中、Duro tack 387−2051(ヘンケルジャパン株式会社製)及び、EUDRAGIT E100(別名:オイドラギットE100、デグサジャパン株式会社/株式会社樋口商会製)は、アクリル系粘着剤である。なお、表4中、「%」は質量%を示す。
【0074】
【表4】
【0075】
(皮膚刺激性の検討)
下記の手順に従い、貼付剤の皮膚刺激性について検討した。背部被毛を刈ったウサギの背部に、不織布粘着性包帯を使用して貼付剤を固定した。貼付から6時間後に貼付剤を剥がし、貼付剤を貼付した部位(以下、「適用部位」という)を、微温湯で湿らせた脱脂綿で軽く拭き取り、30分間放置した後に適用部位を観察した。観察終了後、適用部位と同一の部位に新たに貼付剤を固定し、同様の操作を7日間繰り返した。さらに、7日目の貼付剤(つまり、最後の貼付剤)を除去した48時間後及び72時間後にも同様に適用部位を観察した。観察は、下記のDraizeらの評価基準A及びBに基づいて行った。
【0076】
(Draizeらの評価基準)
基準A:紅斑及び痂皮の形成
紅斑なし=スコア0
ごく軽度の紅斑=スコア1
明らかな紅斑=スコア2
中等度から強度の紅斑=スコア3
強度の紅斑から軽度の痂皮形成=スコア4
基準B:浮腫の形成
浮腫なし=スコア0
ごく軽度の浮腫=スコア1
軽度の浮腫=スコア2
中等度の浮腫(約1mmの隆起がある)=スコア3
強度の浮腫=スコア4
【0077】
各貼付剤について、上記の基準A及びBに基づいたスコアを記録し、下式に基づき、各貼付剤ごとに平均スコアを算出した。
平均スコア=[(基準Aの総スコア)+(基準Bの総スコア)]/5
【0078】
図2に示される通り、本発明の貼付剤の皮膚刺激は、従来の貼付剤と同等程度に抑えられていた。また、本実施例で検討した本発明の貼付剤は、粘着剤層中に可塑剤が含まれないにも関わらず、良好な追従性を示した。また、本実施例の貼付剤において、ブリーディングは全く認められなかった。
【0079】
(耐コールドフロー試験)
実施例3の「本発明の処方1」に基づいて調製し、粘着剤層側に剥離シート(PETフィルム)を設けた貼付剤を包装袋に入れ、40℃で保存した。また、リバスチグミン含有貼付剤の市販品(ノバルティスファーマ株式会社製)を40℃で保存した。保存開始後3ヶ月及び6ヶ月の各時点において、各貼付剤を包装袋から取り出し、粘着剤層の様子を目視で確認した。
【0080】
図3の左列に示される通り、本発明の貼付剤においては、保存開始後3ヶ月及び6ヶ月のいずれの時点でも貼付剤の粘着剤層が流動変形しておらず、コールドフローが認められなかった。他方、
図3の右列に示される通り、市販品においては、保存開始後3ヶ月及び6ヶ月のいずれの時点でも貼付剤の外側に粘着剤層がはみ出て、貼付剤と包装袋とが強く密着しており、コールドフローが認められた。