特許第6269809号(P6269809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6269809
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20180122BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20180122BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20180122BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20180122BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20180122BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20180122BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20180122BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20180122BHJP
【FI】
   B60W20/40ZHV
   F02D29/00 C
   B60K6/48
   B60K6/52
   B60K6/54
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60W30/18
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-505176(P2016-505176)
(86)(22)【出願日】2015年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2015054760
(87)【国際公開番号】WO2015129571
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-39107(P2014-39107)
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 雅一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 資巧
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−189798(JP,A)
【文献】 特開2013−028208(JP,A)
【文献】 特開2010−149714(JP,A)
【文献】 特開2001−065679(JP,A)
【文献】 特開2006−306209(JP,A)
【文献】 特開2013−180611(JP,A)
【文献】 特開平08−058436(JP,A)
【文献】 特開平10−324178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
B60K 6/20 − 6/547
F02D 29/00 − 29/06
B60K 31/00 − 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置であって、
前記変速装置は、前記内燃機関に駆動連結された変速入力部材と、前記車輪に駆動連結された変速出力部材と、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構と、を備え、
前記回転電機は、前記内燃機関が前記変速装置を介して駆動連結された前記車輪とは異なる別車輪に駆動連結され、又は、前記回転電機は、前記変速出力部材と前記車輪との動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結され、
前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、前記回転電機のトルクにより車両が走行しているニュートラル走行状態から前記変速装置に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置が係合される際に、前記変速入力部材の回転速度が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材の回転速度である変速後入力回転速度よりも高くなるように、前記内燃機関の回転速度を制御する車両用制御装置。
【請求項2】
車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置であって、
前記変速装置は、前記内燃機関に駆動連結された変速入力部材と、前記車輪に駆動連結された変速出力部材と、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構と、を備え、
前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が異なる前記変速段を形成するための遷移期間ではなく前記変速段を形成していないニュートラル状態で、動力の伝達を行っていないニュートラル走行状態から前記変速装置に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置が係合される際に、前記変速入力部材の回転速度が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材の回転速度である変速後入力回転速度よりも高くなるように、前記内燃機関の回転速度を制御する車両用制御装置。
【請求項3】
前記ニュートラル走行状態とは、車両を慣性走行させて当該慣性走行の距離を伸ばす場合で、前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていない走行状態である請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記変速入力部材の回転速度が、前記変速後入力回転速度よりも高くなった後、前記変速後入力回転速度よりも低くならないように、前記内燃機関の回転速度を制御する請求項1から3の何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記変速入力部材又は前記変速入力部材と同期回転する部材の回転速度である入力同期回転速度の時間的変化と、前記変速出力部材又は前記変速出力部材と同期回転する部材の回転速度である出力同期回転速度の時間的変化とに基づいて、前記変速入力部材の回転速度が前記変速後入力回転速度未満になるか否かを判定し、
前記変速入力部材の回転速度が前記変速後入力回転速度未満になると判定された場合に、前記変速入力部材の回転速度が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材の回転速度である前記変速後入力回転速度よりも高くなるように、前記内燃機関の回転速度を制御する請求項1から4の何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、目標とするトルクを出力するように制御されるトルク制御と、目標とする回転速度で回転するように制御される回転速度制御との少なくとも2つの制御方式により駆動制御可能であり、
前記変速入力部材の回転速度を前記変速後入力回転速度よりも高くするように、前記内燃機関の回転速度を制御するに際して、前記内燃機関の制御方式を前記トルク制御から前記回転速度制御に変更する請求項1からの何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記車両用駆動装置は、回転電機と、車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えるものであり、
記回転電機、前記内燃機関が前記変速装置を介して駆動連結された前記車輪とは異なる別車輪に駆動連結される場合、前記ニュートラル走行状態は、前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態であって、前記回転電機のトルクが前記別車輪に伝達されている状態で実現され
前記回転電機、前記変速出力部材と前記車輪との動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結される場合、前記ニュートラル走行状態は、前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態であって、前記回転電機のトルクが前記車輪に伝達されている状態で実現される、請求項1からの何れか一項に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関及び変速装置を備えた自動車では、停車前や緩やかな下り坂を走行する際にドライバーがアクセルを戻して自動車を慣性走行させる場合がある。慣性走行の際に、変速装置の係合装置が係合していると、走行に対する抵抗力を生じる。例えば、緩やかな下り坂を継続して走行する場合などでは、燃料消費を増加させることにつながる。このため、このような場合では、変速装置が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態(内燃機関と車輪との間の動力伝達が解消された状態)に制御されることがある。ここで、ドライバーによりアクセルが操作され、車両を加速させるためには、ニュートラル状態の変速装置に、車両の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させる必要がある。
【0003】
このように、変速装置に変速段を形成させるために係合装置を係合させる際には、当該係合装置の内燃機関側の回転部材の回転速度と、車輪側の回転部材の回転速度とが所定の範囲内で一致していることが好ましい。しかし、変速装置がニュートラル状態のままで下り坂を走行し、車両の走行速度が上昇していくと、車輪の回転速度が上昇して変速装置の係合装置の車輪側の回転部材の回転速度が内燃機関側の回転部材の回転速度を越え、両者の速度差が開いていく可能性がある。この状態で、車輪に負トルクが伝達されることを抑制しつつ係合装置を係合させて変速装置に変速段を形成させるためには、係合装置の内燃機関側の回転部材の回転速度を上げるために内燃機関の出力トルクを制御して変速装置の入力軸の回転速度を上昇させる必要が生じる。すなわち、内燃機関の出力トルクが上昇し、変速装置の入力軸の回転速度が上昇して、係合装置の内燃機関側の回転部材の回転速度が車輪側の回転部材の回転速度より高くなるまでは、係合装置を係合しても車輪に負トルクが伝達されることになるために係合装置を係合できなかったり、変速段を形成するための係合装置の一つがワンウェイクラッチであるために車輪に正トルクが伝達されなかったりするため、車輪への駆動力の伝達に応答遅れが生じることになる。その結果、ドライバーが体感する加速フィーリングが悪化する可能性がある。
【0004】
また、近年、駆動力源として、内燃機関と回転電機とを搭載したハイブリッド自動車が実用化されている。このようなハイブリッド自動車の中には、車両の前輪及び後輪の何れか一方を内燃機関により駆動し、他方を回転電機により駆動するように構成されたものもある。このような自動車では、前輪及び後輪の一方のみを駆動することによって、内燃機関を用いたエンジン走行、又は回転電機を用いたEV(Electric Vehicle)走行を行い、双方を駆動するハイブリッド走行では四輪駆動走行を行うことができる。特開2013−180611号公報(特許文献1)には、そのような車両の一例として、エンジン走行時には前輪駆動、EV走行時には後輪駆動、ハイブリッド走行時には四輪駆動となるハイブリッド車両が開示されている(図1図2、第19段落等)。
【0005】
当然ながら、このような車両においては、エンジン走行からハイブリッド走行への移行や、EV走行からハイブリッド走行への移行といった駆動方式の遷移が生じる。EV走行時においては、変速装置はニュートラル状態に設定される。EV走行からハイブリッド走行に移行する際には、上記と同様に、車両の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を変速装置に形成させる必要がある。しかし、例えばEV走行において加速中に、トルク不足等が生じ、ハイブリッド走行に移行するような場合には、車両の走行速度も上昇している。従って、このようなハイブリッド自動車においても、上記と同様の問題が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−180611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景に鑑みて、変速装置が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態で走行する車両の走行速度が上昇している場合であっても、迅速に変速装置に変速段を形成させることができる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係る車両用制御装置は1つの態様として、
車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置であって、
前記変速装置は、前記内燃機関に駆動連結された変速入力部材と、前記車輪に駆動連結された変速出力部材と、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構と、を備え、
前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が異なる前記変速段を形成するための遷移期間ではなく前記変速段を形成していないニュートラル状態で、動力の伝達を行っていないニュートラル走行状態から前記変速装置に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置が係合される際に、前記変速入力部材の回転速度が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材の回転速度である変速後入力回転速度よりも高くなるように、前記内燃機関の回転速度を制御する。
尚、例えば、前記ニュートラル走行状態とは、前記車両を慣性走行させて当該慣性走行の距離を伸ばす場合で、前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていない走行状態とすることができる。
また、別の態様として、車両用制御装置は、回転電機と、車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置の場合
前記変速装置は、前記内燃機関に駆動連結された変速入力部材と、前記車輪に駆動連結された変速出力部材と、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構と、を備え、
前記回転電機は、前記内燃機関が前記変速装置を介して駆動連結された前記車輪とは異なる別車輪に駆動連結され、又は、前記回転電機は、前記変速出力部材と前記車輪との動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結され、
前記車輪の回転中で且つ前記変速装置が前記変速段を形成しておらず、前記回転電機のトルクにより車両が走行しているニュートラル走行状態から前記変速装置に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置が係合される際に、前記変速入力部材の回転速度が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材の回転速度である変速後入力回転速度よりも高くなるように、前記内燃機関の回転速度を制御する。
【0009】
ニュートラル走行状態において、変速出力部材の回転速度が上昇しており、変速後入力回転速度が変速入力部材の回転速度を上回っている場合には、車輪に負トルクが伝達されることを抑制しつつ変速段を形成するためには、変速入力部材の回転速度を変速後入力回転速度よりも高くする制御を行う必要がある。このため、変速装置に変速段が形成されるまでに遅れが生じ、迅速な動力伝達が実施できない可能性がある。しかし、本構成によれば、変速段を形成するための係合装置が係合される際に、変速入力部材の回転速度が、変速後入力回転速度よりも高くなるように、内燃機関の回転速度が制御される。従って、内燃機関の駆動力を車輪に伝達する必要が生じた際に、車輪に負トルクが伝達されることを抑制しつつ、変速装置に変速段を迅速に形成させて内燃機関の駆動力を迅速に車輪に伝達することが可能となる。即ち、変速装置が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態で走行する車両の走行速度が上昇している場合であっても、迅速に変速装置に変速段を形成させることができる。
ここで、上述したように、ニュートラル走行状態とは、車両を慣性走行させて当該慣性走行の距離を伸ばす場合で、車輪の回転中で且つ変速装置が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていない走行状態とすることができる。例えば、車両が緩やかな下り坂を走行する際にドライバーがアクセルを戻して自動車を慣性走行させる場合がある。慣性走行の際に、変速装置が変速段を形成していると、車輪の回転に応じてエンジンが従動回転する状態、いわゆるエンジンブレーキ状態となり、車両の減速方向のトルクが車輪に作用する。慣性走行の距離を伸ばして車両の燃料消費を低減するために、このような場合に、変速装置がニュートラル状態に制御されることがある。そして、このようなニュートラル状態から、ドライバーのアクセル操作に応じて車両を加速させるためには、ニュートラル状態の変速装置に、車両の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させる必要がある。上述した構成によれば、迅速に変速装置に変速段を形成させることができる。
ところで、駆動力源として内燃機関及び回転電機を備えたハイブリッド自動車では、内燃機関及び変速装置を用いたエンジン走行、回転電機を用いたEV走行、これらの双方を用いたハイブリッド走行を行うことができる。ここで、一般的には、EV走行時に、変速装置はニュートラル状態であるから、EV走行からハイブリッド走行へと駆動方式が遷移する際には、上記と同様に、ニュートラル状態の変速装置に車両の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させることが好ましい。しかし、EV走行において加速中に、トルク不足等が生じ、ハイブリッド走行に移行するような場合には、車両の走行速度も上昇している可能性が高い。駆動力源として内燃機関及び回転電機を備えている場合、回転電機のトルクにより車両が走行し、変速装置が変速段を形成しておらずに動力の伝達を行っていないニュートラル走行状態で走行する車両の走行速度が上昇している場合であっても、上述した構成によれば、迅速に変速装置に変速段を形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両用駆動装置及び車両用制御装置の構成例を模式的に示すブロック図
図2】車両用駆動装置のスケルトン図
図3】変速装置(変速機構)の作動表
図4】変速機構の各回転要素間における回転速度の関係を示す速度線図(共線図)
図5】高回転処理を行うタイミングの一例を示すタイミングチャート
図6】高回転処理を行わない場合の一例(比較例)を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る車両用制御装置が制御対象とする車両用駆動装置は、車輪の駆動力源として、少なくとも内燃機関(エンジン)と、変速装置とを備えて構成されている。ここでは、車両用駆動装置が、車輪の駆動力源として更に、回転電機(モータ)を備えているハイブリッド自動車を例として本発明の好適な実施形態を説明する。
【0012】
図1に示すように、車両100は、車輪Wの駆動力源としてのエンジンE(内燃機関)と、同様に車輪Wの駆動力源としてのモータM(回転電機)と、変速装置20とを備えた駆動装置10(車両用駆動装置)を備えている。エンジンEは、ガソリンや軽油、エタノール、天然ガスなどの炭化水素系の燃料や水素などの爆発燃焼により動力を出力する内燃機関である。モータMは交流回転電機であり、インバータ71は不図示のバッテリから供給される直流電力とモータMの交流電力との間で電力を変換する。尚、モータMは、発電機としても機能することができる。本実施形態では、後輪Wrの駆動力源としてエンジンEが用いられ、前輪Wfの駆動力源としてモータMが用いられる。即ち、車両100は、エンジンEを用いたエンジン走行(後輪駆動走行)、モータMを用いたEV走行(前輪駆動走行)、双方を用いたハイブリッド走行(四輪駆動走行)を行うことができる。駆動力源としてのモータMの駆動力は、動力伝達装置としてのモータ係合装置75及びモータ用差動歯車装置76を介して前輪Wfに伝達される。
【0013】
図1及び図2に示すように、変速装置20は、エンジンEの出力軸14に取り付けられた流体伝動装置22と、流体伝動装置22を介してエンジンEに駆動連結された変速入力部材31と、ギヤ機構48及びディファレンシャルギヤ49(出力用差動歯車装置)を介して車輪Wに駆動連結された変速出力部材32と、変速機構30と、油圧回路50とを備えて構成されている。油圧回路50は、流体伝動装置22や変速機構30に作動油を供給する。
【0014】
詳細は後述するが、変速機構30は、複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される。変速装置20は、各変速段の変速比で、変速入力部材31の回転速度を変速するとともにトルクを変換して、変速出力部材32へ伝達する。変速装置20から変速出力部材32へ伝達されたトルクは、ディファレンシャルギヤ49を介して左右二つの車軸に分配されて伝達され、各車軸に駆動連結された車輪W(ここでは後輪Wr)に伝達される。ここで、変速比は、変速機構30において各変速段が形成された場合の、変速出力部材32の回転速度に対する変速入力部材31の回転速度の比である(例えば“変速入力部材31の回転速度/変速出力部材32の回転速度”)。換言すれば、変速出力部材32の回転速度は、“変速入力部材31の回転速度/変速比”となる。また、変速機構30から変速出力部材32に伝達されるトルクは、“変速入力部材31から変速機構30に伝達されるトルク×変速比”となる。
【0015】
ここで、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルク)を伝達可能に連結された状態を意味し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念である。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦クラッチ(摩擦係合装置)等が含まれていても良い。従って、本実施形態では、変速入力部材31は流体伝動装置22を介してエンジンEに駆動連結されており、変速出力部材32はディファレンシャルギヤ49を介して車輪Wに駆動連結されている。
【0016】
流体伝動装置22は、図2に示すように、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されている。流体伝動装置22は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ステータ25と、ワンウェイクラッチ26と、ロックアップクラッチ28とを備えている。入力側流体伝動要素としてのポンプインペラ23は、フロントカバー18を介してエンジンEの出力軸14(クランクシャフト)に接続されている。出力側流体伝動要素としてのタービンランナ24は、タービンハブを介して変速機構30の変速入力部材31に接続されている。ステータ25は、ポンプインペラ23およびタービンランナ24の内側に配置されてタービンランナ24からポンプインペラ23への作動油の流れを整流する。ワンウェイクラッチ26は、ステータ25の回転方向を一方向に制限する。ロックアップクラッチ28は、係合によって、ポンプインペラ23(フロントカバー18)とタービンランナ24(タービンハブ)とを連結するロックアップを実現する。
【0017】
流体伝動装置22は、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が大きいときにはステータ25の作用によってトルク増幅機として機能し、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が小さいときには流体継手として機能する。ロックアップクラッチ28によってポンプインペラ23とタービンランナ24とがロックアップされると、エンジンEからの動力が変速入力部材31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。尚、ロックアップクラッチ28にはダンパ機構が設けられており、ロックアップの際に変速入力部材31に伝達されるトルクの変動は、このダンパ機構によって吸収される。
【0018】
変速装置20(変速機構30)は、変速比の異なる6つの前進変速段と、1つの後進段とを選択的に形成可能に構成されている。図2に示すように、本実施形態では、変速機構30は、後述するように3つの回転要素(S1,R1,CA1)を有するシングルピニオン式の第1遊星歯車機構35と、4つの回転要素(S2,S3,R2,CA2)を有するラビニヨ式の第2遊星歯車機構37と、3つのクラッチ(C1,C2,C3)と、2つのブレーキ(B1,B2)と、ワンウェイクラッチF1とを備える。
【0019】
第1遊星歯車機構35は、外歯歯車としてのサンギヤS1と、このサンギヤS1と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤR1と、サンギヤS1に噛合すると共にリングギヤR1に噛合する複数のピニオンギヤP1と、複数のピニオンギヤP1を自転かつ公転自在に保持するキャリアCA1とを備えて構成されている。サンギヤS1は、非回転部材としてのケースCSに固定されている。キャリアCA1は、第3クラッチC3により第2遊星歯車機構37の第2サンギヤS3と選択的に一体回転するように駆動連結されると共に、第1クラッチC1により第2遊星歯車機構37の第1サンギヤS2と選択的に一体回転するように駆動連結され、第1ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。リングギヤR1は、変速入力部材31と一体回転するように駆動連結されている。
【0020】
第2遊星歯車機構37は、外歯歯車の2つのサンギヤ(S2,S3)と、内歯歯車のリングギヤR2と、第1サンギヤS2に噛合する複数のショートピニオンギヤP2と、第2サンギヤS3および複数のショートピニオンギヤP2に噛合すると共にリングギヤR2に噛合する複数のロングピニオンギヤP3と、複数のショートピニオンギヤP2および複数のロングピニオンギヤP3とを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリアCA2とを備えて構成されている。第2遊星歯車機構37の第1サンギヤS2は、第1クラッチC1により第1遊星歯車機構35のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されている。第2サンギヤS3は、第3クラッチC3により第1遊星歯車機構35のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第1ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定されている。キャリアCA2は、第2クラッチC2により変速入力部材31と選択的に一体回転するように駆動連結されると共に、第2ブレーキB2又はワンウェイクラッチF1により非回転部材としてのケースCSに選択的に固定される。
【0021】
ワンウェイクラッチF1は、ケースCSに対するキャリアCA2の相対回転を一方の方向である第一方向(ここでは正回転方向)には許容し、反対方向である第二方向(ここでは負回転方向)には規制することによりキャリアCA2を選択的にケースCSに固定する。すなわち、ワンウェイクラッチF1は、相対回転する2つの部材の当該相対回転の方向が第一方向である場合に解放状態となり、相対回転の方向が第一方向とは反対の第二方向になろうとした場合に係合状態となる一方向係合装置である。リングギヤR2は、変速出力部材32と一体回転するように駆動連結されている。
【0022】
本実施形態では、変速装置20(変速機構30)が有するワンウェイクラッチF1を除く複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2)は、何れも摩擦係合装置である。これらの係合装置は、例えば、油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキにより構成されている。摩擦係合装置は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する動力伝達機構である。摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルク(伝達トルク容量)の大きさは、摩擦係合装置の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。係合圧(係合の状態)は、油圧回路50を介して供給される油圧により制御される。尚、モータ係合装置75も摩擦係合装置である。
【0023】
本実施形態において、係合状態(係合している状態)とは、係合装置に伝達トルク容量が生じている状態であり、入力側係合部材と出力側係合部材との間に回転速度差(滑り)が生じている状態(滑り係合状態)と、回転速度差が生じていない状態(直結係合状態)とが含まれる。非係合状態(解放状態)とは、係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。尚、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0024】
図3は変速装置20(変速機構30)の各変速段とクラッチ(C1,C2,C3,F1)、ブレーキ(B1,B2)の作動状態との関係を表している。図3において、「○」は各係合装置が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合装置が解放状態にあることを示している。「(○)」は、エンジンブレーキを行う場合などにおいて、係合装置が係合した状態にされることを示している。また、「△」は、一方向に回転する場合には解放した状態となり、他方向に回転する場合には係合した状態となることを示している。
【0025】
この変速機構30は、図3の作動表に示すように、クラッチ(C1,C2,C3,F1)の係合又は開放(非係合)と、ブレーキ(B1,B2)の係合又は開放(非係合)との組み合わせによって前進1速段(第1段:1st)〜前進6速段(第6段:6th)と、後進段(REV)と、ニュートラル(N)とを切り替えることができる。尚、ニュートラルとは、変速機構30が何れの変速段(第1段〜第6段、後進段)も形成しておらず、動力の伝達を行っていない状態である(以後適宜「ニュートラル状態」と称する場合がある)。尚、各前進変速段は、変速比(減速比)が大きい順に、第1段(1st)、第2段(2nd)、第3段(3rd)、第4段(4th)、第5段(5th)、第6段(6th)である。図4は、変速機構30を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示している。
【0026】
図1に示すように、駆動装置10は、制御装置1(車両用制御装置)によって駆動制御される。駆動装置10を制御対象とする制御装置1は、エンジンECU(Electronic Control Unit)16、ブレーキECU17、モータECU70、変速装置ECU80などを備えて構成されている。各ECUは、マイクロコンピュータなどの論理プロセッサを中核として構成され、周辺回路(メモリなど)を含むハードウェアと、当該プロセッサ上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって、その機能を実現する。
【0027】
エンジンECU16は、車速センサ98、エンジン回転速度センサ14a、アクセルペダルポジションセンサ94などの検出結果に基づいてエンジンEを制御する。車速センサ98は、例えば車輪Wの回転に基づき、車両100の走行速度(車速)を検出する。エンジン回転速度センサ14aは、エンジンEの出力軸14に取り付けられ、エンジン回転速度などのエンジンEの運転状態を検出する。アクセルペダルポジションセンサ94は、アクセルペダル93の操作量を検出し、エンジンECU16はこの操作量から換算されるアクセル開度に基づいて演算を行う。エンジンECU16は、スロットルバルブ(不図示)を駆動するスロットルモータ(不図示)への駆動信号や燃料噴射弁(不図示)への制御信号,点火プラグ(不図示)への点火信号などを出力し、エンジンEを制御する。エンジンECU16は、エンジンEが目標とするトルクを出力するように制御するトルク制御と、エンジンEが目標とする回転速度で回転するように制御する回転速度制御との少なくとも2つの制御方式により、エンジンEを駆動制御可能である。通常、エンジンECU16は、トルク制御方式によってエンジンEを駆動制御する。
【0028】
ブレーキECU17は、車速センサ98、ブレーキペダルポジションセンサ96などの検出結果に基づいて、不図示のブレーキ(例えば電子制御式油圧ブレーキ)を制御する。ブレーキペダルポジションセンサ96は、ブレーキペダル95の操作量を検出し、ブレーキECU17は、この操作量から換算されるブレーキ量に基づいて演算を行う。モータECU70は、車速センサ98、アクセルペダルポジションセンサ94、ブレーキペダルポジションセンサ96、レゾルバなどのモータ回転速度センサ73、モータMのステータコイルに流れる電流を検出する電流センサ74などの検出結果に基づいて、インバータ71を介してモータMを制御する。
【0029】
変速装置ECU80は、車速センサ98、アクセルペダルポジションセンサ94、ブレーキペダルポジションセンサ96、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92、変速入力部材31など変速装置20の入力側の回転を検出する入力側回転速度センサ31a、変速出力部材32など変速装置20の出力側の回転を検出する出力側回転速度センサ32aなどの検出結果に基づいて、変速装置20を制御する。図1及び図2に示すように、変速装置ECU80は、油圧回路50を制御することによって流体伝動装置22や変速機構30を制御する。
【0030】
制御装置1は、さらに統合制御機能を備えている。統合制御機能は、エンジンE、モータM、変速装置20、モータ係合装置75などに対して行われる各種制御を車両全体として統合する制御機能である。制御装置1が、エンジンECU16、ブレーキECU17、モータECU70、変速装置ECU80などとは別に、不図示の統合制御ECUを備えて構成されていても良いし、制御装置1が統合制御ECUを構成し、統合制御ECUの中に、エンジンECU16、ブレーキECU17、モータECU70、変速装置ECU80などが含まれる形態であってもよい。何れにしても、制御装置1は、統合制御処理を実行するプロセッサを有し、当該プロセッサなどのハードウェアと、当該プロセッサ上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって統合制御機能を実現する。
【0031】
制御装置1は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量などに応じて、車輪Wの駆動のために要求されているトルク(車両要求トルクTrq)を算出し、エンジンE及びモータMを用いた走行モードを決定する。走行モードとしては、上述したように、モータMのみを駆動力源として走行するEV走行モードと、エンジンEを用いたエンジン走行モードと、双方を用いたハイブリッド走行モードとがある。例えば、車両100の発進時に、バッテリの充電量が充分であれば、EV走行モードが選択される。EV走行モードで発進した後、アクセル開度が大きい場合や、トルク不足が生じた場合には、EV走行モードからハイブリッド走行モードに移行される。
【0032】
EV走行時においては、変速装置20は、何れの変速段も形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態に設定される。そして、EV走行からハイブリッド走行に移行する際には、ニュートラル状態の変速装置20に、車両100の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させる必要がある。しかし、例えばEV走行において加速中に、トルク不足等が生じ、ハイブリッド走行に移行するような場合には、車両100の走行速度も上昇している。このような場合であっても、係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)を迅速に係合して、変速装置20に変速段を形成させることが求められる。
【0033】
本実施形態においては、図5のタイミングチャートに示すように、制御装置1は、少なくとも変速段を形成するための係合装置が係合される際(概ね時刻t30)に、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が、後述する変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御する。この制御は、回転数制御により行われる。詳細は後述するが、図5に示すように、内燃機関Eは、最初にトルク制御されており、時刻t10から回転速度制御される。この時刻t10から始まる回転速度制御は、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御する制御であり、ここでは“高回転処理”と称する。高回転処理は、変速段を形成するための係合装置の係合時(概ね、時刻t30)までの間、変速入力軸回転速度ωinが、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように実行される。
【0034】
尚、変速後入力回転速度ωin_cとは、特定の変速段の形成後の変速入力部材31の回転速度である。換言すれば、変速後入力回転速度ωin_cは、変速出力部材32の回転速度(変速出力軸回転速度ωout0)を変速入力部材31の位置での回転速度に換算した回転速度である。従って、変速後入力回転速度ωin_cは、出力側(変速出力部材32や車輪W)に対応した速度(ωout)ということができる。本実施形態においては、変速後入力回転速度ωin_cは、変速出力部材32の回転速度(変速出力軸回転速度ωout0)を変速比に基づき換算した回転速度とすることができる。例えば、変速後入力回転速度ωin_cは、変速出力部材32の回転速度(変速出力軸回転速度ωout0)に、変速出力部材32から変速入力部材31までの動力伝達経路の変速比を乗算した値とすると好適である。
【0035】
尚、変速比は、エンジンEの要求トルクと車両100の速度とからなる不図示の変速マップに基づいて決定される変速段により定まる。変速後入力回転速度ωin_cを算出する際に参照される変速比は、変速段形成指令があった際に決定された変速比であると好適である。即ち、変速段形成指令があった際のエンジンEの要求トルクと車両100の速度とに応じて変速マップを参照して決定された変速比に基づき、変速出力軸回転速度ωout0を換算した回転速度を変速後入力回転速度ωin_cとすると好適である。尚、常にエンジンEの要求トルクと車両100の速度とに応じて変速比を決定しておき、変速段形成指令があった際に、最新の変速比を用いるような形態であってもよい。また、EV走行からハイブリッド走行へ移行するような場合は、制御装置1は、停止しているエンジンEを始動した後、変速段を形成する。このような場合には、エンジン始動指令があった際に決定された変速比に基づいて変速後入力回転速度ωin_cを演算することも好適である。
【0036】
本実施形態では、変速出力部材32の回転速度(図5における“変速後入力回転速度ωin_c”に対応)が上昇している状況で、ニュートラル走行状態から変速装置20に変速段を形成させる。ここで、ニュートラル走行状態とは、車輪Wが回転中(車両100が走行中)である走行状態であって、且つ、変速装置20が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態である状態を指す。そして、本実施形態に係る発明は、このような状況において、変速入力軸回転速度ωinが、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御する点に特徴を有する。
【0037】
変速装置20に変速段を形成させるために、係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)を係合させる際には、当該係合装置のエンジンEの側の回転部材(変速入力部材31)の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が、変速後入力回転速度ωin_c(車輪Wの側の回転部材(変速出力部材32)の回転速度を変速入力部材31の位置での回転速度に換算した回転速度、変速出力部材32の回転速度を変速比に基づき換算した回転速度、特定の変速段の形成後の変速入力部材31の回転速度)以上であることが好ましい。しかし、車両100の走行速度が上昇し、車輪Wに駆動連結された変速出力部材32の回転速度が上昇していると、係合装置を係合させたいタイミングで、変速後入力回転速度ωin_cが変速入力軸回転速度ωinを上回っている場合がある。図5に示すように、制御装置1は、このような状況において、変速後入力回転速度ωin_cが変速入力軸回転速度ωinを上回らないように、下記に詳述するようにエンジンEの回転速度を制御する(高回転処理を実行する)。図6は、このような状況において、高回転処理が実行されず、係合装置を係合させたいタイミングで、変速後入力回転速度ωin_cが変速入力軸回転速度ωinを上回る例を示している。以下、図6を比較例として用いながら高回転処理について説明する。本実施形態では、車両100が発進した直後にエンジンEを始動させ、変速装置20に第1段(1st)を形成させる場合を例として説明する。
【0038】
車両100は、時刻t0からモータMによるトルクを駆動力として走行している。時刻t0と時刻t10との間において、停止中であったエンジンEが始動される。上述したように、エンジンECU16は、2つの制御方式によってエンジンEを駆動制御することができるが、通常はトルク制御によってエンジンEを駆動制御する。従って、始動後のエンジンEは、トルク制御によって駆動制御される。この際、変速装置20には変速段が形成されておらず、エンジンEはアイドル状態となるように、駆動制御される(アイドル制御)。アイドル制御は、適切なエンジントルク指令を与えることによって実行されても良いし、変速装置ECU80などと協働し、変速装置20がニュートラル状態に制御されていることに呼応して出力されるアイドルフラグに基づいて実行されてもよい。
【0039】
時刻t20において、制御装置1は、変速装置20に変速段を形成させるための制御を開始する。制御装置1は、係合装置が係合する際に生じる係合ショックを緩和するために、一時的にエンジンEの出力トルクを低下させるべくトルクリダクション処理を実行する。図5及び図6に示すように、時刻t20から時刻t30の期間、エンジントルク指令Ti_eを低下させ、時刻t30から時刻t40にかけてエンジントルク指令Ti_eをトルクリダクション前の値に復帰させている。図6に示す比較例では、このトルクリダクション処理の開始に際して、エンジンアイドル指令(フラグ)が非有効状態に遷移される。尚、図5に示すように、高回転処理が実行される場合には、高回転処理の開始に際して、エンジンアイドル指令(フラグ)が非有効状態に遷移される。
【0040】
トルクリダクション処理が継続している間(時刻t20から時刻t40)において、変速装置ECU80は、変速装置20に変速段を形成させるために、油圧回路50を介して係合装置に油圧を印加する。図5の例に示すように、変速段として第1段(1st)を形成する場合、係合装置としてのブレーキB2とワンウェイクラッチF1とが係合されることで変速段が形成される(図3及び図4参照)。すなわち、ブレーキB2に油圧が印加されて係合され、車輪W側にエンジンEからの正トルクが伝達されることでワンウェイクラッチF1も係合される。ここで、高回転処理が実行されている場合には、時刻t30において、変速入力軸回転速度ωinが、変速後入力回転速度ωin_cよりも高い。従って、ブレーキB2の係合に伴ってワンウェイクラッチF1も直ちに係合されて変速装置20に変速段が形成され、エンジントルクが車輪Wに伝達される。即ち、ハイブリッド走行が実現される。車輪Wに伝達されるトルクである車両トルクは、時刻t30まではモータMによるトルクであるが、時刻t30以降は、モータMのトルクと、エンジンEのトルクの合算値となる。
【0041】
一方、図6に示す比較例では、エンジンEがアイドル運転状態である一方で、車両100の走行速度が上昇している(変速後入力回転速度ωin_cが上昇している)。このため、時刻t10と時刻t20との間において、変速入力軸回転速度ωinが、変速後入力回転速度ωin_cを下回る。従って、変速装置20に変速段を形成させるために、油圧回路50を介して係合装置に油圧が印加されても、変速段は直ぐには形成されない。上記のとおり、変速段として第1段(1st)を形成する場合、係合装置としてのブレーキB2とワンウェイクラッチF1とが係合されることで変速段が形成される(図3及び図4参照)。しかし、この比較例では、ブレーキB2に油圧が印加されて係合されても、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_cを下回っているために、ワンウェイクラッチF1が係合せず、変速段が形成されない。その後、エンジントルク指令Ti_eの増加に伴ってエンジンEの回転速度が上昇し、変速入力軸回転速度ωinが、変速後入力回転速度ωin_cを上回るとワンウェイクラッチF1が係合され、変速装置20に変速段が形成される(時刻t40)。このとき、車輪Wに伝達されるトルクである車両トルクは、モータMによるトルクとエンジンEによるトルクとの和となる。図5図6との比較により明らかなように、高回転処理が実行されない比較例(図6)では、高回転処理が実行される場合に比べて、車両トルクが増加するまでに、遅延“Td”が生じてしまう。換言すれば、高回転処理が実行されることによって、このような遅延“Td”が抑制される。
【0042】
高回転処理は、目標とする回転速度で回転するようにエンジンEを制御する制御方式である回転速度制御によって実現される。高回転処理の実行に際しては、制御装置1(エンジンECU16)は、エンジンEの制御方式をトルク制御から回転速度制御に変更する。図5に示すように、エンジンEは、時刻t10から時刻t20においては、エンジントルク指令Ti_eではなく、エンジン回転数指令ωi_eに基づいて、回転速度制御される。
【0043】
また、制御装置1は、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなった後、変速後入力回転速度ωin_cよりも低くならないように、エンジンEの回転速度を制御する。ロックアップクラッチ28によって、流体電動装置22がロックアップ状態である場合には、エンジンEと変速入力部材31とが直結され、変速入力軸回転速度ωinとエンジンEの回転速度とが一致する。従って、ロックアップ状態では、制御装置1は、エンジンEの回転速度が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなった後、変速後入力回転速度ωin_cよりも低くならないように、エンジンEの回転速度を制御する。1つの態様として、制御装置1は、変速入力軸回転速度ωin(又はエンジンEの回転速度)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなった後、変速入力軸回転速度ωin(又はエンジンEの回転速度)と変速後入力回転速度ωin_cとが一致する前に、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御する。この場合、制御装置1は、変速入力軸回転速度ωin(又はエンジンEの回転速度)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなった後、常に変速入力軸回転速度ωin(又はエンジンEの回転速度)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御すると好適である。
【0044】
具体的には、制御装置1は、変速出力部材32の回転速度の上昇によって変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が変速後入力回転速度ωin_c未満となるまでに、高回転処理の実行を開始する。例えば、図5及び図6に示す時刻t15までに、高回転処理の実行を開始する。好適には、制御装置1は、高回転処理の実行開始に際して、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が変速後入力回転速度ωin_c未満になるか否かを判定する回転速度判定処理を実行する。
【0045】
回転速度判定処理として、制御装置1は、変速入力部材31又は変速入力部材31と同期回転する部材の回転速度である入力同期回転速度ωin_sの時間的変化と、変速出力部材32又は変速出力部材32と同期回転する部材の回転速度である出力同期回転速度ωout_sの時間的変化とに基づいて、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が変速後入力回転速度ωin_c未満になるか否かを判定すると好適である。例えば、(1)入力同期回転速度ωin_sの時間的変化より、入力同期回転速度ωin_sに変化が少ないと判定され、(2)出力同期回転速度ωout_sの時間的変化より、出力同期回転速度ωout_sが上昇していると判定され、(3)判定時における入力同期回転速度ωin_sと出力同期回転速度ωout_sとを動力伝達経路におけるいずれか基準となる回転部材での回転速度に換算した場合の回転速度の差(或いは変速入力軸回転速度ωinと変速後入力回転速度ωin_cとの差)が予め規定された回転速度差未満である場合に、制御装置1は、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_c未満になる可能性があると判定することができる。回転速度判定処理の1つの態様として、制御装置1は、出力同期回転速度ωout_sの変化率と入力同期回転速度ωin_sの変化率とに基づいて、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_c未満になる可能性があるか否かを判定してもよい。
【0046】
尚、本実施形態では、入力側回転速度センサ31aにより検出された変速入力部材31の回転速度を入力同期回転速度ωin_sとし、出力側回転速度センサ32aにより検出された変速出力部材32の回転速度を出力同期回転速度ωout_sとする。しかし、入力同期回転速度ωin_sは、変速入力部材31と同期回転する部材(係合要素を介さずに連結されている部材、即ち、常に変速入力部材31の回転速度に比例する回転速度で回転する部材)の回転速度であってもよい。同様に、出力同期回転速度ωout_sは、変速出力部材32と同期回転する部材の回転速度であってもよい。
【0047】
また、制御装置1は、回転速度判定処理に際し、出力同期回転速度ωout_sの時間的変化と入力同期回転速度ωin_sの時間的変化とに基づいて、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_c未満になる時期(逆転時期;時刻t15に相当)を推定する逆転時期推定処理を実行してもよい。1つの態様として、制御装置1は、出力同期回転速度ωout_sの変化率と入力同期回転速度ωin_sの変化率とに基づいて、逆転時期(時刻t15)を推定すると好適である。
【0048】
例えば、制御装置1は、出力側回転速度センサ32aにより検出された出力同期回転速度ωout_sの時間的変化に基づき、出力同期回転速度ωout_sの変化率“a”を演算する。出力同期回転速度ωout_sの変化率は、車両100の加速度に等価であるから、例えば、制御装置1は、不図示の加速度センサにより検出された車両100の加速度“a”を、出力同期回転速度ωout_sの変化率“a”として用いてもよい。また、制御装置1は、入力側回転速度センサ31aにより検出された入力同期回転速度ωin_sの時間的変化に基づき、入力同期回転速度ωin_sの変化率“d”を演算する。この際、制御装置1はエンジンECU16と協働して、入力同期回転速度ωin_sの変化率(エンジンEの加速度)を取得してもよい。
【0049】
当然ながら、制御装置1を構成するプロセッサの演算能力が充分にあれば、変速入力軸回転速度ωin(又は入力同期回転速度ωin_s)の特性曲線と、変速後入力回転速度ωin_c(又は出力同期回転速度ωout_s)の特性曲線との交点(時刻t15)を演算によって直接求めてもよい。つまり、制御装置1は、両特性曲線を表す関数を立式して、演算によって交点を求めてもよい。
【0050】
制御装置1は、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が変速後入力回転速度ωin_c未満になると判定された場合に、変速入力部材の回転速度(ωin)が、特定の変速段の変速入力部材31の回転速度である変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御する。換言すれば、制御装置1は、上述した回転速度判定処理において変速入力部材31の回転速度(ωin)が変速後入力回転速度ωin_c未満になると判定された場合に、高回転処理を実行する。高回転処理は、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_c未満とならないように、逆転時期(例えば時刻t15)よりも前(例えば時刻t10)に開始されると好適である。例えば、逆転時期が推定される場合には、当該逆転時期に対して予め規定された応答余裕時間前から高回転処理が実行されると好適である。応答余裕時間(Tm)は、例えば“t15−t10”である。また、逆転時期が推定されない場合には、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_c未満になる可能性があると判定された時点から速やかに高回転処理が実行されると好適である。
【0051】
以上のように、本実施形態の構成によれば、変速入力部材31の回転速度(変速入力軸回転速度ωin)が、変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるように、エンジンEの回転速度を制御し、迅速に変速装置20に変速段を形成させることが可能な条件を維持することができる。これにより、ニュートラル走行状態の車両100の走行速度が上昇している場合であっても、迅速に変速装置20に変速段を形成させることができる。
【0052】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0053】
(1)上記説明では、駆動装置10が、エンジンEの他に、更にモータMを備えている構成を例示した。しかし、駆動装置10は、モータMを備えることなく構成されていてもよい。例えば、車両100が緩やかな下り坂を走行する際にドライバーがアクセルを戻して自動車を慣性走行させる場合がある。慣性走行の際に、変速装置20が変速段を形成していると、車輪Wの回転に応じてエンジンEが従動回転する状態、いわゆるエンジンブレーキ状態となり、車両100の減速方向のトルクが車輪Wに作用する。慣性走行の距離を伸ばして車両100の燃料消費を低減するために、このような場合に、変速装置20がニュートラル状態に制御されることがある。そして、このようなニュートラル状態から、ドライバーのアクセル操作に応じて車両100を加速させるためには、ニュートラル状態の変速装置20に、車両100の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させる必要がある。従って、モータMを備えていない車両100であっても、上述したようなトルクリダクション処理を実行する構成とすると好適である。
【0054】
(2)上記説明では、駆動装置10が、エンジンEの他に、更にモータMを備えており、エンジンEが変速装置20を介して後輪Wrに駆動連結され、モータMが前輪Wf(別車輪)に駆動連結された構成を例示した。しかし、エンジンEが変速装置20を介して前輪Wfに駆動連結され、モータMが後輪Wr(別車輪)に駆動連結される構成であってもよい。また、これらのように、モータMが、エンジンEが変速装置20を介して駆動連結された車輪(Wr又はWf)とは異なる別車輪(Wf又はWr)に駆動連結される構成に限らず、エンジンEとモータMとが同じ車輪Wに駆動連結されていてもよい。但し、変速装置20をニュートラル状態としてモータMの駆動力により車輪Wを駆動するために、モータMが、変速出力部材32と車輪Wとの動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結された構成であると好適である。すなわち、ニュートラル走行状態は、変速装置20が変速段を形成していないニュートラル状態であって、モータMのトルクが何れかの車輪Wに伝達されている状態で実現されればよい。
【0055】
(3)上記説明では、変速後入力回転速度ωin_cの具体例として、変速出力部材32の回転速度(変速出力軸回転速度ωout0)に、変速出力部材32から変速入力部材31までの動力伝達経路の変速比を乗算する形態を示した。しかし、変速後入力回転速度ωin_cは、変速出力部材32と同期回転している部材の回転速度から換算されるものであれば、何れの回転速度を元にしていてもよい。何れの場合であっても、変速入力軸回転速度ωinの検出箇所(変速入力部材31)と、換算元の部材の回転速度の検出箇所との間にある動力伝達経路の変速比を考慮して、換算すると好適である。尚、同期回転する部材は、係合要素を介さずに連結されている部材を言い、その回転速度は、被同期回転部材(ここでは、変速出力部材32)の回転速度に比例する。
【0056】
(4)上記説明では、変速装置20に変速段を形成させるための係合装置の一つが一方向係合装置(ワンウェイクラッチF1)である場合の例を説明した。しかしこれに限らず、変速段を形成させるための係合装置が一方向係合装置を含まず、摩擦係合装置又は噛合い式係合装置であってもよい。このような係合装置により変速段が形成される場合、変速入力部材31の変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_cよりも低い状態で、変速段を形成させると、車輪Wに負トルクが伝達されることになる。これを避けるためには、変速段を形成するための係合装置の少なくとも一部の係合タイミングを、変速入力軸回転速度ωinが変速後入力回転速度ωin_cよりも高くなるようにエンジンEの回転速度を制御した後にする必要があり、エンジンEの駆動力を迅速に車輪に伝達することができない。しかし、上記のように、高回転処理を実行することにより、このような遅延を抑制し、エンジンEの駆動力を迅速に車輪に伝達することが可能となる。すなわち、本発明の構成は、変速段を形成させるための係合装置が、摩擦係合装置及び噛合い式係合装置の一方又は双方により構成されている場合にも有効である。
【0057】
〔本発明の実施形態の概要〕
以下、上記において説明した、本発明の実施形態における車両用制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0058】
本発明の実施形態における車両用制御装置(1)は、1つの態様として、
車輪(W)の駆動力源としての内燃機関(E)と、変速装置(20)と、を備えた車両用駆動装置(10)を制御対象とする車両用制御装置(1)であって、
前記変速装置(20)は、前記内燃機関(E)に駆動連結された変速入力部材(31)と、前記車輪(W)に駆動連結された変速出力部材(32)と、複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)を備えると共に当該複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構(30)と、を備え、
前記車輪(W)の回転中で且つ前記変速装置(20)が異なる前記変速段を形成するための遷移期間ではなく前記変速段を形成していないニュートラル状態で、動力の伝達を行っていないニュートラル走行状態から前記変速装置(20)に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材(32)の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合される際に、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材(31)の回転速度である変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなるように、前記内燃機関(E)の回転速度を制御する。
尚、例えば、前記ニュートラル走行状態とは、前記車両(100)を慣性走行させて当該慣性走行の距離を伸ばす場合で、前記車輪(W)の回転中で且つ前記変速装置(20)が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていない走行状態とすることができる。
また、別の態様として、車両用制御装置(1)は、回転電機(M)と、車輪(W)の駆動力源としての内燃機関(E)と、変速装置(20)と、を備えた車両用駆動装置(10)を制御対象とする車両用制御装置(1)の場合、
前記変速装置(20)は、前記内燃機関(E)に駆動連結された変速入力部材(31)と、前記車輪(W)に駆動連結された変速出力部材(32)と、複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)を備えると共に当該複数の係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成され、前記変速入力部材の回転を前記変速段に応じた変速比で変速して前記変速出力部材に伝達する変速機構(30)と、を備え、
前記回転電機(M)は、前記内燃機関(E)が前記変速装置(20)を介して駆動連結された前記車輪(W(Wr))とは異なる別車輪(Wf)に駆動連結され、又は、前記回転電機(M)は、前記変速出力部材(32)と前記車輪(W)との動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結され、
前記車輪(W)の回転中で且つ前記変速装置(20)が前記変速段を形成しておらず、前記回転電機(M)のトルクにより車両(100)が走行しているニュートラル走行状態から前記変速装置(20)に特定の変速段を形成させるために特定の係合装置を係合させる場合に、前記変速出力部材(32)の回転速度が上昇している状況において、少なくとも前記変速段を形成するための係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合される際に、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材(31)の回転速度である変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなるように、前記内燃機関(E)の回転速度を制御する。
【0059】
ニュートラル走行状態において、変速出力部材(32)の回転速度が上昇しており、変速後入力回転速度(ωin_c)が変速入力部材(31)の回転速度(ωin)を上回っている場合には、車輪(W)に負トルクが伝達されることを抑制しつつ変速段を形成するためには、変速入力部材(31)の回転速度を変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くする制御を行う必要がある。このため、変速装置(20)に変速段が形成されるまでに遅れが生じ、迅速な動力伝達が実施できない可能性がある。しかし、本構成によれば、変速段を形成するための係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合される際に、変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が、変速後入力回転速度よりも高くなるように、内燃機関(E)の回転速度が制御される。従って、内燃機関(E)の駆動力を車輪(W)に伝達する必要が生じた際に、車輪(W)に負トルクが伝達されることを抑制しつつ、変速装置(20)に変速段を迅速に形成させて内燃機関(E)の駆動力を迅速に車輪(W)に伝達することが可能となる。即ち、変速装置(20)が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態で走行する車両(100)の走行速度が上昇している場合であっても、迅速に変速装置(20)に変速段を形成させることができる。
ここで、上述したように、ニュートラル走行状態とは、車両(100)を慣性走行させて当該慣性走行の距離を伸ばす場合で、車輪(W)の回転中で且つ変速装置(20)が変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていない走行状態とすることができる。例えば、車両(100)が緩やかな下り坂を走行する際にドライバーがアクセルを戻して自動車を慣性走行させる場合がある。慣性走行の際に、変速装置(20)が変速段を形成していると、車輪(W)の回転に応じてエンジン(E)が従動回転する状態、いわゆるエンジンブレーキ状態となり、車両(100)の減速方向のトルクが車輪(W)に作用する。慣性走行の距離を伸ばして車両(100)の燃料消費を低減するために、このような場合に、変速装置(20)がニュートラル状態に制御されることがある。そして、このようなニュートラル状態から、ドライバーのアクセル操作に応じて車両(100)を加速させるためには、ニュートラル状態の変速装置(20)に、車両(100)の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させる必要がある。
ところで、駆動力源として内燃機関(E)及び回転電機(M)を備えたハイブリッド自動車では、内燃機関(E)及び変速装置(20)を用いたエンジン走行、回転電機(M)を用いたEV走行、これらの双方を用いたハイブリッド走行を行うことができる。ここで、一般的には、EV走行時に、変速装置(20)はニュートラル状態であるから、EV走行からハイブリッド走行へと駆動方式が遷移する際には、上記と同様に、ニュートラル状態の変速装置(20)に車両(100)の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させることが好ましい。しかし、EV走行において加速中に、トルク不足等が生じ、ハイブリッド走行に移行するような場合には、車両(100)の走行速度も上昇している可能性が高い。駆動力源として内燃機関(E)及び回転電機(M)を備えている場合、回転電機(E)のトルクにより車両(100)が走行し、変速装置(20)が変速段を形成しておらずに動力の伝達を行っていないニュートラル走行状態で走行する車両(100)の走行速度が上昇している場合であっても、上述した構成によれば、迅速に変速装置(20)に変速段を形成させることができる。
【0060】
1つの態様として、本発明に係る車両用制御装置は、前記変速入力部材(31)の回転速度が、前記変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなった後、前記変速後入力回転速度(ωin_c)よりも低くならないように、前記内燃機関(E)の回転速度を制御するとよい。この構成によれば、変速出力部材(32)の回転速度(ωout0)が上昇している場合であっても、常に、変速入力部材(31)の回転速度が、変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなるように、内燃機関(E)の回転速度が制御される。従って、車両(100)の加速中のどの時点においても迅速な動力伝達が実現できる。
【0061】
変速段を形成するための係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合されるまでの間、入力部材(31)の回転速度(ωin)が、変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高い状態が維持されていれば、どの時点で係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合されることになっても、迅速な動力伝達が実現できる。内燃機関(E)の回転速度は、内燃機関(E)の動力が車輪(W)に伝達されていない状態では、例えばアイドリング状態となって、ほぼ一定の回転速度となる。変速後入力回転速度(ωin_c)が、このアイドリング状態での変速入力部材(31)の回転速度(ωin)よりも高くなると、その後に係合装置(C1,C2,C3,B1,B2,F1)が係合されることなった場合に、迅速な動力伝達の妨げとなる。従って、変速後入力回転速度(ωin_c)が上昇している場合には、変速後入力回転速度(ωin_c)が内燃機関(E)の回転速度を上回るか否かを判定して、速やかに内燃機関(E)の回転速度が制御されると好適である。1つの態様として、車両用制御装置(1)は、前記変速入力部材(31)又は前記変速入力部材(31)と同期回転する部材の回転速度である入力同期回転速度(ωin_s)の時間的変化と、前記変速出力部材(32)又は前記変速出力部材(32)と同期回転する部材の回転速度である出力同期回転速度(ωout_s)の時間的変化とに基づいて、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が前記変速後入力回転速度(ωin_c)未満になるか否かを判定し、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が前記変速後入力回転速度(ωin_c)未満になると判定された場合に、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)が、前記特定の変速段の形成後の前記変速入力部材(31)の回転速度である変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなるように、前記内燃機関(E)の回転速度を制御すると好適である。
【0062】
ところで、内燃機関(E)は、一般的には、内燃機関(E)の出力トルクが目標トルクとなるような制御方式、即ちトルク制御によって駆動制御されるが、トルク制御とは異なる方式で駆動制御されることも可能である。例えば、目標回転速度を出力するような制御方式、即ち回転速度制御によって駆動制御されることも可能である。一般的には、内燃機関(E)を始動し、内燃機関(E)の制御を開始した後には、制御方式の変更は行われない。しかし、変速入力部材(31)の回転速度が(ωin)が、変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くなるように、内燃機関(E)の回転速度を制御することは、内燃機関(E)の回転速度を制御することである。従って、車両用制御装置(1)は、制御方式を変更可能に構成されていると好ましい。1つの態様として、前記内燃機関(E)が、目標とするトルクを出力するように制御されるトルク制御と、目標とする回転速度で回転するように制御される回転速度制御との少なくとも2つの制御方式により駆動制御可能であり、前記変速入力部材(31)の回転速度(ωin)を前記変速後入力回転速度(ωin_c)よりも高くするように、前記内燃機関(E)の回転速度を制御するに際して、前記内燃機関(E)の制御方式を前記トルク制御から前記回転速度制御に変更すると好適である。
【0063】
上述したように、車両用制御装置(1)は、少なくとも内燃機関(E)と変速装置(20)とを備えた車両用駆動装置(10)を制御対象とする。近年では、駆動力源として内燃機関(E)及び回転電機(M)を備えたハイブリッド自動車も実用化されている。このような自動車では、内燃機関(E)及び変速装置(20)を用いたエンジン走行、回転電機(M)を用いたEV走行、これらの双方を用いたハイブリッド走行を行うことができる。ここで、一般的には、EV走行時に、変速装置(20)はニュートラル状態であるから、EV走行からハイブリッド走行へと駆動方式が遷移する際には、上記と同様に、ニュートラル状態の変速装置(20)に車両(100)の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を形成させることが好ましい。しかし、EV走行において加速中に、トルク不足等が生じ、ハイブリッド走行に移行するような場合には、車両(100)の走行速度も上昇している可能性が高い。従って、このようなハイブリッド自動車においても、ニュートラル状態の変速装置(20)に車両(100)の走行速度やトルクに応じた適切な変速段を迅速に形成させることができる技術は強く求められている。
【0064】
即ち、好適な態様として、車両用制御装置(1)が制御対象とする前記車両用駆動装置(10)は、回転電機(M)と、車輪(W)の駆動力源としての内燃機関(E)と、変速装置(20)と、を備えるものであり、前記回転電機(M)が以下のように駆動連結され、前記ニュートラル走行状態が以下のように実現されると好適である。具体的には、前記回転電機(M)、前記内燃機関(E)が前記変速装置(20)を介して駆動連結された前記車輪(Wr)とは異なる別車輪(Wf)に駆動連結される場合、前記ニュートラル走行状態は、前記変速装置(20)が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態であって、前記回転電機(M)のトルクが前記別車輪(Wf)に伝達されている状態で実現されると好適である。又は、前記回転電機(M)、前記変速出力部材(32)と前記車輪(W)との動力伝達経路を構成する回転部材に駆動連結される場合、前記ニュートラル走行状態は、前記変速装置(20)が前記変速段を形成しておらず、動力の伝達を行っていないニュートラル状態であって、前記回転電機(M)のトルクが前記車輪(W)に伝達されている状態で実現されると好適である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、車輪の駆動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えた車両用駆動装置を制御対象とする車両用制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 :制御装置(車両用制御装置)
10 :駆動装置(車両用駆動装置)
20 :変速装置
30 :変速機構
31 :変速入力部材
32 :変速出力部材
100 :車両
B1 :第1ブレーキ(係合装置)
B2 :第2ブレーキ(係合装置)
C1 :第1クラッチ(係合装置)
C2 :第2クラッチ(係合装置)
C3 :第3クラッチ(係合装置)
E :エンジン(内燃機関)
M :モータ(回転電機)
W :車輪
Wf :前輪
Wr :後輪
ωin :変速入力軸回転速度(変速入力部材の回転速度)
ωin_c :変速後入力回転速度
ωout0 :変速出力軸回転速度(変速出力部材の回転速度)
ωin_s :入力同期回転速度
ωout_s:出力同期回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6