(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超臨界流体クロマトグラフ装置(SFC:Super-Critical Fluid Chromatography)や超臨界流体抽出装置(SFE:Super-Critical Fluid Extraction)では、10MPa(メガパスカル)以上の超臨界流体又は液体状態のCO
2が背圧調整器(BPR:Back Pressure Regulator)通過後に大気圧に減圧され気化する。分取機能を備えたSFCやSFEでは、例えばCO
2とモディファイアの混合流体に溶解しているサンプルをBPR通過後に捕集する。気化したCO
2はその体積が400倍にもなるため、出口配管から流出する流体は飛散し、サンプルが失われるという問題が生じる。
【0003】
この問題を解決するため、気体(CO
2)と液体(モディファイア、主にはMeOH)を分離し、液体のみを回収する気液分離器が必要となる。このような気液分離器は例えば特許文献1−7に開示されている。
【0004】
SFCやSFEにおいてカラムを通過した後の分取対象はクロマトピーク群として現れる。クロマトピーク群におけるピークの一つ一つはフラクションと呼ばれる。多数のフラクション(ピーク)は例えば秒単位で近接した状態で分離している。このフラクションすべてを採取する必要がある。
【0005】
フラクションの採取にはフラクションコレクタが用いられる。例えば通常の液体クロマトグラフ(LC:liquid chromatograph)で用いられるフラクションコレクタは、空間的に多数並べられた捕集瓶(例えば試験管など)に吐出口のついたヘッドをX−Y方向に移動させることによって多数のフラクションを捕集瓶に滴下する。
【0006】
ここでフラクションの分取方式を例えば3つに分けて説明する。
1つ目の分取方式は、複数の採集瓶に対して採集瓶ごとに気液分離器を設ける方式である。この方式は例えば特許文献1,3,7に開示されている。多数のフラクションはバルブによって流路を切り替えられて気液分離器を介して採集瓶に導かれる。1つの気液分離器には1つのフラクションしか通過しない。したがって、この方式は、デッドボリュームの大きさや、クロスコンタミネーション(例えばピーク個々がブロードになったりして互いに交じり合うこと)は問題とはならない利点がある。しかし、例えば市販の切り替えバルブは6方が最大であり、それ以上の個数のフラクション(分取対象クロマトピーク)を分取するためには複数段数にバルブを接続する必要があり、系が大規模複雑化するという問題が生じる。
【0007】
2つ目の分取方式は、捕集瓶内で気液分離を行う方式である。この方式は、デッドボリュームがゼロであるので、クロスコンタミネーションの問題は発生しない利点がある。この方式は例えば特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された方式は、切り替えバルブを使用せずに、LC用フラクションコレクタと同様に空間的に多数並んだ回収バイアルにフラクション排出プローブを移動させることによって多数のフラクションの分取が可能である。しかし、特許文献2に開示された方式はプローブのX−Y方向の移動の時間的前後にプローブ先端をZ方向に移動させ、回収バイアルとプローブ先端の脱着を行う必要がある。このため、特許文献2に開示された方式は、そのデッドタイムの間はフラクションの分取は行えず、非常に近接したフラクションを分取することは困難である。
【0008】
3つ目の分取方式は、フラクションコレクタの上流側の流路に1つの気液分離器を有する
方式である。この方式は、フラクションコレクタに液体のみを送液するので、従来のLCのような分取が可能である。この方式は例えば特許文献4,
6に開示されている。
【0009】
装置構成の簡略性を担保しつつ、多数のフラクションを取得可能な装置とするためには、上記3つ目の分取方式が好ましいと考えられる。しかし、特許文献4のようにドリッパと呼ばれる内径拡大管が用いられると、特許文献5で示されるように管内径拡大部で旋回流が発生し、時間的に近接した複数のフラクションが互いに交じり合うクロスコンタミネーションが発生する。管の中に旋回流が発生すると、1周目と2周目や、2周目と3周目では、流れが上下で隣接する。この流れに多数のフラクションが流れると、時間的に異なる成分が互いに交じり合うことが容易に想像できる。特許文献6における旋回流や、特許文献7の多孔質フィルタにおける滞留も、同様にクロスコンタミネーションを引き起こす。
【0010】
また、特許文献4の内管、特許文献6のチャンバ、特許文献7のチャンバなどにおけるデッドボリュームによってピークがブロードになる。このことからもクロスコンタミネーションが発生する。また、残留成分が次の分取時に混入するキャリーオーバーも問題となる。例えば特許文献4のように、容量が大きいチャンバ内壁を移動相が通過する構造は好ましくない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態の気液分離器は、導入流路を複数の吐出流路に分岐して流れ断面積を大きくしている。これにより、本発明の実施形態の気液分離器は、気体と液体を含む移動相を気体と液体に分離する際にクロスコンタミネーションやキャリーオーバーを発生させずに流体の線速度を抑制することができる。
【0021】
本発明の実施形態の気液分離器に導入される気体と液体とを含む移動相には、液体と超臨界流体又は液化気体を含む流体の超臨界流体又は液化気体の一部又は全部が気化した気液混合流体が含まれる。
【0022】
ところで、例えば特許文献4,6,7に開示されているように気液分離器として内径拡大管が用いられる場合、濡れの問題や飛散の問題を考慮した内径拡大管の最適内径は移動相の流量に依存する。したがって、移動相の流量に応じて内径拡大管の内径を変更する必要があるという問題があった。また、1種類の内径を採用した場合には対応流量に対するダイナミックレンジが小さく、流量を変更した際にサンプル回収率が悪化するという問題があった。
【0023】
本発明の実施形態の気液分離器は、導入流路を複数の吐出流路に分岐して流れ断面積を大きくしているので、対応流量に関するダイナミックレンジを小さくすることなく、線速度を抑制することができる。本発明の実施形態の気液分離器は、内径拡大管と比較して、液体の回収率を高く保持できる対応流量レンジが広い。
【0024】
本発明の実施形態の気液分離器は、例えば、上記吐出流路の吐出口から吐出された液体が付着して移動する外壁面を有する液体捕集部材をさらに備えているようにしてもよい。この実施形態の気液分離器では、吐出流路の吐出口から吐出された液体が液体捕集部材の外壁面を移動するので、デッドボリュームが小さくなる。この実施形態の気液分離器は、不要なデッドボリュームが存在しないため、洗浄が容易となる。
【0025】
本発明の実施形態の気液分離器において、上記液体捕集部材の外観形状は、例えば、円柱形状又は円錐形状である。ただし、上記液体捕集部材の外観形状は、円柱形状及び円錐形状に限定されず、他の形状であってもよい。
【0026】
また、本発明の実施形態の気液分離器において、例えば、上記液体捕集部材の内部に上記吐出流路の少なくとも一部分が形成されており、上記液体捕集部材の上記外壁面に上記吐出流路の上記吐出口が形成されているようにしてもよい。
【0027】
本発明の実施形態の気液分離器において、例えば、上記吐出流路の内径は2mm以下であるようにしてもよい。ただし、上記吐出流路の内径は2mm以下より大きくてもよい。
【0028】
本発明の実施形態の超臨界流体装置において、例えば、上記背圧調整器と上記気液分離器の間に冷却器が接続されているようにしてもよい
。冷却器によって冷却された移動相が気液分離器に導入されることにより、移動相が気液分離された後の液体の蒸発が抑制されて回収率が向上する。ただし、本発明の実施形態の超臨界流体装置は上記冷却器を備えていなくてもよい。
【0029】
上記冷却器は例えばオリフィスを有している。オリフィスは流路の内径を絞ることにより、移動相を冷却する。上記冷却器としてオリフィスが用いられることにより、簡単な構造で移動相を冷却することができる。
【0030】
本発明の実施形態の超臨界流体装置は、例えば、上記ポンプと上記背圧調整器の間に接続された試料注入器と、上記試料注入器と上記背圧調整器の間に接続されたカラムと、上記カラムと上記背圧調整器の間に接続された検出器と、をさらに備えているようにしてもよい。本発明の実施形態の気液分離器はクロスコンタミネーションやキャリーオーバーを防止できるので、この実施形態の超臨界流体装置はクロスコンタミネーションを防止でき、近接した多数のフラクションを分取可能となる。
【0031】
さらに、本発明の実施形態の超臨界流体装置は、例えば、上記気液分離器に導入される直前の移動相の温度、上記冷却器の温度又は上記気液分離器の温度を検出するための温度検出器と、上記温度検出器が検出した温度をモニタリングした結果が規定値以下になったことを判断して上記試料注入器を動作させる制御部と、を備えているようにしてもよい。ここで、気液分離器に導入される直前の移動相の温度とは、冷却器と気液分離器の間における移動相の温度を意味する。
【0032】
図面を参照しながら本発明の一実施形態を説明する。
図1は、気液分離器の一実施形態を説明するための概略的な斜視図である。
図2は、超臨界流体装置の一実施形態を説明するための概略的な構成図である。まず、
図2を参照して、超臨界流体装置の構成について説明する。
【0033】
図2に示された超臨界流体装置は、気液分離器を備えた超臨界流体クロマトグラフ装置(SFC)である。SFCでは、例えば、比較的低温度、低圧力で超臨界状態が得られるCO
2が移動相として用いられる。また、移動相には、測定試料の溶解性を高めるためにモディファイア(主にはMeOH)が混合される。このため、CO
2ボンベ101から得られる液体CO
2とモディファイア102がCO
2ポンプ103とモディファイアポンプ104にてそれぞれ送液され、ミキサー105にて混合される。
【0034】
オートサンプラ106(試料注入器)によって試料を注入された流体はカラムオーブン107内に設置されたカラム108を通る。試料は時間的に分離される。時間的に分離された試料は例えば紫外線(UV:ultraviolet)検出器109によって検出さ
れる。
【0035】
ポンプ以降の流路の圧力は圧力制御バルブ110(背圧調整器、BPR)によって10MPa程度以上に一定に保たれる。移動相は圧力制御バルブ110通過後に大気圧に減圧される。その後、UV検出器109によって検出したタイミングを基準にして、フラクションコレクタ111により、所望の成分がそれぞれ採集瓶に回収される。
【0036】
図3は、カラムを通過した後のクロマトピークの一例を説明するための図である。
図3において、縦軸はピーク強度(任意単位)、横軸は時間を示す。
図3に示されたものが分取対象であるクロマトピーク群である。これらのピークの一つ一つはフラクションと呼ばれる。多数のフラクション(ピーク)が例えば秒単位で近接した状態で分離している。SFCでは、例えばこれらのフラクションすべてを取得する必要がある。
【0037】
フラクションコレクタ111内の配管出口からは気化により体積が400倍に膨張したCO
2が勢い良く噴出する。一般には、サンプルを含んだMeOHがスプレー現象により飛散し、サンプルの回収率が低下する。この実施形態のSFCは、サンプルの回収率を向上させるために、圧力制御バルブ110とフラクションコレクタ111の間の流路又はフラクションコレクタ111内に、
図1に示された気液分離器1を備えている。
【0038】
気液分離器1について
図1を参照して説明する。
気液分離器1は、例えば移動相(CO
2+モディファイア)を気体と液体に分離するものである。気液分離器1は、入口管2(導入流路)、流路分岐部材3、複数の吐出流路4及び誘液柱5(液体捕集部材)を備えている。入口管2には、例えば気体状態のCO
2とモディファイア(液体)を含む移動相が導入される。複数の吐出流路4は流路分岐部材3を介して入口管2に接続されている。
【0039】
吐出流路4の吐出口4aは誘液柱5の外壁面に接して配置されている。誘液
柱5は円柱形状である。吐出流路4の吐出口4aから吐出された液体は誘液
柱5の外壁面に付着して先端部5aへ移動する。
【0040】
気液分離器1は、入口管2から流入する移動相を、流路分岐部材3を通過させることで複数の吐出流路4に分岐する。吐出流路4の内径は比較的細く、例えば2mm以下である。気液分離器1は、吐出流路4の吐出口4aから吐出される液体であるモディファイアを誘液柱5の外壁面に伝わせて誘液柱5の先端部5aから滴下する。移動相の線速度が十分に遅いと、
図1に示されるように棒状又は平面状の部材の表面に液体を沿わせることで、ある流量までは飛散なく液体のみを滴下することが可能である。
【0041】
図4は、配管から吐出される気体と液体の流れの様子の説明図である。
配管201から気液混合流体が吐出する際、液体はコアンダ効果と呼ばれる現象により配管201に接した壁202の壁面に絡めとられ、壁面を伝って流れる。他方、気体は壁面とは無関係に自由空間に放出される。これにより、気体と液体の分離が実行される。
【0042】
図4に示されたような系であっても、流体の線速度が非常に大きいと、スプレーと同様に液体は気体に乗じて飛散してしまう。したがって、流体の線速度を十分に低下させる必要がある。
【0043】
流体の線速度を低下させるためには、流体が流れる断面積を増大させることが有効である。しかし、管内径を拡大すると、前述の特許文献4の説明で述べたように旋回流によるクロスコンタミネーションの問題が発生する。
【0044】
そこで、
図1に示された気液分離器1では、旋回流を発生させない状態で流れ断面積を拡大するために、比較的細い内径を持つ複数の配管(吐出流路4)に分岐する。分岐後の配管の吐出口4aが誘液柱5の外壁を伝って流れることもこの実施形態の有益な特徴である。
【0045】
配管吐出口を壁面に沿わせて気液分離を行う場合、体積が400倍にもなる気体CO
2を液体の流れに乱れの影響を与えないように十分広い空間を用いて逃がしてやる必要があり、気液分離チャンバは十分に大きくする必要がある。
【0046】
しかし、特許文献1や特許文献4のようにチャンバの内壁に液体を伝わせる場合、チャンバの大きさはそのまま流路のデッドボリュームとなり、ピークのブロード化によるクロスコンタミネーションの問題が発生する。
【0047】
そこで、
図1に示された気液分離器1では、液体を誘液柱5の外壁を伝わせるようにした。これにより、気液分離器1を覆うように配置されるチャンバを十分に大きくとっても、流れのデッドボリュームとはならない。
【0048】
以上で述べた気液分離の原理の要点について再度まとめる。
(1)コアンダ効果に基づき、配管出口を壁面に沿わせると液体のみが壁面を流れ、気液分離される。
(2)しかし流体線速度が大きいと、液体は気体に乗じてスプレーされ、飛散消失してしまう。
(3)流体線速度を抑制するためには流れ断面積を増大させることが有効である。
(4)しかし流れ断面積を増大させるために管内径を拡大すると旋回流によりクロスコンタミネーションの問題が生じる。
(5)旋回流を発生させないで流れ断面積を拡大する目的で、比較的細い内径を持つ複数の配管に分岐する。
(6)分岐された複数の配管の吐出口は柱の外壁に沿わせることで実質的な流路デッドボリュームを小さくする。
【0049】
次に、スプレー現象による液体の飛散を抑制可能な線速度を実験により見積もった結果について説明する。ここでは、ある流量に対してどの程度の内径を持つ配管を用い、何本に分岐すれば回収率が低下しない線速度に抑制できるかを検証した。
【0050】
図5は、直径3mm以下の比較的細い内径を持つ管を壁面に添わせて液体の回収実験を行った結果を示す図である。
図5のグラフにおいて、横軸は流量を示し、縦軸はEtOH回収率を示している。
【0051】
それぞれの管内径(φ1mm、φ1.5mm、φ2mm、φ3mm)に対して、ある閾値流量までは高い回収率を示した。そして、ある閾値流量を超過すると、流量の増大に応じて回収率が低下する。
【0052】
例えばφ1.5mmでは、流量10ml/minまでは飛散なく液体を回収可能(線速度が十分に遅い)である。しかし、それ以上の流量に対しては回収率が低下する。つまり、吐出流路が1本では、分取SFCで必要な10〜150ml/minといった大流量領域では高い回収率は期待できない。そこで、移動相が導入される導入流路を複数本の吐出流路に分岐し、吐出流路1本当たりの流量を減らす(線速度を遅くする)ことによって、大流量に対応する。
【0053】
ここで、細い内径の複数の配管に分岐することによるもう一つのメリットについて説明する。細い内径を持つ配管には、低流量側に関して利点がある。例えば0.1ml/minの低流量であっても、気液混合流体は配管の内面全てを濡らしながら管内を通過する。
【0054】
図6は、内径が細い管、太い管の気液混合流体の流れの様子を説明するための図である。
図6(a)に示した内径が比較的細い管301は、液体の表面張力により配管内壁全てを濡らすように液体303が流れ、気体302は気泡となって流れる。
図6(b),(c)に示した管311は内径が比較的太い管である。(b)に示すように流量が大きい場合には、粘度の低い気体312は管311の中心部を流れ、液体313は管311の内壁全てを濡らすように流れる。しかし、(c)に示すように流量が小さい場合には、液体313は液滴化し、管311の内壁の一部しか流れない。
【0055】
このため、特許文献1や特許文献4のように内径が比較的太い管を用いた場合には、流量が小さい場合にはサンプルが気液分離器内壁に付着してコンタミネーションの原因となる。また、サンプルを変えた際に、残留している前回のサンプルが溶出してくる現象、いわゆるキャリーオーバーの問題も発生する。
【0056】
以上で説明したように、直径1.5mmの内径を持つ管のダイナミックレンジを0.1〜10ml/minとすれば、これを例えば15本使用することによりダイナミックレンジが1.5〜150ml/minの気液分離器が実現される。
【0057】
図7は、気液分離器の他の実施形態を説明するための概略的な断面図である。
気液分離器10は例えばフラクションコレクタの上流に設置されるものである。気液分離器10は、
図1に示された入口管2、流路分岐部材3、複数の吐出流路4及び誘液柱5を有する気液分離器を収納するチャンバ6を備えている。気液分離器10では、チャンバ6内が例えば数気圧程度に加圧されることによってフラクションコレクタに液体を送液する駆動力が得られる。
【0058】
気液分離器10の誘液柱5の先端部5aから滴下した液体は、受け口7によって回収され、液体出口
7aからフラクションコレクタに送液される。気化したCO
2はチャンバ6内に満たされ、CO
2排出口6aから排出される。チャンバ6には洗浄のための廃液ポート6bも具備されている。気液分離器10は、例えば図
2に示されたSFCにおいて圧力制御バルブ110とフラクションコレクタ111の間の流路に配置される。
【0059】
ここで気液分離器10の特徴は、従来技術と異なり、気液分離を行うチャンバ6の内壁をサンプル流体が通過しないことである。したがって、チャンバ6の大きさそのものはデッドボリュームとはならない。つまり、多量の気化CO
2の流れを阻害しないためにチャンバ6を大きくしても、サンプルを含む液体は誘液柱5の外壁のみを伝い通過する。この場合、デッドボリュームは、どの構造体の容積でもなく、誘液柱5を伝う液体の体積になる。したがって、極めて小さなデッドボリュームとなり、前述のクロスコンタミネーションの問題は回避される。また、仮に気体CO
2に乗じてサンプルが飛散してチャンバ6の内壁に付着しても、付着したサンプルは洗浄の際に廃液ポート6bから排出されるだけであり、次回分取時のキャリーオーバーとはならない。
【0060】
図8は、実施形態の気液分離器を備えたフラクションコレクタの一例を説明するための概略的な斜視図である。
フラクションコレクタ401は、気液分離器402と、X−Yステージ403と、捕集瓶保持部404を備えている。
【0061】
気液分離器402は、入口管402a(導入流路)、複数の吐出流路402b、誘液ブロック及び誘液柱402c(液体捕集部材)及びカバー402dを備えている。入口管402aには移動相が導入される。複数の吐出流路402bは入口管402aに接続されている。吐出流路402bの吐出口4aは誘液ブロック及び誘液柱402cの外壁面に接して配置されている。カバー402dは吐出流路402bと誘液ブロック及び誘液柱402cの周囲に配置されている。
【0062】
X−Yステージ403は吐出ヘッド403aをX−Y方向に移動させる。吐出ヘッド403aには気液分離器402と移送管405が接続されている。捕集瓶保持部404に複数の捕集瓶406が配列されている。フラクションコレクタ401は、例えば
図1に示されたSFCにおいてフラクションコレクタ111として用いられる。
【0063】
移送管405から吐出ヘッド403aを介して気液分離器402に送られる移動相は気液分離器402で気液分離される。分離された液体は、気液分離器402の誘液ブロック及び誘液柱402cから捕集瓶406に滴下される。実施形態の気液分離器は例えば数cmオーダーの小さなサイズで実現可能である。したがって、気液分離器402をフラクションコレクタ401の吐出ヘッド403aに設置することが可能である。
【0064】
図9は、気液分離器の流路分岐部材の構造の一例を説明するための概略的な分解斜視図である。
流路分岐部材3は、例えば、流体導入部材31とシール部材32と分岐部材33を備えている。
【0065】
流体導入部材31は中央に直径1mm程度の貫通穴を備えている。シール部材32は、流体導入部材31と同様に中央に直径1mm程度の貫通穴を備えている。シール部材32の厚みは例えば0.2mm程度である。分岐部材33は、天面の中央に設けられた直径1mm程度の1つの穴と、底面に設けられた複数の穴を備えている。天面の穴と底面の穴は連通している。流体導入部材31とシール部材32と分岐部材33はネジで締結されている。
【0066】
流体導入部材31と分岐部材33の材質は、耐薬性とシール性の観点から例えばSUS316やPEEKなどが好ましい。シール部材32の材質は、流体導入部材31や分岐部材33の材質よりもやわらかいもの、例えば超高分子ポリエチレンやカルレッツ(登録商標)などが好ましい。
【0067】
図10は、気液分離器の流路分岐部材の構造の他の例を説明するための概略的な分解斜視図である。
図10に示された流路分岐部材3は、
図9に示された流路分岐部材3の分岐部材33に替えて分岐部材34を備えている。
【0068】
分岐部材34は、分岐部材33のように穴が斜めに開けられているのではなく、平面方向に形成された溝34aと、その溝の端部に設けられた貫通穴によって形成された分岐流路を備えている。分岐部材34は、分岐部材33と比較してデッドボリュームが小さい。また、分岐部材34は吐出流路の配管を鉛直に接続することが可能である。分岐部材34は、接続される吐出流路の配管の長さを短くでき、さらにデッドボリュームを小さくできる。一方で、分岐部材34の溝34aが均一な深さで形成されて溝34aの底面が水平になっている場合には、特に流量が非常に小さいときに、滞留によるクロマトピークの拡大やクロスコンタミネーションが懸念される。
【0069】
図11は、気液分離器の他の実施形態の構造を説明するための概略的な分解斜視図である。
気液分離器11は、導入流路(図示は省略)、流路分岐部材3、複数の吐出流路41及び誘液柱5を備えている。導入流路、流路分岐部材3及び誘液柱5の構造は、
図1に示された気液分離器11のものと同じである。なお、
図11において流路分岐部材3は一体的に図示されているが、例えば、具体的な構造は
図9又は
図10に示された構造である。
【0070】
気液分離器11において、流路分岐部材3に複数の吐出流路41の配管が接続されている。吐出流路41の吐出口41aは誘液柱5の外壁に接している。吐出流路41の最適な本数は吐出流路41の内径に依存し
て決定される。例えば、
図5の実験結果に基づいて、内径が1.5mmの吐出流路41が15本接続される。
図11には図示されていないが、流路分岐部材3と複数の吐出流路41の接続は、例えば、一般的な配管締結に用いられるフェルールとメイルナットによりなされる。
【0071】
吐出流路41の吐出口41aの先端から誘液柱5の先端部5aまでの長さが短すぎると液体が十分に気体流と分離されない。そこで、吐出口41aの先端から誘液柱5の先端部5aまでの長さは50mm以上の長さが確保されていることが好ましい。
【0072】
また、吐出流路41の吐出口41aの先端について、隣り合う吐出流路41を近接させすぎると、その隙間を毛管現象によって吐出液体が上側に遡って流れ、クロスコンタミネーションが発生する虞がある。これを回避するために、隣り合う吐出口41aの隙間は2mm程度以上の間隔が確保されることが好ましい。
【0073】
図12は、気液分離器のさらに他の実施形態の構造を説明するための概略的な分解斜視図である。
気液分離器12は、導入流路(図示は省略)、流路分岐部材3及び液体捕集部材51を備えている。導入流路及び流路分岐部材3の構造は、
図11に示された気液分離器11のものと同じである。
【0074】
液体捕集部材51は例えば円錐形状のブロックで形成されている。液体捕集部材51の内部に貫通穴からなる吐出流路51aが形成されている。吐出流路51aの吐出口51bは液体捕集部材51の側壁面(外壁面)に配置されている。液体捕集部材51の側壁面には、吐出口51bと先端部51dの間の位置に溝51cが形成されている。吐出流路51aの吐出口51bから吐出された液体は、液体捕集部材51の側壁面に付着して先端部51d側へ移動し、先端部51dから滴下する。なお、溝51cは必ずしも形成されていなくてもよい。
【0075】
液体捕集部材51を備えた気液分離器12は、
図11に示された気液分離器11と比較して部品点数を大幅に削減できる。また、気液分離器12では、上述の隣り合う吐出口の隙間を考慮する必要がなくなる。したがって、隣り合う吐出口51bの間隔を小さくすることができ、液体捕集部材51の外径、ひいては気液分離器12をコンパクトに製作することが可能である。
【0076】
また、溝51cは液体の流れの迷流を防止する。溝51cの配置は液体の流量が小さい場合に特に有益である。
【0077】
なお、流路分岐部材3と液体捕集部材51の間をシールするために、図示は省略されているが、超高分子ポリエチレンやカルレッツ(登録商標)のようなシートが流路分岐部材3と液体捕集部材51の間に挟まれることが好ましい。
【0078】
図13は、
図11に示された機構に基づいて実際に試作した気液分離器を示す画像である。
図14は、
図13の気液分離器を用いて気液分離後の液体回収率を評価した結果を示す図である。
図14において、縦軸は液体回収率を示し、横軸は導入流路における移動相の流量を示している。導入流路及び分岐流路の配管の内径は直径1.5mmである。分岐流路の各配管の吐出口は10°に切断されている。分岐本数を4本、6本、8本とした場合の流量10〜150ml/minにおける液体回収率を評価した。
【0079】
6本以上の分岐本数により、150ml/minの大流量においても気体と液体が分離され、95%以上の液体回収率が得られた。また、流量40ml/min以下では液体回収率が低下している様子が見られる。これは使用した配管の内面粗さに起因し、気液分離器の本質的な特性ではない。
【0080】
図15は、配管の材質に起因する液体回収率の違いを評価した結果を示す図である。
図15において、縦軸は回収率を示し、横軸は材質を示している。各材質の配管について、配管は1本、流量は2.5ml/min(8本では20ml/minに相当する)の条件で評価を行った。
【0081】
図15で最も左側に示すSUS(Ra3.2)と示すものは、
図14の実験で使用した配管であり、80%と低い回収率を示している。最も右側に示したテフロン(登録商標)チューブを用いた実験では100%の回収率が得られた。
【0082】
一般的なSUS管とテフロン(登録商標)チューブの違いは、濡れ性と表面粗さである。テフロン(登録商標)は撥水性が良く濡れ性が悪い。SUSは濡れ性が良い。また、SUSは表面粗さが粗く、Ra3.2程度である。テフロン(登録商標)の引き抜きチューブはRa0.02程度である。
【0083】
濡れ性がよい3M社製コーティング剤ノベック
(登録商標)をSUS管内面に塗布した実験結果、及び濡れ性がよい塩化ビニルチューブを用いた実験結果では、高い回収率を示した。このことから、SUSの濡れ性がよいこと自体は問題なく、低流量で回収率が低下する原因ではないと考えられる。また、同じSUS管の内面を研磨し、Raを0.4、0.1、0.05と平滑度を高めた結果、有意に液体回収率が向上した。流体が低速である場合、流路内面の粗い構造により液滴が飛び散り、CO
2とともに飛散して消失しているものと考えられる。
【0084】
以上の結果より、
図14において低流量域で液体回収率が低下した原因は管の内面平滑度であると考えられる。また、分岐後の流路内面をRa0.05以下程度の平滑度にすれば、低流量域においても高い液体回収率が得られるものと考えられる。
【0085】
図14の実験結果は、気液分離器直前の移動相の温度を10℃に保温して得られた結果である。超臨界流体装置では、カラム又は抽出容器を通過する流体を超臨界状態にするために通常40℃程度以上に移動相が加熱される。
しかし、移動相の温度が高いと、モディファイアの蒸発による消失により、回収率が低下する。そこで、気液分離器に導入される移動相を低温にすることが好ましい。
【0086】
図16は、超臨界流体装置の他の実施形態を説明するための概略的な構成図である。
この実施形態の超臨界流体装置は、
図2に示された構成と比較して、冷却器112と温度検出器113とシステムコントローラ120(制御部)とモニタ121が追加されたものである。温度検出器113は冷却器112の温度を検出する。
【0087】
システムコントローラ120はSFCの動作には必須ではないが、各種自動操作を行う上で、通常付属されている。システムコントローラ120が行うシステムの準備について
図17のフローチャートを用いて説明する。ここで言うシステムの準備とは、オートサンプラ106が分取されるサンプルを注入してよい状態となるまでの動作のことである。
【0088】
図17は、超臨界流体装置のシステム準備動作を説明するためのフローチャートである。
【0089】
システムコントローラ120は、まずCO
2ポンプ103の冷却、カラムオーブン107の加熱、冷却器112の冷却を行う(ステップS1)。
【0090】
システムコントローラ120は、図示しない温度検出器を用いてCO
2ポンプ103の温度が十分に低下したかどうかを判断する(ステップS2)。
【0091】
システムコントローラ120は、CO
2ポンプ103の温度が規定値(例えば5℃)以下になった後、CO
2ポンプ103及びモディファイアポンプ104を動作させてCO
2とモディファイアの送液を開始する(ステップS3)。
【0092】
システムコントローラ120は、温度検出器113を用いて冷却器112の温度をモニタリングし、温度検出器113が検出した温度が規定値(例えば5℃)を下回ったか否かを判断する(ステップS4)。
【0093】
システムコントローラ120は、冷却器112の温度が規定値を下回ったと判断したとき、オートサンプラ106の試料注入動作
を開始する(ステップS5)。ステップS5で、システムコントローラ120は、インジェクション動作の開始の他、モニタ121に分取操作が可能な状態となった
ことを表示
してもよいし、システムコントローラ120や冷却器112、フラクションコレクタ111の表示インジケータを点灯させてもよいし、これらの動作の組み合わせを行ってもよい。
【0094】
図16の超臨界流体装置において、フラクションコレクタ111内の気液分離器の温度を検出する温度検出器が設けられていてもよい。また、冷却器112とフラクションコレクタ111の間の流路に気液分離器が設けられ、その気液分離器の温度を検出する温度検出器が設けられていてもよい。また、気液分離器に導入される直前の移動相の温度を検出する温度検出器が設けられていてもよい。そのような温度検出器は、例えば冷却器112と気液分離器の間の流路の温度を検出する位置に配置される。システムコントローラ120はこれらの温度検出器が検出した温度をモニタリングした結果が規定値以下になったことを判断してオートサンプラ106を動作させる。
【0095】
図18は、移動相の冷却の効果を検証した実験結果を示す図である。
図18において、縦軸は液体回収率を示し、横軸は移動相の温度を示す。この実験結果は、
図13に示した分岐配管系ではなく、流路断面積を簡易的に拡大する内径6mm、長さ15cmのチューブを接続して実施した結果である。ただし、温度と液体回収率の関係を示す結果としては差支えない。
【0096】
モディファイアであるメタノールを20%含むCO
2の流量を10ml/min、20ml/min、50ml/min、100ml/min、150ml/minにし、各流量において温度を10℃〜60℃に設定したときのメタノールの回収率を求めた。
【0097】
冷却器112の設定温度が10℃のときは全ての流量条件において100%のメタノール回収率が得られた。設定温度の上昇に伴って回収率が低下した。流量が大きい場合は、流量が小さい場合に比べて回収率の低下する割合が小さく、冷却器112の設定温度から受ける影響は小さいことがわかった。
【0098】
CO
2の流量が大きい場合はCO
2の気化に伴う気化熱と断熱膨張によって流体が積極的に冷却される。したがって、冷却器を用いた場合と同様にメタノールの蒸発が十分に抑制され、回収率が向上したと考えられる。
【0099】
以上の結果から、CO
2の流量が比較的大きい場合(例えば50ml/min〜150ml/min)には、CO
2の気化熱と断熱膨張による冷却効果によってモディファイアの蒸発を抑制することができ、試料の回収率の向上が図れることが確認された。
【0100】
その一方で、CO
2の流量が比較的小さい場合(例えば5ml/min〜50ml/min)では、冷却器112においてペルチェ素子や低温
恒温水槽などを用いた強制冷却が有効となる。強制冷却の手段以外にも、オリフィスなどを利用して短い距離で瞬時にCO
2を気化させれば、比較的大きな冷却効果が得られ、強制冷却に替わる冷却器とすることができる。
【0101】
図19は、気液分離器の直前にオリフィスを設置したときと配置しなかったときの液体回収率の温度依存性を評価した結果を示す図である。
図19において、縦軸は液体回収率を示し、横軸は温度を示す。
【0102】
メタノールの流量を1ml/min、CO
2の流量を4ml/minとし、流出するメタノールの回収率を評価した。冷却器112とフラクションコレクタ111の間に、何も設置しなかった場合と、内径50μm(マイクロメートル)の開口径を持つオリフィスを設けた場合の、液体回収率の冷却器112の設定温度依存性を評価した。
【0103】
オリフィスなしの場合では、温度が20℃のときのメタノール回収率は63%であったが、設定温度が高くなるにしたがってメタノール回収率は徐々に低下し、設定温度が50℃のときには10%の回収率しか得られなかった。その一方、オリフィスありの場合では、回収率が温度に依存せず90%一定であった。かかる結果から、流体の温度を強制冷却せずともオリフィスを用いて瞬時にCO
2を気化させることによる冷却効果を利用することによってモディファイアの回収率が向上することが確認された。
【0104】
オリフィスを用いた冷却器は、例えば
図16における冷却器112の位置に配置される。圧力制御バルブ110からの配管とフラクションコレクタ111へ続く配管との接続部にオリフィスを冷却器として設けるとよい。
【0105】
図20は、オリフィスを有する冷却器の一例を説明するための概略的な断面図である。
冷却器61はオリフィス62aを有する継手62を備えている。入口管63と出口管64は継手62を介して接続されている。入口管63はメイルナット65及びフェルール66によって継手62に接続されている。出口管64はメイルナット67及びフェルール68によって継手62に接続されている。
【0106】
継手62内において入口管63の端部と出口管64の端部の間にオリフィス62aが配置されている。オリフィス62aの内径は入口管63の内径及び出口管64の内径よりも小さい。オリフィス62aによって移動相の流路の内径が絞られている。
【0107】
入口管63の継手62とは反対側の端部は例えば背圧調整器に接続される。出口管64の継手62とは反対側の端部は例えば気液分離器に接続される。
【0108】
冷却器61に移動相(例えば超臨界CO
2+モディファイア)が流されると、オリフィス62aによって短い距離で瞬時にCO
2が気化され、気体のCO
2を含む移動相(気液混合流体)が冷却される。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態における構成、配置、数値等は一例であり、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。